魔法成長日記_04話中編

Last-modified: 2010-04-07 (水) 23:30:08

第四話シン・アスカ~血塗られた過去~

 

(シンくんどこだろう・・・)
フェイトは、タッタッタ、と小走りに舎内を回ってシンを探していた。
(そういえば、シンくんたちの部屋の場所知らないなぁ・・・)
そんなことを考えつつ、フェイトは走る。なぜシンを追っているのか、それは、"追いかけたほうがいい"という直感かもしれない。そしてその直感はさっきのシンの瞳から感じた物、それに対する"なぜ"という疑問。
(どうしてあんな悲しい目をするの・・・)
フェイトの疑問はそこだった。悲しみや憂いに満ちたあの瞳が気になったのだ。しかし、シンの抱える"悲しみ"は他人には到底理解しきれるものではなく、まして人を殺したこともなく、守りたい大切な人を守れなかったことの無いフェイトにとっては尚更だった。
(でも・・・リインフォースとは、違う目だった・・・)
"リインフォース"という名を貰う前の彼女の目も悲しみに満ちていたが、あれはどちらかといえば諦めの目、救いを求めることを諦めた、冷めた目だった。
しかし、シンの目は違う。諦めてない、未だ燃えている様な真紅の目だ。少なくともフェイトにはそう見えたからこそ、シンを追っている。
なのはたちは、これらを『ほっとけないから』と説明するが、フェイトにその自覚はない。

 

「シン・アスカを見ませんでしたか?」
「いや、あの新人だろ?知らないなぁ。」
「そうですか、ありがとうございました。」
そう言って頭を下げ、また駆け出す。
(これで五人目・・・手掛かりなし・・・部屋も分かんないから部屋以外を探すしかないかな・・・いるとしたら、こういう時は・・・やっぱり屋上?)
フェイトの勝手な想像でしかないが、手当たり次第調べるしか方法の無いフェイトは屋上へ向かうことにした。

 

一方シンは、フェイトの予想通り屋上の扉の上のスペースで貯水タンクによりかかっていた。手にはピンクの携帯が握られている。中は見ない。泣いてしまいそうだから、マユがそれを望んでいないと思ったから。
(いつか話さなきゃいけなかったんだ・・・その覚悟はあったはず・・・なのに・・・どうしてまだ涙が出るんだよ・・・)
話す覚悟があっても、いざ言葉にしようとするとやはり耐え難い悲しみがシンを襲う。涙は流しきったつもりだし、振り切ったはずだった。しかしまだ、涙は流れる。彼には重すぎる荷物なのかもしれない。シンのような青年が背負い込むにはそれは重すぎる悲しみであり、アスランやキラのように達観するには精神的にもまだ幼すぎた。
(ハイネ、ルナ、ステラ、マユ、レイ、アスラン、ヨウラン、メイリン、みんな・・・俺、どうすりゃいい?)
もちろん返答はない。しかし、シンがそんな悲しみにくれていると、かわりにカツカツカツ、と屋上への階段が音をたてた。
(誰だ?)
慌てて目を擦り、何者なのか確認しようとドアの上へと身を乗り出す。ドアが開くと、金髪が目に映った。
(確かあれは・・・フェイト、だったか?)
声をかけるかかけないか、一瞬悩む。
「こんなところで何してるんです?」
結局声をかけ、フェイトの方へ降りた。声をかけると、フェイトは驚いたようにシンを見るが、すぐに安堵したような表情になる。
「シンくん・・・シンくんこそ、どうしたの?」
「どうした、って・・・用事があるから・・・」

 

