魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED_01話

Last-modified: 2014-02-19 (水) 23:53:53

僕こと、キラ・ヤマトは軍人だ。

 

現役職は木星第一開拓コロニー警護隊隊長‐兼‐木星宙域探査隊隊長の23歳。
因みに副隊長であり懐刀はシン・アスカ。
彼とはもう長い付き合いで、私生活でも職場でも頼りにさせてもらってる・・・・・・ってか、世話を焼かせちゃってるんだけどね。
文句を言いながらも付き合ってくれる彼を、僕は本当に良い人だと思ってる。

 

さて。

 

何故C.E.74で敵対関係──殺し合った仲──だった僕と彼がこんな穏やかな関係なっていて、
更に言えば、つい近年まで只の一般人だった僕が何故こんな大それた役職についているのかというと、それは今がC.E.78だからに他ならない。
かつて、二度に渡って繰り広げられた悲しい大戦からは既に4年が経過した、戦争が過去の記憶となった時代なんだ。

みんなの『力と想いと努力』でなんとか世界に平和の種と歌を広げていった末に、無事に育て上げられ花咲いた集大成はC.E.75の冬。
人々は次第に活気と笑顔を取り戻し、新しい命が健全と芽吹いていって。
そして新天地としての外宇宙に再び目を向けるまでは、さして時間はかからなかった。
コーディネイターが本来の使命に目覚め、人類の新たな足掛かりとして木星圏に新型コロニーを建造・完成、僕ら『先大戦の英雄御一行様』が第一陣として、木星圏開拓責任者になったんだ。

 

それがこのC.E.78という年。
地球人類の大きなターニングポイントであり、全てが円満に成った年だ。

 

僕はあの人への誓いを、あの子達との約束を、守ることができたんだ。
そしてようやく、僕達の戦いは、終わりを告げたんだ──

 
 

『第一話 出逢いと再会と、ずれた時間』

 
 

見知らぬ病室で目覚めて、とりあえずと押したナースコールのスイッチは、四つの事実を僕に与えた。

一つ目は、僕は先程まで木星にいた、キラ・ヤマト本人で間違いないという事。
記憶改竄等といった処置はされていないと、ましてや記憶喪失等でもないと保証された。
完全な健康体だってさ。

二つ目は、ここが新暦79年の『第一管理世界‐ミッドチルダ』という、【魔法】が存在する別世界であるという事。

三つ目は、僕は昨夜、この世界に存在する『聖王教会』という場所に一人突然【顕れ】、倒れていたという事。

そして四つ目は、この個人病室は聖王教会内部の施設であるという事だ。

統合すると、僕は【次元間転移】をして、別の世界にいるという事で。

(僕って、こんなのばっかりだな・・・・・・気絶するたびに別の場所にいる気がするよ・・・・・・)

魔法の世界。
次元の海を超えて辿り着いた平行世界。C.E.ではない世界。
今まで自分がいなかった世界。

俄には信じられない話だ。いきなり異世界に跳ばされた、なんて。
突拍子のない夢物語と一笑に付すのがベターだろう。それこそ、出来の悪い魔法ファンタジー漫画のようだってね。

でも。

残念ながら事実みたいで。
だって、この地球型惑星の大気の外にある、巨大な双月を見せられちゃ。この世界、この次元世界に属するたくさんの惑星の歴史を、人間の営みをまざまざと見せられちゃ、納得するしかないじゃない。そんなモノは僕らの世界にはなかった。そんな常識は僕らの世界にはなかった。

 

確認する。
ここは『ミッドチルダ』。魔法と並行宇宙論が常識となっている、異世界なんだ。

 

普通なら、パニックになる所だろうか。
ありえないと、帰してくれと、何故こうなったのだと。故郷を思って錯乱するのがきっと、普通のリアクションだと思う。
でも、なんとか僕は冷静でいられてる。全てを理解した上で、懐かしい想いと共にただただ静かに受け入れていた。

 

何故なら。
僕にとって次元間転移は初めてではなく、魔法の存在も既知のものなのだから。 4年前に初めて体験して、これで通算三度目の転移になる。

 

──当時は滅茶苦茶焦ったんだっけ・・・・・・右も左も分からなくて、茫然自失になって。
そしてその時に、僕は彼女らと出逢ったんだ。

 

