08MS-SEED_96_第02話3

Last-modified: 2013-12-23 (月) 19:25:30

「……さて、AAの方はいいとしても……こっちの方が問題かな」
「お仲間の方が、ですかい?」
「ええ…確実な物証が思いつきません、何でも新兵器で済まされそうな気がします。
 コロニーが落ちてないようだから宇宙からオーストラリアを見れば一発なんですが…」
「それは無理でしょう…こちらも目的地がありますし、なにより単体で宇宙(ソラ)へは離脱できないでしょうから」
「そうですよね…ラミアス艦長、MSや艦内を見せてもらってよろしいでしょうか?」
「……あ、ええ…まぁ……。
 ストライクはまぁ許可しますが、AAの重要部分…動力部や推力部は軍機ですのでお見せできません」
 呆けていたマリューはそんな問いかけに我を取り戻すと、ギリギリ自分の艦長としての責任を思い出しつつ許可を出した。
「ありがとうございます。
 それと、こちらの歴史とか現在の世界状況が判るような物とかありませんか?
 我々もその辺りを把握したいのですが…」
「そうね…ストライクを見ている間に用意させるわ。
 バジルール中尉…あの子達に用意させてもらえないかしら?」
「了解しました、艦長」
 話は決まったとばかりに最初にリフトに乗ったのはストライクを見せるべく準備をしようとするマードック
班長と、ブリッジに戻るからと乗り込んだマリュー、そしてマリューの命令を実行するべく先を急ぐナタルの
3人が先にリフトに乗った。
「……マードック班長、彼らのMSのデータ取りをお願いね」
 リフトがある程度下がってマリューはマードックを見ずに囁いた…その表情からも内密の命令だとマードックは判断した。
「心得てますよ艦長、核ジェネレータを今複製するとかは無理ですが、動作原理ぐらいはなんとか」
「全てが本当だとしたら、彼らのMSは私達のG兵器より重要な物になるわ。
 彼らに協力させつつデータを全て、実物もアラスカへ持って行きます……場合によっては強硬な手段を使ってでもね」
「艦長、それは……」
「自分で作った技術じゃないのが忌々しいけどね…彼らの技術があれば…この戦争も勝てるわ!
 彼らを逃がさないようにしないと…バジルール中尉、彼らの警護を怠り無く、ね」
「警護、と言う名の監視ですか……。
 構いませんが、それなら今の内に全員を逮捕なり監禁なりした方がいいのでは?」
「協力させるには友好的な方がいいでしょ、それに彼らの戦力なくしてアラスカまで行けるかどうか…何せ敵は“砂漠の虎”よ」
「それは言えてますな、坊…ヤマト少尉のストライクとフラガ少佐のスカグラだけでは難しいでしょう。
 整備科としては彼らのMSを整備するのに反対しませんが…ナイフを後ろ手に隠した友好、きな臭い話になりますね」
「こっちだって彼らの食事や寝床の生活環境を提供するんだから持ちつ持たれつよ。
 どっちにしろアラスカに着くまでの話、その後は軍上層部に引き渡すだけだから知ったこっちゃ無いわ。
 ともかく、この話はここだけにして頂戴…でも今の話を念頭にみんな動いてね」
「やれやれ……使えるだけ使って、知りたい事は全部吸い出して、アラスカに着いたらはいサヨナラですかい…
…ったく、義理も人情もあったもんじゃねぇなぁ」
 リフトが止まって早足で遠のくマリューとナタルには、残りの3人が降りてくるの待つ為その場に留まった
マードック班長の呟きは届かなかった。

