一月一日は何の日か。
愚問の極みであるが、それは元日、一年の最初の日である。
まったく、光陰矢の如しとはよく言ったもので、一年前のことがまるでつい先日のように思い出されることよ。
のう越後屋。
「もーいくつネ○ルはインドの首相でお正月ー♪」
で、この男もおっさんである。
丁度この目出度き日に、御歳34歳(推定)になるわけだが、まったくもって生まれた日が目出度いせいで性格まで目出度くなってしまったんじゃないかと疑いたくなるわけであるが。
いえいえ、お代官様程ではございません。
「おいお前ら! 今年は俺は帰省しないからな、ばっちり用意しとけよ!」
「用意って何を」
「おせち料理でしょう」
「いや、門松だな」
「アレだな、正月特番を録画しておくためのビデオテープだ」
ビデオテープ云々はトロワ・バートンの発言だが、しかしお前ビデオテープっていったい何時の時代の人間だ。
イッツア○ニーか、おい。
「違う! 一月一日は俺! このパトリック・コーラサワーの誕生日だ!」
はい、そういうわけで今回はちょっと番外編。
年末企画『コーラサワーの誕生日を事前に祝う会~美女・湯けむり・美味いもの・ポロリ・どれもないよスペシャル~』である。
ま、そういうことで。
◆ ◆ ◆
パトリック・コーラサワーである。
こんな姓をつけられた時点でキャラクターとしての行く末がどうなるかは大体わかるわけだが、まぁ今のところ本編においてちゃんとそれなりに美味しいポジションを得ているので、損か得かで言えば得の方に天秤が傾いていると言えようか。
そもそも考えてもみてほしい、いくら三国側のキャラの名前がお酒関係から取られているとはいえ、例えば『タロウ・ホットウメシュ』とか、『ケンタ・イモジョーチュー』とかいうキャラがシリアスに活躍するだろうか?
するかもしれんやんけそりゃヘンケン・ベッケナーじゃない偏見やろ、という意見もあるのは理解している。
が、それでも想像してみてもらいたい。
主人公と、そんな名前のキャラのバトルを。
「お前か!ケンタ・イモジョーチュー!」
刹那・F・セイエイは叫んだ。
この攻撃を、彼はよく知っている。
直線的だが、凄まじいまでの猛々しさ。
「捕まえたでこらー! えーかげん、今度ちゅう今度は落としたるさかいなー!」
「いくらその機体が強かろうとも、単調ではっ!」
敵のMSはダブルオーにも劣らないパワーと機動力を持っている。
刹那はダブルオーの力を信じてはいても、決して過信してはいない。
そして、敵の実力を正当に評価もしている。
スメラギ・李・ノリエガの作戦外での戦闘になってしまったが、ここでこの敵を落とすことは、後々の行動を楽にするだろう。
「今までのワイと思らおー間違いや!」
「何だとっ!?」
敵のMSから不意に多数の球体が放たれたのを、刹那は確認した。
鈍く銀色に輝くその球体は、まるで意思をそれぞれに持っているかのように、なめらかに宇宙空間を舞う。
「ビックリ兵器はアンタらだけの専売特許やないちゅーこっちゃ!」
「これは……!? 脳量子波の!」
「覚悟せぇ! 四方八方からのタコ殴りや! コマ切れにして南港に沈めたるさかいにな!」
「出来るものかお前に! ケンタ・イモジョーチュー!」
「そうや! やっとワイの名前を覚えたようやなあ!」
ケンタ・イモジョーチューの歓喜に近い雄叫びが、刹那の耳に届く。
もしこの宙域全体にGN粒子が飛散していたなら、おそらくそのエリア限界いっぱいまでに鳴り響いたことであろう。
「ここで決着をつける! トランザム!」
「おおう! ワイはパイロットや! プロパイロット・イモジョーチューやあ!」
……ね、文章にしたらよくわかる、名前って大事だねという一件でござい。
いや、すぐに覚えられる分得っちゃ得なんだけど。
やっぱり、シャア・アズナブルが『アヘアヘ・ウヒハー』だったり、ハマーン・カーンが『キンコン・カーン』だったり、フロスト兄弟が『オコノミヤキ兄弟』だったりしたらどうしても腹筋が緩んでしまうでしょ、ってこと。
コーラサワーという姓はかなりギリギリなラインなんですよ。
まあ我らが性人パトリックは、性格とか出番とか色々優遇(アレを優遇と言わずして何と言うか!)されているので、それらと名前のインパクトが混然一体となり、もはやイロモノやギャグの範疇を通り越した世界に到達しようとしているが。
ぶっちゃけた話、この御仁がいなかったらその尺の分、もっと重たい話になってたことは間違いないにスー○ー仁君人形ですわ。
