第一話「そして三人は揃う」(後編)
逃げる、逃げる、逃げる。
「・・・・・・シ・・・・ン」
逃げろ、逃げろ、逃げろ。早く逃げないと、
「・・・起・・・・ろ・・・シ・・・・」
奴に、
「・・・起きろ・・・・シン・・・・」
殺され・・・・・・
「起きろ!目を覚ませ、シン!」
「!」
誰かかが肩を揺さぶる。目を開ければそこには見慣れた金の髪と青い瞳。
「・・・・・っ、レイ!レイなのか!」
「シン!目を覚ましたのか。随分うなされていたが・・・・・」
「あ・・・・ああ・・・それよりもここは・・・・?」
「解らん・・・暗くてよく解らないが・・・どこかの倉庫のようだ。俺も目を覚ましたばかりでな・・・・」
徐々に意識が覚醒してくる。どうやら自分は地べたに寝かされていたらしい。身を起こして辺りを見渡すと、暗くて自分の周囲以外は何も見えないが、どうやら倉庫か何かのようだ。
「そういえば・・・レイ・・・どうしてお前こんな所に・・・!まさかお前もあの男に襲われたのかよ!・・・・」
隣をうかがえば私服姿の自分の友人。その美しい顔の頬のは何かの切り傷のようなものが有った。
「ああ・・・・・公園に散歩にいった所で突然にな・・・。その言い様だとお前も襲われたようだな。」
「変な黒服の二人組みに・・・それに・・・・っ!」
「?どうしたシン!顔色が悪いぞ・・・・」
「あ・・・ああ。大丈夫だよ。なんでもない。」
不意に脳裏をよぎる“あの男”。思い出すだけで体が震える異様な男。
「そ、そうだレイ。お前もあの男に会ったのかよ!」
「あの男?あの男とはだれの事だ?」
「?・・誰って、あの背の高い、コート姿の、妙に殺気だった・・・・」
「・・・知らないな・・・いや会っていたのかもしれんが・・・・。」
「・・・どういう意味だよ?」
「巴投げで二人共投げ飛ばしてやった所で後ろから誰かにシメ落とされてな。その男だったのかもしれん・・・・・・。」
「・・・って!レイが一撃でシメ落とされたのかぁ!」
「ああ・・・・・敵を返り討ちにして気が緩んでいたとはいえ、恐ろしくいい手際だった・・・・」
「・・・・・・・・」
レイはアカデミーでの軍隊格闘の他に私的に“JUDO”をやっている。(確か、KURUMA流とかいうやつだ)そのせいもあって、レイのアカデミーの格闘技に成績は上級生を含めてもトップクラスだ。それに反撃する暇すらあたえないとは・・・
「ほう・・・・・目が醒めたか。思ったよりも早いようだ。」
「「!」」
シンとレイの頭上から突如声が響く。声のした方を向けば、何時からそこにいたのか、壁から突き出たキャットウォークに1人の男が立っていた。
「あ、あんたは・・・・」
「・・・・・・・・・・」
男は長身痩躯で、その細い体をブランド物のスーツとトレンチコートに包んでいる。
歳はおおよそ二十代後半から三十代前半。長髪で、レイとまた違ったタイプの美形だが、その蛇のような鋭い視線のせいもあってか、ひどく酷薄そうな印象を受ける。
「「・・・・・・・・・・」」
先ほどと違ってあの異様な殺気こそまとっていないが、それでもどこかこちらの身をすくませるような威圧感がこの男にはあった。
「まあ・・・・私が眼をつけた男だ・・・そうでなくては困る・・・・。」
そういうと、男はどことなく“イヤな”笑みを浮かべる。その雰囲気に若干気おされながらも、シンは臆せず叫ぶ。
「何なんだよ。誰なんだよ、アンタは!」
そんなシンの問いに男は答える。
「私はジン・・・・ハヤト=ジン!これから先、貴様達に地獄を見せる男だ!」
「ハヤト・・・・・ジン・・・・・」
「地獄を・・・・・見せる・・・・・・?」
最初はあまりの物言いに怪訝な様子を見せるシンとレイ。しかし・・・
「ふ、ふざけんなよ!何なんだよ!アンタ訳わかんねえよ!いったいどういうつもり何だよ!突然襲ってきて、こんな所にいきなり連れて来て!」
「・・・・いきなりそのようなことを言われても混乱するだけだ。いったいどういうつもりで俺達を拉致した。納得のいく説明を・・・・・」
ハヤトに噛み付くシンに、冷静に問い掛けるレイ。だが・・・・
「知った事か。」
「っ、はあっ!」
「・・・・・・」
「お前達の自由意志など私にはどうでもいいことだ。私にとって必要なのはお前達のその優れた肉体・・・・そしてタフな精神力!それだけだ!お前達の都合も考えも私の知った事ではない。私が必要だと言えば必要なのだ・・・・」
「な、何様だよアンタ!」
「・・・・・・・・・・」
無茶苦茶だ。無茶苦茶すぎる。思わず言い返すシンに、黙りこくるレイ。
その時・・・・
