scene-3
キラは呆然とする。涙を流す。そして、乾いた笑みを浮かべる。
自信の罪深さ。望むべくしてやった事ではないが、目の前に広がる赤い血の絨毯が網膜に焼き付く。
「ははははは……僕は……僕は……」
──僕は殺人者なんだ。僕は殺人者なんだ──
今更ながらに気付いた罪の意識。砕かれた心の欠片は繕えず、その欠片を拾おうとしても砂のように手から溢れていく。
暗く沈む意識の中、走っても走っても辿り着くのは暗闇。白い霧が包み、視界は虚に霞んでいく。
心の欠片はキラの優しさを責めた。迷いこんだ心の迷宮は、決して逃がしはしない。
ただ、ただ、キラはストライクのコクピットという冷たい機械の揺り篭の中で、意識を手放し深い眠りに落ちていった。
「熱源2!……これは……モビルスーツ……なのか?」
アークエンジェルのブリッジに緊迫した空気が走る。
「報告は正確にしろ!」
ナタルが苛立ちを隠さず言い放つ。
「こんな……パターンは見たことありません!」
オペレーターが悲鳴をあげ、首を震る。
マリュー、ナタルはモニターを凝視する。熱源の大きさはMSのものではあるが、センサーが知らせる熱量はMSのそれとは違う。「これは──!?ザフトのMSでも強奪されたMSでもない?」
「ストレット小尉、良いんですか?」
エリザは接触回線でストレットに疑問を投げ掛ける。
その疑問とは、謎の戦艦に降伏するという事。機密事項であるMSごと投降する事になる。エリザにはストレットの真意が掴めないでいる。
「ええ、虎穴に入らずんば虎児を得ず……。真実を知る必要がありますからね」
「コケツ?」
エリザは戸惑いの声をあげ、首を傾げる。ストレットはその声に多分に苦味の混じった笑みを浮かべる。
「今の言葉は気にしないで下さい。さあ、行きましょう。行く手は魔女の釜の中かも知れませんが」
ストレットは自機にエリザのザクを抱えさせながらゆっくりと機体をアークエンジェルに向ける。
そして一人ごちる様に冷たく言葉を紡いだ。
「事実は小説より奇なり──」