「しかし、年内最後の放送は見事にハブられたな」
コーラサワーをはじめとした六人、すなわちコーラサワーとガンダムパイロットたちは、プリベンターの本部でテーブルを囲み、三時のお茶をしていた。
今日のお茶は経済特区ニホンのシズオカ産で、オヤツの蜜柑はワカヤマ産である。
カタギリ農園産ではないので、あしからず。
「何言ってんだよみつあみおさげ、アレはアレだ、パイレーツ・オブ・ザ・ボールだ」
「……何だそれ」
「お前知らねえのか? ボールを持っていないところで効果的に動いてだな」
「それ……オフ・ザ・ボールじゃないんですか?」
サッカーを知っている人なら、何度も聞いたことがあるだろう。
オフ・ザ・ボールとは、文字通りボールを足元に持っていない状態での動きを指す。
敵のマークを外してフリーになったり、逆に見せつけて囮になったりして、味方のチャンスを増やすわけだ。
なお、逆にボールに直接関わっている時はオン・ザ・ボールと言う。
「つ、つまりだな、画面には映ってねーけど、別のところで活躍してたんだよ!」
「あーあー、とうとうそういうことを言いだしちゃうか」
「ここのところ短くてもちゃんと出演してたんですけどね」
「ああ、ポニーテールの技術者や仮面の武士はいったいどこに消えたのかという雰囲気の中でな」
「だが実質、ほとんど物語の筋に絡んでいないぞ」
「相方のカティ・マネキン大佐の方はちゃんと絡んでいるんだがな」
ガンダムパイロット、容赦なし。
ああ、やはりこうでなくてはいけない、彼らの関係は。
十代の若者に三十代の中年予備軍がツッコマれる。
見よ、この微笑ましい職場、素晴らしきかな人間関係。
「うあああ、うるせー! あ、アレだ! きっとガ○ダムAか何かの外伝で俺の活躍が描かれるに3000点だ!」
「ギャグの四コマか?」
「違う! 俺のハードボイルドでシリアスで痺れるような活躍がだな!」
「……無茶なこと言ってますね、この人」
「うむ、オフ・ザ・ボール云々より、そもそもオン・ザ・ボール時の動きがなってないわけだが」
「ああ、またぎドリブルやったら自分の足に躓いてコケたりな」
「ヒールパスをしたのに前にボールが転がったり」
これまたキッツイお言葉。
いや、オン・ザ・ボール=画面に映ってる時の戦闘は頑張ってるよコーラさん。
マネキン大佐の作戦に従って足止めも陽動もちゃんとやってるし。
そりゃ最後はいっつも顔面張り飛ばされて撤収しちゃうわけだが。
その内、コーラ機だけフェイスパーツが「最新型だ、いいだろう!」てなことになるやもしれんて。
お、そうなると一応専用機扱いになりますな、こりゃ。
「あーもう! あーもう! いいんだよ俺がいいって言ってんだから! チキショー!」
「何だか我儘言ってる小学生のガキ大将みたいな台詞だな」
口から唾を飛ばし、十もナンボも年下の少年たちにガナるパトリック・コーラサワーさん。
いつだって同じ目線で口喧嘩、何て見事な対等ぶり。
世界に広がれ、平等の輪。
「とにかく一月一日は俺の誕生日なんだよ! 世界の記念日なんだよ! だから何かよこせよ!」
「うわあ、凄い恫喝ですよ」
「今日は目出度いお祭り日、さぁお菓子をよこせさもないと、って奴か」
「そこまで可愛げのあるものじゃないぞ」
「大体だな、年齢からいったらコイツが俺達にお年玉をくれるのが普通だろう」
フルボッコーラ。
もう少し威厳というものを感じさせることが出来れば、ここまで叩かれないであろうに。
まあそれはスライムが落とす宝箱にロトの剣を望むくらいに無いものねだりではあるが。
「そもそも誕生日なら愛しの大佐さんと一緒に過ごせよ」
「するに決まってるだろ! ちゃんと連絡を取って、ご飯食べんだよ! 一流のフランス料理店で!」
「ならそれで満足しておけ、二兎追う者は一兎というヤツだ」
「バカ言え! 貰える物は何でも貰う! 口に出すから要求ってんだ!」
「どこぞの国の外交方針みたいですね」
「つうわけだからよ、ちゃんと用意しとけよ! 俺のプレゼント! お前らから貰ったら大佐んとこに行くから!」
ジャイアンもびっくり、ミスター・マイペース。
実際ここまで自分勝手に生きることが出来たらさぞかし楽しかろう、と思うのだが、でも自分しか見えてないってことはそれに合わないものは全部不満の対象になるのかもなあ、とか考えたりして、ああやっぱり自分は自分のままでいいや、などと小市民的思考にブーメランしちゃうわけで。
俺はコーラサワーにはなれない。
ガンダーム!
