魔法成長日記_05話

Last-modified: 2010-05-09 (日) 20:56:02

「んで、やっぱり、親睦の場は必要やと思わへん?」
「ん~~。そうかな?別に要らないと思うけど。」
シンとアスランの単独行動から数日後、六課の隊長室ではなのはとはやてが論議をしている最中だった。もちろん話題はFWについて。シンやアスランたちのゴタゴタもあり、隊全体がギクシャクした、というより妙な空気に包まれていたので、はやてがなのはを呼んだのだ。
「でも、また一人増えたやろ。なんやったっけ?」
「あぁ、ステラさんね。シンくんの保護下にある、ってことになってるね。あの人はあんまり喋らないから確かに分かりづらいよね。」
「そやったらなおさらやな~。ならやっぱりオリエンテーションみたいなのは必要やろか・・・」
なのはも腕を組みながらはやてと唸る。
「う~ん、でも、同じ隊で戦ってる仲間なんだから別にそんなの無くても仲良くなるんじゃないかな?」
「戦ってる仲間だからこそ、ギクシャクした関係はあかんと思うんよ。」
「まぁ、確かに・・・でも、時間の問題だと思うよ?別にステラさんは戦うわけじゃないんだし。」
「そか?それならええんやけど・・・」
「そんなに不安?」
「まぁなぁ。うちも今日は出掛けなあかんし、あの三人が隊に上手く馴染めるとええんやけど・・・シンとアスランは訓練にも来てないんやろ?」
この問いにはなのはも苦い表情で答える。
「まぁ、そうだけど。」
「う~ん・・・何かあったら言ってな?何か考えるから。」
「うん。分かった。」
なのはが返事をすると、はやては立ち上がってバッグを持った。
「ほな行ってくるな。教会に挨拶行かなあかんから。今回は久しぶりにゆっくり話が出来るみたいやし。」
なのはも退出のために立ち上がる。
「あぁ。前に仕事で知り合ったっていう?」
「そ、六課の後見人でもあってな。言わば恩人や。まぁ、気軽に話が出来る仲やし、恩人、みたいな堅苦しい関係やないんやけどな。」
「へぇー、仲いいんだね。」
「仲がいいっていうか、うちからすればちょっと勝ち気なお姉ちゃん、って感じやな。今度なのはちゃんにも紹介したるわ。」
「うん♪楽しみにしてるね♪」
「ほな。留守は任せたで?何かあったらすぐ連絡してや?」
はやてがなのはに念をおして確認する。
「分かってる。じゃあ私もみんなのところに戻るね。」
なのはとはやては部屋を出て、はやてはフロントへ、なのはは自室へと戻っていった。
(あ、そういえばその人の名前訊いてなかったね・・・まぁいいか。)
そんなことを考えながらなのはが自室に着くと、フェイトが部屋で缶を片手に難しい顔をしていた。
「あれ?フェイトちゃん。何してるの?」
「あ、なのは。いや、コーヒーの缶を握りつぶすのってけっこう難しいな~、って・・・」
「?」
フェイトの言葉が理解できず、なのはは首を傾げる。
「あ、いやいや気にしないで。それよりなのはこそどうしたの?訓練は?」
「今はヴィータちゃんがやってるよ。四人ともかなり必至でやってる。」
「へぇー、なんでまたそんな必至に?」
「やっぱりこの前のアスランくんとシンくんの模擬戦じゃないかな?あれ以来なんか四人とも目付きが変わったっていうか、やる気が増したっていうか・・・」
フェイトは少し笑いながら答える。
「ふふふ・・・負けたくないんだね、みんな。」
「そうかもね♪そういえばシンくんとアスランくんは?」
「う~ん、今頃、トイレ掃除じゃない?」
「あ~、あれね。ちゃんとやってるんだ?」
「シンくんはいつも愚痴りながらだよ。」
「まぁ、喜んでやる人なんていないもんね。」
結局、シンはアスランとフェイトが六課に戻ってから一時間後にステラを連れて戻ってきた。もちろん、二人ともはやてにこってりしぼられたのだがそのあとのシンの顔つきは、帰ってきたときと変わらず険しいものだった。フェイトに対してすれ違い様に"ありがとう"と言ったっきり何も言わなくなり、すぐ自室に戻っていった。アスランも何も言わずにそれに続いた。
彼らにははやてより二等空尉の位を剥奪、空曹長まで格下げ、さらに減俸三ヶ月、インパルス、セイバー、ジャスティス、デスティニーの二週間没収、トイレ掃除一週間という罰が言い渡されていた。

 

「ん?フェイトちゃん?お~い?」
「ん?あぁ。何?」
「いや、まぁ別にいいけど・・・でもさ、フェイトちゃんも最近暗いよね。」
なのはの言葉にフェイトはあからさまに動揺する。
「そ、そうかな?」
「そうだよ。なんか、オーラが暗いもの。そんなに執務官剥奪が辛かった?」
「う・・・それは・・・言わないで・・・」
そういうとフェイトは俯き、大きなため息を一つした。フェイトもフェイトで、シンとアスランの、六課の意向にそわない単独行動に加担したということで処分として執務官の任の剥奪を受けたのである。
「まぁ、任務中に命令違反に加担しちゃったから仕方ない、と言っちゃえば仕方ないのかな?」
「うぅ~・・・厳重注意ってわけにはいかなかったのかな・・・」
「あの時にバルディッシュを向けるんじゃなくて話を聞かせてくれればよかったのに。」
「あ、あの時はそういう判断力が無かったっていうか、急いでたっていうか・・・」
「でも、結局急がなくてもよかったよね?別に私がバインドで縛ったら死ぬわけじゃないんだし。話をきいてからでも大丈夫だったじゃない。」
「う・・・」
「あれれ?状況が見えてなかったなんて、執務官剥奪も妥当な判断だったかな~♪?」
「なのはのイジワル・・・」
「あはは♪冗談だよ冗談。フェイトちゃんも必死だったわけだし。とりあえずフェイトちゃんならなんとかなるって。」
「なのは、それフォローのつもり?・・・まぁ別にいいんだけど・・・」
「え?いいの?」
なのはが訊き直すと、フェイトはしばし沈黙、そして大きなため息をつく。
「・・・よくないね・・・」
負のオーラ全開のフェイトに、なのはもさすがにフォローに戸惑う。
「ん~~~、まぁもう一回とればいいんじゃない?」
なのはがそう言うとフェイトはまたため息をついた。
「また・・・あれをうけるのか・・・」
「ま、まぁまぁ。すぐいくわけでもないんだから。今はそれよりもやるべきことがあるんじゃない?」
その言葉でようやくフェイトも気持ちを切り替える。
「・・・そうだね。あの二人の様子でも見に行って来ようかな。まだ掃除やってると思うから。」
「そっか。私は~、う~~ん・・・着いていこうかな。まだ帰ってから三日目で訓練にも来てないからあんまり話す機会無かったし。」
「じゃあ行こっか?」
「はいはーい!」
フェイトが歩き出すと、なのはもスタスタと歩き出した。

 

一方、当の二人は―――
「んでたしか、朱がヴィータ、青が・・・たしか~~・・・スバル・ナカジマか!んで、オレンジがなんだっけな・・・なんちゃらランスターだった気がする・・・ピンクがあの・・・あれだ・・・キャロ・ル・ルシエ!」
シンはトイレの中で、隊員の名前を覚えるのに苦戦していた。
「ティアナ・ランスターだよ。いい加減隊員の名前くらい覚えたらどうだシン。しかも、髪の色で判断するのもどうかと思うぞ。」
「あ~、ティアナだったな。あいつらのことまだあんまり知らないから髪とかじゃないと覚えれないんだよ。覚えやすい色してるし・・・あいつらの髪の色ってコーディネイターみたいな色じゃないか?」
「確かにな。ティアナはハイネみたいなオレンジだったし、キャロなんかもラクスと同じような色だったな。フェイトの金髪なんて、ムゥにそっくりだ。」
「高町とフリーダムも茶髪で似てる気がする。」
「あれはまたちょっと違う気がするが・・・そんなことよりシン、手が動いてないぞ。さっさと掃除終わらせないと飯も食えないじゃないか。」
「あぁそか・・・めんどくせぇなぁ・・・」
ぼそぼそと作業を再開するシンを見てアスランが意地悪な笑みを浮かべて言った。
「食い意地はってるシンには飯抜きはこたえるんじゃないか?」
「う、うっさい!!そんなことじゃねぇよ!」
案の定シンは声をあらげ、作業の手に力がこもる。
「よしよし、じゃあおれは隣を終わらせてくるよ。ここは任せたぞ。」
「あぁ、分かったよ。」
それを聞くと、アスランはトイレを出ていく。しかしトイレの前で、ちょうどアスランたちを探していたなのはとフェイトに出会った。
「あ、いたいた。アスランくんだ。」
「あれ?高町にフェイトか。何か用か?」
「いや、ちょっとお話でもと思ってね。休憩がてらどう?」
「俺はかまわないぞ?そうだ、どうせなら昼食を食べながらでどうだ?ちょうど食堂に行こうと思っていたんだ。」
「あぁ・・・そういえば私たちもまだだったね。うん、じゃあそうしよっか。」
「シンを呼んで一度着替えてくるから、先に食堂に行っててくれ。」
「うん。じゃあまた後でね。」
なのはたちが食堂へ向かった後、アスランはトイレのシンに向かって呼び掛ける。
「了解だ。さて、シン!飯にするぞ!そこ終わらせたら来い!」
「おぉ!わかった!すぐいく!!」

