ルードウィヒがクオスに到着した、緑と白の船体をピタリと停止させている。
コロニーの内外には2つのタイプの戦艦が警戒を続けて漂っている。
年季の入ったダーウィン級と、一昔前に開発されこの時期にはナリを潜めたプリマ級である。
プリマ級もダーウィン級の様に上下対称であるが艦の体は1つになり、一回り小さいが小回りが利く。
『通るぞ!気を付けろよ!』
拾われた友軍艦からバレオ小隊のMSが帰ってきた。応急処置は受けられたが、表面の装甲はまだ傷が残っている。
定位置に戻ってきたランド達は、先に帰っていた小隊長と待機室で合流する。
「ただいま戻りました。」
あぁ、と気が乗らないような返事を返したバレオを見て、ランドは噂話を思い出す。
過去の事情を知ったからどうと言うことでもなく、皆と同じく待機室の長椅子に座った。
その後ブキャナン艦長とスーツの偉そうなのが入ってきて今後の説明を始めた。
「皆ごくろうだった、この後は少し時間を取れるだろう、外出する者は許可証を出してくれ。」
「外出するときはくれぐれも問題を起こさないようにして下さい。」
偉そうに時計を見ながらその後も注意事項をつらつら述べている脇から、誰かの舌打ちが聞こえる。
今のは誰だとカッカし始めると、だれが始めるでもなくからかいの笑みが漏れ、艦長はため息を吐く。
ふとランドは自分がこの男の事を知らない事を思い出した、そういえば一度会ったこともあるのに。
すっと手を挙げて発言の許可を求めるとすぐに艦長がランドを顎で指した。
「こんなタイミングで恐縮なんですけど、その…あなたは?」
「連邦政府から来た監査委員会のライアンだ。実験隊に同乗すると説明されているハズだが?」
「自分は途中から来たもので……申し訳ありません。」
「いえいえ、今覚えて貰えばそれで結構!」
カリカリして収まらないようなライアンは腕時計を見てどこかへ行ってしまった。
感情様々に見送った面々だが、一番の責任者であるブキャナンは呆れ気味である。
「まぁいい、パイロット諸君には少しの間休憩が取れる様にしておいた。
休むなり外で気分転換なりしてくれ、問題の起きない範囲でな。解散。」
一同一斉に敬礼し、すぐに待機室から出て行くと格納庫から各所に通るエレベーターに乗り込む。
「まずはダニエルの見舞いだな、まだ起きてるか知らねぇけど」
「はい!是非とも!」
「あぁ、俺も行くわその後みんなで見て回ろうぜ」
「工業コロニーだぞ、見て回るものなんてたかが知れてる、隊長は?」
「俺はいい…部屋にいるからなんかあったら連絡をくれ」
半ば寿司詰め状態で各々束の間の休息を思うと、エレベーターの扉が閉まった。
ターミナルはいつでも必ず人がいる。
コロニー全体が工業都市を中心としたクオス2は資材の搬送作業員やら交渉に足を運ぶビジネスマンやら、
兎に角いつも込み合っている。小汚いジャケットの男が公衆電話で話ているのもいつものことだ。
『久しぶりだ、調子はどうだ?フェルマー隊長』
「こっちの食事は気味の悪い物ばかりでダメだ、救いといえば空気が澄んでることかな。」
『エデンを汚した次は宇宙にゴミを垂れ流しか、笑えるな。』
「フハッハッ…、どうだそっちは?」
『もしかしたら犬がそっちに入り込むかもしれん、駆除して貰えないか。今日中に』
「今日中!?頭おかしいんじゃないか!?」
『大丈夫だ、どうせ半分死んでるような男だし、万が一バレても。引き上げの予定日が近いだろう。』
使い慣らしたようなメモを取り出すと、受話器を頭と肩で抑えながらペンで要件を書き取る。
センターパーク病院 ダニエル・レイジー 連邦軍パイロット
舌打ちしながら受話器を置いて釣銭の出口に指を入れるが、何もない。
長い事ここで暮らしてきたせいかすっかり貧乏人の労働者といった癖が付いてしまっている。
港の窓からコロニーの内側を眺めると、無機質な建物群がなんとなく彼の故郷を想起させた。
