実際のところ、プラント国防軍総司令部は、地上圏へのプラント勢力圏、もしくはオーブへの、
ジオン公国軍による本格的な侵攻作戦はないと信じきっていた。
理由は、ジオン公国の軍備が、まだそれを行うまでに充実していないというものである。
実際、ジオン側としても、ヨーロッパ連邦の協力が得られたとは言え、実態としては薄氷を踏むようなものだった。
だからこそ、奇襲になった。
プラント軍は、あるとすれば降下突入ポッドでの大気圏外からの襲撃、もしくは航空作戦と想定していた。
だから、彼らは空ばかり見ていた。
しかし、スエズ基地の地中海岸の海中から尖兵として姿をあらわしたのは、重MSを装備した挺身突撃隊だった。
開発されたばかりの水陸宙3対応モビルスーツ、UMF-Z7Fエィロムス。この作戦の為にギリギリ間に合った第1ロット48機である。
やや不恰好なズングリムックリの胴体に、高速自動装填装置付きの、大型多目的フルオートランチャー2機を背負っている。
マニピュレーターは水中用MSの伝統、3本爪である。そして、腕には、見た目にも凶悪なジェットアックス
『エリュートロン』が装備されていた。
それらを振り回し、スエズ基地の装備や施設を手当たり次第に破壊する。
このエリアには約150機の邀撃用MSが待機していたが、思いも拠らぬ海中からの襲撃により、
起動もできないままほとんどが無力化された。
「ケッ、まったくたいしたことのない連中だな、平和ボケしやがって」
挺身隊隊長、エンスルト・ラインハルト特務中尉は、自分達の手によってなすすべなく破壊されていく、
紅いMSを見て、そう言った。彼はナチュラルであるにもかかわらず、扱いの難しい重MSを振り回す。
────ジオン公国軍による第一期地上侵攻作戦、コーカサス侵攻作戦『シンドバッド』は、その幕を上げたのである。
機動戦士ガンダムSEED
逆襲のシン ~ジオン公国の光芒~
PHASE-04
挺身突撃隊が沿岸施設へと上陸する、数分前。
スエズ基地所属の、プラント国防軍地上軍偵察用MS、Rゲイツ──ゲイツR、ではない。紛らわしい──の1機は、それを発見した。
「なんだ……おい」
ゲイツシリーズでありながら、大気圏内飛行用の大きな補助翼を持つ機体。そのうなじの辺りにあるカプセル状の
偵察員席で、プラント国防軍地上軍所属のジーク・ナカムラ上級曹長は、洋上に浮かぶそれを発見した。
「どうした?」
パイロットのオスカー・マーティン軍曹は、上官とは言え歳も近く、職場の同僚として付き合いのある偵察員に聞き返す。
「いや、海の上に何かいるぞ?」
「なに?」
オスカーは怪訝そうに声を出した。
────まったく、地上はレーダーも逆探も使えないからやりづらいぜ。
ジークも、オスカーも、面倒くさそうにそんなことを考える。9年前に打ち込まれた環境型ニュートロンジャマーは、
一部機能を停止するものも出始めているが、多くが地熱熱電素子で今も活動中である。
地上圏では電波を使用するレーダーはもちろん、ニュートロンジャマーの作動を検知する逆探知機も使用できない。
────はずだった。
Rゲイツのモノアイが、ジークの示した方を向く。
「なっ!?」
スコープの倍率を変更しつつ、それを探っていたオスカーが、驚愕に目を円くした。
「ミネルバ型戦艦だ! それも、4隻もいる!」
「4隻だと、そんなバカな!」
ジークも素っ頓狂な声を上げた。
ミネルバ型戦艦は、すでに失われたミネルバと、改修型としてジオンが新たに建造したマリア、
2隻しか建造されていないはずだ。いや、近々竣工するという改ミネルバ型の2番艦の情報も、偵察機パイロットには
もたらされていたが、それでも3隻。
あるいは、味方だろうか。プラント国防軍の大型戦闘艦は宇宙用のエターナル型と、宇宙・大気圏内両用の
アークエンジェル型で賄われている。しかし、ミネルバ型のデータも残っているはずだ。
だが、その仮定は脆くも打ち崩された。
「うわぁっ!」
オスカーが叫び、Rゲイツをロールで降下させた。脇を弾丸状の荷電粒子ビームが掠める。
