DTC_00話

Last-modified: 2008-12-15 (月) 17:16:44

『“デスティニー”術式構築率、七十パーセントを超えました。術式の展開には今のところ支障ありません』
『同じく“レジェンド”術式構築率六十四パーセント。こちらも問題はありません』

 

メサイア、司令室。
そこに居た男の脳裏に、女性の声が二つ響いた。
テレパシーのような声が。

 

「ありがとう二人とも……レイとシンの様子はどうだい?」
『“デスティニー”パイロット:シン・アスカ、多少憔悴してはいますが、戦闘に支障はないと思われます』
『“レジェンド”パイロット:レイ・ザ・バレル、戦意は十分かと』
「ふむ、ならば問題は無い、か……」

 

念話と呼ばれる、異世界の技。
それを使って会話を続ける男は、気がつかなかった。
背後から自分を狙う銃口に。

 

司令室に、銃声が響き渡った。

 

『憎しみのままに戦うのはやめるんだシン! その力は、いずれ自分すら滅ぼすぞ!』

 

アスランの叫びと共に、右腕を失った∞ジャスティスがビームサーベルを振り降ろす。
それをアロンダイトで受け、そのまま受け流す。

 

デスティニーも無傷では無い。既に左足と頭部の半分を破壊されていた。

 

「偉そうな口を叩くな、裏切者! 確かにこの力は危険かもしれない。でもな!
アンタにだけは言われる筋合いが無い! そういう説教は、味方の時に言って置くべきだろッ!?」

 

そうだ、こいつは、味方だったときですらまともな事を言っていなかった。
親友の名前をただ延々と叫ぶばかり。ハイネが死んだときも、正式に撃墜命令が出たときも!

 

『それは……あの時のお前が、言って判るとは思えなかったからだ!』
「今なら判るって言うのかよ! ふざけたことを言うのも大概にしろ!」

 

再度の斬撃を、ソルドゥス・フルゴールで受け止める。
そこに開いた隙を縫い、アロンダイトを突き出す。

 

アロンダイトは∞ジャスティスの左肩を貫き、爆砕した。

 

『……! この、馬鹿野郎ッ!』
分離し、突っ込んできたリフターにビームライフルを三連射して撃墜する。
所詮はAI。プログラムされた動きしかできない。
故にある程度のデータが有れば、撃墜するのは容易い。

 

「アンタに馬鹿呼ばわりされる覚えは無い!」

 

バックパックにもなっていたリフターを失い、機動性が激減した∞ジャスティスに向かってフラッシュエッジを投擲し、
回避のタイミングにあわせて突撃する。

 

アロンダイトを手放した右掌に、必殺の光を滾らせながら。

 

「これで終わりだ! アスラン――!?」

 

後ろからの衝撃。直撃を貰った。
なんだ? 何処からの攻撃だ?
もうこの辺りの宙域には、俺とアスランしか居なかったはず。
一体、誰が?

 

『……シン、それは駄目。それだけは駄目なの』

 

……ルナ?
確かに先程∞ジャスティスに撃墜され、月面に叩き落されてはいたけど。
なんで、ルナが?

 

『……アスランは、アスランだけは殺しちゃ駄目なの!』

 

更に続けて衝撃が奔る。
デスティニーのコンディションが、見る見るうちに悪化していく。
俺は、動けなかった。

 

『言っておくけど、悪いのはシンよ……さよなら、シン』

 

――六度目の衝撃に、意識を消飛ばされるまで。

 

『君は……この感じ、まさか……ラウ・ル・クルーゼ!?』
「違うな、俺は――俺はレイ・ザ・バレル! キラ・ヤマト、お前を殺す男だ!」

 

そうだ、俺はレイだ。ラウでは無い。だが、ラウの敵であるこの男は、俺が討つ!
ラウの為、ギルの為、そしてシンの為に!

