00-W_模倣の人氏_06

Last-modified: 2008-11-26 (水) 21:18:54
 

~前回のあらすじ~
 大変、新型ミカンスーツが盗まれちゃった! すぐに取り戻さなくっちゃ!
 カティコスプレの五飛に大ハッスルのコーラサワーは張り切って凶悪犯を追い詰めイヤッホゥ!
 ところがぎっちょん、凶悪犯はあげゃあげゃと笑ったよ。クラムボンはかぷかぷと(ry

 

 

「な、なんだぁ、こいつは」

 

 珍しい事もあるもので、コーラサワーの声が面食らったように上擦っている。
 日頃の破天荒ぶりも自分がやるから気にならないのであって、いざ他人の不可解な行動を目にすると、流石の彼でも動揺するらしい。

 

『おい、貴様の目的はなんだ』

 

 輸送機から五飛が逃亡犯へと問いかける。
 皆も相手がどう返答するのか固唾を呑んで見守っている。
 ちなみに現在は全チャンネルをオープンにしてあるため、会話全てが全員に筒抜けの状態である。
 逃亡犯の少年は少しの沈黙を挟んで、再び口を開いた。

 

『あげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!』
『ふざけているのか貴様、まともに答えろ!』
『あげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!』
『貴様ァ――――――――――!』
『落ち着けって五飛!』

 

 激昂する五飛を必死で取り押さえるデュオとカトルの姿がフレームに入った。
 あちらはあちらで苦労しているようだ。

 

『いやでも本気のところどうするんだコレ。こいつちゃんと対話できんのか?』

 

 ジョシュアからの通信に答えたのはグラハムだ。

 

『わからん。君が話しかけてみたまえ』
『なんで俺が』
『疑問に思うならば、まず自分で行動してみてはどうかな?』

 

 言うことはもっともであったため、渋々ながらもジョシュアは頷いた。
 しかし当初は渋っていたものの、よくよく考えれば交渉役は非常に重要なポジションである。
 うまくやれば目立てる大チャンスである。
 一度咳払いしてから、ジョシュアは爽やかな微笑みと共に少年へ声をかけた。

 

『我々はプリベンターだ。君の話を聞きたい、まずは名前を教えてくれるかな?』

 

 すると少年は笑って

 

『あげゃげゃげゃげゃ!』
『……いや、だから君の名を』
『あげゃげゃげゃげゃ!』

 

 もしかして言葉が通じていないのだろうかと、ジョシュアは知りうる限りの言語で話しかけてみたのだが、少年の返答は一貫して「あげゃげゃげゃげゃ」である。

 

『俺は無力だあぁ』
『そんなことは知っている。どうやら説得は無駄らしいな、実力行使に移るぞ』

 

 さらりとジョシュアに酷い言葉を投げかけて、グラハムが操縦桿を握りなおした。
 前進しようとMSで一歩踏み出したところへ、動向に気づいた少年がグラハムの足元を機関銃で掃射する。

 

『牽制された!?』
『どうやら頭はあるらしいな……』

 

 言葉が通じないから脳も足りないだろうと勝手に思い込んでいたのだが、どうやら思考能力は正常のようだ。
 となると、迂闊に動くわけにもいかない。
 かといって何もしないわけにもいかず、彼らは手をこまねいていた。

 

          *          *          *

 

 打つ手なしかと思われたが、そんな状況を打破するのは、いつだってあの男。
 そう、我らがヒーロー、パトリック=コーラサワーさんである。
 どうしようかな、と首を傾げてしばらく悩みあぐねていた彼だったが、ふと思いついたように通信機に向かって声を発した。

 

「い、イヤッホゥ?」
『あげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃ……げゃ?』

 

 すると、少年がピクリと反応を示す。
 その様子に気を良くしたコーラサワーは更に声を上げた。

 

「イィ―――ヤッフウゥ―――――ゥ!」

 

 少年も合わせて叫ぶ。

 

『あげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!』
「イヤッホイヤッホイーヤッホォ――!」
『あげゃあげゃあげゃげゃ!』
「ヤッフヤッフイヤッホゥ!」
『げゃっげゃっげゃげゃげゃ!』

 

 その光景はさながらゴリラ。
 突然の意気投合に面食らったのは無理からぬ対応だったろう。
 目を丸くしてすっかり言葉を失くした仲間たちは、奇異なものを見つめるようにただただコーラサワーと少年を眺めていた。
 しばらく掛け声をかけあっていた二人だが、それが不意に止んだかと思うと、なんと少年がコックピットのハッチを開け、大地に降り立ったではないか。
 何を企んでいるのかとプリベンターたちは警戒したが、少年は諸手を上げ投降の意を示す。

