魔動戦記ガンダムRF_20話

Last-modified: 2011-08-13 (土) 23:05:34

ストライクフリーダムとの死闘から数日後、オーブ軍基地のMS格納庫でキラとラクスとフリーダムとミーティアは全壊したストライクフリーダムの前でマードックから説明を受けていた。
「正直……ストライクフリーダムはもう使い物にならねえな、所々砂になってやがる。」
「そう……ですか。」
キラとラクスはとても悲しそうな顔で、原型を留めていないストライクフリーダムを見上げる。
「まあ……残念な結果になったが、おまえさん達が無事だっただけでもよかったんだ、まずはよしとしようや。」
「そうだよ~!MSは代わりがあるけど、ご主人さまに代わりはないんだよ?」
「だから元気だして!」
マードック達の慰めに、キラは少し力なく頷いた。
「そう……ですね、このストライクフリーダムの分も、僕がしっかりしなきゃですね……。」
「キラ……。」
するとそんな彼らのもとに、書類をもったエリカがやってきた。
「キラ君、ちょっといい?」
「シモンズ主任?一体どうしたんですか?それにその書類は……?」
キラはエリカの持っていた設計図らしき書類に、フリーダムらしきMSが描かれている事に気付いた。
「実はね……ダコスタさんが念のためにってファクトリーからストライクフリーダムのパーツを運んできていたらしいのよ、そこでね……このパーツを使って修理中のフリーダムを強化しようと思っているの。」
技術者としての血が騒ぐのか、エリカは瞳をキラキラさせながらキラ達にその書類を見せる。
「なるほど……胴体部分にストライクフリーダムのカリドゥス複相ビーム砲をつけるんですか、腕にはソリドゥス・フルゴールを……ビームライフルもストライクフリーダムのものなんですね。」
「さすがに出力の関係でドラグーンは付けられないけど……まあフリーダムとストライクフリーダムの中間の能力を持っている感じね。」
「うわ~!でも強そうだよ!」
「これならあのインフィニットジャスティスにも勝てそう!」
その設計図を見たユニゾンデバイスの方のフリーダムとミーティアは嬉しそうな声をあげる。
「よかったですわね、キラ。」
「うん……じゃあシモンズさん、このプランでお願いできますか?」
「ええ、任せて頂戴、ストライクフリーダムの犠牲……無駄にはしないわ。」
そんな意気揚揚としている一同を横目で見ながら、ユニゾンデバイスのフリーダムは全壊したストライクフリーダムに手を合わせ祈りを捧げていた。
「?なにしているの?」
そんな彼の様子に気付いたミーティアが話しかけてくる。
「うん……彼の魂が安らかに眠れますようにって願っていたんだ。」
「そっか……同じ名前だもんね、私もやるよ。」
ミーティアはそう言ってフリーダムのマネをして祈りのポーズを取る。
「ありがとう、みーちゃん……。」
フリーダムはミーティアに感謝の言葉を述べ、そのままストライクフリーダムへ向き合った。
(ゆっくりお休み、ストライクフリーダム……君の思いは僕達が引き継ぐから……。)

 

一方ミネルバの食堂では……シンが疲れ切った様子でテーブルに顔面をべったりとくっ付けて椅子に座っていた。
「あ゛ー……やっと報告書がまとまった……。」
「お疲れ様です、主。」
そんな彼に、デバイスからユニゾンデバイスと化したデスティニーは30センチしかない体をフルに使ってお茶を出す。
「おお、さんきゅーデスティニー。」
「しかし……あんな小さなビー玉からリインのような人間が出てくるとは……。」
「ていうかユニゾンだっけ?それであのMSを動かすなんて一体この子何者よ?」
同席していたレイとルナはそんなデスティニーを好奇の目で見ていた。
「私はノワールと同じGユニゾンデバイス、それ以上は禁則事項です。」
「禁則事項って……。」
「あんまり詮索はしないことにしているんだ、だから二人も大目に見てくれよ。」
「まあ、アンタがそう言うなら別にいいんだけど……。」

 

「お!ここにいたかシン!」
そんな彼らのもとに、ハイネが陽気な様子でやって来た。
「あれ?ハイネさん……俺になんか用ですか?」
「おいおい、俺の事はハイネでいいって言っているだろ?俺がフェイスだからって気にすんな。」
「あはは……わかりました。」
ハイネの誰にでも分け隔たりない大らかな態度に、シンは面食らいながらもハイネに親しみやすさを感じていた。
「それで……ハイネ、俺に用っていうのは……?」
するとその用というのが真面目なものなのか、ハイネの眼光が少し鋭いものになる。
「時の方舟の……アリシアって子の事だ、あの子は当分、俺達で尋問、監視することになった。」
「……そうか。」
前の戦いで捕縛された時の方舟のアリシアは現在、オーブ軍基地にある独房に収容され、管理局とオーブ軍両方に監視、尋問を受けていた。
「一応……大人しくはしているんだが、出された食事に全く手を付けていなくてな……おまけに質問にも全く答えないんだ。俺も様子を見て来たんだがまるで死んでいるみたいだったぜ。」
「アリシア……。」
「…………。」
ハイネの話を聞いて、シンとレイは神妙な面持ちであれこれ思案していた。そんな時、ルナがハイネにある質問をする。
「彼女は……これからどうなるんですか?」
「うーん……一応彼女には聞きたいことが沢山あるしな……ただ何も答えないなら、答えるまでしかるべき処置をとらなきゃいけない。」
「………!!」
シンはハイネの見解を聞いて、時の方舟のアリシアがこれから歩むかもしれない身の毛も弥立つような恐ろしい未来を想像し、全身から血が引いていくような気分に襲われた、その時……。
「そんなの……そんなの絶対だめ!!」
たまたまリニスと一緒に通りかかった本物のアリシアが、ハイネの話を耳にし彼に掴み掛ってきた。
「アリシア……!」
「あの子は……あの子は利用されていたんだよ!確かにあの子のした事は許されないけど……だからってそんなこと私がさせない!もしあの子に変なことしたら私は……!」
「落ち着け!」
「落ち着いてください!」
シンとリニスは取り乱すアリシアをハイネから引き剥がす。
「シン……。」
「彼女の事情は俺達も十分理解している、できる限り手を尽くすから安心してくれ!」
「そうだぜ?フェイスを……ザフトを見くびるなよ?」
シンとハイネの言葉を聞いて、アリシアは冷静さを取り戻した。
「ご、ごめん、とりみだしちゃって……。」
「いいさ、俺達だってそんなことしたくない、彼女が俺達に協力してくれれば情状酌量の余地だってあるしな、後は彼女の意思次第だ。」
「うん……。」
(アリシア……。)
レイはシン達のやり取りを見て、時の方舟のアリシアの様子が気になっていた。
「一度様子を見に行ってみるか……。」

