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魔動戦記ガンダムRF_21話

Last-modified: 2011-08-13 (土) 23:07:26

 第二十一話「確かな想い」

 

9月25日、オーブ軍基地の会議室に集まっていたカガリ達は、そこで捕らえたときの箱舟のアリシアの証言が記載された書類に目を通していた。
「ふむ……やはり彼女自身は作戦の詳しい内容は聞かされていなかったみたいですなぁ。目ぼしい情報は何もない。」
そう言ってアリューゼは書類を放り投げ、深くため息をついた。
「彼女自身の正体も知らされていなかったみたいですしね……初めから使い捨てるつもりだったのでしょうか?」
「胸糞悪い話だねえ。」
皆、時の箱舟のアリシアの境遇を聞いた感想を口にする。
「ともかく、奴等の指定した期限は後一週間なんだ……こちらも戦力を整えてヘブンズベースに行く準備を進めよう。」
そしてカガリの締めの言葉と共に、会議は解散となった。
「あの……アリューゼ大佐、よろしいでしょうか?」
その時、会議室を出ようとしたアリューゼをマリューが引き止めた。
「ん?なにかな?」
「実はム……ネオ・ロアノーク大佐について聞きたいのですが……。」
「大佐の?」
マリューはネオがムウと瓜二つの事等をアリューゼに打ち明けた。
「何故彼がフラガ少佐と同じ顔なのか……大佐はご存知ありませんか?」
「さあ?私は何も……。」
アリューゼはとぼけるようにマリューに笑いかけた。彼女はその態度に少し顔をしかめるも、すぐに気を取り直し笑い返した。
「わかりました……変なことを聞いてすみません。」
「いや、気にすることはないさ……大切な人が生きているかもしれないとなると、いてもたってもいられないだろう?元気出してください。」
そう言ってアリューゼはその場にマリューを残して会議室から出て行った。
「…………。」
「有力な情報は聞き出せなかったみたいだねえ。」
少し落ち込んでいるマリューに、バルドフェルドが優しく声を掛けてくる。
「ええ……大佐なら絶対何か知っている筈なのに……。」
「あまり深く詮索すると命を取られかねないぞ?しばらくは様子を見ようじゃないか。」
「ええ……。」
マリューは色々な思考を頭の中で巡らせながら、アリューゼが去って行った方角をじっと見つめていた……。

 

その頃基地にある独房では、フェイトとアリシアが鉄格子越しにフェリシアと話をしていた。
「じゃあ二人もヘブンズベースに行くの?」
「うん、アースラの皆とね……連合やプラントの偉い人達に私達の事を話さなきゃいけないんだ。」
「確かフェリシアも重要参考人として付いてくるんだよね?向こうの兵達に変なことされたら私達に言うんだよ?ちゃんと守ってあげるから。」
「ははは……わかったよ。」
和気藹々と話す3人、そんな時フェイトが神妙な面持ちでフェリシアにとある質問をする。
「そういえば……アリサやすずか達は元気だった?」
「アリサ?ああ、首領が攫って来たっていう海鳴の……元気すぎって感じだったわ、一緒に攫ってきたCEの高官達とめちゃくちゃ打ち解けていたし……あの夫婦が作ってくれたケーキ、すごくおいしかった。」
「あはは……おじさん達も相変わらずだね。」
「ねえフェリシア、その首領って何者なの?目的は何?もうそろそろ教えてくれてもいいじゃない。」
アリシアの質問に、それまで幸せそうに笑っていたフェリシアの表情が途端に暗くなる。
「ごめん……それだけは言えない、あの人の事はこの身が引き裂かれても言えない……。」
「「…………。」」

 