 

十秒もしないうちにシンが出てくる。
「着替えよう。さすがにこれで飯は食いたくない。それと、高町とフェイトも一緒だが構わないな?」
「もちろん!飯は大勢の方が美味いしな。」
「フフ、相変わらず飯のことになると元気だなシンは。」
「ち、違ぇよ!ただ腹へっただけだ!食い意地はってるわけじゃねぇ!」
「だれもそんなことは言ってないぞ?」
「なっ・・・アスラン!あんたって人は・・・」
肩を震わせながらシンがそう言うとアスランはたまらず吹き出した。
「あっはっはっは!面白いなシンは。さ、戻るぞ。高町とフェイトが待ってる。」
「・・・はいよ。」
そしてシンとアスランが部屋に戻る途中、反対側から来るスバルとティアナに出会った。
「おぉ!えぇと、スバルに・・・まてよ・・・え~と・・・ダイアナ!」
シンが間違えると、アスランが即座につっこむ。
「ティアナだよ。誰だダイアナって。」
「しまった・・・またやっちまった・・・」
「あの~・・・?」
スバルの控えめな問いにアスランが答える。
「あぁ、すまない。冗談はこのくらいにして、君たちも今昼休みか?」
アスランがそう言うと、スバルがそれに答える。
「あ、はい。そうです。」
「それなら一緒に飯食べないか?高町とフェイトもいるんだが、どうだ?」
「いえ、ですが・・・」
スバルの言葉にシンが呼応する。
「飯は大勢の方が美味いぜ?それとも、飯抜いてる?」
「いえ、そういうわけでは・・・」
シンの言葉にたじろいでいるスバルにアスランが助け船を出す。
「シン、落ち着けよ。急かしてどうする。」
「あぁ、ワリィ。んで、どうだ?」
その問にティアナが落ち着いて答える。
「よろしいのでしたらご一緒させていただきます。」
「ティア?」
スバルがティアナを見ながら首を傾げるが、シンは気にせず言う。
「だよな!着替えてくるから先行っててくれ。高町とフェイトのところだ!」
「わかりました。」
シンは最後に思い出したように付け足す。
「あ、そうそう。敬語はいらないからな?」
「え?」
「俺、敬語嫌いなんだ。使うのも使われるのもあんま慣れてないし。階級とかなんとかあってもさ、戦場じゃ結局一人の人間じゃん?しかも敬語って、なんか壁があるようで嫌だしな。同じ隊員なんだし。ま、俺もそれを教えてもらったんだけど。」
シンの考えはハイネによるものが大きかった。しかし、シン自身敬語を使うことはあっても使われるのは任務中のメイリンからの通信くらいのものだったので、使われるのに慣れていないのも事実ではあった。
「えぇと、じゃあ、よろしくね。シンくん。」
「あぁ、よろしくなスバル。でも、"くん"は要らねぇよ。」
「え?でも隊長たちはいつも"シンくん"って呼んでない?」
シンは、あぁ、それか?と言ってから肩を竦めて答える。
「それは俺も不思議だよ。俺は確か・・・あの時16で一年経って17、こっちで一年過ごして18だ。あいつら19だろ?あいつらの方が年上なのに"くん"づけするんだろうな。呼び捨てでいいのに。」
すると、アスランがシンを茶化した。
「子供だと思われてるんじゃないか?」
「いや・・・さすがにそれはないだろ・・・でもまぁ・・・とりあえずシンでいいよ。」
「うん。じゃあそうする。よろしくね、シン。」
「あぁ、よろしくなスバル。」
シンとスバル握手を交わす。こういう時のスバルの順応性は高い。ティアナも何か言いたげな顔だったが、口にはださず、スバルに倣う。
「一応言っとくけど、ティアナ・ランスターよ。よろしくね、シン。」
「あ、あぁ。よろしくな。」
(次からは絶対間違えれないなこれは・・・)
そう思い苦笑いながらもティアナと握手を交わす。それをみていたアスランが言う。
「シン。早くするぞ。二人が待ってる。」
「じゃ、あとでな。」

 

「わかった。じゃあ後でね。」
「おう。」
そう言うとシンとアスランは部屋へと走り出した。二人はしばらくそれを見送り、しばらくしてスバルが呟く。
「結局、よくわかんない人だね。あの二人・・・」
「私たちから見る彼らで良いのよ別に。過去は関係無いんだから。これからの彼らが私たちにどう見えるか。それでいい。そりゃあ、いきなりあんなことがあれば誰だってびっくりするでしょうけど。」
ティアナがそう言うがスバルは難しい顔をする。
「ティアって、時々よく分かんないこと言うよね。」
「人がちょっとかっこいいこと言ってんだから黙ってなさいよ・・・」
「え?そうなの?」
「・・・まぁいいわ。さっさといきましょ。」
そうしてティアナとスバルも食堂へ向かった。

 

アスランたちもしばらく走り、自室に着く。
「んでもさ、やっぱりこういうときに飛行魔法とか使ったら速くていいんじゃないか?」
「バカ言え。駄目に決まってるだろう。それに、無い物ねだりして何になる?」
「ちぇ。さて、と着替えて・・・ってあれ?上着どこだ?」
シンが荷物をひっくり返しながら上着を探すのをみてアスランが嘆息する。
「はぁ~・・・さっさとしろよ。先に出るぞ。」
アスランがさっさと出ていこうとしたので、シンもてきとうに服を掴みアスランに続く。
「ま、待てよアスラン!」
二人はしばらく走り、食堂に到着する。
「はぁ・・・はぁ・・・どれだけ走れば気がすむんだよあんたは・・・で、どこだ?」
「あれだ。高町が手を振ってる。」
なのははアスランを見つけると、立ちがって両手を振っていた。
「ガ、ガキじゃあるまいし・・・まぁいいや。腹へった~。お~い!!」
シンも手を振りかえす。
(ガキとか言ってたのは誰だったっけか?)
アスランがそんなことを思うが、とりあえずスルーすることにした。
「アスランくんにシンく~ん!早く~!」
二人がなのはのもとに着くと、まだ誰も何も食べていないことに驚く。
「ん?待っててくれたのか?先に食べててもよかったのに。」
アスランがそう言うとなのはが笑いながら言った。
「ご飯を一緒に食べよう、っていいながら先に食べるのはおかしくない?」
「まぁ確かにそうだけど・・・なんにせよ待たせてすまなかったな。」
「いいよいいよ、とりあえず私たち注文はしたからアスランくんたちも頼んできな?」
「ありがとう。行くぞシン。」
しかし、スバルがシンを呼び止めた。
「シン。その格好はどしたの?」
スバルが言っていることがわからず、シンは一瞬止まる。
「え?・・・あ!!!」
アスランもシンを見直して気付く。
「シン、お前・・・」
シンは、下は管理局の物だったのだが、上着がザフト軍パイロットの着る詰襟の服、赤服だった。
「色合いがおかしいぞそれは。」
「やっべ・・・とりあえず上着脱ぐか・・・」
しかし、シンが上着を脱いだ瞬間に全員が笑い出す。その中でティアナが笑いながらシンに言う。
「あはははは♪シ、シン!詰襟の下に、ネクタイって、フフフフ、ダサ!!」
「う、うるせぇ!脱いだら関係ないだろ!」
「シン。それなら上着なんか着なければ良かったじゃないか。」
「・・・早く言えよアスラン・・・」
(これは、はやてちゃんは杞憂だったかな?)
笑いながらシンにダメ出しをするティアナをみてなのははそう思っていた。そして、しばらく皆が笑った後、アスランがまだ笑いの余韻が残しながらシンに言う。
「行くぞシン。」
「ちぇ、わかったよ。」
シンとアスランは戻って注文をしに行った。
「クククク♪シンくん面白いね♪」
「まぁまぁなのは、そのへんにしなよ。シンくんが拗ねるよ?」
「もう拗ねてた気が・・・」
「ティアナ、細かいことは気にしちゃ駄目だよ♪それに、ティアナが言ったんじゃない。」
「す、すみません。」
ティアナが笑いをこらえてながら言ったが、スバルが口を挟む。
「そういえば、全然違う話なんですけどシンとアスランのデバイスって今シャーリーさんのとこですよね?」
「ん?そうだよ。」
「じゃあ、今のデバイスは?」
「んとね、確か・・・」
「俺が二丁拳銃のアームドデバイス、シンがガンブレードのアームドデバイスだ。」
なのはの代わりに帰ってきたアスランが答える。
「あれ?おかえり。早かったね。シンくんは?」
「俺はすぐ終わらせたけど、シンはまだメニュー見て悩んでる。」
アスランが呆れ気味にそう言うが、スバルがいきなりアスランの後方を指差しながら言う。
「あ、でも帰ってきたよ。」
スバルが言ったとおり、シンが戻ってくる。
「アスランって選ぶの早いよな~。ホント、びっくりしたよ。」
「お前が遅すぎるんだ。」