 

その頃、アリシアが収容されている独房の前には……アスランとカガリ、そしてクロノがなにやら話し合っていた。
「うーん……これで三日目だぞ。」
アスランは全く手が付けられないで冷めきってしまった食事を見て深く溜息をつく。
「こちらからの問いかけに全く反応しない、これじゃまるで物言わぬ人形だな……。」
「折角ユウナ達の事を聞き出そうと思っていたのに……まあ、無理に聞き出す必要はないか。」
「甘いですね……アナタ達は。」
クロノは敵であった者の身を心配しているカガリに呆れと尊敬の眼差しを向けていた。対してカガリはクロノの目をしっかりと見据えて言い放った。
「殺されたから殺して……殺したから殺されて……それで最後に本当に平和になるのか?そうではないだろう、少なくとも彼女達は兵達の命を奪ってはいないんだ、それだけが唯一の救いだろう。」
「もう誰にも……かつての俺とキラのような想いはしてほしくはないんだ……。」
アスランはかつて前の大戦でキラと本気の殺し合いをしたことを思い出し、少し表情に陰りを表す。
「…………。」
クロノはアスラン達の心情を察知しながら、独房の中に居るアリシアに視線を向けた。
(別人とはいえ……フェイトと同じ顔をした少女があのようになるのは心が痛むな……。)
一方独房の中の時の方舟のアリシアは、前髪を幽霊のように垂らして、部屋の片隅で体育座りで俯いていた。
「……………。」
その姿はまるで幽霊のようで、今にもこの世から消えてしまいそうな雰囲気だった。
(なんとかできないものかな……。)
クロノもまた、自分の義妹を始めとした仲間達を苦しめた敵の身を案じていた。そしてそんな自分に気付いたクロノは。
(僕も甘いな……。)
自嘲めいた笑みを浮かべていた。

 

その頃アースラの食堂では、検査入院を終えて帰って来たフェイトをなのは達魔導師組が出迎えていた。
「フェイトちゃん!退院おめでとう!」
「ほんまよかったー!」
「くるしいよなのは、はやて……。」
なのはとはやてに抱擁されたフェイトは顔を真っ赤にしていた。
「だが驚いたぞ……意識のなかったお前が突如目覚め、デスティニーとユニゾンしてあんな戦い方をするとは……。」
シグナムは前回のフェイトの戦いを振り返って素直に関心していた。
「デスティニーが私の夢の中に出てきて……背中を押してくれたんです、お陰で私はシンを助ける事が出来て、あのアリシアも……。」
「ふむ……デスティニーが私とリインと同じユニゾンデバイスだったとは。」
「そう言えば以前の姿の彼女……ノワールの最初の頃の姿と似ていたわね。」
フェイトの話を聞いて、リインフォースとシャマルは独自の見解を示す。それを聞いてその場にいたシャーリーはある考えに至る。
「ノワールとデスティニーとフリーダムは自分で“Gユニゾンデバイス”と名乗ったんですよね?もしかしたらノワールとフリーダムもMSとユニゾンできるのかも……。」
「ミネルバ側の話では元々あのMSもデスティニーというコードネームだったらしい、一体何者なんだ?彼等は……?」
「不思議な人だなーって思っていましたが、そんなにすごいとは……!」
シグナムとリインⅡも頭を使ってあれこれ思考を巡らせる。その時、ユーノが何かを思い出したのか俯かせていた頭を上げた。
「…………もしかしたら彼女達は“遺失学”の技術で作られたデバイスなのかもしれない。」
「ユーノ君?遺失学って?」
なのはは聞いた事のない単語に頭を横に傾けた。
「うん、前に無限書庫で見つけた古代ベルカ戦争の事が記載された本で見たことがあるんだけど……古代ベルカ戦争がなんで終結したか知っている?」
「えっと……たしかなんらかの質量兵器が発動して、ベルカの地が消滅したからだっけ?」
「うん、その本にはそのなんらかの質量兵器の容姿が、“巨大な機械仕掛け白い悪魔”のようだったと記されていたんだ。」
「白い……悪魔……!?」
なのは達はシンが使っているインパルスやデスティニー、キラの使っているストライクやフリーダムをまず連想した。
「その白い悪魔は、“光を帯びた翼”を羽ばたかせてベルカを一晩で葬ってしまったらしい……そして彼等の残したごく僅かなロストロギアがあまりにも危険かつ、下手をしたらアルハザードの技術よりも上を行く技術を持っていた為、当時は“黒き記憶の遺産”と呼ばれていたんだ。」
「そんなものを作り出すとは……その白い悪魔を作りだした世界は余程戦争に明け暮れていたらしいな。その後のミッドが質量兵器を放棄したのは、その悪魔を生み出してしまうかもしれないという恐れもあったのだろうか?」
ユーノの話を聞いてシグナムは半ば関心したようにうんうんと頷いた。

 

「ベルカにそんな事があったかもしれないなんて……全く知らなかったぜ。」
「これはもしかしたらだが……デスティニー達はその“白い悪魔”と深い関わりがあるんじゃないかと僕は思うんだ。」
「どういうことだ?」
ザフィーラ達の質問に、ユーノはまるで歴史的大発見をして興奮している自分を抑えるように真剣な表情で答えた。
「みんな……よく思い出して欲しい、闇の書事件の際、消滅しそうになっていたリインフォースを、デスティニーはヴィアという人が残したデータを解析して彼女の姿を維持させた、その後リインフォースは暴走する様子もなく日常生活を問題なく送っている、つまり彼女等は……。」
「もしかしたら彼女等は夜天の書の本来の姿を知っていたというのか……!!?」
ユーノが答える前に、リインフォースが何かに気付いて驚いたように答えた。
「もしそうなら色々と辻褄が合う、ベルカを滅ぼした白い悪魔と、それに似た兵器MSにユニゾンできるデスティニー……彼女はもしかしたら古代ベルカの時代の住人かもしれない。」
(Gユニゾンデバイス……ガンダム……。)
フェイトはデスティニーが名乗っていたガンダムという名に少し引っ掛かっていた。
(その白い悪魔もガンダムなのかな?ガンダムって一体……?)