「おやおや、可愛らしいお嬢さん達、こんな薄暗い所で何をしているのかな?」
そんな彼女達の元に、カガリ達との話し合いを終えたアリューゼがやって来た。
「………!」
「あ、えっと……貴方は……。」
「連合軍のアリューゼ・ハンスブルグ大佐ですね、初めまして。」
「正確にはユーラシア軍だよ、君のような勇敢な女性と話が出来るなんて光栄だな。」
そう言ってアリューゼはアリシアとがっちり握手を交わし、そのままフェイトとフェリシアに視線を移した。
「君の事もリンディさんから聞いているよ、管理局の中でも一、二を争うエースだそうじゃないか。」
「は、はい、ありがとうございます……。」
フェイトはあまり話した事のないアリューゼに褒められ、少し緊張した面持ちで彼に頭を下げた、そして今まで疑問に思っていた事を思い切って彼に聞いてみる。
「あの、フェリシア……いや、このアリシアはこれからどうなるんですか?」
そのフェイトの質問に、アリューゼは難しい顔で答えた。
「正直言うと……いかなる事情があったとしても無罪とは行かないだろうねえ、彼女がしてきた事は簡単に許されるわけじゃあない、被害者家族の感情も考慮して最悪戦犯として極刑として裁かれるだろうね。」
「そんな……!!」
そんな無慈悲な答えを出したアリューゼに、フェイトは食ってかかった。
「彼女は確かに酷い事をしてきました……!でも!それは騙されていたからで……!!」
「君は……確かPT事件の首謀者の娘だったね?」
「……!!?」
突然のアリューゼの言葉に、フェイトは思わず喉まで出ていた言葉を飲み込んだ。
「君はその事件で誰かに怪我をさせたり……他人に迷惑を掛けたりしたのだろう?その時君はその人達に“私は騙されていたんです、だから許してください。”と言って許しを乞うたのかい?」
「い、いえ……。」
「君の場合、ちゃんと事件の内容を理解してくれていた人達がいたからよかったのだろうが……この子は違う、彼女の行いで沢山の物が壊され、沢山の人が傷ついた、お金に換算すれば途方もない額になるだろう……それを補うのにどれだけの人が不幸になるのだろうね?その人達に事情を話しても……きっと理解してくれないだろう。“償う”という行いは……この世でもっとも曖昧で難しい行いなのさ、被害者が完全に納得しない限りその行為が完遂する事はないのだから。」
「「「…………。」」」
アリューゼの話を聞いて、フェイト達は完全に沈黙してしまった。その様子を見てアリューゼは自分がこの場の空気を湿らせた事に気付き、慌てて取り繕った。
「あー……すまないね、なんか話に熱が籠っちゃって……フェリシア君の事は安心しなさい、なるべく罪が軽くなるよう私も尽力するから……。」
そう言ってアリューゼは落ち込んで俯いているフェイトとアリシアの頭を優しく撫でた、
「あ……。」
「……。」
「だからそう悲しい顔をしなさんな、可愛い顔が台無しだよ。」
フェイトとアリシアはそのアリューゼの手の暖かさに、言い知れぬ心地よさを感じていた。
(何だろう?この人の手……。)
(なんかシンと似ている……。)
「…………。」
そしてフェリシアその様子をとても複雑そうな表情で見守っていた……。

 

それから数分後、アリシアと別れたフェイトは先ほどのアリューゼの言葉を思い出しながらおぼつかない足取りで廊下を歩いていた。
(まさかPT事件の事を掘り出されるとは思わなかったなぁ……。)
フェイトはあの頃の自分の行いを思い出し、少し鬱な気持ちになっていた。
(確かにあの時は母さんの為っにってジュエルシードを集めていたけど……もしあの石が暴走していたら大変な事になっていたんだよね……それこそ沢山の人が犠牲になるような……。)
そしてフェイトは歩きながら天を仰いだ。
(償うって……大変なんだな……。)

 

その時、曲がり角から人が歩いて来て、前を見ていなかったフェイトはその人物と衝突してしまった。
「うわっ!」
「きゃっ!」
フェイトはぶつかった衝撃でその場で尻もちをついてしまい、彼女とぶつかった眼鏡を掛けた美青年はよろめきながらも尻もちをついたフェイトに手を差し伸べた。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ……ごめんなさい、余所見していて……。」
フェイトはその美青年にぺこぺこ頭を下げながら、差し伸べられた手を掴んだ……。

 

「ふーんふふーんふふーん。」
その日シャマルははやてにお使いを頼まれ、街で買ってきた食材を持って基地に帰ってきていた。
「最近私も料理の腕が上達してきたわねー、アウル君がおいしいって言ってくれるからねー。」
そう言ってシャマルは壮大な勘違いをしながら鼻歌交じりではやて達の元に向かっていた。
「あら……!?」
その時彼女は偶然、フェイトが美青年と衝突して手を差し出されている光景を目撃した。
「あ……あらあら、これは……。」
シャマルは思わず物陰に隠れ、その様子をコソコソと監視し始めた。

 

「あ……すみません、貴女の服が汚れてしまいましたね。これを使ってください。」
フェイトと衝突した人物は彼女の汚れてしまった管理局の制服を見て自分のハンカチを差し出した。
「あ、ありがとうございます……。」
ハンカチを受け取ったフェイトはそれで汚れた部分を拭きとった。
「これ……汚れちゃいましたね、洗ってから返しますよ。」
「それは差し上げますよ、では……。」
「え!?ちょ、ちょっと!?」
美青年はフェイトの制止も聞かず、一礼した後その場を去っていった……。
「い、いっちゃった……。」
フェイトはあっけに取られながら、去って行った青年の背中をじーっと見続けていた……。

 

「こ!これは大波乱の予感ね……!」
そんな一部始終を物陰で見ていたシャマルは、あまりのドラマみたいな展開に鼻息を荒げながらテンションを高めていた……。

 

「ふーん……フェイトちゃんがねー。」
次の日、アースラの食堂でなのはと八神家の面々は昨日の出来事をシャマルから聞いていた。
「シャマル、ホンマにその人カッコよかったんかいな?」
「はい、なんだか俳優さんみたいな整った顔つきでしたねー。」
「んで、当の本人の様子はどうだったんだー?」
「うーん、まんざらでもなさそうでしたけどねー。」
なのは達はシャマルの話を興味深そうに聞いていた。ただ一人、興味なさそうな素振りのシグナムを除いて。

 

