魔動戦記ガンダムRF_19話

Last-modified: 2011-08-13 (土) 23:03:00

シンがインパルスで無断で出撃してから数分後、ミネルバの指示でシンを追いかけにレジェンドで出撃したレイは、オーブの立ち入り禁止地区へ向かっていた。
「レーダーは確かこの先を示していた筈……。」
そして目的の場所に着いた時、彼はある違和感を覚える。
「……?おかしい、確かにインパルスはここに……。」
するとレイの元にアースラにいるエイミィとシャーリーから通信が入る。
『多分そこに結界が張ってあるんだね、ちょっと複雑だから解除に時間がかかるよ。』
『今そっちにスウェンさん達やクロノ提督も向かっています。しばらくそこで待機してもらえますか?』
「了解した……。」
アースラの通信を切った後、レイは座席に凭れかかった。
「まったく……何をしているんだシン……!」

 

一方、大きい方のアリシアの指示で立ち入り禁止地区にやって来たシンと小さいアリシアは、崩れ賭けのビルの上にストライクフリーダムが着地しているのを見つける。
「シン!あそこ!」
「足元にいるのは……マユとキャロか!」
シンはインパルスをそのビルに着陸させ、小さいアリシアと一緒にコックピットを降りる。
「意外と早かったわね!」
するとそこに、拳銃を持ったままの大きいアリシアが出てきた。
「君は……!」
「……!?何!?パイロットはアンタだったの!?まあいいわ、どっちにしろぶっ飛ばしてあげるわ。」
「お兄ちゃん!」
「シンさん!」
「てめえ……!!マユとキャロを返せ!!」
すると、小さい方のアリシアが、大きい方のアリシアの前に立つ。
「もうやめよう……アナタはあの人達に騙されているんだよ。これ以上罪を重ねたら……。」
「うるさい!!!」
激昂した大きいアリシアは小さいアリシアの眉間に持っていた拳銃の銃口を向ける。
「なんで私が偽者扱いなのよ……!?偽者はそっちじゃない!私には母さんの記憶がしっかりと……!」
「証拠は……ここにあるよ。」
そう言って小さいアリシアは何枚かの書類を大きいアリシアに見せた。
「これは……!!?」
「なのはちゃん達が調べていたあの研究所……何年か前に私達の仲間が調査に入った事があるんだ、そこで見つけたもの……。」

 

その紙にはあるカプセルに入った赤ん坊の写真が映し出されていた。そしてその下には何かの成分や製造過程などのデータが記載されていた。そして形式番号と思われる数字……“F014”が記されていた。

 

書類を読み終わった大きいアリシアは、天を仰ぎながら高笑いした。
「あ……あはははは!!こんなもの証拠になる訳ないじゃないの!ここに写っている赤ん坊ってアンタのことじゃないの!?」
「…………。」
未だに現実を受け入れようとしない大きいアリシアを見て、周りは哀れみの目を向けた。
「そうそう……!私この偽者を連れてくるように言われていたんだわ……!この二人と交換よシン・アスカ!」
「……わかった。アリシア……。」
「うん。」
小さいアリシアは大きい方のアリシアの元に赴いた。
「一応バインドは掛けておくわね。そっちの子達のを解除する代わりに。」
そして小さいアリシアの体にバインドが巻きつき、代わりにマユとキャロの体に巻きついていたバインドが解除された。
「お兄ちゃん!」
「シンさん!」
恐怖から開放されたマユとキャロは真っ先にシンの元に駆け、思いっきり抱きついた。
「ごめんな……怖かったろう?」
「ううん……それよりもアリシアが……。」

 

「さあ偽者!早く乗りなさい!」
大きいアリシアは小さいアリシアに銃口を向けて催促する。
「うん、わかったよ……。」
そう言って二人のアリシアがストライクフリーダムに乗り込もうとしたその時だった。
「キュクルー!!」
「きゃっ!!?」
突如フリードが現れ、大きいアリシアに襲い掛かってきたのだ。
「な、こいつ!?」
「今だ!リニス!!」
するとシンの号令と共にリニスが現れ、縛られていた小さいアリシアをさらい彼の元に連れて来た。
「あ、アンタ達ぃ……!!?」
「キュクー♪」
「よーし、よくやった。」
「フリード……!?リニスさんも……どうしてここに!?」
「我々はたまたま通りかかっただけです。決してシン達と一緒に来たわけではありません。」

 

「くそっ!!どいつもこいつも!!」
リニスに謀られて小さいアリシアを逃がした大きいアリシアは、すごくイライラした様子でストライクフリーダムに乗り込んだ。
「リニス、マユ達を頼む。」
「お兄ちゃん!?どうするの!?」
「俺は……あの子を止める!」
そう言ってシンはマユ達をリニスに任せてインパルスのコックピットに乗り込んだ。

 

そして上空に飛び立ち、そこでストライクフリーダムと対峙する。
『許さない……!!!私をコケにして!どいつもこいつも気に食わない!!みんなみんな消し飛ばしてやる!!!』
「そんなことさせない……!!!俺は……俺は君を助ける!!」
そしてストライクフリーダムとフォースインパルスはお互いビームサーベルを抜き、上空で激しくぶつかり合った……。

 

その頃結界の外では、八神一家やクロノとユーノ、さらにそれぞれのMSに乗ったスウェンとなのは、キラ、ルナ、レイ、アスラン、ハイネ、ネオ、スティング、アウル、ステラが結界の前で立ち往生していた。
『くっそー!なんだよこの見えない壁は!!?』
『MSや魔法の攻撃でもビクともしねえ……。』
「おそらく私達の知らない協力な結界が張られているのね。中の様子は見れるけど……。」
一同は結界の中で戦っているインパルスとストライクフリーダムを見て不安を募らせる。
『フリーダム、君の力でも駄目かい?』
『う~ん、難しいね~……。』
『インパルスでストライクフリーダムに勝てるの……?おまけにあいつブランクが長いし……!』
『せめて俺が中に入れれば……!』
そう言って不安がるレイとルナに、スウェンが話しかけてくる。
『二人とも……シンを信じよう、アイツならきっとうまくやれるさ。』
『そうッスそうッス!信じてあげましょうや!』
『スウェンさん……ノワール……。』
そして一同は、再びインパルスとストライクフリーダムの戦いを、祈るように見つめていた……。

 

どこまでもどこまでも真っ白な世界、そこで私は……。
「大体ですねー、貴女はなんでもかんでも自分のせいにしすぎなのです。もっと楽にしないとそのうち潰れて……。」
知らない女の子に凸ピンされ、その上説教を受けていた、オデコ痛い……。
「あの……どちらさまですか?私達初めて会うと思うんですけど……。」
「今は私の話の途中ですよ?」
「ううう……。」
私はその女の子の高圧的な態度に逆らえず、言われるがままに彼女の話を聞いていた……。

 

