ビリー・カタギリは天才。
これは、マゴウカタナキ事実である。
ミカンの皮を燃料にして動くエコドライブ「ミカンエンジン」を開発し、さらにはそれを積んだMS(ミカンスーツ)まで自前で作ってしまうのだから、もう天才と言うっきゃない。
例えセンスがちょっと微妙であろうとも何程のことがあろうか。
優れた才能の前に、いささかのセンスの欠乏など、砂の一粒レベルのマイナス点でしかないのだ。
多分。
「しかし、ようやく完成か」
「えらく時間がかかったもんだな」
「まあしょうがないですよ、何しろ博士一人でやっているわけですから」
「しかもアレだしな、ずーっと我慢弱い男にまとわりつかれての仕事だからな」
「今日も行ってるそうだ、研究所に」
「……最早それが仕事だな」
プリベンターの本部は、今日は弾んでいた。
そう、とうとう新型MS(ミカンスーツ)の完成が、ようやく近づいたのであった。
プリベンターのメンバーが使用していたMS(ミカンスーツ)、ネーブルバレンシアは、アザディスタンでのアリー・アル・サーシェスとの戦闘で、ボロボロになってしまった。
強大な敵に抗する力を持つ必要性に迫られたプリベンターは、ビリー・カタギリにそれぞれの専用機の製作を依頼し、そしてようやく長い開発と調整の期間が、今終わろうとしているところだった。
新型は外見とネーミングセンスに少し注文をつけたくなる出来だが、まあそれは十分に我慢の許容範囲であるからして、メンバーに文句は無かった。
と言うか、ほぼ無償で戦力を提供してくれるのだから、ありがたい以上のナニモノでもないわけで。
「だが、またガンダムに乗ることになるとはなあ」
「ガンダムじゃないけどな、ガンダムじゃ」
「ああ、確かに」
「それでいい。ナタクは、ガンダムは役目を終えた。だから、こだわる必要もないはずだ」
ガンダムというMS(これはモビルスーツ)に、ヒイロ・ユイをはじめ、ガンダムパイロットたちは愛着を持っていた。
今、ガンダムはもうこの世に無い。
張五飛が語った通り、彼らの愛機はその役目を終え、永遠の眠りについたのだ。
今更その名前を引っ張り出しても、それぞれの相棒への冒涜にしかならないだろう。
新たな剣には、新たな名前と新たな役割を。
それでいいはずだった。
「イヤッホー、とうとうシークヮサーが出来あがるわけだな!」
で、もちろんこの男、パトリック・コーラサワーもはしゃいでいた。
「お、ちゃんと発音出来てるじゃないか」
「当たり前だぜ! 夫婦水入らずで特訓したからな、発音の!」
「……何やってんだか」
新型機の名称は、パトリック・コーラサワー機が『シークヮサー』。
AEU出身のコーラサワーに合うように、イナクトのデータが使われている。
近遠両面に対応出来る、万能型と言えるMS(ミカンスーツ)である。
我慢弱い武士ことグラハム・エーカー機が『カラタチ』。
ユニオン時代からグラハムの嗜好を知り尽くしているだけに、グラハムがぞっこん惚れ込む程の出来栄えになっている。
近接戦闘に特化してあり、集団戦よりもタイマン勝負に向いている機体と言えるだろう。
アラスカ野ことジョシュア・エドワーズ機は『紅鮭』。
ヘタレ根性丸出し、ではない、後方からのサポートを役割として考えられた機体である。
両腕に装備されたシールド、そして狙撃型の強化トリモチガンが標準装備となっている。
ヒイロ・ユイ機は『タンゼロ』。
剥かれたミカンの皮のような四枚羽根が特徴で、スピードに長け、長距離を駆けての先制、一撃離脱をスタイルとするMS(ミカンスーツ)である。
近距離戦も十分に対応可能で、トータルバランスで言えば最も優れているかもしれない。
デュオ・マックスウェル機は『マンダリン』。
瞬間的な機動性が特徴であり、さらには電波妨害装置により、隠密性も高い機体である。
特殊装甲の『オレンジクローク』で防御力もあり、後方撹乱、単独潜入に向いていると言える。
張五飛機は『バンペイユ』。
カラタチ以上に接近戦を重視されたMS(ミカンスーツ)で、風貌もどことなく猛々しい龍(と、ミカン)を思わせる。
