~前回のあらすじ~
ドナドナドーナードーナー コーラを載ーせーてー♪
ドナドナドーナードーナー コンテナ揺ーれーるー♪
旬はとっくに過ぎてる気がしないでもないが、まだまだ引っ張るモツ煮コーラ。
ラッセを道連れに彼はどこへ行くのであろうか。
「……で、ここへ来たと」
ここは某収録スタジオの楽屋の一室。
音楽番組収録のために訪れたカティ=マネキンに宛がわれている楽屋に、パトリック=コーラサワーは届けられた。
かくかくしかじかと、ここへ至る経緯とついでに同僚たちがいかに非道であるかを切々と訴え、その締めくくりとして彼は、
「というわけで、俺のことを是非とも受け取ってください!」
とのたまった。
その口振りはまるで裸の身体にリボンを巻きつけた女が「プレゼントは私です、受け取ってください」と主張するのと同じくらい激しく痛い台詞であるが、当のコーラサワーはまさしくそのつもりであるため手に負えない。
それでも裸にリボンならまだ色気もあろうが、現在の彼は段ボール箱から首だけを外に出した状態である。
色っぽさには程遠く、近い喩えを上げれば誰もが真っ先に黒ひげ危機一髪を思い浮かべるであろう。
じろり、とカティは冷徹な眼差しを運んできたラッセ=アイオンに向けた。
「余計な物を運んでくれる。当然、受け取り拒否は出来るだろうな?」
「そりゃあ、まあ。けど俺としては出来れば受け取って頂けると助かる」
ラッセは重い息を吐いた。
誰にも受け取ってもらえずたらい回しにされたらコーラサワーが哀れというのもあるが、たらい回すための労力を払うのは他の誰でもない自分である。
できればそんな事態はご免こうむりたかった。
カティに疎んじられている気配を感じ取ったコーラサワーは、どうにか受け取ってもらおうと必死にアピールをし始めた。
「ほ、ほら! とれとれぴちぴちのスペシャルエースですよ!」
「お前は蟹か、それとも産地直送の新鮮野菜か。とにかくぴちぴちなんて言葉は若い奴が言ってこそだろう」
忘れがちだが、コーラサワーはこれでも三十路手前である。
「う、受け取ってくれたら何だってします! 貴方の下僕に、いや、犬にだってなってみせます!」
「そんなものは上司と部下の関係で十分だ」
「じゃ、じゃあ夜のお供にぐヴぉぅわッ!?」
言葉の途中でカティの拳が炸裂する。
「私は下品な冗談が嫌いだ」
「……申し訳ありません」
コーラサワーは頬を赤く腫らしながら、寂しげにうな垂れた。
その様はまるっきりご主人様に怒られて小さくなる犬である。
だが彼はすぐさま顔を上げ、カティの瞳を真っ直ぐに見据えると、真摯な眼差しでこう告げたのだった。
「けど、俺の愛は本物です!俺は大佐のためなら何を投げ出したっていい!!大佐のことが好きなんです!!!」
荷物として受け取ってもらうためのアピールのはずが、いつの間にか愛の告白に目的が摩り替わっている。
こんな台詞を人目も気にせず恥ずかしげもなく言えてしまうのがコーラサワーの凄いところである。
直接言われたカティだけでなく、傍で聞いているだけのラッセでさえもあまりの小恥ずかしさに耳まで赤くなった。
「よせ少尉、こんなところで」
「はい、(やめ)ないです!」
「寝言はほどほどにせんかッ!」
カティの二発目の拳がコーラサワーの頬を正確に捉えた。
両の頬が腫れてオカメのようになったコーラサワーを見下ろしながら、カティは深く溜息をつく。
「まったく。これだから放っておけんのだ」
「えっ、じゃあ受け取ってくれるん――」
「それとこれとは話が違う。いい機会だ、このまま世界を旅して見識を広めて来い」
「えー」
「えー」
口を揃えて不満げな声を上げるコーラサワーとラッセ。
お互い早いところ自由の身になりたいと願う気持ちが、二人の心を一つにしていた。
だが拒否をする者に無理強いはできない。
「仕方ない、ここは引き下がろう。その代わり、次の送り先をあんたが指定してくれないか?」
「送り先か……参ったな、こういうときにとっさに浮かぶ伝手がない」
ラッセに頼まれて頭を捻るものの、こんな厄介な荷物を受け取ってくれる知り合いなど思い浮かぶはずもなかった。
結局カティに次の送り先を決めてもらえず一瞬気落ちしかけたが、そうだ、と思いついたように、ラッセは部屋の隅に置いてあった電話帳を取る。
ぱらぱら適当にめくりながら、机の上にノートを広げ、定規とペンを駆使して手早く表を作っていく。
その内容は。
1.やったね、いきなりゴール! 『プリベンター本部へ帰る』 2.その地は天国か地獄か? 『マリナ=イスマイール王女宛』 3.世界政府の外務次官に頼れ! 『リリーナ=ドーリアン宛』 4.ある意味借りを作りたくない相手 『アレハンドロ=コーナー宛』 5.地球が駄目なら火星へ行こう! 『ゼクス=マーキス宛』 6.
