魔動戦記ガンダムRF_18話

Last-modified: 2011-08-13 (土) 23:02:20

二人目のアリシアが現れていた頃、キラとアウルは海に引きずり込んだインフィニットジャスティスに乗るカシェルを追い詰めていた。
『おらー!!くたばりやがれー!!』
『ぐぅ!!?』
アビスのミサイル攻撃を避ける事が出来ずシールドで受けるインフィニットジャスティス、そのスキを突いてキラは持ってきておいたバズーカで狙い撃つ。
『がぁ!!』
『もうこれ以上の戦闘はやめるんだ!僕は君を殺したくなんかない!!』
『甘い……!甘いぞキラ・ヤマト!!!』
カシェルは自分が不利な状況に立たされているにも関わらず、戦いをやめようとしなかった。その時……。
『カシェル様!』
突如キラ達がいる海中にユニゾンデバイスのソードが乗るケンプファーが、ショットガンの弾をキラ達にばら撒きながら突撃してきた。
『うぉ!新手か!?』
『くぅ……!』
『なんだ!?僕は援軍を頼んだ覚えはないぞ!!』
『いえ、ここは撤退を……殿は私が努めます。本物がアリシア様の前に現れました。』
『何ぃ……!?』
カシェルはそのまま海上へと向かう、キラとアウルはそれを阻止しようとするが、ソードのケンプファーに行く手を阻まれてしまう。
『カシェル様の元へは行かせない!』
『邪魔だぁー!!』
アウルはビームジャべリンを使ってケンプファーを真っ二つにする、しかしケンプファーが破壊された事により起きた爆発のお陰でインフィニットジャスティスに逃げられてしまった。
『くそっ!逃げられたか……!』
『アウル君、とにかく一度海上に出よう、もしかしたら戦闘は終わっているかもしれない。』
『わ、わかった……。』
そしてキラとアウルは海上に向けてMSのブースターを吹かした……。

 

その頃、本物と名乗るアリシアが現れた事により、事情を知らないアルフやはやては混乱していた。
「プロジェクトフォーチューン……!?スウェン、一体何言ってるん!?」
「え!?はっ!?つまりこの小さいのが本物のアリシアで……向こうのがクローンだっていうのかい!!?」
「二人とも落ち着いてくれ、まずはあのアリシアを確保するのが先だろう。」
そう言ってスウェンはショックで打ちのめされている大きい方のアリシアを見る。
「わ……私がクローン……!?嘘……!嘘よ!!!」
「話は後でゆっくりとしてあげます、だから……我々と来てください。
そう言ってフードを被っていた女性が手を差し伸べる。
「だ、誰よアンタ……!!?私はアンタなんて知らない!」
「ああ、そうでしたね……貴方には山猫の時の私の姿しか知らないんでしたね。」
「やっぱり……やっぱりアンタ、リニスなのかい?」
すると彼女の正体に気付いたアルフが声を掛けてくる。
「はい、その通りです。大きくなりましたねアルフ……それに八神はやて。」
「え!?なんでウチの事知っとるんですか!?」
「私は貴方達の事……よく知っていますよ、何故なら7年前からずっと見ていましたから……。」
「え……!?」
その時、上空から二機のケンプファーが大きいほうのアリシアの元に降り立った。
『アリシア様―!!!』
「きゃあ!?」
「はやて!!」
ケンプファーのブースターから発せられた爆風により吹き飛ばされそうになるはやてを、スウェンは身を呈して庇った。
『撤退します!早くこちらに!!』
やって来たケンプファーの内一機がアリシアにMSの手を差し出し乗る様に促す。もう一機の方は半壊したストライクフリーダムを回収していた。
「う……うん……。」
大きい方のアリシアは素直に指示に従い、ケンプファーの手の上に乗ってその場から去って行った。
「逃げられた……。」
「ごめんなさい……私達が突然現れたりしたから……。」
小さい方のアリシアは申し訳なさそうにはやてに謝った。
「ううん……別にええんや、事情さえ説明してくれれば……。」
「主―!!!」
その時、はやて達の元にゲイザーと戦っていたシグナムとヴィータとザフィーラがやって来た。
「シグナム!!フェイトちゃんはどうなった!?」
「そ、それが……救い出したまではよかったのですが……その……!」
「す、ステラとシャマルに先に運ばせた!とにかく来てくれ!」
シグナムとヴィータの切羽詰まった態度に、一同は今只ならぬ状況だということを理解する。
「解った、今すぐ行く、そっちもええか?」
はやては小さいアリシアとリニスに質問する。
「解った……話さなきゃいけない事が沢山あるしね。」
「私達お貴方達に同行します。」
「ぬっ……!?」
その時シグナム達は初めて小さい方のアリシアの存在に気付き、一斉に身構える。
「主……!その者達は!!?」
「えーっと、敵じゃない……よな?スウェン?」
「ああそうだ、このアリシアとリニスは敵じゃない。」

 

数時間後、意識不明のフェイトはオーブ基地の医務室に運びこまれていた。
「エイミィさん……!フェイトちゃんはどうなっているんです!?」
なのはは検査を終えて病室から出てきたエイミィを問い詰める。
「それが……度重なる魔力の酷使でフェイトちゃんの体……すごく弱っているの、簡単に言えば植物人間状態……。」
「なっ……!!?」
「そんな……!!?」
なのはやフェイトの様子を見に来た八神家とアスカ兄妹とアルフ(こいぬフォーム)とユーノとキャロ、そしてリンディとクロノはショックを受けていた。
「原因は……あのユニゾンデバイスか……!」
「あんにゃろう!!!どこまでフェイトを苦しめれば気が済むんだ!!!」
直接戦ったゲイザーの顔を思い出したシグナムとヴィータは顔に青筋を立てて憤っていた。そこにスウェンとノワールとアギトがやって来た。
「皆、ブリーフィングルームに来てくれ、話したい事があるんだ。」
「話したい事……?」
「とても重要なことッス、リンディさんとクロノさんにも聞いて欲しいッス。」
「私達も……?わかりました。」
「シン、行こう。」
「俺は……。」
シンはフェイトがいる病室のドアをジッと見つめていた。そんな彼の心情をスウェン達は察した。
「スウェンさん、私達はフェイトさんのそばにいます。」
「わ、私も……。」
「アタシもフェイトのそばに居る……。」
マユとキャロとアルフはシンと共にここに残れるようスウェンにお願いする。
「わかった……アギト、三人と一緒に居てやってくれ、事情はマユから聞け。」
「お、おう!」
そしてスウェン達はブリーフィングルームに向かって行った、その途中で……はやてはスウェンにある事を質問する。
「なあスウェン、さっきマユちゃんから聞けいうとったけど……もしかしてマユちゃん、事情を知っとるん?」
「ああ、シンもな……あと最近、キラとルナマリアにも話してある。」
「そうか……なんや、複雑になってきたなあ……。」