「こんな屋上に?」
「・・・あんたには関係ないでしょ。」
「関係あるよ。同じ隊にいるんだもん、心配するよ・・・」
「どうもご丁寧にありがとうございますね。上官様は隊員のお節介をやくのが仕事でありましたか?」
いつもの悪い癖がつい口から出る。どうしても上官や教官に対してひねくれてしまう。しかし、今のフェイトにはただの強がりにしか見えなかった。
「シンくんは・・・どうしてそんな悲しい目をするの?」
だからフェイトはいきなり核心をつく。シンは内心驚くが、平静を装う。
「それはすいませんでした。上官様のお気に召すよう努力いたしますよ。」
「私はシンくんと対等に話がしたいだけ・・・どうしてそんな悲しい目をするのか、それが訊きたいだけ・・・」
二度目のフェイトのその質問が、シンの心に障った。
「ちっ・・・・・・帰れよ。」
「え?」
「あんたには関係ない・・・あんたには関係ないだろ!!!あんたなんかに話すことはなにもない!!帰れよ!」
「関係ないかは、話し合ってから決めることだよ。教えてよ、シンくんのこと。」
「なんなんだよあんたは!!?会った直後にいきなりそんなこと言い出して!!悲しい目!?あんたなんかに理解出来やしないさ!!!こんな平和ボケした世界でのうのうと暮らすあんたらに・・・俺たちの何がわかるって言うんだ!!!ほっといてくれよ!」
ついにシンが内心を晒し始める。フェイトはこれを好機と思い、対話を続行する。
「でも、話せば分かることだってたくさんある!」
「はっ!お偉いさんはいつもそうだ!!!話せば分かる、話をしよう、ってな!!そんなご託ばっかり並べて!!自分たちが何をしてるのかも理解せずに!!!話をしよう、なんてのは言い訳だ!!相手の情に訴えるためのお偉いさんの最終手段だろう!!!」
「違うよシンくん。話し合わなければお互い何もわからない。シンくんだって、私のこと分からないでしょ?
話をしないと、何も始まらない。今のシンくんは"どうせ理解出来やしない"って決めつけてるだけ。話をしてみないと分からないよ、何も・・・」
フェイトは、昔敵対しながらも話し合いを望んだ女の子を思い出す。ずっと自分の名前を呼びながら話し合いを望み、自分を知ろうとしてくれた女の子、高町なのは。彼女と出会って、フェイトは変わった。だから彼女は、今怒りと悲しみで叫んでいるシンにも話し合いを望む。
「くっ・・・」
シンも押し黙る。フェイトの言いたいことも分かるからだ。
(どうする・・・でも・・・)

 

シン自身、理解者が欲しくないと言えば嘘になる。こんなに苦しみや悲しみを背負い込んでいる自分がいる、ということを気づいて欲しがっている面もある。人間は脆く、情に弱い生き物だ。
(くそ・・・でも、中途半端な同情なんて・・・)
そう思い直し、なおもフェイトを突っぱねる。
「帰れよ・・・帰ってくれ。頼むから・・・」
「どうして?」
「わかってもらおうなんて思わない。理解されようなんて思わない。帰ってくれよ。初対面のあんたに話すことはもう無い。」
シンは葛藤を続ける。話して楽になろう、と囁く弱い自分と、気休めはいらない、と叱咤する自分と。
「シンくん・・・」
シンはフェイトが去るつもりは無いと悟ったのか、フェイトに背を向け屋上からさろうとする。
「待って!!」
慌ててフェイトがシンの右腕を掴む。
「放せ!消えてくれよ!!」
シンが乱暴にフェイトの手を振り払うが、勢いのあまりマユの携帯を床に叩きつけてしまう。叩きつけられたマユの携帯がフェイトの足にあたって止まる。
「これは?」
フェイトがマユの携帯に触れたその刹那、マユの携帯が激しく発光し眩い光がフェイトを包む。
(お兄ちゃんのこと・・・助けてあげて・・・)
(えっ?)
フェイトの頭の中に声が響く。直後、光が収まり視界が開けるが、見たことも無い場所だった。

 

「ここは?」
辺りには背の高い樹がいくつもそびえ立っており、地面には紅葉が大量に落ちている。しばらく歩くと、子供の声が聞こえた。
「待てよマユ~~~。待てって~~~。」
「へへ~ん、ここまでおいで~だ。」
二人の少年少女がおいかけっこをしているようだ。フェイトは少年の声と風貌に聞き覚えがあった。
(シンくん?)
少年は黒髪に赤い目をもっていて、さっきまで話をしていたシンにそっくりの声だった。しかし、シンにしては幼い。まだ十代であるかも怪しいほどだ。確かめるべく彼らの側へ行ってみるが、フェイトに気づくそぶりはない。
「シンくん?シン・アスカくん?」
少年に対し呼び掛けるが、少年はおいかけっこに夢中でこちらに気づかない。
(これは?)
人違いかとも思ったので、これで最後にしようとし、少年を追いかけて、彼の肩を手で軽く叩いて呼び掛けようとした。
「え?」
しかし、フェイトの手は空を切った。いや、少年の中に透き通った。少年に触(さわ)れないのだ。触ろうとしても、少年の体を透き通る。まるで幽霊のように。
(これはいったい・・・なに?魔法?でも魔力反応はないし・・・)
しばらく思案していると、また目の前が真っ白に発光を始める。思わず目を瞑るが、次に目を開けたときはフェイトはまた違う場所にいた。