それから約三時間後。
「これで私の話は終わりです、解りましたか?もう消えたいなんて言っちゃ駄目ですよ?」
「はい……解りました……。」
フェイトはその女の子の説教から解放され、正座していた足を崩す。
「と、ところでアナタは一体誰ですか?随分と私の事、知っているみたいでしたけど……。」
「解らないのも無理ないですね、私達が最後に会ったのは7年も前ですから……。」
「はい?」
フェイトは必死に記憶の中を漁ってみたが、目の前の彼女を思い出す事ができなかった。
「ご、ごめんなさい、私憶えてなくて……。」
「いいんですよ別に……ところでこれからどうするのですか?目を覚ますのなら手伝いますが?」
「…………。」
その言葉を聞いた途端、フェイトは俯いてしまった。
「どうしたのです?」
「うん……このまま目を覚ましてもいいのかなって、このまま起きても皆の……シンの足手まといになるかもしれないから……。」
そう言って、フェイトは洗脳されていた時にシンの右腕を切断した自分の両手を見る。
「……確かにシン・アスカなら、命続く限りアナタを助けようと無茶をするかもしれません。」
「私はそれが怖い……折角出会えたのに、私がまたポカしてシンが傷ついちゃうかもしれないから……。」
「フェイトさん。」
するとその女の子はフェイトの両肩を両手で掴んだ。
「え?あの……?」
「私はフェイトさんを初めて見た時……シン・アスカに相応しいのはアナタだと思いました。」
「へっ?」
フェイトは女の子が何を言っているか解らず、頭に?マークを浮かべていた。
「かつて……シン・アスカには仲間といえる存在がいませんでした。信頼していた彼を裏切った正義の剣、親友だと思っていた彼を利用した伝説の剣、愛し合っていた筈なのに最後は正義の剣に尻尾を振って裏切った鷹……彼の周りには誰も居なかった、勝手に死んでいき、裏切っていった……。」
「あ、あの……一体何を言っているの?」
女の子はフェイトの問いかけを無視して話を続ける。
「彼の物語が終わった後、私達は貴女がいる物語を見つけた……そして貴女の慈愛に充ち溢れた強さに私は惚れ込んだ、シン・アスカに相応しいヒトは貴女しかいないと……。」
「え、えへへ……よくわからないけど嬉しいかな?」
フェイトは照れ臭そうに頬を染めていた。
「だから貴方とシン・アスカの出会いが間違いじゃないと断言できます。だから……。」
女の子はそう言って、フェイトのおでこに自分の右手人差指の先端を押し付けた。
「貴女は守られるだけのお姫様じゃない……シン・アスカの背中を……あの人が守りたい物を守る人になって欲しいのです。」
「私が……シンを……。」
その時フェイトの頭の中に宇宙空間の中で種が弾けるイメージが浮かび上がっていた。
「これは……?」
「貴女はかつて、シン・アスカに魔力を分け与えられています、その時の“種”を……今私が開花させたのです。」
そして女の子はフェイトから一歩離れると、背中から赤い光の翼を大きく広げた。
「え……!?」
フェイトはその翼に見覚えがあったのか、光のない瞳を大きく見開いた。
「アナタ……もしかして……!!?」
女の子は驚いている様子のフェイトに、優しく手を差し伸べた。
「アナタの力を貸してください……私は今度こそシン・アスカを“主人公”にしたいのです。」

 

気が付くと私は、どこかの病院のベッドの上で目を覚ました。
「ん……?ここって……?」
「フェ……フェイト!!?」
すると傍らで私を看ていた子供形態のアルフが驚きの声をあげていた。
「アルフ……?どうしてここに?ここは一体……?」
「フェイト~!」
アルフは私の質問に答える前に、私に抱きついて大粒の涙を流した。
「い、痛いよアルフ……。」
「だ、だってぇ……もう目を覚まさないかもって言われていて……アタシどうしたらいか解らなくって……!」
「アルフ……心配かけてごめんね。」
そう言って私は泣きじゃくるアルフの頭を優しく撫でてあげた。そしてある事を思い出す。
「そうだ……!シンはどうなったの?私のせいで……。」
「そ……それが……アリシアに攫われたキャロとマユを救いに一人で……!」
「へっ!?なんでマユちゃんとキャロが!!?」
彼女との会話が噛み合わず私は少し混乱するが、すぐにあの子の言葉を思い出し気持ちを切り替えた。
「よくわからないけど……皆ピンチなんだね、バルディッシュはドコ?」
「え!?無茶だよフェイト!まだ起きたばっかりなのに……!」
「そんな事言っていられないよ!私は守りたいの!」
『バルディッシュはここにありますよ。』
私とアルフは声がした薬台の方を向く、そこには待機状態のバルディッシュと、シンのデバイスであるヒビが入ったデスティニーが置いてあった。
「バルディッシュごめんね、今まで迷惑かけて……行ける?」
『いつでもどうぞ。』
私はベッドから起き上がり、バルディッシュとデスティニーを掴む。
「アルフ……道案内をお願い。」
「う、うん!わかった!よくわかんないけど!」
そう言って彼女は大人形態に変身する。それを確認した私は、デスティニーに確認を取る。
「君も……デスティニーも一緒に戦ってくれる?」
『ええ……充電期間は終わりです、これより本気を出させていただきます。』
そしてビー玉のようなデスティニーの本体が完全に砕け、その中から……。

 

大きいアリシアの乗るストライクフリーダムと戦っていたシンは、圧倒的戦力差に圧され窮地に立たされていた。
「うわああああ!!!!!」
『あっははははははは!!!!いい悲鳴ね……!次は左よ!』
インパルスはストライクフリーダムのビームサーベルによって右腕を切り落とされていた。
「くそっ……!こんな事もうやめろよ!!人質まで取って、盗んだMSで戦って……!こんな誇りもクソもない戦いになんの意味があるんだ!!?」
『うるさい!!私はアンタに復讐できればそれでいいのよ!手段なんて選んでいられないわ!』
シンはコックピットに映し出されている大きいアリシアを見て、プレシアの事を思い出す。
(同じだ……あの子の顔、あの時のプレシアさんと同じ顔をしている……!)
そしてシンの心の中にある想いが芽生える。
(このままじゃあの時みたいに……!そんなことさせない……!)
「させるもんかー!!!」
シンはインパルスに腰部に装備されているフォールディングレイザー対装甲ナイフを左手に持たせ、ストライクフリーダムに突っ込ませた。
『ふふ……やけになって特攻?消し炭にしてやる!!!』
対するストライクフリーダムは胸に装備されているカリドゥス複相ビーム砲のビームをインパルスに向けて放つ。
「うるあああああ!!!!!」
インパルスはその攻撃を、パージしたレッグフライヤーを犠牲にすることで凌いだ。
『なっ!?』
そしてそのまま左手に持っていた対装甲ナイフを、ストライクフリーダムの右腕の付け根に突き刺した。
「まだまだぁー!!!!」
インパルスはさらに背中に装備されていたビームサーベルを空いた左手で取り、ストライクフリーダムの首をフォースシルエットのフルブーストの勢いで薙ぎ払った。
『きゃああああああ!!!!?』
「うおおおおおおお!!!!!」
そして二体はそのまま瓦礫が散乱する地面へと落下していった。

 

「ぐ……ううう……!!」
数分後、シンは機器がショートを起こして焦げくさくなっているコックピットで目を覚ました。
「落下のショックで気絶していたのか……あ!!」
シンはその時、カメラに映る半壊したストライクフリーダムに気付く。
「あ、アリシア!!」
飛び出すようにコックピットから降りたシンはそのままストライクフリーダムのコックピットの元へ行き、大きいアリシアを助け出そうとした。
「おい!大丈夫か!……?」
しかし彼がそこで見たものは、ハッチが開かれた誰もいないストライクフリーダムのコックピットだった。
「い、一体どこへ……?」
「こっちよ!」
その時、シンの頭上から露出の高いバリアジャケットに身を包んだアリシアが襲いかかってきた。
「うわっ!!」
シンはそのままアリシアに馬乗りされ、眉間に彼女が右手に装備していた長い爪を突きつけられた。
「形勢逆転ね、ちょっとでも動けば顔に突き刺さるわよ、まあ……動かなくてもじわじわと突き刺してやるんだけどね。」
「くそっ……!」
先ほどの場所から大分離れた場所であるためリニス達の援護は望めない、シンは完全に窮地に立たされていた。
「お……俺は殺されてもいい!でもその代わりちゃんと現実と向き合え!もうこんな事するな!プレシアさんだって……!」
「うるさい!私はもう後には引けないのよ!何度も何度もアンタ達に邪魔されて!今度こそ成功させないとあの人に……!!」
「そうやって……形振り構わずみんなに不幸振りまいて……それじゃ誰も……自分すらも幸せになれないのに……!どうしてそれが解らないんだよぉ……!」
シンの目には自然と涙があふれていた、その涙は刃を向けているアリシアだけでなく、7年前のプレシアを救えなかった自分自身を悔いて出た物だった。
そんなシンの涙を見て、大きいアリシアは冷たく言い放った。
「ばっかみたい、男のくせに泣いたりして……。もういいわ、そんな情けない顔見るぐらいだったらひと思いに突き刺してあげるわ。」
そして大きいアリシアはシンの眉間に刃を突き刺そうとした……。

 

させない!!!!

