魔動戦記ガンダムRF_24話

Last-modified: 2011-08-13 (土) 23:09:35

戦艦“時の方舟”のアリューゼの自室、そこには幾つもの年代物の日本の鎧兜が設置されていた、そこに招かれたフェリシアは余所余所しい態度で部屋を見回していた。
「おいおい、そんなに私のコレクションをジロジロ見られたらちょっと恥ずかしいじゃないか。」
そう言ってアリューゼはソファに腰掛けるフェリシアにコーヒーを手渡す。
「ご、ごめんなさいお父さ……じゃなかった、首領……。」
「うーん……出来れば前みたいにお父さんって呼んでほしいな、もしくはパパでも可……。」
「……。」
「はっはっは……このギャグ、どうやら面白くなかったみたいだね。」
そう言ってアリューゼは気まずそうに置いてあったコーヒーに砂糖とミルクを混ぜた。
するとフェリシアは何かを決意したかのようにアリューゼに問いかけた。
「どうして首領は……お父さんは私を娘として扱ったの?私がアリシアの記憶を持っているって事は私はフェイトと同じクローンで……。」
「ああ、ある人間によって推し進められていたプロジェクトフォーチューンによって生み出された量産型スーパーコーディネイターの試作型さ。」
「…………。」
改めて真相を打ち明けられたフェリシアは、落ち込んだ様子で下を向いてしまった。
「すまないな、君を利用するような真似を……でもどうしてもアリシアと同じ姿、同じ記憶を持つ君を放ってはおけなかったんだ。」
「…………教えてください、どうしてお父さんは皆を騙してこんなことをしたんですか?」
「…………。」
アリューゼは何も言わず立ち上がり、棚に置いてあった写真立てを見る、写真立ての中には若いころのアリューゼと、生まれたばかりのアリシアを抱いたプレシアの姿が映し出されていた。
「……もう22年も前になる、その時私はユーラシア軍の戦闘機パイロットとしてドイツの基地で訓練をしていたんだ、その時……エンジントラブルで事故にあったんだ、そして……。」

 

22年前、ミッドチルダのとある山奥……そこに一人の若き女魔導師が、研究材料を取りに重そうなリュックサックを背負って歩いていた。
「よいしょ、よいしょっと……確かこの辺に目的の薬草があった筈……あら?」
その時女性は、ここから離れた場所で強い光が放たれている事に気付いた。
「何かしらアレ……本で見た召喚の光に似ているわね。」
女性はその光に好奇心を持ち、光の発せられた方角に歩みを進めた。

 

「こ、これって……!」
光の発せられた地点に辿り着いた女性が見た物、それはこの魔法が発達した世界では全く見かけない、墜落して鉄の塊と化した戦闘機だった……。
「し、質量兵器!?どうしてこんな所に……あ!」
ふと女性は、戦闘機の影に宇宙服のような黄色い服を着た男が倒れているのを見付け、慌てて男の元に駆け寄り抱き上げた。
「う……ううう……。」
「大丈夫ですか!?酷い怪我……はやく治癒魔法を!」
そう言って女性は男に治癒魔法を掛ける、すると男の顔色はみるみるうちに良くなり、女性の顔をしっかりと見据えた。
「あ、アナタは……。」
「しっかりしてください!今人を呼んできますので……!」
「アナタは……アナタは……。」
「?私がどうかしました!?」
「アナタは……。」

 

―――アナタは……女神様?―――

 

それが、後にフェイト達の母親となる魔導師の女性……プレシアと、後に時の方舟の首領となるアリューゼの運命の出会いになるのだった。

 