 

「シンくん、その格好は?着替えたの?」
「ん?あぁ、今のデバイスでのバリアジャケットだよ。ほら、俺たちのバリアジャケットはVPSとかついてて特殊だったから、一から作り直す必要があったみたいで。」
バリアジャケットを見たなのはが純粋な感想を口にする。
「なんか・・・宇宙服みたいだね・・・」
「あながち間違いじゃないな。向こうの戦闘服だから。宇宙でも地球でも使うけど。」
唯一平然とした顔をしていたアスランがシンに問う。
「メットはつけなかったのか?」
「あぁ、悩んだんだけどつけなかったよ。あっても邪魔な気がしたし。」
「でも、シンくんもバリアジャケットの生成は出来たんだね。」
「昨日やっと成功してさ。これもけっこう苦労したよ。デバイスの起動がこんなに難しいなんてな。」
「そっか・・・そっちも考えないとね・・・」
いきなりなのはが考え込むのでフェイトが不思議に思う。
「なのは?」
「いや、アスランくんとシンくんの魔法の訓練。自力じゃ限界あるでしょ?」
「ん、まぁ確かに・・・」
「近い内に考えとくよ。だからもうちょっと自力で頑張ってくれる?」
「まぁ・・・別にいつでもいいけど。」
シンの言葉を聞いて、なのはは満足気に続けた。
「二人は特別メニューだね♪さて、誰に頼むのがいいかな・・・私とヴィータちゃんはスバルたちの面倒みなきゃいけないし・・・フェイトちゃんもいつでも面倒みれるってわけじゃないよね・・・う~ん・・・」
「あの~・・・なのはさん?なのはさ~ん?」
なのはは自分の世界に入ってしまい、スバルが遠慮がちに呼び掛けるが返答はない。
「ま、先に食べようぜ?二人も腹減ったろ?」
シンの一言で、なのは以外は自分の注文したものを取りに行って食べることにした―――

 

――バルトフェルド本拠地にて――
バルトフェルドは部屋で一人、新たなコーヒーのブレンドに取り組んでいた。そのとき、一人の男がその場に転移されてきた。
「戻ったぜバルトフェルド。」
バルトフェルドはさして驚きもせずにコーヒーメーカーを見ながら言う。
「おう、お疲れさん。首尾は?」
「首尾っていうか、やっぱりレリックはあいつらが持ってったなありゃ。管理局に渡ったのは偽物だ。」
"あいつら"とはもちろんキラとムゥのことである。バルトフェルドは、このあいだのレリックをめぐる管理局とキラたちの対立についての情報収集を行っていた。
「なるほど。うまくやったってわけか。ちっ、まずいな・・・レリックときたか・・・」
「さぁなぁ。俺はそいつらのこと、知らないし。」
「いや、お前はよく働いてくれている。それ以上やる必要はない。」
「そうか。俺も働きながら情報が得られるんだから何も不自由ないし、助かってるさ。」
「にしてもまさかレリックを集めてるとは・・・俺は間違えた道を与えちまったかなぁ・・・いや、間違った道だと分かっているとしても、止めないか・・・」
もちろんこの場にその答えを持つものはいないが、そう言わずにはいられない。そしてようやくコーヒーメーカーから目を離し、男と向き合う。
「まぁいい、まだ時間はある。
ところでだ。やはり、このことは話した方が良いと思うんだが・・・」
「バルトフェルドの言う"姫様"ってやつにか?」
男はバルトフェルドを茶化す。バルトフェルドも苦笑しながら答えた。
「いや、"第二皇女"ってとこだな。」
その答に男も笑いだす。
「ははは、なんだそりゃ。そりゃいいぜ。面白い。」
「なんでもいいさ、お前の紹介がてらに行こうと思ってな。」
「もちろん構わないさ。いつ行くんだ?」
「これからだよ。おーい、ダコスタ!車まわしてくれるか!?」
バルトフェルドは、ドアから外へ呼び掛ける。すぐに返答が返ってくる。
「分かりました!場所はいつものところでいいですか!?」
「あぁ!頼むぞ!」
「まわしたら通信入れます!しばらく待っててください!」
するとダコスタは転移していく。
「さて、先に行くぞ。準備が出来たらすぐに来い。」
そう言い残してバルトフェルドも姿を消す。男もそれに続こうとするが、ふと天井をみてぼやく。
「んでもあのときのやつらは・・・アスランにシン・・・まさかあいつらまでこっちに来てたなんてな・・・それに今は管理局か・・・」
そう呟いた後、男も姿を消した―――

 

――それから数十分後聖王協会にて――
ちょうどそのころ、はやてが聖王協会に到着して部屋まで案内されたところだった。はやては部屋に案内されるなり、その中にいた人物に歓迎される。
「あぁ、はやて!久しぶりだな。」
「カガリも相変わらず元気そうやな。」
はやても笑顔で相手と挨拶を交わす。
「まぁな。嫌なことを一々気にしてたらこんな仕事出来やしないさ。」
「それもそうやな。けど、ほんま久しぶりやな~。直接会うのはいつぶりや?」
「どうだろうな・・・前にあった時には六課の話はまだ無かったから・・・半年ちょっとくらいか?」
"カガリ・ユラ・アスハ"それが今はやてが会っている人の名前である。カガリもシンたち同様に、強制転移された人の一人だが、他の人たちより少し変わっていた。
「もうそんなにもなるんか~。いやすまんなぁ・・・」
「ま、まぁ色々話したいこともあるだろう、今日はゆっくりしていってくれ。今茶を出させるから。」
「もうそんなにもなるんか~。いやすまんなぁ・・・」
「ま、まぁ色々話したいこともあるだろう、今日はゆっくりしていってくれ。今茶を出させるから。」
「ふふ、どうも。」
二人は向かい合って椅子に座る。そして カガリが口を開く。
「で、どうだ、六課のほうは?順調か?」
「ん~、滑り出しはあんまよくないかなぁ・・・」
「何かあったのか?」
「いや、新入りの二人が問題起こしてな・・・まぁ、もう大丈夫だから、って言うたんやけどな。」
「新入り?」
「あれ?もしかしてカガリに話して無かった?」
「あぁ、聞いていないぞ?」
「そうやったか。六課設立の数日前に緊急で配属になったFWが二人おるんよ。」
「そうだったのか。で、その二人が何したんだ?」
「ん~、まぁ簡単に言えば命令違反やな。今までで二回勝手な行動をとったんや。しかも、なんかワケありみたいでな。詳しいことは話せへんけど・・・」
「そうか・・・その二人の名は?」
「シン・アスカとアスラン・ザラ、っていう名前や。」
それを聞いた瞬間、カガリは固まった。そして数秒後、やっと言葉を絞り出す。

 