 

数分後、ブリーフィングルームにやって来たスウェン達、そこにはミネルバやアークエンジェルのクルーに連合軍、そしてアグニスと副官のナーエ・ハーシェル、さらに小さいアリシアとリニスまでいた。
「うわあ……随分沢山いるな。」
「ねえヴィータ、シンは?」
その時、シンがいないことに気付いたルナはヴィータに問いかけた。
「アイツは……フェイトのそばにいるよ、心配なんだろうな……。」
「そう……。」
ルナは少し寂しそうに返事をする。そしてスウェンとリニスは部屋にあるモニターの前に立った。
「さてと……聞かせてもらえるかしらスウェン君?何故貴方があのアリシアが偽物だと知っていたのか、本物のアリシアと一緒に居るのか……。」
「PT事件とやらの詳細な資料はもう一度読ませてもらった。その……あまりにも現実離れした展開で正直混乱しているよ。」
バルドフェルドの問い掛けにリニスが神妙な面持ちで答える。
「申し訳ございません、私達が彼に黙っているよう言っておいたのです。私達の存在を……この世界の人間や時空管理局に知られる訳にはいかなかったのです。ある男に関連する証拠を探していたので……。」
「…………。」
そしてスウェンとリニスは、ブリーフィングルームに居る人間すべてに、ありのままの真実を話し始めた。
「まずは……そうですね、私の自己紹介からですね。私はリニス、かつてプレシア・テスタロッサの使い魔をしていました。フェイトに魔法を教え、アルフと使い魔の契約をさせたのも私です。」
「プレシアの……。」
「そう言えばフェイトちゃんがそんな事いっていたの……。」

 

なのはとユーノは納得したかのように云々と頷く。そしてアウルが手を挙げて質問する。
「はーい質問です!!」
「はい、そこの水色君。」
「結局そこに居るアリシアと俺達が戦っていたアリシア、シンが御執心のあのフェイトって子はなんで同じ顔しているんですかー?」
「いい質問ですね。まずはこちらをごらんください。」
そう言ってリニスはある男の顔写真をスクリーンに出した。
「何このマッドサイエンティスト?」
「この男はジェイル・スカリエッティ……ミッドチルダの凶悪な次元犯罪者ですが優秀な科学者です、彼は言わば……フェイトやあのアリシアの生みの親なのです。」
「生みの親?プレシアっておばさんの旦那なのか?」
リニスは腕で×マークを作った。
「30%当たりです、まあ……アークエンジェルの方々は大体見当が付いているみたいですけど。」
「クローンを作った人とか……ですか?」
マリューの答えに、リニスは腕で○マークを作る。
(さっきからなんだあの人のジェスチャー……?)
「そう……この人はフェイトが作り出された技術、“プロジェクトフェイト”の基礎理論の提唱者なのです。そしてその理論は……二十数年前、とあるCEの研究者の手に渡りました。」
「CE……!?」
その言葉を聞いた途端、スウェンとキラとルナ以外のCE出身者は驚愕する。そしてキラが席を立ち、リニスに言い放った。
「その技術者と言うのが……僕の父、ユーレン・ヒビキなんですね?」
「キラ……!!?」
「なんだと!!!?」
「本当なのか!!?私達の親がそんな……!!?」
ラクス、アスラン、カガリはキラの言葉に食いつく。
「うん……事前にスウェンさんから聞いていたんだ。」
「え?でもキラさんやカガリさんの親は……あれ?」
「リイン、それは彼等の育ての親の事だろう。キラが言っているのは彼の生みの親の事だ。」
「なるほど、それでキラの父親は高いクローン技術を持っていたのか……。」
リイン姉妹とバルドフェルドのやりとりを、レイは複雑そうな表情で見ていた。
「ええ、その結果生まれたのがラウ・ル・クルーゼ……そしてフェイトということです。そして……ユーレンが残したスーパーコーディネイターの技術を応用して作られたのが“プロジェクトフォーチューン”……。」
「私と同じ名前をしたあの子、というわけです。」
その時、なのはとはやてはCEに連れてこられる直前の事を思い出す。
「そうか!私があの研究所で見た書類はそのプロジェクトのものだったんだね!」
「じゃああの研究所……やっぱ時の方舟の物だったんかい……。」

 

「よっし!じゃあ次は俺が質問するぜ!」
そう言って今度はハイネが手を挙げた。
「はい、そこのオレンジ君。」
「その……なんだ、アリシアっつったっけ?アンタ一度死んだんだよな?どうやって生き返ったんだ?」
「それは僕達も気になる、やはりプレシアが言っていた通りアルハザードは……。」
ハイネとクロノの問いに、アリシアは少しばつが悪そうに答えた。
「うん……アルハザードは実在している。何故ならお母さんは……アルハザードに行く事が出来る人と友達だから。」
「「「「…………!!!」」」」
アリシアの答えに、なのは達管理局組の表情が強張る。
「実在していた……!?行く事が出来る人物がいるだと!!?」
「うん、その人は事故で飛ばされたって言っていた、それで七年前……PT事件の後、ジュエルシードの力を使って私は生き返った。もっとも……蘇生にすごく時間が掛かって、起きたのはつい三年前なんだけどね。お陰で私は戸籍は16だけど死んでいた時を除いて体は子供、頭脳も子供なの。」
「なるほど、それでテスタロッサより年下のような風貌だったのか……。」
シグナムは納得したかのように腕を組んでうんうんと頷いた。
「そのアルハザードに行ける人物は今どうしているの?」
「さあ?数年前から行方不明です。やる事があるって書置きを残して……。」

 

「ステラもしつもんする。」
すると今度はステラが手を挙げた。
「はい、そこのかわいらしいお嬢さん。」
「シンは小さい頃、誰かにさらわれてなのは達の世界に行ったって言っていた。シンをさらったのってもしかして……。」
「私です。」
リニスはステラの問いに頷いて答えた。
「えらくあっさりしているな……スウェンもそうだがなんでまたそんな事を?」
「そう言えばあの事件、共犯や支援者がいる可能性があったね、そこんとこどうなんですか?」
「そうですね……この話は長くなると思います、トイレ休憩します?」
「トイレ休憩……。」
「んじゃ折角なんで行ってくるッス。」