「なんだと!?」
ジークが振り返る。そこには、ネイビーブルーの悪魔がいた。ウィンダムやM1アストレイに良く似てはいるが、
よりいかめしくなっている胴体と、ツインアイ風のカバーをかぶせたモノアイ。────ネモ・ヴィステージ。
「クソ、逃げるぞ!」
ジークはRゲイツのスラスターを全開にし、最高速で離脱を図る。ネモ・ヴィステージは追いかけてくる。
Rゲイツの水平最大飛行速度はプラント国防軍の量産MSで最も速く、ワンオフ機を入れても上回るのは
インフィニットジャスティス、それと現在建造中といわれるストライクフリーダムの後継機ぐらいだろう。
ジリジリと離してはいるものの、ネモ・ヴィステージも追いかけてくる。ネモ・ヴィステージの生産機のほとんどが
そうであるように、この機体もエールストライカーを背負っていた。
「本部、応答願います、本部! こちらスエズ基地北方偵察隊4号機、敵らしき艦影を発見しました! 応答願います!」
ジークは無線に必死に呼びかける。
『こちら…………地本…、通……不明瞭…す、再………と…容……』
デジタル変調が阻害されるピーガーノイズが、返信を何度も途切れさせる。
「畜生!、ニュートロンジャマーを使ってやがる!」
地上での核兵器、及び核分裂炉の使用を抑制する環境型ニュートロンジャマーではない。
通信とレーダーを妨害する為に意図して使用している、局地用のECMタイプだ。おそらく、あの4隻の軍艦が搭載しているのだろう。
「スエズ基地北方偵察隊4号機、定時哨戒任務、ミネルバ型戦闘艦4隻と思しき敵影を発見、
スエズ基地北方偵察隊4号機、定時哨戒任務、ミネルバ型戦闘艦4隻と思しき敵影を発見、
スエズ基地北方偵察隊4号機、定時哨戒任務、ミネルバ型戦闘艦4隻と思しき敵影を発見…………」
ジークは相手の返信を無視し、一方的に、同じ内容を何度も送信し続けた。
喉が枯れるかと思うほどそれを繰り返した頃、背後から、激しいビームサブマシンガンの射撃を受ける。
ほとんどの弾丸状粒子ビームは至近距離を明後日の方角へ通過していく。もともと、Hi-ComBM02は、
長射程精密射撃を意識した武器ではないのだ。
防空網の端に来て、焦れたパイロットが、当たらないことを承知で乱射しているのだろう。
あるいは、停止しろというメッセージかもしれない。
「ぐぁっ!」
だが運悪く、1発が、Rゲイツの脇の下の辺りに直撃した。
「やられたか!?」
「い、いや、かすっただけだ、大丈夫だ」
ジークの問いに、オスカーが答える。ジークが偵察用の防弾耐圧キャノピーから見ると、装甲に破口が開いて
うっすらと煙を吹いていた。しかし、飛行を続けているのだから、致命的ではなかったのだろう。
気がつけば、ネモ・ヴィステージの姿は消えていた。艦隊防空網の領域から出たためだろう。もし、とことん追撃しろ、
という命令が下っていたなら、Rゲイツは、どんなに逃げたとしても、振り切る前にバッテリー切れになり、
核融合動力のネモ・ヴィステージに追いつかれていただろう。それに、推進剤も無限ではない
(それは、ネモ・ヴィステージも同じだが)。
Rゲイツは、飛行速度を巡航に落とす。その過程で、ガクガクと、正常ではない振動を起こした。
「基地まで飛べるかなぁ」
ジークは不安そうに呟いた。
「大丈夫だ、何とか持たせる」
オスカーは、素っ気なくそう答えた。
もちろん、ジオン公国が保有している改ミネルバ型戦闘艦は2隻だけであるし、そのうちの1隻、新鋭のミシェイルは、
本国防衛の要として、またMS隊総長イザーク・ジュール大佐の座乗艦として、L1宙域に留まっている。
彼らが見た4隻のうち、1隻は正真正銘、戦闘艦マリアだったが、他の3隻は、まったく別の存在、
マチュア型MS空母『マチュア』『ダルシン』『ブライトン』だった。
新開発の(ただし、この技術はプラント本国にも報告されている)、「低圧省噴射マグネティズム・イオノクラフト」を使用し、