 

その瞬間、大きいアリシアは何者かに吹き飛ばされ、ガラスやコンクリートの破片が散乱する地面まで吹き飛ばされた。
「うあ!!!?」
その拍子で破片の幾つかが彼女の体に刺さる。
「いったあ……!誰!!?私の邪魔をするのは!!?」
大きいアリシアは怒り心頭といった様子で自分を吹き飛ばした人物を見る、そして……信じられないといった様子で驚いた。

 

「う……?」
シンは何者かに助け出された後、その人物に上半身を抱きあげられていた。
「シン……シン……!」
「うぐ……誰だ……?」
シンはうっすらと目を開いてその人物の顔を見る。
「フェイト……!?フェイトなのか!!?」
そこには真ソニックフォームに身を包んだフェイトがシンに優しく微笑んでいた。
「そうだよ、フェイトだよ、久しぶり……じゃないか。」
シンはすぐさま身を起こすと、フェイトをギュっと抱きしめた。
「きゃ!?し、シン、苦しいよ……。」
「よかった……!もう目を覚まさないかと思ったんだぞ!心配かけさせやがって!」
「ごめんね、もう大丈夫だから……あ!そうだ!右腕!」
フェイトは何かを思い出したかのようにシンの右腕を取った。
「ごめんね、あの時の記憶少しだけあるんだ……痛かったよね、ごめんね、ごめんね……。」
「ああ、これぐらい大丈夫だよ、もうがっちりくっついている。だからもう気にすんなよ。」
「うん……。」
そんな二人の様子を、大きいアリシアは茫然と見ていた。
「な、何アンタ達私を無視してイチャイチャしてんのよ!!?真面目にやれ!!」
そう言って激昂した大きいアリシアは二人に襲いかかろうとしたが……。
「おっと!そうはさせないよ!!」
アルフの魔力シールドによって遮られた。
「この駄犬!邪魔すんな!」
「それはこっちのセリフだよ!二人の七年ぶりの再会に水差すような真似はさせない!」
「アルフ……大丈夫だよ。下がって。」
フェイトはシンとのひと時の再会を満喫した後、アルフの後ろに立って彼女に下がるよう指示を出す。
「フェイト!ここは俺が……!」
「大丈夫だよ、この戦い……私が決着を付けないといけないんだ。」
「……わかった、ここは任せるよ。」
そう言ってアルフはシンを連れてフェイト達から離れていった……。

 

フェイトとアリシアは、静まり返った廃墟の中で、互いに向き合っていた。
「決着を付ける、ね……随分と舐めてくれているじゃない?私に勝てるとでも思っているの?」
「そんなの関係ないよ、私は……アリシアと話がしたかったんだ。」
「話?」
アリシアは取りあえず、フェイトの話を聞くことにした。
「私もアリシアみたいに、自分の信じたものの為に戦っていた事があるの、だからアリシアの気持ち……少しだけわかるよ。」
「はあ?アンタに私の気持ちが解られても嬉しくないのよ。」
アリシアの反論を無視し、フェイトは話を続ける。
「でも……そのせいで私は、自分を大切に思ってくれていた人達を悲しませちゃった、アルフ、なのは、それに……シン。アリシアにもいるでしょう?アナタを大切に思っていてくれる人が……。」
「…………。」
アリシアはしばらく黙りこんだ後、フェイトに冷たく言い放った。
「私の大切な人は父さんと母さんだけよ、これだけは譲れない……だから母さんを死なせたアンタを許すわけにはいかない。偽物扱いまでされているしね。」
フェイトはその言葉を聞いて、落胆したのか悲しそうな顔をする。
「そう……だよね。捨てればいいってわけじゃないし、逃げればいいってわけじゃないもんね。」
フェイトはかつて親友に送られた言葉を復唱しながら、バルディッシュをライオットザンバー・スティンガーに変形させる。
「なら……“なのは流”でやるしかないね、私が勝ったら……もっと話し合おう?母さんとの思い出話でもいい。もし私が負けたら……アリシアの好きにしていい。」
「ふふふ……!拳で語れって奴!!?いいわ!やってやろうじゃない!!」
アリシアは不敵に笑いながら構える、対するフェイトは自分の胸に手を当てて瞳を閉じる。
「私は絶対勝つ……お願い、“デスティニー”。」
『了解しました。』
フェイトの脳裏に種が弾けるイメージが浮かび上がる、そして瞳を開いた瞬間彼女の背中に紅い光の翼が生えてきた。
「なっ……!!?この魔力反応……シン・アスカの!!?」
アリシアはフェイトの瞳に光がない事に気付く。
「私には……こんな私を大切に思ってくれているみんながいる、だから私は戦うんだ、彼に貰ったこの“SEED”で、大切な皆をこれかも守って行くため。だからやろう!最初で最後の本気の姉妹喧嘩を!」
フェイトは新たなる戦闘スタイル、“バルディッシュ・デスティニーフォーム”に身を包みながらライオットザンバー・スティンガーを構えた。

 

先に動いたのはフェイトだった。彼女は背中のデスティニーの翼を大きく羽ばたかせアリシアに接近し二対の剣で切りかかる、対するアリシアは二対の爪でそれを受けた。
「ぐっ……!?早い!?」
『短期決戦で行きましょうバルディッシュ。』
『イエッサー。』
そのままフェイトは一呼吸の間に何度も何度も何度も何度も何度も何度もアリシアに切りつける。しかしそれはすべて捌かれてしまった。
「なめんな!!!」
アリシアはそのままフェイトの胸に向けて蹴りを入れるが防がれてしまい、そのまま高く飛び上がって彼女との距離を取る。
刹那、二人はほぼ同時で息を吸い込み、そのまま互いに交差しながら切りあった。
「はああああああ!!!!!」
「たああああああ!!!!!」
彼女達の光速の戦いはまるで竜巻のように周りの建物を破壊していった。

 

