魔法少女リリカルなのはA's SEED_SEEDaS_03話

Last-modified: 2008-03-27 (木) 21:27:36

僕はアスランの仲間を殺して、傷つけた。でも、あれは仕方のないことだ。心のどこかで僕は、そんな弱い心に逃げてしまいかけていた。きっと、アスランだって謝れば許してくれる。そしたら、もう一度あの頃の様に楽しくて、平和な日常が戻ってくる様な気がしてた。

 

でも、それは僕が考えていた想像にしか過ぎなかった。現実は全く違う。アスランは仲間が殺されたから、だから僕を殺そうとして、でも僕の友達を殺した。

 

いつもなら笑って許してくれた筈だった。笑って許せた筈だった。でも、それは小さな事でしかない。僕達が犯した罪は、人殺し。いくらMSを使って殺したとしても、手ごたえはある。実感もある。なら、それは自分の手で殺すのと何にも変わらない。

 

だから、僕もアスランの仲間と言われて、直ぐに決意がついた。何かあるのなら、僕が止めなきゃ。それがせめてもの罪滅ぼしに、償いになるのなら…。

 

魔法少女リリカルなのはA’s SEED。始まります…。

 
 
 

第3話【決別の空】

 
 
 

「イザークッッッ!!!!」

 

アスランが最初に発した言葉は彼の――――銀髪の少年の名だった。それに気づいたのか、銀髪の少年――――イザークもこちらへゆっくりと視線を向ける。同時に見せたのはアスランに対し驚きを隠せないような表情だった。

 

「アスランッ!? ッ! …貴様! 何故ここに!!」

 

「お前が、転移魔法を発動させようとしているのを見つけたからだ!」

 

転移魔法――――それは、近い世界に行くのなら一人でも発動はできる。しかし、今回は管理局から逃げる様な形でだが、少々遠くの世界へと行く事が決まっている。そのため、彼らは2人ずつで別の世界へと行く事が決まっていた。ちなみに、C.E.は世界が遠すぎるためいけないのだが。

 

「邪魔をするというのなら、斬る!!」

 

イザークの思考も束の間、アスランの目の前にレヴァンティンを振りかぶったシグナムがいた。つい最近この世界に来た者だとしても、イザーク達の考えは皆同じだ。なら、シグナムの行動は当然であった。
だが、アスランもコーディネイターだ。その並の人間を凌駕した動体視力と反射神経の恩恵で、教えてもらってもいないラウンドシールドを発動させる。

 

「なにっ!?」

 

「ぐぅぅぅぅっっ…!!」

 

しかし、所詮それも咄嗟に出した技でしか過ぎない。十分な速度と力で斬りかかったシグナムに対し、アスランは押されていた。先程から、魔法の使い方が勝手に脳裏に浮かんでくるが、経験の差が、実力の差がありすぎる。必然的に、アスランは不利になっていた。
更に、それに次いでアスランを見つけたディアッカが、魔力弾を打ち込む。

 

「くそッ! イージス!! MSシールド!!」

 

『MS Shield generation(MSシールド生成)』

 

さすがに2人からの連続攻撃に耐えかねたアスランは、瞬時にラウンドシールドをキャンセル、イージスのシールドを模した盾を発動させる。これなら、幾ら強力な攻撃であっても防ぎきる事ができる筈だ。

 

「チィッ!! 止めろ!! ディアッカッ!!」

 

連射された魔力弾を防いだ後、アスランはキラと共に2人へと突っ込む。必ず、なのはとフェイトを傷つけた者達と行動を共にしているのは、何か理由がある筈だ。

 

「アスラン!! お前の方こそ止めろ!!」

 

「何をッ!!」

 

「えぇい!! お前達が邪魔するなら、幾らお前が相手でも…討つ!!」

 

『スプラッシュブラスト、シフト! ミサイル生成!!』

 

ディアッカの叫びに呼応する様に、連結されたライフルから魔力で生成された散弾が放たれる。それと同時に、キラへとディアッカの周りに生成された誘導魔法弾が追撃する。

 

「アスラン!!」

 

「あぁ!!」

 

『saber shift(サーベルシフト)』

 

共に、MSシールドでディアッカの砲撃を凌いだ後、それぞれサーベルを展開させ、ディアッカにキラが、シグナムへとアスランが肉薄する。だが、シグナムの前に立つようにしてディアッカが再度散弾を放つ。

 

「くそッ!!」

 

「ッ!? ストライク!!」

 

