00-W_土曜日氏_41

Last-modified: 2008-12-07 (日) 07:54:32
 

 ~石川や 浜の真砂は 尽きるとも 世に悪人の 種は尽きまじ~

 

 どれだけ世界が平和になろうとも、悪さをする人間は必ずいる。
 人が感情の生き物である限り、それは決して絶えることはない。

 

『こちら、現場の絹江=クロスロードです。私は今、事件の起こったユニオンデパートに来ています』

 

 業界最大手、ユニオングループが経営するデパート。
 赤ちゃんのオムツから桐のタンスまで何から何まで揃うという評判で、不況の波もなんのその、売上華やかなりし百貨店である。
 で、今日はまたそこで事件が起こったわけで。

 

『犯人グループが立て篭もってから既に一時間が経過しています。警察も包囲を完了していますが、今のところ有効な手立ては……』

 

 そいで、事件が起こるところに彼らの姿もあるわけで。

 

『現在、デパートの中にはまだ取り残されたお客さんが……キャッ! な、何ですか! マ、マイクを返して下さい!』

 

 彼ら、というのはもう諸兄もわかってることと思うが、隠密同心ドブさらい、天下の裏警察こと。

 

『あーあー、テステス、マイクのテスト中。ごほん、映ってるな? おいカメラ! ちゃんと撮れよ!』
「返して下さい! これはマスコミに対する冒涜でえええ!」
『いいから姉ちゃん、ちょっとだけだって……あー、俺はパトリック=コーラサワー! 今から華麗に事件を解決すっからしっかり見とけよ!』

 

 はい、プリベンターなのだった。

 

          *          *          *

 

「さぁて、どうする?」
「とりあえず、相手がどう動くかがわからない以上は迂闊に手だしは出来ないわね」
「しかし、時間をかけすぎれば具合が悪くなる一方だ」
「いつものように速攻で行くしかないということだな」
「MS(ミカンスーツ)はどうします?」
「今日は出番はないだろう。デパートを壊してしまう」
「私のグラハムスペシャルで一気に決着を」
「やめときなさいよ隊長、あんた、限度ってもん知らないから」

 

 悪人に占拠されたデパートを見やりつつ、プリベンターは作戦会議。
 意見を戦わせる彼らだったが、我らがコーラさんは蚊帳の外。
 後方5メートルの位置で頭に大きなタンコブ作って寝そべってます。
 テレビジャックした次の瞬間、五飛にトンファーの一撃を後頭部に喰らったので。

 

「それで、中に残された人はどれくらいいるんだ?」
「二人」
「……たった? 休日の昼過ぎに?」

 

 サリィに即答で返されて、デュオは信じられないという表情になる。
 無理もあるまい、彼も言った通り、休みの日のこの時間に襲撃されて、それで人質がたったの二人なんてあるわけないからだ。

 

「それ、本当?」
「本当らしいな」
「何だヒイロ、知ってたのか?」
「警察が話しているのを聞いた。どうやら、犯人は結構迂闊な奴らしい」

 

 ヒイロが説明するところ、
 最初はそれこそ数えるのが嫌になるくらい人質がいたのだが、何とデパートの裏口が完全開放状態になっており、我先にと客が逃げ出した結果、そうなってしまったとのこと。
 慌てて犯人が裏口を封鎖した時には、すでに遅しで二人しかデパートには残ってなかったという次第。

 

「アホだ、犯人は絶対アホだ」
「何か、力技でも解決しそうですね」
「よし、ならヒイロ、トロワ、つきあってくれ。とっとと決めてくる」
「やめなさい五飛……もしかしたら他にもいるかもしれないでしょ、中に客が」

 

 ガンダムパイロットにアホ認定されてしまったデパート襲撃犯。
 仕方ないっちゃ仕方ないわけだが。

 

「犯人の目星はついてるのか?」
「さぁ。今のところ名乗ってないわね」
「恥ずかしくて名乗れないんじゃないの」
「ありうるな」

 

