魔法成長日記_02話

Last-modified: 2010-03-30 (火) 00:27:34

「ん、ふあああぁあぁあ。ん~~、と」
大あくびと伸びを一つ、シンが目を覚ます。
「アスラ~ン。起きてっか~?」

 

そう言って上を覗くが、もぬけの殻だった。
その直後、戸口の方向から声がした。
「あれ、シン?起きたのか?」
「アスラン。どうしたんだ?」
「どうした、って言われても、トイレ行ったついでにここらの探索してただけだ。迷いそうだからきりあげて帰ってきた。」
「そか。んで今何時?」
「6:30だな。飯いくか?」
「あぁ。でも食堂はどこだ?」
「今訊いてきたよ。そこまで遠くない。」
「分かった。ちょっと顔洗ってくるから待っててくれ。」
「あぁ。トイレなら部屋をでて真っ直ぐ行くと表示があるから従えば着く。」
「サンキュー。」

 

そう言いながらシンは部屋をでる。
「でも、どこいっても似たようなもんだよなぁこういう軍っぽい施設は。トイレは~、あったあった。」

 

そこで顔を洗い、戻ろうとした時である。
トイレを出て曲がろうとしたシンとトイレに入ろうとした少年がぶつかった。
「おっと、ワリィワリィ。大丈夫か?」
「いえ、僕の不注意です。すみません。」

 

赤髪なんて珍しいなぁ、と思いながらシンはトイレに入っていった少年――エリオ・モンディアル――を眺めていた。
「あんなに小さいやつでも戦うのか?まさかな。」
この後シンは彼と再開を果たすわけだが、そんなことは知るはずもなく、アスランの待つ部屋に戻ることにした。

 

「お~い!アスラ~~ン!」
「ああ!行くぞ!」

 

そう言って小走りにシンがアスランのもとへと行く。

 

「でも飯食ったらどうする?やっぱ探検?」
「まぁそんなとこだろうな。少なくとも機動六課として働く時に不便しないようにしないといけないしな。」
「そういうのって、現地のやつらが案内するもんじゃないか?」
「仕方ないだろう。機動六課はまだ結成されていないし、その結成のために皆忙しいんだ。来た時期が悪かったんだよ。さっき管理局本局のフロントで地図は貰ってきた。」
「わかった。ま、飯が先だ!さっさと行こうぜ。」

 

そして二人は食堂へ向かうのであった。

 

???
「さて、と。今日は俺が調査だな?ちょっくら行ってくるから、留守は任せるぞ。」
「分かりました。」

 

そう言ってムゥは魔法陣を展開、ミッドチルダへと転移していった。

 

「ラクス・・・元気かな・・・」

 

キラはアスランを目撃して以来、元の世界に戻りたい、という願望が強くなっていた。
目撃はしていないが、シンの気配も感じていた。しかもシンにはいつも殺気が溢れている。
だからシンの気配を感じたら逃げるようにしている。
シンは殺気を隠そうともせずに転移してくるので、察知は簡単だった。

 

「あんなに殺気で満ち溢れてるなんて、困ったなぁ。あれじゃあ話を聞いてくれそうもないし・・・はぁ、何やってんだろ僕・・・」

 

その頃、ムゥは、、、
「小僧は何を隠してんのかねぇまったく」
はぁ~~、とため息をついていた。
ここ最近のキラはおかしいと思う。
何か焦っているのだ。
確かに、一年近くもコズミック・イラへ帰る手掛かりが見つからないのは心配ではある。
ムゥ自体ももう戻れないのではないか、と思うときもある。だがまだ生活には困らないし、八方塞がりというわけでもない。
いざとなれば、最近耳にした"管理局"にでも訊けば何かわかるかもしれない。
そう思った矢先、通信がはいった。バルトフェルドだ。
「お前さんから通信とは久しぶりだな。一ヶ月ぶりか?」
『ははっ、そう言うなよ。今日は情報提供しに来たんだよ。』
情報提供、その言葉にムゥは興味を示す。
「へぇ、内容は?」
『管理局は敵にまわさないほうが良い。今日バクーを五機ほど送って相手の様子をみたんだが、一人でなんの苦もなく倒しやがった。』
「バクー五機?別に普通じゃないか?」

 