 

「とりあえずミッドチルダに戻ったらもっとよく調べてみるよ、もしかしたら長年疑問に思っていた事が解決するかもしれない。」
「そっか、がんばってねユーノ君。」
「よ~っし!それじゃあ!」
ユーノの話が終わったとたん、はやてはフェイトの手を取る。
「え?何はやて?」
「いやあ、フェイトちゃんここの事あんまり知らんやろ?ならウチらが案内したる!」
「それいいね!私も行くよ!」
「へ?ちょ?へええええ!!?」
そしてフェイトは半ば強制的になのはとはやてに連れ去られてしまった。そんな彼女達をシグナム達はやれやれといった感じで見守っていた。
「ふふ、出会って7年たってもあの三人は変わらないわね。」
「主達なりにテスタロッサに気を使っているのだろう、二人のアリシアの事もある。」
「あー!リインも行くですー!まってくださーい!」
「あたしも行くー!」
そう言ってアルフ(こいぬフォーム)とリインⅡもなのは達を追いかけてピュンと飛んで行ってしまった。

 

その頃、アークエンジェルの医務室では、前の戦闘で負傷して休養を取っていたネオの元に、スティングとアウルとステラがお見舞いに来ていた。
「ネオ……たいした事なくてよかった……。」
「しっかしネオの素顔なんて初めて見たぜ、やっぱりその顔の傷を隠すために被っていたのか?」
スティングは仮面を取ったネオの顔にある大きな傷に興味を持つ。
「まあそんなところだ、昔戦闘で付けた傷でな……みっともないからな。」
「そっかー?俺はカッコイイと思うぜ、そのまま素顔でいた方がいいんじゃねえの?」
「ははは、嬉しい事言ってくれるねえ。」
そんな和気藹々としている医務室の外では、マリューが扉を少し開けて中の様子を窺っていた。
「…………。」
「何をしているのですか?ラミアス艦長?」
「きゃ!?」
その時、たまたまそこを通ったキラとラクスとフリーダムとミーティアがマリューに声を掛ける。
「ら、ラクスさん、脅かさないでよ……。」
「す、すみません。」
「でもマリューさん、こんなところで何を……あ。」
キラはマリューの覗いていた部屋がネオのいる医務室という事に気付き、少し気まずそうに話しかける。
「ネオさんは……やっぱりムウさんなんでしょうか?」
「それは……解らないわ、アリューゼ大佐も知らないみたいだったし……アリシアさん達の事もあるから……。」
マリューは医務室にいるネオが、自分を守って死んでいった愛しい人と瓜二つであるが故に心が揺らいでいた、しかし当のネオは自分達の事は全く覚えておらず、彼女はどうしたらいいのか解らないでいた。
「これから……どうするんですか?」
「今は非常時だし……この件は保留にしましょう、その方が彼の……みんなの為だから……。」
そしてマリューはしょんぼりした様子で、医務室には入らずその場を去っていった。その彼女の寂しそうな後ろ姿を、フリーダムとミーティアは心配そうに見つめていた。
「マリューさん……悲しそうだったね。」
「ムウさんとは仲良しだったからね……。」
「「…………。」」
キラとラクスはネオがいる医務室をジッと見つめていた。
「キラ、彼はフラガ少佐なのでしょうか?」
「どうなんだろうね……とにかくこのままにしちゃいけないのは確かだよ。」

 

それから数十分後、なのは達はフェイトをオーブ軍基地の中へ案内しながら、これまでの事を簡潔に彼女に説明していた。
「じゃあなのは達は……スウェンやキラさんって人達が協力してくれたおかげで解放されたんだね。」
「そうなんですよー!MSで戦う皆さん、とってもカッコよかったですー!もちろんシンさんのインパルスもすごかったです!」
「そうなんだ……。」
そして彼女達はオーブ軍基地のMS格納庫にやって来た。
「ここがMS格納庫だよフェイトちゃん。」
「うわー、似たような顔のロボットが沢山あるね、あの青いのは何?」
「んー……確かカオスだっけ?」
「もーなのはちゃん!ストライクやで!」
「え?ガイアじゃなかったですか?」
「なに言ってんだい、ガイアはアタシみたいに狼に変身できるやつだろう?あれは飛行機になるからセイバーだよ!」
「見事にバラバラだけど……。」
バラバラの意見に困惑するフェイト、するとその青いMSのコックピットからなのは達に気付いたアウルが出てきた。
「こいつの名前はア・ビ・ス・だ!間違えるんじゃねえ!!」
「あ、アウル君だー。」
そう言ってなのは達は降りてきたアウルの元に近づく。
「なのは?この人は?」
「シン君の友達のアウル君だよ、連合軍の人なんだって。」
「おおおおい!!何勝手な事いってんだよ!?」
アウルは顔を真っ赤にしてなのはの“シンの友達”という言葉を否定する。そんな彼にフェイトは頭をペコリと下げた。
「は、初めまして、フェイト・T・ハラオウンって言います!その節はどうもお世話に……。」
「ん?ああ、お前がシンの奴が言っていたフェイトか、アイツからよく話しは聞いているよ。」
「アウルー?何してるのー?」
するとそこに格納庫で機体の整備を行っていたステラがやって来た。
「おうステラ、シンが言っていたフェイトって子に挨拶されていて……。」
「フェイト?」
ステラはそう言ってフェイトの顔をじーっと見つめた。
「あ、あの?」
フェイトはそんなステラの様子に困惑する。そしてステラはニコッと笑うと、フェイトに自分の名前を名乗った。
「私、ステラ・ルーシェ、よろしくね。」
「は、はあ……こちらこそ。」
「ステラちゃんは相変わらず不思議ちゃんやなー。」
「ところでシンさん達はどこ行ったですか?」
「シン?ああ、新型のテスト運転とかで外で模擬戦してるぞ。」

 

