491_第03話

Last-modified: 2007-12-02 (日) 17:49:38

第3話「試練の刻」



 巨大な赤い拳が白いゲッターの顔面に叩きつけられ、巨体が地面から浮いた。

 40mもの巨体が冗談のように弾き飛ばされ、轟音を建てながら斜面に叩きつけられる。

その一部始終が早乙女研究所の司令室に大きく映し出されていた。

「達人……! 俺のゲッターだってことわかってんのか!?」

「落ち着け蛭田。あの程度じゃ装甲がちょいとばかし凹むくらいだろ」

「お前なぁ、人事だと思って……」

 一角には灰色のパイロットスーツに身を包んだ男たちがいた。がなり立てる男とそれをたしなめる男はつい先ほどシンをゲッターまで案内した二人である。他にも黙って見


守るもの、感嘆して口笛を吹くもの、何分持つかで賭けを楽しむものなど様々である。

 一方で早乙女博士はオペレーターの一人とモニターを見つめていた。

「どうだ?」

「脳波ヘルメットは正常に機能しています。操縦に関する思考は神経バイパスを通じて

自動で実行されるはずです」

 早乙女博士が正面の巨大なモニターを見やる。派手に倒れこんだシンのプロトゲッターがのろのろと立ち上がろうとしていた。

「……反応は遅いようだな」

「はい、どうしてもヘルメットを通さなければいけませんから」

 別のウインドウが開かれる。常に変動するグラフは達人とシンのデータがリアルタイムで表示されていた。





「全自動化によるタイムラグか、これでは実戦で使うことはできんな」

「しかし別の用途でなら問題ありません。少なくとも、機体の動きを肌で感じるだけなら完璧です」

 再び轟音が響き、司令室にいる全員の視線がモニターに向けられる。

 達人のゲッターの蹴りを受け、シンの乗る巨体が大きくバランスを崩していた。





「ぐっ、こンのぉ!」

 立ち上がった直後に今度はちょっとしたビル並の脚が繰り出され、またも直撃をらった。崩れそうになるバランスをなんとか立て直し、後ろへ飛び退く。

「なんで俺がこんな目に!?」

 悠然と立ち塞がる巨人を睨む。

 さっきから混乱しっぱなしだ。それどころかさっきから頭の中に妙な知識が流れ込んでくるわ立ち上がろうと考えたところで勝手に身体が動いて立ち上がるわ機体がどのよ


うに動いているのかが鮮明に感じ取れるわ――MSではこの動きを感じるのに一番苦労した――、現在進行形で疑問が増え続けていた。

「このまま……やられてたまるかぁ!」

 激情に任せてこちらから突進する。力づくで押さえ込もうと両腕を伸ばすが、阻まれて両手を組み合う形で対峙した。

「おい、聞こえてるんだろ!? なんでこんなことするんだよ!」



 ギシギシという鋼の軋む音を肌で感じながら叫ぶ。打開策を立てる時間稼ぎのために取った行動だが同時に本音でもあった。

「なんでだと? 聞いているはずだ、これはテストだと」

「だからなんのテストだ!?」

 レバーを押し込む。どうやらパワー自体にそれほど大きな差はないようだ。

「お前がどんな存在でどれほどの実力を持っているのか、それを試させてもらう」

「殺すとか言っておいてそれかよ!」

「力がなければ死ぬだけだ。ゲッターに関わった人間はすべてな」

 グッ、と押し返される。このまま手を離し下がることも考えたが、そのまま追撃してくることが容易に想像できた。その場で踏みとどまる。

「お前たちはいったいなんなんだ? やっぱり地球連合か?」

「連合、か。尋問のときにもそう言っていたな」

 声に苦笑が混じるのを感じた。その態度に苛立ちが募っていく。

「何が……おかしい!!」

「後で教えてやる。もっとも……」

 グンッ、と両腕が持ち上げられる。力のベクトルを自然に変えられたせいか、抵抗する暇もなく胴体ががら空きになる。

「この戦いで生き残れたらの話だがな!」

 間髪いれず膝蹴りが叩き込まれる。凄まじい衝撃でシートから投げ出され、モニターに頭をぶつける。



「づっ!?」

 さらに追撃。鋼鉄の拳が最初の一撃以上にシンのゲッターを宙に浮かばせた。

「んがっ!?」

 直撃と落下の衝撃で今度は天井に頭を打ち付けられ目の奥で星が瞬いた。

 ヘルメットを被ってるとはいえ既に脳みそがいい感じでシェイクされて意識が飛びかけていた。

「クソ……」

 急いで機体を立ち上がらせる。二度目だからか先ほどよりも早くできた。

 考える。不透明な頭で必死に考える。

 ――何か手はないのか、現状を少しでも変えられるような手は。

