491_第02話

Last-modified: 2007-12-02 (日) 17:48:56

第2話「巻き込まれる運命」



「くそっ、いい加減ここから出せ!」

 もう何度目かの言葉を叫びながら扉を蹴りつける。結果は変わらず、鈍い音を立てるだけでへこみもしなかった。

 もう半日ほど経っただろうか、この窓もない白一色の部屋に閉じ込められたシンはげんなりと溜め息を吐いた。

「本当になんなんだよ、いったい……」

 壁に背をつけてずるずると座り込む。

 ――あの後、達人と名乗った青年に保護される形でこの早乙女研究所に連れてこられた。半ば、というか尋問同然の取り調べを受けた後、この部屋に叩き込まれた。パイロットスーツを脱がされた挙句に拘束服を着せられて、だ。なんて研究所だと愚痴りたくもなる。


 もっとも、ここは研究所という名前は建前ではないかと疑うほど物騒な造りと設備の数々ではあるのだが。

 あのゲッターというロボットの他に一部の職員が銃火器を携帯していたり、白いゲッターのパイロットと思われる人間がどこかの軍人ではないかと思うほどの年季を感じさせる体格のいい男たちであったり……などなど。


 極めつけはこの研究所の所長――早乙女という男だった。

 初老はとうに過ぎた風貌でありながらギラついた視線はこちらに有無を言わせぬ威力を放ち、全身からにじみ出る迫力は思わず息を詰まらせるほどだった。

 オマケに下駄履きだ、はっきり言ってありえない。

「いや……」

 ありえるはずのない、しかし状況から考えられる可能性がひとつ。

 ここの職員やパイロットたち、そして聞きなれない訛りの日本語……

「まさか、日本……じゃないよな?」

 自問するが、巨大ロボットや鬼と比べればまだありえる話だった。

 もっとも北海からなぜここに来てしまったのかという問題が再浮上してしまうが。

 ――わけが分からない。

 ゲッターロボ、そして鬼、分からないことがあまりにも多すぎた。

 粗末なベッドに足を投げ出し、壁に背を預ける。とにかく今は呆れるほどに情報がない。こうして捕虜同然の扱いを受けている以上、自分にはなにか用があるということだろう。場合によってはすぐにでもここから逃げ出さなければならない。腕を封じられてどれほど動けるかが問題だが、二、三人程度ならなんとかなるだろう。


