「と、言うわけでだ」
「五飛、お前までその台詞か」
「この始め方、そろそろ改善しませんか?」
プリベンターは今日も暇だった。
昨日も一昨日も暇だった。
一週間前も暇だった。
なに、仕事がないのを嘆くことはない。
プリベンターの暇は世界の平和の証明だから。
ああ、二期が始まったからにはそろそろこの有閑から抜け出したいのだが、何分このスレの主人公様の出番が皆目無さそうなのでどうしたものやら。
せめて二話で一言なりとも、いや顔出しくらいしてくれたら。
「イヤッホ―――――ウ! きなこ棒で当たりが出たぜー!」
うん、わかっちゃいるんだけどね。
雑誌にも何処にも情報のじょの字も来てない時点で、ご尊顔を拝するのが相当先になるだろうってことは。
◆ ◆ ◆
「これで当たりは六本目だ! 見たかスペシャルエース様の実力を!」
「なかなかやるなと言いたいところではあるが、とりあえず勝負はこれからだ」
「うううう、くそくそくそ、何で俺だけ一本も出ないんだよ」
パトリック・コーラサワーとグラハム・エーカー、そしてジョシュア・エドワーズが今何をしているのかと言うと、駄菓子屋で大量に買い込んだきなこ棒の当たりをどれだけ引けるか争っている真っ最中である。
きなこ棒とは、砂糖や水飴などを練り合わせて棒状にし、爪楊枝に刺してきなこをまぶした駄菓子のこと。
駄菓子屋というものが町中から消えていっている昨今、お目にかかったことのない少年少女も少なくないことであろう。
たいていはタッパーのような箱にたくさん入って売られており、一本あたりの値段も安い。
で、爪楊枝の先が赤くなっているものが当たりとなり、お店のおばちゃん(おじちゃん)にそれを差し出せば、新しいきなこ棒を一本貰えるという寸法である。
仮にもガンダムのSSなのに駄菓子の説明に文章を割くのはアレかとは思うが、こういうのはやはりきちんと言っておかないと尻の座り心地が悪いので。
別に行数稼ぎを狙っているつもりはまったくないのであしからず。
いやほんと。
「イヤッホウ! またまた引いたぜ! これで七本目だ!」
「こちらは二本連続だ、通算六本目、まだまだ負けたわけではない!」
「くそくそくそ、何で、何で俺だけボウズなんだー」
どこの路地裏で駄菓子屋を発見したのか知らないが、コーラサワーとグラハムがダンボール箱いっぱいのきなこ棒を買ってきたのが昨日のこと。
で、アラスカ野ことジョシュア君を巻き込んでラッキーマン選手権を始めた次第である。
まったく、何でも勝負ごとにしなければすまないコーラサワーとグラハムの人柄がよく表れていると言えようか。
巻き込まれるジョシュアもジョシュア、止めないガンダムパイロットもガンダムパイロットではあるが。
「どうしたアラスカ野? もうペースダウンか?」
「たかがきなこ棒五十本程度食べたくらいでグロッキー状態になるとは、情けないぞジョシュア・エドワーズ」
「うるさいわー! こうなったら意地だ、とことんやってやる! 背中から爪楊枝刺してやる!」
なお、今回は素顔のグラハム・エーカーである。
どうやらその日の気分でミスター・ブシドーになったりそうでなかったりするらしい。
変態さんの考えはよくわからん。
「五十本て……あいつらは頭もバカなら胃袋もバカか」
「どちらも底なし沼なんでしょうか」
「しかし、何も飲まずに食べられ続けるのは異常としか言い様がない」
「あれだけのきなこ棒も、よく手に入れられたな」
「駄菓子屋は困っただろう。子供でなく大人が大量に買っていったんだ、ある意味テロのようなものだな」
三人を遠巻きに見つつ、それぞれ感想を述べるガンダムパイロットたち。
まあ、きなこ棒で済んでるからまだいいとも言える。
いい歳こいて二次作品即売会に行き鑑賞用保存用布教用に三冊買い込んだり、目当てのミニフィギュア欲しさにガシャポンに硬貨を投入しまくったり、子供に勝る経済力にモノを言わせて発売日にトレカを箱ごと買い漁ったりするよりかは遥かにマシなのかもしれない。
多分。
あくまで多分。
「あれで勝ってもなんも価値がないと思うんだが」
「何でしょうね、どこまでビー玉を上手く転がせるかとか、そんな感じなんでしょうか」
「メンタリティが子供なんだな」
散々な言われ様である。
が、ぶっちゃけ真実。
29歳(推定)で軍人で世界情勢に興味がない、などというキャラクターは普通いない。
いるとしたら命令を冷徹にこなすだけの殺人マシーンとか、もしくは頭のネジが数本ぶっ飛んだサイコ野郎とかそんなんだろうと思うのだが、コーラサワーはどちらにも当てはまらない。
笑顔ではいないです、なんて言えるか? つうか言わすか?
