A.C.S.E_第03話

Last-modified: 2008-12-23 (火) 23:54:22

「…………」
 黙々とシンはコンソールを叩き、表示されるデータを読み込んでいく。しばらくその作業を続けてから、ふと思い出したように傍らに投げ出されていたボードを手に取り、ボールペンを走らせる。シンは記入が終ると同時にボードを放り投げて、再びコンソールに向き直った。狭い中で放り投げられたボードが機材と衝突して堅い音を立てた。
「どうですか、アスカさん?」
「………………」
 つなぎを着た男性がコクピット内を覗き込み、内部に座るシンに声をかける。
 シンの返事は無く、その手が止まる事もない。
「あのー、アスカさん? ……アスカさーん!!」
「――は、はい何ですかあ痛っ!?」
 業を煮やした整備員に怒鳴り声で呼びかけられ、シンは文字通り”立ち上がろうと”する。直後、シンはコクピットの低い天井に頭を強かに打ちつけた。
「ああ、大丈夫ですか。まったくもう、集中するのも大概にしてくださいよ……」
「す、すいません」
 呆れ顔で言う整備員はC.E世界の技術者だった男だ。
 基本としてC.Eから流れ着いた人間はこの世界に溶け込んで暮らしている。ただ彼のように少々特殊な技能を持つ人間の多くは”ここ”に集まっていた。
「まあいいですけどね。で、どうですか? 型は少しばかり古いですが、中身をだいぶ弄繰り回してみたんですが」
「そうですね。悪くないです。連合製は初めてですけど、コイツは乗り回しやすそうだ」
 シンは男の質問に、ごく簡潔な答えを返す。
「それは何よりです。OSの移植作業はもうそろそろ終りそうですね」
 男が横に立つ緑のMS――ザクウォーリアを指差しながら言う。ザクからは無数のケーブルが伸び、現在シンが調整を施している機体に接続されている。
「しかし、何なんです? アスカさんが使ってるシステム。まあ通常のOSやらサポートAIの観点からみれば、C.Eより数世代先程度――といってもこの魔法社会だと当たり前レベルなんですけど。あのMSウェポンとかいう代物はなんというか、未知すぎるというか。どっから持って来たんですかあんなもん」
「は、ははは」
 シンは苦笑を浮かべながら、濁すような返答をする。
 数世代先と未知。技術が優れているという点では同じ二つだが、そこには決定的な違いがある。それは、到達する見込みがあるか否かだ。
 数世代先ということは、技術が順当に進歩すればやがて到達する領域である。反して未知というのは到達する見込みがまったく見えないということである。
「――ま、それのお陰で私は働けるし、換装も凝った代物に出来た訳ですが。厄介ですよねえ、質量兵器禁止とか。私からMSの知識とったら何にも残りゃしないってのに」
 男は肩をすくめながら吐き出した。
 質量兵器禁止。この魔法社会における絶対のルールの下では、本来MSはその存在が許されない。長年の根回しと、倒すべき”敵”、そしてシン・アスカという”特例”が危ういバランスの元に噛み合って、何とか許可を得ているのが現状だ。
「許可はどれだけ下りました?」
「威力制限たっぷりですけど、ビーム兵器は下りました。ただ実弾兵器は軒並みNGですね。この分だと砲戦が心許ないです。まったく、折角の換装システムなのに」
「そういえば換装に関して何も聞いてないんですけど。武装パックは四つですっけ?」
「いや武装パックはエール、ソード、ランチャーの三つですね。ジェットは見送りました。エールでも空戦能力はあるので。あと換装はですね、少し挑戦的な代物でして、説明はそれが積めるかどうか判断してからということで」
 どう返答したものかと、シンが言葉を詰まらせ――そこで甲高い電子音が鳴った。
 即座にシンは日頃から使用している耳に付けた通信装置のスイッチを入れる。
『今何処に居る』
 簡潔極まりないレイの言葉がシンの耳に響く。
「格納庫。機体の調整してる」
『出撃だ』

 