「くっ……!!」
アリシアは一旦フェイトと距離をとって破壊されたビルの6階の壁にへばりつき、地上にいたフェイトに向かって爪を突き刺そうと物凄いスピードで飛び降りた。
「うわっ!!?」
フェイトはそれをバック転でかわす。行き場のなくなったアリシアの装備していた爪は地面に突き刺さった……否、地面をえぐっていた。
「な、なんて威力……!」
「なんて反射神経……!しょうがない、この必殺技は使いたくなかったんだけどね……。」
そう言ってアリシアは地面から爪を抜くと、瞳を閉じて精神統一をする。すると彼女が右手に装備していた長い爪はみるみる短くなっていった。
「ブラッドエンド……“ベアーフォーム”」
そしてアリシアの装備していたデバイスは熊の手のように厳ついものになった。
「らあああああ!!!」
アリシアはそのままフェイトとの距離を詰めて、その熊の手のような武器を彼女に振り降ろした。
「くっ……!」
フェイトは二対のスティンガーでその攻撃を防ぐ、あたりに金属と金属がぶつかったような鈍い音が鳴り響いた。
「シザーズがスピード重視ならこのベアーはパワー重視、私のデバイスは力と速さを兼ね揃えているのよ!!」
アリシアはそのままフェイトのガラ空きだった腹部に右膝を叩きこむ。
「かはっ!!」
その衝撃でフェイトは一瞬怯んでしまう、アリシアはそのスキを逃さず彼女の首をベアーが装備された右手で掴み、彼女を地面に押し倒してそのまま辺りへ走り出して引きずりまわした。
「ぐうううう!!!?」
「さあさあさあ!!!!もがけ!苦しめ!そして……!!」
そしてアリシアはフェイトを空高く投げ、何も装備してなかった左手にシザーズを召喚する。
「血ぃぶちまけろ!!」
アリシアはシザーズで落ちてくるフェイトを突き刺そうと身構える。
「で……デスティニー!!!」
『了解。ミラージュコロイド散布。』
対してフェイトは背中の光の翼を羽ばたかせ、周辺に光の粒子を散布する。そしてそのままアリシアの元に落下し、シザーズの刃に貫かれた。
「……!!?」
しかしアリシアはその手ごたえに違和感を覚えていた。
「幻影!!?」
その瞬間アリシアに貫かれた筈のフェイトの体が消え、その横に地面に着地していた本体が現れた。
『今です!フェイトさん!バルディッシュ!』
「バルディッシュ……!“エクスカリバーフォーム”!!!」
『イエッサー!!!』
フェイトはワイヤーに繋がれている二対のライオットザンバー・スティンガーの柄を連結させ、一本の連結剣……“ライオットザンバー・エクスリカバー”に変形させる。
「ごめんね……!すごく痛いから!!!」
フェイトはアリシアが自分に振り向く前に、ライオットザンバー・エクスリカバーを両手で振り回しながら、自分に向けられた彼女の体を二回、×を描くように薙ぎ払った。
「がっ……!」
フェイトはそのまま左手をアリシアの鎖骨辺りに押し付け、相手に手に集束させた電流を送る魔法……サンダーアームを発動する。
「きゃああああああああ!!!!!!」
「わが手に宿れ運命の雷……!」
電流で動きが取れないアリシアに対し、フェイトは詠唱を唱えながらライオットザンバー・エクスリカバーを天空に放り、空いた右手に魔力を集束させる。そして彼女が装備している右手の籠手が銀色からコバルトブルーに変化する。
「パルマ……!フィオキーナぁぁぁぁ!!!!!!!!」
フェイトは左手と入れ替えるようにその右手をアリシアの体に押し付ける。
一瞬、辺りが静寂に包まれる。そして……。

 

バコォン!!!

 

「あああああああああ!!!!!」
アリシアはそのまま体に電流を纏いながら背後にあった建物まで吹き飛ばされた。
そしてフェイトは落ちてきたライオットザンバー・エクスリカバーをキャッチする。

 

「はあっ!はあっ……!」
戦いはフェイトの勝利だった。彼女は崩れた建物の中にいるアリシアの元に行こうとするが、使い慣れない魔法を使った事や、アリシアから受けたダメージが原因で目眩を起こし、そのまま膝をガクッと折った。
「おっと!」
そんな彼女を、戦いが終わったのを見計らって出てきたシンとアルフが抱きとめた。
「シン……。」
「大丈夫かい!?フェイト!!?」
「凄かったな……まさかフェイトが俺の魔法を使うなんて……。」
「ううん、ちょっとデスティニー借りていたんだ、今返すね。」
するとフェイトの体の中から……30センチ程の赤い髪をした少女が出てきた。
「デスティニー……!!?」
シンはその少女……デスティニーを見て少し驚くが、すぐさま彼女に笑顔を向ける。
「この姿で会うのは二度目ですね、主……。」
「そうか、やっぱりあの時……マユを救ってくれたのはお前だったんだな。」
「申し訳ございません、自動修復に時間がかかってしまいまして……。」
「いや、いいんだ、こうやって帰ってきてくれたんだから。」
シンはそう言って、デスティニーの頭を優しく撫でた。そんな彼の様子を見てアルフが質問してくる。
「シンはデスティニーがユニゾンデバイスだって知っていたのかい?アタシ訳わかんないんだけど……。」
「ああ、二年前のあの日に薄々な、もっとも今の今まで確証は持てなかったんだけど……。」
その時、フェイトはある事に気付いた。
「そ、そうだ!アリシアを確保しないと……!」
「それはもうリニスに任せてある、フェイトはゆっくり休んでいろ。」
「……?う、うん。」
フェイトはそう言って立ち上がろうとするが、足に力が入らず立つことができなかった。
「あ、あれ……?」
「ははは、そういう一人で無理するとこは全然変わってないな。」
「ご、ごめんね、ちょっと手を貸してもらえるかな?」
「ああいいぞ、俺の肩につかま……れ……。」
突然、シンは顔を真っ赤にして自分の肩に掴まっているフェイトの体から視線を逸らした。
「あれ?どうしたのシン?」
「い、いや、なんでもねえ……//////」
そんな彼等の様子を見て、アルフとデスティニーはヒソヒソ話をする。
(あれ?どうしたんだろうねシンは?)
(おそらく予想以上のフェイトさんの発育ぶりは、思春期真っ盛りの主にとって刺激が強かったようです。あんな格好ですしね。)
(ああ、なるほど……。)
そしてフェイトはシンに掴まりながらある事に気付く。
「そう言えばシン、その赤い服はなに?」
「「「はい?」」」

 

「「フェイトちゃーん!!!」」
「テスタロッサー!」
するとそこに、ユーノの肩に掴まったなのはや八神一家にクロノ、その後ろからはスウェン、キラ、ルナ、レイ、アスラン、ハイネ、ネオ、スティング、アウル、ステラがそれぞれ乗るMSが付いて来ていた。
「そうか、結界が解除されたのか。」
「仲間もいないみたいだしね、あの子一人でここに来たのかねえ?」
「えっ……!?みんな!?それに何あのロボット!!?」
フェイトは何故か混乱していた、そんな彼女の元になのは達魔導師組が駆け寄る。
「フェイト無事か!!?」
「よかった~!目を覚ましたんだね~!心配したんだよ~!」
「ホンマやで!!もう起きひんかと思ったで!」
「まったく……まだ貴様との決着がついていないのに、勝手に消えようとするな。」
「へへへー♪素直じゃねえなシグナム♪」
そんな彼女達を見て、フェイトは目を大きく見開かせる。
「なのは!?はやて!?シグナム!?ヴィータ!?もう大丈夫なの!!?」
「?何言っているのフェイトちゃん?」
「いや……だってなのは達もアリシアに攫われて……シャマル達が助けたの?」
「?????」
するとそこに、別の場所に避難していたマユとキャロとフリード、そして小さい方のアリシアがやって来た。
「「フェイトさーん!!」」
「キュクル~!」
「え!!?キャロ!!?なんでここに!!?」
「あの、私フェイトさんが心配で、それでマユさんと一緒に攫われて……。」
「マユ?」
フェイトはキャロの隣にいたマユに視線を向ける。
「は、初めまして!シン・アスカの妹の、マユ・アスカっていいます!兄が大変お世話になって……!」
「まままままマユちゃん!!!!!?ど、どうなってるのコレ!!?あ!初めまして!!!!」
「フェイト……?少し落ち着け。」
その時、リインフォースはマユの背中に隠れてモジモジしている小さいアリシアに気付く。
「あれ?そこで何をしている?出てきて挨拶したらどうだ?」
「う、うん……。」
そして小さいアリシアはフェイトの前に立った。
「あ、あの……初めまし「えええええ!!!?アリシアが縮んでるぅぅぅ!!!!?」はい?」
フェイトはアリシアの姿を見て、見当違いの方向で混乱していた。
「な、なんで!!?私の攻撃に若返り効果があったの!!?」
「もしもーし、フェイトー?」
「な、なんか話が噛み合っていないね……。」

 

そんな彼等の元に、ストライクEから降りてきたスウェンとノワールがやって来た。
「フェイト……お前アイツ等に囚われていた時の事、どこまで憶えている?」
「はい?どちら様?」
「これスウェンやでフェイトちゃん。」
「ええええええ!!?スウェンさん!!!?」
「話の続きいいか……?」
「す、すみません……。」
フェイトはそのまま自分が憶えている事すべてをスウェンに話した。
「じゃあお前……はやて達が洗脳されたところとシンの腕を切り落としたところしか覚えていないのか。」
「は、はい……。」
「じゃあここがコズミックイラだとか、俺達の事とか、時の方舟の事とかも知らないのか。」
「ええぇ!!?ここコズミックイラなんですか!!?」
「お前……何も知らないであのアリシアと戦っていたのか。」