 さてさて、デパート襲撃などという大掛かりなことをやっておきながら、あっさり交渉手段の人質を逃がしてしまうとは、いったいどんなバカかと言うと。

 
 

「はっはっはァ! いいかお前ら、片っ端から金目のモン漁れよォ! この俺、PMCのゲイリー=ビアッジが許すからよぉ!」

 
 

 こんなバカなのだった。

 

          *          *          *

 

 ゲイリー=ビアッジことアリー=アル=サーシェス。
 争い大好きな彼は、世界が平和になったことで現在財布の中身が日照り中。
 プリベンターを逆恨みしてちょっかいをかけたこともあったが、デパートを部下と一緒に襲って強盗行為とは、はてさてやることが派手なのやらしみったれてるのやら。

 

「先立つモンがなきゃやってけねぇ。構うこたねえ、マル○イのハムもゴデ○バのチョコも全部かっさらっちまえ!」

 

 アリーの号令に、「アイサー!」と返礼して各フロアをかけずり回る部下たち。
 その顔は実にどれも喜々としており、今まで彼らが置かれていた困窮の度合いを知ることが出来る。

 

「お頭ぁ! ガ、ガンダムのプラモもいいですか!」
「おう構わねぇぞ! ツヴァイをたらふく盗っていけ! 種でも髭でも関係ねぇ、自由だ!」
「お、お、お頭! モーニ○グ娘。の新譜いいっすか!」
「今どき娘か、お前も好きだねぇ……おうさ、もちろんだとも!」
「頭ぁ! あ、フィギュアいいですかフィギュア! ああ、このカレ○たんの制服モデルハァハァ」
「はっはっは! いいともさ! アヤ○ミでもハ○ヒでもセ○バーでも持ってけ持ってけ!」
「P○3! P○3はどうです? 頭!」
「D○でもP○Pでもゲ○ムギアでも何でもオーケーだ! 遠慮すんな!」

 

 部下ども、宝石も貴金属も衣服も、食料品すらも後回しにしてトイフロアを荒らしまくり。
 とりあえずアリーには子分を選べと言いたいが、この親玉あってこの家来という見方も出来なくはない。
 つか、ホントに戦争がまたしたいのかこのおっちゃんは。

 

          *          *          *

 

「なんだありゃ?あいつら何やってるんだ」
「どうしたの……?」
「いや、どうも思ってたより事態がヘンな方向に向かってるらしい」

 

 さて、ヒイロ情報ではデパートに取り残されたお客は二人。
 逃げ遅れるなんてどんなマヌケだ、と言うことなかれ。
 事情ってもんがあるんである、人には。

 

「さぁて、逃げだすにはあのトイフロアを突っ切るしかないわけだし、こりゃ身動きとれんなあ」
「……ごめんね」
「ん?」
「私が、モタモタしてたから……」
「ばぁか、フェルトのせいじゃねーよ。コイツが悪いんだコイツが」
『アイタアイタ! ロックオン、ロックオン、ボーリョクヨクナイ、ヨクナイ!』
「しーっ! 静かにしろハロ、気付かれたらどうする」

 

 ロックオン=ストラトスとフェルト=グレイス、そしてハロ。
 二人と言うが、正確には二人と一匹(?)、これが逃げ遅れた面子だった。
 トイフロアで大暴れするアリー一味を物陰で伺いつつ、脱出の機会を図っている二人と一匹だが、そもそも目端が効いて荒事の嗅覚にも優れているロックオンが何故こんなところでまごまごしているかと言うと、それは側にいるフェルトとハロのせい。
 客が我先にと裏口に向かう中、フェルトの腕の中からハロが転げ落ちてしまい、それをフェルトが必死に探し、そのフェルトをロックオンが探し……とやってるうちにタイムオーバーになってしまったのだ。

 