「いやー助かりましたー、まさか訓練中に事故に遭ってそのまま異世界に飛ばされるとは!プレシアさんが助けてくれなかったら今頃俺死んでいましたよ!」
そう言ってアリューゼは運び込まれた病院の病室で、プレシアに見守られながら病院食を五人前平らげていた。
「あの……あっさり信じるんですね私の話……。」
「はっはっは!美人にウソツキはいませんからね!おかわり!」
「び、美人だなんてそんな……。」
アリューゼの歯に衣着せぬ発言に、プレシアは思わず頬を赤らめた。するとそこに執務官服を着た若い男がアリューゼ達のいる病室に入って来た。
「アリューゼさん、少しよろしいでしょうか?アナタに取調べを行いたいのですが……。」
「ああハイ、いいですよ、むさ苦しいところですけど……。」
(ここ病院なのに……。)
そしてアリューゼは執務官の男に自分の経歴を洗いざらい喋った。
「成程……良くわかりました、とにかくこちらの方でアナタのいた世界を探し出しますので数週間ほど待っていてください。」
「ありがとうございます、クライド執務官。」

 

数分後、執務官が去った後の病室でアリューゼはこれからどうするかあれこれ思案していた。
「さて……まさか異世界に飛ばされるとはな、マジでこれからどうしよう……暮らすところとか仕事とか……。」
すると、傍らでアリューゼの様子をジッと見ていたプレシアが口を開いた。
「あの……アナタの暮らしていた世界がみつかるまでよかったら私の家に来ます?」
「ええっ!!?いいんですか!!?」
プレシアの思いがけない提案に、アリューゼはベッドから身を乗り出して驚いた。
「はい、ちょうど今住んでいる部屋、一人じゃ広いし……アナタの事、放ってはおけません。」
するとアリューゼはプレシアの手を握り、何度も何度もお辞儀した。
「ありがとうございます!本当にアナタは女神のような人だ!」
「もう、そんな女神だなんて……。」

 

そしてその日からアリューゼとプレシアの共同生活が始まり、2人は一緒に暮らしていくうちに自然と惹かれ合っていた……。

 

「あの時は幸せだった、一目ぼれした優しく美しいプレシアと共に暮らせて、そのうち私はクライドさん達に見付けてもらったコズミックイラに帰ることも忘れて彼女と愛を育んだ、そして……私達は結婚し、五年後にアリシアが生まれた、でもその二年後……。」

 

事件はアリシアが二歳になった頃に起こった、アリューゼ達の暮らす家に突如管理局員が押し入り、アリューゼを拘束したのである。
「アナタ!」
「き……君たち!一体何をするんだ!」
「アリューゼ・テスタロッサだな……貴様をコズミックイラからの武器密輸、および兵器の設計図の密輸容疑で拘束する!」
「な、何を言っているんだ!?私はそんなことしていない!何かの間違いだ!」
「しらばっくれるな……ブローカーである貴様の仲間がお前の名前をしっかりと口にしたんだ!言い訳は局で聞く!」

 

アリューゼは何もしていなかった、しかし何者かによって無実の罪を着せられ、彼はコズミックイラの兵器を密輸していたテロリストと共に管理局の裁判を受けることになったのだ。そして……

 

「アリューゼ・テスタロッサ……貴公をミッドチルダから追放する、今後数年はこのミッドチルダに足を踏み入れることは許さぬ。」
「そ……そんな……!」
必死の弁明も届くことなく、アリューゼは追放処分を受けることになり、プレシアとも無理やり離縁させられることになったのだ。

 

それから半年後、アリューゼは時空巡洋艦が泊っている港のロビーで、プレシアとまだ幼児のアリシアと最後の別れの挨拶を行っていた。
「うっ……ううう……どうして?どうしてアナタが……私達がこんな目に……!」
「おかあさん?ないているのー?」
「プレシア……泣かないでおくれ、僕は君の笑った顔が大好きなんだだから……。」
「そんなの無理よ……!だって私達はもう……!」
アリシアを抱きながら泣きじゃくるプレシアを、アリューゼは優しく抱きしめた。
「二人とも……私は必ず君達の元に帰って来る!だから……強く生きてくれ!お願いだから……!」
「おとーさん、おかーさん……。」
「ううううっ……ごめんなさい、ごめんなさい……。」

 

そしてアリューゼは巡洋艦に乗り、プレシアとアリシアに別れを告げて故郷であるコズミックイラに追放された、それが……彼女達との今生の別れになるとも知らずに。

 

アリューゼはコズミックイラに帰還後、ユーラシア軍に復隊し戦闘部隊の隊長として働いていた、同僚達は何故アリューゼが9年も行方を晦ましていたのか疑問に思っていたが、コーディネイターの間で緊張が高まっていたこともあって少しずつ気にされなくなった。