つくづく得なキャラクターであると今更ながらに思わざるを得ないコーラサワーさんである。
一期よりさらに重苦しくなる二期において、序盤に彼の出番が無さそうなのも無理からんことなのかもしれない。
やれルイス苦痛やアレルヤ奪還やスメラギ復帰や、そんなドがつくシリアスな流れにどう放り込めと言うのか。
……と、そんなこと言ってると不意打ちがあるかもしれないが、まぁそれはそれで出番あるならいい。
「だがあれだけの量を食べれば胃袋だってもたないだろう」
「さあどうだか、とにかく体が頑丈な奴だからな」
「何となくですが、あのお二人には健啖家なイメージがありますね」
後の一人はそうじゃないのか、とはここは突っ込む必要はあるまい。
そしてその一人が誰なのかも。
「なあ、俺思ったんだけど」
「何だ、デュオ」
「あいつさ、もしかしたら生き残ってるんじゃなくて、その都度死んで次の瞬間蘇生してるんじゃないのか?」
「悪魔がくれた万物の霊薬で不死の肉体を手に入れた、とでも?」
バッ○ーノではない。
確かにあの世界に登場してもおかしくない性格のキャラだとは思うが、コーラサワー。
「新しい言葉が作れそうだな、鶴は千年亀は万年」
「コーラサワーは億年、か?」
「一億年と二千年後も生きてたら嫌ですね」
「化け物以外の何者でもないな」
褒めているのかけなしているのかどっちなのかよくわからないガンダムパイロットたち。
いや、ぶっちゃけ皮肉で褒めてません。
◆ ◆ ◆
「イイ――――――ヤホ―――――――! また引いたぜ! 十本目!」
「食べるペースの違いが当たりを引く回数の違いでないことを証明してみせよう、九本目!」
「ういいいい、まだ引けないいいいい」
とことん賑やかな三人。
うち一名は一期で早々に物語から脱落しているが、グラハムについてはおそらく今日ブシドーさんとして初お目見えすることになるだろう。
そして一番やかましいコーラサワーも、いずれ登場するであろう。
「甘いぜナルハム野郎、きなこ棒より甘いぜ! この勝負、スペシャルな俺の勝利はハナから決まってるんだよおお!」
「最初から決まっている勝負などない、下駄を履いて三回まわってワンと鳴くまでわからないと東洋のことわざにもある!」
「あああまた外れ、うえゲップ」
ガンダムパイロットたちは思った。
ブシドーの登場はさぞかし本人の意思に反しておもしろシーンになるに違いない。
で、コーラサワーも盛大に出オチをかましてくれるに違いない、と。
それこそ、数秒で退場とかカティ・マネキンにまたパンチ喰らうとか、階級が全然上がってないとか。
「もぐもぐ、模擬戦二千回不敗のコーラサワーだ、きなこ棒の百本や二百本、どうってことないぜ!」
「そろそろ本気でいかせてもらう、人呼んでグラハムスペシャル食い!」
「ウエップ、オップ、せ、せめて一本当たり引きたい」
さてさて、いつになるやらコーラサワーの二期スタートは。
少なくとも、きなこ棒の当たりをいくら引いても、出番は増えないのは確かなところである。
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心のきなこ棒は続く―――
【あとがき】
やっぱりアニメ誌や公式HPで扱われない以上は当面先でしょうなあ出番コンバンハ。
タイ○ニア……旋風編が出てからもう十五年以上ですかサヨウナラ。