「しかし、巡り合わせが悪いとはこのことだな。買出しに来てこんな目に遭うとは」

 

 ロックオンとフェルトは、《マイスター運送》というところに勤めている。
 文字通り運送会社なわけだが、『安心即日配達』をモットーにしたなかなかの優良会社である。
 以前、プリベンターにグラハム入りダンボールを届けたのはここで、その時は刹那=F=セイエイとアレルヤ=パプティズムが配送係として登場したことを覚えている方もおられよう。
 で、公休の二人は社長のスメラギ=李=ノリエガに言われてラーメンやらお菓子やらの買出しを頼まれ、こうしてユニオンデパートに来たところを騒ぎに出くわしてしまったというわけだ。

 

「……ロックオン」
「あー、そんな顔すんな。俺が何とかしてやるから」

 

 心配そうなフェルトを、ロックオンは優しく励ます。
 何となく、妹を元気づける兄貴といった風情がある。

 

「フェルトにもしものことがあったら、俺はスメラギさんとクリスにぶっ殺されちまう」

 

 ロックオンの言葉に、クスリと笑うフェルト。
 だが、それでいてどこか寂しそうなのは、さてさて女心というものか。

 

「どうすっかな、刹那たちは多分仕事で本社にいねーだろうしなあ」

 

 銃があったら狙撃のひとつやふたつでもかましてやるのに、といささか物騒なことを口走るロックオン。
 実は彼、マイスター運送に就職する前はバイアスロンの一流選手だったりする。
 射撃狙撃はお手のものなのだ。
 一方のフェルトはマイスター運送の先代重役の娘で、14という若い身空で両親と同じ職に就いた。
 パソコンが得意で、主に経理を担当している。
 労働基準法はどうなってんねん、というツッコミは隕石と一緒に虚空に流してもらえれば幸いである。

 

「警察……」
「ああ、シャクだが警察頼みだな。はぁ、当分隠れてるしかねーなこりゃ」
『シャクダ、シャクダー』
「しょうがねえだろ、ハロ……」

 

 ハロを抱いたフェルトの背中を押すように、ロックオンは自販機コーナーの隅へと身を隠した。

 

「さて、バレなきゃいいがな」

 

 少し心配するロックオンだったが、まぁ心配ナシ。
 何せ犯人のアリー一家がアレですし、それに何より来てますから。
 警察なんかよりものゴッツいのが来てますから、デパートの表に。

 

          *          *          *

 

「よっしゃ、突撃だな! カッコイイとこ見せてやんぜ! ヒャッホオォォォォウ!」
「また早いな、復活が」

 

 警察よりゴッツい組織プリベンター、現在五飛が提案した作戦を検討中。
 毎度毎度の手早い仕事だが、正味の話、相手がバカだと当たりがついた時点で綿密なプログラムもクソもないわけで。
 何せガンダムパイロット、生身で戦ってもんんすんごぉんいぃいですから。
 特に五飛、ヒイロ、トロワの三人はこの歳にして体術、格闘技、行動力がハンパではないし。

 

「おらおら行くぜ行くぜ! ほれ、とっととゴーサインを出してくれよ! 俺がスペシャルな技で強盗犯なんぞギッタンギッタンにしてやんよ!」
「アホ言え、一人で何が出来る」
「へっ、コーラサワー家に代々伝わる大往生流殺体術の真髄を見せてやんぜ!」
「隕石にぶつかる奴が真髄もクソもないもんだ」
「と言うか、そろそろこの人の胡散臭い家伝もネタが切れてきましたね」

 

 デュオとカトル、容赦なくツッコミ。
 プリベンターの良心ことカトルも、だんだん毒されつつある。
 いや、それとも地が出始めているだけなのかもしれないが。

 

「それで? どうすんだ五飛!」

 

 ちなみに、他人を勝手につけたあだ名で呼ぶことが多いコーラさんですが、何故か五飛だけは徹底して名前で呼んでます。
 もしかしたら心の奥底に何らかの苦手意識があるのかもしれません。