するとそんな女の子独特の会話をしているなのは達の元に、書類をもったシンがやって来た。
「はやてー、リンディさんドコ……ってお前等、テーブルに乗り出して何やってんだ?」
「あ、シンさーん!実はですねー!」
「!リイン!」
先ほどの会話の内容を話そうとするリインを、はやては両手で彼女を包み込むように掴むことで制止する。
「もがもがもが!!」
(駄目やでリイン!そんなフェイトちゃんがイケメンと仲良くしてたなんて言ったら……。)
「な、何やってんだよはやて?リインが苦しそうだろ?」
シンははやての不可解な行動に眉をしかめる。
「あ、あははー!なんでもない……。」
「テスタロッサが昨日男と会っていたらしい。」
「「「「「「「!!!!!?」」」」」」」
その時、何を思ったのかシグナムが昨日の出来事をシンに説明しだした。
「フェイトが?」
シグナムの説明にシンはキョトンとしながらも、彼女の話に耳を傾けた。
「ああ……シャマルの話では昨日廊下で見かけたとか……いい感じだったらしいぞ。」
「ふーん、アイツも恋愛とかに興味もつ年頃なのか。」
「年頃も何もテスタロッサは以前からよく局員の連中にラブレターを貰っていたらしいぞ?告白された事もあったらしい。まあ全部断っているみたいだがな。」
「ふーん……。」
その時シンは、遠方でリンディが歩いている所を目撃する。
「あ……ごめん俺行くわ、また今度な。」
そう言ってシンはなのは達に一言挨拶してリンディの元に行ってしまった。

 

「ちょっとシグナムさん!」
「シグナム!何してんの!?」
シンが去ったのを確認した後、なのはとはやてはシグナムに先ほどの件についてとい問い詰めた。
「別に……ただシンに有りのままの事実を……。」
「それでシン君が変な勘違いしたらどうすんの!?」
「そうやで!フェイトちゃんはシン君の事を……!」
「確かにテスタロッサはシンの事を想っているのかもしれません、しかし……シンのほうはどうなんですか?」
「「あ……!!」」
シグナムの言葉になのはとはやてはそのまま口を噤み、他の者達は気まずそうにその様子を見守っていた。
「冷たい事を言うようですが……シンにその気がない以上、テスタロッサはいつまでも報われぬ想いに苦しめられるのです、なら……きっぱり諦めさせてあげたほうがアイツの為です。」
「た、確かにそうですけど……。」
「それじゃウチらが納得できひん……フェイトちゃん、小さい頃からあんなにシン君の事を想っていたのに……。」
なのはとはやてはシグナムの厳しい言葉に、落ち込んだように俯いてしまう。
「まあ……後はテスタロッサ達次第ですよ……今の言葉でシンが何も感じていないなら、彼にとってテスタロッサとはそういう存在だということです。」

 

「ど、どうしましょう、もしかしたら私のせい……?」
シャマルはそんななのはとはやてとシグナムのやり取りを見てあわあわと目を泳がせていた。
「ま……シンが誰を好きになろうとアタシには関係ないなー。」
「強がりを言いおって……むぎゅ!!?」
ヴィータはテーブルの下で余計な事を言うザフィーラ(大型犬フォーム)を踏みつけながら、パックジュースをごくごくと飲みほした。
「リインは皆さんが何の話をしているのかさっぱりですよ~。」
「ふふふ……お前はまだちっちゃいからな。」
そう言ってリインフォースはリインⅡの頭を優しく撫でながら、シンが歩いて行った方角を見た。
(まあ……アイツも何も感じていないって訳じゃないようだな。)

 

その頃シンは、タリアから預かった書類をリンディに渡す際、彼女にある指摘をされる。
「シン君どうしたの?不気味な程無表情よ?」
「え?そんナコトナイデスヨ?」

 

それから一時間後、ミネルバに戻って来たシンは先ほどのシグナムの話をぼーっと思い出しながらデスティニーガンダムの整備をしていた。
(フェイトに……男かぁ……。)
「主、何ぼーっとしているのですか?」
そんな彼を心配してか、スパナ等が入っている道具箱の中からユニゾンデバイスのデスティニーがヒョコッと顔を出した。
「いやあ……なんだかフェイトが男と会っていたらしくってさー、アイツもそんな年頃なんだなーって思って……。」
「なんですと……!?」
シンから事情を聞いたデスティニーは大きく目を見開き、何か分析しているのかブツブツと喋り出した。
「まずい……!そっちの可能性を全く考えていなかった!とにかく早急に対策を立てなければ、このままでは私の野望“主とフェイトさんの子供を私色に染め上げる春日局”計画が……!」
「へ?俺とフェイトがなんだって?」
「なんでもございません!わたしちょっと急用を思い出しました!」
そう言ってデスティニーは道具箱の中からピュンと飛びだし、どこかへ飛び去っていった。
「なんだったんだアイツ……?」
シンはデスティニーの行動を不思議に思いながらも、整備を終えて顔に付着したオイルを拭いながらシャワールームに向かった。

 