 逃げたところで、行くあてがあるのかも分からないが。

「…………」

 目を閉じる。分からないことに無理矢理答えを出そうとしても混乱するだけで意味がない。

 ――まどろみに落ちる途中、尋問であまりにも常識的なことばかり聞かれたことを思い出したが、疲弊しきったシンの精神は思考を拒絶して深い眠りに落ちていった。





 早乙女という男は異常であり、冷酷であり、そして天才だ。

 科学者でありながらおおよそ世間一般のイメージからは限りなく掛け離れており、常識では考えられないような無茶を平然と行う。

 時に息子である自分ですら理解しかねるようなことすら、である。例えその結果が有益なものを導き出したとしても。

「父さん、入るぞ」

 返事を待たずに扉を開ける。そこには予想した通り黙々と机に散らばったレポートを読み耽る父の姿があった。

 またゲッターロボ――『本当の』ゲッターロボのパイロット候補の資料でも読んでいるのだろう。

「……なんだ?」

「プロトゲッターの炉心の調整が終わった。それと、イーグル号の可変テストが終わった。若干反応が遅れてる」

 目線が決して交わることのない会話。それはいつもの光景だった。

「まだ安定せんのか」

「構造がプロトゲッターとは違うんだ、誤差が出るのも……」

「それでは遅いのだ、なんとしてでも奴らの本格的な侵攻が始まる前に前に完成させねばならん」

 肩越しに睨まれる。年老いた男のものとは到底思えない眼力に反応し、汗が頬を伝う。

「鬼はすでに現われているのだ、急がねば……」

 そう呟き、再び資料に目を向けた。鬼気迫る、とはまさにこのことだろう。

 この状態になったら話は終わりだ。ゲッターを真に御することが出来る人間を求めることに没頭し、何の反応返ってこないだろう。

「そういえば父さん、あの少年はどうするつもりだ?」

 踵を返し、部屋を出ようとしたところで気にかかっていたことを尋ねた。答えなど期待していなかったが、意外なことにすぐに言葉が返ってきた。

「あの小僧は、面白い」

「面白い?」

 聞き返すと意味深な笑みと共にこちらに目線が向けられた。

「お前はあの小僧の話をどう感じた?」

 あのあまりにも荒唐無稽な単語の数々思い出す。コズミック・イラ、連合、ザフト、ナチュラル、コーディネイター、そしてモビルスーツ……

「……はっきり言ってマトモじゃない。今すぐにでも病院に連れて行くべきだ、と」

「まぁ、普通ならそう考えるだろうな」

 だが、という言葉とともに数枚のレポートが差し出される。見たところパイロット候補の資料ではないようだ。

「これは?」

「あの小僧が着ていた服を調べてみた。まだ完全ではないが、それだけでも大体の推測は立てられる」

 ざっと目を通す。材質、各所に付けられた装備、それらを総合してこれがどんな用途で着用されるものであるのかが浮かび上がってくる。

「これは……」

 そしてひとつの結論に達する。あまりにも突拍子もない結論に。

「宇宙服、なのか?」

 それしか考えられない。だがこんな小さなサイズの宇宙服や生命維持装置、姿勢制御ユニットは見たこともなかった。

「いったいどこの……いや、それよりあんな年端もいかない少年が何故こんな装備を?」

「それだけではない」

 そう、レポートにはまだ続きがあった。何かに急かされるようにページをめくる。

「塩基配列? なんでこんなものを」

「きっかけはあの小僧の目の色だ」

 目、あの真紅の瞳が頭に浮かぶ。

「あれはカラーコンタクトなどではない。生まれつきあの色だったそうだ」

「何?」

「それを聞いて調査した。不自然な遺伝情報があったらしい、何かしら手を加えない限り決して発現することのないような、な」

 ――馬鹿な。

 という言葉をなんとか飲み込む。言うべき言葉はそれではない。

「じゃあ……父さんは彼をどう考えてるんだ?」

「それは最後まで読んでから聞くことだ」

 最後……レポートの最後の1ページを見る。

 そこにあったのは例の宇宙服から検出された『あるもの』の情報が載せられていた。

「通常の10倍以上の、ゲッター線……!?」

「ワシの考えはただ一つだ」

 顔を上げると、より一層凄味を増した顔があった。

「あの小僧はここではない、別のどこかからやってきたのだ」





 ――ガシャン!

 重い施錠が開けられる音で目を覚ます。

 視線を向けると屈強な男が二人、こちらを見ていた。

「出ろ」

 突然のことに戸惑ったものの、言われたとおりにすることにした。

「どこに連れて行くつもりだよ」

「来れば分かる」

 チ、と舌打ちをしつつ立ち上がる。

 逃げるにしてもここには監視カメラがある。例えわずかでも逃げたことに気付かれるのは遅いに越したことはない。

 前と後ろに一人ずつ、この研究所の通路の狭さも含めれば四方をほとんど塞がれた形で歩き続ける。

 まるで迷路のように入り組んだ通路を進みながら死角を探す。

(……ここなら)

 ただでさえ照明の少ない通路でも一際暗い場所。部屋もなく、人の気配は感じられない。

 ――足に力を溜める。まずは後ろ、次いで前を歩く男が気付く前に薙ぎ倒す。一瞬でも遅れれば後はない。

(よし……!)