 

そして三年前……アリューゼの目の前に“運命の女神”が現われたのだ。

 

CE70年一月、まだ血のバレンタインが起こる一カ月前の事……アリューゼは夜の繁華街で飲み友達のエドモンドと連合軍を退役し傭兵をしているリードと共に飲み屋を渡り歩いていた。
「うぃ~!もう一件いくぞ~!」
「おいおいリード、飲みすぎじゃないか?」
「バーロゥ!このご時世飲まなきゃやってらんねえよ!」
「たしかにな……コペルニクスの事件のせいでプラントもMSという物騒な兵器を量産しているからなぁ、いつ戦争になるかわかったもんじゃない。」
「MS……か。」
アリューゼはプレシアとアリシアと別れる原因の一つであるこの世界の兵器の進歩に、少なからず嫌悪感を抱いていた。
(この世界にナチュラルとコーディネイターという二つの種族さえなければ、人々は争う事も、物騒な兵器を作ることもしなかっただろうに……!)
その時リードが突如地面に蹲り、胃の中の物を盛大に吐き出した。
「うおぼろおろおろ……!!」
「うわっ!きったねえ!」
「飲みすぎだお前は……しょうがない、俺はリードを送って行くからアリューゼは先に帰っていてくれ。」
「あ、ああ……。」
そしてアリューゼはエドモンド達と別れ、人気のない路地裏に入って行った。その時アリューゼは背後から只ならぬ殺気を感じた。
「……何者だ?」
「ふふふ……流石はユーラシア軍大尉、いや……称号で測れる方ではありませんでしたわね、アナタは……。」
アリューゼは警戒しながら背後を見る、そこには黒尽くめの格好をした自分と同い年程の女性が立っていた。
「もう一度言う、アンタは何者だ?私に気取られずに背後を取るなんて……。」
「そうですね……この世界の住人ですが、ミッドチルダとも関係している者……とでもいいましょうか。」
「ミッドチルダ……だと!!?」
アリューゼはこの世界では自分しか知らないであろう異世界の名前を知っているその女性に思わず詰め寄った。
「アンタ……まさかミッドの人間なのか?それに……どうして私の事を知っている?」
「そうですね……実はアナタに伝えておきたい事があるのです、こちらに来ていただけますか?」

 

アリューゼはその女性に誰もいない廃墟と化したアパートに案内され、そこで悲しい事実を突きつけられた。
「プレシアとアリシアが……死んだ!!?」
「ええ……娘さんは数年前に事故で、そのことで心を壊したプレシアさんは四年前、ある重大な事件を起こし、私にジュエルシードを託して死にました。」
「ウソだ……ウソだッッ!!!」
アリューゼは女性の言っている事が信じられず掴みかかる、しかし女性は冷静にその時の詳しい話をアリューゼに話した。

 

アリューゼと別れた後、プレシアはある企業で魔力動力炉の開発に携わっていた事、
そして部下のズサンな安全管理により事故が起き、アリシアが死亡した事、
もう一度アリシアに遭う為、プロジェクトfateに参加してフェイトというアリシアのクローンを作った事、
本物のアリシアを蘇らせる為、フェイトを利用して事故によってばら撒かれたジュエルシードを集め、そして最後に時の庭園と共に運命を共にした事……。

 

「実は私、PT事件の時に彼女に協力していたんです、ジュエルシードを貰う代わりに余命短い彼女の代わりに生き返らせたアリシアを守りアナタに真実を伝える為に……。」
「……!!アリシアは生きているのか!!?」
「ええ、企業秘密ですが私はそう言う技術の知識が豊富なのです。」
「そうか……でも生きているのならそれでいい……!」
アリューゼは気持ちを落ちつかせる為、傍にあった埃だらけのソファに腰掛けた。
「……プレシアの事はすべて話しました、本題はここからなのです……実はアナタに協力してほしいことがあるのです。」
「協力……?」

 