 

それから十数分後、リニスの説明は再開された。
「まずは……こちらをご覧ください。」
そう言ってリニスは部屋にあったスクリーンにとある人物の顔写真を映し出した。
「誰だこいつ?」
「フクザワ提督……!」
「えっ?知っているんですかリンディ提督?」
「ミツアキ・フクザワ……元時空管理局本局の提督だったんだけど、性格に問題があって辺境の管理外世界に左遷された人です。」
「問題は……この男が20年前にコズミックイラを見つけたのがすべての始まりでした……。」
リニスは少し憂鬱そうな顔で、これまでの出来事をすべて語り始めた……。

 

「今から二十年前……フクザワは任務の最中に発見したコズミックイラに興味を持ちます、コーディネイト技術を始めとした遺伝子学、高度な性能の質量兵器、そこにはミッドチルダにはない高度な技術が存在していた……それゆえに上層部はその世界との接点を断つよう各自に通達しました。」
「コーディネイターとナチュラルの泥沼の戦いに巻き込まれたくなかったからか。」
「その頃フクザワは左遷されていて、管理局に強い憎しみを持っていました……そこで彼はコズミックイラを密かに味方に付けて、管理局に復讐しようとしたのです。」
「復讐……。」
「まず彼はユーレン・ヒビキに接触し、彼にスカリエッティの理論を渡し、コズミックイラの裏の支配者達にミッドチルダの力を見せたのです。そして数年後、ユーレンはそれを元にアルダフラガのクローン、ラウ・ル・クルーゼを作り出し、アルダから貰った資金でコーディネイターを超える存在、スーパーコーディネイター……キラ・ヤマトを創り出しました。」

 

「…………。」
「キラ……。」
「大丈夫だよラクス、最後まで聞こう……。」

 

「そしてそのミッドの技術に強い興味を持った者がいます。当時のプラント評議会の議員だった……パトリック・ザラ。」

 

「父上が……!!?」
「パトリック・ザラ?誰ですかそれ?」
「前大戦でプラント側の最高司令官を務めていた人だ、それと……アスランの実の父親でもある。」
「パトリックはフクザワと接触し、ユーレンによって洗練されたコーディネイト技術やクローン技術、大量の金品を引き換えに魔導兵器を要求した。それを受けてフクザワは……次の計画に移った。」
「次の計画?」
「フクザワはミッドのある企業に秘密裏に依頼し、とある魔力動力炉を造らせた、しかしそれは管理局の理念に反するものだった、ガサ入れを恐れたフクザワは……パトリックから貰った前金をチラつかせてその企業に“証拠隠滅”を図らせた。」
「証拠……隠滅……?」
「その企業は魔力動力炉を作っている研究所の副主任に、自分達の息が掛かっている人物を任命しました。その人物はプレシアの意見を無視し、無理なスケジュールを組んでプレシアが申請した安全措置を取らず“わざと魔力動力炉の暴発事故”を引き起こさせたのです、何も知らない研究員達の口を封じるため……。」

 

「り、リニスさん!ちょっといいかしら!?」
話の途中、リンディが手を挙げてリニスに意見する。
「……何でしょうか?リンディさん?」
「その……私は一度その事件の詳細を調べた事があります、確かその事件……生存者がいましたよね?」
「ええそうです。貴方達がよく知っている人物……当時その研究所の主任だった……プレシア・テスタロッサがそのうちの一人です。」
「「「…………!!!」」」
「結果として生き残ったプレシアでしたが……その事故で一人娘のアリシアを失った悲しさに囚われて心を壊してしまった。一方フクザワは、事故の調査に来たモロタという局員に金を渡し、事件を事故として処理させました……。」
「ひどい……。」
「反吐がでるな、賄賂渡したのかよ。」
「そしてフクザワは、コズミックイラに魔法の実用性の高さを証明するため、ある実験を行いました。」
「実験!?」
「ええ、“魔法はコズミックイラの人間にも扱えるのかどうか?”というものです。」
「も、もしかしてそれって……!?」
「シン君とスウェンを使って……!!?」
なのはとはやての問いに、リニスはコクンと頷く。
「……フクザワは身分を偽ってジュエルシードを欲していたプレシアにある提案を持ちかけます。“コズミックイラから連れてきた二人の子供に魔法を教える代わり、ジュエルシードを引き渡す。”と……。」
説明の最中、ユーノが手を挙げて意見を言ってきた。
「も……もしかして僕達がジュエルシードを運んでいる最中に起きた事故って……!?」
「フクザワが事故に見せかけてジュエルシードを奪おうとしたのです、しかし……。」
「その作戦は失敗して、ジュエルシードは管理外第97世界に散らばっていった……そこでプレシアはフェイトと……私にさらってこさせたコズミックイラの二人の子供に回収させようとしました、しかし……。」
「ファントムペインで受けた俺の中に残っていた薬や洗脳効果が思うように取り出せず、俺はPT事件に関わる事がなかった……。」
リニスの説明に、スウェン自らが補足を入れる。
「そしてなのは達や管理局の妨害、プレシアの死という誤算がありながらも、コズミックイラの人間でも実践的な魔法が使えるという事を実証して見せた、ですがもう一つ、フクザワはある失敗を犯した……私に真実を知られた事です。」
「成程、真実を知ったアンタ達はフクザワって奴から身を隠し、スウェンを海鳴市に逃がしたんだな。」
「ええ、それを気取られて襲撃を受けて、スウェン君に記憶を失うくらいの大けがを負わせてしまいました……しかしグレアム提督に監視されていた八神家の皆さんに拾われたのは不幸中の幸いでした。」
「あんまり干渉するとそこから足がつくからか……。」
「私は闇の書事件の全貌を見届けた後、アリシアを連れてコズミックイラに身を隠しました……ですがフクザワは、もっと詳細なデータが欲しかった、たとえばコロニーの中で魔導兵器はどれぐらい有効なのかとか……。」
「そ、それってもしかして……!!!?」
ラクスは思い当たる節があるのか、目を大きく見開いていた。
「用心深いフクザワは足を付けないため、管理外第97世界からとある有名なテロ組織をスカウトし、彼等に管理局で作られていた試作デバイス……エターナルやミーティアを強奪させ、プラントの中でパトリック公認のテロを行わせました。」
「成程……ラクスが言っていたあの事件も、そのフクザワっていう奴が裏で糸を引いていたのか。」

 