 

「そうだな。例の作戦でいくか」
「おう! 例の作戦て何だ? このスペシャル様が単騎で突撃して華麗に敵を打ち倒す作戦か?」
「ああ、単騎で突撃だ」

 

 はい、このパターン何度目でしょうか。
 しかしそろそろ学習しなさいコーラサワー。

 

「はっはっは! 任せとけ、俺の右手が光って唸るぜ!」
「そうか、唸ってこい」
「よっしゃ、じゃあ行ってくるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるうわわあわわわっわわわわわわわわわわわわわ」

 
【張家究極奥儀・炭酸核弾頭】
 この技の要諦は素早く相手の背後に回り込み、首根っこを捕まえて投げることにある。
 正確に目標に命中させるには技術と腕力が必要で、習得するためには何年も修行が必要とされている。
 なお、まったくの修行なしで使いこなせる猛者も存在するが、それが張家の子孫であるかどうかは定かではない。
 

「何ですか、この民○書房みたいな解説」
「カトル、マニアックね」
「知ってるサリィさんもなかなかですね」

 

 知的交流を図るサリィとカトル。
 そんなのほほんとした二人を他所に、コーラサワーは飛ぶ。
 一陣の風となって、宙をひたすらに飛ぶ。
 そして―――

 

「どわはっはーっ!」
「な、何だぁ!?」

 

 コーラサワー、見事にトイフロアのある階の外壁に命中。
 次いでその勢いのまま、アリー一味のど真ん中に着弾。

 

「何だ! 何がどうしたってんだあ!」

 

 まさか人間が飛んでこようたあアリーも思わなかったから、これにはしこたま驚いた。
 まぁどれだけ傭兵として経験値が高くても、コンクリ突き破って人間砲弾が飛びこんでこようとは思えないわけで。
 前回ジョシュア弾とコーラ弾を食らったとはいえ、それはプリベンターが目前にいてのもの。
 今度はまったくのソフトバ○ク、いや予想外の攻撃であるからして。

 

「お頭ぁ! 敵襲だ!」
「あああ、ボクのカ○ンたんがあああ」

 

 親玉がそんなんだから、当然部下も大混乱。
 おいコラほんとにお前らPMCでバリバリやったんか?

 

「落ち着けぇ! 敵は一人だ! しかも床に上半身が埋まってる! 焦らずに武器を取れ!」
「りょ、了解!」

 

 不意をつかれたとは言え、こうしてすぐに動揺を押さえて指示を繰り出す辺りは、なるほど一流の戦争屋の雰囲気はある。
 あくまで雰囲気だけだが。

 

「おらよ! サツかプリベンターのクソバカか知らねえが、覚悟しやがれ!」

 

 アリーとその部下が懐から取り出した武器、それは靴下だった。
 かかとからつま先までが一面黒ずんでおり、数メートル先でも異臭が届く究極のそれ。
 アリーとその部下は、これを駆使して洗浄、もとい戦場を駆け抜けてきたのだ。
 果たして何人の血を吸った、ではない、何日汗を吸ったであろうか。

 

「おい、こいつを掘り起こして鼻ヅラに押し当ててやれ!」

 

 トイフロアの床に犬神家しているコーラさんを、アリーの部下が引き剥がしにかかる。
 あわや、コーラさん命のピンチ―――と、まさにその時。

 

「ぐわっ!」
「ふぎゃ!」
「どへっ!」

 

 アリーの部下たちが、次々に顔を押さえてうずくまる。
 まるで、何か固いものをぶつけられたかのように。

 

「今度は何だ! ……っとォ!」

 

 眼前に飛来したモノを、アリーは靴下で咄嗟に叩き落とす。

 

「つぶて?……いや、コンクリの破片か!」

 

 そう、それは小石くらいの大きさに割れたコンクリートの欠片だった。
 それを、アリーたちの死角から誰かが打ち出しているのだ。

 