そして一同は基地の外に出た、そして海上でデスティニーガンダム、レジェンド、インパルス、グフイグナイデッドが模擬戦をしているところを目撃する。
「はやー!すごいです!赤い羽根がきれいです!」
「あれにシンが乗っているんだね……。」
フェイトは空中で華麗な飛翔を見せているデスティニーを見て関心したようにため息をつく。
(シン……あの時語っていた夢を叶えたんだね。)
ふと、フェイトの脳裏に幼き日のシンの言葉が鮮明に蘇える。
“そうだな~、まだ漠然とだけど……皆を守れる男になりたいな、軍人とかいいかも”
(懐かしいな……あれ……!?)
フェイトはそのとき、いつも自分の胸に掛けていたあるものがないことに気付き、全身から血が引いていくような気持ちに囚われる。
(ど、どうしよう……!もしかして捕まっていたときに……!)
「?どうしたのフェイトちゃん?」
なのははそんな様子のフェイトに気付き、心配になって声を掛ける。
「う、ううん!なんでもないよ!ちょっと寒気がしただけ!」
「そっか、最近寒いもんなあ。」
フェイトは皆を心配させまいと慌てて誤魔化す、そんなフェイトの心情を知ってか知らずかはやては呑気に笑い飛ばした。

 

するとそんな彼女達の元に、インパルスが模擬戦を一足早く終えて戻ってきた。
「あ、ルナちゃんが戻ってきたー。」
(げっ!!?)
するとアルフはインパルスを見てある事を思い出して目を見開く。するとインパルスのコックピットからルナが降りてきた。
「あれ?アルフ達じゃない?こんな所でなに……を……。」
ふと、ルナはフェイトの姿を見て顔を微妙に引きつらせる。
「その声……あの時の赤い一つ目のロボットの……。」
一方のフェイトはルナが先日の戦闘でシンと仲がよさそうだったザクウォーリアのパイロットだということに感づき、ジッと彼女を見つめた。
「あ、あれ?何この空気……?」
「なんだか重苦しいです~……。」
「み、みんな、ちょっといいかい?」
そう言ってアルフはなのは達をフェイトやアウル達から少し離れた場所に連れて行き、ルナがシンに好意を寄せているということを教えた。
「「「えええ~!!!?」」」
「しー!声が大きい!」
衝撃の事実を聞かされ、なのはとはやてとリインⅡは目が飛び出しそうなくらい驚いた。
「ど、どないするんそれ!!?ルナちゃんがシン君の事好きやなんて……。」
「うわーん!なんでもっと早く言わないの!!?」
「ご、ごめん、アタシもどうしたらいいか判らなくって……。」
「ふえ~!このままじゃあのお二人、シンさんを巡って喧嘩しちゃうかもです~!」
「いや!下手したら刃傷沙汰になるかも……。」

 

「あいつらなに興奮しているんだ?」
「…………。」
衝撃の事実を知り困惑しているなのは達を見て、アウルが首を傾げる一方、ステラはフェイトとルナを見ながら何か考え事をしていた。

 

一方フェイトとルナは、お互い空中でレジェンド等と模擬戦を繰り返しているデスティニーをジッと見つめながら、相手に掛ける言葉を捜していた。
(この人……シンの同僚なのかな?随分仲が良さそうだったけど……。)
(この子がフェイト……アルフが言っていたシンの思い出の女の子……。)
辺りに上空からのMSの爆音しか聞こえない重苦しい沈黙が流れる。しかしその沈黙を破る人間が現れた。
「シン、強そうなMSに乗ってる……。」
「ステラ?」
そう言ってステラはフェイトとルナの間に立って上空のデスティニーを一緒に見つめた。
「そうね……あんなトンでもなく強いMS、アイツにしか使えないわ。」
「シンはみんなを守る為なら、どんなに辛くても頑張る人ですしね……。」
ステラの言葉に、フェイトとルナは思わずシンを褒めるような言葉で返した。
「うん、ステラそんなかっこいいシンが大好き。」
「うん……はい?」
「え?ちょ……!!」
「「えええええええええ!!!!!!?」」
ステラがサラッと言った爆弾発言に、フェイトとルナは思わず心臓が口から飛び出しそうになるぐらい驚いた。
「すすす好きってステラ!!?ステラ“も”アイツの事好きなの!?」
「ステラ、シンにいっぱい助けてもらった。だからステラ、シン好き。」
「だ、ダメ!それはダメ!」
フェイトとルナは必死になってシンへの好意を口にしたステラを問い詰める。ステラはそんな二人を見て不思議そうに首を傾げた。
「どうしてそんなに慌てているの?ルナとフェイトもシンの事好きなの?」
「「はいいいいいいい!!!!!?」」
ステラの指摘に、フェイトとルナは色々と限界を迎えて顔をトマトのように真っ赤にしていた。
「そそそそそそんなわけないでしょ!!?なんであんなシスコンの事を私が好きにならなきゃいけないのよ!!?まあ、たまにかっこいい所もあるけど……。//////」
「そそそそそそうだよ!!シンなんてニブチンで人の気持ちも知らない能天気さんなんだから!でも……たまにドキッとさせられるけど……。//////」

慌てふためくフェイトとルナ、そんな二人をなのは達はニヤニヤと見守っていた。
「二人とも“そ”が多すぎなの。」
「いやあ、初々しくてええなあ。」
「はやてちゃんオヤジみたいですー。」
「負けるなフェイト……!ああでもルナもステラも良い子だし……!アタシはどうしたらいいんだい!!?」

 

そんな二人の様子を見てステラはにっこりと笑う。
「二人とも、シンの事嫌い?」
「「そうは言ってないわ!(よ)!」」
「あれ?」
「え?」
台詞が思わずハモッたフェイトとルナはお互いの顔を見合わせる。
「ステラはシン好き……だからみんな仲良しでうれしい。」
そう言ってステラは微笑みながらフェイト達の下から去っていった。
「なんだったのかな?あの子……?」
「ステラってちょっと不思議な雰囲気がある子だから……。」
再び二人きりになり、フェイトとルナの間に沈黙が流れる、そして数分後、ルナがその沈黙を打ち破った。
「ねえ……フェイトさん。」
「あの、フェイトでいいですよルナマリアさん。」
「あ、私もルナでいいわよ、じゃあフェイト、よかったらさ……今度シンの小さい頃の事、教えてくれない?」
「え?」
ルナの思いもよらない提案に、フェイトは首を傾げる。
「私さ……知りたいんだ、あいつが貴女と、どんな思い出を作ってきたのか……もちろんタダとは言わないわ、その代わり私は、今日までの二年間の事を話してあげる。
「…………。」
フェイトはなんとなくだが、先ほどのステラのやり取りも照らし合わせて彼女のシンに対する気持ちに気付いた、というより予想が確信に変わったというべきなのだろう。
(やっぱりこの人も……私と同じでシンの事が好きなんだ……。)
「わかりました……今度ゆっくりとお話しましょう。」
「やりぃ!ありがとうフェイト!じゃあ私シャワー浴びてくるから、また今度ね。」
そしてルナは去り際、フェイトの顔に自分の顔を近付け、
「……負けないからね。」
そう言い残してフェイトのもとを去って行った。
「私だって負けない、でも……。」
フェイトは自分の胸元を見て、少し憂鬱な雰囲気を醸し出していた……。