 

一方彼等の背後では、ノワールが地面に降りて真ソニックフォーム姿のフェイトを背後から合掌しながら凝視していた。そんな彼にアギトが話しかける。
「なにしてんだノワール?」
「いやあ、この位置ならフェイトさんの美尻が拝めるッス、激しい戦闘でバリアジャケットがしっかり食い込んでもうありがたやーありがたやー。」
「シグナムー。」
「わかった。」
アギトの指示を受けシグナムはそのままノワールを右足で踏みつけた。
「あふん!なんか目覚めちゃうッス~!」
「どうにかならんかコイツ……。」
そんなノワールの様子を見て、デスティニーはやれやれと溜息をついた。
「やれやれ……相変わらずですねノワール。」
「うえ!!?何この子!?またユニゾンデバイス……!!?」
「……!アナタはあのお花畑の!?」
一同がユニゾンデバイス姿のデスティニーに驚く中、リインⅡは彼女が以前記念碑が立てられた公園で出会った少女と同一人物だということに気付く。
「お久しぶりですリインⅡ、元気にしていましたか?」
「は、はいです!」
「なんだ、リインと知り合いなのかデスティニー?」
「リインが家出したときにちょっとお会いして……デスティニー?」
「こ、これがデスティニーなのか!?」
なのは達はユニゾンデバイスの姿になっているデスティニーを見て驚く。
「君……ユニゾンデバイスだったのか、普通のデバイスじゃないと思っていたが……。」
「ふふふ、ちょっと驚かせてしまいましたね。」

 

そんなシン達の様子を、キラやレイ達はコックピットから見ていた。
(あれが……フェイト・テスタロッサ……。シンの大切な人……。)
『どうやら無事に終わったみたいだね。』
『よかったねご主人様。』
『あいつには大量の始末書が待っているでしょうが、まあまずは良しとしましょう。』
『シン……嬉しそう。』
『まあ坊主君にとっちゃあ特別な子っぽいからな、助け出せて嬉しいんだろ。』
『俺もシャマルさんをお姫様抱っこしてみてー!!』
そしてアスランとハイネが、撃墜されたストライクフリーダムの元へMSを動かす。
『よし、今の内にあのフリーダムを運び出そう。』
『また奪われちゃたまんねえからな。よっし、俺達でやろう。』

 

その頃、フェイトによって吹き飛ばされたアリシアは、バリアジャケットの所々破れている部分から垣間見えるすり傷が痛々しい自分の体を必死に起こしていた。
「くうう……!まだよ……!まだ私は負けていない……!」
「いえ、アナタの負けですよ。」
そんな彼女の元に、リニスがやって来た。
「リニス……!?何よ!母さんの使い魔であるアンタまで私に逆らうの!!?あれだけ可愛がってあげたのに!!」
「私を可愛がってくれたのはアリシアです……アナタではない。」
皮肉な笑みを浮かべているアリシアに、リニスは冷たく言い放った。
「何言ってんのよ!私はアリシア・テスタロッサ!!偽物なんかじゃ……クローンなんかじゃない!」
「……すぐには信じられないでしょう、だから罪を償いながら、ゆっくり話し合いましょう?こんな事になったのは私にも責任があるのですから。」
そう言ってリニスはアリシアに一歩一歩近付いた。
「こ……こないでよ……!こないでよー!!!」
アリシアはリニスに連れていかれると自分のすべてを否定されてしまうと思い、必死に体を這いつくばらせながら彼女から逃げた。その様子は傍から見るととても哀れだった。
「アリシア……。」

 

「無様ですねえ、アリシア様。」
そんな彼女達の前に突如ゲイザーが現れた。
「げ、ゲイザー!」
「時の方舟……!!?」
ゲイザーは這いつくばるアリシアの前に立ち、彼女を見下すように冷たい視線を向けた。
「ちょ、ちょうどよかったわ!!ここから逃げるわよ!手を貸して!」
「了解しました……ですが。」
そう言ってゲイザーはアリシアの頭を思いっきり踏みつけた。
「薄汚い劣化品に差し出す手なんてねえ。」
「うあ……!!」
「やめなさいゲイザー!!デスティニー達の仲間であるアナタが何故こんな事を!!!?」
止めようとするリニスを、ゲイザーは銃を向けて制止する。
「全く……首領の指示とはいえ、お嬢様の劣化コピーである貴様のご機嫌取りは僕にとって屈辱でしたよ、なにも出来ないくせに威張り散らしてさあ!!!!何度八つ裂きにしてやろうと思った事か!!!!」
ゲイザーはそのままアリシアの首を掴み彼女を持ちあげる。
「や、やめて……私は……!」
「お前に名前なんてない!!あるのは“F014”という形式番号だけだ!なんなら……証拠を見せてやろうか!!?」
ゲイザーは指先に魔力を集束させ、それをアリシアの目に当てる。
「うあああ!!!」
「アリシア!!」
アリシアは激痛のあまり目を擦る、すると彼女の目から赤いカラーコンタクトのような物が落ちてきた。
「あ、あああああ!!!?」
アリシアはゲイザーの手から逃れ近くに溜まっていた水たまりを見る、そこには紫色の瞳をした自分の顔が映し出されていた。
「う、嘘……!嘘……!」
「全く……まだ自分の置かれた状況が理解できないのか?理解力まで劣化してんだな。」
「スターゲイザー……!!」
リニスは怒り心頭といった様子で、自分の体を獣の姿に変えていく。だがゲイザーはそんな彼女を無視する。
「そうだ、首領から指示を受けていたんでした。」
「え……?」
ゲイザーは懐から大きめのクリスタルのような物体を出す。
「それは……ジュエルシード!!?貴方一体なにを!!?」
「い、いや……!それで何する気!!?」
「F014、貴女に首領からの最後の言葉を捧げます。“今まで大義であった、最後に一花咲かせてみせよ。”だそうです。」
「何よ……それ……!!!?」
アリシアの表情は絶望の色に染まっていた。
「つまりこう言う事です、“もうお前は用無しだ、最後ぐらい役に立て。”」
そしてゲイザーの持つジュエルシードが怪しく光り……。

 

その頃ストライクフリーダムを回収しようとしていたアスランとハイネは、辺りの雰囲気に妙な違和感を覚える。
『なんだ……!?様子がおかしい!!?』
『フリーダムが!!?』
その時、誰もいない筈のストライクフリーダムが突如動き出した。
『なんだ!?罠か!?』
『まずい……!』
アスランはストライクフリーダムを止めようとセイバーの腕を動かす、しかしセイバーの腕は突如ストライクフリーダムの胸部から出てきた触手に絡め取られ、そのまま捩じ切られてしまった。
『うわああ!!!』
『アスラン!』
そしてストライクフリーダムはそのままアリシア達が居る方角へ飛んで行ってしまった。
その様子を離れた場所で見ていたシン達は慌てふためく。
「ストライクフリーダムが……!!?」
『ルナ!シン達を連れてここから離れろ!』
『解った!乗ってみんな!』
ルナは自分ザクウォーリアの手にシンやフェイトやなのは、小さいアリシアにマユにキャロを乗せてその場から撤退していった。
『スウェンさん!』
「全員警戒しろ、この戦いまだ終わってない!」

 