「その時に彼は、どうやらラウ・ル・クルーゼと接触していたようなのです。そこでブルーコスモスと繋がっている彼に、自分を紹介してもらうよう頼んだのです。」
「ラウ……そんな奴にまで会っていたのか……!!?」
「新しい取引相手を得てパトリックから金をたんまり貰い、もうプラントを用済みと判断したフクザワは……調査に来た管理局員もろとも、パトリックには勿論秘密でプラントを破壊しようとしました、でもそれはとある勇気ある魔法少女達に阻止されました。」
「知らなかった……父上がそんな事をしていたなんて……!!」
「…………。」
ラクスはリニスの話を複雑そうに聞いていた。
リニスは一通り話した後、部屋に居る全員の顔を見回した。
「さて、これから話すのは……コズミックイラの歴史を大きく動かす話になります。それでも皆さん……聞きますか?」
「「「……?」」」
リニスの様子の変化に、一同は少し気圧されていた。
「ここにいる全員に異論はない……でしょう?皆さん?」
ラクスの言葉に、部屋に居た殆どが頷く。

 

「解りました……皆さんは、何故ヤキン・ドゥーエ戦役が起こったかご存知ですか?」
リニスの問いに、一同は一瞬戸惑う……そしてスティングが手を挙げて自分の意見を述べた。
「そりゃあ……俺達ナチュラルがユニウスセブンに核攻撃をしたから……。」
「その回答は30点ですかね。」
「はあ?なんで……あれが開戦理由なんじゃ……。」
「成程、“コペルニクスの悲劇”か。」
バルドフェルドの発言に、一同は一斉に彼に視線を向ける。そして知らない単語を聞かされたなのはが、隣に居たラクスに小声で質問する。
「なんですか?“コペルニクスの悲劇”って……?“血のバレンタイン”はシグナムさん達が教えてくれたから知っているんですけど……。」
「“血のバレンタイン”の9日前……CE70、2月5日、予てから緊張状態だったプラントと当時の国際連合首脳の会談が月面で開かれようとしていたのですが……会場が何者かに爆破されて、地球側の首脳陣が全員死亡……シャトルの故障で私の父、シーゲル・クラインは難を逃れました、しかしそれがかえって地球軍の不信感をかってしまった……。」
ラクスの説明に、カガリが補足を入れる。
「大西洋連邦は“コペルニクスの悲劇”をプラント側の仕業と断定して、プラントが宣戦布告してきたと見なしたんだ。そして崩壊した国際連合の代わりに出来たのがネオ大佐達が所属する地球連合軍……後に“アラスカ宣言”と呼ばれるものだ。」
「そして……連合は“コペルニクスの悲劇”の報復として……ユニウスセブンに核攻撃を……“血のバレンタイン”を起こす訳だ。」
その説明を横で聞いていたヴィータとリインⅡは難しい顔をしながらラクス達に問いかける。
「うーん、なんか複雑な事情があんだなー……。」
「ひどい話です……その会場を爆破したっていう犯人さんは捕まらなかったのですか?」
「ええ、当時のプラントが必死になって探しましたが……犯人の行方は知れ……ず……!!!?」

 

その時、部屋にいた全員が何かに気付いて顔を強張らせる。そしてリニスが静かに語り始めた。
「PT事件の時、コズミックイラとミッドチルダの時空間は一時的に不安定になりました。結果的に管理局の目がコズミックイラに向かなくなり……フクザワは仕事がしやすくなりました、彼はナチュラルとコーディネイターの仲が不穏になって来たのを見計らって……テロリスト達にある指示をしました。」
「おい!まさかそれって……!?」
「そう、コペルニクスの悲劇はフクザワの手下が行ったのです、コーディネイターとナチュラルが大規模な戦争を引き起こすように……。」
リニスの話を聞きながら、一同は唖然としていた。
「開戦したころを見計らってフクザワはパトリックの前に再び現れ、プレシアに作らせた魔力動力炉を売り渡したのです、ラウ・ル・クルーゼを通じて、地球連合……ブルーコスモスにも、結果としてその魔力動力炉は、とんでもない大量殺戮兵器に姿を変えたのです。」
「大量殺戮兵器……もしかして……!!?」
「ザフトは核エネルギーと合わせてその魔力動力炉を使って、ガンマ線レーザー砲……貴方達が“ジェネシス”と呼んでいる物を作り出します。一方連合は……月面のエンデュミオンクレーターやアラスカ基地の地下に設置する予定だったマイクロ波発生装置……“サイクロプス”にその動力を組み込みました。」
「おいおい……!?あの兵器にそんなもんが組み込まれていたのか!!?」
ジェネシスやサイクロプスを実際に目の当たりにしてきたマリューやカガリ達前大戦の参加者達は引きつっていた顔をさらに引きつらせていた。
「もしかしたら今も違う兵器に転用されているかもしれません……とにかくあの男はミッドとコズミックイラの人間をだまして、巨万の富を得たのです……。」
「まるで世界がその男のシナリオで動いているみたいだ……虫唾が走る最低最悪のな……。」
部屋にいた人間すべてが、フクザワに対してかつてない憤りを感じていた。

 

「じゃあ……ウチが質問してもいいですか?」
リニスの説明が一段落した後、はやてが彼女に意見を入れてきた。
「なんでしょうはやてさん?」
「あの……リニスさんすごい色々と知ってますけど……どうやって調べたんですか?それにどうやってスウェンとシン君と知り合って……?」
「そこからは我々が説明しますよ?」
すると、先ほどまでリニスの説明を黙って聞いていたアグニスとナーエ、そしてスウェンが一歩前に出てきた。
「リニスはアリシアの体を持ってコズミックイラに身を隠していた頃……この世界に帰って来た俺は、シンと別れてノワールと一緒に世界を旅していたんだ。」
スウェンは本当はファントムペインの調査をしていたのだが、連合軍であるネオやアリューゼがいる手前本当の事を話せなかった。
「そうこうしているうちに戦争が始まって……俺とノワールはCE70、5月30日のスエズ攻防戦に巻き込まれた……そこで俺達は偶然だが、連合軍のエドモンド・デュクロという人を助けて、彼の保護の元で南米のフォルタレザで暮らしていたんだ。その頃にエドの同僚であるモーガン・シュバリエさんにMSの操縦方法を教えて貰ったんだ。」
「成程……スウェンがMSに乗っているのはそう言った理由だったのか。」
「そんな時、ある情報が俺達やリニス達の元にある情報が舞い込んだ、CE71、6月のオーブ解放作戦だ。」
「シン君が巻き込まれたって言っていた戦闘ですよね?それ……。」
「シン達が危ないと思った俺達は急いでオーブに向かった、そしてそこで見たものは……戦火にまみれたオーブの地だった。」
「………。」
カガリはスウェンの話を俯きながら聞いていた。
「シン達の安否と行方を確かめにオーブ中を駆け廻っていた俺達は、その途中である人物と出会った……入って来てくれ。」