 レイの言葉から数瞬遅れて、格納庫内に警報の音が鳴り響く。
 それまでMSの足元で作業していた作業員たちはわらわらと動き出し、シンと会話していた男も声を張り上げて指示を飛ばし始めている。
「わかった」
 通信機はそのままに、シンはコンソールを再び叩き出す。
「システムの移植は今終わった。武装パックは――」
 シンが男に視線を向ける。男は手でバツを作って首を横に振っていた。
「間に合わない。無しで出る」
『敵はガジェットⅠ型三十機。当然ながらMSの使用許可は出ていない。ウェポンに変換して出撃しろ。二十秒後に”上げる”』
「オッケー……出ます。ハッチ閉めるんで離れてください」
「お気をつけて!」
 モータの駆動音を小さく響かせながら、コクピットハッチがゆっくりと閉じる。コクピット内が暗闇に満たされるのは一瞬だけ。カメラで収集した周囲の映像をモニタが映し出す。OSが立ち上がり、鋼の巨体が静かに唸り出した。
 レイの言葉からきっかり二十秒後、モニタに映る景色がゆっくりと下降し始める。正確にはリフトに運ばれ、機体が上昇しているのだが。
 格納庫の天井が開き青空が覗いた。灰色の装甲が差し込んだ太陽の光に照らされ、鈍く輝いた。

 

 そして、リフトが地上に辿り着く。

 

 そこに先ほどまで格納庫でシンが乗り込んでいた鋼の巨人は影も形もない。取り外しが間に合わなかったケーブルが、名残のように散乱しているのみである。
 シンは歩き出しながら、自分の状態を確認する。
 服装はさっきまでと同じ管理局の制服のまま。違うのは身体の各部に灰色の装甲が装着されていること。そして右手に黒光りするライフル、左手に灰色の盾を持っていること。
『今座標を送信した』
 レイの言葉と同時に、”シンの網膜にデータが羅列された”。まるでMSのモニタに表示されるのと同じように。
 シンが軽く右手を動かし、体をひねると同時に、”MSの駆動音”に非常によく似た音が微かに鳴る。まるでシン・アスカという人間の関節がモータで稼働しているといわんばかりに。
 ぐ、とシンが身体を沈み込ませる。背中に付いた装甲に青い光がぼうと灯る。
「シン・アスカ――スローターダガー、いきますッ!!」
 スラスターの青い光が膨れ上がる。推力によって加速されたシンの身体が、地を滑るように突き進んでいった。

 

///

 

「凄く簡単に纏めてしまうと、ユニゾンデバイスの亜種やね」

 

 薄暗い部屋の中でモニタを指しながら、八神はやては同席する二人――高町なのはとフェイト・T・ハラオウンにそう告げた。
「発動原因は――」
 画が切り替わる。モニタの中では、輝く翼を放出した鋼の巨体が縦横無尽に空中を飛び回っている。
「たぶん、この時のロストロギアとの接触やと思う。そのロストロギアは融合した機体ごと分解して封印処分されてるけど、おそらく機能の一部が感染ったんやね」
 再び画面が切り替わる。映っているのは鋼の巨体でなく、一人の少年だった。
 そこからはその少年の戦闘記録である。戦っている相手はガジェットであったり、犯罪者の魔導師だったりした。
「……それにしても、上層部がよく許可を出したね。前例は数件あるけど、ここまで深く許可されたのって今回が初めてなんじゃないかな」
 発言者はフェイト。彼女はモニタに映る限定的ながらも”質量兵器”の使用を許可された少年を見ながら呟いた。
「確かにね。MSウェポンなら魔力を使用していないだけで、レアスキルの一種と判断されてもおかしくは無いけど、MSとしての運用が許可されてるのは異例、だよね」
 なのはが続けた。
 MSウェポンと呼ばれる”能力”は、現時点ではシン・アスカしか使用することができない。しかし”MS”という兵器は理論上は”誰にでも動かす”事が出来る。資材や設備の圧倒的な不足、操縦技術等の問題から現時点ではそれは起こりえないことだが。
「正確には”出すしかなかった”やな」
 はやての言葉と同時にモニタの映像の内容が切り替わった。
 数か月前に発生した事件の映像記録である。卵型をした巨大な銀色の機械が、市街地の中心に居座り、無数のケーブルを手のように不気味に蠢かせている。
「二体目に確認されたガジェットタイプG、通称G型。管理局は無数の設備と人員を動かして、応戦に当たった。けど結局”倒せなかった”。ちなみにこの時、シン・アスカは質量兵器の無断使用で拘束されて尋問中」
 画面の中のG型は放たれる魔力弾をAMFで悉く無力化し、発生効果を力任せに打ち砕き、その堅牢な装甲と圧倒的な攻撃力に物を言わせて周囲の建築物を蹂躙していく。
「作戦時間は一時間を超え、被害は増加の一途。民間人にも、相当の犠牲者が出た」
 直接踏みつぶされる人。
 崩れた建物に押しつぶされる人。
 爆風で吹き飛ばされる人。
 理不尽な暴力に駆逐されていく人々。