 

こんども辺りに樹が生い茂っていたが、そこにいるのは二人では無かった。家族連れと思われる四人組が何やら必死に走っている。母親と思われる女性はすでに悲鳴をあげていた。
「もうすぐだ!大丈夫、やつらの狙いは軍の施設だろう。こんなところを攻撃したりはしないさ。」
父親とおぼしき人物が女性を宥める。後ろには少年と少女がいた。
(あの子たちは・・・さっきの?)
彼らは先ほどの、おいかけっこをしていた少年と少女に似ていたが、すこし大人びている。少年の方はもうシンにしか見えない。すると、女性が声をかける。
「マユ!頑張って!!」
「うん」
四人はまた走り出すが、少女が走っている最中に携帯を崖の下に落としてしまう。
「あぁ!マユの携帯!!」
「そんなのはいいから!早くしなさい!!」
「いや!マユの携帯!!!」
「マユ!!」
「・・・分かった。俺がとってくるから、先に行ってくれ!」
「シン!!?」
「お兄ちゃん!!!」
そう言って少年――シン――が傾斜を滑り携帯を手に取った瞬間、シンの後ろで爆発が起きる。
「な、うわぁぁぁああぁ!!?」
シンは爆風で吹き飛ばされる。
「シンくん!!?」
フェイトは急いでシンを助けるべくシンのもとへ飛翔し、シンを抱えようとするが、フェイトの腕はシンの体を透き通ってしまう。少年は地面に叩きつけられるが、すぐに起き上がり爆心地を見上げた。
「マユ?母さん?父さん?」
先ほどまで彼らが通っていたであろう道はビームで焼き付くされた後だった。
「おい君!大丈夫か!」
「そんな・・・嘘だろ?」
後ろからオーブの人間がシンに声をかけるが、そんなものシンの耳には入らなかった。シンは来た道を戻り始める。するとすぐに岩の後ろから腕が突き出ているのがみえた。
「マユ!無事か!?マユ!・・・マ・・・ユ・・・?」
しかし、それは"腕"のみだった。
「ひっ!」
後ろでシンを見ていたフェイトは、いきなりのことで驚愕する。
「マユ・・・おいマユ・・・嘘だろ・・?」
シンは腕の前に膝まづき、声を漏らす。嗚咽も聞こえる。
「マユ、マユ・・・マユ!・・・・くっそぉぉぉぉおおぉぉおぉおおぉぉぉ!!!なんで!なんで!!?うああぁぁぁあぁぁああぁぁああ!!!!!」
シンは手に彼女のピンクの携帯を握りしめて叫ぶ。
(あの携帯・・・)
"さっきまでフェイトと話していたシン"が持っていたものと酷似、というより同じものだった。シンが泣き叫んでいると、先ほどシンに声をかけた男性がシンを避難シェルターまで誘導していく。
(まさかこれって・・・シンくんの・・・)
すると、またフェイトの視界は白く包まれていった―――

 

「おいあんた!何してんだよ!!?」
シンが叫ぶが返答はない。さきの発光以来、フェイトはこちらの声にまったく反応しない。マユの携帯はまだ淡く発光を続けていて、なぜかフェイトの手から離れない。
「くそっ、なんなんだよいったい・・・」
かれこれ一分ほどだろうか、呼び掛けを続けているとフェイトの体に変化が現れる。
「涙?なんで?」
フェイトは、無表情の顔で涙を流し始めた。時々なにか呟くが、声が小さすぎて聞こえない。
「そ・・・な・・・どうし・・・」
「なに!?聞こえないぞ!?」
シンが聞き返すが、返答はない。
「くそっ・・・なんなんだよもう!」
シンはフェイトを担ぎ、医務室へと向かうことにした。
「よっこらせっ、と。とりあえず、降りなきゃな・・・でも、医務室ってどこだ?」
屋上の扉を開き、おぼつかない足取りで階段を降りる。
「とりあえず一番下まで行くか。」

 