 

するとスウェンの呼びかけに呼応して、皆がいるブリーフィングルームに黒髪をちょうど真ん中で分けた青年が入って来た。
「ど、どうも……。」
「カズィ!!?」
「カズィ君!!?」
マリューとミリアリアはかつてのアークエンジェルのクルーで仲間であった青年……カズィの登場に驚いていた。
「な、なんでカズィがここに……!?ここ数年連絡が取れなかったのに……!」
「そ、それはね……。」
「シン達を探してオーブを彷徨っていた際偶然会ったんだ、彼はシンの住所を調べてくれたうえに……戦火の中を道案内してくれたんだ。そして俺達は大けがをしたマユをその場から動かせずに身動きできなかったシン達と……俺と同じで様子を見に来ていたリニスに出会ったんだ。」
「びっくりしましたよ、スウェンさんってば盗んだアストレイで私達の所に来たんですもの……。」
「き、貴様!我が軍のMSを盗むとは……!!!」
「カガリ落ち着け、今は彼等の話を聞こうじゃないか。」
怒るカガリを、アスランが冷静に嗜めた。
「シン達を救い出した俺達はそこでリニスにこれまでの事を教えてもらった……アリシアに会ったのもその頃だ。」
「我々マーシャンと出会ったのもだなスウェン。」
「ああ……DSSDの職員だったセレーネの紹介でな、そこで俺達は……アグニスからある事を聞いたんだ。」
「ある事……?」
その問いをスウェンに代わってアグニスが答えた。
「実は我々が地球の様子を見に来た際……スウェン達に会うちょっと前か、その胡散臭いフクザワという男が接触してきたのだ、その魔力動力炉とやらを我々に売りつけに……。」
「なんだって……!!?」
「おそらくあの男はプラントと地球の戦争が終わった後、我々マーシャンに戦争を引き起こさせようとしたのだろう……。まあ、追い払ってやったが。」
「その男の話を聞いたリニスはCEで友人になったというとある情報屋にその男の素性を調べてもらい、リニスの情報も合わせてその男がプレシアを嵌めたフクザワと同一人物だという事がわかった。それと同時に……奴の企みもすべて一本の糸で繋がった、というわけだ。そして俺は傭兵になって、シンはザフト軍に入ってその男の足取りをさらに調べていたんだ。」
「ふむ……そういう訳だったのか。」

 

「じゃあ……次は私が質問してもいいですか?」
小休憩の後、今度はなのはが質問してきた。
「なんでしょうか?なのはさん?」
「あの時の方舟の正体は何なんですか?どうして私達やCEの偉い人達だけじゃなく、お母さん達やアリサちゃん達まで攫って、アリシアちゃんのクローンまで作ってオーブの人達に攻撃を……?」
「すまない……そこまで俺達はあまり調べていないんだ、あのアリシア達があの男の技術を利用したクローンだという事とミッドの革命家トレディア・グラーゼがイクス・ヴェリアを手土産に時の方舟と接触したぐらいしか……。」
「これは企業秘密ですが……一応今私達の仲間が彼等の拠点を調べています、後は彼等の情報待ちです。」

 

その頃フェイトが収容された病室では……シンとマユがアルフとキャロとアギトにこれまでの事を説明していた。
「アンタ達……アタシ等と別れた後にそんな事を調べていたんだねえ……。」
「うん、今まで内緒にしていてごめんな。」
「しょ、しょうがないですよ!私達にバレたらすべてが台無しだったんですよね?なら……。」
「でも……時の方舟の存在と行動は完全に予想外だった、俺達がもっと早く奴等の動きに感付いていればフェイト達をこんな目に……この世界をこんな混乱に……あのアリシアを……。」
「シン!」
その瞬間、シンはアルフに頭をポカッと殴られた。
「いたっ!?アルフ……?」
「いいかげん……そうやって自分でなんでもかんでも背負い込むのはおよしよ!アンタ達ぜんっぜん悪くないじゃないか!!」
「そうですよ!!シンさん達はむしろ皆の為に頑張ってきたんじゃないですか!誰も責めないですよ!!」
「でも……それでも……。」
シンはとても辛そうな顔をしながら、ベッドで横たわっているフェイトの寝顔を見ていた。そんな彼の様子を見て、アギトが彼を励ます。
「いつまでメソメソしてんだよ、いい男が台無しだぜー?」
「アギト……。」
「お前がそんな顔してたら、こいつも目を覚ましにくくなっちゃうだろ?もっとシャキッとしろよ!」
「ははは……そうだな、ありがとうアギト。」
そう言ってシンはアギトを優しく撫でてあげた。そんな彼等の様子を見て、マユが不安そうに声を掛けてくる。
「でも心配だねお兄ちゃん、あの子の事……。」
「時の方舟のアリシアの事か……あの子は言わば、昔のフェイトみたいな事になってるからな……大変なことにならなきゃいいけど……。」

 

同時刻、アジトに戻って来た大きい方のアリシアは、自分の部屋に閉じこもっていた。
(どういうことなの……!?私がクローン……!!?そんなわけないじゃない!私には……お父さんとお母さんの記憶がちゃんとあるんだ!偽物は……あのアリシアの方だ!)
アリシアはベッドに顔を埋めながら、先程から何度も同じ思考を繰り返していた。
「そうよ!私はアリシア・テスタロッサ!プレシア・テスタロッサの娘!それ以外の何物でも……!」
「失礼します。」
その時、アリシアの部屋にゲイザーがノックもせずに入ってきた。
「なによ……ノックぐらいしなさい!」
「申し訳ございません、どうしてもアリシア様の様子が気になってしまい……。」
「ふんっ……!」
ゲイザーはアリシアの身を案じて、彼女を必死に励ました。
「アリシア様……先ほどの件、あまり気になさらないほうがよろしいかと、向こうは卑劣にも偽物を使って貴女の動揺を誘うつもりだったのです。あのような幼稚な手に簡単に乗ってはいけません。」
「あたりまえじゃない……だれがあんな卑劣な手に引っ掛かるもんですか……!」
「そう、その意気です。先ほどの貴女の活躍、首領も褒めておりましたよ。」
「あの人が……!?そう……!」
アリシアはよほど嬉しかったのか、子供のような笑顔を浮かべていた。
「もうすぐ首領から貴女のみに新しい指令が下されます。それまでその傷を含めて、ゆっくりとお休みください。」
「うん……わかった。」
そしてゲイザーはアリシアの部屋から出て行った。そして廊下を歩いている途中、カシェルと鉢合わせする。
「ゲイザー、アリシア様の様子はどうだった?」
カシェルの質問にゲイザーは、
「ああ……あの“役立たず”ですか?部屋でウジウジしてましたよ。」
まるで氷でできているような冷たい口調で言い放った。