 

 戦況が変わったのは突然だった。

 

 緑色の巨人(ザクウォーリア)が、炎の中に乱入する。
 突進を受けたG型は跳ね飛ばされ、その機体を宙へと浮かせた。浮かび上がったG型に、緑の巨人が右手の銃を乱射する。いかなる攻撃魔法もはねのけたフィールドなど意にも介さず、ビームは装甲を噛み砕いていく。ザクが右手の銃を投げ捨て、背負っていた砲を展開する。そしてスラスターの光を吹き出して墜落したG型目がけて疾走。
 歪んだ装甲の隙間に、展開した砲が深々と捻じ込まれる。
『うおおおあああああああァ――――――ッ!!』
 響き渡る怒号と共に、ザクのジェネレータが唸りを上げて、各部関節のモータが悲鳴を上げた。力任せに、捻じ込んだ砲ごとG型の巨体が持ち上げられる。
 そして発射。G型の内部で大威力のビーム砲が暴れ狂い、鋼の血肉にかぶりつく。G型を食い尽くしてなお勢い止まぬビームの光が夜闇を裂くように天へと昇る。
 爆発。
 無数の犠牲者と甚大な被害をもたらしたG型は、一分にも満たない時間で鉄屑へと成り下がった。

 

『――おまえたちは、』

 

 銃身の溶けた砲をバックパックごと廃棄して、ザクがカメラへ視線(モノアイ)を向ける――おそらくこの映像を記録していたヘリか施設へと視線を向けたのだろう。同時に、外部マイクから少年の声が周囲に響く。
 その声には抑揚がなく、酷く無機質な声だった。

 

『お前たちは! ”規則”と! ”人の命”とッ! どっちが大事だぁ――ッ!!』

 

 そこに無機質さは微塵もなく。
 爆発する怒りの咆哮が、炎に染まった大地に拡散する。

 

 
 
 モニタの電源が落ち、部屋の照明が灯った。

 

「脱走したシン・アスカの駆るMS――ザクウォーリアにてG型は撃破。この一週間後に兵装制限や用途制限を受けつつも、MSの使用許可が下りた、と――MSウェポン使用によるシン・アスカの正式な編成許可は最近まで下りなかったみたいやけどな」
「――随分早いね」
 なのはがはやてへ視線を向けた。同じ意見を持つフェイトも、同様にはやてを見る。二人の瞳を受けたはやては頷いてから切り出した。
「この件に関しては特殊技術管理部――特技が”何かやった”のはわかっとる。随分入念に事前から準備を進めてたみたいやけど、”何をしたか”は不明やね」
 お手上げといった風でため息をつきながらはやては頭を振る。”質量兵器禁止”という禁忌を捻じ曲げたという”結果”はあっても、その”過程”は一切不明。
「特技……ロラン提督のお抱えだね。本来の業務は未確認世界の特殊技術の管理と解析、だっけ?」
「そや。その名目上”流れ着いた”MSの回収もしてたみたいやな。まあ”修理”と”整備”もしとったみたいやけど」
「……それにしても、不透明な部分が随分多いね。彼の経歴も、その背後も」
 フェイトがデータに目を走らせながら呟いた。シン・アスカの経歴に関しては大まかには”異世界”出身であることと、”MS操縦のエキスパート”である事しかわかっていない。レアスキル持ちの経歴は隠されることが多いが、それでもここまでシャットダウンされているのは異常だ。シン・アスカにそのような情報操作の手段は無い。何かしているとしたらそれは”特技”の方だ。
「六課の任務の性質上、ガジェットとの交戦は多くなる。自然あのデカブツとの遭遇率も他の部隊よりも高くなる、だからシンを出向させるっていうのがこんな時期に人員編成に口出ししてきた特技の言い分やね。それと――ここからが本題なんやけど」
 はやてが手元のコンソールを操作する。
 それと同時に出現したウィンドウには残骸の山が映し出されている。三人には知る由もないが、それはC.Eで建造され、とある部隊に運用されていた戦艦のなれの果てである。
「特技が言うには、”ここ”で、自分たちより先にガジェットドローンによる各種資材の採掘がおこなわれた可能性があるそうや。つまり――」

