魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED

Last-modified: 2013-01-26 (土) 12:31:06

「本当に、行くんですか?」

 

少年の声が響く。

 

「・・・・うん。あの人に誓ったんだ。戦い続けるって、信じ続けるって。
だから、いつでもこの優しい世界にはいられない」

それは別れの記憶。懐かしい記憶。
ああ。これは夢だ。
僕は久しぶりに、夢をみているのか。

「そう、ですか・・・・でもっ、またいつかは!」
「そうだね。また、いつかは・・・・──ほら、君は男の子なんだから、あの娘達の支えになってあげてね・・・・」
「っ、はい!」

そうだ。これは4年前だ。
白い靄の中にある、藤黄色の少年と、栗色の少女。沢山の経験と幸せをくれた、子ども達。
ある者はちょっと泣いてて、ある者は毅然としてて、みんなが僕なんかの為に別れを惜しんでくれてて。

 

あれから4年の今。

 

この子達は今、元気なのかな。何をしているのかな。
もう会うことはできないのだけど何故か、今になって無性に気になって・・・・

「そろそろ限界だ。帰るなら、今しかないぞ」
「──わかってます。・・・・みんな、じゃあね・・・・!」

突然、景色が薄れ、海と穹とが曖昧になり、全てが白一色になる。意識が混濁し始め、思考が覚束なくなる。
だけど、不快ではなく。
これは世界が別たれていく感覚だ。

 

どうやら夢の時間は終わりみたい。

 

寂しい気もするけど、なんだか元気を貰えたような気がした。
いつも輝いていた彼女らと、夢の中とはいえ久しぶりに会えたから?
なら、今日という一日は張り切っていってみようかな。そうすればきっと、あの子達も喜ぶだろうから。

 

じゃあ、そろそろ、起きないとね──

 
 

魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED

 

『プロローグ 夢が導いた場所』

 
 

知らない天井だ。

 

溢れんばかりの白の部屋。全てを拒絶するかのような、潔癖症のような見知らぬ場所。
まるで白い宇宙のようだと思って、
そこで僕の意識はどうしようもない──清々しい目覚めも崩壊するような──違和感と共に覚醒した。

「──・・・・地球の重力がある?」

ぽつりと呟いてから、気付く。
おかしい。
記憶が正しければ、僕は木星圏の宙域に建設したコロニーに住んでいた筈なんだけど・・・・
なのに。全身に感じるこの気だるい重さは、この一種の安心感は、正しく純粋な1G。
この感じは、絶対に宇宙船やスペースコロニーでの人工重力では造れないものだ。という事は、ここは地球なのか?
違和感はこれ・・・・?

「ここは、病室なの?」

寝起きの緩い頭をコツンと叩く。
数秒の思考を獲て、脳が正常に回転しはじめてきた。
何故、どうして、という思いはとりあえず脇に置き、まずは状況認識が先決と布団をはね除け身体を起こし、周囲を見てみれば。

 

白い天井、白い壁、陽光を遮る灰色のカーテンに、フカフカな白いベッド。
有機的な木製の机とタンス、色とりどりの花々、陶器の花瓶。
電灯と光と影。
自身という人間の存在。
決して真っ白じゃない、人間の居住を前提にした施設。そこにもう拒絶は感じられなかった。

 

ここはなんとも、TVドラマ等でよく見られる典型的で普遍的な、個人用の病室なようだ。ここを病室と判断できるファクターは、ベット脇にある点滴装置と心音図記録ユニットぐらいしかないけど。
そしてやっぱり、ここは知らない場所で。

 

この状況にも、違和感。

 

「僕、怪我なんてしてないんだけど・・・・」

思考を言葉に変換して、自分の存在を確かめる。
身体を動かしても痛む箇所なんてないし、包帯とかも巻かれてない。
貧血で倒れた・・・・なんて事はないだろうし、最近精神を病んだ記憶もない。
なのに、何故。
何故、僕はこんな所にいるんだろう。
いつの間に、こんな事になっているんだろう。
わからない。
わからない事だらけだ。何かを知れば知るほど疑問と不安が募り、孤独がそれを加速させる。
・・・・あ、もしかして。木星宙域捜査ミッション中に寝ちゃって、そのまま地球圏に流されてきたとか? それで僕は地球の病室に──、──いや、ありえないからさ。いくらなんでもそれはない。ありえない。
冷静になれ。突飛な事を考えてる場合じゃないだろ。
・・・・そうだよ。僕は昨晩、いつもの時間いつも通りに、宛がわれた自室で布団に潜ったじゃないか。
それが僕の日常なんだ。
昨夜に緊急ミッションが入ったなんて記憶はないから、それは確かな筈で。

 

だったら。

 

この不可解な状況・・・・何かしら異常に巻き込まれたと見るべきなのかな。
拉致されたという可能性も、知らない内に事故に遭ってたという可能性も、ある。
「無い」と思い込むことはできても、断定はできない。
そうするだけの判断材料もまた、無いのだから。

「・・・・まぁ、考えても仕方ないしね」

けど、まずは行動だ。
わからない事でいつまでも悩んでも仕方ない。
自然と身構えていた身体から力を抜いて、リラックスするように努める。
情報収集をしよう。

(ここが病室なら・・・・・・・・あった)

ナースコールのスイッチ。
これを押せばきっと、誰かが来てくれるに違いない。だって、その為に造られた機械なんだから。
だから。

 

僕──キラ・ヤマト──は躊躇わずに、そのスイッチを押し込んだ。

 
 

ベタだけど、そのスイッチは一つの物語の始まりのスイッチでもあったんだ。

 
 

──────続く

 
 

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