「ふう……さっぱりした。」
数分後、シャワーを浴び終えたシンはジュースでも飲もうと休憩室に向かう為廊下を歩いていた、その時……。
「あれ……?フェイト?」
シンは自分とは大分離れた場所で、誰かを探しているように辺りをキョロキョロしているフェイトを見つけた。
「フェイトー、なにやって……。」
フェイトに声を掛けようとするシン、だがその時……。
「……?誰か来た?」
彼女の元に誰か近付いてくるのを見て、シンは思わず身を隠した。
(アイツ誰と喋っているんだ?遠くて何を喋っているのか聞こえない……。)
フェイトはやって来た眼鏡を掛けた美青年にハンカチらしき布を渡した後、ぺこりと頭を下げた。対して男は“おかまいなく”といった様子でフェイトに笑いかけていた。
(もしかしてあれが昨日シグナムが言っていた……?)
しばらくするとフェイト達は楽しそうに談笑しながら歩き出し、シンはそれを追跡する。
(ってなんで俺ストーカーみたいな事してんだ?)
自分の行動を不思議に思いながら。

 

「…………何をやっているんだアイツは?」
スウェンはその日、ちょっとした用事でアースラに行っているノワールとは別行動で、ある友人からストライクEの新兵器が届けられたということでその受領のサインをするためオーブ軍基地に来ていた。
その帰り道、彼は奇妙な行動をとっているシンを目撃する。
「……そこで何をしている?」
「うおわっ!!?」
スウェンは躊躇いもせずにシンに話しかける、対してシンは突然声を掛けられひっくり返りそうになっていた。
「な、何だスウェンかよ……!驚かすな!」
「すまない……それにしてもシン、お前は一体何をしていたんだ?」
「あ?いや、それは……。」
スウェンの指摘に、シンは目を泳がせながら答える事をためらう、その時スウェンはシンの体越しに、フェイトが知らない男と何やら楽しそうに会話している所を目撃する。
「あれは……フェイトか。」
「あ、ああ……アイツが何喋っているのか気になって……。」
「成程。」
スウェンはシンと一緒に物陰に隠れて、フェイト達の様子をジッと窺った。
「……仲よさそうだな。」
「……ああ。」
ふと、スウェンは隣にいたシンの顔を見る、彼の顔は何やら不機嫌そうで、フェイトの隣にいる男をイライラしながら睨みつけていた。
「何故そんな怖い顔をする?」
「だってあの野郎なんかキザっぽくて……なんでフェイトはあんな奴と楽しそうに喋っているんだ?」
「人を見かけで判断するのはよくない。」
「でもよ……。」
スウェンはその時、シンの行動にある疑問を抱き、彼に思い切って質問する。
「シン……何故怒っているんだ?」
「え?そりゃアイツが……。」
そう言ってシンは楽しそうにしているフェイト達の方を見る。それを見てスウェンは自分の中の疑問がさらに膨れ上がって行くのを感じた。
「お前は……なんでアイツが笑っているのが気に食わないんだ?」
「…………!?」
シンはスウェンのその言葉を受けて、頭を何か固いものでガツンと殴られた感覚に陥っていた。
「今のフェイト……幸せそうだ、ここ最近彼女には辛い事ばかりだったからな……今まさにお前が望んでいた状態だろう?なのに何故?」
「そう……だよな、そうなんだよな……。」
するとシンはフラフラと立ち上がり、その場を去ろうとしていた。
「……なんか急に具合が悪くなってきた……部屋に戻るわ……。」
「?そうか……。」
スウェンはそんな危なっかしい足取りのシンを心配そうに見送った後、自分もその場を去って行った。
(俺は何か悪い事を言ってしまったのか?うーん……わからん。)

 

数十分後、スウェンは先ほどの出来事についてはやて達に相談する為、彼女達がいるアースラの食堂にやって来ていた。
「はやて達は……あ、居た。」
スウェンはテーブルで何やら話をしているはやてとシャマル、そしてヴィータを見つけ、彼女達に声を掛けようとする、その時……。
「なあはやて……スウェンに“部隊”の話、まだしていないのか?」
(……部隊?)
スウェンはヴィータの口から聞きなれない単語が発せられたのを受けて、思わず身を隠した。
(これでは先ほどのシンだな……。)

 

「うん……まだ申請が通るかわからんし、できるかどうかわからない部隊に誘ってもしょうがないやろ?」
「でも、色んな戦場を経験しているスウェンってはやてちゃんの理想としている部隊には絶対に欲しい人材でしょ?どこにも所属しない、緊急時には迅速に行動できるっていう理想の部隊に……。」
「確かにな……一年前のミッド臨海空港の大規模火災の時の本局航空魔導師の行動の遅さは致命的やった、もしあの時ウチやナカジマ三等陸佐がいなかったらどうなっていたか、戦場慣れしているスウェンは是非とも欲しい人材や、でもな二人とも……。」
はやては真剣な面持ちで、ヴィータとシャマルに言い聞かせるように語りだした。
「それはウチらの都合や、スウェンには……ずっと天文学者になるって夢がある。」
(……!……。)
スウェンは思わず声が出そうになるが、必死になってそれを引っ込めた。
「あ……そっか。」
「小さい頃からの夢だったわね、いっつも星を見上げて……。」
「今スウェンは夢を追いかけるのを中断してまで戦ってくれている……ウチはそんなスウェンをこれ以上縛りつけたくないんや。むしろウチらが彼の応援をしてあげないといかんのに……。」
「そっか、そうだよな。」
はやての話に、シャマルとヴィータは納得したようにウンウンと頷く。
「皆にも言っといて、スウェンと……一応シン君にも、ウチらが目指している新部隊の話はしないようにって……二人にもこの世界での生活があるやろうし……あの二人なら他の事を曲げてでも協力しようとするからな。迷惑はかけたくないんや。」
「はい、解りました。」

