魔法成長日記_03話

Last-modified: 2010-03-30 (火) 00:27:07

「んでアスランくん。何か言いたいことはある?」
「も、申し訳ありません。」
笑顔全開で有無を言わさぬ雰囲気を漂わしてアスランの前に仁王立ちするはやて。
あの後アスランは気絶してボロボロになったシンを抱えて本局に戻って式の行われるところまで全速力で走った。
本局に着いたときは10:20となっており、式ならまだ間に合うかと思ったアスランだったが、開設式はすでに終わっていたらしく、
アスランがかけつけたころには今のような満面の笑みを浮かべたはやてがいたのだ。
早すぎないか?と疑問に思うアスランだったが後で聞いた話によると、部隊長挨拶が一分もたたずに終わったらしい。
なんともいいかげんな、と思わずにはいられないアスランであった。
「昨日遅刻するなて言うたよな!!?」
「はい・・・」
「最初の命令も守れへんてのはどういうことや!!?」
「・・・」
なんの弁解もできないアスラン。非はすべてこちらにあるので、何も言えない。
アスランが押し黙っていると、そこへひょこっとなのはが顔を出した。
「まぁまぁはやてちゃん?命令違反したならしたなりにアスランくんにも理由があるんじゃない?お説教はそれを聞いてからにしたら?」
"理由"、その言葉にアスランは不安を覚える。
アスランは、自分たちの話はあまり喋りたくない。
この件についても、キラとシンの話をすることじたいアスランにとっても気持ちのいいものではないのだ。しかも、彼らの話をするときに"戦争"という話題は必須だ。
この世界にまでコズミック・イラの"戦争"を持ち込むつもりはなかった。
(ここまで来ても、"戦争"からは逃げられないのか・・・嫌なものだな・・・)
そういいアスランは自嘲する。しかしはやてはそれを見逃さない。
「なにかおかしいん?」
「あぁ、いえ。なんでもありません。」
その瞳は憂いと嘆きで満ちていが、それを感じとれたのはなのはだけだった。
それを見てなのはは事の重大さを感じとる。
(なにか、わけありみたいだね・・・)
「話したくない・・・かな?」
「・・・・・」
アスランが"戦争"について話したがらないのは、もう一つ理由があった。
この"戦争"の話をするときナチュラルとコーディネイターの話をせざるを得ない。
アスランとしてはそれは避けたかった。
なぜなら、いつも気にかけていることだが自分たちがコーディネイターだとばれるわけにはいかない。
アスランにしてみればここは正念場だ。
(さて、どうするかな・・・)
話したくないから話さない、というのも一つの手だ。
しかし、ふとアスランの頭にある考えがよぎる。
(第三者から見ると、俺たちはどう映るんだろうか・・・)
しかしアスランはすぐにその考えを破棄する。
(ええい。これは俺たちの問題だ。他人にどうこう言われてどうする!)
しかし、この件についてはいずれ話さなくてはならなくなるだろう、そう思った末、アスランはこうきりだした。
「あなたたちは、今回の俺たちの行動をどこまでご存知ですか?」
「うん・・・あなたたちが転送魔法を使って管理局からいなくなったとこまで知ってるよ?」
なのはがさっきとはうってかわって真面目な顔で言う。
話をするときは、相手の質問に答える。相手を威圧してはいけない。対話の基本だ。
「そうですか。ふぅ・・・」
アスランはそこで一呼吸おいて、覚悟を決めた。
「シンは・・・転送魔法を使って、転送先で戦闘をしていました。」
それを聞いてなのはがはやてに念話を送る。
『はやてちゃん。ここは私に任せてくれないかな?』
『え?でも、ここは隊長としてうちが・・・』
言っても無駄なのは百も承知だが、一応隊長として言ってみた。
『今必要なのは対等な話し合いだよ。彼らのことを知らないと始まらないでしょ?』
『まぁそやけど・・・わかった。この場は任せたで?』
『了解♪』
はやては早々に諦め、そう言うとはやては退出し、なのはとアスランが部屋に残る。アスランは部隊長の退室を疑問に思ったが、すぐになのはが口を開いた。

 