◇◇◇

 

一夜が明け、麗らかな午後。具体的には15時あたり。ここで目覚めて27時間経過。
僕は薄青の患者服のまま、同行者もつけずに教会敷地内を散歩していた。
柔らかな陽光の中、ヨーロピアンで芸術的な建造物に見惚れながら──たったそれだけの感想を抱えながら──僕は思考の海に没する。
考えるべき事は何時だってある。

一つは帰還方法。
前回──4年前、二度目の転移時──海鳴市からC.E.74に帰還した際には、トリプル・ブレイカーとアルカンシェルと『闇の書の闇』との対消滅反応によって発生した、時空の歪みを利用した。
けど、アレは偶然の産物だし、そもそも再現できないだろうから同じ手で再転移はできない。
あと医師から訊いた話では、ミッドチルダでも『C.E.』なる暦の世界は未だ聞いたことがないんだって。
だから普通に施設を利用して転移することもできやしない。
ないない尽くしで、このままでは帰還不可能だ。
【魔法】といっても基礎は科学。万能じゃないんだよね。

「・・・・・・どうしよう、かな・・・・・・」

次にC.E.の事。
あまり実感はないけど、キラ・ヤマトの存在は現C.E.では最重要ファクターとなっている。
そんな自分が突然消えて、もう少なくともニ日は経っていて。向こうの人々はパニックになってないだろうか心配になる。
それに、初めて僕が次元間転移したキッカケは宇宙要塞メサイアの爆発なんだ。もしかしたら、あのコロニーが大規模な爆発をしてしまったのではないかと思うと尚更だ。
そんなことはないと、思いたいんだけど・・・・・・

「大丈夫かな・・・・・・」

最後に、これからの事。
今の僕には肩書きどころか、個人データも金銭もない。世界の異物・イレギュラーとして存在しているだけ。
要するに、行動が非常に制限されているんだ。
最悪ここでの生活を考えるのであれば、この教会なり孤児院なりにお世話になることもできる。だけど、それじゃ駄目なんだ。
僕は、帰らないといけない。動かないといけない。そうしなければならない。
それもなるべく早急に。
じゃないと、沢山の人に迷惑がかかる。

 

ならば、今後どうするべきなのか?

 

次元の海を管理する超々巨大組織、時空管理局を頼るのが正解なんだろうけど、ただの次元漂流者というパスだけじゃ特急便には乗れない。身元不明者の地元を「早急に」探してもらう、なんて事を頼むにはパンチが足りないんだ。
知人が一人でもいれば話は変わるのだけど、あいにく海鳴市ではないここ『ミッドチルダ』には自分の事を知っている人すらもいないだろうし──ん、・・・・・・いない?

「いや、まって? ・・・・・・そうだ、クロノ君なら?」

いた。忘れてた。思い出した。
『海鳴市』をキーワードに、どんどん頭に蘇る者達。その中にいたはずだ。
小さい身体に使命と覚悟で満たしていた黒髪の少年、クロノ・ハラオウン執務官の存在が。
彼は管理局員だ。つまり、僕をよく知っている管理局員だ。そして聞けば、ここは管理局のお膝元。
上手くやれば接触できるかもしれない。血路を拓けるかもしれない。可能性はきっと少ないけど0じゃあないよね。
それに、4年ぶりの再会にもなる。うんそうだ良いことづくめだ。

(よし、そうと決まれば──っ!)

思い付くまま、勢いのまま僕は走りだした。全力で、無心で。方向すら見定めず。

そして、

 

突然の、腹部への衝撃と、

「きゃっ!?」
「っ、な!?」

可愛らしい悲鳴。

 

それは、迂闊で、当然の帰結だったんだろう。
周囲を確認しなかったせいで、思考に夢中になってたせいで、人にぶつかってしまっただなんて・・・・・・!

