00-W_土曜日氏_72

Last-modified: 2009-02-19 (木) 20:38:45
 

「と、言うわけでだ」
「またその台詞か」
「もうこのパターンから抜け出したいんですけど」

 

 プリベンターは今日も暇だった。
 昨日も一昨日も暇だった。
 一週間前も暇だった。
 二週間前も暇だった。
 なに、仕事がないのを嘆くことはない。
 プリベンターの暇は世界の平和の証明だから。
 ああ、この出だしを当分デフォにするしかないかなあ。
 ほれ、必○シリーズのオープニングナレーションのように。

 

 初っ端の恨みをはらそうと シリアス展開を消す
 いずれも人に知られて 仕掛けて仕損じばっかし
 人呼んでスペシャルエース ただしこの呼称
 AEU軍人名鑑には 載っていない

 

   ◆   ◆   ◆

 

「で、つまりは出番が無かったことを嘆きたいわけか」

 

 熱い緑茶をすすりつつ、デュオ・マックスウェルはパトリック・コーラサワーに尋ねた。
 ここ最近、このままずっと展開に流されて顔見せナシなのもそれはそれでおいしいのかもな、などと彼は本気で思い始めている。
 少なくとも、トレミー人間劇場やセルゲイ一家物語にコーラサワーを出したって何ら意味がないであろうから。

 

「いや、そうじゃない」
「お? 意外だな」
「だってあの展開で俺が出て行ってもな」

 

 ほう、と感心したようにデュオは緑茶によって湿った息を吐きだした。
 殊勝なことに、あっちの世界での自分の立場というものを理解したのか、と考えたからだ。

 

「おいしくねーだろ、スペシャルな俺にはもっとドエーンとバエーンと派手な舞台こそが相応しいってもんだ!」
「ああ、そういうこと」

 

 ちょっとでもコーラサワーを見直した自分を、デュオは恥じた。
 雀百まで踊り忘れず、コーラ千まで性格変わらず。

 

「今は弓をぎりぎりっと引絞ってる状態だぜ。見てろ、来月辺りにボヨーンとキメてみせるからよ!」
「引絞り過ぎて弦が切れなきゃいいけどな」
「出たとしても、ドカーンと落とされるの間違いだろう」

 

 デュオに続いて五飛もツッコミを入れる。
 彼の手にも緑茶が入った湯呑みがあるが、ちなみに今日のお茶はレディ・アンが何処からか貰ってきたものである。
 多分式典に参加した時のお土産であろう。
 どんな式典じゃ、と思わないでいただければ幸いである。

 

「む、わかったぞ」
「? 何がだヒイロ」

 

 この場にいる全員がヒイロの声に反応して、そちらを向いた。
 常に淡々とした彼にして、この時は妙に口調が強く、ハッキリとしていたからだ。
 なお、ここにいるのはガンダムパイロットとコーラサワー、そしてヒルデ・シュバイカーの七人である。
 現場リーダーのサリィ・ポォはレディのお仕事の付添で外出中、「レディ・アンの新しいサポート役を云々」と告げてから出かけていったので、おそらくはシーリン・バフティヤールの後釜の件なのであろうと皆は推測している。
 グラハム・エーカーことミスター・ブシドー……ではない逆だ、ミスター・ブシドーことグラハム・エーカーは、ジョシュア・エドワーズをお供に天才蜜柑博士ビリー・カタギリのところへ出張。
 あっちの世界でスメラギさんにフラれたのを慰めに、ではなく、カタギリが新たに開発した蜜柑エンジンMkⅡのテストするために。
 カタギリが「頼み事があるんだけどねえ」と声をかけた瞬間にジョシュアの首に縄を付けて飛び出して行ったので、いやはやさすがは我慢弱い男の本領発揮といった感じである。
 連れていったジョシュアは多分シミュレーションの相手でもさせられるのであろう。
 言っておくが飛び出したのはプリベンター本部からであって、決して自販機の陰からではない。

 

「パトリック・コーラサワー」
「な、何だよちんちくりん」
「お前、自分の予想が外れたからそれを隠そうと焦っているな」
「うえっ!?」

 

 予想とは何か。
 ここは二週間程記憶を遡っていただきたい。
 そう、コーラサワーがいつ二期に登場するか、という賭けをやった回のことを。

 

「思い出したぞ」
「ああ、そう言えばあの時、確か三話と言っていたな」
「となると外れですね」

 

 賢明なる処刑、じゃない諸兄よ思い出されたであろうか?
 では今一度、あの時の会話を山○百恵、じゃないプレイバックしてみよう。

 

 

 「おいついでだ、本人直々に予想しろよ」
 「ぬ、ぬぬぬぬぬぬぬぬ」

 

  顔面真っ赤に染まるコーラサワー。
  数秒唸り、そして大きく口を開けて一言。

 

 「よ、いや三、三話だ!」
 「あ、ちょっと自信なくなってるなこいつ」

 

 

 はい、復習終了。

 

