魔導少女リリカルなのはVivid‐SEED_15話

Last-modified: 2014-03-07 (金) 01:19:24

“でさ、結局シンは何をやったのよ? ちょっとキラ、アンタ教えなさいよ勿体ぶってないで”
“そうですわね、わたくしも気になりますわキラ。なんだか、このままでは有耶無耶になってしまいそうで”

 

え、えぇ?
ちょっ、いきなりなにさ二人とも!? そんな事言われたってこれから僕、なのはと接触するんだよ? このタイミングでそんな余裕・・・・・・

“でもよ、それこそ今しかないんじゃね? 戦いに集中したいならアイツが何やったか説明するの、かなり後回しになるぜ”

うーん、確かに・・・・・・
でもなぁ──・・・・・・あ、そうだ。ならラウさんに訊いてよ。MSに詳しいし丁度いいじゃない。

“なに!? 私に振るのか!?”

だって仕方ないじゃないですか。この面子で状況わかってるのって、僕以外じゃ貴方だけなんだし。好きなんでしょ説明?
ね、お願いしますよ、ラクス達の為に簡潔に。ね?
じゃあ後はよろしくね。僕忙しいから!

“・・・・・・有無を言わさず、か。成長したものだ。・・・・・・仕方あるまい、貸しということにしようじゃないか。──ふむ、シン・アスカが何をしたか、だな。ならばよく聴きたまえ諸君”

“はい”
“お願いします”
“あ。キラも言ってましたけどなるだけ簡潔にお願いしますよクルーゼさん”

“ぐ・・・・・・、・・・・・・努力はしよう。
──さて。単純に言うのであらば、シン・アスカのデスティニーはインパルスの後継機であるという点が、ここでは重要になる。インパルスが換装機というのは知っているな? そしてデスティニーはインパルスの装備を全て纏めた万能機として開発されたものだと”

“?”
“それが、あのなのはさんの超砲撃と青組の速さと何の関係が? というか凄いですよね、あんな短時間で12.5kmも”

“順を追って話す。
確かにギルバート・デュランダルが開発させたデスティニーは万能機だが、同時に換装機の特性をも受け継いでいるのだ。来るべき新世界の守護神として、あらゆる敵を屠る為にな。
もっとも、コンセプトとアプローチは随分と異なるが。従来の換装機・・・・・・シンプルな素体が戦局に応じて装備を交換するのに対して、アレは一通りの機能を備えた万能機が戦局に応じて機能・装備を拡張する方式を採っている”

“それって、実はデスティニーには色んな武器が用意されてるってこと?”

“そうだ。対水中装備や後方支援用装備、機動補助装備等といったものがある。デスティニーのメインスラスター基に対艦刀や大型ビーム砲を懸架していた黒いパーツがあったろう。あれがバインダーとなってな。
しかしそれらはデータとして機内に存在しているだけであり、実際には生産されなかったのだよ。正確には、生産される前に戦争が終わったのだ。だから、キラ・ヤマトは失念していた”

“・・・・・・なるほど。つまり、シンさんは再現してみせたのですね? システムG.U.N.D.A.Mを用いて”
“あ、そうか。データがあればなんとかなるものね、アレを上手く使えば・・・・・・そういえばキラ誉めてたっけ。シンは冷静なら発想力と応用力が抜群だって。ちょっと妬けるかも”

“理解が速くて助かるなラクス嬢、フレイ嬢。
その通りだ。私が彼から得た情報と合致しているのなら、シン・アスカがあの量子論と並行世界論で構築されたシステムを用いて再現したものは後方支援用装備、デュートリオンビーム送電ユニットと簡易リニアカタパルトユニットだろう。
魔法用にコンバートして使用したそれらで高町なのは嬢に莫大な魔力を譲渡しつつ、青組前衛を射出したのだ。簡易といえどもその性能は赤組の即席カタパルトよりも上と考えて間違いあるまい。元がMS用なのだから。
・・・・・・以上が、シン・アスカがとった行動だ。これで満足かね?”

“はい、概ね”
“わっかりました。・・・・・・あー、けどまぁちょっと、やっぱ冗長だったんで80点ってトコですかねぇ”
“トールさんいけませんわ、そんな甘やかしては。60点が妥当でしょう”
“・・・・・・ふん、好きに批評するがいいさ。これが私の生き様なのでな”

 

はい、以上ラウ先生の長い長いMS講義でした。お疲れ様、みんな。

 

“おい待て貴様忙しいのではなかったのか?”