しかしムゥは"バクー"という言葉に眉を寄せる。
魔法の特訓と称してバクー三十機に追い回される地獄の特訓。しかも一度被弾したらバクー追加、という恐ろしい条件付きだ。
まだ魔法に関してはよちよち歩きだったキラとムゥには過酷すぎる特訓だった。しかし、慣れてきたときにはキラもムゥも五十機ほど相手出来るようになっていた。
ムゥは長年の戦闘経験と彼ならではの順応性、キラはコーディネイターならでは身体能力とドラグーンの多さ、射撃の精密さの向上、などによってのものだ。

 

『おい、ムゥ。聞いてるか?』
「ん?あぁ、すまん。聞いてなかった。もう一度頼む。」

 

『だから、やつは魔道師としての機転も効いていて、リミッター付きだったがかなりの魔力量だった、っつう話だよ。まぁ、一人の魔道師の実力だけで組織全体を把握することは出来ないがな。一応の基準だ。』
「でもたかがバクー五機だろう?」
『ほぅ。お前がそれを言うか?』
モニター越しのバルトフェルドは嬉しそうにニコニコしている。

 

『まぁいいさ。戦闘データを送っとく。後で坊主と見とけ。』
「わぁったよ。じゃ、切るぞ?」

 

しかし、管理局の基準をなのはにするとはバルトフェルドも不幸な男である。無論、管理局でのなのはの強さなどムゥも分からない、それどころか高町なのは、という人物すら知らないが。

 

『あぁ、そうそう。今日新しいコーヒーのブレンドを発見したから今度振る舞いに行かせてくれ。』
「はいはい。じゃあな。」

 

そう言ってムゥは通信を切る。バルトフェルドは相変わらずだった。
コーヒーの話をするとき、彼は本当に楽しそうだ。

 

「さてと、情報収集情報収集。さっさと帰らないとな、小僧のためにも。」

 

そしてムゥは暗くなったミッドチルダへと姿を消した。
そうして、夜は更けていくのであった。。。

 

――翌日、シンとアスランの部屋――

 

ピピピピピピピピピピピピ。
「んん?んぁ。朝か。う~~~~~~ん、と。準備しないとな。」
朝8:00、シンとアスランが目を覚ます。
今日は機動六課の開設式の日だ。
シンとアスランは緊急召集なので、今日が機動六課の人員と初顔合わせとなる。
他の人、特にFW陣は既にミーティングすら終えているらしい。
「とりあえず顔を洗って制服来て、飯食って、んでまぁお偉いさん方に挨拶か。あぁ、デバイスの調整もしないとな。
アスランは、、、もういないのな。」
シンは準備を始めることにした。

 

その頃アスランは、機動六課のメカニックを務めるシャーリーと面会していた。
「ですから、俺達のデバイスは俺達で調整すると!」
「ダメですよ!それではメカニックの名折れです!デバイスを貸してください!」
「あなたでは無理です!というより、俺達は実践のつどに自分にあうようにカスタマイズしているんです!それをいきなり変えられては困りますし!それに、あなたではこいつらの調整は出来ません!!」
「なぜ私では出来ないんです!!?やってみないと分からないでしょう!?」
「あなたはナチュ・・・いえ、なんでもありません。
はぁ、わかりました。俺のデバイスを渡します。開設式の後でいいですよね?」
「え?あ、はい。まぁいいですけど・・・」
「では失礼します。」

 

そう言ってアスランは技術室を出た。

 

「危なかった。」

 

危うく"ナチュラル"と言ってしまうところだった。
彼らしくない失態だった。

 

アスランは独自に調べてわかったことだが、この世界にはナチュラルとコーディネイターの格差が無い、いや、人類は一種類しかいないらしい。
しかも、受精卵の遺伝子を弄る技術は無いらしい。そんな世界で自分がコーディネイターだとバレたらどうなるか分からないほどアスランは馬鹿ではなかった。それはシンも同じである。
身体検査の時も、言い訳をつけて遺伝子までは検査されないようにしていた。

 

「はぁ~。やりづらい世界だ。しかし、今のは大丈夫だっただろうか。あれでバレたりはしないと思うがな。」

 

そう決めて、アスランは部屋へ戻ることにした。
さすがにシンももう起きただろう。

 

「アスラン!」
「ん?あぁ、シンか。起きたのか?」

 

どうやらシンはアスランを探していたらしい。
とりあえず、制服を来てはいる。もちろん手には昨日渡した地図もある。

 