「危ない!!」

一瞬の自失から醒めてまず目に入ったのは、ぶつかった衝撃で後ろに倒れそうになる、小さな小さな金髪の少女だった。
その角度は、いけない。このままでは、そのまま倒れれば後頭部を地面にぶつけてしまう。
つんのめった躰に鞭うって咄嗟に足を踏み出し、両手を伸ばして。なんとか少女を支えようとして──

「くっ!」
「はぅっ」

その右腕と腰をつかんで胸元にしっかり引寄せることで、まるで男女二人組のバレエのフィニッシュのようなポーズで、なんとか事なきを得た。
・・・・・・間に合った、か。
普段犯すはずもないミスの挽回はなんとか成功。うーん、シンに付き合って体を鍛えてて良かった。
いや自業自得なのはわかってるけどさ。感謝感謝。

「あいたたた・・・・・・」
「ゴメンね。大丈夫?」

熱に浮かされた頭を醒ます為に思考を切り換える。クロノ君の事は後で考えよう。後回しだ。
そうしてからやっと、僕の口から謝罪の言葉が飛び出た。
結構な勢いでぶつかったから、どこか痛めていたりしたら大変だ。女の子の躰はデリケートで、そしたら謝罪なんかじゃ済まない。済ますつもりもない。

「だ、大丈夫です。ごめんなさい」
「いや、僕が悪いんだ。ホントにゴメンね・・・・・・」

膝を屈め、正面から向き合う。
うん。見たところ、痛めてるとおぼしき箇所はない。大丈夫みたいだ。よかった。
ほっと一息安堵して、少女の腰から手を離したところで僕はようやく、冷静に現在の状況を確認できる頭を取り戻した。
まずは位置情報。廊下。誰かの病室の扉の前。
おそらくこの少女は、この病室の主のお見舞いに来たのだろう。そして走ってしまっていた僕とぶつかったんだ。

・・・・・・うん、一方的に僕が悪いね。

 

次に少女の容姿。これには僕は、少し驚いた。

 

「あ、きみ・・・・・・?」
「・・・・・・えと、どうしたんですか?」
「っ、いや、なんでもないよ。綺麗だなって驚いただけで」

慌てて取り繕う。変に言及したら失礼だ──と勝手に思う。何故そう思ったのかはわからない。
この娘、【オッドアイ】だ。右が翆で、左が紅。鮮やかな二種の宝石を持った珍しい人間。
好奇以上に、素直に美しいと思える瞳。遺伝子操作を施されて生まれたコーデネイターでもオッドアイの人はいるけど、ここまで澄んでいて、綺麗な人はいなかった。

 

とても、綺麗だ。何故こんなにも綺麗なのかは、わからないのだけど。

 

そんな少女の髪は、少し変則的な黄金のツーサイドアップ。絹のようにサラサラでいて長く、これも一種の宝石のよう。
服装は白い半袖のブラウスに赤いリボン、黄のサマーセーターに茶のミニスカート。高級そうな素材で構成されていて、きっと、どこかのスクールの制服だろう。
そして身長は僕の腰程度。肢体はほっそりとしながらも、軟らかく質のいい筋肉がついている事が確認できた。
歳は10程といったところで、多分良いところのお嬢さんなのかな。ちょっと涙目になっているのがとても可愛らしく──

 

「ヴィヴィオ? 誰かとぶつかったのかい?」

 

そんな事を茫然とつらつら考えていた時、少し高めな、少女のものとも聞こえるハスキーで穏やかな男性の声が目前の病室の中から聞こえてきた。
直後に扉が開く音。
途端、緊張する僕の身体。
状況と言葉から察するに、この少女の保護者さんなんだろうけど・・・・・・それ以上に、なんかどっかで聞いたことあるような声に──

「あの、ごめんなさい。僕の不注意のせいで本当に──、・・・・・・?」

まぁそれはそれ。疑念を脇に置き、勢いよく深々と頭を下げる。無事だったからよかったものの、この少女にぶつかったのは事実なんだ。とにかく謝罪をしなければと思っての行動なの、だが。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

なにやら様子がおかしい。
頭を下げてから10秒は経った。なのにどうして黙っていて、なんの反応もないんだ? 普通こういうシチュエーションって、僕を責めたりするものじゃないか。
そんな気配すら無いなんて。
不審に思い、僕はそろそろと下げていた頭を上げていって、今の今まで靴しか見えていなかった問題の男の顔を見た。

 

見て、身体が、刻が、思考が止まった。
急速に喉がカラカラに干上がって、言葉が出せない。

 

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・? ・・・・・・?」

何故、この金髪眼鏡の男性は茫然と、唖然と、僕の顔を見ているのだろう?
そして何故、どっかで見たことあるような顏をしているんだろう?
ていうか、この顔は、あの声は間違いなくあの少年のものだよね・・・・・・?