 

『そんな……まさか、仇討ちのつもりなの?』
「そういうことになるな。だが、それだけではない。キラ・ヤマト。完成品のスーパーコーディネーター。
 お前一人のために、どれ程の犠牲が払われたと思っている?」
『な、何を言ってるんだ!?』
「俺も、ラウも、お前のような人間のために作り出された存在だ。
 だからこそ、お前の存在だけは許さない!」

 

それに、この男はシンの家族を奪っている……この男さえ居なければシンはザフトに属していなかった。
今もきっと、家族と共に平和に暮らしていたはずだ。
だがこの男は、その平和を壊した。負わなくてもいい人殺しと言う業をシンに背負わせた。
それを許すことなど、出来るわけが無い。

 

『違う……僕は、僕はただの人間だ! スーパーコーディネーターである前に、一人の人間なんだ!』

 

その絶叫と共に、七色の閃光がストライクフリーダムから放たれる。
ハイマット・フルバースト。奴の必殺にして必中の一撃。
確かに凄まじい攻撃範囲と馬鹿らしいほどの破壊力を持った攻撃だ。

 

だが、遅い。

 

俺の持つこの空間認識能力。
それをもってすれば、この程度の大雑把な攻撃など、回避は容易い。

 

『そんな……嘘だろ!?』
「嘘なものか。どんな相手にもそれが通用するとは思わないことだな!」

 

発射後、大量のエネルギーを一度に放出したために起こる僅かな隙。
其処を狙い、展開しておいたドラグーンを吶喊させ、更にレジェンドを接近させる。

 

持ち前の機動力を生かし、ドラグーンから発射されたビームを避けるストライクフリーダム。
それでも、完全に回避することはできない。
一撃一撃が少しずつ、だが確実にストライクフリーダムの装甲を削り取っていく。

 

そして――。

 

「これで終わりさ、キラ・ヤマト!」

 

ストライクフリーダムの真正面、ここで撃てば外すことが無い距離にまで迫り、右手に持ったビームライフルを突きつける。
まさしく必殺にして必中の距離。
この一撃で終わらせる。確実に!

 

――そう思った、矢先のことだった。
『…言……おく…ど、悪……はシンよ……………さ…なら、シン』

 

瞬間、凍りついた。

 

……なんだと?
今の声は、ルナマリアか?
なんだ、今の言い方は。
まるで、シンが死んだかのような……。

 

そんな思考がはしる。
全身から嫌な汗が噴出す。
僚機の情報が表示されているウィンドウに、視線が向く。
デスティニーの、シンの機体の情報に……。

 

Signal Lost

 

その瞬間、確かに俺の意識は空白になった。
そして、戦場では一瞬の油断が命取りになる。
俺は忘れていた。
眼前の敵機の存在を。

 

――意識が途切れる直前に見えたものは、ストライクフリーダムの砲口だった。

 

「タリア……君か……」
「ギル……」

 

男――デュランダルが、撃ち抜かれ倒れたまま呻くように言う。
その視線の先には、自分を撃った人物――ミネルバ艦長タリア・グラディスの姿があった。

 

「何故だい……どうして私を撃った……?」
「……わからない、わからないの。考えと関係なく身体が動いて……!」

 

そのまま、デュランダルを抱えて泣き崩れるタリア。
彼女は見逃していた。
その、抱き締めた男の眼が、まだ強い光を宿していることに。

 

『デスティニー、レジェンド。残る術式構築過程を全てカット。直ぐに転移を開始してくれ!』
『ですが、今の段階で実行するのは危険です、座標もまだ設定されては……』
『私の魔力をガイドビーコンの代用とする。詠唱も此方で行う』
『……了解。“デスティニー”転移シークエンスを開始します』
『“レジェンド”了解。転移シークエンスを開始』

 

『座標設定完了、詠唱を開始する』

 

そのとき、僅かでも魔法の資質が有る者ならば、見ることが出来たかもしれない。
デュランダルの全身から溢れ出そうとする膨大な魔力の流れを。

 

『我は鍵持つ者なり――』
『我は門を開く者なり――』
『開かぬ門を開きて彼の者らを送らん――!』

 

『……レイとシンを頼んだよ、ジェイル――』

 

……彼らは、見た。

 

アスラン・ザラとルナマリア・ホークは見た。
満身創痍のデスティニー、その装甲に紫色の文様が浮かび、放たれた止めの一撃を弾いたのを。

 

キラ・ヤマトは見た。
硬直したレジェンドに、好機と見て再度放ったハイマット・フルバーストが浮かび上がった紫色の文様に弾き返され、
自機に突き刺さるのを。

 

メサイア戦役。プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルの死により、この戦いはオーブの勝利で幕を閉じた。

 

なお、レジェンド、デスティニーは共に回収されたが、パイロット二名、及び
コクピット周辺のとある機械が消失していたことを記しておく。