 

「お前……!!」
「まったく、口ばっかで作戦の足を引っ張るばかり、あれで本当にスーパーコーディネイターなんでしょうかね?オリジナルよりひどいですよ。」
その瞬間、カシェルはゲイザーの胸倉を掴んだ。
「お前は……お前はぁ……!!!」
「何をそんなに怒っているのです?貴方も内心彼女を鬱陶しく思っていたでしょうに……?」
「くっ……!!」
ゲイザーはものすごい握力で、自分の胸倉をつかむカシェルの腕を握る。
「その気になれば……貴方達などいつでも千切りにできるんですよ……!!!?」
「くそっ……!!!」
カシェルはゲイザーに気圧され、彼の胸倉から手を離した。
「……まったく、どいつもこいつも失敗作か……ところで先程ですが、アリシア様に辞令が下されました。」
「辞令……?」
ゲイザーはいつものひょうひょうとした雰囲気に戻り、カシェルに次の作戦の説明をした。
「おい……!!?なんだこの作戦……!!?」
「ストライクフリーダムは羽を半分切り落とされて性能が半減しています、このままでは向こうに奪い返されて我々の仇になってしまうのですよ、それならいっそ……使えない“生ゴミ”と一緒に燃やしましょう、オーブの地と共にね……。」

 

そこから少し離れた場所では……。
「ソード~!しっかりしろー!!」
エールとランチャーがアビスに撃墜されて海中に投げ出されて溺れていたソードに人工呼吸を行っていた。
「はいワンツー!ワンツー!」
「戻ってこいソード!」
「うっ……!げほっ!ごほっ!」
するとソードは口から小魚を吐き出しながら目を覚ました。
「よっし!生き返った!」
「よかった~!」
「た、助かったよ二人とも~!」
そう言って三人は互いに抱き締めあった。

 

それから三日後、南アジアの国であるオーブの地に季節外れの嵐が近付いており、国中に大雨が降っていた。

 

「天気予報じゃもうすぐ台風が来るって言っていたわ。」
「そうだね……。」
キラ、ミリアリア、カズィは久方ぶりに集まって昼食をとっていた。
「でも驚いたよ……カズィがマーシャンの人たちと一緒に居たなんて……。」
「やっぱり私達に連絡しなかったのは……その時の方舟の情報を集めていたから?」
「うん、フクザワの息が掛った人間が、オーブやザフト、連合の中に紛れ込んでいる可能性があったんだ、でももう隠す必要は無くなった、それでみんなに会いにいったらあの戦闘が起こっていて……。」
「マーシャンの人たち、あれからすぐに旅立っちゃったよね?どこ行ったの?」
「スウェンさんの仲間の元に時の方舟の居場所の調査に行ったんだ、僕は臨時の連絡員さ、それに……もうすぐ面白いものが見られるよ。」
そう言ってカズィは嬉しそうにコーヒーを啜った。
「なんかカズィ……変わったね。」
「うん、オドオドしなくなったっていうか……。」
「そうだね……あの時僕が怖くなってアークエンジェルから降りた後、スウェンさんとアリシアに出会って……励まされたんだ、“前に出て戦う事だけが戦いじゃない、後ろでサポートするのも立派な戦いだ。”ってね。だから僕は彼等に協力しようと思ったんだ、僕に出来ることをしようと思って……。」
「ふーん……。」
キラとミリアリアは友人が逞しく成長していることに少し嬉しさを感じていた。

 

その頃アースラの艦長室では……小さいアリシアとリニスが、リンディとクロノ、そしてエイミィとなにやら話合っていた。
「まず……私達は謝らなければなりません、PT事件の事……。」
そう言ってリニスはリンディに高級そうな菓子折りを渡した。
「まあ、態々どうも……別にそんなに気を使わなくてもいいんですよ?」
「いえ、我々はプレシアのそばに居たのに、彼女を止める事が出来なかった。こんなものじゃまだ足りないでしょう……。」
「ま、そう固くならず……お茶でもどうですか?」
リンディは緊張している小さいアリシアとリニスに熱々の緑茶を渡す、無論クリームと砂糖付きで。
「ありがとうございます……。」
「それにしても……見れば見るほどフェイトちゃんそっくりですねー。」
エイミィはそう言いながらレモンティーに口を付ける。
「エイミィ、最近君そればっかり飲んでいるな……。」
「うん、油っこいのも駄目になってきてねー、今度病院行こうかな……。」
そんな夫婦ののほほんとした会話をよそに、リンディはリニス達との話を続けた。
「とりあえず……フクザワ提督の事は、私から管理局に報告しておきます。まだ帰れる目処が立ったわけじゃないけど……。」
「ああ、それなら大丈夫です。向こうにいる私達の仲間が今頃あの男を捕らえているはずですから♪」
「えっ!?向こうにも仲間が……!!?」
「はい、シンとスウェンが7年前に知り合った人で……貴女達もよく知っている人ですよ。」
「一体誰が……?」
「ふふ……そのうち解りますよ。」
話が一段落着いたころ、リンディは小さいアリシアにある質問をする。
「アリシアさん達は……今までどんな生活を?」
「殆ど隠れ家暮らしでしたかねー、どんな所に目があるかわからないし、シンとスウェンには迷惑を掛けられないですし……。」
「成程……つまり貴女達には保護者がいないと……。」
それを聞いたリンディは、しばらく考え込み……思いもよらない提案を小さいアリシア達にしてきた。
「アリシアさん……この事件が終わったら、私の子になる?」
「「ぶーーーーー!!!!!?」」
突然の提案に小さいアリシアとリニスは口に含んでいた緑茶を吹き出し、クロノとエイミィは「ああ、やっぱりか。」といった顔をしていた。
「え?え?え?な、何故!!?」
「だって貴女フェイトのお姉さんなんでしょ?なら……姉妹一緒の方が色々と楽しいじゃない、それにクロノもフェイトも自立しちゃって、未亡人の私が一人で暮らすのは少し寂しいのよ……。」
「で、でも……嬉しいんですけど……。」
小さいアリシアはとても悲しそうな顔で俯いてしまった。
「でも?何?」
「元はと言えば私のせいでフェイトは苦しい想いをしたんですよ?もしかしたら彼女に恨まれているかも……。」
そんな小さいアリシアの言葉を、リンディは軽く笑い飛ばした。
「うふふ……フェイトはそんな弱い子じゃない、7年間あの子の母親をしてればわかります。だから……あまり自分を責めちゃだめよ?」
「は、はい……。」
小さいアリシアはそんなリンディの優しい眼差しを見て、思わず顔を緩ませる、そんな彼女の様子を、リニスは暖かく見守っていた。
(リンディ・ハラオウン、なんと懐の広い方でしょう。フェイト……いい母親に出会いましたね。)