 数刻後、指揮車の中にキキを加えた08小隊の面々はいた。
「地球連合、プラント、ザフト、コーディネイターとナチュラル、エヴィデンス01…とうてい信じられません」
「そうですよ、こんなデタラメ信じられません、どうかしちゃったんですか隊長~!」
「ちょっとシロー、つまんない映画見せてどうしろって言うのさー」
 カレンとミケルとキキがそれまで黙っていた中で口を開く。
 あれからストライクを見たり、キキと合流して記録映像をAAの会議室の中で年少兵達に説明を受けながら
見たりして一通りこの世界の事を見聞きした面々は馴染みある指揮車の中で小隊だけで話し合いがしたいと中
に篭っていた。
 指揮車の内部はソナー手がいることもあり比較的防音がしっかりしている上、装甲が中空2層のスペースド
アーマーになってる事やガラスも防弾の二重ガラスになっている事が外部からの接触盗聴や窓ガラス等のレー
ザー盗聴を防ぐ事になる。
 また、MSは比較的自由にさせたシローもそれを囮に指揮車からは慎重に人を遠ざけ、指揮車から離れる時
は入り口をロックしていた為に盗聴器を仕掛けられている心配は無かった。
 そう、シローがこの指揮車の中での話し合いを求めたのは、今後をどうするかの話をAAの乗組員に聞かれ
たくない理由があったのだ。
「隊長、我々は罠にハメられているとか…」
 それを感じ取ったかサンダース軍曹は小声で囁いた。
「それは無いなサンダース、たかがMS一個小隊を罠にハメるのに空飛ぶ地上戦艦を使うとは思えない」
「そうですよね…」
「それに四つ脚のパイロットの死体を見ただろ、新型MS五機とそのパイロットに後続部隊を犠牲にしてまで
我々を罠にハメる意味は無いな」
「…そういう状況を考えれば…確かに異世界かも知れません…」
「ちょっ、サンダース、異世界だなんて…まじめな顔して言わないでよ!」
「……軍曹は認めるんですか、ここが異世界だって!?」
「そう考えるとつじつまが合う…それに、砂嵐の後で我々が別の場所別な時間にいた事だけは事実だ」
「本当にここは異世界なんですか!?」
「認めたくないかも知れないが…そうだ、ここは異世界なんだ…」
「だって…それじゃ、それじゃ!
 本当に手紙が…手紙を届けられないじゃないですか!!
 B・Bに本心をぶつけようにも、手紙が届かないどころか同じ世界にもいないんですよ!」
「止めろ、ミケル」
 そう絶叫したミケルは慟哭しながらシローの襟を掴んでぐいぐいと揺さぶる。
 シローは何も言わずにあえてされるままになっていたが、サンダース軍曹がそれを柔らかく止める…炎天下の
砂漠では投げ飛ばしていたのがここではその程度に留まったのはミケルの心情もいくらか理解できたからであろう。
 何も言わないシローも俯いたまま何も言わないカレンやキキも同じなのかもしれない。
「隊長だってあんな女物の時計を大事に持っている癖に、どうして冷静に……」
 そこまで叫んでミケルは急に声のトーンを下げ…いや、揺さぶる事すらゆっくりとなりやがてはそれも止ま
りその場に座り込んだ。
 B・Bと言う思い人を故郷に残してきている自分と同じく、シローも向うの世界のいずれかに思い人いるのだ…
そして自分と同じようにこの世界にいる以上もう会う事は出来ない…ミケルもそれに思い当たってどこにぶつ
けたらいいか判らない憤りをシローにぶつけるのは止めた。
「そんな…村は…父さん……」
 キキのそんな呟きがトドメを刺したように、その後指揮車の中を思い沈黙が包み込む。
「……それで、これからどうするおつもりですか、隊長?」
 しばしの沈黙の後、そんな重い沈黙をようやく破るように振り絞った声でカレンが探るようにシローに問う。
 床に座り込んでいたミケルも立ち尽くしていたサンダース軍曹も顔を拭ったキキもその言葉に顔を上げてシローを見た。
 シローは車内にいる全員を見渡し、ようやく話ができるようになったと言うような顔をしてゆっくりと話し出す。