「うん。改めて、はじめまして♪機動六課の高町なのはです。あなたは?」
「あ、新たに機動六課に配属となったアスラン・ザラです。」
「うん。よろしくね、アスランくん。」
「はい。」
「でも、緊急で転属なんて珍しいね?はやてちゃんがリンディさんの伝だって言ってたけど。」
(話がそれていないか?)
「はい。なんでも、機動六課のほうが私たちを上手く扱えるとか。」
本来の目的を隠すべくとっさに別のことを言ったが、嘘ではなかった。
「上も酷いね。アスランくんは物じゃないのに。」
「いえ、もう慣れておりますので。」
実際アスラン達は兵器扱いされるのに慣れていた。並外れた身体能力に、いきなり膨れ上がる魔力。チームワークが必須となるこの世界では確かに扱いづらい存在だと自分でも思う。
「あぁ、あと任務の時以外は敬語はいらないよ?アスランくん私より年上でしょ?」
「ですが・・・」
「位も二等空尉でしょ?いいよいいよ。逆にこっちが変な感じするし。」
「わかりま、、わかった。」
それを見てくすくす、となのはが笑う。
「あぁ、そうそう。はやてちゃん。あの子、ああ見えてかなり君たちの事心配してたんだよ?」
「えっ?隊長が?」
「うん。式中もずっと『自分の出番はもう無いから』っていってさがしにいこうとしてたんだよ?」
「そう・・・だったのか。」
「うん♪後ではやてちゃんに謝罪なりお礼なりしておきな?」
「分かった。そうしよう。」
「うん♪じゃあ本題に戻ろうか。なんでシンくんは戦ったの?」
(なぜ、か?)
アスランは疑問を抱かざるをえなかった。
目の前の女は"誰と"もしくは"何と"とではなく、いきなり"なぜ"ときりだしたのだ。
「なぜ、か?」
「うん。"どうして"戦ったの?」
「それは・・・」
しばし沈黙が訪れる。
これはあくまでシンとキラの問題だ。アスランも、彼ら双方の状況を理解しているつもりではあるが、彼――シン――に代わってペラペラと喋ってよいのか分からなかった。
なのはは急かさない。ゆっくりとアスランの答を待つ。
そして、アスランがゆっくりと話す。
あえて『大切な人の仇』とは言わずに。
「それは・・・あいつが、子供だから、なのかもしれないな。」
「子供?」
(いきなりこんなこと言っても信じるはずがない、か)
そう思ったが、アスランの口は止まらなかった。
「あいつも、分かってはいるはずなんだ。でも、認めたくないだけ。憎しみの連鎖は、断ち切らなくちゃならないのに・・・
あいつは優しいから、いつまでも気にかけてしまう。どんなに嘆いても、復讐の心に燃えても、帰ってきはしないのに。
・・・そうだな、詳しくはあいつに訊いてくれ。あいつは、優しすぎるんだ。それが裏目に出た。あいつの話を聞けば、高町も納得すると思う。」
アスランは寂しそうに下を向きながら答えた。
カガリの事を思い出しながら心のなかで呟く。
(シン、憎しみが生むのは戦禍と新たな憎しみだけなんだぞ?)
オーブ軍の飛行挺の中、アスランがイージスの自爆でキラのストライクをおとした時、彼女がアスランに言った言葉だ。
『殺されたから殺して、殺したから殺されて!それで本当に最後は平和になるのかよ!!?』
あの言葉は今でも胸に刻まれている。
しかし、シンはまだそれに気づけていない。否、それを認めていない。
キラを討たないと彼ら――死んでしまった大切な人達――が報われないと信じこんでいる。しかしシン自体、"平和"にはあまり感心がないのかもしれない。
彼はただ、『守りたかった』だけなのだから・・・
「あいつを分かってやってくれとまでは言わないよ・・・」
「そう。」

 

なのはも追及はしなかった。そして質問を変える。
「誰と、もしくは何と、戦っていたの?」
アスランは躊躇なく答える。
「俺の幼なじみ、フリーダムだ。きっとシンもそう言う。」
アスランはあえて、キラ・ヤマトとは言わなかった。
管理局が動いてキラを捕らえるとなったら一大事だからだ。
しかも、ただのコーデネイターでない彼は見つかったら最後、本当にまともな人生はおくれないだろう。
そう思ってのことだった。

 