数日後、アリューゼは女性の案内である人里離れた研究所にやって来た。そしてそこで……驚くべき物を目にした。
「これは……アリシア!?隣にいるのは……!」
アリューゼの目の前には二つの巨大なガラス張りのカプセルのうちの一つに入れられたアリシアにそっくり少女がいた。そして隣には……黒い髪の少年が液体に浸かっていた。
「この子達は私が作ったプロジェクトフォーチューンによって生み出された量産型スーパーコーディネイターの試作型、“F014”と“F015”です、プレシアが提供してくれたアリシアの遺伝子から創り出した子、つまり……。」
「この子達は私と血が繋がっているのか……。」
その時、ガラス管の中にいたF015が目を覚まし、液体を排出した後ガラス管の中から出てきた。そして……アリューゼの前に立った。
「君は……。」
「…………。」
「F015はアリシアの記憶を引き継いでいるのですが、彼は男性型なので矛盾が生じてしまいます、そこで私が彼に真実を伝えておきました。無論、PT事件の事も……。」
女性はアリューゼがF015に対してPT事件の時のプレシアがフェイトにしたような事をしないか危惧し、一度会わせて様子を窺っていた、すると……。
「ほほう、眼の色が母さんと同じ金色なのか……それにいい体だ、こりゃ将来が楽しみだな。」
「え……?」
そう言ってアリューゼはF015の頭を撫でる、対してF015はアリューゼの予想外の反応に戸惑っていた。
「これは……予想外の反応ですね。」
「アリシアが生まれた時、彼女に弟や妹をプレゼントしたいと言ってプレシアに顔を真っ赤にされながらメッてされたのを思い出したよ。授かり方がちょっと他の子と違うが……この子は私の息子だよ、無論隣の子も……。」
「…………!」
アリューゼの意外な言葉にF015は目を見開いて驚く。
そしてアリューゼは改めて後ろに居た女性の方を向き、彼女に問いかけた。
「それで……アナタの目的はなんですか?なんでこんなプロジェクトを……。」
「まあ単純な事ですよ、私はこの世界を変えたいんです、その為には……この世界を守護する“神”を作る必要があるのです、古の人類が創り出した幻想ではなく、この世に現存する神を……!」

 

「お父さん……F015ってまさか……。」
アリューゼの過去の話を聞いていたフェリシアは、何かに気付いて彼に質問する。
「ああ、君の思っている通りさ……F015はカシェルのこと、つまり彼は君の姉弟……弟という事になるね。
「……!そんな……!」
「私がカシェルに言いきかせておいたのさ、君に真実を打ち明けたらきっと傷つく、だから黙っているようにとね……本当にすまなかった。」
「り、理由は解ったけど……それじゃ父さんはその人に協力する為に今回の事件を引き起こしたの?」
アリューゼは立ち上がり、飾ってあった鎧兜の埃を手で払った。
「アリシア……なんで人間以外の生き物は戦争をしないと思う?縄張り争いはするが、他の生き物を巻き込んで殺戮を行う事もない……。」
「わ、私にはよく解らないです……。」
フェリシアの答えにアリューゼはフフッと笑い、話を続けた。
「私はね……道具や力があるから戦争を起こすのだと思っている、戦闘機が無ければ街に爆弾が落とされる事はないし、銃が無ければ遠い場所にいる人間が殺される事も、流れ弾で無関係の人間が傷つく事もない、そしてそれは……魔法にも言える事だ。」
「まさかなのはやフェイトやはやてを攫えと命令したのは……。」
「ああ、リンカーコアを取り出し、彼女達には普通の人間になってほしいと思ったんだ、リンカーコアなんて物は彼女達を不幸にする、ゲイザーの独断のお陰で戦闘に利用され、あまつさえ目的の半分も達成できなかったがね……どうも彼は私に反抗的なようだ、彼女から預かったユニゾンデバイスなのだが……まあ問題はない、彼も私と目的は同じなのだから。」
そう言ってアリューゼは部屋にあったモニターの電源を点ける、そこには格納庫に収容されているMSの様子が映し出されていた。
「アリシア……これから私がやる事はその人に協力するだけでなく単なる復讐が混じっている、私達家族をバラバラにして母さんを陥れた奴らを八つ裂きにする為……カーペンタリアやガルナハンを攻めさせたのもその予行演習だ、どうする?このままこの艦に乗るか、それとも降りるか……私は強要しない。」
「……………。」