大気圏内を低高度飛行可能とした、と言うより、性格から言うなら「大気圏外でも運用可能なホバーMS空母」。
あからさまに地上侵攻用の兵器なのだが、すべてトーマス・シティでの建造・整備を前提としなければならないと
言う、
ジオン独特の事情が生み出した代物である。
もっとも改ミネルバ型同様、L1会戦後のつい先日に、完成したばかりの虎の子であることは変わりなかったし、
本国艦隊も喉から手が出るほど欲している。──イザークのウィングマンであるシホ・ハーネンフース大尉が、
この3隻を持っていくシンの前で、ベビー用品用のマネキンの腕を外して、付け根側を口にくわえる、という
シュールなギャグを飛ばし、盛大に周囲の顰蹙を買ったほどである。
それでもこの数を投入したのは、ひとえにこのシンドバッド作戦に掛けるジオンの意気込みであった。
一方、このマチュア型には、もうひとつある特徴があった。
パッと見のシルエットが、ミネルバ型に似ていると言うことである。
これは別に意図したわけではなく、大気圏内のホバー飛行を考慮しつつ設計した結果、最終的にこの形に落ち着いてしまったのである。
もちろん、少しでも目を凝らしてみれば、特に後部が全然違う。
しかし、設計した本人達が気付いていない上、塗装も意識もせずに標準のつもりで同じ色を似たような塗り分けで
塗ったため、遠目には紛らわしいことこの上ない。
当然のように、彼らはその意図もなく、3隻とマリア型を並べて、さらに水上用の護衛艦
──ヨーロッパ連邦から譲り受けた中古艦──を従えて、ギリシャからスエズめがけて前進中だった。
『偵察機の接触を受けたようですが、大丈夫ですか?』
通信モニターの中の、アビー・ウィンザー“少将”が、僅かにだが不安そうな表情で、シンに話しかけて来る。
「そんなこと、やってみなきゃわからないよ」
起動、コンディションチェックをしながら、シン・アスカ“特務中佐”は答える。
かつての、メサイア戦役以前の彼なら、こう、素っ気なく答えて、そのままだったろう。
だが、今のシンは、OSのコンディションチェックが終わると、通信機のカメラ越しに、にこっと笑顔を見せた。
「けど、これぐらい、想定の範囲内だろ」
『それはそうですが……』
さらに煮え切らない声を出すアビー。彼女にしてみれば、シンはZAFT時代からの数少ない、より端的に言えば
“残り少ない”、同志なのだ。
「大丈夫だって」
シンは軽く、しかし安心させるように言った。
「それに、もう後戻りはできないんだ。挺身隊を見捨てるわけにも行かないだろう?」
『了解しました』
────もっとも、この程度で終わらせるつもりはないけどな。やるならもっと徹底して…………
そんなことを考えながら、シンは発艦待機位置に進むと、気持ちのスイッチを切り替える。パイロットの目になる。
「シン・アスカ、インパルスII、出る!」
ガイドLEDが点灯し、リニアカタパルトが作動、インパルスIIは、南地中海の空の下に飛び出した。
『インパルスII、ファルコンシルエット、射出!』
マリア竣工以来、L1会戦を経てチーフオペレーターを勤める、とてもそうは思えない少女、マーシェ・イズミ少尉が、
シルエットフライヤーの射出を告げる。
ファルコンシルエットは、インパルスII用の近接戦闘用、つまり対MS戦用シルエットだ。
「コニール・アルメタ、ネモ・ヴィステージ、出るッ」
シンドバッド作戦実施にあたり、マリア搭載唯一のナチュラル機、ネモ・ヴィステージとして、コニールは配備されていた。
シンが、自分のウィングマンとして、半ば強引に引き抜いたのである。
もっとも、L1会戦時のマリアは定数割れ状態の5機で運用していたので、そこにコニールが追加されても、特に異を挟む者はいなかった。
マリアからもさらに5機のゲルググ・イェーガー、1機のゲルググ・ハウントが出撃していく。一方、3隻のMS空母から、
さらにその数倍の機体が吐き出されていく。
マチュアから飛び立つ攻撃隊の殿に、奇妙な形をした、ストライカーパックを背負ったゲルググシリーズ2機が控えていた。