 

話を終えて艦長室を出た小さいアリシアとリニスは、廊下で偶然マユとユーノに鉢合わせした。
「あ!アリシア~♪」
「おお!マユ~!久しぶりだ~♪」
そう言ってマユと小さいアリシアは互いに抱き合った。
「あれ?二人は知り合いなの?」
事情をしらないユーノは二人に問いかけた。
「はい!アリシアは私の命の恩人で……“心の友”と書いて心友です!」
「いやあ、照れるな~♪ところでマユ、どうしてユーノさんと一緒に居たの?」
「ああ、彼女が魔導書を読みたいって言ってね……僕の本を何冊か見せて貸してあげたんだ。」
「そっか……マユ、今でもあの夢を追いかけているんだね……!」
「へへへ……。」
小さいアリシアに尊敬の眼差しを向けられ、マユは照れながら頬をポリポリと掻いていた。そして何かを思い出したかのように、彼女にある提案をする。
「そうだ!これからフェイトさんのお見舞いに行くんだけど……アリシアも来る?」
マユの誘いを、小さいアリシアは申し訳なさそうに断った。
「うーんごめんね、これからアークエンジェルの方に行って、私達が使ってたシビリアンアストレイを預けに行くんだ、その後に行くよ。」
「そっか……わかった、お兄ちゃんとキャロも待っているからねー。」
そしてマユは小さいアリシア達と別れてフェイトがいる病院へと向かって行った。
「さて、私達もやる事やっちゃうよリニス。」
「かしこまりました……ユーノさん、それでは。」
「ええ……僕も後でクロノ達とお見舞いに行きますので。」
そう言って小さいアリシア達とユーノもその場から去って行った……。

 

一方ミネルバの食堂では、軍務に復帰したシンが久々にレイとルナと一緒に昼食を取っていた。
「シン右手の調子はどうだ?」
「んー……まあ日常生活には支障ないけどMSにはまだ乗るなって言われた。しばらくはリハビリしながらデスクワークだな、艦長に大量の報告書書けって言われたし……。」
そんな時、先ほどから二人の会話を黙って聞いていたルナがシンに話しかける。
「ねえ、シンってさ……そのフクザワって奴がしてきた奴の手がかりを調べる為に、ザフトに入ったの?」
「……まあな、移住したついでってのもあるし、実はレイの体の事も、入隊する直前に知ったんだ。」
「そうだったのか……お前はやはり、あのフェイトとかいう娘と俺を重ね合わせて、あの言葉を贈ったのか?」
「うん……なんかレイ、自分の生い立ちを知ったばかりの頃のフェイトと空気が似ていたんだ、それでつい……。」
「まあいいがな、その言葉で俺は救われた。お前とフェイト・テスタロッサに感謝しなくては……。」
「なんだよ改まって……別にいいよ。」
シンは照れ隠しにコーヒーをすする。そんな彼の様子をルナは少し不満そうに見ていた。
「シン……なんだかフェイトって子の話をしてると途端に嬉しそうな顔になるわね……。」
「え!?マジで!?なんでだろ?」
「知らないわよバカ!」
そう言って怒ったルナはそのまま食堂を出ていった。
「アイツ……何怒ってんだ?」
「とりあえずルナマリアの代わりに言っておく、もげろ。」
そんなシン達の元に、アルフ(こいぬフォーム)がやって来た。
「ふえ~……シン~……。」
「ん?どうしたアルフ?フラフラじゃないか。」
「うん、ちょっとお腹すいてさ……肉ない肉?」
「お前……フェイトが心配なのはわかるけど、あんまり無茶しちゃだめだぞ?」
シンはフラフラなアルフを持ち上げ、席に座り自分の膝に乗せて食べている最中だったコロッケを彼女に食べさせてあげる。
「うう……かたじけない。」
(喋る子犬……妖精……魔法使い……俺も随分遠くに来たもんだ……。)
レイはどこか遠い目で二人の様子を見守っていた……。

 

その頃、フェイトが収容されている病院に、沢山のお見舞いの花を持ったマユがやって来た。
「あ、マユさーん!」
するとマユは病院の廊下で偶然、フリードを引き連れたキャロに出会った。
「あ、キャロちゃんもフェイトさんのお見舞いに来たの?」
「はい、修理が終わったバルディッシュを届けるついでに……よかったら一緒に行きませんか?」
「うん、いいよー♪」
そう言って二人はフェイトがいる病室に向かいながら、なんてことはないおしゃべりをしていた。
「お兄ちゃんから聞いたよキャロちゃん、すごいよね……フェイトさんに会いにアースラで密航したんでしょ?」
「う……そういうマユさんだって、ご両親に内緒でプラントってとこからこのオーブに来たじゃないですか……一緒ですよ。」
「キュクルー、キュクルー。」
「なはは……フリードにまで突っ込まれちゃった。」
そしてマユ達はフェイトがいる病室の前にやって来た。
「キュクル!!?」
その時フリードは何かに気付いたのか、急にグルグルとキャロとマユの頭上を飛び回った。
「どうしたのフリード?あんまり暴れちゃあ他の患者さんに迷惑だよ?」
「ふふふ、フェイトさんを起こそうとしているのかもね。」
マユはそう言いながら病室の扉の取っ手をひねり、キャロ達と一緒に中に入って行った。
「あれ……?」
その時マユ達は、フェイトしかいない筈の病室に誰かもう一人いることに気付いた。
「だ、誰!!?」
「……“誰”はひどいんじゃない?私達……一度会っている筈でしょ?」
「「!!!」」

 