「フリーダム。。。自由?」
「あぁ、そうだ。」
「おちょくってる?」
「いや、真剣だ。とりあえず、シンが起きてからにしないか?これはシンとフリーダムの問題だ。俺がやたらめったに話していいことでもない。」
(で、そうすると俺はジャスティスでシンはデスティニーなわけだ。俺たちはそんな大それたもんじゃないのにな。)
そんなことを思い、アスランは自嘲する。
しかし、なのははアスランのその素振りを見逃さない。
「そうみたいだね。じゃあシンくんの回復を待つのが先決かな。私ももう訓練行かなきゃいけないし。」
「訓練?あぁ、FWの?」
「そ、みんな育てがいのありそうな子達だよ。シンくんとアスランくんはしばらく謹慎になるだろうから、会えるのはもうちょい先だね。」
「そうか。行ってくるといい。俺もシンのところへ行く。」
「うん♪じゃあね♪」
「あぁ。」
そういってなのはも退室する。
「シン・・・・・お前は・・・どうしたいんだ?キラを討って、それで本当に気がすむのか?」

 

――病室――
アスランとなのはが話している最中、シンは病室で目を覚ましていた。
「ん、、ここは?いつっ!!?」
起き上がろうとすると腹が痛む。
「ん?あれ、目を覚ましたんですか?ダメですよまだ起き上がっちゃあ。安静にしててください。」
声のする方を向くと、以前トイレでぶつかった少年――エリオ・モンディアル――がいた。
「あれ?お前、いつぞやの・・・」
「あ、覚えててくれました?機動六課のエリオです。エリオ・モンディアル。」
「あぁ、シン・アスカだ。昨日付けで機動六課に配属になった。」
「えぇ、八神部隊長から話は聞いています。よろしくお願いしますね。」
「あぁ、よろしく。」
「でも、ビックリしたんですよ?
式の後にたまたま通りかかったらぐったりしてるシンさんとそれを担いでる人と八神部隊長が騒いでたんですから。
大丈夫、なわけないですよね・・・」
「ん?あぁ、これくらい平気だ。すぐ治るさ。」
言いながらシンは記憶の整理を始める。
(たしか、フリーダムのパイロットを見つけて、結局逃がしちまって、、、、そこから記憶が無い。あの時砲撃を凌いでいる最中で、今この怪我ということは気を失ってから直撃したのか・・・
んでアスランが担いで本局戻って、どうせ間に合わなかっただろうし、隊長にガミガミ言われてたんだろう。)
「シンさん?」
「おぉ、ワリィ。なんだ?」
「とりあえず、今日一日日は安静にしとかなきゃいけないそうですよ。」
「一日?」

 

シンは、やけに短いな、と思った。あの魔力の砲撃の直撃を受けて一日でベッドから出ていいと言われるとは思っていなかった。
(まさか・・・バレたか?)
自分が遺伝子改造によって生まれたコーデネイターである、ということだ。
決して管理局にバラしてはいけない事項だ。
「短くないか?医者はなんか言ってたか?」
「どうもシンさんがうけたのは非殺傷設定だったようで、うけたのは魔力ダメージだけだそうです。しかも、直撃じゃなくて左の上半身だけだから、そこまで重症じゃないみたいですよ。」
(非殺傷設定?・・・くそっ!なめやがって!!!
にしても左上半身?あれは直撃コースじゃなかったか?)
疑問に思うシンだったが、エリオが次の質問をした。
「にしてもどうしたんです?式ほっぽりだしていきなりどっか行くなんて。」
シンはその言葉に顔を曇らせる。式に出席しないと思ったら気絶して帰ってきたのだ。
エリオが心配するのも無理はない。
(どうしたもんかなぁ・・・)

 