 

その頃デスティニーガンダムに乗って模擬戦に勤しんでいたシンは、同じくコックピットに乗り込んでいたGユニゾンデバイスの方のデスティニーとなにやら話をしていた。
「操作性はどうですか主?」
「すげえよこのMS、インパルスのよさを全部かき集めた感じだな、流石は新型だ。」
「ふふっ……それはよかった。」
デスティニーはまるで自分の事のように同じ名前のMSが褒められたことを喜んでいた。
「なあデスティニー、この前はどうやってこのMSにユニゾン出来たんだ?しかもお前が出て行った後もちゃんとコイツは動くし……ヨウランやヴィーノ達が不思議がっていたぞ。」
「私はただこの子の中に入って動力機動の補助をしていただけでしてこれからは問題なくこの子は使えます、ただし魔法系統は私がユニゾンしていないとできませんがね。」
「そっか……。」
その時、模擬戦の相手をしてくれていたスウェンやレイから通信が入って来た。
『シン、そろそろ上がるぞ、データは大体取れた。』
『お嬢ちゃんもお疲れ様!』
「ははは……じゃあ基地に戻りますか。」
そしてシン達は基地に帰還した。

 

「シン君!お疲れ様!」
基地に帰還し、MSから降りてきたシンを出迎えたのはなのは達だった。
「あれ?お前等こんなところで何してんの?」
「フェイトちゃんを基地に案内していたところなんや、あの子この辺の事知らないやろ?」
「ん?それにしてはアイツの姿が見えないんだけど……。」
シンはフェイトの姿を探して辺りを見回す、そんなシンの疑問になのはが答える。
「それが……シン君が帰ってくるちょっと前にアルフさんと一緒に用事があるって言ってどこかに行っちゃったの。」
「用事……?ならしょうがないか、折角報告書もまとめ終わって暇になったから、色々話したいなって思っていたんだけど……。」
「まあもうすぐ夕飯ですし……アースラに来れば会えると思いますよ?」
「わかった、そうしてみる……ありがとうな。」
そしてシンはなのは達に一言お礼を言うと、その場でなのは達と別れて汗を流す為シャワールームに向かった……。

 

それから数十分後、シンはリインⅡのアドバイス通りにユニゾンデバイスのデスティニーを連れてアースラの食堂にやって来た。
「さて、フェイトはどこ行った?」
「主、あそこにフェイトさんらしき姿が……。」
シンはデスティニーが示した方角を見る、そこにはシグナムと同じ席で夕食を取っていたフェイトの姿があった。
「いたいた……おーい!フェイトー!」
「…………!」
するとシンの姿に気付いたフェイトは一瞬でその場から姿を消した。
「あれ!!?」
「テスタロッサ!!?まだエビフライが残っているぞ!!?」
同席していたシグナムもフェイトの行動に驚いていた。
「シグナム……フェイトがどこに行ったか知らないか?」
「いや、私にはさっぱり……ただなんとなく元気がなさそうだったが……。」
「…………。」
デスティニーはシグナムの証言を聞いてあれこれ思案していた。
(一体どうしたのでしょう……?主と顔が合わせにくいとか?)
「とりあえず俺達はフェイトを探しに行く、またなシグナム。」
そう言ってシン達はアースラの食堂から出て行った。
「ふむ……しかたない、このエビフライは私がいただこう。」

 

「どこ行ったんだフェイト……?」
シン達はフェイトを探してアースラ中を歩き回っていた。すると彼は女子更衣室の前で佇んでいる彼女を目撃した。
「あ!やっと見つけたぞこら!」
「あ……!」
フェイトはシンの姿に気付くと、さっさと更衣室の中に入って行った。
「待て!なんで逃げるんだよ!!?」
シンは逃げていくフェイトを追って更衣室に入って行く、するとそこで……。
「ん?シンじゃないか。」
「きゃー!!?何してるのシン君!こんなところで!!?」
着替え中だったパンツ一丁のリインフォースとシャマルに遭遇した。
「うわわわわ!!ごめん!!」
シンは慌ててシャマル達から背を向ける。そしてデスティニーが体で大事なところを手で隠しているシャマルと、隠そうともしていないリインフォースに質問する。
「お二人とも、ここにフェイトさんが来ませんでした?」
「え?フェイトちゃん?私は見てないけど……。」
「私もだ。」
「リインフォース……少しは前を隠したらどうです?」

 

更衣室を後にしたシンは、再びフェイト捜索を開始した。
「フェイト……なんで俺から逃げるんだ?俺何か悪い事したのかな?」
「さあ?最近起きたばかりのワタクシに聞かれても……あ。」
その時デスティニーは、少し距離が開いた所を歩いていたフェイトを目撃した。
「アイツ~!今度こそ!」
シンは少し怖い顔でフェイトのもとへ駆けだした。
「やば……!」
するとシンに気付いたフェイトは、彼から逃げるように駆けだした。
「おい待てよフェイト!廊下は走っちゃ駄目なんだぞ!」
「主も走っていますけどね。」
そしてフェイトは曲がり角を曲がってシンの視界から消える。
「こんのお……!ザフトで鍛えた俺の脚を舐めるな!!」
そう言ってシンは速度を上げてその曲がり角を曲がる、しかし……。
「うおわ!!?」
「のわっ!!!?」
たまたま反対側からやって来たヴィータと正面衝突し、走っていた勢いで彼女を押し倒してしまった。
「いたたた……わ、悪い……!」
「い、いいから早くどけよ!あ……!//////」
その時ヴィータは自分のぺったんこな左胸にシンの右手が置かれている事に気付く。
「~~~~~!!!//////」
「ん?なんだこれ?まな板?」
「主……そのセリフは死亡フラグです。」
その直後、その場所の近くを通り過ぎた者達は全員、何か生き物が潰れる音とコンクリートが爆破されたような爆音を聞いたという……。