「そうだ、武器!」

 思い出す。鬼と戦ったとき目の前の巨人は斧を使い戦っていた。

 同系統であるだろうこの機体にもそれが装備されているかもしれない。

「武器……武器を!」

 考える。その手段はわずかな時間差で頭に浮かんできた。

 ――装備の名前を叫んでレバーを押し込む。

 なるほど、音声認識でレバーがマルチ入力になるのか。

 なんて親切設計。複雑な操作は一切不要、これなら小さなお子様でも安心して使えることが……

「ってなんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 原理不明なトンデモ科学(仮称:「考えるんじゃない感じるんだ」テクノロジー)に思わずノリツッコミを入れてしまったシンに四度目の衝撃が襲い掛かった。





「が、ぁ……!?」

 地面に倒れこむ衝撃を身体全体で感じ、機体を起き上がらせることも出来ないまま不確かになった視界が赤い巨人を捉えていた。





 ――結局、この程度か。

 倒れこんだままの機体を見下ろしながら達人は思う。

 ――いったい何を期待し、あるいは恐れていたのだろうか?

 そして思い出す。わずか数時間前、父の部屋で交わされた会話を。



「あの小僧はここではない、別のどこかからやってきたのだ」

 しばし思考が硬直する。言葉の意味を理解するのに数秒かかった。

「ちょ、ちょっと待ってくれ父さん」

 言いながら頭を振る。はっきり言ってしまえば馬鹿馬鹿しいにもほどがある結論だ。

 しかし、

「ゲッター線がただのエネルギーではないことはお前も分かっているはずだ」

 ――そう、自分自身が否定できずにいる。

 あの日のゲッターの起動試験での事件、そして研究所の地下深くに隠された『あれ』が馬鹿げた仮説であるという思考を塞いでいる。

「だが……もしそれが本当なら何故そんなことが?」



「そこまではわしにも分からん。だがそれがゲッター線の意思であるというのなら、それには間違いなく理由がある」

「ゲッター線の、意思……」

 父が受けた啓示。政府からの要請で推し進められたゲッター計画の最中、それまでまるで安定しなかったゲッターの研究が鬼の存在が明らかになると共に急激に進んでいっ


たこと。

 それから幾度かゲッター線に意志があるのではないか、という話は聞いていた。

 今の今まで眉唾物であると思っていた、いや思い込もうとしていたのだが……

「あの小僧を試す」

 その言葉で我に返る。どうやら父は先のことまですでに決断しているようだ。

「試す……まさか彼をあれのパイロットにするつもりなのか?」

「だからこそ、試すのだ」

 断固とした口調。もはやこの決意を止めることは無理だろう。

 いや、

「……わかった、ただしその役目は俺に任せてもらえないか?」

 元より止めるつもりなどなかった。彼を見極めたいのは自分も同じだということに気付かされたからだ。

「好きにしろ。どんなやり方でも構わん」

 ――その言葉に頷く前から、自分の中ですでに方法は決まっていた。

 プロトゲッター二機による実戦。無論、徹底的に追い詰めて相手の力を引き出すために本気で破壊する覚悟もこのときには固まっていた。





『――――は』

 通信機からわずかに聞こえた声に意識を引き戻す。

 いまだ倒れたままだが、拙い動きで立ち上がろうとしていた。

「…………」

 このまま追撃することも考えたが、止めた。どうも様子がおかしい。

『はっ、ははは、あははははははははは!』

 白い巨体が幽鬼のようにユラリと立ち上がる。

 我知らずレバーを握り締めていた。

『ふざッけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 ――吼えた。スピーカーが壊れかねないほどの声量で。

『さっきからワケの分からないことばかり! こんな非常識な、いや非現実な、いや非合理的な、いやもうなんでもいい! とにかくこっちはもう考えるのも止めたくなるぐ


らい大混乱のバーゲンセールなんだよ畜生! だいたい何なんだよこのロボット! シートベルトすら付いてないじゃないか! 欠陥か? 欠陥品なのか!? んな危険なモンに人間乗せるんじゃねぇよ馬鹿! この馬鹿! それにわざわざ叫ばなきゃ武器を使えないって! そんな無意味なハイテクっぷりを発揮するくらいならスイッチひとつで二体の相手をワンパンで粉々に粉砕するような簡単便利で万能なモノのを作りやがれ!