 

それから一時間後、フェリシアは自分の搭乗機となるあるモビルアーマーの前に立っていた。そこに……。
「ここにいましたか、アリシア様。」
パイロットスーツに着替えたカシェルがやって来た。
「もう……アリシア様なんて呼ばなくていいのよ?」
「……。」
フェリシアの提案にカシェルはしばらく考え込んだ後に再び口を開いた。
「……どうしてここに残ったの?俺達は……騙していたんだよ?」
「確かにそうかもしれないね、でも……それでもあの人は私の……私達のお父さんだから、そうでしょカシェル?」
「…………。」
カシェルは何も言わずに頷いた、それを見たフェリシアは思わず笑みをこぼした。
「それに私達家族を……お父さんの故郷を滅茶苦茶にした奴等をこのままにしてはおけない、愚かだって言われても私はこの計画に最後まで付き合うわよ。」
「……わかった、もう何も言わないよ。」

 

「おや、随分とまあいい雰囲気ですねぇ。」
すると2人の元にユニゾンデバイスのゲイザーがヘラヘラ笑いながらやって来た。その右頬には大きなガーゼが貼ってある。
「ゲイザー……もう怪我は大丈夫なのかい?」
「ええ、ご心配をおかけしました。」
「別に心配はしていない。」
冷たく言い放つカシェルに対し、ゲイザーは頬を膨らませて反論する。
「もー!そんな邪見に扱わなくたっていいじゃないですかー、これでも反省しているんですよー?」
「はぁ……解ったよ、とにかくこの作戦が終わるまでこの話は後回しだ、アリシアも……いいね?」
「うん……。」
「お心使い、痛み入ります。」
そして三人は改めて自分達が乗るMSを見上げる。
「しかし……連合がこんなMAを開発していたなんて驚きですよ、しかも五機……まあすべて私達が使わせて貰うんですけどね。」
「元々エクステンデッド用に開発されていた機体らしいけど……まあこっちで調整してアナタに乗りこなせるようにしてある。残りはマリアージュにでも乗ってもらうか。」
「これに私が乗るのか……気をつけなきゃいけないわね、いつものより数倍デカイんだから……。」
そう言ってフェリシアは自分の搭乗機、デストロイガンダムを見て気合を入れなおした。

 

一方その頃オーブ軍基地では、時の方舟から助け出したデュランダルなどのCE各国の高官や一緒に監禁されていた高町一家の事情聴取が終わり、カガリやラクス達はデュランダルとユウナを交えて今後の事を話し合っていた。
「いやあ、カガリ達には迷惑かけちゃったみたいだねえ、でも僕が来たからにはもう安心だよ!」
「タリア……すまないな、君に負担を強いてしまったようだ。」
「それは本国のエルスマン議員に言ってあげてください、彼が混乱していたプラントをまとめていたお陰で私達は前線で戦えたのですから。」
「う、うむ……。」
「あのー?そろそろ本題に入ったほうがいいんじゃないでしょうか?」
ネオの提案に一同はコクンと頷き、彼に視線を集中させた。
「しかし君も大変だね……大統領はさっさと帰ってしまうしアリューゼ大佐が裏切りでショックを受けている兵達を宥めたんだから。」
「ははは……貧乏くじ引くのは慣れていますよ、それで今後はどうするんです?時の方舟は完全に姿をくらましてしまったんでしょ?裏切った連合兵やザフト兵も行方をくらましているし……。」
ネオの疑問にまずユウナが答える。
「もちろん!アリューゼ大佐にはそれなりの報復をさせてもらう!誘拐された僕達の精神的ダメージは計り知れないんだからね!」
(それにしては元気そうだけど……。)
マリュー他全員の気持ちに気付くことなく、ユウナはリンディに意見を言う。
「それに彼に聞いた話じゃ……コペルニクスの悲劇はフクザワとかいう君達の身内が引き起こしたそうじゃないか?首領さんが全部話してくれたよ、その辺の責任はどう取ってくれるんだ?今回の事件で連合、ザフト、そしてオーブ共に人的被害は無くても破壊された街や盗まれたMSの被害は計り知れない、おまけに前大戦の被害を考えれば最悪君達の世界に報復戦争を仕掛ける可能性だって……。」
「ユウナ!」
歯に衣着せぬユウナの弁論に、カガリが横やりを入れて止める。ユウナはそれに対して少し臆すが、すぐに反論した。
「カガリ!君はまさか彼女達管理局に罪はないとでもいうのかい!?彼女達の身内のせいでユニウスセブンやエイプリルフールの悲劇が起きてコーディネイターとナチュラルに埋まる事のない溝ができたんだ!君の父上だって死ぬ事は……!」
「だからといって……!報復戦争を行ったって父上は!アサギ達は帰ってこない!同じ事を繰り返すだけだ!」
互いの意見をぶつけ合うユウナとカガリ、そんな彼等を見てリンディは決意に満ちた表情で言い放った。
「犯人に関しては我々がこの命に代えてでも見つけ出し、アナタ達に引き渡します。それでも駄目なら私の命を差し出したって……。」
「リンディ提督……!」
リンディの本気の覚悟を目の当たりにし、ユウナを始めとしたその場に居た人間達は思わず黙り込んでしまった。そしてラクスとデュランダルが長い沈黙を打ち破った。
「話が脱線しましたわね……それでどうするのです?時の方舟を探すのですか?」
「もちろんそうしたほうがいいだろう、私の聞いた話ではまだ彼らの計画はこれで終わった訳じゃないらしいからな。」