『Double MS Shield movement(ダブルMSシールド、発動)』

 

一方キラもアスランの盾になるようにして、両手に構えたMSシールドで散弾を防ぐ。その大出力によって発射された散弾は、しかし満足ではない体勢で防ぎきったキラの両腕を痺らせるのには十分であった。これで、キラはしばらく攻撃はできない。今がチャンスだ。そう思ったのが誤りだった。

 

「スティンガーブレイド!! エクスキューションシフト!!」

 

「なっ!?」

 

突然シグナムに襲い掛かる幾重にも及ぶ魔力の刃。シグナムは咄嗟にパンツァーシルトを発動させるが、それも徐々に罅が入り、今にも砕けそうな程危うい状況であった。だが、刹那にはクロノの放ったスティンガーブレイドは1人の男によって防がれていた。

 

「大丈夫か…? シグナム」

 

「あぁ。すまない。さすがに今のは危うかったが、なんとかな…」

 

ザフィーラが障壁を張ったままの状態で、シグナムの安否を確かめる。早めに割り込んだのが正解だったらしい。シグナムには傷一つなかった。その姿に安堵した後、直ぐにシグナムへと話を切り出す。

 

「シグナム、念のためヴィータをシャマルの護衛に付かせてはいるが、こいつ等をなんとかしない限り、蒐集へはいけない。どうする?」

 

「ふっ…。愚問だな。そんな事決まっているだろう…。我等の邪魔をするのなら、私がこいつ達をレヴァンティンの錆にするのみ!!」

 

その整った顔を好戦的な笑みで変え、そのままレヴァンティンを出現させた鞘へと納める。すると、同時にレヴァンティンから弾薬――――カートリッジが1発排出され、刀身をシグナムの炎熱変換によって生成された炎が包む。そして―――――。

 

「紫電一閃ッッッ!!!!」

 

――――咆哮。叩き込むようにしてアスランへと畳み掛ける。アスランもMSシールドで防ごうと構えるが、その一撃は重く、それに加えて強力なバリア破壊能力を併せ持つ斬撃に耐えれずに、MSシールドを破壊されビルへと飛ばされた。中には封鎖領域を張っているため、誰もいないだろうが、幾らバリアジャケットを纏っているとしても、衝撃までは抑えきれるはずもない。アスランはしばらく動けないだろう。

 

「アスランッッッ!!!!」

 

「これで1人…。残りは、2人だ!!」

 

「ッ! くそっ!」

 

アスランを堕とすと、次にシグナムはクロノへと視線を向ける。次瞬にはフェイトを上回る程のスピードで、残像を残しながらクロノへと切りかかる。やはりこちらは人数が少ない分、多勢に無勢な状況を強いられていた。
クロノは手を翳し、ラウンドシールドを発生させながら、状況を頭の中で整理する。このままではこちらは全員負けてしまう。そうなると、イザーク達を逃す事になる。しかし、それだけは避けたい。そうなってしまえば、後は別世界でリンカーコアを蒐集され、また犠牲を増やす事になってしまう。奥歯を噛み締めながらクロノはシグナムの斬撃から逃れた。

 

(スティンガーブレイドは発動までの時間がかかりすぎる。それに、相手にあのカートリッジシステムがある限り、出力で劣っているこちらが勝つのは万に一つの可能性もない…)

 

戦闘の最中、クロノは必死に試行錯誤を繰り返すが、何も良い考えが浮かんでこない。相手に結界を張られている以上、エイミィ達もこちらの状況が分からない。なら、アルフとユーノの増援も望めない。絶望的な状況だ。そんな中、クロノの瞳がザフィーラを捕らえた。

 

「これで…! 終わりだぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

振りかぶられた拳は、防御魔法を何も展開させていないクロノの腹部を直撃する。その威力は体格に相応していて重く、クロノはアスランとは違うビルへと飛ばされる。
不利な状況に加え、戦闘ではなく思考に気を取られていたのは、一種の油断と取れる者もいるだろう。そう思うしかない程呆気ない、実力に釣り合わない倒され方であった。

 

「クロノ君!! ――――クソッ!」

 

「ハァァァァッッッ!!!」

 

キラは肉薄してきたシグナムに対し、手に持っているサーベルで防ぐ。だが炎熱変換によって再度炎を纏っていたレヴァンティンの一撃を防ぎきるには、まだ足りない。

 

「ぐぁぁぁぁぁっっっ!!」

 

飛ばされ、何とか体勢を整えるが、目の前には既にディアッカが2丁の銃を持ったまま立っていた。その後、砲撃――――。

 

