「やれやれ、聞き込みが空振りとはな」
「骨折り損のくたびれもうけでしたね」
「クラゲに骨はないけどな」
「あんまり上手くないですね、その台詞」
プリベンターは某海水浴場に来ていた。
細かい経緯は前回述べた通りなので省くが、まあ簡単に言うと海辺にバケモンが現れて困っているので助けてくんろ、という声に応えるために出動してきたのだ。
争いの火種を消すのも、人外の怪物を退治するのも、共に正義の味方のお仕事也。
ぶっちゃけ、隠密同心どぶさらいと言っても結局宮仕えなわけで、行けと言われりゃ行くしかないのが辛いところではある。
「お疲れ様」
「そっちはどうだった?」
「全然ダメね、知ってる情報以外には何も」
まず閑散としてしまった海水浴場を視察した後、プリベンターはメンバーを二手に分けて地域住民に聞き込み周りを行った。
もしかしたら中央に届いていない現地のナマの隠れ情報があるかも、という目算だったのだが、これが見事外れた勘定に。
ちなみに二手とはデュオとカトル組とサリィ&ヒルデ組で、我らがコーラサワーさんは当然ながら現地本部で待機。
現地本部と言っても旅館の一室なわけだが、それでも最上階で一番お高いお部屋ではある。
まぁ旅館そのものが木造三階建てで客室が二十程度の小ぢんまりとしたもんだけども、それはさておき。
「しかし本当にいるのかね、その巨大カツオノエボシってのは」
「話だけ聞くとにわかには信じられませんけどね」
「だけども目撃者が何百人もいるんだから……全員が嘘ついてるってことはないでしょ」
「いや、俺以前そんな小説読んだことあるぜ。島の住人全員がフカシこいて探偵をだまくらかすやつ」
「それは作り事でしょ」
「でも、事実は小説より奇なりって言うしな」
肩をすくめて見せるデュオ。
そんな彼を見やりつつ、サリィも同じように肩をすくめる。
もっとも、行為こそは同じでもその意味は違うが。
デュオはコーラサワーとの会話の例を挙げずともわかるように、「まぜっかえし」な一面を持っている。
時と場合によってはそれが軽妙で洒脱に見えるが、逆に冷めた茶々入れ小僧に見えることもある。
しかし集団で行動する時にはこの手のツッコミ人間が必要不可欠なもの事実、
場を和ませるためにも、また皮肉めいたツッコミは視点と思考の切り替えを誘発する効果もある。
サリィとしても、そんなデュオの資質をガンダムパイロットの腕と同じくらいに評価はしているのだ。
ま、コーラサワー番としての役割により期待しているのも確かとはいえ。
「ねえデュオ、聞いてよ」
「何だよ」
「岩場で釣りしてるおじさんがいたから話を聞いたんだけどね、その人、ほとんどロクに答えてくれないばかりか」
「ばかりか?」
「ジロジロ私たちをいやらしい目で見てきてさ……ホント、腹がたっちゃった」
「へへえ、そりゃあ物好きな人間もいたもんだな」
「ねぇデュオ、私、フライパン持ってきてるんだけど」
「ああー、そりゃーいけないオジサンだねえ、言語道断だあ、同じ男として許せないなボカぁ!」
最も、ヒルデ相手にゃどうにもその本質を発揮しきれないデュオではあるのだった。
仲良きことは美しきかな
一寸の虫にも五分の魂
ハンドルを右にインド人を右に
鍵盤のババーが途中で消える
ストソートファイターⅡ
メマルチプライ
現代のテクノロジーを終結
ムエタイ戦死 待魂 確かみてみろ
ああもうやめとこ。
「仕方ないわね、宿に戻りましょ」
「ヒイロたちから何か連絡があったかもしれませんね」
「ないだろ、あったら間違いなくサリィに直接繋いでくる」
「……ごもっとも」
額に滲む汗を指で払い、デュオたちはジワジワと忙しなく鳴く蝉の声をBGMに一路お宿へと足を向けた。
あ、一応ここはヤーパンです、エキゾティックジャパーンですのであしからず。
* * *
「だけどさ、せめてそれなりに大きなホテルとかに現地本部をこさえてほしかったんだけどな」
「仕方ないわよ、そんなホテルの類はここいらには無いもの」
「いや、でももうちょっとマシなのがあると思う」
四人は現地本部(がある旅館)に着いた。
荷物を置きに一度来たので、正確には戻ってきたというべきか。
玄関の前でホウキでゴミを掃いていた初老の使用人の「どーもお帰りなさいましぇだー」というヘンチクリンな訛りの挨拶を受け、フロアの中へと入っていく。
成る程、デュオがボヤくだけあって、壁に痛みはあるは床はギシギシ鳴るわであまり良い物件とは言い難い。
「彼、おとなしくしてるかしらね」
「今頃クーラーをガンガン効かせて昼寝でもしてるかもしれないぜ」
「だとしたらどうします? デュオ」
「さーてね……ヒルデならどうする?」
「フライパンを顔面に叩きつけて起こす」
「うーん、過激でおまけにスカッとするな、そりゃ」
物騒なことをのたまいつつ階段を上っていく四人。
で、当のコーラサワーさんはと言えば、実際クーラーをガンガンに効かせてはいた。
が、のうのうと昼寝などはしていなかった。
じゃあ何をしてたかと言うと。
「イーヤッフー! 海と言えばカニだなカニ! まるでグラマー姉ちゃんの尻のようにプリプリーッとした身がたまんねぇ!」
食べていた。
カニを、全力で。
* * *
さて一方、海パン一丁で海に突撃かました元MSWADの二人は。
「どこにいる、出て来い巨大電気クラゲ! この阿修羅の化身ことグラハム=エーカーに恐れをなしたかぁ!」
「隊長! り、陸が遠くなってガボッ、な、波も激しくなってバゴガボッ」
「よぉし! さらに沖に進んで探索を続けるぞ! 続けジョシュア、お前もアラスカのエースと呼ばれた男なら矜持を見せろ!」
「ちょ、おま、これ以上は命の危険がぼがんぼご」
「男一匹! 命を賭けずして大事が成せるか!」
泳いでいた。
岸から離れた沖合を、全力で。
プリベンターとパトリック=コーラサワーの海物語確率変動は続く―――
【あとがき】
夏休み五日も貰えたよコンバンハ。
でも去年の夏休みは初日に緊急事態発生で呼びもどされたけどねああそう言えば一昨年は大晦日に年越しソバ食ってる時に電話がサヨウナラ。