「シン・アスカとアスラン・ザラや。心当たりでもあるんか?」
「シ・・・ンに、アス・・・ラ・・・ン、だと?」
「ん?カガリ?」
「そいつはどんなやつだ!!?風貌とか、特徴とか!!」
「え?いや・・・シンは~、黒髪に赤の目で髪がはねとるな・・・アスランは髪が青で緑の目やったな。」
「そいつらも次元転移者か!!?」
ここではやては一つ疑問を抱く。
(そいつら"も"?)
「そうや。心当たりがあるんか?それに、そいつらも、って他に心当たりが?」
「いや・・・ちょっと待ってくれ・・・アスラン・・・シンもか・・・」
それきりカガリは黙りこむ。
(キラとムゥのことはやつから聞いていたが・・・まさかアスランとシンもとは・・・どうなっている?)
「カガリ?カガリ~?」
「・・・」
カガリは一向に話そうとはしないので、はやてもしばらく黙る。しばらく沈黙が続いたが、意外にも通信によって沈黙は破られた。
『カガリ様、バルトフェルド様が面会を所望しておられます。コードは"黄金の自由"と。』
「な!!?やつらが!?緊急か!?」
『いえ、そうではないようですが。』
「なら後にしてくれ。客人がいる。」
「いや、うちは気にせんでええよ?ここでお茶飲んで待っとればいいんやろ?それに、なんか悩んどるようやし。」
「それは出来ないさ。客人を待たそうなんてもっての他だ。」
カガリの返答に思わずはやては笑いだす。
「クスクス♪カガリは固すぎやわぁ。そんな気い使わんでもええよ。」
「・・・しかし・・・」
「カガリ、相手の意見を聞くことも大事や。」
カガリは観念した、とばかりにため息をもらした。
「ならば・・・バルトフェルドをここに通せ!」
『今でありますか?』
「あぁ。そうだ!」
『わかりました。すぐ向かわせます。』
すると相手は通信を切る。
「じゃあうちはどこへ行けばいいん?」
「いや、ここにいてくれ。どのみちいつかは紹介しようと思っていたんだ。」
「そか?ならええけど。」
するとドアを数回ノックする音が聞こえた。
「カガリ、入るぞ?」
「あぁ。入ってくれ。」
ガチャ、という音の後にバルトフェルドと男が入ってくる。バルトフェルドは、入ってはやての姿を確認するとカガリに紹介を求める。
「ん?そちらは?」
「機動六課の隊長を務めている八神はやてだ。」
「どうぞよろしゅう。」
はやてが自己紹介をうけると、バルトフェルドは興味深そうにはやてを見まわす。

 

「あぁ、あんたが例の機動六課ってやつの・・・へぇ。はじめまして、アンドリュー・バルトフェルドだ。」
「でバルトフェルド、そっちは誰だ?」
「こいつか?ほれ、自己紹介しろ。」
バルトフェルドに促され、男が口を開く。
「ついこの間こっちに飛ばされた、ハイネ・ヴェステンフルスだ。あんたやバルトフェルド、シンやアスランと同じ、コズミック・イラ出身になるな、カガリ・ユラ・アスハ?」
「私の事をバルトフェルドに訊いたのか?」
「いや、そんなことしなくても分かる。あんたは自分が有名人だ、って自覚したほうがいいぜ?」
「そ、そうか・・・」
カガリが黙ると、"コズミック・イラ"という言葉に反応したはやてが問う。
「コズミック・イラ?それってシンとアスランの?カガリもなん?」
「言ってなかったか?私もあいつらと同じコズミック・イラからの転移者だ。にしてもハイネだったか?お前も転移されたくちなのか・・・それにしても、なぜシンとアスランのことを?」
「俺はむこうではザフトでな。一時期ミネルバに乗ってたんだよ。あんたにしても、バルトフェルドの話じゃあかなり前にこっちの世界に来たって聞いたぞ?」
ハイネの問にカガリが肩をすくめた。
「私にはその実感は無いさ。実際、こっちに来たのはもう五年前くらいだ。バルトフェルドが来たのが一年とちょっとまえだから、向こうではほぼ一緒に転移したらしいんだが、こっちに来るときの時間は皆バラバラになってしまったみたいだな。」
「俺も、むこうでは死んじまったからわかんねぇけど、俺がやられた後もシンやアスランはいたみたいでな。俺はあいつらよりかなり前に転移されていながら、こっちに来たのは最近だ。シンやアスランより後になる。」
ハイネがそこまで話すとバルトフェルドがそこで話を切る。
「挨拶はそこまでだ。本題に入ろう。」
「そうだったな、すまない。」
「それは、うちが聞いてもええ話なんか?」
するとカガリが考え込む。
「あぁ・・・そうだったな・・・でも・・・大丈夫じゃないか?聞けば、シンとアスランもはやてのところにいるんだろう?」
「そやけど?」
すると今度はハイネが口を挟む。
「あいつらがある二人組とレリックの交渉をしてたのも、知っているな?」
「あの二人は勝手に飛び出してっただけやけど・・・」
「あれ?そうなのか?あれはレリック回収のために行ったんじゃないのか?」
「まぁ六課の意向はそうやったんやけど・・・あの二人はなんか違うたみたいでな。詳しいことは分からへんけど。」
「とりあえず、アスランとシンがあった二人組は知ってんだろ?」
「あぁ、それは知っとるよ。なんか名前がたくさんあったのをよく覚えとる。」
はやての答えにハイネ、バルトフェルド、カガリが首を傾げる。
「は?」
「あ、いや・・・シンくんは二人のことを"フリーダム"と"ネオ"って言うとるんよ。んで、この前二人と交渉したうちの隊員は彼らのことを"ネオ"と"ファイ"って言うし、アスランくんは"フリーダム"と"ムゥ"って言うんよ。」
「あぁ・・・なるほどな。」
カガリとバルトフェルドは納得気にうなずく。
「よく分からないが、話しても問題ないんだろ?」
ハイネはカガリに確認をとる。
「あぁ。しかし、先ほどハイネが言ったレリックの交渉とはどういうことだ?」
バルトフェルドがそれに答える。
「それが今回の報告だ。まぁ、そこのお嬢さんも関係あるみたいだから聞いてくれ。レリック探してんだったら、聞いて損はない。こっちにもそっちにも。」
バルトフェルドがそういうとカガリの表情も引き締まる。
「数日間、俺とハイネはキラとムゥの動向を探っていたんだが、この前あいつらに動きがあってな・・・その時のあいつらの狙いはレリックだった。」
はやてが先に疑問を口にする。

 

キラとムゥ?」
「あ、そうか。あの二人の本名は茶髪の方が"キラ・ヤマト"、金髪が"ムゥ・ラ・フラガ"って言うんだ。フリーダムって言うのはキラがコズミック・イラで乗ってた機体の名前で、ネオっていうのはムゥがコズミック・イラで一時期名乗っていた名前だ。アスランとキラ、ムゥはコズミック・イラでの戦友でな。キラとアスランは古くからの知り合い、って話だったな。アスランがキラの事でまたもめてるようだったら、あまり詮索しないでやってくれ。あとは・・・キラなんかは特に強くて、敵にまわすと厄介だろうな・・・」
「あぁ、そういうことやったんか・・・すまんなぁ、話を戻そか。なぜその二人はレリックを?」
「わからない。ただ、思い当たる節はある。この前情報収集をしていた際に、コズミック・イラに帰還することが出来るかもしれない、と伝えたんだ。」
「それがレリックと関係あるのか?」
「そこまでは分からない。ただ、いきなりあいつらがレリックに手を出し始めたからな・・・疑ってかかって損は無い。まぁ、事の原因は俺、ってことなんだがな。すまない。軽率な発言だった。」
その後をハイネが引き継ぐ。
「そして、やつらがレリックを回収に行ったとき、ちょうど管理局も感知したらしくてな。鉢合わせしたんだよ。んで鉢合わせしたのがシンとアスランってわけさ。」
そこでまたはやてが口を挟む。
「でも結局私たち六課はレリックを奪取出来ずに偽物を掴まされて、さらに逃がしてしもうた。」
「いや、それはもういいさ。終わったことだ。問題は、キラとムゥだ。後ろ楯があるにせよ、コズミック・イラに戻る、ということ以外に利用されなければいいが・・・」
「そうか・・・」
バルトフェルドの言葉にカガリが黙り込む。
「しかし、レリックを狙っているというのはやはり危ない・・・どうしたのもか・・・」
カガリがまた考え込もうとするがはやてが阻止する。
「そのためのうちらや。何かあるなら任しとき。レリックは本当に何が起きるかわからへんしな。」
「あぁ、そうだな・・・これからはもっと綿密な連絡が必要になる。よろしく頼むな、はやて。」
「もちろんや。」
「さて、俺からの報告は今のところこれだけだ。俺たちはこれからどうすりゃいい?」
「バルトフェルドならキラとコンタクトがとれるんじゃないか?できるなら話すのが一番なんだが・・・」
「了解だ。呼び戻せればいいが・・・まぁ、用件も伝えたし、俺たちは帰る。」
「あぁ。ありがとな。これからも頼む。」
「はいよ。」
そう言うとバルトフェルドとハイネは退出する。
「・・・はぁ~~。悪いなはやて、こんな時まで仕事の話を持ち込んで。」
「ええよええよ。今日はもう大丈夫なんやろ?」
はやてが笑顔でそう言うと、カガリもつられて笑いながら答える。
「あぁ、それは保証するさ。」
「フフフ♪さて、うちも訊きたいことたくさんあるんよ~?」
「はやてのその笑顔は時々怖いからな。お手柔らかに頼むぞ?」
「いや~、遠慮は無しや!今日は寝かせへんで~!!!」
「そんなにか!?さすがにそれは・・・」
「ど~やろな~、カガリが素直に話してくれたらもうちょっと早う終わるかもしれんな。」
はやてが含み笑いをしてからかなりの時間、カガリははやての質問攻めにあったという――――