「まず、この世界の地球連合に協力する」
「別世界の戦争に介入するんですか?」
「…協力とか介入と言うのはちょっと違うけどな……いわば売込みだ」
「「売り込み?」」
「そうだ…俺達がこの世界に来た原因は間違いなくあの砂嵐だ。
 だから帰る方法は…」
「また同じ砂嵐を待てばいいんじゃないんですか!?」
「いや、そこまで問題は簡単にはならない…だいたいその砂嵐はいつ起きるんだ?
 明日とか10日ならまだしも1年や…ましてや10年だったらどうする。
 今の俺達にはその間の生活基盤が無い」
「だったら、街かなんかで働けば…」
「それも考え無かった訳じゃない…しかし考えても見ろ、そんなに頻繁に平行世界を移動するような砂嵐が起
こっているならそういう話があってもおかしくないが…MA調査で聞き込みをしている間にそういう話は聞こ
えなかった…そうだなキキ?」
「あっ…うん……砂漠に危険な事があるって言う話は…聞かなかったよ」
「……つまりはそういうことは頻繁に起こらないという事になる」
「じゃぁ…やっぱり帰れない……」
「そう焦るな…サンダース、例の物を」
「アレ、ですか……」
 サンダースが端末に向かってキーを叩くと、いくつかに色分けされて重ねられた波形が出現した。
「みんな見てくれ、これはあの砂嵐を通過中に指揮車の各種センサーで捕らえた各種探査機器が捕らえた情報
をある程度単位は無視して波形だけを時間経過で並べたものなんだが…何か気付かないか?」
「何か…特定のパルス、というか特徴的な波長の山がありますね…機器の情報ってどれなんですか?」
「特徴が出たデータは電磁波…全域における周波数、重力波、赤外線と紫外線、光学スペクトル……単位は別
とすればどれも似たようなパターンを描いて強振を繰り返している。
 あの砂嵐の中で電波系はまだしも重力とか赤外紫外線や可視光線が変化するのはおかしい…つまりこの自然
界では普通にありえないこの超常現象が、俺達を平行世界へと運んだ現象だといえるんじゃないか?」
「……つまりそれと同じ現象が起こる場所を探してそこを通れば……」
「元の世界に返れる可能性がある!」
 おおぅと指揮車の中に歓声が上がる…ここが異世界だと思い始めてから初めての希望の光だ。
 キキもミケルも嬉しげにハイタッチし、サンダース軍曹もさすが隊長と言わんばかりに頷いている。
「…待ってください、本当に元の世界に返れるんですか?
 また別な平行世界と言う可能性も…」
「カレン、正直その可能性はあるな。
 だが思うんだが…この数値のパターンはチャンネルだと思わないか?」
「はぁ?」
「確かに平行世界は数多く存在しているだろう、この平行世界を移動する現象…仮にゲートと命名するが…
そのゲートが開いたとして、どこに通じているかは判らない。
 …だがこの各種データの強振パターンが一致するゲートならどうだ?
 来たと同じ条件の超常現象であれば、元いた並行世界と繋がっている可能性が高くないだろうか?
 そしてこの超常現象が滅多に起こらない現象だとしても自然現象の一つであるなら…パラメーターを同じに
してあるなら同じ事が再現するんじゃないか?」
「……しかし、それこそ無限にありかねないパラメーターを滅多に起こらない超常現象から探し出すというの
は不可能に近いのでは?」
「だからこそ俺達を売り込むんだ。
 もちろん売り込む先はこの世界のトップ…軍のトップとかではなく、政界のトップとか支配階級のそれこそ
かなり上位にいる連中に、だ。
 幸いにもこの世界には無い技術を俺達は持っている」

「核ジェネレータやメガ粒子といったミノフスキー物理学を応用した技術体系ですね?」
「そうだサンダース。
 そしてそれだけではなく…俺達が培ってきたMS戦闘の戦術や経験自体も十分価値があるし、そのソフト
ウェア自体も貴重な物になるだろう。
 それを考えれば既にMSを持っているザフトではダメだ…MSがようやくロールアウトされたこの瞬間の地
球連合…我々の価値はこのタイミングの地球連合で最大の効果を発揮する。
 核ジェネレータ、メガ粒子、ソフトウェア、そして俺達の経験。
 これを連合の支配階級の上部に高く売り込み、見返りに超常現象の情報収集と次の発生場所の特定、そして
可能であればそのパラメータ変更…これらを要求、実行させて俺達は俺達の世界に戻る!
 ……どうだ、これが8小隊の今後の目標だ」