シンもここが正念場だ。
(そういやアスランはどこまで喋ったんだ?コーデネイター云々とは無関係な事しか話さないだろうから・・・戦争はタブーか。あとは・・・やっぱり戦闘した事はバレてんだろうから・・・)
そう思いながら一つ一つ冷静に判断し、話しだす。すこしぼかしながら。
「そうだな、ケリつけたかった・・・かな。」
「ケリ?何と?」
「・・・なんだろうな・・・自分と・・・いや・・・過去とかもな・・・正直俺にもよくわかんねぇや。」
マユやステラを思い浮かべ、さらにアスランの言葉も思い出された。
(戦争はヒーローごっこじゃない、か・・・分かってるさ、そんなこと。でも、そしたらあいつらは・・・力さえあれば俺はあいつらを・・・)
シンもこっちに来て一年を無駄にすごしたわけではなかった。
振り返る時間はたっぷりあった。あの頃の、コズミック・イラにいた頃の精神不安定とも言えるシンを冷静に見直すと、アスランの言いたいこともわかってきた。
フリーダムを憎んだらステラたちが帰ってくるわけではない。それくらいシンにも分かっていた。
しかしこっちにきて、慰霊碑のときに会った少年がフリーダムのパイロットだ、とアスランに言われたときは、彼はまた憎しみと怒りに支配された。
彼は今までずっとそうだった。キラを討たなければいけない、ステラやマユたちの仇をとらねばならない、と思い続けていた。
しかし今、冷静に見つめ直した自分と、昔から変わらずフリーダムを討つ、という憎しみと怒りに支配されていた自分、それらの葛藤は今もシンの中に蠢いている。
だから、分からない。自分がなんのためにフリーダムと戦うのかが。
昔なら、ステラとマユの仇、と割りきることも出来ただろうが、今振り返ってそれがステラやマユのためになるのか、と考えると、今のシンには答は出せなかった。
(守りたかった・・・だけだったのに・・・フリーダムさえおとせば、って思ってた・・・)
シンは、その真っ直ぐな性格故に道を間違えたのかもしれない。『守りたい』という気持ちに嘘はない。それが彼の真っ直ぐな願いだ。
守りたい人を失ったのは自分だけではないことはシンも分かっている。アスランやキラも大切な、守りたい人を守れなかったことも知っている。
でも、シンは割りきれなかった。守りたかった人達を殺したフリーダムを憎んだ。憎しみの連鎖は新たな犠牲者を生むだけだと分かっていても、とまることはできなかった。
自分勝手だと思う、子供だと思う、それでもシンはその実直な優しさ故、キラ達のように『次の犠牲者をださないために戦う』ことは出来なかった。
シンは"吹き飛ばされた花"の前で泣き叫んだ。しかし、キラは"吹き飛ばされた花"を越えて"新たな花"を散らさないよう尽力した。
それが、シンとキラの差なのかもしれない。

 

シンの複雑そうな顔をみたエリオはあまり追及しないほうが得策だと考え、黙っていた。
「ワリィな。今はうまく言えねぇや。」
今のシンにはこれが
「そうですか・・・
でも、何かあったら・・・言ってください!!力に、なれるかもしれないですから・・・」
「あぁ、ありがとな。」
「僕は訓練があるのでこれで失礼します。後で医者のシャマル先生が来てくださると思うので。」
「おう、何から何まで悪いな。」
「いえ、今僕にできることはこれくらいしかないので・・・」
健気な少年だとつくづく感心するシンをよそに、エリオは退室する。
入れ替わりでシャマルが入ってくる。シャマルは驚いたような顔でシンを見る。
「あれ?もう目覚ましたの?はやかったですね。」
「あぁ。えと、、、あんたは?」
「あら?ごめんなさい、機動六課の医療班に所属している、シャマルです。シン・アスカくんよね?」
「あぁ。昨日付けで機動六課に配属になったシン・アスカ。よろしく。」
「それで、なんで新兵さんが来てそうそう倒れてるのかしら?」
シャマルがジト目でシンを見る。
「そ、それは・・・その・・・」
まだシャマルのジト目は続く。さすがのシンもこれにはたじろいだ。
(まためんどくさそうなのがきたな・・・なんてごまかすかな・・・)
シンが悩んでいると、シャマルは察したのか、面倒事はごめんだ、とでも言うように言い放つ。
「ふぅ~ん。まぁ、話したくないなら話さなくてもいいですよ。
話したくないことの一つや二つは誰にでもあるでしょ?」
「そうしてもらえると、助かる。」
そう言うとシャマルのジト目アタックも終わった。
「そ、まぁいいわ。それより怪我よ。非殺傷設定の砲撃が左上半身直撃とはいえ、もう目を覚ますほど回復するなんて・・・普通あり得ないんだけど・・・」
(マズイかこれは・・・?)