「いくぜッ!!」

 

『いっけぇぇぇぇっっっ!!!』

 

――――声――――。

 

『――――Protection(プロテクション)』

 

「クッ…!」

 

突然発生した防御魔法に、ディアッカの放った魔力弾は全て防がれた。しかし、それもストライクが咄嗟に張った物でしかない。衝撃までは防ぎきれず、キラはまた体勢を整える。

 

「ありがとう、ストライク。それと、シュベルトゲベールとアグニ…いける?」

 

『Yes, my master(はい、我が主)』

 

「そっか…。じゃあ、行くよ!!」

 

『Shubeltogebal and Agni development(シュベルトゲベール、アグニ展開)』

 

次瞬、キラは左脇に構えたアグニをイザークへと向け、放つ。しかし、何故か魔法の出力がどれも安定していない。そのため、それも命中する筈も無く、その高出力の魔力弾はザフィーラの障壁に弾かれた。

 

「くそっ、駄目か…。なら! ストライク、エールストライカーパックを!」

 

『Launch Erusutoraikapakku(エールストライカーパック起動)』

 

アグニを消滅させると、次いでキラの背後から、エールストライカーを模したユニットが現れる。そして、スラスターを噴かしてシグナムへと肉薄。シュベルトゲベールを振りかぶる。

 

「でぇぇぇいッッッ!!!!」

 

「くっ!」

 

キラのその一撃がシグナムのレヴァンティンを捕らえる。しかし、それも一瞬の間の出来事でしか過ぎない。次の瞬間にはキラの体に衝撃が走っていた。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 

吹き飛ばされ、何とか意識は保ちながらも、キラは未だ現状を把握できていなかった。そう。キラはあの瞬間、シグナムと鍔迫り合いになっていた瞬間、耐えかねたヴィータが横からグラーフアイゼンでキラに対して打ち付けたのだ。
それを分かっていながらも、イザーク達を止める事の出来ない現実に、キラは奥歯を噛み締めながら、ビルへと吹き飛んだ。

 

「よし。これで終わりだな」

 

「あぁ。しかしヴィータ、お前は何故こうも言った事を守れないんだ?」

 

「んなこと言ったってよぉ、あたしはさっさとリンカーコアを集めて、はやての足を直してやりてぇんだ。それなら、あんな奴等に無駄な時間を食うわけにはいかねぇんだよ」

 

「まったく…」

 

言いながらも、シグナムはレヴァンティンを鞘へと納める。しかし、直ぐにシャマルとイザークの方を振り向き、口を開く。

 

「イザーク、シャマル、ザフィーラ。転送…いけるか?」

 

「あぁ。当然だ。何のためにアイツ等と戦わずにいたと思っているんだ」

 

「私の方もいけるわ。早く行かないと時間がなくなっちゃう」

 

「あぁ」

 

「そうか。なら、行こう。主のために…」

 

その言葉に、皆が頷きながらも意思を固める。そうだ。はやてのためにも一時も早く闇の書を完成させなければいけない。

 

「んじゃ、俺は行くぜ。早くしないと夜が明けちまう」

 

「あぁ。では、さっきも言ったが、また夜明け時までに先程の場所で…」

 

話しながらシグナムは先程自分達がいたビルを見る。あの時に一応暫しの別れを言い合ったが、その時は2人ずつで別世界へと行き、リンカーコアを蒐集するのが目的であった。だが、キラ達の突然の介入によって封鎖領域を張り応戦したのだ。その際に、ザフィーラ達とは共に応戦する事になった。

 

「OK。んじゃあ行くか? バスター」

 

『わかりました!』

 

「じゃ、あたし達は行くよ。ザフィーラ!」

 

「あぁ…」

 

ディアッカとバスター、ヴィータとザフィーラが軽く言葉を交わし、その他の者は無言のまま特定の人物と共に転移魔法で、別世界へと赴く。
それぞれの瞳には、とても強い意思が秘められていた。

 
 
 
 
 

AM6:30 八神家。

 

いつも通り、目覚まし時計の少々五月蝿い機械音が耳に入ってくる。はやては、その音の主である時計のスイッチを押し、なるべるヴィータを起こさない様にゆっくりと起床した。

 

その後、車椅子を操作しながらリビングへと移動する。すると、夜明けの光しかない部屋の――――ソファーにシグナムが、その足下に狼の姿のザフィーラが眠っていた。はやては、その姿に微笑み、2人に毛布を掛けた後にキッチンへと向かうのであった。