「いくらなんでもその様な言い方はないのではないのかね、ジン君。」
「ほーう。中々イキのよさそうな連中じゃあないか・・・・・。」
突如響き渡る2つの声。一つは、成熟した男性の、どこか聞き覚えのある声。もう一つはしわがれた老人の声。
「何だよ・・・・今度は誰だよ・・・・・」
(!・・・・この声は・・・・・・)
キャットウォークの上に新しい人影が現れる。長い黒髪を揺らした、端正な顔に柔らかい雰囲気を纏った男。それに、白衣を着た、禿げ上がった頭の半分が火傷のようなもので覆われた、不気味な老人だった。
「「なっ!!!!」」
二人は黒髪の男の方には見覚えがあった。いや、プラントで彼の顔を知らない方が少数派だろう。なぜなら・・・・
「デュ、デュランダル議長ぅうううううううううう!!!!!!」
「ギルッ!!!!!!!!!!!!」
現プラント最高評議会議長、ギルバート=デュランダル議長その人なのだから。
「レイ・・・・それにシン君だったね・・・。」
「・・・・・っ!は、はい!」
「ギ・・・いや議長!これは一体・・・・・・」
途端に硬くなるシンに、困惑するレイ。
「どうやらジン君の“テスト”には二人共無事合格したようだね・・・」
「は、はいっ!・・・・って、テストぉ!あっ、あれがですか!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
素っ頓狂な叫びを上げるシンに、様子見のつもりか、沈黙するレイ。
「?“あれ”?・・・・・ジン君・・・彼らに何をしたのかね?」
シンやレイの様子に怪訝な顔をするデュランダル議長。それに対し・・
「腕に覚えのあるゴロツキを雇って襲わせました。」
ハヤトは何の悪びれも無く答える。あまりのことに絶句する議長。なぜか嬉しそうな顔をする白衣の老人。
「・・・そんなことをしたのかね・・・・いくら・・・」
再起動して咎めるようにハヤトに言う議長。しかし、
「普通のやり方では“適任者”は選べません。我々は普通の人間など必要としていないのですから。」
議長に対しても何の遠慮も恐れも無く反論するハヤト。その様子にシンとレイは眼を丸くする。
「そう!“ゲッター”には普通の人間など必要ないのです。いかなる恐怖にも逆に喰いついて来るやつでなくては・・・・・」
「げ、下駄?」
「いや、シン。いくら何でもそれは無いだろう。」
見当違いなことを言うシン。それに突っ込むレイ。
「実際彼らに見せた方が早いのではないのかね、“ゲッター”を・・・・・。」
そう言い出したのは今まで沈黙していた白衣の老人だ。老人を見ながらレイは少し考えるような仕草をして問いかける。
「ひょっとして、貴方はシキシマ博士ではありませんか?」
すると、老人は少し驚いたような様子を見せ、そして首を振って肯定の意を表す。
「レイ!この爺さんを知ってんのか!」
「ああ・・・・・シキシマ博士。ZAFTにおける兵器開発、特にMSや兵士の携帯武装の開発の中心にいる人物で、他にもプラズマエネルギーの研究の第一人者でもある万能の天才、といわれている人だ。」
「わしのことを知っているとはなかなか・・・・まあ良い。ハヤト君、“ゲッター”を見せてあげなさい。」
「博士・・・・いいでしょう。ライトを付けろ!」
ハヤトが叫ぶと暗い部屋に明かりがともる。すると・・・・
「・・・・・なっ!MS!」
「いや・・・・・・違う。」
シン達の左側前方に浮かび上がってきた巨大な姿。二本の角に、黄色の鋭い双眸、標準的なMSよりも一回り大きく遥かにがっしりとした灰色の体躯。その姿は・・・
「・・・・鬼・・・・・・・・」
「“オニ”?シン、オニとは何だ?」
「ああ・・・・オーブに伝わる御伽噺に出ててくる化け物だよ。色が赤か青なら丁度こんな感じで・・・・」
「ふっ・・・・・鬼・・・ね・・・」
シンの例えを聞いて何か含むものがあるように微笑むハヤト。
「ジン君、どうかしたかね?」
「いえ、議長何でも有りません。それよりも・・・シン!レイ!」
突然名前を呼ばれてはっとハヤトの方を向く二人。
「な・・・・何なんだよ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「これがお前達が乗り込むもの。そう、これこそが・・・・・」
“ゲッター”を見つめながら言うハヤト。つられて“ゲッター”を見る二人。
「ZGSR-X03・・・・・ゲッターロボだああああ!」
「ゲッター・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・ロボ」
二人の視線の先、奇妙な威圧感の放つ灰色の巨人が聳え立っていた。