「おお、見事なまでに外れだ」
「来月辺りに活躍だーなんて、外しておいてよく言えたものだな」
「ぬ、くくくく」

 

 一滴の汗がコーラさんの頬を伝い、顎へと流れ落ちる。
 この手の予想は当たらぬのが相場だが、しかしあれだけ大声で宣言してしまった以上、格好は非常に悪い。
 一応伊達男である(はずの)コーラさんにとって、これは結構な屈辱である。

 

「い、いいんだよコンチクショー! 過ぎたことは過ぎたことだ! ぐだぐだ言ってんじゃねー!」
「あ、開き直った」
「素直に謝った方がいいと思うんですけどね」
「ああ、突っ張れば突っ張る程こういう場合はミジメになっていくのにな」

 

 ガンダムパイロットたちの言葉の槍がコーラサワーをぐさぐさと刺す。
 普段はあまり他人のツッコミを意に介さない彼だが、さすがに今回はちょっとばかり辛い様子である。

 

「だ、だからいいんだって! 今回はほれ、大佐のお姿がたっぷり拝めたしな!」

 

 大佐とはカティ・マネキンのこと。
 あっちの世界ではアロウズをあまり快く思っていない素振りがあり、またセルゲイ・スミルノフと連絡を取り合っているようで、今後の動向に要注目なキャラであろう。

 

「でもお前、その愛しの大佐の側にいないけどな」
「ワンセット扱いじゃなくっている」
「が―――――――――!」

 

 デュオ、容赦なし。
 ああ、やっぱり結局は「あっちの世界で出番がない」という話に戻っちゃうのだ。
 つーか、未だ音沙汰無しなアリーは「物語に重要なキャラだから意図的に隠している」としても、コーラサワーはどっちかと言うと「情報出す必要がないから出してない」だけなんじゃ、とも思うわけだがはてさて。
 まあいずれ色んな意味で華々しい再デビューを期待したいもの。
 出てきた瞬間にマネキン大佐にオラオラ喰らったり、いきなりティエリアにバビョーンと落とされたり、アリーかブシドーに「邪魔」と蹴っ飛ばされたりしても、それはそれでパトリック・コーラサワーというキャラクターである。
 視聴者から例えウザいと思われようが、逆にそれでこそコーラサワーなのだ。
 ギャグ担当だからどうした、話の流れをコミカルに変えずして何のコーラサワーか。
 出される料理が全て塩辛いなら、やはり欲しくなるではないか甘いものが。
 ブシドーやコーラサワーはそういう役割なのだそうなのだ。
 そーなのだ。

 

 多分。

 

   ◆   ◆   ◆

 

「皆、ただいま」
「あ、サリィさんが帰ってきたようですね」

 

 柄にもなく黄昏気味なコーラサワーを場の流れから放逐して、ガンダムパイロットたちは帰還したサリィ・ポォを迎えた。

 

「よ、決まったのかい? メガネの姉さんの後任ってのは」
「ええ、一応ね」
「どんな人なんです?」
「今から紹介するわ。……さあ、彼らがガンダムパイロットたちよ」

 

 サリィ・ポォの後ろからひょいと出てきたのは。

 
 

「こんにちはですぅ!」

 
 

 やたらと明るく、キャンキャンとした声の持ち主の。

 

「ミレイナ・ヴァスティ、14歳ですぅ! よろしくですぅ!」

 

 チョココロネのようなツインテールのですです少女だった。

 

「・・・・・・こう見えて彼女は特殊機械整備士のS級資格を持ってるのよ。他にも特殊通信技術士S級、情報処理技術士S級も」

 

 自分たちよりも明らかに若い、しかもやけに能天気そうな少女の登場に絶句したガンダムパイロットたち。
 そんな彼らを諭すように、サリィ・ポォは説明臭い台詞を口にした。
 声の調子がやや硬かったのは、このですです少女がレディ・アンの秘書に決まった経緯に何らかの裏があることを感じさせるものだった。
 ほれ、ミレイナの父のイアンさんは《マイスター運送》の重役ですしね。
 ま、その辺りはおいおい。

 

「プリベンターの皆さんのお手伝いが出来るなんて、感激でーすぅ!」

 

 やたらニコニコなミレイナ・ヴァスティを目の前に、不安を覚えるガンダムパイロットたち。

 

 ああ、またおかしな奴がやってきたなあ、と。

 

 なお、この時彼らの背後で「オデコ女がまた増えた」と発言してヒルデにフライパンアタック食らった人物が一名いるが、その鈍い殴打音は目の前の少女のキンキン声に塗りつぶされて彼らには聞こえなかった。

 
 

 プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は続くですぅ―――

 

 

【あとがき】
 秘書役はまあ、他に適当なキャラもいなかったので当面彼女でコンバンハ。
 まあまたいずれ交代するかもしれません・・・・・・しかし三ヶ月ルールはなくなったんでしょうかサヨウナラ。

 
 

 【前】 【戻る】 【次】