この世界でお嬢様と言えば誰か。
まず思い浮かぶのは、リリーナ・ピースクラフトであろうか。
そして「眉毛娘」の異名を取るドロシー・カタロニア、あとやっぱり一応お姫様なのだからマリナ・イスマイールも加えてもいいだろう。
んが、この人も忘れてはならないだろう。
そう、00一話の頃はその可憐さで視聴者の心を鷲掴みにしていたにも関わらず、現在悪女街道絶賛まっしぐらで株が斜め下に爆走している中華さん、王留美を。
「お久しぶりですわね、リリーナ・ピースクラフト」
「貴女もお変わりなく、王留美」
で、何の脈絡もなくこの二人、知り合いという設定を放りこんでみる。
ええ、やっぱり絡ませないとね、おもしろくないでしょうから。
ノリですよ、ノリ。
◆ ◆ ◆
現在、プリベンターは旧アザディスタン領で不審者狩りの真っ最中である。
不審者と言うか不審集団と言うか、まあアリー・アル・サーシェスとその一党であるわけだが、さてどう物語を広げて、そして風呂敷を畳めばいいか正直さっぱり考えてなかったり。
年末正月でそんなこと考えて過ごせるかい、と本音を漏らしてみたりして。
まあそれはともかく。
新年一発目はリリーナと王留美のお茶会からスタートである。
我らがコーラサワーさんだけを追いかけて話を作っていればもっと簡単に進むのだろうが、ぶっちゃけたくさんキャラを出し過ぎたかななんて今更思ったりしなかったり。
んまあ、丑年ということでゆっくり紡いでいけばいいかと、ね。
「元日からお仕事だったそうですわね、リリーナ」
「貴女こそ建設中のマスドライバーの視察に出かけていたと伺っていますけど?」
「ええ、出資者なもので」
双方、敬称を省いて名前呼び。
言葉そのものが丁寧なのは、やはり育ちの環境ゆえだろうか。
しかし王留美がリリーナを呼び捨てにすることについて、この場にはいないがドロシーはあまりいい思いを抱いていない。
纐纈、じゃねえ高潔なるリリーナは常に様付けで呼ばれるべきである、と考えているからだが、正味の話、ドロシーはあんまり王留美を好いていない。
まあほれ、似たもの同士は何とやらってやつである。
「ところで、小耳に挟んだのですけれど」
「ええ」
と、自分から話を振ったにも関わらず、ここで一端会話を切り、まるで紙で出来たかのように薄い白磁のティーカップを口に持っていく留美。
もちろん中身は一級品の紅茶である。
お嬢様には紅茶、これは太古の昔から決められた鉄則なのだ。
金持ちの食事には常に大きな鳥の丸焼きがテーブルに乗っているようなものだ。
いったい何時頃の少女マンガの描写だ、と突っ込まないでいただきたい。
金髪にもみあげくるくるロールみたいなもんである。
ん、何だかわけわからんようになってきたが、とにかく先へ進む。
「プリベンターが出動したそうですわね?」
「……どうしてそれを?」
リリーナは取り上げようとしていたカップをソーサーに戻した。
プリベンターがアザディスタンに出張っていることは、まだ正式に発表されていない。
近日中に報道機関から全世界に伝えられるだろうが、この時点ではまだ「知る人ぞ知る」情報である。
「事実なんですのね」
「……ええ」
こういう言い回しがやや王留美という娘を意地悪っぽく見せている要因の一つであろう。
既に知っているのに敢えて含んだ言い方をする、というのが。
「何かお気に召さないことでも? リリーナ」
お気に召さないも何もリリーナは完全平和主義者である、争いごとは好まない。
それに、プリベンターにはヒイロ・ユイが参加している。
プリベンターが出動したとなれば、心穏やかでいられるはずもないというものだ。
「どうして……」
「?」
「どうして起こってしまうのでしょう、戦いというものは……」
以前にも書いたが、リリーナの理想は言ってみれば実現は不可能に近いもの。
どれだけ掃除しても部屋の中にチリは残る。
世界から「争い」を無くすことは、おそらく人類が感情を捨て去りでもしない限り永遠になくならないだろう。
もっとも、だからこそリリーナは声高に完全平和主義を唱えるのだが。
誰かが旗を掲げなければ、もしくは誰かが踏み台にならねば、次のステップを皆が意識することはないのだから。