その原理と利点を懇切丁寧に余すことなく300文字以上500字以内で説明しろこの野郎! あぁもうなんでもいいからとにかく! お前は! 俺が! ブッ倒す!!」


 ビシィッ! という音が聞こえそうな勢いで白いゲッターの指が突きつけられた。



「…………」

 …………

 嫌な沈黙が場を支配した。

 なんかこうヤバそうなスイッチ押してしまった、というような。

『なんとか言えっ! こっちはもう怒り骨髄で今にも爆発しそうなんだよ!』

 ――コイツは、

「……それは悪かった」

 ――今わかった、コイツは、

「なら遠慮せず爆発してくれ」

 ――馬鹿なんだ。

 だがあるいはそんな人間がゲッターに相応しいのかもしれない。

 自分のように常識に囚われ過ぎて考えすぎるような人間よりも。

『言ったなァァァァァァァァァァァ!』

 来る。圧倒的な気合を持ってシンが迫る。

「なっ……!?」

 その動きは、

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』

 今までの動きとは比べ物にならないほど疾く、

 達人は初めてまともに反応することもできず一撃を入れられた。







「な、なんだ今の動きは!?」

「反応が急に良くなった……? いや、それにしてもここまで差が出るなんて」

「達人に一発喰らわせた? あのガキがか!?」

「まぐれだろ? いくらなんでもあの達人が……」

 司令室は刹那の出来事に騒然となった。

 一撃、たった一撃。

 だがその一撃は確かな衝撃を与えていた。

 達人の駆るゲッターにも、司令室のゲッターを知る者たちにも。

 その中でただ一人、冷静に画面を見つめる男がいた。

「これか……」

 男――早乙女博士は冷静に、だがその内で湧き上がる興奮を必死に抑えていた。

「これなのか、ゲッター線よ……!」





「くっ……」

 油断していた。

 いやそれだけではない。明らかに反応が上がっていた。

 ――キレた、とはまた違う。先ほどシンが言ったとおり爆発という表現が相応しいかもしれない。

 かろうじて転倒は免れたが、すぐさま二撃目が迫る。





「ゲッタァァァァァァウィィィィァァング!」

 背部から流れ出るようにマントが展開すると同時に跳躍する。重力の枷から解放されたゲッターは一瞬にして数十mの高さまで飛び上がり、シンの機体から間合いを取りつつ着地する。


「ふ……」

 ――面白い、本領発揮はこれからか。

 じわりと額に汗が浮かぶ。静かな昂りが全身に行き渡り、心身が引き締まる。

「さぁ、戦おうか」

 自身にしか聞こえないほど小さな、しかし確かな気を吐いて達人は本当の意味で本気を出すことにした。





 ――理不尽だった。何もかもが理不尽だった。

 シン・アスカにとって理不尽とは耐え難いものだった。敵と断言してもいい、とにかくそれほど嫌悪の対象だった。

 それは例えば一人の指導者が我を通したがために家族が死んでしまったことであったり、自分と幾年も離れていない少女が戦うためでしか生きることを許されないことであったり、その少女を止めようとしたのに横から入った蒼い翼のMSが彼女の命を奪っていったことであったり……






 理不尽はすべてを奪っていった。大切なものも守るべきものもみんな奪っていった。

 ――だからこそ、キレた。この状況に。

 人のことを勝手に巻き込んだ挙句試すだの殺すだのとさらに勝手なことばかり言う男たちに怒りが燃え上がった。

 躊躇や容赦などは既にない。混乱も今は奥底に封じ込めた。

 今、頭にあることはただひとつ、

(その亀の甲羅みたいなツラに、鋼を叩き込んでやる!!)