ラッセの手元を観察していたコーラサワーが疑問の声を上げた。
「……なあ兄貴」
「俺はあんたより年下です。兄貴って呼ぶな」
「これ、何だ?」
「行き先を決められないからな、こうなったら運頼みだ。サイコロを振って、該当する目のところへ連れて行く」
即ち『サイコロの旅』。
「いやいやいや、こんだけ選択肢用意できるんだったらはじめっからプリベンターに帰らせろよ!」
「一度引き受けた以上、何もせず帰るわけにもいかないだろう。俺にも面子ってもんが」
「なんで変なところで義理堅いんだよあんた。そんなの適当にやっときゃいいだろうが!」
と、ぎゃいぎゃいと喚くコーラサワーをとりあえず無視して、ラッセはノートに向き直った。
ここまで選択肢を作ったはいいが、最後の一つがどうしても思い浮かばない。
ペンを銜えてしばらく唸っていると、見かねた様子のカティが横合いから手を伸ばして来た。
6.カティ=マネキンがお買い上げ
「……あんた、本当はこいつを引き取る気満々だろ」
「そんなわけはない」
「ならなんで照れたような顔をする?」
カティはその問いを黙殺で返した。
ともあれ、これで準備は整った。
ラッセはポケットからサイコロを取り出すと、それを高く掲げ光にかざす。
逆光を受けて輝いたサイコロを、ラッセは思い切り振り投げた。
「い、1! いや6、6で頼むぅぅぅ!」
コーラサワーが渾身の力を込めて祈る。
カティは興味のない素振りを見せながら、瞳の奥には明らかに期待の色を覗かせていた。
そして出た目は……
「……3、か」
「3だな」
ということで、めでたく(?)次の行き先はリリーナのところと決定したのだった。
* * *
「名残惜しいです大佐、大佐あああ」
「女々しいぞ少尉」
カティの拳骨が落ちる。
ラッセがコーラサワーを抱えて退出しようとしたときの一幕である。
「それじゃ、俺たちはこれで」
「まあ待て。土産を持たせてやる」
コーラサワーの段ボール箱に書かれている一文を受けてか、カティがそんなことを言い出した。
コーラサワーが今入っているのと同じ大きさの段ボール箱を幾つか手渡される。
「中身は?」
「知りたいか?」
コーラサワーの問いに、彼女は薄ら笑いを浮かべた。
何となく訊くのが怖くなって、ラッセとコーラサワーは頭を振って曖昧な愛想笑いを浮かべる。
貰った箱を適当に配送用コンテナへ積み込むと、彼らは次の目的地へと旅立っていった。
(早く終わらせたい)
【あとがき】
サンホラは1期も2期も最高です。
『即ち……光をも逃がさぬ暗黒の超重力』をコーラかグラハムに歌って欲しい。
こんばんは皆様ご機嫌麗しゅう。
連休前の仕事が本気で忙しくなりそうなので今のうちに投下。
>>661-661氏の話に繋げられなくて申し訳ない。
予想外にモツ煮ネタが長くなってしまいました。
次か次くらいで終わらせられたらいいな。
ところでそろそろ気づかれてるかと思いますが、模倣の人は カ プ 厨 で す 。
苦手な方は精神衛生上、回れ右した方が安全です。
それでは。