 
 
 

AM6:35 海鳴市 桜台林道。

 

「ん…!」

 

今日もなのははキラとユーノに付き添われて、リンカーコアの状況を確かめるために集中していた。その姿はいつもの様な幼げで純粋な年相応の姿とは打って変わって、少々力んでいるのか、両手を胸の前に翳し、目を瞑りながら声を漏らしていた。

 

「あっ…!」

 

日頃の成果のお陰か、リンカーコアも治りかけてはいるが、しかし現れるのは一瞬だけ。それを見たキラとユーノは、なのはと同じ様に顔を俯かせた。

 
 
 

AM6:41 海鳴市市街地 ビル屋上。

 

フェイトはなのはとは違う別の場所で、早朝の訓練を行っていた。それは、単に長い鉄の棒を振るという単純な事だ。だが、この様な基礎を積んでいない者と積んでいる者では、実力の差が違う。
それは、戦闘になって真価を発揮する、得物を振り抜く際のスピードだ。幾ら素早く動けても、幾ら頭で作戦を練っても、戦闘になって自身の得物が重く自重のあるものであった時――――いや、もしそうでなかったとしても、それを相手に当てるには、接近した一瞬の間にそれを振り抜くという行為が事が必然的に行われる。なら、それが早い者と早くない者とでは、実力の違いは当然明確になるだろう。フェイトは、恐らくその事を分かった上で、この訓練を行っていた。
傍らで、暢気に朝っぱらから欠伸をするアスランとアルフに気づかない程に集中して。

 
 
 

同時刻。はやては毎朝作る事が日課になっている朝食を作っていた。既に幾らかは出来てはいるが、まだ全て終わったわけではない。今のはやては、シグナム達のホットミルクと朝食の2つを作るためにせわしなく動いていた。

 

「ん…、ぁ…はぁ…、あっ…」

 

「ごめんなぁ。起こした?」

 

「あ…、いえ…」

 

言いながらも、早朝から血圧の安定しているシグナムは、眠そうな様子もなく、何時の間にか掛かっていた毛布に気付きソファーから立ち上がる。

 

「ちゃんとベッドで寝やなあかんよ。風邪ひいてまう…」

 

「す、すみません…」

 

自身の体に掛かっていた毛布を器用に畳みながら、シグナムははやてのちょっとした説教を聞いて、自然に謝っていた。しかし、これも今までの主とは違って、自分達の身を案じての事だ。嫌いでは無かった。
その姿を見て満足がいったのか、はやてはシグナムへと笑みを向けると、また料理へと勤しむ。そんな主の姿を見ながら無言のままでいるシグナムの足元には、既に起床したザフィーラが毛布を畳んでいるところだった。

 

「シグナム、昨夜もまた夜更しさんかぁ?」

 

突然振られた言葉。それは自分達にとっては最も隠し通さなければいけない事てあった。そもそも、はやてはシグナム達が戦って傷ついてまで、自分の足を直したいとは微塵も思ってはいない。しかし、シグナム達はそれを分かった上で、リンカーコアの蒐集を行っていた。

 

「あぁ…その…、少しばかり…」

 

「ふふ…!」

 

はやての微笑がキッチンの方から聞こえてくるが、シグナムは気にせずに部屋の電気をつける。今の主は良く笑ってくれる。一気に明るくなった部屋で、シグナムはそう考えていた。

 

「ぁ、シグナム。はい…!」

 

「あ…」

 

「はい…! ホットミルク…暖まるよ…!」

 

「ありがとう、ございます…」

 

「ザフィーラにもあるよ。ほら、おいで!」

 

今まで、こんなに自分達に優しくしてくれる主はいなかった。いや、いたかもしれない。でも、もしいたとしても、それも短い時間でしかなかった。だから、今度はこの主――――はやてを大切にしよう。絶対に闇の書を完成させて、はやての体を直そう。シグナムはザフィーラの分のホットミルクを乗せたお盆を持ったはやてを、優しく見つめていた。

 

「すまない。遅くなった」

 

「ふぁ~。眠い…」

 

突然イザークによって開かれるドア。それに続いてデュエルが眠そうに瞼を摩りながら起きて来た。だが、後ろからシャマル。

 

「すいません! 寝坊しまし――――あぅ!」

 

「うやぁ!?」

 

何をそこまで急いだのか、余りにも急ぎすぎて、シャマルはまだリビングに足を踏み入れていないデュエルの後頭部に顔をぶつける。それは傍から見ても痛そうで、実際、デュエルは後頭部を、シャマルは鼻を押さえて悶絶していた。勢いがありすぎたのだろうか?