 

――数日後、管理局訓練場――
午前中にトイレ掃除を終わらせたシンは、なのはに午後に訓練場に来るよう言われ、そこへ向かう最中だった。
「にしても、トイレ掃除って意外とハードワークだよな?あと何日だっけ?」

 

「だな。あれは精神的にかなり堪える。でも一応明日が期限だったはずだ。」
「おぉ~。もうちょいか・・・んで飯食ったら徴集かよ。人使い荒いよなあいつも。絶対トイレ掃除やったことないぜあいつ・・・」
「愚痴言ってても仕方ないさ。もう着くぞ。」
実際、シンとアスランは訓練場の中が見えるほどまで来ていた。
「アスランは元気だな~。ん?あれはスバルにティアナだな。あれは・・・ジンとの戦闘訓練?」
「だな。エリオもキャロもいる。」
「入っていいんだよな?」
「それはそうだろう。そのために呼ばれたんだから。」
入り口で戸惑っていたシンだが、アスランに背中を押されて訓練場に行く。
「お~い、来たぞ~。」
「そんな小声で聞こえるか?高町!約束通りに来たぞ!」
アスランの声になのはが振りかえる。
「あぁ!二人とも~!ちょっと待ってね~!」
言うやいなや、なのははシンのもとへ飛翔する。
「やっと来たね二人とも♪今日は頑張ってもらうよ~?」
なのはが意気揚々と話すので、シンも少したじろいだ。
「な、なんでそんな楽しそうなんだ?」
「そう?」
「顔がニヤニヤしてる。」
「いやいや、今日はね、魔法の特訓を受けてもらうよ。」
「なるほど。そういえばそういう話だったな。ついにやるのか。」
シンが納得気に答えると、アスランがなのはに質問する。
「高町が教えるのか?」
「いや、私じゃないよ。ちょっと待ってね・・・ザフィーラさ~ん。」
なのはの紹介で現れたのは、犬だった。いや、正確には狼かもしれないが、体格は大型犬のようだが、毛並みが青と白というありえないような色彩だった。
「・・・」
「・・・」
二人は同時に同じことを考える。
*1
「今日からお前たちの指導にあたる、ザフィーラだ。よろしく頼む。」
(し、しゃべった!!?)
シンは驚きを隠せないでいるが、アスランは別の反応を示す。
「アスラン・ザラです。よろしくお願いします。」
(アスラン!!?)
シンは未だ動揺しているが、名乗られているので名乗り返す必要があると思い、アスランに続く。
「シ、シン・アスカです。よろしくお願いします。」
「あぁ。アスラン・ザラにシン・アスカだな。なんにせよ、あまり時間は無いと聞いた。さっそく訓練に移ろう。」
しかし、アスランがそこで口を挟む。
「ですが、何の訓練を受けるのですか?」
「高町から聞いてないのか?」
「いえ・・・何も・・・」
二人と一匹は一斉になのはをみる。
「え?そうだっけ?」
その言葉にシンが無言で頷く。すると、わざとらしい咳払いとともになのはが説明を始めた。
「んん。アスランくんとシンくんには、ザフィーラさんから"障壁"と"バインド"について教わってもらうよ。実戦で使えるものからやっていかないといけないからね。」
「なるほど。今日はそれで俺たちをここに?」
「うん。でも両方とも、普通はマスターするには一日や二日じゃどうにもならないんだ。でもそんなに時間は無いの。だからザフィーラさんにお願いしたんだよ。」
「そんなに言うならあんたがやればいいじゃんか。部隊長なんだろ?」
「いいや、この分野は私なんかよりザフィーラさんの方が全然上手だから。」
「へぇ~。」
シンがまじまじとザフィーラを眺める。
「そういうわけだ。多少の時間も惜しい。すぐにでも始めるぞ。用意はいいか?」
「「はい!」」
「うんうん♪じゃあ私もあっちに戻るから。頑張ってね♪」
なのははまたスバルたちのところへともどっていった。
「結局・・・なんだったんだ?」
「さぁな。だが今は訓練だ。集中しろシン。」
「はいよ。」
シンの呟きの後にザフィーラがいう。
「ではまずデバイスを起動させろ。」
二人は言われるがまま、デバイスを起動しバリアジャケットを身に纏う。
「よし。始めるぞ。」
「「はい!」」
「バリアやバインドのような基礎的魔法というのは感覚さえ掴めればどうということはない。あとは術者のレベルによって強度が変わるだけだ。だが"感覚"という言葉で片付けてしまう故に難しくもある。俺が教えるのは基本的なことばかりだ。あとはお前たちの積み重ね次第で習得出来る。」
それからザフィーラによって一時間に渡って"魔法の基礎"を習いその後二時間に渡って"障壁、バインドの基礎"を習い、その日の訓練は終わった―――

 

――訓練中、技術室にて――
そこには、目の下に巨大な隈を作ったシャーリーがデスクに突っ伏していた。
「はぁ~~~~~。だめ・・・無理・・・出来っこない・・・はぁ~~~~~。」
「シャーリー?」
盛大なため息と、独り言を言うシャーリーの目の前には四つの宝玉、インパルスにデスティニー、ジャスティスにセイバーが並べてあった。その上にはそれぞれのディスプレイ。
「魔法に関する設定については大分解明したのに・・・このデバイスの根幹が全く分からない・・・なによGUNDAMシステムって・・・」
「お~い、シャーリー?」
GUNDAMシステム、ディスプレイ起動時に出てくる単語の赤色になっている頭文字をとってシャーリーはそう呼んでいる。
「とりあえずこの、それぞれのオレンジの箱みたいなのがそれぞれの設定になってるのはわかるんだけど・・・全武装がオンライン通信で繋がってるなんてね・・・緻密すぎじゃないのこれ・・・特にシンくんのインパルス。シルエットシステムが全部繋がってるから他よりかなり細かいんだよね・・・」
「あの~、シャーリー?」
「ジャスティスのバックパックも自立型だからまたややこしくて・・・って、ん?うわぁぁ!!フェイトさん!なぜここに!?いや、いつからここに!!?」
「ええと、さっきシャーリーが盛大なため息をついたくらいからかな?」
フェイトが少し申し訳無さげに言うとシャーリーがまたため息をつく。
「はぁ~~・・・すみません。全然気づきませんでした。何かご用ですか?」
「いや、特にこれといった用事はないんだけどたまたま覗いたら机に突っ伏してたからどうしたのかな、って思って。しかも、隈スゴいよ?」
「あぁ、すみません。それはまた心配をおかけしました。実は先日八神隊長に没収した彼らのデバイスを貸して頂いたんです。それで解析を進めていたのですが、今手詰まりでして・・・」
シャーリーの言葉に、フェイトも納得気にうなずきながらディスプレイを見る。
「なるほど。それはまた大変だね。」
「聞いていたのならもうお分かりかもしれませんが、彼らのデバイスは私たちのデバイスよりもかなり緻密に作られてます。これを整備出来るなら普通に私よりも器用で技師向きかもしれませんね。」
苦笑しながらシャーリーが言う。フェイトもディスプレイの下のキーボードを動かしながら聞いていた。
「なるほど・・・うわっ・・・これをずっと見てたの?」
「まぁ、もちろん他のデバイスの調整もしてましたけど、基本的にこれですね・・・」
「お疲れ・・・ってまだ終わってないんだっけ。」
「はい。またこれから唸ろうと思っています。」
「そか。頑張ってね。私は訓練の方に行くから。」
「はい。お疲れ様です。では。」
「うん。じゃあね。」
そしてフェイトが部屋を出ていく。
「それにしても・・・フェイトさんがわざわざこんなところに来るなんて珍しい・・・何かあったのかな?」
首を傾げながらもディスプレイに向き合うシャーリーであった―――