突如動き出したストライクフリーダムは満身創痍のアリシアの前に着陸した。
「何……!!?何する気よ……!!?」
「やめなさいスターゲイザー!!そんな事しても貴方の望む世界は……!!!」
「僕の望む世界を、滅茶苦茶にしたのはあの汚豚共を野放しにした彼女達の物語だ、お陰で僕は今、とっても不愉快なんだよ……!不愉快で不愉快で!!!もうなにも面白くないんだ!!!!だからさあ……!少しぐらいは気ぃ晴らさせろよぉ!!?」
するとストライクフリーダムのコックピットから触手が伸び、アリシアを捕らえて中に引き摺りこんだ。
「い、いやあああ!!!!!!?」
「アリシア!!!」
「さあさあ!!少しは楽しませてよぉ……!!?今まで不愉快な思いをさせたんだからさぁ!!!!?」

 

『バオオオオオオオオオ!!!!!』

 

するとストライクフリーダムの背中から死神のような骨だけの翼が生え、頭からこの世の物とは思えない牙を生やした化け物の頭が生えてきた。そしてインパルスによって破壊された装甲を、生物的な緑色の皮膚で補修していった。
「いや……!助けて!!お父さん!お母さん!カシェル!」
コックピットの中で触手に囚われたアリシアは身につけていたバリアジャケットを解かされながら、必死にもがき泣き叫んでいた。
(あの人の子供でもない貴女を誰も助けませんよ、劣化品の貴女は投棄されたのですから。)
念話で、ゲイザーの断頭台の刃のように残酷な一言がアリシアに放たれる。
「うっ……うううっ……!!!」
(おやおや、泣いてしまいましたか、ざまあとしか言えねえな。)
そしてそれ以降、ゲイザーからの念話が、アリシアに届くことはなかった。
「私は……一体今まで何をしていたんだろう……こんなこと、望んでなんかいなかったのに……。」
そしてアリシアはそのまま、悲しい現実から逃れるように大粒の涙を流しながら瞳を閉じた。己の身が、このまま滅びるのを願って……。

 

ジュエルフリーダムが引き起こしたおぞましい光景を、はやてやユーノ達は信じられないといった様子で見ていた。
「な、なんやあれ……!!?」
「あの魔力反応……ジュエルシード!!?PT事件で行方不明になった筈なのに!!?」
『名付けて“ジュエルフリーダム”ってとこか。』
『ネオ!呑気に名前付けている場合じゃねえぞ!!』
そしてはやて達魔導師組は一歩下がり、スウェン達MS隊はジュエルフリーダムを取り囲んだ。
「今あの機体の解析を行っています、それまで皆さんは足止めをお願いします!」
『了解だフェレット君、皆聞いたな!!?』
『『『了解!!!』』』
そう言って一同は一斉にジュエルフリーダムに襲いかかる、対してジュエルフリーダムは機体を一回転させ、触れれば起爆する羽をばら撒いた。
『きゃっ!!』
『うおおおお!!!』
それに触れてしまい、スウェン達の機体が爆発に飲まれる。そのスキを突いてジュエルフリーダムは二丁のビームライフルで次々とビームを撃ち込んでいった。
『くそっ!!』
『こいつぁ……!一筋縄ではいかないな……!!』

 

そんな彼等の様子を、地上に着陸していたザクウォーリアの手の上に乗って見ていたシン達は悔しそうに歯噛みしていた。
「くそっ!インパルスが故障しなきゃ俺も……!!」
「インパルス?何それ?シンのデバイス?」
よくわかっていないフェイトに、隣に居たマユとキャロが説明する。
「シンさんの使っているロボット……MSの事ですよ。」
「お兄ちゃんはザフト軍ってとこに入っていて、そこでMSに乗って皆を守っていたんです。」
「そうなんだ……シン、あの時言っていた事を叶えたんだね。」
「うん……まあな。」
その時、ジュエルフリーダムから放たれた流れ弾が、シン達がいるザクウォーリアの横をかする。
『きゃあ!!?』
「大丈夫か!!?ルナ!!?」
『う、うん、なんとか……。』
(ルナ……!!?)
フェイトはその時初めて、ザクウォーリアに乗っているのが女の子だということに気付いた。
「キャロ、このロボットに乗っている人って誰?」
「え?シンさんの同僚のルナマリアさんですよ?」
「同僚……。」
フェイトは何やら複雑な表情でシンの横顔を見ていた。

 

一方のシンは、スウェンやキラ達の戦いを固唾を飲んで見守っていた。
『あたれぇー!!!』
『落ちろぉー!!!』
カオスとアビスの同時砲撃を、ジュエルフリーダムは高い機動性でかわし、そのままカウンターで二丁のビームライフルの引き金を何度も引き、カオスとアビスを破壊する。
『『うわあー!!!』』
『アウル!スティング!』
『てめえ!よくも!』
ジュエルフリーダムは正面から突っ込んでくるグフイグナイデッドを、二丁のビームライフルを連結させたロングライフルのビーム砲で叩き落とした。
『くそっ!後は頼む!』
『ハイネさん!!』
「ザフィーラ!あのMSの動きを止めれへんか!!?」
「やってみます!ぬううううん!!」
はやての指示でザフィーラは鋼の軛を発動し、拘束条をジュエルフリーダムに突き刺す。
「うちらもいくで!クロノ君!」
「ああ!」
そしてはやての頭上とクロノの足もとに魔法陣が展開される。
「彼方に来たれ、宿り木の種、銀月の槍となりて、撃ち貫け!」
「悠久なる凍土、凍てつく棺の内にて、永遠の眠りを与えよ。」
するとはやての頭上の魔法陣に七つの光が召喚される。
「石化の槍、ミストルティン!」
「凍てつけ、エターナルコフィン!」
するとジュエルフリーダムのボディに槍になった七つの光が突き刺さり石化していき、さらに上から氷が纏われていく。
『ひょー!何だあれ!!?』
『今だ!全員一斉攻撃だ!!』
動きが止まったジュエルフリーダムに、ストライクE、エールストライク、レジェンド、セイバー、アカツキ、ガイアは一斉に砲撃を加えていく。
『バオアアアアアアア!!!!!!』
しかしジュエルフリーダムは石化と氷を自力で振り払い、腕に身丈程もある爪を携えてレイのレジェンドに襲いかかった。
『くっ!!?』
『危ない!』
アカツキはレジェンドを守る為二機の間に割って入る。
『バアアアアア!!!!』
そしてそのままコックピットの辺りを爪で薙ぎ払われ、そのまま地上に落下していった。
『そ、そんな……!』
『ネオー!!!』
『落ち着いてステラちゃん、大佐の生命反応はまだ消えていない!』
『くそっ!魔法でもMSでも駄目なのか……!!?』
『大ピンチッスね……!』

 

「クソ……!皆……!」
シンはその光景を見て、悔しそうに歯ぎしりをしていた。
「ん……どうしたんだ二人とも?」
ふとシンは隣にいたフェイトと小さいアリシアの様子がおかしいことに気付く。
『ゴオオオオオオオオ!!!!!』
「あのMS……まるで泣いているみたい。」
「とても悲しんでいる……あれはあのアリシアの泣き声だ……。」
「…………。」
そしてフェイトは、シンに懇願するように話しかける。
「ねえシン、どうにかできないかな……?私、あの子を助けたいよ……!」
「それは……俺だって同じだ。デスティニー。」
シンは自分の肩に乗っていたデスティニーに話しかける
「なんでしょうか?」
「セットアップするぞ、スウェン達を助けに行く。」
「助けに行ってどうするのですか?我々が言っても焼け石に水です。ここは一旦退いて……。」
「そんな事言ってられないだろう……!早く助けないとあの子がどうなるか……!」
「……正直、私はあの女を助けたくはありません、主達にどれだけ酷い事をしてきたか……。」
シンはデスティニーの意見を、首を横に振って否定する。
「俺だって許せないさ、だから……あそこから引き摺り出して頭下げさせる、それならいいだろ?それに……。」
「それに?」
「あんな奴でも……フェイトやアリシアの“妹”なんだよ、これ以上こいつらの肉親を失わせたくないんだ
「し、シン……。」
「……。」
デスティニーはシンの言葉を聞いて嬉しそうに微笑んだ。
「ふふっ、人間的に大きく成長しましたね、主。」
「よし、じゃあ……。」
「ですが、このままではあれには勝てません、こうなったら……。」
そう言ってデスティニーは天空に巨大な魔法陣を展開する。
「え?何する気なのデスティニー!?」
「私は……“本来の姿”を取り戻すことにしましょう。」
「本来の姿……?」