 
 

『第十五話 彼女達の見解』

 
 

突然なのだけれど。
戦闘時の高町なのは戦技教導官ってどんなもの? と問えば、殆んどの人がこう答える。
「莫大な魔力によって運用される、鉄壁の防御と精密砲撃を兼ね備えた要塞である」って。それは決して過言じゃなく、最早なのはの代名詞だ。
でもそれが全てじゃないんだよね。派手な砲撃と防御に隠れてあんまり目立たないけど、そもそも彼女はあのフェイトと、リインフォースさんとタイマンを張れる程の空戦技能とセンスを持っているんだ。ってか、その空戦技能があってはじめて彼女の攻防技能が存分に発揮されるわけで。
天性の飛行の才覚。だからこそ、高町なのはは『管理局のエース・オブ・エース』と呼ばれるまでに至った。

 

けど、そんな彼女にも苦手なモノがある。それは自由に動けない状況と、非一撃離脱型との近接戦だ。
前者は屋内戦だったり、下手に持ち場を離れられない役割──司令官に就いていたりする状況。後者はシグナムさんとかザフィーラさんとか、遠距離攻撃手段を補助にして常に懐をマークしてくる敵との戦い。
こういう時のなのはは全力を出せない。もともと回避が苦手な人だし、デバイス‐レイジングハート自身もそんなに頑強な方じゃないから、延々と張りつかれるとどうしようもなくなって相手にいいようにされちゃう──相性の問題なんだ。

 

そこで彼女が開発したのが、レイジングハートのツインサーベル・モード。バスターライフル・モードとは真逆の発想で、中~遠距離での攻撃手段を切り捨てて使用魔力を防御関連に特化させた近距離迎撃戦用形態。
このモードではレイジングハートは二振りの黄金の小太刀と、浮遊する白亜の巨盾に変型する。小太刀は丈夫さと重さを優先して構築された純粋な剣であり、AIユニットやカートリッジ・システムをはじめとするレイジングハートの主機関は巨盾『イージス‐シールド』に集約される。・・・・・・イージスでシールドっていうと嫌な光景しか思い浮かばないけど、それは気にしないでいこう。
特筆すべきは圧倒的な防御性能と迎撃に優れた速射魔法、トリッキーな短射程砲撃の数々。剣で敵を討ち倒すんじゃなくて、敵に近距離戦を諦めさせる、若しくは疲弊させる事を目的とした近接防御を専門にしているってことだ。動かざること山の如し。
彼女の中での護りの象徴である小太刀二刀は、正にソレに相応しい姿だといえた。そして彼女の剣技も全く付け焼き刃なんかじゃないんだから、ホント恐ろしい女性だよね。

 

◇◇◇

 

「あのタイミングでのモードチェンジ、最初から判ってたんだ? やっぱり僕が来るって」
「そうなるの、かも。ああやって砲撃すればきっとフェイトちゃんとキラくんは強引に仕掛けてくるだろうし、だったらキラくんかなって」
≪こうして話す機会が、私達は欲しかったのですから≫

蒼太刀『シュベルトゲベール』による横薙ぎは『イージス‐シールド』に防がれて。
なのはが構える二振りの黄金の小太刀、その右手の垂直斬りを僕は逆手で持った折り畳み式戦闘ナイフ『アーマーシュナイダー』で受け止めてやった。
そのままギリギリと耳障りな金属音に構わずお互いの得物を押しつけ合っていたかと思えば、なのはは前触れも無く後方へステップ二回、瞬時に誘導制御型射撃『ディバイン‐シューター』を10つ生成しつつ短射程直射型砲撃『ぺネトレイト‐バスター』を撃ち込んできた。
これに対して選択するは前進の一言。『イーゲルシュテルン』で誘導弾を排除しながら『アグニ』で砲撃を相殺しながら滑るように彼女の懐をマーク、更に剣を打ち鳴らしていく。