 

一方その頃、オーブ軍基地に停泊しているアースラのフェイトの部屋の前……そこでシンとユニゾンデバイスのデスティニーはリードや助け出した士郎達の話を聞いて閉じこもってしまったフェイトとアルフの様子を見に来ていた。
「フェイト……大丈夫か?」
『…………。』
「返事がありませんね……やっぱりアリューゼさんの事を……。」
「シン君。」
するとそこにフェイトの様子を見に来たアリシアとリニスがやって来た。
「アリシア、リニス……。」
「どうですか?フェイトの様子は……?」
「中でアルフがついているよ、やっぱりショックだったみたいだ。」
「私だってそうだよ、まさかアリューゼさんが私の父親かもしれないだなんて、それにフェイトは最近まで母さんがああなった理由を知らなかったし、時の方舟に酷い事をされていたから……。」
「うん……。」
そう言ってシンは再びフェイトの自室の扉に視線を移した。

 

その頃、アースラのデータベースでは、クロノとユーノが時の方舟のアジトから助け出した忍からある話を聞いていた。
「忍さん……!それは本当なんですか!?時の方舟が新しいガンダムを作ろうとしていたって……!?」
「うん……私の家の蔵の中に、この世界のMSと似たような兵器の設計図が置いてあったのよ、私も興味あったんだけど人員と資金と技術がないから宝の持ち腐れでね……その技術を応用してノエルとファリンを作ったんだけど。」
「成程……アリューゼさんはそれに目を付けたのか、それで士郎さん達を攫ったりして……。」
「で?これからどうするの?カシェル君達を追うの?彼らイクスちゃんを使って何か企んでいるみたいだけど?」
「うーん……。」
忍の指摘にあれこれ思案するクロノとユーノ、その時彼らの元にエイミィから通信が入ってきた。
『く……クロノ君!ブリッジに来て!大変だよ!』
「……!?どうしたエイミィ!?何があった!?」
『こ、広域探査をしていたら太平洋上に強い転移反応が……!とにかく早く来て!』

 

同時刻、ハワイ島付近の海面上……そこに一隻の巨大戦艦“時の方舟”が浮上して来ていた。
そしてそのブリッジでは、艦長席に座っているアリューゼが大きな声で号令していた。
「目標……ミッドチルダ!総員準備!」
そして号令と共に上空に巨大な魔法陣が現われ、方舟はその中に入って何処かへ転移して行った……。

 