「くそっ、いったいなんなんだよあんたは・・・」
階段を降りながらシンが悪態をつく。話がしたい、と言い次にはいきなり動かなくなり、意味不明なことだらけだった。
「これもなんかの魔法か?魔法はわからないし・・・あぁ~、筆記受けるべきだったかなぁ・・・」
GAT部隊も機動六課同様、即戦力になるための部隊だったので、力さえあれば入隊できた。知識不足は色々不便ではあるが、それは彼らの身体能力や洞察力がカバーしてくれていた。しかし、こういうときはさすがにどうしようもない。
(今度アスランにも相談してみよ・・・)
そんな考え事をしていると、シンとフェイトは一階まで下りきる。
「よっ、と・・・地図は・・・これか!」
フェイトを片腕で支えつつ、行くときにアスランに持たされた地図を開き、医務室を再確認。
「お、合ってたじゃん。こっちか・・・」
シンが再び医務室へ歩こうとすると、フェイトがまた泣き出す。
「ごめ・・・ね、シ・・き・・ものな・・・に・・・」
「はい?何です?」
ダメ元だったが、今度は返答がくる。
「ごめんね、シンくん。君だけの・・・ものなのに・・・」
「は?」
こんどこそシンは本当に首を傾げる。
(俺だけのもの?)
それならいくらか思い付かないこともないが、それなら誰にも話さない。そうでないと"シンくんだけのもの"にはならない。シンにとっての疑問は、その"シンくんだけのもの"に対しフェイトが謝罪している、ということだ。
謝罪する、ということはフェイトがシンに対し何らかの負い目があることを意味する。
今日が初対面であるはずのフェイトが"シンくんだけのもの"に対し負い目を感じている。しかもシンはフェイトに自分について語った覚えは無い。
(となると、これの原因はやっぱりこの携帯か・・・)
そうあたりをつけたシンはフェイトへの追及はせず、黙って医務室へと向かうことにした―――

 

「―――以上が俺のデバイス、ジャスティスとセイバーの説明だ。まぁ、シンのあれを見た後だ、そう驚きもしないだろう。」
「いやいやいや・・・もうなんと言えばいいのか・・・」
シャーリーは空中の画面を見ながらぼやく。
「まぁ、シンのとは武装が違うようにみえるかもしれないが、大元は同じだよ。ジャスティスのファトゥム-00と、セイバーの上空高機動射撃戦闘用フォルムへの換装システムだけがはシンとは大幅に違う。」
「凄~~~~い!!」
スバルは先ほどから目をキラキラと輝かせている。
「そんなにあるなら、向かうとこ敵無しじゃないですか!!?」
「いや、そんなことはない。俺たちは訓練のためにこの部隊に入ったんだ。優秀な指導をする教官がいるからそこに移るといい、と言ってくれた人がいてな。」
「そうなんだ?じゃあアスランくんたちは何を習いにきたの?」
「いや、魔導師としては恥ずかしいかぎりなんだがな・・・あの・・・」
「ん?なに?」
「いや・・・その・・・魔法を・・・教えてほしいんだ。」
「「「「「「「は?」」」」」」」

 