「ほはっ!」
「いてえ!」
「あんぎらす!」

 

 床を転がってつぶてを回避するアリーだったが、部下たちはそうはいかなかった。
 あっと言う間に、トイフロアの床には犬神コーラさんを中心に顔面負傷した男どもが死屍累々(死んでないけど)。

 

「くそ、プリベンターか!? とにかくヤワな相手じゃねーな!」

 

 棚が倒れて散らばったフィギュアの中を、匍匐前進するアリー。
 美少女フィギュアをかきわけながらジリジリ進む彼の姿は、はっきり言って変態にしか見えない。
 で、アリーとその部下をこんな目に合わせたのは誰かと言うと。

 

「……ロックオン=ストラトス、狙い撃ってやったぜ」
『オミゴト! オミゴト! ロックオン、オミゴト!』
「褒めるなよハロ、照れるじゃねーか」

 

 もちろんロックオンなのだった。
 銃を持てば百発百中の彼だが、実は指弾もお手の者。
 撃てりゃ何でもいいのか、という気もするが、まぁこれは人それぞれの特性というやつであろう。

 

「お、ここだここだ、って何だ何だ」

 

 と、ここでようやくプリベンター本隊のご到着。
 呑気な話だが、五飛が強引に強行したんだから無理もない話ではある。
 証拠に、サリィが苦虫を噛み潰した表情になっている。

 

「全滅してるな」
「まさか、コーラミサイルの一撃で沈んだんでしょうか?」
「いくら何でもコイツにそんだけの威力があるわけない」

 

 ヒドイ言い様だが、そ の 通 り です。

 

「すまないが、あんたらは警察の人間か?」
「誰だ!」

 

 声のした方を、ガンダムパイロット全員で向き、構えを取る。
 グラハムが少し遅れたが、それは床に散乱しているガンダムのプラモに一瞬目を奪われたからで、ジョシュアに至っては美少女フィギュアに見とれてて三拍子程動作が遅れている。

 

「俺はロックオン。ロックオン=ストラトス、一般人だ。そしてこの女の子がフェルト、この丸っこいのが……」
『ハロ、ハロ、ハロ』
「……だ」

 

 ガンダムパイロットは構えを解いた。
 完全に気を許したわけではないが、少なくとも、目の前の人のよさそうなアンちゃんと、自分たちよりも年下にしか思えない少女からは、敵意も怪しさも感じなかったからだ。
 まあ、床をコロコロ転がりながら電子声で喋る球体ロボは怪しいっちゃ怪しかったが。

 

「何だお前たちは。一般人というなら、どうしてここにいる」

 

 ずい、と一歩前に出て、五飛が問いただす。
 不遜な態度にも見えるが、こういう時はこれくらい高圧的な方が場に沿ってはいる。

 

「逃げ遅れたんだ」
「じゃあ、デパートの中に取り残された二人というのは……」
「ああ、多分俺たちのことだろうな」

 

 ロックオンとガンダムパイロットの問答をしっかりと聞きつつ、サリィは床に倒れて呻いている男たちに目を走らせた。
 何故這いつくばっているのか、を観察していく。
 彼女も嘆いたり呆れたりばかりしているわけではない。
 伊達じゃないのだ、プリベンターの現場指揮官は。

 

「ねえ貴方、ロックオンさんと言ったかしら?」
「ええ」
「この床で寝そべってる連中、デパート襲撃犯?」
「だと思う。いや、確実にそうだな。何せここのオモチャを漁ってたし」

 

 サリィは男たちからその周囲にへと視線の幅を広げた。
 至る所にフィギュアやらプラモやらのオモチャが転がっている。

 

「……こんなもののために、こいつらはデパートを襲ったっていうの?」
「さあ? ただ、こいつらは下っ端だ」
「どういうこと?」
「あんたらが到着する前に、一人逃げた」
「逃げた?」
「ああ、命令を出してたし、こいつらの親玉なのは間違いないだろう。何かチンピラ臭い口調だったな」

