00-W_土曜日氏_04

Last-modified: 2008-09-08 (月) 17:08:47
 

「うぉーらあああ! スペシャル・アターック!」
「……いちいち叫ばんと何もできんのか、あいつは」
「とりあえず、ほっときましょ。一応やることはやってるみたいだから」

 

 プリベンターのお仕事は言わば『世界の監視』である。
 紛争・抗争の火種になりそうな事件が起こる前にそれを処理する、もしくは事件が起こった後に対処するのがその具体的な内容だ。
 もっとも、先の『マリーメイアの乱』でかなり遅れを取ってしまったのを見てもわかるように、まだまだプリベンターそのものの力は小さく、弱い。
 本格的にその力と価値が認められるのは、もっともっと後世のことになるだろう。

 

「てやあああ、スペシャル・スマーッシュ!」
「心の底からうるさいな」
「音声、切っとく?」

 

 プリベンターのリーダーは世界政府議事堂に一室を構えるレディ・アンで、その下で実際に行動に当たるのはプリベンター・ウォーターことサリィ・ポォと、元ガンダムパイロットの張五飛である。
 以前はルクレツィア・ノインとゼクス・マーキスが所属していたのだが、マリーメイアの乱の直後に脱退、火星テラフォーミングのために宇宙に飛び立ってしまった。

 

「ほりゃああああ、スペシャル・クリティカル・クラーッシュ!」
「うっとおしいが音声は繋いでおけ。手綱を離すとあいつ、何するかわからん」
「了解。確かにね」

 

 今実動部隊が何をしているかというと、シベリアの奥地に残った軍事施設の解体である。
 すでに廃棄され無人となっているが、遺棄された武器類、残存した軍事機能を完全に破壊しなければならない。
 サリィと五飛、そして新たにメンバーとなったパトリック・コーラサワーの三人は、施設に残された作業用MSを使ってそれを行っているのだが、始まってからこっち、ずっとコーラサワーが叫びっぱなしで、サリィと五飛はもううんざりしっぱなしなのだった。

 

「はっはっはぁー! てーんで歯ごたえねぇなあ、ああん?」
「アホかあいつは。ただ基地を壊すのに歯ごたえもクソもあるか」
「……もう少し建造物の解体が終わったら、爆薬を仕掛けて破壊するわ。それまで辛抱するしかないようね」
「ついでだ、あいつも吹っ飛ばしてやれ」
「うーん……ちょっと考えちゃうわね」

 

 施設は小規模の基地といったおもむきで、MSハンガーもあった。
 おそらく、戦争中はここでリーオーなり何なりが整備されていたのであろう。

 

「俺は! スペシャルで! 模擬戦で! 二千回で! エース様の! パトリック・コーラふんがくっく」
「舌を噛んだな、今」
「本当に正規の軍事教練を受けたのかしらね、彼」
「二千回無敗というのが本当なら、受けたんだろうな」
「まぁ、見てたらMSの操縦っぷりはなかなかのものだけど……負けた人間はヘコむわね、あれ」

 

 サリィは溜め息をついた。
 コーラサワーと出会ってからいったい何度目の溜め息なのか。
 もちろん、サリィはそんなのを数えていないが、間違いなく三十回はくだらないであろう。

 

          *          *          *

 

「うはは! わはは! てめぇコンチクショーッ! 潰れろや! 壊れろやー!」
「性格に問題があるというレベルじゃあないな」
「……今後、私とあなたの二人だけで彼をコントロールしなけりゃならないのよ。覚悟しなさいよ」
「その件なんだが」
「うん?」
「俺たち二人だけが世界平和のための犠牲になることはない。あと何人かプリベンターに引き込んでバランスを取ったほうがいい」
「……五飛、あなた」
「俺には心当たりがある」

 

 サリィは五飛の言葉に頷いた。
 五飛が心当たりがあるという者たち、名前を言わずとも、サリィにもそれが誰だかわかる。

 

「そうね……だけど、彼らにもそれぞれの生活があるわよ」
「わかっている。とりあえず、一番暇そうなヤツから声をかけて巻き込む」
「暇そうなヤツ、ねぇ……」

 

 五飛の言う『引き込むべき奴ら』、それはもちろん残りのガンダムパイロットたちのことである。
 トロワ・バートンはサーカスに戻り、各地を巡業中。
 カトル・ラバーバ・ウィナーはウィナー家の財力を使って、また自らも陣頭に立って世界復興に尽力中。
 デュオ・マックスウェルはヒルデ・シュバイカーと共にジャンク屋を開き、それなりに商売中。
 ヒイロ・ユイは……

 

「……いるわね一名。プータローが」
「ヒイロだな」
「だけど、彼は実質行方不明よ? それに、協力してくれるかもわからない」
「だが、他の連中を無理矢理引き込むよりはしがらみが無かろう」
「うーん、だけど、ねぇ……」
「他に何か問題があるのか?」

 

 サリィは作業の手をとめ、コーラサワーの操るMSの方を見た。
 そこには、派手に動きまくり、壁に空手チョップ、柱にドロップキックを仕掛けるバカが一匹。

 

「アイツと話が合うと思う? 下手をすると、檻の中に蛇が二匹ってことになるわよ」
「……それは、たぶん大丈夫だろう」
「そう?」
「ヒイロもあんな馬鹿と真正面からやりあう愚はわかっている……と、思う」
「思う、ねぇ……」

 

「わっははははっ! スペシャルで! 模擬戦! 二千回ー!」

 

 サリィは溜め息をついた。
 三十何回目かの、溜め息を。

 
 

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