 

「ガジェットを使用している相手が、今後MSを持ち出してくる可能性がある?」

 

 続けられたなのはの言葉にはやてが頷いた。
 MSという兵器の威力は、既にこれ以上ないほど証明されている。それが敵に回ることの危険性も。
「シン・アスカという”人物”については、何の問題もあらへんと私は判断する。私は直接会ったことがあるけど、彼は力の使い方を間違えるような人間やないと思う。ただ背後に余りにも黒い部分が多すぎる。今日二人を呼んだのはその事を知っといて欲しかったからや」
 はやての言葉になのはとフェイトの二人は頷いた。
「隊長の二人には予定外の負担をいきなり増やしてしまう事になるけど、よろしくお願いします」
 言葉による返答はない。二人の表情で既に肯定の意ははやてへ届く。
 この三人はとても深い位置での繋がりによって結ばれているのだから。
「はやてちゃん。今日のお話はこれでおしまいかな?」
「うん。一応は……何か予定でも入ったんか?」
 その言葉になのはは頭を振って、

 

「うん。思いつきなんだどね。教導官として、一度本人に会っておこうかなぁと思って」

 

///

 

 シン・アスカという人間は、徹底的に敗北した経験を持っている。

 

 確かに相手は強大だった。しかしシンの機体は十分な性能を持っていたし、シンの技能も決して低いものではなかったはずだ。ならば何故ああも完膚なきまでに負けたのか?
 それは”迷った”からだ。

 

 ――シンがC.Eで学んだ事がある。それは考えること。そして迷わないことだ。

 

 考えること。ただひたすらに確かなものから不確かなものまでありとあらゆる情報を取捨選択し、それを統合して整理する。そうやって迷う余地の無い、完全な回答を導き出す。
 思考で迷いを駆逐する。
 後は戦い抜けばいい。
 シン・アスカには、それしか能がないのだから。
「……見つけた」
 視線の先には楕円形の機械が数機浮遊している。
 ガジェットドローン。ロストロギアを収集する、謎の小型機動兵器だ。
 シンは各種センサを最大限に用い、周囲の状況を把握する。パワーアシストは切ってあるし、ここまでは徒歩で接近した。相手はおそらくこちらに気が付いていない。
 周囲は廃墟。もう使われていない都市部だ。何年か前に危険度の高い遺跡が発見されたとかで、既に人の居ない捨てられた街。辺りは崩れた瓦礫や建造物といった遮蔽物に満ちている。状況を確認し終えて、シンはゆっくりと移動を開始した。
 パワーアシストをオンにし、左手で腰のサーベルを取る。

 

 ――先手必勝。

 

 最大出力で噴出したビームの刃が、遮蔽物の瓦礫を瞬時に、まるでそこに壁など無かったかのように溶かしながら直進し、ガジェット数機を一気に串刺しにした。
 シンの存在に気付いたガジェットが迎撃を開始するが、それは総て瓦礫に阻まれる。むろん瓦礫は容易く粉砕されるが、シンまでは届かない。
 ライフルを一発。
 高熱の光の矢は瓦礫を粉砕し、そのまま直進して――ガジェットに突き刺さった。装甲は飴細工のように融解し、高熱に晒された内部機械が瞬時に蹂躙される。
 光の暴力をその身に吸い込んだガジェットは飛び、跳ね、爆発、炎上した。
 スラスターを吹かし、シンは一気に跳躍して瓦礫を飛び越える。
 眼下のガジェットが上空のシンへ向きなおった瞬間、更に数機のガジェットがビームをその身にぶち込まれて爆散した。
「――――ッ!!」
 空中から急降下したシンは地上に降り立つと同時に左手を振りぬく。手にした光の長剣はバターを切るかのごとくガジェットの一機を両断。
 振りぬいた腕の反動を殺さず、逆にスラスターで補助して、身体を回転させる。その最中に右手のライフルを連射重視で撃ち続ける。
 発射した光源は七つ。直撃は二つ。迎撃は三つ。的外れが二つ。
 間髪入れず、投げナイフのごとく投擲されたサーベルがガジェットの一機に突き刺さる。