「どうしてあんな攻撃を? いくら模擬戦だって、なのはらしくない・・・・・・いや、普段なら絶対しないよ」

司令官な彼女に非一撃離脱型のパーフェクト・ストライクで全力の近接戦を挑み、ツインサーベル・モードを引き出した僕、キラ・ヤマトの任務は足止め。このまま強引に、低性能を誤魔化しながら執拗に近接戦を続ければ彼女はモードチェンジできない、遠距離砲撃をさせずに足止めできるという算段だった。
・・・・・・うん、今シンと戦ってるフェイトのような一撃離脱型ってそもそもが足止めに向いてないんだよね。なのはもそれが解ってるからこそ僕が来ると判って、思惑を悟ってタイミングを合わせてきた、合わせざるを得なくなったんだろう。無事に僕がこうまでストライクなんかで渡り合えるのは、ある意味予定調和だったりもする。
さっきレイジングハートが言ってたように、根比べだ。予定調和だからこそ根性がものをいう。だから、互いに剣を振り回しながら僕らは会話を続ける──お互い負ける気がないから、その分長く話ができる。

「自分でも解ってるの。・・・・・・でも、やらなきゃって思ったんだ。それしか、できないような気がしたから」
「・・・・・・それは?」

ギャリンッ、と。一際強く振り抜いた刃同士の激突、その衝撃を利用して僕らは一旦大きく距離をとる。そのまま砲撃の準備をしながらジリジリと隙を窺いあって、その数瞬後にはまた剣撃と砲撃音が辺りに響き始める。

そんな繰り返しをしながらも僕は、なのはの顔色を分析していた。

いつもならこんな戦いをしてる時はちょっと楽しそうな表情をする彼女は、今日に限ってなんかシリアスな雰囲気。
そして戦技もどこか余裕がないような、どこか必死な様子が視てとれて。まさかストライクに苦戦してるワケはないだろうから、理由はまた別にあるんだろう。
焦りと、戸惑い、不安。それに類する感情が瞳に揺れていて、まるで心ここに在らずで剣が鈍い。

 

本当に、今日の彼女はらしくない。

 

それはなにもこうやって直接戦うばかりじゃなくて、青組の作戦にも如実に顕れていた。
教導官という仕事柄、よほど切羽詰まってない限り彼女は相手がクリアできるギリギリを見極めて、それを与える事ができる。対複数ならなおのこと、全員が力を合わせて全員が生き残れるシチュエーションを。模擬戦だとそれが顕著で、自ら進んで相手の力を引き出すように働きかける人間なんだ。
基本的に人を育てるのが好きなんだよね。

(なのに、なのははソレを無視した砲撃をした。青組の司令官という立場で、最終的に今の作戦を採択した)

だってそうだ。
バスターライフル・モードによる『ストレイト‐バスター・クラスターモード』の連続攻撃だなんて、もしシンの暗躍に気づけてなかったら赤組は僕とフェイトを残して間違いなく全滅していた。気づけたとしても『素手で敵の術式に介入できる、魔力素の扱いに異常に長けるアインハルト・ストラトス』というイレギュラー要素がなければ、今頃散り散りになって各個撃破されていただろう。
成長する前に叩き潰されて、模擬戦が模擬戦という形をとる前に、終わってしまう。
他の青組メンバーが作戦に従事していることから、多分うまいこと言って誤魔化したんだろうけど・・・・・・でなけりゃ反対多数で没確実だ。そんなマンパワーに任せて自分は何もしないまま終わるなんて、赦せないだろう。
そう、なのはの魔法はそれだけ一方的に戦局を進められる力があって、普段の模擬戦では封印している。
それを、何故? 怒りとかじゃなくて、ただただ疑問で不思議だった。

 

「教えて。なのは」
「・・・・・・なんかね、すごく嫌な予感がするの。昨日からずっと」
≪そのことを貴方にも知って貰いたいのです≫

 

はい? なんだって?
嫌な予感?

「・・・・・・予感って、どういう。レイジングハートも感じてるの? それがどうして・・・・・・?」
「上手く言えないんだけど、このままじゃ何か大変な事が起きるんじゃないか、止められないんじゃないかって、そういう漠然とした予感・・・・・・ごめんなさい。でも、確かにあるの」

・・・・・・うん、まぁ。
これまで色々と現状とか反攻作戦とか魔法のこととかを説明してきたわけなのだけれど。
その説明をしなくちゃならない状況に至った理由がまさか、なのは個人の予感だとは。

 

予感。或いは勘。

 