 

次はコーディネイターに関する言い訳作りかと思ってたシンだったが、
「術者の魔力コントロールがよかったのかしら?」
「はい?」
シンは思わず声が裏返ってしまう。新たな言い訳を考えなければと思っていたシンにとっては思わぬ肩透かしをくらった気分だ。
「え?だってそうでしょ?直撃させつつそこまでダメージを与えていないなんて。こんな精密なコントロールはなのはちゃんくらいしか出来ないと思ってたわ。」
一人合点をしているシャマルを見ながら、唖然とするしかないシン。
(もしかしてこの人・・・ぬけてんのか?)
そう思わずにはいられないシンであった。
「でもまぁ、シンくんが無事でなりよりよ。
あ、そうそう。あんま皆に心配かけちゃダメよ?この隊は究極のお節介が三人いるから♪」
「は、はぁ。」
シンはシャマルのペースに翻弄されっぱなしだった。
「そういえば、アスランは?」
「へ?アスランっていうと・・・あの青髪の?」
「そいつだ。アスランは今どこに?」
「知らないけど・・・もうそろそろ解放されたんじゃないかしら?会いに行く?」
「会わせてくれるのか?」
「断る理由が無いわ。じゃあいきましょ。あぁ、一応怪我人だっけ?歩ける?」
「その程度なら問題ないはずだけど・・・」
「そ。なら良いわね。」
そう言ってシャマルが立ち上がった直後、『グーーーーー』と長い音が鳴る。
「でも、朝ごはんが先みたいね♪」
シャマルが茶化すように笑う。
「わ、ワリィ。」
シンもバツのわるそうな顔で答える。顔は真っ赤だ。
「じゃあ気を取り直して、いきましょ?」
「頼むよ。」
二人は病室を退室する。
(やっぱ食い意地はってんのかなぁ俺・・・)
アスランに言われたことをしみじみと考え直すシンであった。

 

―――???―――
「へぇ、これは・・・」キラが情報収集から戻って来たので、ムゥとキラはバルトフェルドに送られた戦闘データを見ていた。
「って、バインド?いつの間に?」
「多分ここでしょう。一瞬だけ魔力弾が制御されずに直進しているところがあります。
ほら、この人も何か呟いてます。デバイスも光ってるから、多分この時ですね。」
映像はなのはがバクゥを設置型バインドにかけたところだった。
巻き戻しながらキラがムゥに説明をする。
「ははぁ~。こいつはすげぇなぁ。魔力の使い方にまったく無駄がねぇぜ。」
「バクゥの魔力弾も必要最小限度の回避しかしていません。後方の追尾弾も、あのピンク色の魔力弾で撃墜してます。」
「死角も無しってことか?」
「さぁ、そこまではわかりませんが・・・」
「それにしてもあの魔力弾、ドラグーン顔負けの精度だなありゃ。」
「バルトフェルドさんの言うとおり、敵に回すのは危険ですね。」
「だな。」
そういってムゥはモニターをきる。
そして目付きを険しくして言った。
「んで、キラ。誰と戦った?」
「え?」
「"誰と戦った"って聞いてんだ。」
「な、なんのことです?戦闘なんかしてませんよ。いつものように廻って帰ってきただ・・・」
「誰と戦った!!!?」
ムゥが声を荒げる。目付きは真剣かつ険しく、キラの嘘は見事に見抜かれていた。
「・・・デスティニーのパイロットです。アスランもいました。彼らも、こっちに来ているみたいです。」
「デスティニーのパイロットって言うと・・・シン・アスカ、か?」
ザフトのトップガンの名前くらい、ムゥも知っていた。
「でもなんでまた戦闘を?」
「僕を恨んでいるんだと思います。彼の大切な人を僕が殺してしまったみたいで・・・」
「・・・なるほどね。んで、怪我はないんだな?」
「えぇ。ありません。」
「そうか。ならいいんだ。」
「すみません・・・」
「終わったことだ。いつまでもグダグダと言い続ける気はねぇよ。それより飯行くぞ飯!正直腹減ったんだ。」
「はい。そうですね。僕もです。」
「飯は食えるうちに食わねぇとなぁ!さ、行くぞ?」
そう言ってムゥは転移魔法を始め、キラもそれに倣う。
「今日の飯は~~~ここだ!」
直後、キラとムゥが消え、ついたのはとある喫茶店前。

 

