00-W_土曜日氏_20

Last-modified: 2008-09-20 (土) 20:52:12
 

「お前ら、【皇帝の人生哲学】って知ってるか?」
「まーた何を言い出すんだか、このすっとこどっこい」

 

 プリベンターは暇だった。
 そして、組織が暇ということはすなわち所属する人間も暇ということ。
 ここ数日、なーんにもすることがないガンダムパイロットとコーラサワーたちなのである。

 

「大昔の偉人が残した哲学だ。ナンバー1よりナンバー2ってな」
「何だそれ?」
「無理にトップに立つより、二番手以下の立場で己の本領を発揮せよ、ってことだ」
「うわあ、物凄く胡散臭い理屈ですね」
「トップに立てない人間の言い訳だな、正直」
「皇帝と言うわりにヘタレな内容だ」

 

 容赦のないガンダムパイロットたちのツッコミだが、ぶっちゃけた話、彼らの意見は正しい。
 なるほど、確かにナンバー2以下の立場でこそ、才能と実力をフルに使える人間はいるだろう。
 だがこの哲学、裏を返せば安易な逃げ道哲学に他ならない。
 トップに立てなかったときの責任回避、保険の哲学というわけだ。

 

「で? それがどうしたっていうんだ?」
「だから、俺もそういう人間だってこった。ナンバー1よりナンバー2!」
「お前、それって負け組だってことを認めてるようなもんだぞ?」
「ああ、出番がないって悲しいですね……明らかにキャラと違うと思いますよ、その発言」
「イヤッホーとかなんじゃこりゃーとかやっているうちに、どんどん差をつけられていってるからな」

 

 思い返せばダブルオー第一話で華々しく登場したコーラサワーさん28歳独身だが、まともにMSに銃を撃たせたのは本当にしょっぱなのお披露目会の的相手だけ。
 その後空から降ってきたエクシアに因縁つけて格闘戦やってフルボッコ、
 この前の二度目の登場ではなんと一発の弾も一回の斬撃もないまま退場してしまったわけで、エクシアといい勝負をした乙女座センチメンタルや、軍人として本領発揮しまくりのロシアのアライグマ、いや穴熊、いやいや荒熊に比べると、もう悲しいくらいにアワレな現状と言わざるをえない。
 特に今回は何かオペ子1(巨乳)は偉そうなこと言っといてパニクるはオペ子2(ガキ)は録音とのフラグ立ててるわ、アル中予報士は無駄に過去を思い出してるわ、アザディスタンはなにかゴタゴタしてるわ経済特区の学生は昼ドラやってるわ、何より状況の説明が多すぎて無駄に時間喰ってるわ……

 

 ちょっと待てよ、墜落だけ描写してその後はガン無視ってどういうことよ?
 せめて数秒でも顔だけでも一言だけでも出せるじゃんこんな展開ならさあ!
 だいたい前回だって純粋真っ直ぐ王女と刹那の電波合戦だったわけで、ああもうとにかくコーラサワーにちょっとでもいいから触れてやってくれよスタッフさんよ!
 端役じゃないだろ、仮にもAEUのエースパイロットなんだろ?
 公式ページのAEUのキャラ紹介、未だにコーラサワーだけじゃないか、つまりAEUで一番のメインのふんがくっく

 

 ……失礼、少し興奮したようだ。
 忘れてもらえればありがたい。

 

 まあ、そんな感じで本編に欠片も出てこないコーラサワーは、どうやら心がちょっと弱ってしまったようで。
 いつもの勢いを見せず、どこか口調も元気がなかったり。

 

「トップに立って活躍したってよ、裏返せばやられるフラグに直結するだろうが。ならば出番なくても生き残る方がよ……」
「うわあ、これは重傷ですよ」
「ああ、出番だけでなく、唯一の売りである『無駄に自信満々』な部分すら喪失してしまっている」 

 

 憐れむガンダムパイロットたちだが、ぶっちゃけ態度だけである。
 過去のコーラサワーの言行を見返せば、彼らが寛大になれるはずもない。

 

「ちょっとした鬱病じゃないのか、これ」
「だとしたら、まだマトモな精神構造をしていたんですね」
「ピザ喰って屁こいて風呂入って寝たら元に戻らあ」

 

 十歳以上年下の連中からここまでボロクソに言われるコーラサワー28歳の、何と言う悲しさか。
 おそらくダブルオー本編でも部下からカゲでこそこそ悪口言われてるに違いない。
 逆に慕われまくっているという大逆転描写もあるかもしれないが、
 正直スペシャルヒャッホーな28歳を尊敬する部下ばかりならAEUの軍隊は終わっていると言わざるを得ない。

 

「これはこれでうっとうしいな」
「ああ、無駄にうるさいのも腹が立つが、変に理屈こねて殻に閉じこもるの見るのはもっと腹が立つ」
「……よし、俺に任せろ」

 

 ここで胸をドンと叩いて名乗りをあげたのは、陽気な死神ことデュオ・マックスウェルだった。

 

「こういう時はショック療法が一番だぜ」
「ふむ、そこに至る全然根拠がないようにも思えるが、とりあえず反対する理由もないので賛同しよう」
「でもショック療法って言っても、具体的にどうするんです?」
「巨大ハンマーで頭をぶん殴る」

 