いやぁそうきたかー!
これは予想外だし、それであの行動ってのもだよ。どうしてそうなった。

「だから、シンくんとスバルに相談してみて。・・・・・・突飛なんだけど、『あの程度』の危機を乗り越えられないようじゃとても無理だと思って・・・・・・おかしいよね。根拠も無いのに」
≪ロード‐カートリッジ。ハルシオン‐シューター、撃ちます≫
「いや、どうだろ・・・・・・その予感ってつまり僕達に近い将来、何か大変なことが起きて・・・・・・起きるハズだから、その対策を練れるように無茶苦茶してみたってこと?」
≪マイダスメッサー&ショルダーミサイル≫
「う、うん。聴いてみると本当突飛だし飛躍してるね我ながら。文脈も繋がってないし、博打だし」
≪マスターもまだ整理できていませんから。予想斜め上の行動ですが怒らないであげてください。・・・・・・プロテクション起動、アイギス‐バッシュ≫
「いやさレイジングハート。その物言いは正直どうかと思うよ僕」
≪パンツァーアイゼン展開、回避成功≫

嫌な予感がして、多分あの砲撃程度をなんとかできなるレベルじゃなくちゃ話にならないと思って、実際に僕達を試してみたと。
実になんていうか、わからないな。
けど、ここでただの考え過ぎ、気のせいだと断じられない程には僕が能天気じゃなかったのは彼女にとって幸運か否か。えてしてそういったインスピレーションだとかフィーリングだとかいった第六感はバカにできないものだってのは、僕にも覚えがあるから。明確に能力を開花させる前にも誰かの存在を感じたり、閃きで死を回避したりとかさ。
それにユーノやフェイトから聞いた話によると、結構なのはの勘って当たるらしいし。過去の事件でも何かしらを感じ取って動いたことで進展を得たこともあったらしいし。今回のもそういうのなのか?
てかね、現在進行形でなのはと斬り合いながらも四方八方から飛来する桜色の誘導弾をノールックで、ほぼ勘だけを頼りに捌いてる僕に第六感を否定することなんてできないじゃないか。大抵悪い予感というのは当たるって、身に染みているよ。
良くも悪くも彼女も僕も直感で生きるタイプ、こればかりは例外にできないなぁ。
だから僕は、なのはが勘に従って「らしくない」行動を・・・・・・僕達赤組にとっては悪夢のようだった遠距離砲撃をしたことを信じなくちゃいけないんだ。なら仕方ないよねぇって。

「あんまり当を得てるとは思えないけど、絶体絶命のピンチにどうやって対応するのか・・・・・・もし突破してくれたらきっと、わたし達もピンチになるような策を使ってくれるんじゃないかって。確認したかったの」
「その起点があの砲撃ってことなんだ。模擬戦をもっと激化させる為に? ・・・・・・滅茶苦茶だぁ」
≪フォトン‐サーベル起動。エール‐ブースター限界時間まで2分≫
「うぅ、反省してます・・・・・・」
≪フラッシュ‐インパクト&ディバイン‐シューター≫

うん、事情はよくわかんないけど、わかった。とにかく信じてみよう。僕も昔はイロイロ無茶苦茶やってたわけだし、あんまりこういうので他人のこと言えないし。
つまり、なのはは激しい戦闘を望んだと。確かにそうやって色々策を練らなきゃこの模擬戦の性質上、終始それぞれが1対1をするだけになる可能性が高いみたいだから、キッカケとしてはあの砲撃は悪くない。おかげで皆が皆、当初の予定にない熾烈な戦闘行動を強いられたわけだ。
そして激化した戦場を、青と赤と関係なく更になんらかの手段で覆せる力があれば、きっと少しは嫌な予感にも耐えられる力を得られるのではと。
全ては、当たりやすい自らの勘を少しでも外す為に、正解かどうかも判らない強制レベルアップのキッカケを。

「大丈夫、だよね? ちゃんとみんな、力を合わせて私の全力を乗り越えてくれた。私の身勝手を止めてくれた。だから、大丈夫だよね?」
「・・・・・・なのは」

何度目かも分からない攻防の間隙、小休憩の最中。
なのはの表情に、遂に隠しきれなくなった不安の色が浮かぶ。上目遣いで僕に是非を問い掛ける。
まるで悪夢を見た子どもが、こっそり親の布団に潜り込むように。
もちろん彼女は、こんなたった一回無茶苦茶をやったところであまり意味はないと理解している。けど、やらなくちゃと思ったみたいで。
それほどまでに、彼女の予感は大きかったらしい。それほどまでに、自分の行いに自信を持てないらしい。
その様子で僕は、なのはがシンとスバルに相談した内容と、レイジングハートが僕に「知って貰いたい」と言った理由を悟った。