 

――スカリエッティ本拠地にて――
スカリエッティは、全てのメンバーを収集してブリーフィングを行っていた。
「さて、さすがに管理局も我々の尻尾を掴み始めた。これからはレリック集めも少々難航するかもしれないよ。」
しかし、そう言うスカリエッティの顔は笑っている。
「だが、衝突が避けれないのは元々分かっていたことなのでしょう、スカリエッティ博士?」
クルーゼの言葉にスカリエッティは肩を竦めながら答える。
「そうだね。ぶつからないのが一番良いんだけど、世の中そうそう上手くはいかないものさ。」
「戦うべきときには戦わないと・・・何も出来ませんから・・・」
キラも苦々しい表情で呟く。

 

「だから、今日は"彼らとの戦い方"を学ぶべくここに集まってもらったんだよ。」
「なるほど。数で劣る俺たちには、それぞれの戦術がいると言いたいんだな?」
「そうなるね。それに、キラくんとフラガくんが相対した機動六課という部署はね、管理局の中でもエリートと呼ばれるような人材が多いんだ。しかも私たちも多いし、増援が来ることもある。だから、私たちのテーマは"スピード"なんだ。如何に迅速にレリックを回収するか。それが決め手になる。管理局なんてあしらう程度でかまわない。」
「なるほどな。戦うんじゃなくて、逃げろと?」
イザークの言葉は多少挑発的なものがあったが、スカリエッティは気にせず続ける。
「そうだ。私たちは、一人欠けてしまったから今のところ計七人だ。私の掴んだ情報だと、機動六課の戦闘要員は十一人で、内一人は後衛で強化魔法などを使うと聞いている。まぁ、エリートというのも私の掴んだ情報だからもしかすると間違いかもしれない。しかし、相手は実質十人だ。魔法に長けたエリート十人と、君たち七人。いやはや、難しい任務になる。」
しかし、またもやイザークが口を挟む。
「俺たちのデバイスは特殊だ。基本的にどの距離でも戦える。それに掻い潜った死線も俺たちの方が多い。一対一なら負けはないだろう?残りの三人は誰かが一対二でしばらく持ちこたえればいいだけだ。」
「だといいのだがね。さっきもいった通り、そうそう上手くはいかないものだよ。それに、レリックの回収には最低二人は欲しいんだ。だとするとこちらは五人であちらは十人。全員が一対二を凌ぐ必要がある。」
「それくらい出来るだろう!」
「落ち着けイザーク。それじゃあ作戦も何もあったもんじゃないだろう。」
熱くなるイザークだがディアッカが鎮め、キラが続ける。
「しかも、その内二人はシン・アスカっていう元デスティニーのパイロットとアスランだ。さすがに彼ら二人を同時には厳しいよ。」
「アスランだと!!?デスティニーというと・・・ミネルバに乗っていたエースとかいうやつか。にしてもアスラン・・・また邪魔をするというのか!!!くそっ・・・会ったらぶん殴ってやる!なんでやつらの味方なんか・・・あいつは帰りたくないのか!!?」
「イザーク!それが分かったなら尚更よく考え直す必要があるだろう。」
ディアッカが再度イザークを鎮める。
「・・・あぁ、すまないディアッカ。スカリエッティ、続けてくれ。」
「一対二に対応出来るのは、クルーゼくんにキラくん、フラガくんの三名だと私は思っている。ドラグーンというのは一対複数においても優位にたつことが出来るからね。」
その言葉にムゥが答える。
「なるほど。確かにそうだな。すると、運び屋で二人割いて、キラとこいつと俺で合計六人、のこりの四人を二人で・・・まぁどちらにしろ相手方の戦力を見極めなきゃ始まんないだろ?敵をどうやって分割するかとか、誰がレリック持ってくかとかさ。」
「そうなるね。だからまぁ、ブリーフィングとはいっても今は大した作戦は練れないんだが・・・ガジェットを向かわせて戦力を見るのが妥当だと思うんだ・・・近々面白いイベントもあるからね。」
スカリエッティはそこで笑みを浮かべた。そして、イザークとディアッカに言う。
「イザークくんにディアッカくん、"あれ"は完成したかい?」
「あぁ、基本構造は構築済みだ。あとはスカリエッティが魔力構造をインプットしてくれれば完成だ。」
「そうか。ならすぐに行くよ。皆、解散してかまわないよ。すまない。ほとんど意味のないようなものになってしまって。だが、レリックの回収の輪郭を掴んでくれたなら幸いだ。また何かあったら順をおって連絡する。まぁ今回は、出動前の顔合わせとでも思ってくれ。」
「なんだそりゃ。いらないだろそんなの。」
ムゥの呟きを最後に、するとディアッカ、イザーク、スカリエッティは部屋から出る。その後。キラがムゥに尋ねた。
「ムゥさん、"あれ"ってなんですか?」

 

「俺が知るかよ。後で訊いてみればいいだろう。」
そしてキラとムゥが黙ってしばらくしてからクルーゼが口を開く。
「"あれ"とは新型のガジェットのことだ。ここでおまえたちも見たろう?小型のジンを。」
いきなりで驚きつつもキラが返答をする。
「あぁ、見ました。あれがガジェットって言うんでしたね・・・」
「向こうで言うところの量産機だ。それの新型の開発をイザークとディアッカが請け負っているのだよ。」
「なるほど・・・」
となりで、気に食わない、というような顔をしていたムゥがキラに囁いた。
「戻るぞ。デバイスの調整と模擬戦でもやろうぜ。」
キラも小声でムゥに囁き返す。
「いいですけど・・・どうしたんですかムゥさん?」
「別に。」
ムゥもそれきり何も言わずに部屋を出てしまう。
「じ、じゃあ僕もこれで・・・」
キラもそれに続いた。

 

(何企んでやがる・・・ラウ・ル・クルーゼ・・・)
ムゥはイライラしているせいか、心なしかはや歩きで廊下を歩いていた。後ろからキラが走ってくるのが分かる。
「ムゥさん!ムゥさん!」
「キラか、どうした?」
「どうした、じゃないですよ。ムゥさんこそどうしたんですか?顔、すごいですよ?」
「そうか?ワルいな。ちょっと考え事だ。」
ムゥは茶化すように笑うが、キラは深刻そうな顔つきで言う。
「ラウ・ル・クルーゼですか?」
「ちげぇよ。いや、まさか一対二をさせられるなんてな~、って考えてただけだ。」
「だったら僕があの人と話しているときにあんな顔で退出を促したりしないですよね?あの時のムゥさんもすごい顔でしたよ。何て言うか、こう・・・鬼気迫る感じで・・・」
するとムゥは暫く黙り込む。暫くすると、参りました、と言わんばかりの顔で話し出す。
「・・・まぁな。その通り、あいつの事だ。絶対裏に何かあるに違いない・・・だから、キラも簡単にあいつを信じるなよ?」
ムゥがそう言うと今度はキラも黙って俯く。
「わかってます。でも、さすがにあんな事で嘘ついたりはしないと思いますよ。」
「そりゃそうかもしれないが・・・まぁ、俺の杞憂だったらそれで良いんだけどな・・・」
「そう・・・ですね・・・」
今度こそ二人とも黙り込む。しかし、今回その沈黙を破ったのは後ろからの足音だった。
「ネオ~、お~い!ネオ~~!」
突然の声にムゥは後ろを向いて声の主を探る。
「ん?アウルか?アウル~?」
「はぁ・・・はぁ・・・ネオ!よかった、間に合ったぜ。」
「どうした?」
「いや、俺とスティングのデバイスなんだけど、あれのっけてからちょっと調子悪くて・・・診てくれないか?」
「そうか・・・移植が完全じゃなかったか・・・数値の設定がおかしかったか?」
「ムゥさん?」
キラが怪訝そうな顔でムゥを見上げる。
「そうだな・・・キラ、お前もちょっと手伝ってくれ。アウルは、スティングと一緒に俺の部屋に来てくれ。」
「サンキュー、伝えとくよ。」
「おぉ、また後でな。」
アウルはまた来た道を走っていった。
「ムゥさん、なんの事ですか?」
「あぁ、後で実際に見せてから説明するさ。今は戻るぞ。」
「は、はぁ。」
キラとムゥはそのまま部屋へと戻っていった―――