 

俄然、思い出すは小動物。いやまさか。

 

理解したくない以前に有り得ない。だけどコーデネイターとしての頭脳は明確に答えを導き出していた。
だからこそ場を支配する沈黙。きっと頭脳明晰な彼も僕と同じ気持ちなのだろうから。

最終的に沈黙を破ったのは、僕と同程度の身長をもった彼だった。
疑問が僕の頭を埋め尽くす寸前、彼は僕の疑念を確信に変える言葉を口にしたんだ。

「・・・・・・キラ、さん?」
「・・・・・・・・・・もしかしなくても、ユーノ君、だよね?」

頭がどうにかなりそうだった。

 

◇◇◇

 

いやいやいやちょっとまってよ、おかしいでしょユーノ・スクライア13歳。なんで4年前は僕の腰ほどしかなかった9歳の少年が、僕と同じくらいの身長になっているのさ。
そしてその大人びた外見はなんだい。まるで立派な大人みたいじゃないか。
記憶の中の、僕との別れを惜しんでくれた君はもっと少年だった筈だよ。
成長期なんてものを凌駕してるよ君。魔法だなんて都合のいい言い訳は聞きたくないからね。
だって魔法はそこまで万能じゃないんだって君が言ったわけであって。
それに、たしかに僕はあの娘達を支えてあげてとは言ったよ? でも吃驚人間になれとはいってないんだから、此方にも心の準備ってものがあって──

うん。こんなに混乱したのは久しぶりだ。

登場するだけで僕をこんなにするんだから、一世一代の熱弁を奮ったラウ・ル・クルーゼも浮かばれないよ。

 

「──・・・・・・」

 

今という時間は15時45分。
僕達──僕とユーノとヴィヴィオと呼ばれた少女──は教会敷地内に設営されているオープン・カフェに腰を落ち着けている。
予想外にすぎる再会だったけど、まずは「落ち着いて状況整理」と彼が誘ったからだ。

うん。とりあえずコーヒーを飲もう。いつまでも、こんな驚愕に染まった表情をしてるわけにもいかないからね。
あ、美味しい。無乳無糖のオトナのブラックで落ち着いた。

「──ふぅ」

ため息一つ。様々な想いを載せて吐き出す。

対面に座った、大人ユーノはセミショートだった藤黄の髪を一房に束ねた、腰まで届くロングに換えて。妙に似合う萌葱色のフォーマルスーツを着込んでストレートティーを啜っている。
なんともはや、紳士的な容姿に育ったものだ。
装着した眼鏡も含め、ソレが彼の言葉に説得力を持たせていた。
──可愛らしいフェレットだった君は何処にいってしまったのだろう・・・・・・

「・・・・・・『14年ぶり』、か。君達の中じゃ、そうなってるんだよね。だから、つまり、君は今23歳で、僕と同い年だって事でいいのかな?」

僕は、先程のユーノの驚愕発言とそれに対する解説を要約した結論を、口を必死に動かしながら述べた。
だって、ずっと年下だと思ってた人物がいきなり同い年。23歳だなんて、驚愕しないわけがない。
それ以上に、

「でも、おかしいじゃない。時間がズレてるなんて・・・・・・」
「そうですね・・・・・・。キラさんと僕の話を纏めれば、一見そうなります。つまり、C.E.と僕達の世界とでは時間の流れが違うという事で、だからこそ、ソレは有り得ないんです」
「それって」
「キラさんだけが特殊な状況にある・・・・・・というのが今の僕の見解です」

 

時空管理局本局『無限書庫』司書長‐兼‐ミッドチルダ考古学者の説明に嘘は無いだろう。
ミッドチルダ含む次元世界に流れる【時間】は同一なものだ。
恒星と惑星規模の関係よる「公転周期」や「自転周期」は各世界──の名称の元となったメイン・プラネット内──で当然異なるが、「時間が流れる速度」や「生物の成長速度」、つまり時間信号は全ての世界で必ず同一であり、持ち込んだ時計の速度が変化する事は有り得ない。
そう、例えば世界Aから世界Bに渡り、そこで24時間過ごしてから世界Aに戻れば、ちゃんと世界Aでも24時間経過してるんだって。【時間】ってのはそういうもの・・・・・・らしい。