 

同時刻、ミネルバの格納庫では異常事態が発生していた。
「うおおおお!!?なんじゃこりゃあ!!?」
『何!?一体どうしたの!!?』
「そ、それが組み立て中だったX42Sが勝手に動き出し……うわああ!!!」
整備兵達は突如動き出したX42Sに腰を抜かす、そしてX42Sはそのままカタパルトからミネルバの外へ出て、シン達がいる方角へ飛んで行ってしまった。
『な、なにが起きたっていうの……!!?』

 

『何この熱源反応……!?新手!?』
ルナはコックピットの中で、近付いてくるX42Sに焦っていた。
そしてX42Sはシン達がいるザクウォーリアの前に着陸した。
「デスティニー?これは……!?」
「これは……。」
デスティニーはそのままX42Sに近寄り、機体に身を刷りよせた。
「やっと……やっと出会えたね、“私”」
そしてデスティニーは溶け込むようにX42Sの中に入っていった。
『シン!!これどうなっているの!!?』
「お、俺にもよく……。」
するとX42Sの灰色だった機体色は、青と白と赤のカラーリングに染まっていき、背中から赤い粒子を放っている光の翼を展開した。
「シン君!これってデスティニーの……!!?」
「アイツ……。」
その時、X42Sはザクウォーリアの手の上にいるシンに、自分の手を差し出した。
「お兄ちゃん……?」
「……ルナ、フェイト達を連れてここからもっと離れろ。」
『……わかったわ、気を付けてね。』
「シン……。」
シンはルナ達が離脱したのを確認すると、そのままX42Sの手に乗り移りコックピットに移動した。
「…………。」
『主、何も聞かないのですか?』
念話を通じて、シンの頭の中にデスティニーの声が響いてくる。
「今まで黙っていたのは……聞かれたくないからだろう?なら聞かないよ。」
『……ありがとうございます。』
そしてシンの目の前にあるモニターに、とある文字が並んで映し出されていた。
「これは?」
『改めて自己紹介させてください、私の名前は……。』

 

一方スウェン達はジュエルフリーダムと引き続き激戦を繰り広げていた。
「ギガント……シュラーク!!!」
「紫電一閃!」
ヴィータとシグナムは距離を詰めて接近戦を仕掛けるが、ジュエルフリーダムに効いているようには見えなかった。
「だめか……!」
『下がっていろ!!』
そう言ってアスランはセイバーのビームサーベルで切りかかるが……。
『バオオオオオオオオ!!!!!』
ジュエルフリーダムの強力なパンチのカウンターを食らい、地上に落下していった。
『アスラン!』
『くっ!こちらは大丈夫だ!』
『このおー!!!』
憤ったステラはガイアをMA形態からMS形態に変形させ、横からジュエルフリーダムに襲いかかる、しかし……。
『バオアアアアアアア!!!!!』
奇襲に気付かれ、ガイアはジュエルフリーダムにしっかりと組みつかれた。
『くっ!離せ!』
『ステラちゃん!』
するとジュエルフリーダムの体から幾つもの触手が生え、ガイアを取りこむように縛り上げた。
『きゃあああああ!!!?』
『アニキ!まずいッス!』
『早くあの子を助けないと!』
『解っている!』
「うちらもいくで!」
スウェンやはやて達はガイアをジュエルフリーダムから引き剥がそうとビームライフル等で砲撃を加えていく、しかし効いている様子はなく、ガイアはどんどんとジュエルフリーダムに取りこまれていった。
『いや……!ステラ、死ぬの……!?死ぬのイヤ……!』
ステラはコックピットの中で死の恐怖に怯えて泣きじゃくり、そのまま瞳を閉じた。

 

「誰も死なせない……死なせるもんかー!!!!」

 

その時、天空から赤くて太いビーム砲がジュエルフリーダムに襲いかかり、ガイアは解放された。
『い、今のは……!?』
『アニキ!上ッス!』
一同は一斉に空を見上げる、そこには赤い光の翼を羽ばたかせたX42Sが、ビーム砲を抱えて飛翔していた。
「アルフ!あのMSの翼は……!!」
「う、うん!あれはデスティニーのものだよ、でもなんであのMSに……!?」
一同が混乱する中、ノワールとフリーダムだけは理解していたのか、お互いに念話して確認しあう。
(ノワール、あれってデスティニーだね。)
(アイツ……戻したんだな、“G”の肉体に……。)

 

「ステラ、一度撤退しろ。」
『う、うん、わかった。』
そしてガイアを逃がしたX42Sはジュエルフリーダムの目の前に立ち、背中に装備していた長刀……アロンダイトを構えた。
(主、操縦系統はすべてアナタに任せます。)
「わかった、行くぞデスティニー……いや、デスティニー“ガンダム”」
(ああ……その名前をこの体で呼ばれるのを、私はずっと昔から望んでいた……今日は最良の日です。)
『バオオオオオオ!!!!』
(ストライクフリーダム……辛かったでしょう?今私達がアナタを解放します。)
その瞬間、シンの脳裏に種が弾けるイメージが浮かび上がる、“SEED”が発動したのだ。
(行きましょう我が主、“機動戦士”である私の力、今こそ……!)
「ああ……行くぞアリシア!お前の哀しみ、俺が全部薙ぎ払って……いや、俺達が“撃ち抜いて”やる!!すべてを!!」

 

そしてシンは、“蘇り”“立ちあがり”“燃えあがる”その“機動戦士”を駆り、大切なものを守る戦いに若い命を投じた。

 

「シン・アスカ!デスティニーガンダム!行きます!」

 

シンはジュエルフリーダムとの距離を詰め、アロンダイトを思いっきり振り降ろすが、片手でその刃を掴まれてしまう。
『バオオオオオ!』
「目を覚ませアリシア!俺の声が聞こえるか!!?」
シンは戦いながらも必死でコックピットに居る筈のアリシアに呼び掛ける。
『バオアアアアアアアア!!!!!!』
しかしジュエルフリーダムは呼びかけに応じることなく、デスティニーガンダムに蹴りを入れて逃げながらビームライフルやクスィフィアスで遠距離攻撃を仕掛ける。
「くぅっ!!!」
対してシンはビームライフルやビーム砲で応戦しながらジュエルフリーダムの後を追いかける。
MSとMSによる高速移動をしながらの激しい銃撃戦は、廃墟と化した街の建物を次々と破壊していった。

 

『なんてスピードだ……!』
『あれがセカンドシリーズの最新鋭機か……。』
「あの戦い方……まるでデスティニーがMSになったみたいや……。」
「た、たしかに翼や武器が似ているけど……。」
その二機の戦いぶりを見て、キラやはやて達は様々な感想をもらす。

 

「はあああああ!!!!」
シンは時折加速してアロンダイトで切りつけるが、簡単に捌かれてしまう。
「くそっ……!このままじゃあアリシアを殺さなきゃならない……!どうしたら……!」
するとシンのコックピットにスウェンやキラ、レイからの通信が入ってくる。
『シン!援護するぞ!』
「有り難いけどこいつは……!」
『わかっているッス!オイラ達もあの子を助けたいッス!』
『ああ、利用されるままの一生なんて許さない。』
『やろう!シン君!』
『あの子を助けてあげよ~!』
スウェン達の心強い言葉に、シンは顔を綻ばせる。
「わかった……力を貸してくれ、まずはアリシアに呼び掛けないと……!」
『それなら俺に任せろ、シン達はフリーダムの足止めをしていてくれ。』
「……わかった、行こう二人とも。」
そう言ってシン達はジュエルフリーダムの元に向かって行った。
そしてレイはコックピットの中で瞑想し、アリシアの意識を探す。
(この冷たい感じ……泣いているのかあいつは。)
レイは数秒でアリシアの意識を探り当てる。
『シン、アリシアの意識は探り当てたが……こちらからのアクセスは不可能だ。だが彼女の位置は特定したぞ。』
レイは見つけ出したアリシアの位置のデータをシンに送る。
「ありがとうレイ!皆!援護を頼む!」
シンはそう言ってデスティニーガンダムはそのまま天高く舞い上がった。
『ゴオオオオオオ!!!!』
ジュエルフリーダムはデスティニーガンダムを追いかけようとするが……。
『させない!』
『余所見は命取りだ!』
「うちらを忘れんなや!」
「体格差なんてなんのそのです!」
スウェンやはやて達の攻撃に邪魔されて地上に縛り付けられていた。