その数分後、シンとアルフと小さいアリシアとリニスは一緒にフェイトのいる病院にやって来た。
「うう……緊張するなあ……。」
「アリシア、リラックスですリラックス。」
「そんなに固くなるなよ、フェイト今寝てんだし……。」
「そうは言っても……。」
「はあ、しょうがないな……。」
そう言ってシンはアリシアの頭を優しく撫でてあげた。
「うんっ……。」
「俺やリニスが一緒に居てやる、だからそんな顔するな。」
アリシアはシンに撫でられて居心地よさそうにする。
「ありがと……ちょっと勇気がでたよ、シンの手って魔法が宿っているんだね。」
「はははっ、なんだそりゃ?」
そんな二人のやり取りを、リニスとアルフは優しく見守っていた。
(シン・アスカ……本当に優しいお方、フェイトは本当によい出会いをしました……。)
「でもねー、その魔法はあんまり同世代の子にしちゃ駄目かなー?」
「え?なんで?」
「だって君のその魔法、すんごく強力なんだもん、私には効かないけど……。」
「??????????」
そしてシン達はフェイトがいる病室にやって来た、そして……彼等はそこで妙な違和感を感じる。
「あれ……?先にマユとキャロが来ている筈なのに……?」
「というか……少し争った形跡があります。」

 

キュクル~!

 

その時、シン達はフェイトが眠るベッドの下からフリードの鳴き声が聞こえている事に気付いた。
「フリード!!?」
シンは慌ててベッドの下に手を突っ込む、するとロープでグルグル巻きにされたフリードが出てきた。
「キュクル~……。」
「大丈夫かフリード!?一体なにがあったんだ!!?」
シンはフリードに捲かれているロープを外してあげる、すると一枚の紙がハラリと落ちた。
「なんだコレ……?手紙……?」
その紙に書かれた文字を読み、シンの表情は途端に険しいものになる。
「何!?なんて書いているの!!?」
小さいアリシアはシンから紙を奪い、その内容を見て目を見開く。

 

“インパルスのパイロットに告ぐ、シン・アスカの妹とそのお友達は預かった、返して欲しくばインパルスに乗ってアリシアと名乗る偽物を連れてオーブ市街地の立ち入り禁止地区に来なさい、私はそこで待っている、もし仲間に知らせたら人質は無事ではすまさない。”

 

「これ……!まさかあのアリシアの……!!」
「マユ……!キャロ……!」
シンは悔しそうに歯ぎしりしながら、壁に拳を強く打ちつけた。
「どうするのですかシン?このままでは……。」
リニスの問いに、シンは冷静に言い放った。
「アルフ、ここでフェイトの様子を見ていてくれ、俺たちは……。」

 

それから数分後、シン達はミネルバのMS格納庫に来ていた。
「うん?シン、こんなところで何してんだ?」
すると彼等の姿を見つけたヴィーノがやって来た。
「ヴィーノ……インパルスはどこにある?」
「インパルス?向こうでフォースシルエットを付けて調整中だぞ、もうすぐ終わるけど……。」
「そうか……ちょっと艦長の指令でインパルスに乗ってリハビリがてらパトロールに出る。」
「は?その子を連れてか?」
「んふふー、ちゃんと許可は貰っているよ♪」
「……?わかった、ちょっと待っていろ。」

 

さらに数分後、ブリッジにいたタリア達は驚くべき光景を目にしていた。
「か、艦長!!インパルスが勝手に出撃を……!」
「はあ!!?整備班はなにやってるの!!!?」
そう言ってタリアは格納庫に居るマッド達に連絡を入れた。
『ど、どうしたんですか艦長?そんなに怒って……?』
「どうしてインパルスが勝手に出撃しようとしているの!!?
『え?艦長から指令が出たってシンが……。』
その時、インパルスに乗ったシンからタリア達に通信が入る。
『すみません艦長!!!シン・アスカ出撃します!』
「な……おい!シン!!?」
タリア達はシンを制止しようとするが、彼はそれを聞き入れずインパルスに乗ってミネルバから嵐が吹き荒れる外へ出撃して行ってしまった……。
「メイリン!シンがどこへ行ったか解る!?」
「この方角は……立ち入り禁止地区に指定されている旧市街地です!」
「急いでアークエンジェルとアースラに連絡を!インパルスを連れ戻して!」
「シン、一体何を……!?」

 

その頃、オーブ市街地の廃墟となって立ち入り禁止になっている地区にある、半壊したビルの屋上……そこに片翼を失ったストライクフリーダムが立ちすくんでいた。
その足もとにはマユとキャロが一緒になって縛りあげられていた。そしてそれを、アリシアはジッと見つめていた。
「お兄ちゃん……。」
「アリシアさん……どうしてこんな事を……!?」
キャロは自分達をさらったアリシアに問いかける。
「決まっているじゃない……私の名前を勝手に語っているバカをやっつけて、ついでにインパルスのパイロットに今までのお返しをするためよ……!」
「アリシアさん……。」
キャロはアリシアのとても悲しそうな顔を見て、胸が締め付けられる思いをしていた。そんなアリシアに、マユは厳しい一言を放った。
「そんな事をしても……真実は変わらない!何が本当なのかアナタにだってわかるでしょう!!?」
「うるさい……!!」
アリシアは眉間に皺を寄せて拳銃の銃口をマユ達に向けた。
「ひっ……!」
「アンタ達はそこで黙って見ていなさい……!死にたくなかったらね!」
ふと、アリシアは遠くからMSが接近している事に気付いた。
「来たわね、私の偽物……!インパルス……!」
アリシアは接近してくるインパルスを見て、不敵な笑みを浮かべていた……。

 

どこまでも真っ白な世界……そこで私は、ずっと卵のように座り込んでいた。
こうしていれば、私は誰も傷つけることはない……そして自分自身も傷つくことはない。
どうしてみんな私をいじめるの?どうして私を憎むの?私が偽物だから?人形だから?作りものだから?アリシアじゃないから?母さんに作られたから?母さんの役に立たなかったから?母さんを死なせたから?
もう嫌だ……生きているのが辛い……大切なものが次々と失われてくのを見るのが辛い……何もかもが辛い……。
もう誰も私を起こさないで、私はこのまま自分の身が枯れ葉のように朽ちていくのを待っていたい。だからもう……私に何もしないで……。

 

「フェイト・テスタロッサ。」

 

その時、私しかいない空間に赤いボーイッシュの髪をしたエメラルドグリーンの瞳をした少女が現れた。
アナタは……誰?私の眠りを妨げないで……。

 

「随分と甘ったれた事をぬかしてやがりますねぇ……?」

 

はい?

 

その瞬間、私と彼女しかいない真っ白な空間に“スコーン!”という効果音と、私の悲鳴が鳴り響いた。