 

「ううう~いてえ~!!!」
数分後、負傷によりフェイト探索を諦めミネルバの食堂に戻ってきたシンは、全身からくる打撲による痛みに悲鳴を上げていた。
「大丈夫かシン?」
「シンさんのラッキースケベは神の領域ッスね~!そのラブコメ運、オイラにも分けて欲しいッス!」
シンの身を案じながら治癒魔法を掛けるスウェンとは対照的に、ノワールはシンに尊敬の眼差しを向けていた。そんな彼等の様子を見て、たまたま同席していたアウルは不満そうにシンを睨みつけていた。
「シャマルさんの艶姿を見ただと……!!?くたばればいいのに!!!!」
「アウル、落ち着け。」
少し怒りで興奮気味のアウルを、スティングは暴れ馬を抑え込むように落ち着かせる。そんな時、シンの傍らに居たデスティニーがポツリともらす。
「しかしシャマルさん……まさかあんなものを穿いているとは以外でした。」
その一言を、アウルは聞き逃さなかった。
「なぬ!!?詳しく聞かせてもらおうか、そのシャマルさんのあんなものというのを……。」
「そうですね……ゴニョゴニョゴニョ。」
デスティニーはおもちゃの人形程の大きさの自分の体でアウルの肩に乗り、彼の耳に小声でささやく、そして……。
「せ、清純なシャマルさんがそんな……そんな超セクシーなもの穿いていたなんて……!!!」
するとアウルの妄想力が彼の脳の許容量を軽く超えてしまい……。
「ブハァー!!!!」
「うわー!!?アウルが噴水の如く鼻血噴きだして倒れたー!!!?」
彼が噴出した鼻血により、シン達の周辺は血で染まってしまった。
「まさかホラ話でここまで興奮するとは……彼女が穿いていたのは普通の白パンティーでしたのに。」
「盛大な最後でした……乙ッス!」ビシッ
「敬礼している場合じゃないだろ。さっさと医務室に連れてけ。」
「すまねえ、ウチのバカが迷惑かけて……。」
スティングはうんざりと言った感じで鼻血まみれのアウルを引き摺って食堂から出て行った。

 

「しかし……何故フェイトはお前から逃げるんだ?心当たりはないのか?」
「それが解らないからスウェンに相談しているんだろうが……。レイは何故か独房の方に行っているし……。」
「うーん、よりにもよってそういう方面に疎いアニキに相談するなんて……。」
「なんだ?そういう方面って?」
スウェンはノワールが何を言っているか解らず、頭上に?マークを浮かべていた。
(駄目だこのアニキ……早くなんとかしないと……。)
「おーい、何の話をしているの?つか何ここ?殺人事件でもおきたの?」
するとそんなシン達の元に、本物のアリシアとリニスがやって来た。
「アリシアか、実はな……。」
そう言ってシンは今日の出来事をアリシア達に説明した。
「成程……シン“も”なんだね……。」
「“も”って……お前等もフェイトに避けられてんの?」
「ええ……こちらから話しかけてもゴ○ブリのごとく素早く逃げられてしまい……。」
「いや、確かにアイツ基本黒い服着ているけどさ……流石にその例えひどくね?」
「ははは……やっぱり私、フェイトに嫌われているのかな?母さんがああなってフェイトをいじめたのは私にだって責任があるんだし……。」
「……。」
シンは少し泣きそうなアリシアを見て、フェイトに僅かばかりの怒りを感じていた。
(何やってんだよフェイト……!なにか言いたい事があるならちゃんと言ってくれればいいのに……!)
「おや?なんだここ?殺人事件でも起きたのか?」
するとそんな彼等のいる食堂に、仮面を外したネオがやって来た。
「大佐……もう体の方はいいんですか?」
「おう!お陰さまで全快したぜ、心配かけて悪かったな。」
「それにしてもアンタ、仮面付けない方が男前じゃないか。」
「おお!嬉しい事言ってくれるじゃないか坊主!」
そんなシン達男性陣のやり取りを見て、アリシアとリニスは小声でコンタクトをとった。
(リニス、やっぱりあの人ってあの……。)
(恐らく……しかし今はその時ではない、アリューゼ大佐の監視もありますから、下手したら彼は口封じに殺されてしまうかもしれません。)

 

「おおっと話題が逸れたな、そんで何の話をしていたんだ?」
「いや、それが……。」
シン達はネオにこれまでの事を簡潔に説明した、するとネオはその話にうんうんと頷いた。
「つまりだ、お前さん、そのフェイトって子とサシで話をしたいんだよな?」
「え、ええ……まあ……。」
「ならよ、少しぐらい遠慮せずに強引にいったらどうだ?男はそれぐらいのほうがちょうどいいぜ?」
「強引に……なるほど。」
ネオのアドバイスを受けて、シンはフェイトと話す為の作戦を閃いた。

 

それから数分後、アースラにあるフェイトの自室……そこでフェイト(E:黒のネグリジェ)は同じ部屋で寝泊まりしているキャロとアルフとフリードと話をしていた。
「フェイトさん……どうしてシンさん達から逃げるんですか?」
「そうだよ!あれじゃ二人が可哀そうじゃないか!」
アルフとキャロに叱られて、フェイトはシュンとしょげてしまう。
「ご、ごめん……アリシアとはどう話せばいいのか、心の整理がつかなくて……。」
「まあ、その気持ちは解るけどさ……なんでシンまで避けるのさ?あんなに会いたがっていたのに……。」
「うん……今会うとシンをがっかりさせちゃうというかなんというか……その……。」
そう言ってフェイトは自分の胸を見てはあっと溜息をつく、その時だった。
『フェイトさん、います?』
突如扉の向こうからデスティニーの声が聞こえてきた。
「デスティニー……?こんな時間にどうしたんだろう?」
「もしかしたらフェイトを説教しにきたのかも……。」
「キュクー……。」
「は、はい!今開けます。」
そう言ってフェイトは自室の扉を開ける。すると……。
「そいや!」
魔力を消費して人間の姿になったデスティニーの高威力のチョップを脳天に喰らってしまった。
「はう!!?」
「フェイトぉ!!?」
痛烈な一撃を受けてフェイトは昏倒し、デスティニーの体に倒れ込んだ。
「うわ~!!?フェイトさん!!?」
「デスティニー!アンタ何してんだい!!?」
「すいません、しばらく彼女を借ります。」
そしてデスティニーは気絶したフェイトを担いで何処かへ去って行った。
「な、なんだったんでしょう?」
「さあ?まあデスティニーならフェイトに変なことはしないと思うけど……。」

