パトリック・コーラサワー。
元AEUのエースパイロットで模擬戦二千回無敗という記録を誇る。
ちなみに、これはギネスブックに申請したものの条件等に不明な点が多々あるとして却下されており、幻のレコードとなっている。
AEUの新型MSイナクトのお披露目で、空から降ってきた謎のMSに挑みかかるも返り撃ちのフルボッコ、試作型としてフルチューンされたイナクトをオシャカにしてしまい、そのまま軍をクビに。
後、統合された世界政府の下で秘密裏に平和維持活動を行う組織「プリベンター」にスカウトされ入隊。
コードネームは“プリベンター・バカ”、ちなみに本人はこれを認知していない。
初っ端の任務はそれなりの成果をあげるも、人員を次々に強化するプリベンターの方針に反抗、抗議の意味を込めてお百度壁当たりを行っているうちに、手違いで金属製の壁に激突し、全身擦過傷と打撲で緊急入院、今に至る。
性格はつとめて自信家かつ短気であり、向こう見ず。
他者となかなかうちとけないなど、依怙地な面もある。
その一方で実戦を否定し模擬戦に重きを置くなど、内弁慶な傾向も見られる。
その模擬戦で卓越した成績を築き上げたように、MS操縦技術はかなり高いものを持っている。
が、手のわからない相手に力技でむやみに突っ込むなど、臨機応変の事態処理能力にはいささか疑問の余地が残る。
現在28歳、独身、結婚歴なし、恋愛歴不明。
両親兄弟親族等のデータは明らかではないが、一説によるとフランスの山奥で農家をやっているとの噂あり。
なお、別の世界にもう一人同じ人物が存在しているとの未確認情報が一部でまことしやかに流れているが、これについては今後調査が必要であろう。
* * *
「俺はァ スペシャルでェ もぎィせェェん にィせェェんかァァァい まけなァしの お、とこっ♪」
パトリック・コーラサワーは暇だった。とにかくとことん暇だった。
空の雲の数をかぞえるのにもいいかげん飽きたのか、今度はお得意のフレーズに自作のメロディをつけて歌ったりなんかし始めている。
「ちょォォォうゥ えェェェェす なんだァァァぜ、えええいっ、とくらァ♪」
ベッドの上に立ち(もちろんパジャマ姿である)、点滴バッグを吊るすパイプをマイクに見立てて歌う彼の姿は、どう贔屓目に見てもちょっと頭のネジが緩んだ人であり、とてもとてもAEUの元エースには見えない。
しかも、自作のメロディがどこか演歌調なのもかなりのマイナス要素である。
別に演歌調が悪いわけではない、歌詞とのマッチングが悪いのに、演歌調を選んだ彼が悪い。
「ガァァァんダムゥ フゥらッグゥ ティええレンン よォってこィィ まとめェてかたづけてェ スゥペシャあルでェェェ」
北○三郎に土下座で謝ってほしいような歌いっぷりであるが、もちろんどこがダメだとかを考えるコーラサワーではない。
彼は天然なのだ、とことんまで。
「……なんか歌ってますよ、トロワ」
「プリベンター・バカの名に恥じないな、ある意味期待に応えてくれる男と言えるかもしれん」
そんなコーラサワーを病室の扉の隙間からのぞくのは、お見舞いに来たカトルとトロワの二人である。
不○家のケーキを差し入れの品として持ってきたのだが、いざ部屋に入ろうとしてノブを回したらこの始末、どう声をかけるべきか、はたまた入っていいものかわからずに、こうしてのぞき見しているというわけだ。
「しかし、あいつには常識とか羞恥心とかいう言葉がないのか」
「秋葉原でアニメの曲に合わせて踊るコスプレイヤー集団も真っ青ですね」
「あっちは見て笑えるが、こっちは笑えん」
「いや、笑えますよ。苦笑ですけど」
「俺はァ スペシャルでェェ もぎィィせェェェエん にィィィせェェんかァァァ、いいいっ♪」
歌う病人パトリック・コーラサワーの社会復帰はまだまだ遠い――
【あとがき】
中日なのでコンニチワ。それでは放送日までサヨウナラ。