 そう思った瞬間、彼の中で何かが弾けた。

 神経が研ぎ澄まされる、視界が広がるような錯覚を覚える、自分自身の鼓動すら聞こえてきそうなほど集中力が増し、機体の指先まで気を張り巡らす。

 ――同じだ、フリーダムと戦った時と。

 このヘルメットのせいか、MSよりもさらに機体との一体感を強く感じる。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 一気に距離を詰め、拳を振るう。

 先ほどまで手も足も出なかったことが嘘のように容易く当たった。

「まだまだぁ!」

 連続して突きを繰り出す。だが今度はかすりもせず拳は空を貫いた。

「速い!?」

 凄まじい速度で飛び上がった影を目線で追う。天高く舞い上がった赤い巨人はマントをはためかせながら距離を置いて着地した。





 ――およそ200m、だがこの機体なら数秒とかからず接近できるだろう。

 だが肉弾戦による効果はそれほど望めないことは先の一撃で確信していた。多少の衝撃はパイロットはともかく機体に対してダメージにはならないらしい。

「使うか……」

 あまりにも異様な機構に面食らったものの、使えることは使えるのだ。今さら疑問に思うこともない。

「ぃよぉし! ゲッタァートマホーク!」

 レバーを押し込みながら叫ぶ。右肩のボタンから柄が飛び出し、引き抜くと同時に本体から片刃が姿を現した。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 斧を振りかぶりながら駆け出す。巨体の一歩一歩が大地を揺るがし、周りの山までも震撼させているのを感じる。

「くらえ!!」

 間合いに入った瞬間、大上段から斧を振り下ろす。肩口からわき腹にかけて無残な傷が刻まれる……はずだった。

「――クソッ!」

 赤い巨人は変わらず徒手、しかし振り下ろした刃は腕から生えた三連のカッターに阻まれていた。

『……トマホークの使い方がなってないな』

「うるさいっ!」





 使い慣れてないんだよ! と心の中で叫ぶ。

 二撃、三撃と立て続けに仕掛けるがそのどれもが小さな刃で防がれた。

「なんであんなもんで防げるんだよ!?」

『もっと重量を乗せるんだな。お前の一撃は軽すぎる』

「だまれぇ!」

 グンッ、と一回転して胴を薙ぎ払おうとするが斧を肘打ちで弾かれた。

「ッそったれぇ!」

 内心の苛立ちをぶつけるかのように振るい、薙ぎ、斬りつける。

 だが怒りに任せた一撃は容易く弾かれ、防がれ、そして避けられた。

「チィ……」

 一旦引き下がる。いつの間にか呼吸は乱れ、汗が目まで垂れてきそうなほど噴き出していた。

 額を拭いながら思考をめぐらせる。どうすれば当てられるか、不意を突くしかないのか……

『シン・アスカ、考えるな。下手な小細工に頼るだけでは生き残ることはできない』

「さっきからいちいち……ホントに何がしたいんだアンタは?」

 呼吸を整えて問いかける。芯に着いた熱はまだ冷めてはいないが、それでも心を落ち着かせることはできた。

『力を見るためだと何度言わせるつもりだ? だが、まぁいい』

 そこで言葉が切られる。何故か背筋に悪寒が走った。



『――死ぬ気で避けろ、ゲッターの本当の力を見せてやる』

 赤い巨人から再びマントが現われる。フワリと地上からわずかに浮かび上がるや否やこちらに向かって放たれた矢のように突進してきた。

 ――速い、だが二度目となれば見切りも容易い!