「ねぇレイジングハート。なのはは結局、まだ甘え下手なんだ?」
≪御名答です。マスターがこの不安を吐露したのは、私を含めこれで二人目。やはり貴方に話して良かった≫
「そっか」
「ちょ、レイジングハートそれ秘密・・・・・・!?」

相棒のまさかの暴露に慌てる高町なのはという人間は、甘え下手だ。彼女の幼少期がそうさせた。信頼がだとか利益がだとかそういうのじゃなくて、純粋に甘えるのが苦手だ。
そして今の彼女は時空管理局の戦技教導官で『エース・オブ・エース』。青組の中じゃ、いや今このカルナージという世界で、一番の地位を持った存在。同格の人間はフェイト・T・ハラオウン執務官ぐらいなもので、でも彼女は頼りにならないわけじゃないけど今は敵チーム、そのうえなのはに関しては暴走しがちなとこがある。
そうした甘えなど赦されない環境で、高町なのはとして、凛と振る舞わなくちゃいけない。

つまり、23歳の女の子がこの状況で不安を共有できる人間はいないんだ。

 

多分ただ一人、僕を除いて。

 

かつての僕は、『闇の書事件』の19歳の僕は、「キラお兄さん」だった。前線で戦う魔導師の中で一番の年長者で、当時小学3年生のみんなを知る存在だった。
思えばあの時は役立たずなりにも頑張ろうとして、色々と相談を受けたり相談したり、バックヤードを整えたりしていた。だからそれなりに皆の奥底の想いを知っていたりする。
そう、今は同い歳になってしまったけど、なのはにとってはやっぱり僕は、かつての頼りないけど頼れる「キラお兄さん」だったんだ。それに、魔導師だけどちょっと前まで魔法を知らなかった者同士として、なんだか共感するところもあって。
なのはにとってはある意味、本音を話せる存在だったのかもしれない。
・・・・・・いや別に実際にお兄さんと呼ばれてたわけじゃないケド。

(その事実が、シンとスバルに嫌な予感だけを伝えて、僕だけに内心の不安を打ち明けさせた)

レイジングハートがいつになく饒舌なわけだよ。まったく、僕がいなかったらどうするつもりなのさ。自惚れてるわけじゃないけど。
彼女も僕も、ただの一人の人間なんだからさ。

(そういえば、いつかヴィヴィオちゃんが言った強くなりたい理由。あれって、いつかなのはを娘として支えたいってのも含まれてるのかも)

そこまで想いを巡らせて、溜め息一つ。

「ユーノにも頼ればいいのに。多分喜ぶよ?」
「あぅ、それは考えたんだけど──なんか、なんだろ、恥ずかしいっていうかなんていいますか。それに時間的に悪いかなーって思ったし・・・・・・」
「彼なら時差なんて気にしないでしょ」
≪アグニ、ファイア≫
「それとこれとは話が違うの! ていうかなんでユーノくん出てくるの!」
≪ラウンド‐シールド。調子が出てきましたねマスター≫

ちょっとした軽口で場を和ませてみる。ユーノの名を聞いた途端ちょっと無意識に本音をポロッと言いかけていたのに気づいて、さっと頬を紅潮させた彼女相手に僕は少し演技をすることを決めた。
今度こそ、頼りがいのある男を。

「・・・・・・大丈夫だよ、なのは。みんな君が思ってるよりは強いと思う。お望み通り、この戦局をひっくり返す策も用意できてる」
「キラくん・・・・・・」
「たとえそれが、誰もが想像しなかったアインハルトちゃんの技能に依存した強行突破作戦だったとしても。それを切り口に次に繋げることができるのは、君の教え子のティアナだよ。・・・・・・大丈夫、なのはの予感は当たらせない。みんなで」
「・・・・・・うん!」

そうして僕は、無意識でも頼られた「キラお兄さん」として、元歳上の意地で彼女を安心させるべく必死に言葉を選んで紡ぐ。
安心させて自信を持たせる為の、肯定の言葉を。僕も迷った時は何度も、そうした言葉で救われたのだから。
ここ最近はなにがなんでも、あらゆるものを自分の目的に利用しようとする「悪いオトナ」だったわけだし、似合わないけどたまには格好つけてみてもいいでしょ?