 

それからしばらくして、フェイトは誰かの膝の上に座りながら目を覚ました。
「あれ?ここは……?」
「よう、起きたみたいだなフェイト。」
「え!!?シン!!?ここはどこ!!?」
フェイトは目を覚ました途端、シンと顔を合わせて大いに混乱していた。
「ここ?デスティニーガンダムのコックピットの中だよ、こうでもしないとお前、また逃げ出すだろう?」
「え……えええええ!!!?」
フェイトはふと、近くにあった外の様子を映し出しているモニターを見る、そこにはオーブの満天の星空が映っていた。
「さーって、なんで俺達から逃げるのか話してもらうぞ、ちなみにバルディッシュはデスティニーに預けているから飛んで逃げる事はできないからな。」
「ひ、ひどいよシン!こんな強引な事するなんて……!」
「お前が何も話してくれないからだろう!?お前がそんな事するからアリシアも悲しんでいるんだぞ!!」
文句を言うフェイトに、シンは少し怒りを含んだ正論で一閃した。
「うぅ……。」
シンの正論に何も言い返せないフェイトは、観念したかのようにポツリポツリと話し始めた。
「そんな事言ったって……いきなり本物のアリシアって言われても、何を話せばいいのか心の整理がつかなくて……。」
「…………。」
シンはフェイトの言い分はもっともだと思いながらも、やはりまだ不機嫌そうにフェイトを見ていた。

 

「アリシアの方は理解した……それじゃあなんで俺まで避けるんだよ?もしかして俺、フェイトを怒らせるような事をしたのか?」
「ち、ちがう!そうじゃないの、あの……その……。」
フェイトは何故かシンに理由を言うのを躊躇っていた。そんなフェイトを見て、シンはとりあえず怒りを納めながら今度は優しい口調で話しかけた。
「なんだ?怒らないから言ってみろよ。」
「ううう……それって絶対怒るパターンだよね?」
「言わないと……。」
今だにはっきりしないフェイトにしびれを切らしたシンは、頬を抓るジェスチャーを彼女に見せる。
「わ、わかったよ!言うよ!だから頬抓りだけは……その……。」
フェイトは少し悲しそうな顔で自分の胸元を見る。そして……シンを避けていた理由をポツリポツリと語り始めた。
「その……ハウメア様の石……時の方舟に捕まっていた時になくしちゃって……。」
「ハウメア様の石……?あ!」
シンはその時初めて、7年前フェイトにプレゼントした筈のハウメア女神の石とそっくりな物を取りつけたペンダントを、今彼女が掛けていない事に気付いた。
「せっかくシンがくれたペンダントだったのになくしちゃって……それがバレたらシンが悲しむと思ったんだ、ごめんね……。」
フェイトは今にも泣きそうな顔でシンに謝った、対してシンはフェイトの真意を知り、心が申し訳ないという思いで一杯になっていた。
「……こっちこそごめん、まさか俺に気を使っていたなんて知らなくて、こんな強引な手を使って……。」
「し、シンが謝る事ないよ!悪いのは私が勝手に逃げ回っていたから……。」
「いや、それでも何かお詫びしたいな……。」
そしてシンはフッと不敵に笑った。
「お詫びにアリシア達と話をする時、俺も付いて行ってやる、ついでに今度休暇もらって、オーブの街を案内してやるよ。それで今回の事は勘弁してくれ。」
「う、うん……それなら……。」
そしてフェイトは、シンの言葉を思い出してある事に気付く。
(こ、これってまさか、二回目のデートのお誘い……!!?ど、どうしよう!お気に入りの服、ミッドチルダに置いてきちゃったよ!)
そしてフェイトは久しぶりに舞い上がって頭の中を沸騰させていた。その時……。
「お!フェイト、外を見てみろよ!」
「え?……うわぁ……!」
フェイトはシンに言われてデスティニーガンダムのカメラに映し出された外の様子を見る
そしてその光景に心奪われていた。
「星が……一杯だ……。」
デスティニーガンダムが飛翔している夜空は沢山の星が輝いていた。フェイトはそんな光景を見て、まるでシンと一緒に星の海を渡っているような感覚にとらわれていた。
「素敵……。」
「そうだな、すっごく綺麗だ。」
シンはふと、夜空の星に気を取られているフェイトの横顔を見る。彼女の顔は星の光に照らされてより一層彼女の美しさを引き立てていた。
「…………!!」
シンは思わずフェイトを見て「綺麗だ」と言いそうになり、慌ててその言葉を飲み込んだ。
「……?どうしたのシン?」
「あ、いや……なんでもない……。」
シンはそう言ってごまかしながらも、自分の心に芽生えたある想いに戸惑っていた。
(なんだろうこの気持ち……どうして俺、フェイトを見てドキドキしているんだろう……?)
その時、そんなロマンチックな二人の世界を引き裂くようにコックピットに音声通信が入って来た。
「あれ?なんか通信が入って来ているみたいだよ?」
「げっ!!?まさか!!?」
『シン!!!何デスティニーを無断出撃させているの!!!?』
通信機からタリアの怒声が鳴り響き、シンの顔から血の気が引いていく。
「も、もしかしてシン!ガンダムを無断で持ち出しちゃったの!!?」
「そのまさかだ……!やべえ!また始末書を書き続ける作業が始まる……。」
『いいからさっさと戻ってきなさーい!!!!』
「はいいいい!!!!」

 