「き、消えた……!?」
その様子を会議室のモニターで見ていたラクス達は思わず言葉を失っていた。
『リンディさん……あの戦艦はもしかして時の方舟の……。』
「やれやれ、いつの間にあんな巨大な戦艦作ったんだい?まるで小さなコロニーだ。」
「どこから資金が出ていたのか気になりますね……。」
「クロノ、エイミィ、時の方舟がどこに行ったのか解る?」
『すみません、追跡はしたんですけど……。』
そう言ってモニターの向こうで落胆するエイミィ、その時、クロノ達が映っていたモニターにある人物が映し出された。
『彼らの行き先に心当たりがあります。』
「士郎さん!?それってどういう事ですか!?」
モニターに映しだされた士郎に質問するリンディ、それに対し士郎は淡々と答える。
『彼は……アリューゼさんは元々、このコズミックイラに危害を加えるつもりはなかったみたいなんだ、むしろこの世界の平和を願っていたようで……。』
「平和!?バカバカしい!アイツ等はカーペンタリアやガルナハンに攻撃を仕掛けたんだぞ!」
『それは……あの基地に危険な兵器が置いてあったから、それにデュランダルさん達を攫ったのだって、なるべく被害を出さないようにMSをこの世界から取り上げる為に……。』
「うっ……!?」
筋の通った士郎の話に、ユウナは思わずたじろいた、そしてデュランダルが彼らの話に入って行く。
「そう言えばアナタはよく首領とお話していましたね、という事は彼らが今どこに向かっているのか見当がついているのですか?」
「はい、彼等が向かっているのは恐らく……。」

 

「時の方舟がミッドチルダに向かっている?」
それから数分後、シン達MSパイロットやなのは達魔導師達はアースラのブリーフィングルームに集められ、クロノとネオから先程の話の内容を聞いていた。
「ああ、高町さんの話じゃアリューゼは自分の家族を滅茶苦茶にしたフクザワや管理局に強い恨みを抱いているらしい。」
「んじゃあさ……もしかしてあのオッサン、MSを使ってミッドチルダを火の海にしようとしていんのか!!?」
「それ大変じゃない!早く追いかけないと!」
「二人とも……忘れてないか?アースラが故障している今、我々に時空を超える術は……。」
話を聞いて慌てふためくヴィータとシャマルを、ザフィーラが落ちつかせる。
「まさか……アリューゼ大佐はその事も見越して我々をここに誘いこんだのか?」
「それだけ我々が厄介だと思われているのか……。」
「なんだか照れちゃうです!リイン達が強いって思われているんですね!」
「リインは呑気やなぁ……。」
そんな八神家のやり取りを横目に、クロノは話を続ける。
「とにかく今僕達に出来る事は何もない、せめてアースラのエンジンさえ動いてくれれば……。」
その時ルナマリアが何か思い出したのか、隣に居たアリシアとリニスに声を掛けた。
「ねえ、2人はどうやってこの世界に来たの?二人が使った装置を使えば移動することだって……。」
だがそのルナマリアの提案を、リニスは首を振って否定した。
「実は……私達がこの世界に来る時に装置が壊れてしまいまして……。」
「ええっ!?だってお前等向こうの奴等の不祥事とか調べていたじゃん!」
「それは……持ち込んだ資料とこの世界の情報を照らし合わせて得た情報でして、決して行き来して作った物じゃないんですよ。」
「ごめんね……私達じゃ力になれないよ。」

 

「ふっふっふ……話は聞かせて貰いました。」
その時、シンの肩に乗っかっていたユニゾンデバイスのデスティニーが突如前に躍り出た。
「デスティニー?何かいい作戦でもあるのか?」
「ええ……私とノワール、そしてフリーダムに任せてください。」
するとデスティニーに名指しされ、ユニゾンデバイスのノワールとフリーダムも前に躍り出た。
「そうだね~、僕達なら何とかできるかも~。」
「オイラ達にお任せくださいッス!」
「頼もしいな、具体的にはどうするつもりなんだ?」
スウェンの質問に、デスティニー達は自信あり気に胸を張って答えた。

 

「私達の魔法で……ミッドチルダへの転送ゲートを作ります、これなら十分な戦力をミッドチルダに送り時の方舟と戦うことができる筈です。」