 

やっと笑顔を取り戻した彼女の瞳を視て、僕は戦いの中で一つの安堵を得たのだった。

 

◇◇◇

 

“さて、と・・・・・・フェイト、ティアナ。そろそろストライクは限界だよ。首尾はどうなの?”
“こっちももう後がねぇぞ。特にコロナに余裕がない。どうなんだ?”
“後衛はもうチャージは終わってるわ。けどフェイトさんが・・・・・・”
“うんごめん。シン、予想以上に強くなってる。でも負ける気はしないし、もう少しで押し込めそうだ”
“頼む!”
“了解!”

長いようで短かったなのはとの会話の途中で変わった戦局を纏めよう。

まずノーヴェさんとアインハルトちゃんとコロナちゃんのグループは、青組前衛と接触した時は中央区に入る一歩手前なポイントにいたのに、今は随分と中央区のそのまた中央に向かって押し込められていた。
僕は背を向けてて視えないから感じるしかないけど、このまま押し出されれば中央区は制圧されて作戦は失敗だ。
まぁこればかりは仕方ないよ。まず数が違うし、そもそも経験という点で不利だ。いくら格闘戦が強いといってもアインハルトちゃんとコロナちゃんにまともな戦闘経験はない。それは向こうのヴィヴィオちゃんとリオちゃんも同じだけど、そこはスバルとエリオがカバーしてるしね。
けど、年少組の動きが時間の経過に比例してどんどん良くなっていってるのにも注目したいところ。長引けば長引く程にあの戦域のレベルは高くなっていくだろうね。最初は拙かったフォーメーションやコンビネーションも両チーム共に様になってきてる。子どもって最高だな。
・・・・・・赤組が押されてるのに変わりはないんだけどね。けどそんな状況でもあんまりライフを減らしてないのは流石と言うべきか。上手く後退しながら、位置も戦う相手も交代していって捌いてる。
ザッと確認してみたところ皆のライフポイントは・・・・・・

アインハルトちゃん
     HP:3000 → 2106
ノーヴェさん
     HP:3000 → 2353
コロナちゃん
     HP:2500 → 2450

その他は大体無傷(というより僕とフェイトは一撃でも直撃もらったらヤバい)で、コロナちゃんも数値的にはほぼ無傷だけどもう魔力がもたないかな。
で、青組の数値は分からないけど見た感じじゃ、前衛は200前後のダメージを負っていそうで他はほぼ無傷のよう。
端的に言えば劣勢だ。

「ん。あれ・・・・・・フェイトちゃん、シンくんを誘導してる?」
「え、気づいちゃった? ・・・・・・そうだよ。シンがしぶといから時間かかったけど、でももう終わりそうだって」

目敏い流石なのは目敏い。
本来の調子を取り戻してさっきよりも鋭さと勢いを増した彼女の剣捌きにちょっと苦心しながら、同時に戦場全体を眺めていたその瞳に感嘆する。親子なんだなぁ。
そう、実はフェイトとシンは戦いながら戦域を中央区付近まで移動させていたんだ。その距離は実に約10km。一撃離脱型で格闘戦を得意とするマルチレンジ‐ファイター同士、派手に飛び交いながら剣と砲を撃ち合ってる最中に【所定の座標】に相手を誘導なんて苦労しただろう。
けど、恐らくここで一番見応えのあるバトルももう終幕だ。
ならばと気合いを入れ直したフェイトが遂に最後の仕上げと畳み掛ける。斧であり鎌であり大剣であるデバイス‐バルディッシュを、細身片刃の黄金の魔力刃を形成する長剣へと変型。持ち味である圧倒的な加速と旋回でシンを責め立て始めた。作戦も大詰めだね。
これにシンも負けじと二本の『アロンダイト』と『ヴォワチュール‐リュミエール』で対抗するけど・・・・・・流石に厳しいみたい。早くも防御に手一杯になってる。