 

 チンピラ、という言葉を聞いて、サリィを始めプリベンター一同が頭に思い浮かべる姿がひとつある。
 そしてそれは、次のロックオンとフェルトの台詞で確信に変わる。

 

「あー、何か他にも言ってたな、そういえば。何だっけ、フェルト」
「……くつした」

 

 靴下から連想される者、それは一人しかいない。

 

「く、靴下!?」
「……奴だ」
「ああ、奴だな」
「アリー=アル=サーシェス、ですね」

 

 ヒイロたちはその名前を口に出して、一拍置いてから、盛大に溜め息をひとつついた。
 レポーター誘拐事件の時に関わって以来、『相手にしたくないリスト』のトップに位置している人間だからだ。
 それがまさか、こんなところで再びすれ違おうとは。

 

「で? そいつはどこへ逃げた?」
「わからん。俺の一撃をかわして床を奥へと転がっていったからな……」
「一撃……か。フン、指弾だな」
「ありゃ、御明察」

 

 拳法や格闘技に精通している五飛である。
 フロアに乗り込んできて、床に転がっている男たちを一瞥した時に、ある程度推測は立てていたのだ。
 彼もやはり、伊達ではない。

 

「一般人にしては、見事な腕前だな。まだコイツラが起き上がらんところを見ると、かなり正確に急所を狙い当てたものと見える」
「いやいや、下手の横好きってやつでね」
「嘘をつけ」

 

 何やら言葉に毒が籠っている五飛だが、もとから彼はロックオンのような飄々としていつつ底が見えない人物は好まない。
 ちょっと毛色は異なるが、彼の宿敵だったトレーズ=クシュリナーダもそんな感じではあった。

 

「どやっさあああああああああああああああああっ!」

 

 と、ここでコーラサワー復活。
 さすがに飛ばされた距離が距離なので、復活にいささか時間がかかってしまったのは仕方ない。

 

「くっそおお五飛のヤツ、まぁた俺をこんな目に、って敵! 敵はどこだ! 敵へぐぶわし」

 

 コーラサワー、ロックオンが飛ばしたつぶてをモロに眉間に喰らってまた昏倒。
 短い復帰であった。

 

「あー、こいつ、俺らの仲間だから」
「……そりゃ失礼しました」

 

 デュオのツッコミを受け、悶絶しているコーラさんにペコリと一礼するロックオンなのだった。

 

          *          *          *

 

 こうして、ゲイリー=ビアッジことアリー=アル=サーシェスによる『ユニオンデパート襲撃事件』は解決した。
 コーラサワー捨て身の攻撃と、とある一市民の協力によって彼の部下は一網打尽にされ、以後、彼は世界的なお尋ね者となる。

 

「くっそおおおおお、アグリッサ、アジトに置きっぱなしにしなけりゃよかったぜぇぇ! へ、へ、へーっくしっ!」

 

 どこをどう転がり落ちたか、下水道を伝って逃げるアリー。
 何とも哀れと言うかバカと言うかマヌケと言うか。
 これでも一流の傭兵なんですよ奥さん、信じてあげて下さい。

 

「冷てえし臭えし、くっそぉおお、これも全部プリベンターが悪いんだ、コンチクショウが!」

 

 コーラさんとは別の意味で不屈の精神を持つ彼は、プリベンターと、そしてマイスター運送の面々と再々度宿命のぶつかり合いをすることになるのだが。

 

「へーっくしーっ!」

 

 それはまた、別のお話。

 
 

 プリベンターとパトリック=コーラサワーの心の旅は続く―――

 

 

【あとがき】
 コーラさんまた生き残りましたコンバンハ。
 二人の漢、ロックオンとダリルに哀悼の意を表しつつサヨウナラ。

 
 

 【前】 【戻る】 【次】