その日の正午、事件は起こった。
「格納庫でMS(ミカンスーツ)が動いてるんだけど、一体誰が起動させたの?」
ヒルデの一言で各々デスクワークをしていたガンダムパイロット達は視線を合わせて一つの結論をだした。
「「「「「奴しかいない…」」」」」
そう。
こんな勝手な事をするのはプリベンターの中には一人しかいない。
その人物の名は、パトリック=コーラサワー。
しかし、ガンダムパイロット達の結論は簡単にひっくり返された。
何故なら、コーラサワーは彼等と同じ部屋のソファで玄米茶をすすっていたからだ。
コーラサワーが何故仕事をしていないかは、言わずもがな。
彼が働けばそれだけ余計な仕事が増えるからである。
「おい、お前等。今真っ先に俺を疑っただろ!?格納庫の鍵はそこのチョココロネみたいな頭した姉ちゃんと五飛しか持ってないんだから、俺が勝手に動かせるわけ無いだろ」
コーラサワーの発言に、そういえばそうだと頷くガンダムパイロット達。
「じゃあ誰が…」
カトルの言葉は、ヒルデの悲鳴のような声で掻き消された。
「大変!MSが暴走して格納庫を破壊し始めたわ。このままじゃ格納庫が壊れちゃう!!」
「兎に角、現場に行ってみよう」
トロワの一言の後、プリベンター達はMS格納庫へと駆けて行った。
* * *
MS格納庫に着いたプリベンター達は、余りの惨状に言葉を失った。
1機のMSが、壁を壊しケーブルを引き千切り、兎に角暴れ回っていたのだ。
「おいおい…誰だか知らないけど、何の怨みがあってあんな事してんだ…」
「壁や機材は破壊しているが、待機中のMSには被害が無いようだな」
ぼやくデュオと、冷静に状況を分析するヒイロ。
「取りあえず、奴を止める!」
そう言って、五飛が待機中のMS(くどいようだけどミカンスーツ)の1つに飛び乗った。
起動と共にスロットルレバーを押しやり、暴れ回っているMSに飛び付く。
と、暴れ回っていたMSも標的を五飛の乗ったMSに変えて攻撃を仕掛けてきた。
ガンダム・ファイトならぬミカンスーツ・ファイトをする2機。
互いのパンチやキックを受け流しながら攻防を繰り広げる。
どうやらパイロットの実力は、五飛と互角のようだ。
ガンダムパイロットと同じレベルで戦っているとなると、相手は相当の手練だ。
予想以上の相手の強さにコックピットで舌打ちした五飛は、そこで不可思議な違和感を感じた。
(この戦い方…相手はもしや……?)
気付くと共に、回線をオープンにして相手のMSに向かって叫ぶ。
「こんな戦いは止めろ!……老師O!!」
老師O。
『ガンダム』を設計・開発した5人の科学者の一人で、五飛のシェンロンを担当した人物である。
名を聞いてガンダムパイロット達は「そんな」「まさか」と絶句した。
「ホッホッ…これが嘘じゃ無いんじゃなぁ」
声がした方に視線を向けると、格納庫の奥、光の届いていない暗がりからゾロゾロと4人の人間が出てきた。
暴走していたMSも動きを止めハッチが開く。
合計5人の侵入者をみて唖然とするガンダムパイロット達。
コーラサワー、グラハム、ジョシュアは状況が掴めずキョトンとしている。
「ヒイロ、久しぶりじゃな」
「ドクターJ…」
ドクターJと呼ばれた老人は義手をガショガショと動かし、ニカッと笑った―――
* * *
「……つまり、わし等はリーブラを爆破した後、爆風に巻き込まれて宇宙を漂流し、近くのコロニーに拾われ、まんまと生き延びた訳じゃ」
キノコのようにカットされた髪形の老人、プロフェッサーGが玄米茶を飲みながら、自分達のこれまでを簡潔に語った。
「へいへい、疫病神は不死身って訳ですか」
「何故、ここを訪ねてきたんだ」
トロワがこの場にいる全員が問いたい事を問う。
「なに、お前さん達が不死身の人間と新型のMS(これはモビルスーツ)を使って面白い事をしてるというのを小耳にはさんでな、ちと見学にきたんだよ。ついでに耳寄りな情報も持ってきてやったぞ」
鼻カバーを付けた老人、ドクトルSがなんて事ないように答える。
『不死身の人間』とは無論コーラサワーの事だろう。
「カトル」
ドジョウヒゲの老人、H教授がニヤニヤしながらカトルの名前を呼ぶ。
「なんですか」
「今日のパンツは何色じゃ」
ドジョウヒゲをヒョコヒョコ動かしながら、H教授は相変わらずニヤニヤしている。
カトルは溜め息をつくと、『セクハラで訴えてやる』と心の中で呟きH教授を無視した。
「皆さんが何故ここに着たのかは分かりました。でも、どうして格納庫に侵入してMSを暴走させたりなんてしたんですか。普通に玄関から訪ねてくれば良いものを…」
カトルの質問を聞いて、待ってましたとばかりに技師達は嫌な笑みを浮かべた。
代表して老師Oが答える。
「普通に来てもつまらないからな。格納庫で騒動を起こせば、MSの性能チェックと君達からの注目も集められて一石二鳥。まぁ、暴走は我々の日課だ。特に意味は無い。しかし、格納庫のセキュリティは厳しいな、侵入するのに1時間はかかった」
(ただ注目を集めるだけで、一体どれだけの損害が出たと思ってるんだ!)