「今のシンくんならなんとか耐えてくれるとは思うけど、これは阻止しないと、かな!」

シンも、ついでに僕も昨日よりずっと強くなっている。
昨日の訓練でシステムG.U.N.D.A.Mを発動させて一時でも身体と意識のズレ──違和感を無くすことができた僕らは、それを基準点にして意識に補正をかけられるようになったからだ。基準さえあればコーディネイターの学習能力を最大限発揮して、それをニュートラルに持っていくことができるからね。
そうしてようやく、僕とシンをずっと悩ませていた事項をスッキリ解消できたんだよ。動き自体に満足はしてないけど、もう躰に不自由を感じることはない。
そんなわけでもう僕らはシステムに頼らなくてもある程度の実力を取り戻して、昨日とは見間違える程に強くなった(じゃなけりゃ会話しながらなのはと戦うなんて絶対無理だし)のは確かなんだけど、やっぱり元々の実力差を埋めるには至らないね。
僕はなんとか相性で食らい付いていけてるけど、シンはまだ本気のフェイトに追いつけないようで。

「させ、ない!」

このままじゃシンが危ないと感じとったなのはの瞳に、強い炎が煌めく。明確な目的を定めた、獰猛な光だ。
こんな序盤にシンをリタイアさせるわけにはいかないと、本気で僕を排除してフェイトに攻撃をかけるつもりか。もうすぐなんだ、ここしかもう機会はないし時間もないんだから、フェイトの邪魔をさせるわけには。

「レイジングハート、アレいくよ!!」
≪了解、ロード‐カートリッジ。ヴォルテックス‐ラジェーション≫
≪警告。後方への退避を推奨します≫
「う、わ!?」

 

そう考えて、そうはさせるかと前進したのが、いけなかった。

 

『ヴォルテックス‐ラジェーション』──なのはを中心に、渦状に放出された圧縮魔力・・・・・・桜色の吹雪に捲き込まれ、蒼太刀『シュベルトゲベール』もろとも大きく後方に弾き飛ばされてしまった。

(しまった、カウンター魔法!)

対近接の切り札とでもいうのか、さながら竜巻のように吹き荒れる魔力に成す術なく翻弄されて、あわや地面に激突寸前といったところでなんとか飛翔魔法を繰って柔らかく着地する。視れば太刀は随分と遠くまで飛ばされたようだった。
参ったな、これは。

≪短射程砲撃の一種と推定。あの魔力には破壊力があります≫
「・・・・・・どうする!?」

初めて見る魔法だ。多分これは距離を取って、或いは時間を稼いでモードチェンジをする為の布石なのか? なのはみたいなタイプなら、こういった攻性防御は必要なんだろうな。
どちらにせよ、アンチマジック・コーティングが施され、魔力障壁を切り裂く特性を有するが故に、なのはにツインサーベル・モードを強要させてた唯一の武器を失った以上は・・・・・・彼女はもう近接戦をする必要がない。
多分もう全力全開のエクシード・モードかなにかにチェンジして砲撃魔法をチャージ、僕かフェイトを竜巻の中から狙ってると考えていいだろう。あの魔法を発動してから僕が着地するまでの時間、それで十分な筈だ。

(ならストライクフリーダムを起動するか? いや違う先ずは)

状況から推測し、頭を高速回転させる。たった一手で圧倒的不利にされたんだ。考えろ。
やるべきは砲撃の阻止、なのはの足止めだ。ならデバイスを取り換えてる時間も惜しい・・・・・・ここはストライクで強引に打って出て、砲撃させないように努めるべきだ。
即断即決、サーベルを右手に、大型実体シールドを左手に装備して残り時間の少ない『エール‐ブースター』でなのはに斬りかかろうと、桜色の竜巻に突進しようと力を込める。
そして、

 

なのは自らが、魔力嵐を突っ切って二振りの小太刀を手に、こちらに斬りかかってくる気配を感じた。

 

「な、に!?」
「やぁぁあ!」

刀で攻めて、きた!?
砲撃ではなく、全身に魔力光を纏わせて通常の3倍のスピード。身体強化魔法と加速魔法を用いて、遮二無二に突進してきた。
完全に出鼻を挫かれて咄嗟に掲げたシールドに襲いかかる、剣撃の嵐と射撃の雨霰。そのどれもが重く鋭く硬く、シールドはあっという間に砕かれてバラバラになって消滅した。くそっ、体勢を立て直す隙もない!
辛うじて代わりに顕したもう一本のサーベルと速射魔法で迎撃を開始するも、もう完全に主導権を握られて後手に回っていてどうにもできない。
そうして10号と打ち合った時には、なのはの袈裟斬りに連合制服を切り裂かれて。

「これでッ、決めるよ!」
≪覚悟してください。アクセル‐インパクト&レストリクト‐ロック≫
「しまっ・・・・・・うぁ!!」
≪・・・・・・申し訳ありません。打つ手がありません≫