シグナム以外の全員が首を傾げる。
「え?アスランくん、魔導師だよね?」
「いや、その・・・まぁ、そうなんだが・・・あいにく、俺もシンも魔法というものに疎いんだ。」
「なんで?二等空尉の実績を持ってるんでしょ?」
「"戦闘"という点においては確かに二等空尉という肩書きをもらった。しかし"魔法"という点においてはさっぱりだ。今まで、シンも俺も沢山の武器を説明した。しかしあれは・・・」
「魔法について分からないがために、大量の武器を持つことで、ただ武器に魔力を注ぐことしかできない自分たちのハンデをなくしていた、と言いたいのか?」
アスランの言葉を遮り、シグナムが問う。
「・・・そういうことだ。」
「え~と、ティア!どゆこと?」
「スバルうっさい!少し黙ってなさい!!!」
「つまり、君たちは一つの武器でたくさんのことが出来る。しかし、俺たちは一つの武器で一つの事をすることしか出来ない。ビームライフルはただまっすぐ魔力を放つことしか出来ないし、サーベルもただ斬ることしか出来ない。そういうことだ。」
「ティア~」
スバルがティアナに再度説明を求める。
「はぁ~~。だから、あんたはマッハキャリバーで敵を殴ることが出来るし、さらに射撃魔法も射てるでしょ?だから"一つの武器でたくさんのことが出来る"わけ。まぁ要するに、彼らは魔法が分からないから応用が利かないのよ。彼らがマッハキャリバーを使っても、ただ殴ることしか出来ない、ってわけ。わかった!!?」
「あ、あぁ~。分かった分かった。」
スバルが満足げに笑みをもらす。
「俺たちは"魔法がほとんど使えない魔導師"だ。飛行魔法が使えなければ、シールド一つ張れやしない。・・・いや、シンが一度だけ張っていたか・・・俺が使える魔法も結界魔法のみだ。これだけは出来ないと何かと不便だといわれてな、習得にかなりかかったさ。」
「飛行魔法が使えない空尉?」
「あぁ、それか。笑ってくれて構わないさ。俺たちにとって飛行魔法とは"各部スラスターに魔力を注いで推力により飛行すること"だ。防御だって、普通の魔導師みたいに障壁を展開出来ないからシールドに魔力を流してアンチ魔法コーティングをしているだけ。」
「なるほど。アスランくんたちが魔力をコントロール出来るようにして応用が利くようにしてほしい、ってリンディさんは言いたいんだね?」
「そういうことだな。」
「でも、裏を返せば魔法を知らずに二等空尉まで上り詰めた、ってですよね?」
「なんだそれ?魔法が使えないって、戦う以前の問題じゃねぇか。それに、そんなインチキデバイス使えば誰だって強くなれるだろ。」
ヴィータが不満そうに呟く。するとアスランが顔をしかめて言った。
「使ってみるか?」
「あ?」
「使ってみるといいさ。ほら、ジャスティスだ。名前を呼べば起動する。」
真紅の宝玉をヴィータに投げる。
「おっ、と。・・・ふん、上等じゃねぇか、ジャスティス!」
『Jastice set up』
ヴィータが光に包まれ、ジャスティスの装備をしたヴィータが現れる。
「これが・・・ぐっ!!?な・・・に・・?」
「ヴィータちゃん!!?」
「武器をどれかしまえ。体がもたないぞ。」
「重いの!?」
「違・・・ぐっ・・・頭が・・・いてぇ・・・」
ヴィータはシールドとビームブーメランを消し、サーベルとライフルを持ち、背中にファトゥム-00を積む。
ヴィータが様子をみたアスランがこう呟く。

 

「セイバー、行くぞ」
『Savour set up』
アスランが光に包まれ、セイバーの全武装をもったアスランが現れる。
「軽くやるか?一分くらいで。」
そういいながらライフルとシールドを構える。左腕にはシールドもついている
「上等じゃねぇかコノヤロー・・・」
ヴィータはその場で飛翔を試みる。
「動け・・・よ!!って、うわぁぁああああぁぁあぁ!!とまれとまれ!」
スラスターに魔力を送った瞬間、ヴィータは上空にかなりのスピードで飛んでいった。
「はぁ、やらせるんじゃなかったか・・・」
「うおおぉぉおらぁぁぁああ!!」
直後、ヴィータが真上から突っ込む。ライフルを突きだし、アスランを狙っている。右目には小型ディスプレイが現れていて、アスランに照準をつけようと二つの円が蠢いている。
「くそっ、合わねぇ!ぐっ・・・くっそぉぉ!!」
ヴィータは、照準も合わないまま銃口をアスランに向けただけでビームを発射する。それを見たアスランは銃口を向けられているにも関わらず、その場を微動だにしない。
「銃口補正も反動補正も無しに当たるわけないだろう!!腕を痛めるだけだ!やめておけ!」
実際、ビームはアスランにはまったくあたらない。
「なめんなよ!ぐっ・・・」
ヴィータが着陸するとライフルを消し、サーベルを出す。
そして、サーベルに魔力を流して魔力刃を形成しようとする。しかし上手く魔力を流せず、サーベルではなくファトゥム-00が上空に向けて発射される。
「なっ!!それじゃねぇ!サーベルだよ!!」
「はぁ・・・止めよう。ジャスティス!」
『Alright』
するとヴィータが光に包まれ、元の制服姿に戻る。
「な、お前!?」
「分かったろ?このデバイスは癖ありでな、魔力の出力先と魔力量の設定、他にもかなりの演算能力が必要になるんだ。さっきのライフルとかな。二つ以上の武器を使うにはさらに複雑な計算が必要になる。だから頭痛に苛まれるんだ。」
「あぁ・・・そうみてぇだな。」
「少なくともインチキデバイスじゃないんだ。逆に普通に魔法が使えた方がよっぽど楽さ。」
「悪かったよ・・・すまねぇ・・・」
「いや、俺も大人げないことをした。すまない。」