「レイ・ザ・バレル、ゲルググ・イェーガー、出る」
レイの乗るそのゲルググが飛び立つと、続いて、同じストライカーパックを装備した、ゲルググ・ハウントが発艦待機位置につく。
「クレハ・バレル、ゲルググ・ハウント、行きまーすっ」
クレハの高い、しかし柔らかい声が響き、ゲルググ・ハウントはカタパルトから射出された。
クレハは、イザークとシンが用意した訓練メニューを、最初は歳相応の少女のように戸惑っていたにもかかわらず、
僅か3日で消化してしまった。常人なら、コーディネィターでも、“最短で”2週間はかかる計算のメニューである。
もっとも、オリジナルであるキラは、僅か数分でストライクを使いこなすハメになったのだから、
スーパーコーディネィターとしては当然なのかもしれない。しかもストライクと異なり、ゲルググシリーズの完成度は遥かに高い。
亜音速の速度でも、僅か数十分後には、インパルスIIを先頭にする攻撃隊262機は、プラント国防軍地上軍スエズ基地の上空に差し掛かっていた。
その光景たるや散々で、あちこち煙が上がり、邀撃用に用意されていただろうΩインフィニティや、ドム・ハイマニューバが、
完全なジャンクになって転がっている。
「あいつら、ずいぶん派手に暴れたんだな」
コニールが、コクピットで誰にともなく呟く。突撃挺身隊の志願したその隊長は、L1会戦時にはコニールのウィングマンだった。
しかし、それでも攻撃隊がその上空、真上に差し掛かると、大口径の機関砲が、上空に向けて激しく火を吹き始めた。
『うわぁぁぁっ』
誰かが上げた叫びが、通信に混じる。
元々ないのか、それとも挺身隊によって破壊されたのか、照準の管制が取れておらず、有効な射撃とは言いがたかったが、
それでも綿密なだけあり、スラスターを撃ち抜かれたり、四肢をもがれたりして、落ちていくジオン機が僅かだが確認された。
262機もの大編隊、といっても、262機一斉に身動きが取れるわけではない。後ろの方にいる部隊は、まだ基地を視認もしていないだろう。
行動の基本単位は、エールストライカー機2機+オプティマイズド・ランチャーストライカー機2機の4機1個小隊である。
「対空砲火有り、全機降下、地上高度!」
シンが叫ぶ。機関砲の照準を外すべく、一気に降下し、先頭の方の一部はそのまま大地に降り立った。
「シン、1時方向だ!」
コニールの声。
散発的な爆発。見れば、Ωインフィニティに囲まれたエィロムスが、抵抗を続け、彼我の攻撃の余波であたりの施設が破壊されていく。
エィロムス部隊は半分ほどに減っていた。それでも、彼我の数の差からすれば大健闘だ。
「突入!」
コニールのネモ・ヴィステージ、それにマリア隊第2小隊のゲルググ・ハウント、ゲルググ・イェーガー1機ずつが、疾風のように突っ込んでいき、
Ωインフィニティの背後で頭を上げ、大地に降り立つ。
シンだけは武器も構えさせず、そのまま一直線につっこんで、インパルスIIの拳で、ようやく振り返ったΩインフィニティの
胴体を殴りつける。無謀ではない。ファルコンシルエット時には、手甲部に相手の装甲を破壊するレーザーヒートナックルが
取り付けられている。Ωインフィニティの紅い装甲は凹んで穴が開き、中でパワーパックが火花を散らす。
ワンテンポ遅れて、インパルスIIに斬りかかろうとしたΩインフィニティを、コニールのネモ・ヴィステージが一刀両断にした。
「サンキュ、コニール」
言いながら、シンは『ファルシオン』ビームサーベルを構えさせる。斬りかかってくるΩインフィニティのビームコーティングサーベルを、
SI56/FLビームシールドジェネレーター内蔵シールドで受け止める。
「お前ら、見た目がムカつくんだよ!」
シンが怒鳴り、ビームサーベルで、突きながら斬るように、Ωインフィニティを袈裟斬りにする。
4機のランチャーストライカー機が、つるべ撃ちに敵のMSを撃っていく。
しかし、プラント国防軍側も、宇宙軍に比べれば、地上軍は精強だ。ゲルググやネモ・ヴィステージも、ジェネレーターを