20号を数えた時には力強い回転斬り上げで上空に打ち上げられて、桜色のリング──バインドで幾重にも固定されてしまった。『レストリクト‐ロック』はなのはが一番得意とする捕縛魔法、僕とストライクじゃどう頑張っても短時間じゃ外れないもんで、唯一自由に動かせるのは左腕と頭だけだった。
これは、完全に読み違え・・・・・・いや油断してた。なまじっか拮抗してたのがいけなかったな。それで真っ先に僕を潰しにきたのもあるだろうし、こっちもこっちで勝ちを急いだしで。

 

まったく、やられた。詰んだよ。
僕の敗北だ。

 

「・・・・・・綺麗だ」

でも負けたショックも感じないまま、間抜けに茫然と呟いたのには理由がある。
宙に固定された僕よりも遥か高みに、なのはがいる。呼吸を大きく荒らげながらも、さっき放出したばかりの魔力を背の大翼として集束しながら。
巨盾と小太刀を融合させて構築した二股の黄金の槍――エクシード・モードのレイジングハートを天に掲げ、白く清楚なロングスカートを翻し、四対の桜の翼を広げる姿はまるで戦乙女のようで。足元の魔法陣から立ちこめるオーラと、彼女を包み込み回転する複数の環状魔法陣も相まって、戦いの中で戦いを忘れるほど惚れ惚れするぐらいに美しい存在がそこにいた。

「受けてみて、キラくん。私の全力、私の奥義!」
「それが、あの時目指した完成形?」
「そうだよ。集めたの魔力をただ砲撃として放つスターライト‐ブレイカーのバリエーション、1対1用、対強敵用の集束型収束砲撃。やっと見せることができた」

なるほど、14年前の挑戦が形になったんだね。『闇の書事件』の時にはついぞ完成しなかったアレが。なら背の翼は飛翔ユニットじゃなくて、魔力の加速と圧縮を司る外部ユニットかな? 大気中に散った魔力を一度翼として取り込み、増幅させてから砲撃に利用すると・・・・・・相変わらず面白い発想する。
うん。単純に言ってしまえば、これからなのはが撃つものは収束させて攻撃範囲──口径を極限までに絞りこみ、同時にチャージ時間も短縮した『スターライト‐ブレイカー』。詳細とかは違うけど、絶対的な一人を倒す為に無駄を削ぎ落とした必殺技だと思っていい。
自分の個性と特性を殺すことなく、長所を伸ばす形であらゆる環境に対応できるよう模索してきた彼女の完成形の一つだ。

(当たったら、痛いんだろうなぁ)

一緒に術式を考えたりしたアレで墜とされるのなら、そうだね、悔しいけど悪くはないかな。まだまだ僕も実力不足だしね。
色々と実力も奥の手も発揮できないままだけど、これからの戦いに参加できないけど、シンやヴィヴィオちゃんと戦えないのは口惜しけど、まぁ機会がないわけじゃない。
なんだか妙に清々しい気分だった。任務は半ば達せられたんだから痛み分け、かな。

 

≪いきますよ≫
「ニーベルン‐ヴァレスティ!!!!」

 

圧縮されすぎてもはや桜色を超えて紅色を輝かせる極細の光線が、おおよそ個人で扱うにはとんでもないエネルギーを秘めた魔法が。
対象に直撃して飛散するであろう魔力をフィールドに封じ込めて、殲滅力を高める効果を持つ複数の環状魔法陣に包まれた僕に向かって今、なのはの掛け声に従って、クルリと華麗に一回転させたレイジングハートから放出される──

 
 

──直前に。

 

【とある位置】から射出された、もんの凄いスピードと質量を有する巨大過ぎる【物体】が、轟音をバラまきつつ中央区のビル群を幾つか砕いて薙ぎ倒して崩壊させて、【所定の座標】にて黄金のバインドで宙に固定されていたシン・アスカに向かって一直線、スッ飛んでいって。

【物体】は滞りなくシン・アスカに直撃し、

物理法則だとか質量保存の法則だとかに従って、シン・アスカは見事な放物線を描いてブっ飛んだ。

 

それは、赤組反攻作戦の第三段階目の完了と、反攻達成を意味した光景なのだった。
南無。ごめんねシン。

 
 

──────続く

 
 

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