 

――訓練後管理局シャワールームにて――
「はぁ~~~、疲れた~~~。今日も厳しかったね~~~。」
「まぁね~。今日はガジェット何機だったっけ?八?」
「いえ、今日は十機でしたよ。」
訓練後、夕食前にシャワーを浴びよう、というエリオの提案で今ティアナ、スバル、キャロの三人でシャワーを浴びている最中だった。
「そうだったそうだった。それを三回位やったから・・・ガジェットだけで三十機!しかも、なのはさんとの戦闘訓練があったから・・・うわぁ~~~大変だった。」
キャロがスバルを見上げながら言う。
「スバルさん、かなり頑張ってました。」
「それは皆そうだもん。ティアも、エリオも、キャロだってそうじゃない?」
「チームプレーなんだから当たり前でしょ。誰かがサボったら上手くいくはずないじゃない。それに今日の訓練だって、誰かさんのがまた無茶して怪我したから終わりなったんだし。」
いいながらティアナは横目でスバルを見る。
「う・・・ごめん・・・」
「別に、疲れてたしかまわなかったけど。でも、もうちょっとしっかりしなさいよね。戦闘中に突っ込んで包囲でもされたらどうするつもり?第一あんたは全体的に周りをしっかりと見ながら・・・」
「キャロ~、頭洗うから目瞑っててね~。」
「あ、はい。」
キャロは全力で目を瞑るが、スバルはそれがおかしくて笑ってしまう。隣にキレ気味のティアナがいることにも気付かずに。

 

「・・・人の話を・・・聞けーーーー!!」
ティアナはとなりにあった桶を手に取り、自分のいるシャワールームから身を乗り出してスバルの後頭部をおもいっきり叩く。
「あいた!!!うぅ~・・・ティアひどい~~~~。」
「ひどいのはあんたでしょ。まったく・・・先出てるわよ。」
「もうエリオも待ってるかもね。今日は寝てないといいけど。」
スバルの一言で全員が笑いだす。
「前は階段でフリードと一緒にストラーダに寄り掛かって寝てましたからね。さすがに長すぎたでしょうか?」
「男の子だから早いんだよ。まぁ私たちも長かったけどね。」
「だから、先行くわよ。」
「うん、行ってて。あ、キャロ、まだ目開けちゃダメだよ?もうちょっとだから。」
「分かりました。」
スバルとキャロを尻目にティアナはシャワールームを出る。そして着替えた後、エリオが待つ場所へ行くと、エリオはシンと話をしていた。
「お待たせエリオ~、ってシンじゃん。どうしたの?」
「おぉ、ティアナか。いや、エリオが階段でボーっと座ってたから声をかけただけだよ。」
「そっか。ごめんねエリオ、いつも待たせちゃって。」
「いえいえ、気にしないでください。他の二人は?」
「まだ中。もうちょっとしたら出てくると思うけど。」
「そうですか。」
「で、なんの話してたの?」
その問にはシンが答えた。
「訓練の調子だよ。あとはちょっと俺の個人的な要望を。」
「へぇー、シンがエリオに頼み事?」
「まぁな。バリア?障壁?についてちょっと訊いてたんだ。」
「あぁ、そういえばシンとアスランはその訓練なんだったね。」
「ザフィーラは『感覚だから積み重ねが大事だ』って言っててさ、エリオにも今同じこと言われたんだよ。」
「まぁ・・・そりゃそうよね・・・」
「はぁ~。そうだよな~・・・」
「シンなら数日もあれば出来るわよ。せっかくだし、今ちょっとやってみてよ。」
「分かったよ。」
シンはバリアジャケットを身に纏い、右手を前に出す。
「ふっ!!!」
シンは障壁を張ろうとするが、出てくるのは緋色の魔力をそのまま流したようなものだけで、厚みにも統一性が無いものだった。意識的に障壁を出すときに現れる術者の魔法陣の形にもなっていない。
「うわぁ・・・これは酷いわね・・・でこぼこじゃない・・・ってそれ以前の問題か・・・」
バリアジャケットを解除しながらシンが言う。
「ちょっとティアナやってみてくれよ。」
「いいわよ。こうでしょ?」
バリアジャケットを身に纏ったティアナが障壁を張る。シンは驚嘆の声をあげながらティアナの障壁を見る。
「はぁ~~。すげぇなぁ・・・ずばりコツは?」
「無いわよそんなの・・・」
するとシンは嘆きの声をあげる。
「はぁ~~。まぁいいや・・・出来なくてもなんとかならないこともないし・・・」
「そうよ。シンはシールド持ってるじゃない。」
「でも出来た方がいいんだとさ。確かに、物理的なシールドはとっさに背後とかには出せないしな。」
「あ、そうか・・・」
ティアナがうなずくと、シンはティアナの後ろを見ながら言った。
「つっても、まだ初日だから焦る必要はないらしい。・・・ってあれ・・・あれは・・・スバルにキャロだな。」
「ん?本当だ。あんたたち~!遅いわよ~!」
振り返ったティアナが呼び掛けるとスバルとキャロは小走りにこちらにやってくる。
「ごめんティア~!ってあれ?シンじゃん?アスランは?」
「アスランは確か・・・高町に連れてかれたからほっといた。」
「そなの?まぁ、とりあえずご飯行かない?」
「そうしましょう。今日は疲れたわ。」
「シンはご飯まだ?そうだったら一緒に食べようよ。」
「あぁ、そうさせてもらうよ。アスランは・・・まいいや。」
そうして五人は食堂へと向かった。

 

一方、当のアスランはなのはの部屋に呼び出され、これからの訓練に関して話をしていた。
「本格的な戦闘訓練で俺たちが?」
「うん。あの子たちもガジェット相手なら戦えるようになってきたんだけど、強い魔導師、この前のオーバーSランクとかが相手だとさすがにキツいの。しかも、あの人たちもアスランくんたちと同じようなデバイスなんでしょ?」
「・・・あぁ、そうだ。」
「だったらなおのこと、アスランくんとシンくんにあの子たちの相手を頼みたいわけ。」
「なるほど・・・でもそれはデバイスが返ってきてからになるぞ?」
「それは・・・はやてちゃんと相談するけど・・・」
すると、アスランは快諾する。
「別にそれならかまわないさ。」
「ほんと?ありがとね♪」
「俺たちも一週間近くデバイスに触ってないからな。少し鈍っているかもしれない。」

 