 

(主、全武装のフルチャージが完了しました。)
「わかった、盛大にやろう。」
そしてシンはデスティニーガンダムの光の翼を大きく展開する。
「デスティニーならこういう戦い方もできる!」
デスティニーガンダムはジュエルフリーダムに向けてビームライフルから何発もビームを発射し、左腰に装備していたビーム砲から薙ぎ払うように太めの赤いビームを放った。
『グオオオオオオオ!!!』
デスティニーガンダムから放たれたビームの嵐を受け、ジュエルフリーダムは悲鳴にも似た雄たけびを上げる。
「次はこいつを食らえ!」
次にデスティニーガンダムはアロンダイトを天高く掲げた。
「密かにフェイトの真似して編み出した魔法……今こそ使う時だ。」
その時、アロンダイトの刀身に金色の電流が纏われていく。
「はあ!!」
デスティニーガンダムはそれをバットのように振り回し、突風を発生させジュエルフリーダムの動きを完全に止めた。
それを確認したシンは再びアロンダイトの剣先を天高く掲げる、すると天空から雷が剣先に落下し、アロンダイトは何倍にも何倍にも伸びていった。
「撃ち抜け雷神!!!」
(ジェットザンバー!!!)
シンは何倍にも伸びたアロンダイトを、地上にいたジュエルフリーダムに振り降ろした。
『ゴオオオオオオ!!!!』
ジュエルフリーダムはアリシアがいる位置をぎりぎりかすめる所を一閃される。
「これで最後だぁぁぁ!!!」
デスティニーガンダムはそのままジュエルフリーダムの目の前に降り立ち、右手にエネルギーを集束させ、それを相手のボディに押し当てる。
「吹き飛べえええ!!!!」
その瞬間、ジュエルフリーダムは機体のあちこちから大爆発を起こして動かなくなってしまった。
(見事でした主、今の攻撃に名前を付けるのなら“フルウェポンコンビネーション”……いや、“ジェットザンバーコンビネーション”といったところでしょうか?)
「そんなことよりアリシアを!」
シンは慌ててデスティニーガンダムのコックピットから降りる、そして彼はジュエルフリーダムが砂のように崩れていく様子を目撃する。

 

「アリシア!」
シンは崩れていくジュエルフリーダムに飛び移り、アリシアが居るコクピットのハッチをこじ開ける。
「アリ……!」
「あんた……は……?」
シンはそこで、幾万もの触手に絡め取られた裸のアリシアの姿を目撃する。
「アリシア!今助けてやる!」
「来ないで……!」
「アリシア……!!?」
アリシアは助けようとしたシンを拒む。
「もういいよ……このまま死なせて……もう私何がなんだかわからないよ……。」
「お前……。」
アリシアは涙を流しながらシンに訴えかける。
「私はアリシアじゃなくて……あの人やみんなに嫌われて……利用されて沢山の人を傷つけて……もういやだよ、こんな嫌な思いするなら死んじゃいたい……。」
「バカ野郎!!それは逃げだ……!そんなの絶対許さないからな!」
シンは怒りで声を荒げながらアリシアに捲きついている触手を取り払い、彼女をコックピットから引き抜こうと両腕を掴み引っ張る。
「くっそー!抜けない!」
そうしている間にもジュエルフリーダムは崩れていき、このままでは二人とも生き埋めになる危険性を孕んでいた。
「も、もういいわよ……私はこの場で死ぬべきだけど、このままじゃアンタまで死んじゃうのよ!?」
「それがどうした!!俺はなぁ……俺はなぁ……!」
シンの脳裏には、あの時の庭園でのプレシアの最後が浮かび上がっていた。
「自分の犯した罪を……自分の命で償おうとする奴が一番大っきらいなんだよ!!謝るぐらい……!俺に任せないで自分の口で言えってんだ!!!」
シンはアリシアをかつてのプレシアに重ね合わせていた、そしてプレシアに言えなかった事をアリシアに言い放ったのだ。しかしそれでも、アリシアの体が抜ける事はなかった。
「くっそー!もうちょっと人手があれば……!」
「「「シン!!」」」
その時、シンの背後から三つの影が現れた。
「え……フェイト!?クロノ!?ユーノ!?」
突如コックピットに入って来たフェイトとクロノとユーノはアリシアの体をがっちりと持つ。
「行くぞ!せーので引き抜くんだ!」
「わかった!!」
そしてシンとフェイトとクロノとユーノは見事アリシアをコックピットから引っ張り出した。
「よし!脱出するぞ!」
「シン、捕まって!」
「わかった!」
そして四人は崩れていくジュエルフリーダムから脱出し、その後には媒体を失ったジュエルシードが浮かんでいた。
「ユーノ、封印を!」
「わかった!」
ユーノは浮かんでいたジュエルシードを封印した。
「まったく……無茶するところは7年前と変わっていないな。」
クロノは気絶しているアリシアを抱き抱えながら、やれやれと言った様子で溜息をつく。
「でも……フェイトはともかくお前等が来るなんて予想外だったぞ。」
「何も君だけがあの日の事を後悔していたわけじゃないさ、僕達もあの時あの場にいたからね……。」
「あの時僕がプレシアを止めていればこんなことにはならなかったんだ、すまない……。」
そう言ってクロノはシンとフェイト、そしてアリシアに頭を下げた。
「お兄ちゃん……。」
「そっか……お前等もずっと悩んでいたんだな。」
と、そこに、はやてやスウェン達、それにザクウォーリアに乗ったマユ達がやって来た。
「シーン!!」
『大丈夫かー!?』

 

「みんな……。」
「とりあえず終わったね、シン。」
フェイトは自分に掴まっているシンの安心しきった横顔を見る。
するとシンとフェイトの後ろにデスティニーガンダムが現れ、彼等を自分の手に乗せる。
(お疲れでしょうから、わたくしがお送りします。)
「ありがとうデスティニー……取りあえず基地に帰ろう、フェイトに話してあげたい事、沢山あるんだ。」
「うん……私もだよ。」

 

そして一同は捕らえたアリシアを連れて、基地へと帰還していった……。

 

おまけ

戦闘後、アークエンジェルのクルーは地上に降りて撃墜されたパイロット達の救助に当たっていた。
「マリュー艦長!撃墜されたパイロット達の救助、完了しました!」
「そう……怪我人は?」
「全員たいした怪我は負っておりません、しかしネオ大佐が顔に怪我を……それで……その……。」
医療班の歯切れの悪い報告を受けて、マリューは首を傾げる。
「と、とにかく病室に来てください!話はそれからです!」
そしてマリューは医療班に連れられてネオが収容されている病室にやって来た。
「その……敵に攻撃された際、大佐は顔に怪我を……幸いあの仮面で傷は深くなかったのですが……。」
「…………!!!!!!」
マリューはベッドの上で横たわっている素顔のネオを見て、目を大きく見開いていた。
「ど、どうして……どうして貴方が……!!?」
ネオはかつてマリューが心通わせた最愛の人と同じ顔をしていた。
「どうして貴方がネオなの!!?“ムウ”!!!」