 再び沈黙が指揮車の中を支配する…しかしその沈黙は先程の絶望や戸惑いとは違い、別世界と言う暗闇の中
でシローがこじ開けた一筋の光をそれが本当の光と確認するまでの沈黙、示された道を確認して自分の物にす
る為の沈黙であった。
「じゃ…じゃぁ……俺達帰れるんですね!?」
「ああ、相当に困難な道、ではあるがな」
「それだって0よりはマシだよ!
 さっすがシロー、伊達に隊長はしてないね!」
「超常現象を定義できない以上、確かにそれしか方法は無いですね」
 お互いの顔を見、お互いの顔に希望が戻っているのを確認して自分も希望を強くする…そんな事をお互いの
顔を見回しながら続け、シローとカレンとサンダース軍曹とミケルとキキに自然と笑顔が戻り、これから立ち
向かうであろう困難と戦う決意をみなぎらせる。
 それを見てシローは再び口を開いた。
「俺が皆を元の世界に帰してやる…だが、これからの俺達の行く先は想像以上に困難な物となるだろう…その
確率は低く可能性は小さい。
 だが、だからこそ、8小隊全員の――もちろんキキも――力を一つにしてこの困難な状況に立ち向かい、
誰一人欠ける事無く成功の美酒を分かち合おう!
 これからの戦争は俺達が生き延びる為だけではなく、俺達が故郷に帰る為の戦いだ!」
「よ~し、まかせときなシロー!」
「隊長~僕はやりますよ!」
「自分は今まで通り、隊長を信じて行きますよ」
「ったく…他にいい案も無いし…やりますか!」
「具体的には、まずどうします?」
「カレン、サンダース、ミケルはMSをこっちでも使えるようにして陸戦Gで戦える体制を整えよう。
 俺達が十分戦える事を示さなければならないからな。
 そして核ジェネレータやミノフスキー粒子、戦術やソフトウェアの提供を見返りにして連合上層部との接触を図る。
 その為にはこちらのコンピュータと向こうのコンピュータを接続できた方がいいか…消耗品や消耗部品もど
こまで使えるか見極めないと…そういえば武器もそろそろヤバイか……やることは多いぞ!」
「あたしは、シロー?」
「キキは民間人という立場を利用してAAの乗員の中に浸透してくれ。
 そしてAA乗員の人柄とか人間関係とか噂とか、こっちの世界の常識や風俗…俺達が知らない情報を集めて
俺達が下手を打たないようにフォローしてもらう。
 まず当分はこの艦で寝泊りするんだ…うまく立ち回らないと人当たりが悪化するどころか逮捕や監禁されかねない」
「噂集めねェ…確かにその辺を出来るのはあたしぐらいだろうし、その辺を間違えると最終目的までたどり着けないね。
 うん、任しておきな!」
「よし、やるぞ!
 みんな力を貸してくれ!」
「「「「おお~~~っ!」」」」

シローの伸ばした右手に全員が右手を乗せ、気合を上げるカレンとサンダース軍曹とミケルとキキ。
 その瞳には長い戦いを戦い抜く決意と意思が宿っていた。

 ……そして同時に、シローはもう一つの決意を秘めていた……。

『カレン、サンダース、ミケル、キキ…俺が必ず、皆を元の世界に帰してやる…。
 しかし…この世界には無い技術を渡すという事は…この世界の戦争をより拡大させその被害者を増やす非道
な真似に他ならない…俺はこの世界に更なる混乱と死を撒き散らす疫病神だ。
 ……だが…その咎は俺が全て背負う…罪は俺が全て償う、罰は俺が全て請け負う……!
 戦争に協力するが…なんとしても被害は食い止めよう。
 もし帰れる時が来ても俺は戦火が拡大したこの世界に一人残りこの戦争の最後まで責任を取る。
 そして戦争が終わったらその復興に手を尽くしこの世界の為にこの身を捧げよう。
 だからお前達だけは、必ず俺が元の世界に帰してやる……!』

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