ちなみに、漢字で書けば『晩白柚』となる。
カトル・ラバーバ・ウィナー機は『シトロン』。
高い防御力と索敵能力を持ち、言わば指揮官機のような趣きになっている。
サリィ・ポォの下でサブリーダー的な役割を務めるカトルには相応しいMS(ミカンスーツ)であろう。
トロワ・バートン機は『タンジェリン』。
これは完全に中~遠距離専用機で、複数のトリモチガン、粘着ミサイル、捕獲ネットを装備しており、多数を相手にする時に相当の力を発揮することが出来る仕上がりとなっている。
「これで群がる敵どもをギッタンギッタンになぎ倒していけるぜ!」
「ギッタンギッタンになぎ倒されなきゃいいけどな」
「前に立ちふさがる馬鹿どもを、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ」
「言っとくけど、あくまで俺達のMS(ミカンスーツ)は相手を取り押さえる為のものだからな? 破壊する為のものじゃないぞ」
「つまんねーこと言うんだな、みつあみおさげ」
「プリベンターを何だと思ってんだよ、お前」
そう、プリベンターは隠密同心的な組織とは言えど、相手を斬ってはいお終い、が出来ない。
裏に潜む無法の者どもを白日の下に叩き出し、法の裁きを受けさせるのが彼らの仕事なのだ。
まあ、現状のミカンエンジンの出力では、どう足掻いてもバスターライフル等の重火器は積めやしないのだが。
「さて完成と決まれば、あとはあのヒョロヒョロ赤鬼をぶち倒すだけだ」
「まだ出てきてないだろ」
「そのうち出てくる」
「……まあ、そうかもしれんが」
コーラサワーが言うところのヒョロヒョロ赤鬼、つまりソンナコト・アルケーは、アリー・アル・サーシェスの乗機である。
分離球体式武器のハッサクを操り、アザディスタンではプリベンターを壊滅寸前にまで追い込んだ強敵だ。
「結局、カタギリ博士の研究所からデータを盗んだってことになるんですよね」
「それ以外の可能性がないからな」
アリーがソンナコト・アルケーを持つに至った経緯は、未だ闇の中。
だが、ミカンエンジンを積んでいる以上、ビリー・カタギリの研究所のPCをハッキングしたとしか考えられない。
「奴一人の仕業なのか、それとも」
「黒幕がいるのか……」
プリベンターの現場リーダーであるサリィ・ポォは、黒幕がいる説に現在傾いている。
そして、それはガンダムパイロット達も同様である。
アリーに援助している裏のスポンサーがいる、と考えた方が自然だからだ。
「まあ、奴をとっ捕まえなきゃ始まらないわけだ」
「ふん、いずれ首根っこを押さえ、芋づる式に関係を洗っていってやる」
プリベンターに敗北は許されない。
負けはすなわち、闇の勢力に対する手段を表の世界が失うということである。
統一政府の、人類の平和を守るためには、必ず勝ち続けなければいけないのだ。
「まー見てろって、このスペシャルなエース様、パトリック・コーラサワーがまた奴に勝ってみせるからよ!」
「野球殺法は、もう通じんと思うが」
「なぁに、ならば今度はサッカー戦法だ」
「普通に戦えないのかよ、お前は」
アザディスタンでは、コーラサワーのバッティング攻撃で逆転一発、アリーを退けた。
だがアリーも戦闘にかけてはプロ中のプロだけに、同じ轍を踏む可能性は低い。
パワーアップしたMS(ミカンスーツ)で、プリベンター一丸となってアリーとソンナコト・アルケーを退治しなければならない。
「そう言えば、カタギリ博士が言ってたぞ。シークヮサーだけスペアパーツを多めに作ってある、って」
「どーいう意味だそりゃ」
「決まってるだろ、一番よく壊すからだよ、間違いなく」
「何だと―!? ナメやがって、あのポニテ博士ー!」
「正しい判断ですね、きっと」
「ぼっちゃんまでそんなこと言うのかよ!」
「破損第一号は、賭けをしなくても明白だな」
「なんじゃーそりゃあ!」
新型の完成を控え、意気の上がるプリベンターなのであった。
プリベンターとパトリック・コーラサワーの旅は続く―――
【あとがき】
コンバンハ。
規制巻き込まれが怖いですサヨウナラ。