 

でも事実、ズレている。

僕が海鳴市から去って、僕の体感時間では約4年、ユーノ達の中では約14年。19歳と9歳が再会したら23歳の同い年になってる。
ユーノ先生曰く、考えられる可能性として、
指定空間内の時間信号をズラす魔法『封時結界』のようなモノでC.E.世界全体が包まれた説と、
僕自身に異常事態が起こってタイムワープをした説とがあり、前者は不可能、後者は考えられなくもない・・・・・・んだって。

「なるほど、ね」

なんか、疲れた。
今日は疑問と驚愕だらけだ。
こんな短時間にイベントばかり続いて、脳が悲鳴を上げているような錯覚さえする。

「そっ、か」

じゃあ、なのはもフェイトもはやても、みんな23歳になったわけか。クロノは・・・・・・30歳ぐらいかな。なんと三十路だ。
いつの間にか、追い付かれて、追い越されたのか・・・・・・
いや、その表現は違うな。僕は未だ確立されていないタイムワープで【未来】に来たみたいなのだから。
あれかな、『浦島太郎』ってやつ。じゃあ玉手箱的な何かもあるのかな・・・・・・ってダメだダメだ。
色々な感情と思考が飛び交って、これ以上考えてたら制御不能になってしまう。

「みんなは、元気なの?」

頭の上で展開されている話題の内容が内容だからか、先程から沈黙を保ってオレンジジュースを飲んでいるヴィヴィオと呼ばれた少女の為にも、ここは明るい話題を出すべきか。
彼女ぐらいの歳ならまだまだ遊びたいざかりの筈なのに、しっかりした良い娘さんだよ本当。

「なのはやフェイト達・・・・・・みんなの事。聴かせてほしいな。あの後どうなったのか・・・・・・それに、この娘の事もね」

そうだ。昨日見た夢で感じた衝動を、ここで発散しとくのもいいかもしれない。
新しい距離感に戸惑って、淋しさを感じてギクシャクとするよりは。
記憶の中の子ども達と、目前の青年との齟齬にショックを受け続けるよりは、ずっといいだろうから。

 

手始めに、さっきから気になる少女の事から教えてもらおうかな、ユーノ?

 

「あ! えーと、この娘はヴィヴィオっていって、な」
「ユーノの子ども?」
「ぶふぅ!?」

すっかり失念していたのか、泡を食ったように慌てて少女の紹介をしようとしたユーノに、ちょっとした親心──元歳上の意地──で先を制したつもりなんだけど・・・・・・なんで噴き出してるんだろう汚いなぁ。
間違った事を言ったつもりはないんだけどな。

「てっきり、なのはを選ぶものかと思ってたけどさ」

行儀良く座って、でも瞳をまん丸に、瞼をパチパチとさせて見返してくる少女に微笑み返してから言葉を続ける。
さっきは10歳くらいかなーって思ったけど、本当はもっと幼いのかも。
まぁ魔法の世界だし、女の子の成長って早いし、8歳ぐらいと言われても不自然とは思わない。
それでも15歳で出産させた事になるけど、まぁ若いとね。そんな事もあるよ。些細なことだ。

「・・・・・・・・・・・・はぃ?」
「え、と?」

ん? なんか反応が変だ。ユーノもヴィヴィオちゃんも固まってしまっていた。
なんだろう、こういう反応がミッドチルダのトレンドなのかな。流石に異世界の事情はわからないよ僕?
なにはともあれ、ユーノの先程からの反応からしてこの娘の保護者だって事は確実みたいだし。
何よりこの少女の瞳と髪が、よく聴けば似ている声の質が、誰と誰の子かを雄弁に語っているじゃないか。
おめでとう二人とも。祝福するよ。

「え、だってユーノとフェイトちゃんの子どもなんでしょ? その娘って」

フェイトちゃんの赤系の瞳、ユーノの緑系の瞳、二人の金髪。
これが意味するものは只の一つ。間違いない!

「違うよっ!!」
「ち、違いますよっ」

・・・・え、違うの?

 

あれー?

 
 

この時は。僕はまだ、自分の心の燻りに気付いては、いなかった。

 
 

──────続く

 
 

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