「人が人だから、でしょうね」
一方、王留美は現実主義者と言える。
ドロシーと似ているが、違うとすればより彼女の方が「冷めている」という点か。
ドロシーよりかは、更生前のマリーメイア・クシュリナーダにこそ本質が近いのかもしれない。
「でもそれは必要不可欠ですわ」
「必要……」
「競争が、変革を望む思いが、世界をここまで発展させてきたのです」
正論である。
他者より早く、他者より高く、他者より強く。
そういった競争意識こそ、人間が人間足り得た最大の部分であろう。
「それはそうかもしれません。でも」
「でも?」
「だからと言って、他人を傷つけてまで得た成果が正しいものには思えないのです」
奇麗事。
リリーナの主張をまとめれば、その一言に集約されるだろう。
だが、先にも述べたがそれでいいのだ。
言わなければ、気付くことはない。
極論があるからこそ、折衷案が浮かびあがる。
「しかし、他者を蹴落とさなければ獲得出来なかったものがあったのも確かでしょうね」
くすり、と微笑むと、王留美は席を立ち、窓に近づくを空を見た。
空は雲ひとつなく、どこまでも青く澄み渡っていた。
◆ ◆ ◆
「……」
「お、また何を落ち込んでいるんだ」
さて、場所は変わってアザディスタン。
件のプリベンターの一行である。
「デュオ、そっとしておいてあげて下さい」
「あっちの世界のことだ」
「ああ、肝心要、二期の折り返し地点でまったく出番がなかったからな」
「しかもOPにも」
パトリック・コーラサワーは落胆の極みにあった。
理由は、ガンダムパイロットたちが述べた通りである。
この物語的に重要な時に、全く触れられなかったのはキャラクターとして痛い。
致命傷と言ってもいいかもしれない。
「完全脇役通告か、つまり」
「OPに出られない主要キャラってあまり無いしな」
「もしくは用済みになったってことかもしれんな」
「あのう、皆そろそろそこら辺で……」
ずんずんずんとコーラサワーの背中に突き刺さる言葉の槍。
「事実を事実として言わないのは良くないことだぞ、カトル」
「そ、それはそうですけど、コーラサワーさんの気持ちも」
「あんな奴の気持ち、考えるだけ無駄だ」
酷い言われ様である。
「おおお、お前らああ」
「あ、ちょっと涙声だ」
「このスペシャルで模擬戦二千回不敗の俺様がどうして出番ないんだ、ちきしょうめがああ」
「諦めろ、所詮お前の扱いはそんなもんだ」
「何だとうううう」
「これ以上明確な答はないな、出番がない、という」
「ぐああああ」
期待しておいてうっちゃられた彼の心は、正直相当傷ついている。
彼だってショックを受けることはある、コーラサワーだって人なのだ、イノベイターではない。
「で、あっちは小躍りしてるが」
「……ラジオ体操じゃないのか?」
「よく見ろトロワ、あんなに躍動的なラジオ体操があるか」
ガンダムパイロットたちは、コーラサワーから視線をグラハム・エーカー(現在ブシドー状態)に移した。
そこではなるほど、まるでダンスのように大きな動きのラジオ体操を「踊って」いる仮面様が。
「嬉しいんだな」
「正直な奴だ」
「隠し事は絶対出来ないタイプですね」
グラハムが喜々としているのはもちろん、あっちの世界で新型を貰ったからである。
しかもフラッグの面影があるMS、名前もマスラオを和風、さらにエイフマン教授とカタギリの研究の結実が隠し玉で搭載とあれば、これで喜ばねば何処で喜ぶのかといった塩梅だ。
自然、顔が緩んで動きが大きくなるのも、まあしょうがない。
「対照的だな」
「まあ、物語的に求められてる役割に差がありすぎますし」
「そういうことだ」
ガンダムパイロットたちは顔を見合わせると、肩をすくめた。
これは、いずれ大きな波乱があるかもしれんな、と。
今はそれは予想の範疇だが、しかし限りなく現実化が高い予想であることも、彼らは承知していた。
だからこそ。
「やれやれ」
大きく溜め息をつくのだ、こうして。
プリベンターとパトリック・コーラサワーの旅はさてどうなるかねこりゃ―――
【あとがき】
コンバンハ。
出番の多さの差が物語的インパクトの強さの決定的な差ではないことを教えてくれよコーラサヨウナラ。