 

「…………。」
スウェンははやての話を一通り聞いた後、静かにその場を去って行った。
(はやて……そんな事を考えていたのか。)
そしてスウェンは自分が何をしようとしていたのかすっかり忘れ、あれこれ思案しながら自分の部屋に戻って行った……。

 

その頃ミネルバの自室に戻ったシンは、マユからとある情報を貰っていた。
「フェイトさんと一緒にいたって人……あの人はホースキン・ジラ・サカト、オーブの下級氏族の出で結構お金持ちなんだって!おまけに軍の中でもエース級の実力を持っていて女の子のファンも多いらしいよ!」
「御苦労、これは報酬だ。」
そう言ってシンはマユにスナック菓子が入った袋を手渡した。
「へへへー、すみませんね旦那。」
「シンお前……妹に何やらせているんだ。」
その光景を見てたレイは、呆れたように溜め息をついた。
「いいんですよレイさん!下の兄妹はドラ○エのレベル上げの如く上の兄妹にこき使われる存在ですから!私の場合報酬は貰いますけどね!」
マユはそう言ってお菓子を抱えてシン達の部屋から去って行った。
「しかし……フェイトと親しげに話していたという男、随分とエリートなのだな。」
「ま、まあな……アイツが気になるのもしょうがないっていうか……お、おに。お似合いなんじゃないかなー。それに比べて俺は……。」
シンはふと、フェイトと親しげにしていた美青年……ホースキンと自分を比較してみた。
(アイツの方が俺より金持ちだし、イケメンだし、頭よさそうだしな……対して俺は……。)

 

シンがフェイトにした恥ずかしい事。

 

※泣いてるとこ見られた。(無印一話)
※着替え見た。(無印二話)
※心配掛けて泣かせた。(無印四話)
※ユーノと言い争いして怒られた。(無印五話)
※大泣きして慰められた(無印最終章)
※裸見た。(無印1.5話)
※嫌がっているのに無理やりお姫様抱っこ。(As四話)
※仇討とうとしたが奇襲にあって返り討ち。(As九話)
※ウサギに変身した際、何も知らないフェイトと一緒にお風呂に入った(短編四話)
※洗脳されたフェイトを取り押さえる際、成長した彼女の体見てゲフンゲフンゲフン(CE十話)
※何も話してくれないフェイトを無理やり拉致。(CE二十話)
※ラッキースケベとはいえヴィータを押し倒している所を見られた(CE20.5話)←NEW!

 

「ふおおおおー!!!!」ガンッ!
「!!?どうしたシン!!?突然壁を殴ったりして……!?」
「す、すまん!何だか殴らずにはいられなくて……!ちょっと頭冷やしてくる!」
シンはなんだか堪らなくなって飛びだすように部屋を出て行った。

 

それから数十分後、シンは空がすっかり暗くなった近くの公園を歩きながら自分の考えをまとめていた。
(考えて見れば俺の周りってかっこいい男ばっかりだよな、キラさんは気立ていいし、スウェンは大人っぽいし、ハイネは誰にでも好かれてそうだし、スティングやアウルはなんかバスケットとかやっててかっこいいし、レイはピアノ弾けるし……クロノやユーノやザフィーラだってエリートだし……。)

 

「……なぜ俺は出てこない?」
「どーしたんだアスラン?」
「カガリ……なんだか俺だけ省かれたような気がして……。」
「お前細かいこと気にしすぎなんだよ、だから生え際後退するんだぞ!」

 

(俺より魅力的な奴なんてたくさんいるしなー、嫌われる事ばっかりしてるし……フェイトもそいつらのほうに興味があるのかな?はあ~……。)
すっかり自信をなくしたシンは、落ち込んだ様子で深く溜息を着いた。
「よう坊主!こんなところでなにしてんだい?」
その時、落ち込んでいるシンの元にたまたま散歩をしていたネオがやってきた。
「大佐……散歩ですか?」
「まあそんなところだ、ところでずいぶんと悩んでいたみたいだが?よかったら相談にのるぞ。」
「え?」
シンはネオの提案に一瞬戸惑う。
「なーに遠慮すんなよ、誰にも喋らねえからさ。」
「は、はい、じゃあ……。」
そして彼の優しい笑顔の裏に隠れる真剣な眼差しを見たシンは、彼にこれまでの事を包み隠さず話した。
「俺……フェイトを守りたいって思っているのに……なんで嫌なのか自分でも判らなくって……。」
「ふーん、あの金髪の嬢ちゃんがね……。」
ネオはシンの話を真剣に聞きながら、自分の中に湧いてきた疑問をシンにぶつけてみる。
「なあ、お前さんはなんであの嬢ちゃんを守りたいって思ったんだ?他にも沢山女の子はいただろうに?」
「いや……さすがにアルフは元は狼だし、なのはに会ったのは少し後だからってのもあったけど、でも……。」
シンはフェイトと初めて出会った頃の事を思い出をネオに語り始めた。