 

「「うぅ…」」

 

「まったく…、何をやっている?」

 

未だ痛む箇所を押さえて蹲っている2人に、イザークは呆れた声を漏らしながら手を差し伸べる。しかしその表情は呆れよりも微笑みに近く、平和な雰囲気を醸し出していた。

 

「「すいません…」」

 

 イザークの手を借り2人はようやく立ち上がると、シャマルは持っていたエプロンを掛けて謝りながらもはやての手伝いに、デュエルは何かを廊下で避けながら顔を洗いに行く。まぁ、その何かとは、案の定〝アイツ〟である

 

「もう~! 起きてくださいよマスタ~! 朝ですよ~!」

 

「あと10分…いや、5分だけ…」

 

「ダメです~!」

 

声が聞こえた方に目を向けると、そこには廊下で未だ寝ぼけているディアッカを引きずって来るバスターの姿が映った。まぁ、ディアッカはイザーク達と違い、アカデミー時代から朝には弱かったのだ。これは当然の事なのだろう。

 

「ディアッカァァァッッ……!! 貴様はぁ…ッ! 朝っぱらから何をやっている…!!」」

 

「ん? あ、イザークおは…よぉ…」

 

「貴様はぁ…ッ! 昔からいつもいつも朝誰に迷惑を掛けていたと思っているのだ…! この――――」

 

 ディアッカは寝ぼけ眼な視線のままイザークへと振り向く。それは只の挨拶のための物だったのだが、段々とディアッカの表情が引き攣ってき、冷や汗がダラダラと額から流れてくる。
そう。ディアッカの後ろに立っていたのは鬼の形相をしたイザーク・ジュール本人だった。いつもこれに慣れているディアッカは、久しぶりに見たこの表情に、危機感を覚え、急速に思考を覚醒させる。しかしそれも遅い。すでにイザークの鉄槌という名の制裁が振り下ろされていた。

 

「――――戯けがぁぁ!! さっさと目を覚まさんかぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

「ノォォォォォォォォッッッ!!!!」

 

 八神家に一人の哀れな少年の絶叫が木霊した。さぁ、皆さん。ディアッカの最後に意を表して、合掌。

 
 
 

「うぁぁぁぁ…。うるさいな…。…おはよう…」

 

「うわぁ、めっちゃ眠そうやなぁ…」

 

「眠い…」

 

 先程の一人の〝バカ者〟の叫び声により、運悪く目を覚ましてしまったヴィータは、外見上相応の反応を見せながらもリビングへと入ってきた。そんなヴィータにはやては言葉を掛けながら微笑んでいた。
ちなみに、ヴィータを起こした張本人の〝バカ者〟は、ソファーの上でバスターに看病されながらも呻いていた。

 

「もう…、顔洗ってらっしゃい」

 

「ぅぁ…。ミルク飲んでから…」

 

 言われて、シャマルは予めはやてが作っていたホットミルクをヴィータに渡す。ヴィータはそれを受け取ると、机の上に置き、自分も椅子に座りながらホットミルクを少しずつ飲む。

 

「暖かい…な…」

 

それを見ていたシグナムは、自分の持っているまだ暖かいホットミルクを見つめ、1人呟いていた。

 
 
 
 
 

 1週間後 ハラウオン宅。

 

「ただいま…!」

 

「あ、フェイト。お帰り!」

 

 ようやく帰ってきたフェイトに対し、アスランも言葉を返す。外はもう夕焼け色に染まっている。夕方だ。今日もアリサやすずか達と一緒にどこか寄り道をしていたのだろう。だが、それはアスランやリンディにとっては喜ばしい事であった。

 

「うん。あ、あと、なのはも来てるよ」

 

「お邪魔してます!」

 

 フェイトが言うと、待っていたかの様になのはがフェイトの後ろから顔を出す。やはり、こういうところはなのはもフェイトも年相応の少女なんだと、アスランは人知れず思うが、それも束の間、事を整理する様に口を開いた。

 

「俺が言うのもなんだが、ゆっくりしていってくれ。それと、なのはも本局に用事があるんだったな」

 

「うん。キラとアスラン、クロノもだよね?」

 

「あぁ。まぁ、俺とクロノは怪我の検査だけだから、大した用事じゃないんだが、キラは少し時間が掛かるらしくてな。先に行ってるよ」

 