「もらったぁ!!」

 タイミングを合わせて斧を振るう。だが頭に鋼を叩き込もうとした刹那、赤い巨人は三つに『分裂』した。

「何ッ!?」

 反射的にその内の一つを目線で追う。捉えた姿は流線型の白い戦闘機だった。

「分離した!? あのスピードでかよ!?」

 驚愕しながらも振り向き様に斧を薙ぎ払う。背後に回りこまれたという勘からの行為だった。

 ガキンッ! という手ごたえを感じる。防がれたようだが隙を突かれることだけは防げたようだ。そのまま勢いで相手に向き直る。

「…………な、んで?」

 唖然とした。理解できなかった。

 ――背後で斧を防いだのは、見知らぬロボットだった。

 細身のシルエット、マジックハンドのような左腕、そして刃を受け止めている螺旋状のモールドが入った円錐状の物体――ドリルの右腕。

 先ほどまで戦っていたロボットと明らかに異なるものだった。





「なんで……なんでだよ!?」

 混乱したまま空いた腕で殴りかかる。しかし鋼が捉えたのは霞のように残った残像だけだった。

「は、疾すぎる!」

 螺旋の一撃が迫る。なんとか避けて直撃は免れるが、掠った装甲の一部が無残に抉られた。

 視界になんとか納めるのが精一杯だった。ロボットは白と赤の影を引きずりながら

嘲笑うかのようにこちらを翻弄する。

「このっ!」

 当てずっぽうで斧を投擲する。回転する刃が影を捕らえようと距離を詰めるがまたも三体に分離して鋼は空を切り裂いた。

 そして、今度はあますことなく総てを見た。

 高度をギリギリまで下げた白い戦闘機の両脇からキャタピラが出現する。それに赤い戦闘機が垂直に突き刺さり、続いた黄色の戦闘機が赤い戦闘機に埋もれるように合

体して蛇腹の腕が飛び出した。

「……無茶苦茶なのも大概にしろよ本当にっ!」

 出鱈目だった。荒唐無稽だった。

 うすうす感づいてはいたが、いざ現実を目の当たりにして叫ばずにはいられなかった。

 要するにあの三機の戦闘機は合体の組み合わせを変えることで全く別のタイプのロボットへと変形する、ということか。

先ほどのドリルのロボットもそのパターンのひとつであることは間違いない。



 グォッ、とキャタピラのロボットが腕を引き絞る。何のつもりなのかと考えた頃には伸びた両腕に殴り飛ばされていた。

「っ、こんな距離で……!?」

 リーチが違いすぎる。このままではマズイと距離を取ろうとするが、直後に相手の頭部から発射された二発のミサイルの直撃を喰らい地面に吹き飛ばされた。

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……がぁっ!」

 大地へと叩きつけられる。派手にバウンドし、粉塵を撒き散らしながら再度叩き落される。

 ――対応、仕切れない。

 三種が三種とも機能・特性・攻撃法があまりにも違いすぎる。実体は一つのはずなのにまるで三体の相手と同時に戦っていると錯覚させられる。

「これが、ゲッター……ゲッター、ロボ」

 言葉に込められたのは今まで感じたこともないほどの脅威と畏怖、そしてそれらの感情に埋もれるように存在する好奇心だった。

この状況下でありながらその力にどこか惹かれる何かを感じていた。

 ――三つの機体が、巨大な一つを形取る。

 倒れたこちらを見下ろすは赤き巨人。その腹部が展開し、中心の結晶が光を宿す。

 ……やめろ。

 光が膨れ上がる。

 ……やめろ。



 無理矢理知らされた情報がアレが危険なものであると告げている。

 ……やめろ。

 命乞いは、しかし恐怖に弛緩した精神に阻まれて言の葉を紡ぐことも許されず、

 ――やめろっ!!

 意味もなさない叫び声すら上げられず、

 シンは物理的・精神的双方の意味で彼方へと吹き飛ばされた。





『ゲッタァァァァァァビィィィィィィムッ!!』

 雄叫びとともに達人のプロトゲッターから一条の光が放たれる。

 破壊の奔流は倒れたシンの機体のわずか手前に着弾し、巨体ごと大地を爆裂させた。

 土砂に紛れて揉みくちゃにされながら地面を転がった白い巨体は斜面に激突し、そこからさらに転がり落ちて動きを止めた。

 ……司令室が沈黙に包まれる。

 数秒、数十秒、数分経ったところで無音の蚊帳は達人からの通信によって破られた。

『――状況終了。父さん、回収班を回してくれ』

 部屋にいるすべての人間がただ一人を注目する。

「…………」

 誰もが固唾を呑んで反応を待つ中、早乙女博士はたっぷりと時間を置き、

「――ご苦労だった」

 溜め息とともにそれだけを告げ、部屋から出て行った。









 達人に敗北したシン、だが失意を抱く暇もなくシンに非情な現実が突きつけられる

 この世界は? 仲間たちのいる世界は? 自分いったいどうなってしまうのか?



 そんな不安に晒されながらもシンはゲッターパイロットとしての訓練を積むことになる

 だが研究所には新たな鬼の魔の手迫っていた!



 次回! ゲッターロボ運命(デスティニー)

 『受け継がれるもの、散り逝くもの』

 に、チェンジ・ゲッター!








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