 

「やっぱり……心配で放っておけなかったんだと思います。」
「ほっほー?それでそれで?」
ネオは昔を懐かしむように語るシンの話を興味深そうに、真剣な面持ちで聞いていた。
「初めて会った頃のあいつって全然笑わなかったんですよ、母親があんなのだったし、いろいろとプレッシャーがあったからだと思うんです……それで俺、なんだかマユと重ねあわせちゃって心配になっていたんです。でもなのはと決着をつけてジュエルシードを全部集めた時、フェイトはボロボロの体で初めて俺に笑いかけてくれたんです。その時俺、すっごく嬉しくって……その後すぐに大変な事が起きちゃうんですけど……。」
「ふーむ、なるほどな!」
一通り話を聞き終えたネオは、全部判った!っと言った感じでシンの肩を掴み自分の元に引きよせ、彼の耳にそっと囁いた。
「坊主お前……嫉妬してんだろ?そのホースキンとかいう奴に。」
「嫉妬……?」
シンはネオが何を言っているのか分からず、図上に?マークを浮かべていた。
「つまりだなー、坊主はフェイトちゃんの笑顔が他の人間……いや、男に向けられるのが気に食わないんだ、せっかく手に入れた宝物を横取りされたような気がしてな。」
「宝……物……?」
そしてネオは畳みかけるようにシンにこう言い放った。
「まあ俺なら、何とも思っていない相手を腕切り落とされてまで守ろうとはしないけどな。」
「ど、どういう意味ですか?」
「ここから先は坊主自身で気付け、まあお前の場合、彼女と出会ったのが小さい頃だってのなら気付かないのもしょうがないのかもしれないな。」
そう言った後、ネオは大きな欠伸をしてその場を去ろうとしていた。
「ま、俺みたいに体張りすぎて相手を悲しませるような真似はするなよ。」
「は?なんですかそれ?」
「そういう意味だよ、んじゃまた明日。」
ネオはそう言い残して、シンに背を向けながら右手を振ってその場を去って行った。

 

「行っちゃった……。」
その場に一人取り残されたシンは、そのまま顔をあげて夜空の星を見上げた。
(フェイトが……宝物?それってどういう意味なんだろ?宝物っていえば……まあ金貨とか色々あるけど、自分にとって特別なものってことだよな?フェイトは俺にとって“特別な存在”だってことか?それって……。)
そしてシンは、とある結論に達した。

 

「俺……フェイトの事が好きなのか?」

 

その瞬間、シンの全身が真っ赤にそまり、彼は頭をブンブンと振り回した。
「い、いや違うだろ!俺がフェイトを守りたいと思ったのはマユと重ね合わせたからで……!」

 

『お兄ちゃん』
『シン』

 

「~~~!!?」
その時、シンの脳裏にマユとフェイトの笑顔が同時に浮かびあがった。
マユの笑顔は無邪気で可愛らしさに溢れた天使のような笑顔。
フェイトの笑顔は母性的な優しさに溢れた女神のような笑顔。
同じ笑顔でも、全く違う笑顔。そしてシンは先ほど自分がネオに言った言葉を思い出す。

 

“フェイトが笑いかけてくれて嬉しかった”

 

初めて会った見ず知らずの少年に手取り足取り魔法を教えてくれた優しい少女、
少年はそんな優しい少女が何故笑わないのか不思議に思っていた、原因が少女の母親に原因があると知った時、まだ幼い少年の心に怒りの炎が点っていた。世界すら少女を追い詰めていると知った時、少年の心には怒りを通り越して悲しさが支配していた。
少年は決意した、世界中が少女の敵になるなら自分が世界から少女を守ろうと、
それから少女は少年の助けで一つの壁を乗り越え、初めて少年に笑いかけてくれた。
少年はそれがとても嬉しくて、もっと少女に笑ってもらいたくて、彼女を守り続けた。
別れの日が近付いた時、少年は少女にお守りを渡して、離れていても少女を守ろうとした。
数年後、再会した少女は悪い魔法使いに操られて少年の敵になっていた。少年は腕を切り落とされながらも少女を助け出そうとした。

 

すべては少女の笑顔が見たかったから、大切な妹のものとはまた違う、自分だけが知っている、自分だけに向けてくれる笑顔。
今少女には沢山の大切な人が出来て、その笑顔は自分だけのものじゃ無くなったけど、それでも少女が幸せそうに笑う笑顔が見れて少年は満足だった。

 

そして少年は、そんな優しい笑顔を持つ少女に、いつの間にか恋心を抱いていた。
初めて会った時からなのか、初めての笑顔を向けられた時からなのか、少女の母親を助けられなかった時一緒に大泣きした時なのか、はたまたそれ以降なのか、少年には思い出せなかった。それでも幼い頃から抱いていた想いだという事は解っていた。

 

そして少年は幼き日は何なのか解らなかったその自分の想いに、7年かけて、人生の先輩のアドバイスを受けてやっと気付いたのだ。

 