「え? キラ君どうしたの?」

 

 なのはが朝から疑問に思っていた事をようやく口に出す。それはどこかしら不安げであったが、アスランはそれを悟ったのか、口調を緩めて再度喋り出す。

 

「どうも、デバイスの調子が悪いらしくてな。それでだ」

 

「そっか…」

 

 言いながらも、フェイトの視線はアスランの額や腕など、様々な所に擦り傷や切り傷、終いには痣を隠す包帯が見えた。それはとても痛々しく、フェイトは申し訳なさそうに視線を外す。恐らく、キラはデバイスの点検と怪我の検査も兼ねているのだろう。

 

「それと、君達に良い知らせだ。2人のデバイスの修理がやっと終わったらしいぞ」

 

「え!」

 

「本当!?」

 

 待ち侘びた知らせに、フェイトとなのはは押さえ切れない質問をアスランへと問う。ようやく掛替えの無い相棒の修理が終わったのだ。それは今の2人にとっては最高の知らせだった。

 

「あぁ。本当だ。というかなのは、メール見てなかったのか?」

 

「あ…。そういえば…。来たのは知ってたけど…」

 

「「けど?」」

 

 アスランとフェイトがなのはを窺うようにして見つめる。大した事はないとは思うのだが、念のため聞いておかなければ気が済まない。2人ともそういう性格だった。

 

「けど…、アリサちゃんやすずかちゃん達と話すのに夢中になっちゃって! 見るの忘れちゃってたみたい…! にゃはは…!」

 

「そうか…」

 

「なのはらしいね…」

 

 さすがに予想通りの答えに、アスランもフェイトも特に何も驚く様子も無く微笑みながら納得する。当の本人であるなのはは、頭の後ろに手をやって、恥ずかしそうに笑っていた。

 

「あ、もうそろそろ時間だ! 私着替えてくるね!」

 

「ん? あぁ。なるべく早くするようにな」

 

「うん!」

 

 急ぎ口調でフェイトは言うと、走って自分の部屋へと駆け込むようにして戻っていく。それを見つめながら、アスランとなのはも準備を始めた。

 
 
 
 
 

 本局内部、医務室前。

 

「ありがとうございました!」

 

 自分を診てくれた医師に礼をした後、なのはは廊下へと出る。その顔はどこか満足気で達成感なるものに満ち溢れていた。

 

「なのはちゃん!」

 

「なのは!」

 

「検査結果、どうだった?」

 

 キラやユーノ、アルフ達が走って向かってくる。一応予測した時間に来てもらう様にはいっていたのだが、こうも当たるとは。顔には出さないが、なのはは内心驚いていた。
 途中、アルフに検査結果を聞かれるが、それになのはは明るく返す。

 

「無事、完治!」

 

「こっちも完治だって!」

 

 フェイトとユーノが、手に持ったスタンバイモードのバルディッシュとレイジングハートをなのはに見せる。両方ともに元の姿、輝きを取り戻していた。
 しかし、その時も束の間、突然なのはの前に映像が現れる。そこに映っていたのはエイミィであった。恐らく通信なのだろう。

 

『なのはちゃん! フェイトちゃん! 大変!』

 

「エイミィさん? どうしたの?」

 

少し様子がおかしいエイミィに、なのはは首に掛けていたレイジングハートを握り締めながら訊ねる。何か緊張した雰囲気を感じ取っているのだろう。

 

『またあの銀髪の人達が現れたの! 今武装局員の人達が取り囲んでいるけど、魔力ランクが違いすぎる! クロノ君も先に帰ってきて準備してるけど、あの人達じゃ持って15分。だから早く帰ってきて! バルディッシュとレイジングハートの新機能については、こちらに着き次第通信で話すから!』

 

「う、うん! わかった!」

 

『お願い! じゃあ!』

 

 話が終えると、通信は切断され映像が消える。なのはのその面持ちに、皆が決意を固めていた。

 

「また、あの人達と戦う事になる…ね…」

 

「うん。でも、まずは急ごう! 早くしないと局員の人達がやられちゃう!」

 

「うん!」

 

 なのはとフェイトは、それぞれの自分のデバイスを握り締め、意志を再度固めていた。

 
 
 
 

 突然掛かる非常事態による通信。それは、なのは達にとっても見て見ぬ振り等できない事であった。その時、なのはは再度衝突する事になるであろう、赤い帽子の少女の事を思い浮かべ、瞳を揺らす。

 

次回、「決意の心」

 

 主の意思を貫け! レイジングハート!!