サーベルに斬られたり突かれたりして擱座したり、脚を破壊されて転がったり、さながら歩兵同士の白兵戦のような光景が、
文字通り10倍のスケールで展開されている。
だが、プラント国防軍側には決定的な要素が欠如していた。機体同士の連携である。これは、ZAFT軍組織時代の悪弊もあるが、
それよりも、ゲリラの枠を出るような集団との本格的なMS戦を経験していないことが主たる原因だった。
地上圏の国家再々編が終了してからすでに3年以上が経過していた。平時の感覚では僅かなものだが、
戦時の感覚ならば永遠に等しい時間だ。
ゲルググ・ハウントが正面から斬りかかる。Ωインフィニティが軽い動きでそれをかわす。外見重そうなゲルググ・ハウントが、
くるりと向きを変え、脇腹の高圧縮ビーム・フルオートリボルバーを射撃する。Ωインフィニティの大腿部を撃ち抜く。
ネモ・ヴィステージにΩインフィニティが踊りかかる。それをアンチビームシールドで受け止める。
シールドに仕込まれた短銃身ビーム砲が射撃される。Ωインフィニティは反射的にか飛び退き、後ろに下がる。
その背後に迫っていた別のネモ・ヴィステージに後ろから刺突され、擱座する。
ランチャーストライカーのゲルググ・イェーガーがΩインフィニティをつるべ撃ちにする。その背後に、1機のΩインフィニティが回り込む。
ゲルググ・イェーガーが近接アラートに気付き振り返る、その動作が終わるより速く、ビームコーティングサーベルで胴を薙ぐ。
返す刀で、ウィングマンのもう1機を側面から両断する。機関砲座がデタラメに射撃する。ゲルググやネモ・ヴィステージも破壊されるが、
Ωインフィニティも少なからず大破する。姿を露呈した機関砲座がランチャーストライカーに撃ち抜かれる。爆発と共に砲塔が宙に舞う。
「こっちのペースに入ってきたか……」
シンが、自身ですでに5を数える機体を斬り伏せながら、そう呟く。
その時。
ドンドンドンドンドンドンッ
多数のビーム兵器の、文字通りの乱射が、地上を襲った。
「っ……」
土煙が舞い上がり、視界が遮られる。
「くそ、こんなタイミングで出てきやがったか……」
シンは憎々しそうに吐き捨て、その姿を見上げる。
ZGMF-220D、Δフリーダム。
ドラグーンこそ搭載していないものの、背中についた補助翼を広げた姿は、まさにストライクフリーダムそのものだった。
本来火力支援用の機体に位置付けられるΔフリーダムは、高度の理を利用して、ジオン機に対しスコールのような射撃を、かけようとしていた。
その次の刹那、Δフリーダムの背部スラスターが次々と爆発を起こし、墜落する。十字の翼のついた小型の飛行機のようなものが、
Δフリーダムの周りをうろついては、小口径のビーム銃を放っていた。
オプティマイズド・ガンバレルストライカー。ガンバレルストライカーパックのガンバレル部分を見直し、操作性と、使用者補助、
また大気圏内での使用を考慮した補助翼の取り付けと自動重力補正を行ったものである。
ドラグーンに対する絶対の優越性は、核融合エンジンを搭載するゲルググシリーズ(または、ネモ・ヴィステージ)を
母機とすることによる、分離稼働時間の超長時間化。
「コニール、無事か!?」
「心配されるまでもなく!」
シンがインパルスの首を振って周囲を確認しつつ、通信機に向かって訊ねると、その傍らに降り立つように、コニール機が現れた。
「レイ、やったな!」
シンが言うと、レイからは意外な返事が返ってきた。
「いや、今のは俺じゃない」
「え?」
シンは、間抜けな声を出してしまっていた。
少なくとも今、ガンバレルストライカーを装備した機体は2機しかいない。レイではないとするなら、
ざっと見渡しただけで30機はいたΔフリーダムを、ものの数分でほぼ沈黙 させたのは…………
「なんでだろう、あなた達、すごく許せない」
翼もがれ転げるΔフリーダムの姿を見つめ、その内容とは裏腹にただただプレーンな表情で、
クレハはガンバレルを操作しつつ、そう呟いた。