 

「・・・さて、これで一通り終わったのかな?」
なのはがふぅ、と一息いれると、シャーリーがおずおずと口を開く。
「戦闘データを集めるために模擬戦をしてほしいのですが・・・」
「あ~~、そうだったね。でも、シンくんは・・・?」
「・・・すみません、俺だけじゃだめですか?」
すると、入り口から声がした。
「なんか呼びました?」
「あれ、シンくん?用事は?」「終わらせて来ましたよ。」

 

――二分ほど前――
「そりゃ俺の過去ですね。間違いありません。」
「うん・・・ごめんね・・・勝手に君の過去を覗いちゃって・・・」
「別にあんたが謝ることじゃないですよ。意図的にやったんじゃないんでしょ?誰も悪くない。休まなくてもいいんですか?一応医者にみてもらったほうがいいと思いますけど?」
「ううん、私は大丈夫だよ・・・」
「・・・そんなにショックでしたか?俺の過去。」
「え、いや・・・」
シンが医務室に着いた時にはすでにフェイトは目を覚ましていた。
「はぁ・・・なんなんですかあんた?話し合おう、って言ってみたり、いきなり動かなくなったり、今度は黙りこみですか?」
「違・・・私は・・・その・・・」
「もういいです。アスランのとこに戻ります。あんたは?」
「・・・もう少し、ここにいるよ・・・」
「そうですか。では。」
「っ・・・」
シンが医務室を出ようとした時フェイトは声をかけようとしたが、シンの背中があまりにも遠く感じられ、声をかけることすらも憚られるほどだった。
(私は・・・どうしたいの・・・かな?)
今のフェイトにそれの答えは出なかった。確かにシンの過去はショックな事だらけだった。産まれてからのすべてを見たわけではなかったので、分からないことの方が多かったが、シン・アスカという人物を知るには十分だった。
『あんたなんかに理解出来やしないさ!!!こんな平和ボケした世界でのうのうと暮らすあんたらに・・・俺たちの何がわかるって言うんだ!!!』
(シンくん・・・)
屋上でのシンの言葉が思い出される。
(それでも・・・君は・・・)
そこでフェイトの意識はまた途切れた―――

 

「アスランのデバイス説明は終わったのか?」
「あぁ、一応な。」
『"あれ"についても話したのか?』
『あぁ・・・DFS(デバイスフュージョンシステム)か・・・話してないな。使わないことを祈るが・・・』
『そうか、まぁあれはアスランだけのものだしな・・・』
『いや、キラ・・・この前お前が戦ったストライクフリーダム、あれもおそらくはDFSだ。』
『なっ・・!!?』
『まぁ、推測でしかないがな・・・』
『・・・まぁいいさ、その様子じゃあミーティアも話してないんだろ?』
『あぁ・・・そうだ。』
『なんだよ、結局話す気無しかよ?』
『お前だってデスティニーのことははぐらかしたろう?』
『・・・まぁな。』
「お~い、二人とも?聞いてる?」
「ん?あぁ、すんません。なんです?俺の模擬戦の相手ですか?」
「うん、二人でやってもいいし、違う人とやってもいいよ?」
「シン、どうする?」
「2on2じゃダメっすか?」
「2on2?」
「なるほど、それなら一度で済むな・・・2on2、いわゆる二対ニです。」
「なるほど・・・シャーリーはそれで大丈夫?」
「えぇ、大丈夫です。問題ありません。」
「私は二対ニなんて長らくやってないな~。アスランくんたちは誰とやりたい?」
「強ければ誰でもいいっすよ。」
「シン!・・・すみません。俺たちは誰とでもいいです。」
「そうだね・・・じゃあ、う~ん・・・」
機動六課の面々は食い入るようになのはを見つめる。ヴィータにいたってはすでに睨んでいるレベルだ。
(相性が良い人同士がいいよね・・・やっぱり指導教官の私がやるべきなのかな?だったら私は遠距離型だから後衛にまわって・・・訓練も兼ねてスバル・・・でも二人とも真剣だろうし、シンにいたってはやる気満々だし・・・ヴィータちゃんかシグナムさんかな・・・フェイトちゃんが一番なんだけど・・・あ、この際ヴィータちゃんとシグナムさんでも・・・)
散々悩んだ末なのはが口を開く。
「ヴィータちゃんとシグナムさんでどう?」
「は?何言ってんだよなのは。指導教官のお前がやらなくてどうするんだよ。」
「いや・・・そうも思ったんだけど、模擬戦ならいつでも出来るし、二人とも相性良さそうだし・・・ダメかな?」
「いや、私は構わないぞ。」
至って冷静にシグナムが答える。
「シグナム!?・・・まぁ、シグナムがそう言うなら・・・あぁ、アスランにはさっきの礼もしなくちゃなんねぇな・・・いいぜ!!やってやる!」
「じゃあ、始めようか?シャーリー、フィールド整えて。」
「はい、フィールド修正・・・模擬戦用フィールド、展開!」
あたりの景色が変わり、街中の風景になる。
「それじゃあみんな?行くよ?模擬戦・・・スタート!!!」
「レヴァンティン!!!」
「グラーフアイゼン!!」
「ジャスティス!!!!」
「デスティニー!!!!」
「「「「セットアップ!!」」」」