 デュオ・マックスウェル、さらりと傷害予告。
 もっとも、正気を取り戻させるために思い切り頭部をぶっ叩くというのは、古くは手○治○も使っていたアニメやマンガにおける伝統的なショック療法ではある。

 

「誰が叩くんだ? 俺は正直、嫌だぞ」
「僕もですよ」
「俺たちも鬼じゃない。仏心が働いて逆に中途半端になるかもしれん」
「それか、力を入れすぎて本当にショッキングな出来事も起こりうる」

 

 口ぐちに辞退するガンダムパイロットたち。
 歴戦の勇士にしてはいささか臆病とも言えるが、まぁハンマーで生身の人をぶん殴るのはそれこそ勝手が違うというものなのだろう。
 そんなことするの、それこそマンガやアニメじゃなければジェイソン級の殺人者だし、現実では。

 

「大丈夫だ、それも候補者がいる」
「誰だ?」
「ヒルデさ」
「彼女が?」
「ああ、あいつは今日二日目なんだ」
「……下世話だぞ、デュオ」

 

 男と違い、女は月に一度お客さんがくる。
 男にゃまったくわからないし個人にも差があるそうだが、いわゆる「重たい」人は相当ツライらしい。
 で、それでカリカリしたりイライラしたり、不機嫌になることが多いそうな。

 

「今のあいつは相当イラついてる。で、ストレス発散として一発殴らせればだな」
「なるほど、ヒルデはスッキリしてコーラサワーも元に戻るというわけか。一石二鳥だな」

 

 かなり乱暴な理屈だが、まあそこはそれ、出番がないから膏薬でも理屈でもどこにでも貼っ付けなきゃ話が作れないのであって。

 

 そりゃ画面の中でコーラサワーが大活躍したらそれを受けてこっちだって少しはマシな扱いにするが、何しろ出番が全くなく、下手をすれば中の人は管制官やら乙女座の部下やらの方でスタジオに呼ばれることが多くなるんじゃないかって、まったく今後の展開のためか何か知らんが取ってつけたような過去話で強引に布石打つくらいならコーラのことを少しでも語れと

 

 ……失礼、また少し興奮してしまったようだ。
 忘れてもらえればありがたい。

 

 まぁそんな感じでヒルデ・シュバイカーにコーラサワーをぶん殴らせることに決まった次第である。

 

「今から俺が携帯でヒルデを呼びだす。コーラサワーが悪口言ったとか何とかでな」
「穴から水がこぼれてもまったく気にしない見事な作戦ですね」
「よし、じゃあ電話するぞ……」

 

 携帯を取り出すと、ピポパとデュオはヒルデに電話をかけた。

 

「……ようヒルデか、あ、んん、怒るなって話を聞けって、いや、わかってるから、わかってるからさ」

 

 なだめの言葉を口にするデュオ。
 おそらく、電話の向こうではヒルデがキーキー言ってるのであろう。

 

「いや、話ってのはな、実はコーラの野郎がお前のことを脳みその軽いバカ女だって言っ、て、ありゃ?」
「どうした、デュオ」
「いや、切られちまった」
「失敗ですか」
「うーん、ちょっと無理があったか。って、何だこの地響き?」

 

 五人はそれぞれに周囲を見回した。
 地震が起こっているという風ではないのに、何故が地面が揺れ、轟くような音が耳に届いてきている。

 

「おい、この展開はアレじゃないのか」
「ああ、地鳴りがしたら誰かが突っ込んでくる。この話のお約束だな」

 

 変に納得しあい、頷くガンダムパイロット五人。
 と、その直後に凄まじい音がしてドアが蹴破られ、ひとつの黒い影が部屋の中に。

 

「だぁぁぁあれがのぉぉうみぃそぉぉの、かぁぁるいぶぁぁかうぉんなぁあですうぅてぇぇぇ?」
「ひいいっ!」

 

 飛び込んできたヒルデの鬼の形相を目の当たりにして、デュオを除くガンダムパイロットたち、金縛り。
 まさに不動明王の如し、ヒルデ・シュバイカーつきのもの二日目。

 

「ほれヒルデ、ドカチンハンマーだ。構わんから思いっきりコーラを折檻してやれ」

 

 デュオ、ヒルデにハンマーをプレゼント。

 

「うおおおおお、バカってえええ、アンタが言えた口かあああああ!」

 

 ヒルデ、一本足打法でコーラの側頭部をフルスイング。
 某野村監督が見ていたら、そのバットスピードを褒めたたえたであろう。

 

「……飛んだ、な」
「飛びました、ね」
「バックスクリーンに飛び込む大ホームランだな」

 
 

 コーラサワーは飛んだ。
 壁を突き破り、空中を舞った。
 この日、コーラサワーは星になった。
 西の空に輝くスペシャル一番星に――

 

 

【あとがき】
 パトリック・コーラサワーの運命や如何に。
 ま、どうせ次回も登場しないでしょうから、また病院にでも戻ってもらいましょうかコンニチワ。
 ほんと、ネタキャラならネタキャラでいいからもう少し気にかけてやってほしいというか、荒いクマーもセンチメンタルジャーニーもそれぞれ舞台裏が語られているのに、どうしてコーラサワーは無視されているのかこれはつまり後でじっくり描くということなのかそれとも使い捨てなのかハッキリしろと言いた

 

 ……失礼、三度興奮してしまったようだ。
 忘れてもらえればありがたサヨウナラ。

 
 

 【前】 【戻る】 【次】