「バカだろ俺……なんで今更気付くんだよ!!いや!なんで気付くんだよ!」
シンは心臓だけでなく、肺や胃まで鷲掴みされているような感覚に襲われ、急な息苦しさに襲われていた。
「くっそー!明日からどんな顔でアイツに会えばいいんだよ!俺の……俺のアホー!!」
そしてそれを紛らわすため、不甲斐ない自分に喝を入れる為、シンは夜空に向かって大声で叫んだ……。

 

次の日、一睡も出来なかったシンは目に大きなクマを作りながらミネルバの食堂で朝食をとっていた。
「うううう……味わかんね。」
「どうしたのシン?具合悪そうね。」
「まさかフェイトの件で悩んでいたのか?」
レイとルナはそんなシンを心配して声を掛ける。
「うんまあ……合っているようなそうじゃないような……。」
「何よ、はっきりしないわねー。」
そう言ってルナは意地悪そうにシンのわき腹をツンツンと突っつく、シンはそんな彼女顔をボーっと見つめた。
(うーん、やっぱルナの笑顔とフェイトの笑顔は全然違うな……。)
「な、何よ私の顔なんて見て……?」
シンにジッと見つめられたルナは、思わず顔を真っ赤に染め上げる。そこに……。
「あ、シンー、ちょっといい?」
書類を抱えたフェイトが、シン達の元にやって来た。
「ふぇ、フェイト!?」
シンは彼女の姿を見るや否や、素っ頓狂な声をあげてテーブルから立ち上がった。
「ど……どうしたのシン?何だか眠たそうだね。」
「んあ!?ま、まあな。」
疑問を浮かべるフェイトに怪しまれないよう、シンは慌ててごまかした。
「ところでフェイト、なんでミネルバに?」
「実は母さ……リンディ指令に書類を預かっていて……タリア艦長に届けなきゃいけないんだ、どこにいるか知ってる?」
「うーん、確か吉のほうに行ってるけど……もう少ししたら戻ってくると思うわ。」
「そっか……じゃここで待っててもいい?」
「いいわよ、ちょうどコーヒーでも飲もうと思ってたしね。」
そう言ってルナはフェイトの提案を受け入れ、彼女の隣の席に座った。
(そうだ……昨日の事聞くチャンスだよな、でもどうやって切り出そう?)
シンはルナと楽しそうに談笑しているフェイトに話しかけるタイミングを見計らっていた。
「そういやミッドチルダってどんなシャンプー使ってんの?今度使わせてよー。」
「そんな、銘柄が違うだけでこことは大差ないよ、でも成分とか違うのかもねー。」
(駄目だ……全然タイミングが解らねえ、いつもなら気軽に話せるのに……。)
シンはフェイトを意識するあまり、いつものように彼女に話しかける事が出来なかった。
「……なあフェイト、コレはアースラの皆から聞いた事なのだが……昨日オーブ軍の男と親しげに話していたそうだな?」
(レイ……!?)
その時、シンの心情を察したかのようにレイがフェイトに質問する。
「えっ!?まさかホースキンさんの事!!?」
「おお~?もしやナンパかなにか?」
ルナはニヤニヤ笑いながら肘でフェイトの体をツンツンと突く。
「そ……そんなんじゃないよ、昨日ホースキンさんにぶつかった時、ハンカチを貰って……後で洗って返しに行ったんだ。それだけだよ。」
「ふぅーん、へぇー、それだけなんだー?」
「やめておけルナマリア……フェイトが困っているだろ。」
「へいへい。」
レイに注意されて、ルナはつまらなそうに腕を引っ込める。それを見ていたシンは自信がとても安心しているのを感じていた。
(よ、よかった……のか?よかったんだよな……。)

 

一方フェイトは、心の中で不安を抱えながらシンの方をチラチラと見ていた。
(シン……変な誤解してないかな?でも彼……興味ないんだろうな、シンは私の事なんて……。)
「どうしたのフェイト?何だか元気ないわね?」
ルナはそんなフェイトを心配して、彼女に声を掛ける。
「ううん、なんでもない……あ!」
その時フェイトは、廊下の方でタリアが歩いて行くのを目撃し、慌てて席を立った。
「ごめんね、私行くよ、コーヒーごちそうさま。」
「ああ、それじゃまた後でね。」
フェイトはシン達にそう言い残し、ミネルバの食堂から立ち去っていった……。
(はあ……なんかまともに話せなかったなぁ……。)
彼女が立ち去った後、シンは自分の不甲斐なさに呆れて深い溜め息をついた……。

 

(ふむ……これはこれは、私のいない間に面白い事になっていますね……。)
シン達と少し離れたところに置いてある大きめのポット、デスティニーはその影に隠れてずっと先程のシン達の様子を見守っていた。
(しかし難儀ですねぇ、互いに想いながら相手の気持ちに気付かないなんて……ま、そのうち気付くでしょう。)
そしてデスティニーはそのままシン達の元に行く事なく飛び去って行った……。

 