 

――その頃スカリエッティ本拠地にて――
「なるほどね。じゃあ、マスドライバーに魔力を送るのと、コズミック・イラの座標特定のためにその"レリック"が要るの?」
「あぁ、そういうことだ。はっきり言って人手が足りねぇんだ。手伝ってくれるとこっちとしても助かるんだが・・・」
「僕としては協力しても良いと思いたいんだ・・・けど・・・あのスカリエッティ、って人とクルーゼさんはまだ僕には信じられない。」
「そうか。でも、帰る方法はこれしかないんだぞ?いいのか?」
「うん・・・そこなんだよね・・・」
「キラ・・・守りたい世界があるんじゃないのか?そのためなら、善だろうと悪だろうとかまう必要はないんじゃないのか?」
「・・・」
机を挟んでディアッカとキラが対談を続けている。ムゥとキラは再びスカリエッティの基地を訪れ、本格的な話し合いをしている最中だった。
「くくく、ついさっき出ていったと思ったらまた来たな、ムゥ・ラ・フラガ。」
「うるさい!こっちの質問に答えろ!」
「あぁ、すまないね。私たちの目的はコズミック・イラへの帰還ただ一つだ。それ以外にはない。まぁ、あのスカリエッティが何を思って我々に協力しているかは知らんよ。」
「なるほど。で、メンバーは?」
「メンバーは君たちと私以外には、イザーク・ジュール、ディアッカ・エルスマン、アウル・ニーダ、ステラ・ルーシェ、スティング・オークレー、だな。」
「なっ!!?」
(アウル、ステラ、スティング、あいつらも来ていたのか!!?)
「その反応を見るに知り合いかね?」
「あぁ、まぁな。死んだはずのやつらのな!!」
なおもムゥはクルーゼに対する反発を強める。
「そうか、なら私と同じというわけだ。いや、なんとも酷な話だな。一度死んだ、いや正しくは死にかけた人間にもう一度生きろ、と言いたいのかねこの世界は。」
「知るか!んなもん!あいつらに何をした!!?」
「いや、私も彼らも気付いたらここにいたのさ。あの三人は瀕死だったがね。まぁ、スカリエッティによると私も瀕死だったようだが・・・それで、協力するのかね?しないのかね?」
「・・・少しキラと話す。それから決めるさ。」
「くっくっく、そうか。待っているぞムゥ。まさか貴様と共闘する日が来るとはな!」
「ちっ・・・ほざいてろ・・・」
「さて、では私はまだ唯一目覚めていないステラ・ルーシェの様子を見てくるとしよう。他はこの前目覚めたのだがね。どうも彼女だけ起きないものでね。・・・そうだ、君も来るかね?知り合いなのだろう?」
「・・・・・・・あぁ、生きているなら会いたいさ。」
「くくく、ついてこい。」
二人は立ち上がり、別室へと向かう。
その部屋にはムゥ、いや、ネオにとって見慣れたカプセルが三つあり、二つは空で一つはステラが眠っていた。
「ステ・・・ラ?本当に・・・」
「本当さ。私は嘘はつかない。残りの二人もそのへんにいるはずだが・・・」
すると、ドアから声がした。
「ありゃ?クルーゼ、客か?」
「アウルか。客なことにかわりはないが、君たちとは繋がりがある人間らしいぞ。」
「アウル・・・アウルなのか?」
「あぁ、俺はアウルだけど・・・その金髪と声・・・ネオ?」
アウルがまさか、という顔でムゥを見る。
「そうだ。ネオだ!ネオ・ロアノークだ!お前たち、無事だったんだな!!?」