「よしわかった、最高のモノを準備してやる。人類革新重工本社の筋の角にある中華料理屋の豚まんだ。あそこの美味いんだぞ」
デュオ・マックスウェルはポンと一つ手を打つと、仕方ねえなあという風に溜め息をついた。
ちなみにその角の中華料理屋の豚まん、一つ150円である。
うーん格安、さすがは倹約家である、デュオ。
「では、俺からは軌道エレベーターのフリーフォール挑戦券だ。リリーナに頼んでやる」
ヒイロ・ユイ、腕組みの姿勢を崩さぬまま、また表情を変えぬまま淡々とプレゼント予告。
起動EVのフリーフォール、すなわち最上階(という表現が正しいのか)からダイブ。
これはまさしく人類初、誰も貰ったことのないスバラシイ贈り物である。
初体験がおそらく最後の体験になるであろう、色んな意味で。
「ならば俺からはサーカスのライオンの一日特別世話係体験をプレゼントしようか」
サーカスでライオンとくれば、これはもちろんトロワ・バートンのプレゼント。
やや口の端が笑い気味になっているのは、ヒイロよりも冗談と皮肉がわかる性格だからだろう。
バラエティ番組なんかでよくこういった猛獣のお世話企画があるが、あれは正直危険です、ねえムツ○ロウさん。
「じゃ、じゃあ僕からは土地を少しだけ。さ、砂漠ですけど掘り返したら油田が出てくるかもしれません」
おお、カトル・ラバーバ・ウィナーはまだマシなプレゼントである。
いや、マシどころではない。
土地なんて贅沢極りないし、さらに油田が出るかもしれんなんて大盤振る舞い過ぎる。
まあ『出てくるかもしれない』ってことは『出てこないかもしれない』ってことでもあるが。
ついでに言っておけば、経営に敏いウィナー家が今の今まで放置してた、しかも現当主がタダでやってもいいってことは、すなわち出ないってことを言ってるようなもんだが。
「……よし、では俺からはだな」
五飛はすっ、と立ち上がると、コーラサワーの前に進み出た。
そして。
「ふんっ!」
「ぐおうっ!?」
気合いとともに右の拳をコーラサワーのどてっ腹に叩き込んだ。
さすがに不死身という異名を取っているとはいえ、至近からの急所への打撃、それも中国拳法の達人の一撃をくらってピンピンしていられる程に無敵ボディではない。
いくら耐久力が強くても、やはりキチンと喰らえばダメージは受けるのだ。
「あぐぐぐ、ぐへ」
コーラさん、昏倒。
泡を吹き、白目を剥いて真っ暗な世界へ一時レッツゴーて具合か。
「丸一日休養をくれてやる、こうやってな」
嗚呼、まさしく愛無限大。
ガンダムパイロットたちからここまで愛されてるコーラサワーさんなのだった。
一月一日、お正月。
共に祝おう目出度い日。
そうそれは、一年の始まりの日。
そして、パトリック・コーラサワーの誕生日。
プリベンターとパトリック・コーラサワーの心の旅は来年も続く―――
【あとがき】
今日は出番ナシでしたねコンバンハ。
そして銀キノコことリント少佐に合掌サヨウナラ。
今年一年御疲れ様でした。
また来年、どこまで続くかわかりませんがよろしくお願いいたします。