――プリベンター本部――
「うぃーーす」
コーラサワーが出勤してきた。
「おはよう、コーラサワー」
サリィとプリベンターの面々があいさつ(シーリンとグラハムは非番)を返しながら中に入ってくるコーラサワーを見ると、彼の顔の右側から下半身に向かってタイヤの跡が縦横無尽についている。
「おい、どうしたんだよ?」
とデュオが問うと
「いや、昨日の夜、例の焼き鳥屋で一杯やって帰ろうとしたら、途中で人類革新重工のセルゲイ課長と会ってな。珍しくあの銀髪女がいなかったから、話と酒が進んでよ。それから家にかえろうと歩き始めたまでは覚えているんだが、今朝目覚めてみたらこの状態だったってわけだ。しかし、俺も不覚をとったぜ。酒に足をとられて道端に寝転ぶなんざ」
「その服貸しなさい、洗うから。それにしても、よくここまでこれたわね」
「まあ、俺は模擬戦2000回無敗のAEUの元エース、パトリック=コーラサワーだからな」
サリィが半ば呆れ、半ば感心した感じで言うと、相変わらずの科白を吐く。
向こうの世界でも、コックピットが光るという最大の絶望フラグすらものともせず、見事に粉々にへし折ったのだから、たかが10tダンプや車満載のカーキャリアが体の上を通過するくらい朝飯前だろう。
他のプリベンターの面々も、彼の丈夫さに半ば感心しながら2人のやりとりを聞いていた。
* * *
シャワーを浴び、代わりの服を着て事務所に戻ってくると、せんべいや珍味が多く置かれていた。
「いやにダンボールが多いじゃないか。例の俺のダンボールか?」
「ちがうわよ。この前、山里の村の不発弾処理したでしょ? あのときのお爺様とお婆様がこられて、お礼にって置いてかれたのよ。私の好きなな草加煎餅もあるし、五飛やヒルデはサラダ煎餅を美味しそうにに食べてるでしょ。私たちの好みを心得られてくれてたのね」
コーラサワーはあの老夫婦に会わなかったことを神に感謝した。
そう、例のギャラクティカ・マグナムで人間ロケットにされ、装備ももたず宇宙旅行までしてしまったあのことが脳裏に浮かんだのだ。
「あれ?アラスカ野は?」
「ああ、例のお爺様に五飛が人間ボール爆弾投げを教えたら、お爺様ったら喜んじゃって。何回もジョシュアをボールにして的に当てて遊んでたらさすがの彼も参っちゃって、今隣室のベッドで手当て受けてるわ。あなたと会えなかったのをとても残念がってたわよ」
「やばかった……もし俺がなってたら、本当にまた病院送りにされてたな」
サリィの言葉に肝を冷やしたコーラサワーであったが、ふと首筋に冷たいものが当っているのを感じた。
横目で見ると、五飛が太い針のようなものを当てている。
「な、なんじゃそりゃあぁ!!」
「中国針だ。技をを教えてもらったお礼にと、御仁から頂いたのだ。御仁の話では、ある暗殺術に用いるのだそうだ」
「わ、悪い冗談やめろよな。五飛」
「お前が暴走した時の抑止力にはなる。まあ、お前ならせいぜい1日動けなくなる程度か」
「冗談じゃねぇ。そんなもん危なくてしょうがない。すぐ除けてくれよ。五飛」
「そう思うのなら、これからは暴走行為は慎むのだな」
そう言って五飛は極太中国針をしまった。
しかし、コーラサワーは1日たてばすっかり忘れて、いつものペースに戻るだろう。
そのとき、なにが飛んでくるのかは後の楽しみに。
あなかしこ。あなかしこ。