ガンダムパイロット達は頭痛のする頭を抱えて盛大に溜め息をついた。
いままでずっと話を聞いていたジョシュアがおずおずと手をあげた。
「あのー。さっき言っていた耳寄りな情報っていうのは、なんですか?」
「ああ、それか。つまらん事じゃよ。L1コロニー付近の資源衛星の1つが兵器工場になっとるちゅーだけじゃ」
そう言ってドクターJは玄米茶をすすった。
「なんですって!?そんな情報、レディからは一言も…」
サリィが驚愕する。
「君達にことごとく工場を潰されてるからねぇ、死の商人達は。奴さん達もそれだけ賢くなっとるってことだよ」
ドクトルSが答える。
「潰しても、潰しても出てくる兵器工場…まるでイタチごっこですね…」
玄米茶に写る自分の顔を見つめながらカトルが呟いた。
その顔は憂いに満ちている。
「どんなに悪が賢くなろうと、それを叩くのが俺達の正義。サリィ、直ぐにでも宇宙にあがるべきだ」
五飛が左手の拳を右の手の平へ叩く。
「だが問題がある」
老師Oが口を開いた。
他の博士達もうんうんと頷く。
H教授が自慢のドジョウヒゲを撫でながら、老師Oに代わり話を進める。
「見たところ、君達のMSは宇宙用ではないな。それに宇宙で使用できるような武器も無い。あちらさんも相当な警戒をしている。今のままでは、お前さん達でも攻略は不可能だろう」
H教授の言葉を聞いて、プリベンター達は黙りこんでしまった。
確かに博士達の言う通りだ。
暫くの間沈黙が続く。
すると、突然プリベンター本部の扉が開いた。
「やぁ、皆さんお困りのようだねぇ」
突如扉を開けて現れたのは神出鬼没・白衣の天使ならぬ、白衣の眼鏡、ビリー=カタギリだった。
「ビリー!何故お前がここで登場するんだ。ただでさえ今日は人数が多くて私の喋る機会が少ないというのに、これ以上増えたら私の出番が無くなる!」
グラハムがビリーを追い出そうとするが、構わずビリーはズカズカと部屋の中に侵入する。
「だってねぇ。かのガンダムを設計した天才科学者達が来てるって聞いたら同じ科学者としては会わずにはいられないでしょう。それに話は外で聞かせて貰ったけど、宇宙用MSを入手しないといけないんだろ?僕一人でもやれない事はないけど、どうせならここにいる天才的な博士達に協力してもらったらどうかと思って」
それだけ言うと、ビリーはドクターJの前に立ち手を差し出した。
「私はビリー=カタギリと言います。お会い出来て光栄です博士。是非とも一緒に宇宙用MSを開発させて下い」
「君があのMSを開発した博士か。実に面白いモノじゃったよアレは。この老いぼれジジイ共で良いんなら幾らでも力を貸そう。それに天才とは、若いのに良く分かっとるじゃないか」
ハハハと不気味な笑みを浮かべて2人はガシッと握手を交わした。
勝手に話を進められてしまったプリベンター達はというと、出来れば博士達とは関わりあいになりたく無かったが、自分達だけで宇宙用MSを開発する事が出来るわけもなく、まぁ、今更しょうがないかと痛む頭を押さえながらしぶしぶMS開発を了承した。
* * *
こうして、プリベンター達が宇宙で任務を行えるようにするため、彼等の許可は一切無く最凶の天才マッドサイエンティスト達と若き天才ミカン博士は手を組むこととなった。
取りあえず事の成り行きを一部始終をみていたデュオはあることに気付く。
「おい、ちょっと待てよ。一緒に開発するって事は、ジジイ共は暫くここに住み着くって事じゃねーか!!」
「ふむ、そういう事になるなぁ。昔のようにまた仲良くやろうじゃないか。デュオ」
プロフェッサーGがニヤリと不敵に笑いながらデュオの肩をポンと叩く。
宇宙用の新たなMSを手にするその日まで、厄介な種をまた1つ手にしたプリベンター達。
彼らの苦難の道はまだまだ続く。
今日も地球は馬鹿を除いて平和でありましたとさ―――
【あとがき】
お久しぶりですこんにちは。
暫くネットの世界から足を洗っていたら、3戦目になっててびっくりしました。
今回から『愉快なジジイ達とプリベンターが宇宙に行くよ』編です。
ジョシュアが生きてるなら博士達が生きても良いんじゃね?と思って考えついた話です(結末まだ考えてないけど)。
ネーブルみたいに、宇宙用MSの名前を誰か考えてくれると有難いです。
では。