 

「ネオ!!あぁ、三人ともピンピンしてるぜ!スカリエッティのおかげで薬物投与ももう要らねぇらしいんだ。これであのカプセルにもおさらば、ってな。」
「なんだって?」

 

「なんか、難しいことはわかんねぇけど、体のなかにいくつか魔力結晶を埋め込んで、バランスを保ってるとかいう話だぜ?詳しくはスカリエッティに訊いてくれ。」
「凄いなこの世界は・・・」
「そういやスティングは・・・いねぇな、どうしたんだあいつ?」
「スティングにも後で会いに行くさ。それよりお前、ステラがわかるのか?」
「は?何いってんだよネオ。元々ファントムペインは三人だろ?わかるも何も、パートナーじゃん。」
(記憶が戻っている?)
ガイアがエクステンデッドの基地を襲撃して戻らなかった際、アウルとスティングからステラに関する記憶は消したはずだが、今アウルは彼女を覚えている。
(まぁ、戻るにこしたことはないか・・・)
深く考える必要もないと思い、詮索はやめた。
「そうだな、いや悪かった。」
ちょうどその時、カプセルのなかのステラが薄く目を開ける。

 

「ネ・・・オ?」
「ステラ!!?気づいたのか?」
「アウ・・・ル?ん・・・あなたは?ネオに・・・似てる・・・」
「私か?私はラウ・ル・クルーゼ、君たちの味方さ。帰るためのね。」
ステラはカプセルから出るが、まだ足取りがおぼつかない。
「シン・・・?シンは?」
ステラがそう言うとムゥが顔を曇らせた。
「会いたいか?」
ステラがゆっくりと首を縦に振る。
「そうだな・・・もうちょっと待ってくれないか?そしたら会いに行こう。」
「本当!?」
「あぁ、本当さ。俺は嘘はつかないよ。じゃあ、俺は一度キラのところへ戻る。」
「そうか、いい返答を期待しているぞ、ムゥ・ラ・フラガ。」
「じゃあな。」
そう言ってムゥは部屋を出てキラとディアッカのいる部屋へと向かう。
(あれだけひどい目にあったんだ・・・ステラはもう、戦わせたくねぇなぁ・・・今度は俺がお願いする番かな・・・)
『約束してくれ!ステラを・・・戦争とか、モビルスーツとかと関係ないあったかい世界に返すって!!!』
シンが以前、ネオに言った願い。ネオはその約束を破り、ステラをデストロイに乗せ、そしてステラは死んだはずだった。ムゥとして考え直すと、なんとも非情なことだとも思ったが、過去のことなので抗いようもなかった。しかしステラが生きているとなれば話は別だ。
(まだチャンスはあるんだ・・・ステラを守んなきゃな・・・頼むぜ、シン・アスカ・・・)
ムゥの"守りたい"という感情はどちらかといえば贖罪の意識に近かった。ネオとしてあれだけ非道な扱いをしたことに負い目を感じ、せめてステラは戦闘から遠ざけたい。そういう感情だ。
(スティングとアウルは、俺が守ればいいんだ。)
ムゥは決意を新たに、キラとディアッカのいる部屋へと向かった。ムゥは『ステラたちを守るために戦う』という目標を手に入れた。キラも『元の世界に戻り、ラクスを助けるために今戦う』という目標を手に入れた。そんなムゥの後ろ姿を見送ったクルーゼが微笑しながら呟く。
「ククク・・・役者は揃った。次はステージかな・・・私は精々スカリエッティの手のなかで動くとしようじゃないか。だからムゥ、貴様は私の手のなかで動くといいさ。」
シンの苦悩など知りもせず、運命はまた、回り出す・・・

 

『フェイト』その意味は『宿命』、『デスティニー』その意味は『運命』。
フェイトはシンの『宿命』を知り、何を思うのか。
そして、ムゥの決意はシンの『運命』をどう変えるのか。

 

次回、シンとアスランの魔法成長日記第四話シン・アスカ下編(仮)