「ここ・・・は?」
「確かバルトフェルド御用達の喫茶店だな。まぁ、行こうぜ。やつがいるかもしれねぇ。」
「はい。」
ドアを開けると、カランカラ~ン、と鈴の音がする。
「いらっしゃまいませ、二名様ですね?」
「あぁ。
「こちらへどうぞ。」
そう言われ、空いているカウンター席へ座る。
すると隣に座っていた、四角い黒のサングラスに赤いアロハシャツで短パンという出で立ちの男――バルトフェルド――がムゥにはなしかける。
「よぉムゥに少年。珍しいな。あぁ、少年は直接会うのは初めてなるか?」
「はい。でも、バルトフェルドさん。その腕は?」
「ん、あぁ、これ?気にしないでくれると嬉しいねぇ。いやいや、ちょうどお前らに通信を入れようと思っていたところでな。ナイスタイミングだ。」
「そうか、で用件は?」
するとバルトフェルドはサングラスを外し、ムゥに顔を寄せて小声で話す。
「帰れるかもしれねぇぞ?」
「なに?」
「最近手に入れた情報でな、お前らみたいにコズミック・イラから来たやつが、コズミック・イラに戻る計画をたてているらしいんだ。」
帰れる、と聞いてキラも興味を示す。
「それは本当に?本当だとしたら誰が?」
キラがそう言うと、バルトフェルドは途端に顔を曇らせた。
「全員は知らねぇが、ラウ・ル・クルーゼが一枚噛んでる、ってはなしだ。」
「「なっ・・・」」
二人は絶句する。無理もない、クルーゼと聞いて喜ぶやつなど、そうはいないだろう。ムゥは特に険しい顔をしている。
「ただ、リーダーではないらしい。リーダーはたしか、スカル、違うなぁ、スカリ・・・スカリエッティ!そうだ、ジェイル・スカリエッティだ!」
「「スカリエッティ?」」
きいたことも無い名だった。
「あぁ、たしかこいつだけはコズミック・イラ出身じゃないらしくて、ただの協力者だそうだ。」
「へぇ、物好きもいるもんだねぇ。」
「あぁ、会いに行くか?すでに話は通してあるんだ。一報入れればすぐ行けるぞ?」
「クルーゼだろう?どうせろくなこと考えてねぇよ。どうせまた世界ぶち壊しに行くんだろう?」
「さぁな。そのへんは分からんよ。」
「行ってみましょう。ここまでさがしても手がかりはないんです。話くらい聞いてみてもいいと思います。それにフラガさん、背に腹は変えれませんよ。」
「そうか・・・」
ムゥはクルーゼに対する懸念がぬけないでいたが、口には出さなかった。
しかしそこへバルトフェルドが口をはさむ。
「だが、もう一つ懸念材料があるんだ・・・」
「クルーゼ以外にまだあるのか?」
少し呆れたムゥだが、それでもバルトフェルドに先を促す。
「あぁ、どうやら、管理局を敵にまわすことになるらしい。」
その言葉にムゥとキラは押し黙る。
「昨日管理局を敵にまわすな、って言ったばっかで悪いんだがな・・・」
しかし、沈黙はそう長くはならなかった。
「・・・行きます。行かせてください。」
「キラ?」
「それしか方法は無いんでしょう?だったらやるしかないじゃないですか。」
そういって、キラは腕に着けていた"二つの"宝玉を握りしめる。
一つは赤で、もう一つは蒼だ。
「・・・何を言っても無駄ってか?お前らしいっちゃあお前らしいな、まったく。
おい、バルトフェルド。そういうことだ。さっさと連れてけ。」
「わかったよ。ダコスタ!」
デバイスで通信をいれ、バルトフェルドはダコスタに準備をするよう命じた。
「でよう。準備は終わったぜ。」
「あぁ。」
そういって三人は外へ出る。
「そうだ。飯食ってねえや・・・」
「い、今はそれおいときません?」
「そうだなぁ。でもキラ、過酷の道になるぞ?」
「はい。覚悟は出来ています。」

 

「そか。なら何もいわねえよ。」
「でも、話を聞くだけですから・・・」
「ま、それもそうだな。」
そういっているうちにバリアジャケット姿のダコスタが現れる。
「ではお二人とも、行きますよ?」
「よろしくお願いします。」
「頼んだぜ?」
そして三人は、スカリエッティのもとへと向かった。

 

運命の歯車は回りだす。彼らの意思と、それ以外のものの意思を含めて。
次回 シンとアスランの魔法成長日記第四話
「シン・アスカ」
守れなかった敗者に、アスランたちの救いの手は届くのか・・・