「それでもいいけど、それなりに全力でやってもらうよ?」
「まさか、手を抜いたりはしない。俺なりに全力は尽くすさ。」
「うん。じゃあ話はこれだけだから。ごめんね?呼び止めちゃって。」
「大丈夫だ。また何かあったら言ってくれ。出来ることだったら力になる。」
「助かるよ。頼りにしてるからね?」
なのはがそう言うとアスランは苦笑い気味に答える。
「そんなに期待するなよ?俺たちだって一介の魔導師だ。それじゃあな。」
「うん。私もはやてちゃんのとこに行かなきゃならないから。」
アスランは夕食を食べるべくなのはの部屋を出た。
(そういえばシンはどうした?もう先に食堂か?)
アスランが食堂へ向かうと案の定シンがいたが、そこにはスバルにティアナ、エリオとキャロもいた。
「あれ?全員今夕食か?」
「あ、アスラン。いいところに。アスランも一緒に食べようよ。」
「そうだな。そうさせてもらおう。」
「あふらんふぉこいっふぇたんら?(アスランどこ行ってたんだ?)」
「高町の部屋だ。呼び出しをくらってな。それからシン、食べ終わってから喋れ。」
シンに変わってスバルが話を引き継ぐ。
「なんでまた?なんか悪いことしたの?」
「いや、訓練のことでちょっとな。あぁそうだ、喜べシン。明日にはインパルスとデスティニー、返ってくるかもしれないぞ?」
そう言われたシンは急いで口の中のものを飲み込んで訊き返す。
「・・・ンクッ・・・ゴクッ・・・あぁ・・・本当か!?じゃあ今やってる訓練は?」
「あれは継続だ。しかも、あれはやろうと思えばいつでも出来るじゃないか。」
「ん、まぁな。でもなんでまたそんな急に?」
「この前の二人の来襲の時、結局レリックも確保出来ずに二人の捕獲も出来なかった。まぁ、正確には高町が捕獲には消極的で、しかも実力差からして隊長格じゃないとやりあえない、という判断だったからだ。何せ二人ともオーバーSだったという話だ。確かにそれは妥当な判断だった。でも、これからずっとそういうわけにはいかないだろ?だからあの二人により近い俺たち二人がこの四人でもあいつらに太刀打ち出来るように訓練の相手をすることになったんだよ。」
「・・・なるほど。」
そう答えるシンの顔は暗い。
「でも、俺もアスランもドラグーンシステムはないんだぞ?」
「そこは仕方ない。出来ることだけでいいさ。俺たちのようなデバイスとの戦闘に慣れればいいんだから。」
それでもシンは表情を変えない。
「・・・それは、絶対なのか?」
「どういうことだ?」
「正直に言うと、こいつらがフリーダムに敵うとは思えない。いくらそのための訓練とはいっても、無謀すぎないか?短期間の訓練でどうこう言えるレベルじゃないぞ?」
「誰も一対一で、とは言わないさ。やりたいのは『一対二で相手の足止めをする』ことだ。レリックに近づかせないためにな。勝て、とは言わない。俺だってあいつと一対一で確実に勝てるか、と問われてイェスとは言えない。お前と組めばなんとかならないこともないかもな。」
「そ、そんな強いの?」
アスランの言葉にティアナが疑問を投げ掛ける。
「あぁ、あいつは強い。いや、少なくとも向こうの世界では強かった。戦闘で墜ちたのは一回だけ。それいがいは全て勝利、もしくは途中で戦闘終了だ。あいつに勝ちたかったら、まずは俺やシンを倒せるようにならないと無理だ。」
「げ・・・そんなのと戦うの?」
「だから"勝て"とは言わない。一対ニに持ち込んで引き分けになれば上等だ。そのための訓練をする。俺たちも手加減はしない。シン、いいな?」
アスランの有無を言わさぬ物言いに、シンも折れる。

 

「わかったよ・・・」
「よし。じゃあ俺も飯にするとしよう。」
アスランが夕食を食べはじめてから、喋る者はいなかったという―――

 

――夕食後――
各々の部屋に戻ろうとしていたシンとアスランは、はやてから召集をうけ、隊長室に呼ばれていた。そこにはすでにはやてが座って待っており、隣にはなのはも立っていた。二人が部屋に来ると、はやてが口を開く。
「何の話かは、だいたい察しがつくとは思うけど、とりあえず確認や。明日からの訓練内容についてのな。」
その言葉にアスランが対応する。
「俺たちの意見は変わらない。訓練には協力する。」
すると、なのはが手に握っていたシンとアスランのデバイスを見せる。
「じゃあ、二人のデバイス返すね。シャーリーが解読に励んでたけど、特に変更してあるところはないんじゃないかな?」
「あぁ。後で確認する。」
デバイスを渡しながらなのはが言う。
「訓練の事だけど、この前の二人がいつ来るか分からないからなるべく急がなきゃならないの。さっきも言ったけど、手加減は無しにしてね?あの子たちのためにならないから。」
「わかっている。」
アスランはそこで一度言葉を切って、続ける。
「それに、レリックを狙っているのはあの二人だけじゃないだろう。何か後ろ楯があるはずだ。」
「だろうね。それはこっちでも分かってる。他にもレリックを狙っている魔導師はいるからね。」
そう言ってなのははスカリエッティの情報をディスプレイに映し出す。それを見てアスランが呟く。
「それに・・・あの二人だけだといいが・・・」

 

「なにが?」
「いや、コズミック・イラ、俺たちの世界から来たのは俺たち四人だけならいいが、ってことだ。」
アスランが不安気に言うと、はやてが疑問を口にする。
「そんな心配なん?」
「あぁ。もしむこうから来て、訳もわからずにこちらで過ごしてるやつもいるかもしれない・・・フリーダムみたいに、危険な事に足をつっこむやつもいるかもしれない。もし、そのスカリエッティというやつのところにあいつらや、他のコズミック・イラ出身者がいたら、事態は最悪だ。」
「あの二人、キラ・ヤマト、ムゥ・ラ・フラガ、やったな。」
はやての言葉にアスランが驚く。
「どうしてその名を?」
「管理局なめたらあかんよ?諜報部員に調べさせたらあっというまや。」
「そうか。」
嘘をついたことに少々罪悪感を感じたはやてだが、アスランがため息をつくと、今度はなのはがアスランに訊ねた。
「でも、そっちの人間ならデバイスも良いし戦闘強いんじゃない?軍人なんでしょ?」
「全員がそうというわけではないけどな。でも、だからこそ利用されると厄介なんだよ。実際キラとムゥは強い。俺たちでも、敵うかどうか・・・逆に、魔法経験の豊富な高町のほうが勝率も高いかもな。」
(てことは・・・バルトフェルドとハイネも強いんやろか・・・カガリも?)
そんなことを考えたはやてだったが、今はこれからの訓練に気持ちを切り替える。
「まぁ、そのへんのことは今度話し合えばええよ。今はあの四人や。よろしく頼むで?」
「あぁ。」
アスランは快諾するが、先ほどから黙っていたシンがボソッと呟く。
「あんたたちは余裕だな。」
「なんて?」
「四人の心配もいいけど、あんたたちは大丈夫なのか?フリーダムに勝つなら、俺やアスランにはまず確実に勝てないと・・・」
「そやな。それも考えなあかん。模擬戦で君ら相手にシグナムとヴィータがあそこまで苦戦したんや。私たちも特訓やな。」
「別に、強さであんたたちと張り合いたいわけじゃないさ。ただ不安なだけだ。いくらエースと呼ばれるあんたたちでも、あのフリーダムに余裕で勝てるとは思わないから・・・」
シンがそう言うと、なのはが微笑みながら言う。
「ありがと。心配してくれたんだ?」
なのはのその対応にシンがたじろぐ。
「い、いや。別に・・・俺はもう・・・仲間を失いたくないだけだから・・・」
「シン・・・」
(本当に・・・変わってないなお前は・・・今も昔も、行動の根幹は同じか・・・)
アスランはシンを見ながらそんなことを考える。
「まぁなんにせよ。デバイスの調整もある。もう戻っていいか?」
「あぁ、すまんなぁ引き留めてしもうて。」
「じゃあ、行くぞシン。」
「わかった。」
二人は部屋を出て、自室へ戻る。
「なぁアスラン。ひとつ訊きたいことがあるんだけど。」
「ん?なんだ?」
「訓練の時さ、高町は"障壁"って言ったけどザフィーラは"バリア"って言ったよな?」
「あぁ、そうだな。」
「どっちが正しいんだ?」
「・・・」
アスランはしばし黙考するが、結局分からなかったらしく、肩を竦めた。
「さぁ。言いやすい方でいいんじゃないか?」
「え・・・」
そんな他愛ない話をしながら、その日は終わった―――

 

――翌日、訓練所にて――
訓練所には、シンとアスランの二人と、スバル、ティアナ、エリオ、キャロの四人が向かい合っていた。その間にはなのはがいる。
「じゃあ、さっそくやってもらうよ!シンくん、アスランくん。準備いい?」
「あぁ!!」
「いつでもいいぞ。」
「うん。スバルたちも大丈夫だね?」
「はい!」
「大丈夫です。」
「いつでもいけます!」
「頑張ります!」
スバル、ティアナ、エリオ、キャロの順に返事をし、なのはが戦闘の合図をする。
「じゃいくよ!!対コズミックイラ式デバイス戦闘訓練・・・開始!!」
なのはのその言葉に、シンたちは各々のデバイスを呼ぶ。
「シン・アスカ!インパルス!!!」
「アスラン・ザラ!ジャスティス!!!」
「マッハキャリバー!」
「クロスミラージュ!」
「ストラーダ!!!!」
「ケリュケイオン!!」
一瞬の静寂、しかしそれはすぐに破られる。
「「「「「「セットアップ!!」」」」」」

 

実戦形式で行われる対コズミック・イラ式デバイス戦闘訓練。
そして、ついに動き出すスカリエッティ。
両者がまたぶつかるとき、各々の心にまた変化が現れる―――

 

次回、シンとアスランの魔法成長日記第六話


*1 これは・・・ツッコんだら負けなのか?