 弾けるように跳ね上がろうとした足は、しかしその寸前に両肩を抑えつけられて不発に終わった。

「ぐっ!?」

「やめておけ」

 万力に締め上げられるような痛みに顔をしかめる。首だけで後ろを見やるといつの間にここまで距離を詰めたのか、巨漢がグローブのような手でこちらの肩を握り締めていた。


「連れて来いという指示は受けているが、五体満足でとは聞いてない」

「そういうことだ、痛い目を見たくないなら大人しくするんだな」

 前を歩いていた男も不敵な笑みを向けている。完全に見抜かれていたらしい。

「まぁ、それぐらいハネッ返りが強いんなら期待できそうだ」

「何……ぐっ!」

 疑問が口から飛び出す前に突き飛ばされる。

「とっとと歩け」

「クソ……」

 主導権は完全に掌握されていた。両腕が使えない上に奇襲も通じない相手が二人では分が悪いどころの話ではない。

 ――それからしばらくの間、静寂を保ったまま歩き続けるしかなかった……



「……これは」

 連れてこられた場所は外だった。巨大な山の斜面に建てられた研究所のさらに下にはまばらな森林とわずかな平地が広がっている。

 ――そこに立ち並ぶ二体の巨大な人形(ヒトガタ)。

「たしか、ゲッター……?」

 あの瓜二つの巨大ロボット、ゲッターロボが向かい合っていた。

「達人から聞いてたんだったか?」

 前を向いたまま問いかけられるが、どう答えていいのか分からずそのまま付き従う。

「ま、別に何がどうっていうわけじゃないがな」

 だったら聞くなよ、と思いつつ目の前の白いロボットを見つめる。

(やっぱり、MSとは全然違う)

 外観だけではなく、基本構造からしてまったくの別物であることは間違いない。いったいどこの作ったものなのか、ここが本当に日本なら連合ということになるが……

「おい、転ぶなよ」

「え? ってうわっ!?」

 いつの間にか――思案に気を取られていたせいだが――昇降車に乗せられ、上向きの力のベクトルにバランスを崩しそうになる。

 ロボットの足元から腰へと徐々に上がっていき、そして胸部のあたりで止まった。

 ハッチ、というかキャノピーが開かれており、コクピットの中が見えた。やはりMSとはまったくの別物だ。

「動くなよ」

 ザクッという音とともに固定されてた腕が自由になった。

「どういう……」

 と聞き返す間もなく頭に何か被らされる。かなり重い。

「なんだよこれ!?」

「何も知らないお前にいろいろと教えてくれる便利なヘルメットだ」

「はぁ!? ふざけんな外せ!」

 抗議するがあっさりと無視され、両側から抱えられてコクピットに放り込まれた。

「っ、何すんだよ!?」

「ちょっとしたテストみたいなものだ」

 キャノピーが閉じられる。二人の男はニヤニヤと笑いながらどこから取り出したのかヘッドセットを頭に付け、

『運が良ければ……いや、お前に実力があったならまた会おう』

 と言い残し、視界の外に消えた。

「テスト? って」

 正面のモニターを見る。正面に立った赤い巨人がこちらを睨み付けていた。

 まさか、と思った瞬間、脇の画面にノイズが走り、メットを被った男が映し出される。

「アンタは……」

 見覚えがあった。確か自分にこの機体の名前を教えた……

『シン・アスカ、だったな?』

 混乱したこちらの事情など知ったことではない、という態度で早乙女達人と名乗った

男が語りかけてきた。

『これからお前を殺す気で仕掛ける。死にたくなかったら全力で足掻け』

 ――まて。

 今なんて言った?

「う、嘘だろ……?」

『さぁ、いくぞ!』

 慌てて正面を向くと巨人が姿勢を低くしながらこちらに突っ込んでくる姿があった。

「嘘だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 反射的に両側に配置されたレバーを掴むが、その行為も虚しく盛大にブン殴られた。

 ――あまりにも現実的な衝撃と痛みが、夢だと逃げたがる思考を否定していた。





 早乙女博士の謀略によってプロトゲッターに閉じ込められたシン

 立ち塞がるは早乙女達人の駆るプロトゲッター!



 唸るゲッタートマホーク! 煌くゲッターレザー!

 ゲッターを熟知した男を相手にシンのSEEDが覚醒する!



 次回! ゲッターロボ運命(デスティニー)第三話

 『試練の刻』

 に、チェンジ・プロトゲッター!






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