「どこいってたんだ?早く飯行こうぜ?」
「少し技術部のやつらから呼び出しがかかってな。デバイスを渡せ、とせがまれた。」

 

それをきいて顔を曇らせるシン。

 

「渡したのか?」
「いや、とりあえず開設式終わったら渡すつもりだ。渡さないといろいろまずくなってな。」

 

それを聞いてシンは大方の事情を察する。

 

「まぁ、大丈夫だろ。あれはそうそう弄れねぇよ。」
「そうだな。それにしてもシン、最近食い意地はってないか?昨日からずっと『飯』って言ってないか?」
「んな!?そんなことないって。」
「そうか?まぁ、食えるうちに食っとくのは大事だからな。」

 

アスランはしみじみと言う。

 

「そか。まぁ、飯行こうぜ?」
「また言ったぞ?」
「う、うるさい!!いくぞ!」
「あぁ」
そして、彼らは食堂へ向かう。
その時だった。
シンが自室へ向けて走り出す。
「シン!!?」
「ヤツだ・・・」
「なに?聞こえないぞ!」

 

しかしアスランは察した。キラがいたのだ、と。

 

「ちっ、シン!!そんなに殺気だっていてはキラにみつかるぞ!!
気持ちだけでも少し抑えろ!!キラに逃げられるぞ!!」

 

キラに逃げられる、その一言でシンはアスランに従う。走るのを止め、深呼吸を行う。
「フリーダム!!!」

 

彼はデバイスを手にると転送魔法を始める。アスランもそれに続く。

 

「開設式まで時間がないぞ!どうするんだ!!?」

 

しかし、シンには聞こえてないようだ。
アスランは頭を抱え、始末書に何を書けばいいのかと嘆いた。

 

キラも、何者かがこちらへ来るのを感じていた。
「これは、アスランとデスティニーの?」
しかし、いつもより殺気がない。勘違いかと思い、情報収集を再開しようとした。
が、次の瞬間聞こえたのは、シンの絶叫だった。

 

「うぉぉおおおぉぉおぉ!!!フリーダムゥゥ!!!」
大剣を片手にキラに突貫する。
「なに!!?」
障壁を張ったが、一瞬キラの反応が遅れ、キラは後方へと吹き飛ぶ。
「アスラン!!結界!!」
「分かってる!」
アスランは既にシンの説得を諦めている。
キラを捕獲すれば、キラの目的やなぜキラがここにいるかわかるからだ。
「フリーダム!あんたは、あんたは俺がぁあああぁぁああぁぁあぁ!!!」
シンはまた突貫する。
しかし、キラも同じ手を二度もくうことはない。

 

「フリーダム!」
そう叫ぶと、腰についている筒状のものが2つ、シンに向く。
そして手にもつ二丁拳銃をシンにむける
『Cartridge road.High MAT full burst.』
そして腰から中心が赤い二本の太いビームと二丁拳銃から緑のビールが発射される。

 

「な!!?」
シンは、回避は間に合わないと悟り、体を半分下に下げて斜めに障壁を張り、ビームの軌道を曲げる。
その隙キラは後方へ。
「ちっ、逃がすかぁぁああ!!!デスティニー!!」
そう叫び、直後にシンの腰に緑色の筒が生まれる。
「くらえ!!!」
そこから放たれる長射程ビーム砲。
しかし、キラはやすやすと回避し、叫ぶ。

 

「ドラグーン!」
そして、翼から四つのドラグーンが切り離され、シンへと向かう。
「ちっ、こんなもん!」
そういいながらも四つのドラグーンを捌ききれないシン。
いつものシンならこの程度で苦戦するシンではないが、如何せん今までのストレスと怒りから周りがみえていないため、動きが直線的すぎた。
キラはこの隙を逃さない。
キラはシンに向き直り、ロックオンモニターを表示、10以上のマーカーをシンにむける。
「これで、フリーダム!!」
『High MAT full burst Mitia shift』
「いけぇー――――!!!」

 

非殺傷設定の砲撃がシンを射ぬこうとする。
シンは完全に反応が遅れ、障壁をはるのが遅れる。
「ふんぬぅああああぁぁぁあああぁ!!!」
しばらく粘るが、やはり押し負けていく。そのうちにキラは離脱、シンはそれを見ると糸が切れたように気を失う。

 

「馬鹿!今障壁を止めたら!!!」
アスランが叫ぶが、もう遅い。キラの砲撃はシンを飲み込んでいった。。。