 

『……信用していいものだろうか』

 

 ぽつりと呟いた五飛に、コーラサワーは自信満々に答えた。

 

「問題ねえよ。こいつはもう抵抗しないさ」

 

 かくして、逃亡犯の捕縛と盗まれたMSの回収は拍子抜けするほどあっさりと達成されたのだった。

 

          *          *          *

 

「なるほど、そんなことがあったのか」
「相変わらず人外だな奴は」

 

 今回出番がなかったヒイロとトロワが、仲間たちと合流して事情の説明を受けるとしみじみと頷いた。

 

「けどまあ、手柄であることは間違いねえんだし、功績は讃えてやんなきゃな」
「そうですね。彼がいなかったらこれほどのスピード逮捕はありえなかったと思います」
「ふん、プリベンターとして成すべき事をした、それだけだろう」

 

 一見不機嫌そうだが、五飛が素直でないのは昔からである。
 その証拠に、いつもなら当たり前のように飛び出す辛辣な皮肉を今ばかりは口にしていない。
 警察当局に引き渡され連行されていくる少年を見守っていた一同だったが、何を思ったかその背中をコーラサワーが呼び止めた。

 

「ちょっと待ってくれ!」

 

 小走りに少年のもとへ駆けていった彼は、にかっと笑顔を見せて右手を差し出す。

 

「ぐ~ ま~ ぐまぐまま ま?」

 

 すると少年は、手錠されているのも構わず、嬉しそうにその手を握り返した。

 

「ぐま! ま~ ぐ~ ぐまぐまま ぐま!」

 

 そして少年を乗せた警察の輸送機が飛び立ち、その姿が見えなくなるまで彼はずっと空を見上げていた。
 短い時間であったが、不思議な友情が彼らのうちに確かに芽生えていたのだろう。
 やがて視線を地上へと戻したコーラサワーの肩を、グラハムとジョシュアが両方から叩く。

 

「大したものだ、君は」
「凄いなお前。よく奴の言ってることがわかったな」

 

 ところがジョシュアの言葉に対し、コーラサワーはあっけらかんとこう言ったのだ。

 
 

「いや、さっぱりわかんなかったぜ?

 
 

「……へ?」
「なんつーか、ノリ? ほらよく言うだろ、『考えるな、感じるんだ!』って」
「や、それは使いどころ違うだろ」
「わかる、わかるぞ! その気持ち、まさしく愛だ!」
「何言っちゃってんの隊長!?」
「さっすが元ユニオンのエース、話がわかるな」
「ふふん、私もフラッグの気持ちがよくわかるからな」
「それは妄想って奴だろ。じ、じゃあ、最後に話しかけてたあの言葉は?」
「ああ、あれはアナグマ語。紳士の嗜みだぜ?」
「知らない、そんな紳士の嗜み知らない! アナグマ語ってなによ!?」
「アナグマ語も知らないのかジョシュア。そんなことではいかんぞ」
「いやだってそんなの人生において必要か? つーかなんなのあんたら、あんたたち本当に人間か!?」
「失礼な言い草だなこの野郎いっぺん泣かすぞ」
「いてえぇ―――――ッ! ギブギブギブ腕ひしぎ勘弁んんんんん!」

 

 そんな3バカの様子を遠巻きに眺めていた少年五人組は、呆れたように溜息をついた。

 

「いいんですか?ジョシュアさんを助けなくて」
「寄るなカトル、馬鹿が感染する」
「まあ、終わり良ければ全て良しってことでいいんじゃねえか?」
「……出番がなかった」
「右に同じ」

 

 各々思い思いの気持ちを抱えつつ、果たして事件は円満に解決を迎えたのであった。
 この後、ビリーが発明した『翻訳蒟蒻ゼリー(みかん味)』のおかげで少年と言葉が通じるようになり、司法取引によって少年は政府が抱える秘密組織《フェレシュテ》に所属することになったりならなかったりするのだが……それはまた別のお話。

 

 

【あとがき】
 ちわっす皆様ご機嫌麗しゅう。
 アナグマ語についてはここを参照してください。
 正直なところ、この話はグラハムに「その気持ち、まさしくry」を言わせたいがためだけに作られた話だったり。
 ペースは確実に落ちるので次はいつくるかわかりませんが、また来ます。
 それでは。

 
 

 【前】 【戻る】 【次】