そして基地に慌てて戻って行くデスティニーガンダムを、基地の屋上で見いたユニゾンデバイスのデスティニーと彼女に抱きかかえられた待機状態のバルディッシュは、やれやれといった感じで苦笑していた。
「まったく……7年たっても私達の主は変わらないですね。」
『まったくです。』
そしてその一人と一個?はそんな自分達の大切な人が乗るガンダムをいつまでも優しく見守っていた……。

 

おまけ 

 

シンがデスティニーガンダムを駆ってフェイトと話していた頃、レイは食事を持って時の方舟のアリシアが入れられている独房の前にやって来ていた。
「食事を持って来たぞ。」
「…………。」
返事が返ってこない事に構うことなく、レイは独房の扉にある食事の受け渡し口に食事が乗ったトレイを入れ、そのまま近くの壁にもたれ掛った。
辺りに流れる重い沈黙、そしてそれにしびれを切らしたレイが声を発する。
「どうした?食べないのか?」
「……どうして殺さないの?」
するとアリシアは質問とは全く違う答えを返した。レイはその事に突っ込むことなく、アリシアの話に合わせることにした。
「…………確かにお前達のしてきた事は許されない、しかし死んで償う程ではないだろう?現にお前達時の方舟は人を一人も殺していない、俺達に協力してくれれば情状酌量の余地は……。」
「そんなの関係ない……私達はアナタ達に酷い事をしてきたのよ?それとも何?私の体が目当てなの?別にいいよ……こんな劣化品でよければ……。」
「…………。」
レイはアリシアの生きる事を諦めた投げやりな言葉に怒りを覚える。だがすぐに冷静さを取り戻し、着ていた服の中からカガリから預かっていた独房の鍵を取り出した。そして……。
「……?」
「失礼する。」
鍵を使ってアリシアが居る独房の中に入り、そのまま彼女と向き合うように座り込んだ。
「……何しているの?」
「お前がそれを食べるまで俺はここを動かない、それが嫌なら冷める前にさっさと食べろ。」
そんなレイをアリシアは呆れ気味に笑いかけた。
「何言ってんのよ……それじゃアンタ餓死するわよ、私はこのまま消えちゃいたいの、勝手に恨んで、勝手に憎んで……こんな醜い私が嫌、もう何もしたくないの。偽物で劣悪品の私なんか……。」
「“偽物で劣悪品”か……まるで俺の事みたいだな。」
「え……?」
アリシアはレイが何を言っているのか解らず、涙でグチャグチャになっていた顔を上げた。そんな彼女に、レイは自分の生い立ちを語り始めた。
「俺も……お前と似たようなもんだ、どっかの愚か者が自分の後継者欲しさに、技術者に高い金を払ってクローンを作らせた。でもできたのは……薬がなきゃ生命の維持もままならない二つの“劣悪品”のうちの一つだ。」
「アンタが……クローン?」
レイの話に聞き入るアリシア、そしてレイは引き続き自分の生い立ちを語り続けた。
「劣悪品のもう一つは……自分の父にあたる男を殺し、自分を作りだした世界を憎み破壊しようとして……キラ・ヤマトに討たれた。もう一つの方は自分を受け入れてくれた人の夢をかなえる為、その残りわずかな命を捧げようとしていた。」
「夢……?」
「その人には夢があった、世界を永遠の平和に……俺達みたいな者を二度と生み出さない為に、自ら閉じた世界創り出し、それを管理する神官になろうとしていた、その劣悪品も……その人の夢に共感していた。」
レイはまるで昔話を聞かせるように淡々と話し続けていた。
「劣悪品はその人の夢の為……どんな汚い事にも手を染める事を躊躇わなかった。そんな時劣悪品は……俺はシンに会ったんだ。」

 

シンの話になった途端レイの瞳から鋭さが抜け、代わりに優しさが宿った。
「アイツは……自分を利用しようとした俺の正体を知った途端どうしたと思う?“お前はレイだろ!?ラウって人になろうとすんな!”と言い放ったんだ。」
「誰かじゃない……自分に……。」
「多分アイツは俺をフェイト・テスタロッサと重ね合わせていたんだろう、それでも俺は……俺の世界はもっと広く拓けたんだ。閉じた殻の中の世界じゃない、どこまでも続く大海原の世界に……だから俺は、あの人とは違うやり方で、誰も傷つけないやり方で世界を変えたいと思ったんだ。」
「…………ふふふっ。」
アリシアは少し熱心に語るレイを見て、思わず笑いがこみ上げる。その笑顔はいつもの歪んだものではなく、とても清らかなものになっていた。
「?何がおかしい?」
「だって……アンタとっても嬉しそうな顔しているんだもん、初めて会った時は仏頂面だったのに……。」
「俺の名前は“アンタ”じゃない、レイ・ザ・バレルだ。」
「レイ、か……いい名前ね、ふふふっ……。」
「フッ……。」
そしてレイとアリシアは、心の底から可笑しさがこみ上げてきて、無意識に互いに笑いあっていた。
「アリシア……死にたいなんて考えるな、ありきたりの言葉だが……生きていればきっといい事がある、今の不幸が笑い話になるくらいの事がな。」
「うん……そうだね、それと……。」
その時、生きる気力を取り戻したアリシアの心にある願いが生まれていた。
「できれば……アリシアって呼ぶのはやめて、その名前は本物のアリシアの物だから……あだ名でもいいから別の名前で呼んで。」
「あだ名か……。」
アリシアの願いを聞き入れ、レイは彼女の名前を考える。そして30秒後、彼の頭の中にある名前が浮かんでいた。
「フェリシア……フェリシアなんてどうだ?」
「フェリシアか……可愛い名前じゃない、気に入ったわ。」
アリシア改めフェリシアは、与えられたあだ名をいたく気に入ったのか満面の笑みを浮かべていた。
「そうか……喜んでくれてなによりだ、フェリシア。」
「うん……ありがとうレイ。」

 

ぐぅ~

 

その時、フェリシアから三日分の空腹を知らせる腹の虫が鳴り響いた。
「…………今の聞いた?」
レイに確認をとるフェリシアの顔は、恥ずかしさでトマトのように真っ赤になっていた。
「なんのことだ?それよりさっさと食べたらどうだ?冷めるとおいしくなくなるぞ。」
「うん……そうする……。」
フェリシアは顔を真っ赤にしたまま、レイの目の前でトレイに置かれた食事をスプーンで掬いながら一口一口自分の口の中に運んでいった……。

 
 

外伝