どこかにある時の方舟のアジト、そこでカシェルはスターゲイザーからある指令を受けていた。
「もうすぐCE軍との約束の期限となっております、我々はなんとしてでもこの先の崇高な目的の為、一機でも多くのMSを手に入れなければなりません。ですが……一つだけ不安要素があります。説明しなくても解ると思いますが……。」
「…………。」
カシェルはスターゲイザーの言葉をとても不愉快そうに聞いていた。
「先ほど首領から指示を頂きました、“不安要素は排除せよ”とのことです。我々は明日、再びオーブに向かいます、そこで……。」
「あのアリシアを……殺すのか。」
ゲイザーがその言葉を言う前に、カシェルが遮るように言い放った。
「ええ、面倒だとは思いますが……マリアージュ達には任せてはおけませんからね、これは貴方の“意志”を測る任務でもあるのです、ではよろしくお願いしますよ。」
「ふん……。」
カシェルはゲイザーをひと睨みした後、不機嫌そうな顔をしながらその場を去っていった。その直後、ゲイザーは本当にうんざりと言った感じで深くため息をついた。
「……まったく、あのクソ人形のせいで余計な仕事が増えてしまいましたね。この大事な時に……あの時大人しく死んでいればよかったものを。」

 

数分後、カシェルはイクスのいる王座のある部屋にやって来ていた。
「あ、お兄ちゃんだー。」
「アナタは……。」
イクスは雫と楽しそうに絵を描いて遊んでいたが、カシェルの姿をみるやいなや途端に不機嫌そうに眉をしかめる。
「そう不機嫌な顔をしないでください、コッチだって好きでアナタを担ぎあげているわけじゃないんですから。」
「なら雫ちゃんを……あの人達を解放してください、いつまでこの子達をこんな所に閉じ込めておくつもりですか?」
「首領に言ってくださいよ、俺に決定権は無いんですから……。」
イクスの言葉を鬱陶しそうに聞き流したカシェルは、雫の描いていた何枚もの絵のうちの一枚を拾い上げた、そこには……なのはやフェイト、はやてらしき人物達の絵が、幼い子独特の絵柄で描かれていた。
「ふーん、うまいじゃないか。」
「えへへー、ありがとー。なのはお姉ちゃん達を描いたんだー。」
「お姉ちゃん、ね……。」
カシェルは何か思うところがあるのか、その絵をジッと見つめていた。
「どうしたの?お兄ちゃん?」
「ん……なんでもないさ、もうすぐおうちに帰してやるから、それまでいい子にしているんだぞ。」
「うん!」
そう言ってカシェルは雫の頭を撫でた後、王座のある部屋を出て行った……。
(どうしたのでしょう……?あの人、いつもより元気がなさそう……。)
そしてイクスはそんな彼の後ろ姿を、ただただ不安そうに見つめていた。

 

「ヴェロッサ……何を読んでいるのですか?」
ミッドチルダにある聖王教会、そこでヴェロッサは居間にあるソファーに座りながら資料を読んでいた所を、義姉であるカリムに話しかけられる。
「うん……例のはやて達が攫われた研究所で見付かった書類を見ているんだよ、誰かの手記みたいなんだけど……。」
「手記……ですか、恐らくその研究所の関係者の物でしょうね……。彼等は一体何を考えているのでしょうか?はやて達を攫うなんて……。」
「……。」
ヴェロッサはカリムの不安そうな言葉を聞きながら、先ほどまで読んでいた資料をどかして次の資料に目を移す、そこにはMSによく似たロボットらしき残骸が写された写真が記載されていた。
「その写真……まさか“ガンダム”ですか?」
「……?これの事を知っているのですか?」
カリムは意外だと言いたげに後ろに居たカリムの顔を見る。
「ええ、数か月前にいくつかの世界で確認された機動兵器ですよ、その写真のロボットも……触角みたいな角に白い頭をしているのですね。」
「……。」
カリムはその言葉を受けてしばらく考え込んだ後、ソファーから立ちあがった。
「カリム、少し本局のデーターベースに籠ります、少し調べたい事があるので……クロノ君達から連絡があったら教えてください。」
「わかりました……根を詰めすぎないようにね。」

 

カリムはヴェロッサが去った後、カリムはいつも座っているテーブルの自分の席に座り、半年前に書いたいくつかの書類を広げる。
彼女には預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)という古代ベルカ式のレアスキルを所有しており、短くて半年、長くて数年先の未来を予言することができるのだ、そして彼女は……半年前に自分が書いた預言書を読み上げた。

 

数多なる世界を繋ぐ場所に、幾つもの哀しみを抱えた魔王によって白い悪魔が招かれる。
白い悪魔はその世界に破壊をもたらし、同時にその世界を喰らい数多なる世界を守る“白き神”に変容する。
そして憎しみから開放された魔王は古代の王にその世界を治めさせ、使命を果たした魔王はその身を炎で包み自らの罪を浄解する。

 

自分が書いた預言書を読み終えたカリムは、そのまま窓の外に視線を移す。
外では大雨が降っており、天井から雨の当たる音がカツカツと聞こえていた。
「今日はよく降りますね……。」
雨雲で薄暗くなっている外を眺めながら、カリムは自分の胸の奥からわき上がる不安を、しっかりと押さえこんだ。
(出来ればこの不安とあの預言……外れてほしいですね。)

 

そんな彼女の不安をよそに、雨は勢いを弱めることなく降り続けた……。