 

 ライフルを背の高い瓦礫や建造物に乱射。崩れた建物がガジェットに降り注ぐ。
 その隙にシンは残ったサーベルを抜き放つ。そして急加速。
 辛うじて瓦礫をやり過ごしたガジェットが土煙から解放された瞬間、シンの振りぬいた光刃に両断される。先ほどと同じように腕のスイングの勢いとスラスターを併用し、ぐりんとシンの身体が反転する。背後からシンを狙い撃とうとしていたガジェットの発射口にビームが吸い込まれ、即座に花火と化した。
「十五。これで半分――ちっ」
 雨の様に光弾が降る。横一列に並んだガジェットが上からシンへと絶え間なく光弾を乱射する。シンは左手のシールドを翳し、身を守りながらシンはスラスターを吹かし、横滑りに移動。瓦礫の陰に滑り込むと同時にライフルを射つ。盾代わりの瓦礫を貫通したビームという名の暴力が、ガジェットの一機に突き刺さる。その爆発に巻き込まれ、更にもう一機のガジェットが行動不能に陥った。
 左手のサーベルを逆手に持ちかえ、出力を最大に。長々と伸びた光刃は背後から迫っていたガジェットの一機を遮蔽物ごと刺し貫いた。
 シンはセンサをフル稼働させ、索敵を開始する。網膜に周囲のMAPと敵を示す光源が映る。
 一番倒しやすい敵を探せ。
 周囲で利用できる物を探せ。
 自分が不利になる要因を探せ。
 勝利へと繋がる因子を探し出せ。
 加速した思考を引き連れて、シンは空へと跳び上がった。

 

 シンの扱うMSウェポンは、端的にいえば『人間サイズのモビルスーツ』である。
 モータによる力強い四肢の駆動、堅牢な装甲、センサによる各種情報収集能力、そしてその強力な武装を”人間サイズ”にコンバートするものだ。
 魔法による戦闘能力に比べて欠点は山のようにある。だが、それを補う利点も山のようにあるのもまた事実。
 これがこの魔法世界においてシン・アスカが新たに獲得した”力”である。

 

 数分後。
 最後のガジェットにビームサーベルが深々と突き立てられ、戦闘は終了した。
「……ふう。全機撃墜確認、っと」
 本来ならばMSの計器に表示される映像は、すべてシンの網膜に表示される。そのデータをチェックしながら微かに滲んだ汗をぬぐいながら、シンは呟いた。
「接近する機影!? ――なんだ管理局の魔導師か」
 ライフルを構えなおしかけた腕を下ろし、シンは至極興味無さそうに呟いた。
 そのままぼんやりと立っているシンの視界に、空を翔けてくる女性が入る。
 髪型はツインテール。服装(バリアジャケット)は青と白を基調としたもの。手にした杖では真紅の宝玉が陽の光を受けて煌めいている。
「あれ、もう終わっちゃったんだ。一応手伝いに来たつもりだったんだけど」
 声は可愛らしくもあり、かつ凛としていて。瞳には強い意志の光があり、顔には柔らかい笑顔が浮かぶ。まるで天使のように、桜色の羽をはばたかせながら緩やかに下降してくる女性を見ながら、シンは
「はぁ。そうですか」
 まるで興味無さそうに呟いた。実際、さほど興味がなかったのである。眼前の女性に。
「…………」
「…………」
 高町なのはは、シン・アスカを映像と伝聞でしか知らない。故に彼女にとってのシン・アスカは気性が荒く、活発的であるとイメージが固定されていたのだ。
 しかし実際会ってみれば、何やらまるで生気が無い。向かい合う位置に降り立ったはいいものの、会話を切り出せず、お互い見つめあったまま時間が過ぎていった。

 

「…………あの。他に何か用ですか? ていうか。誰ですか?」
「…………え、ええっと?」

 

 これが、高町なのはとシン・アスカのファーストコンタクトだった。

 

 
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