小銭を広げる皿替わりに電話の上に置いたハンチング帽を被り、残った小銭をポケットに入れて、彼は人ごみに紛れて行った。
同じ時、港から電話を受けていた人物は、携帯端末の履歴をすぐに削除して物陰から辺りを見回す。
近くに誰もいない事を確認すると廊下を足早に行き、エレベーターに乗りこみ上のフロアを目指す。
次に開いた時、そこはこの人物にとって見慣れたルードウィヒの艦橋だった。
キャプテンシートで背中を向けるブキャナンが来客に気づいて上半身を捻る。
「ん、何かあったか?」
「パイロットの自由時間について、正式な連絡がまだ届いてないようですが…」
「そうか……オペレータ、メッセンジャーに予定表の添付を頼む、作業員各班も順番に休むよう言ってくれ」
返事が聞こえてから少しして、この人物の端末が鳴る。仕事の速さに関心しつつ、彼はそそくさと立ち去った。
ポケットにしまった小銭が歩くたびに音を立てて、高くない背丈と少し出た腹がいかにも労働者と言ったところである。
居住ブロックにつながる出入り口に設置された売店に立ち寄り、新聞を一つとって丁度の金額を置き去る。
アナウンスと無数の靴音や声で騒がしい辺りを一瞥し、自動ドアを潜って停めてあった車に乗り込んだ。
「どうでした?」
「こっちの仕事はこの前のと連続になるが、今回のは目立ち過ぎるかもしれん。」
「一応、MSの組み上げはしておきました。輸送車に積んで役人には建機で通してあります。」
「使うことが無ければいいがな。あと、予定通り今回の任務で終りだ脱出の準備をしておけ。」
「既に全員荷物はまとめてあります、今日明日中には発てるかと。」
先に運転席で待ってたのは、彼とは逆に薄汚れた作業着が似合わない若者だった。胸には「ボルドー」名札が付いている。
アクセルを踏んで車を出してからは余り口を開かず、カーラジオでニュースを垂れ流している。
中年の方がドアポケットやシートの脇に置いた箱を漁り始めた。
「ボルドーよぉ身分証はどこに置いたかな、軍港の作業員の奴が必要なんだ。」
「ダッシュボードに。」
「あった。えー…私フェルマー2級整備士様のが、よし在った。一旦宿舎に戻ろう。」
フェルマーと名乗る男の提案を見越してか、若者は既に車の進路を彼らの家に向けていた。
少し急ぎ目に車を飛ばし、町外れの寂れた倉庫群の内、一段とボロい倉庫とボロい宿舎がくっついた建物に着く。
大きな倉庫の中では布に覆われたマシンがトレーラーに置かれ、その周りで数人の男立ちが積み込み作業をしている。
フェルマーが大声で呼びかけると、作業員はすぐに彼のもとに駆け寄った。
「前から連絡があった奴とは別の仕事が来た、今日中だそうだ。」
「は!?なんですかそれ!」
「前から予定は立てていたじゃないか、それに今回やりきったら地球侵攻の部隊と合流だ。」
「でも今日中って…」
集まった中には仲間の要請にケチをつける物も少なくない。
彼らはただのテロリストではなく、ヴェイガンだった。連邦に潜り込んだ同志を流石と思いながらも、
同時に自分達実働部隊をアゴで使うような態度にイラついていた。
10人前後の集りが少し騒がしくなってきた時、フェルマーが横で時計を確認しているボルドーを呼ぶ。
「ボルドー、お前先出ろ。」
「できませんよ、なんで俺だけ」
「お前には嫁も子供もいるだろうが。」
すると周りの者もすぐその話に入って来た。
「地球種憎しでやってきたけど、あの人は別だ!」
「長い事ここいいるけど、お前の子供に俺たちみたいな思いさせちゃダメだよ」
「そうだぞ、みんなの金で式まで挙げたってのに、こんな倉庫の中だったけど…」
みんな明るく笑っていて、気づけばボルドーは旅客便のチケットを握らされていた。
彼は礼を言うと宿舎の方に走って行き、残りの者は最後の準備に取り掛かった。
倉庫の片隅に積まれた箱から、各々物騒な銃を持ち出し懐にしまう。
「いいか、とりあえずオレが連絡するまでは派手に動くな、MSも最後の手段だからな。
何事も無ければ時限装置で自爆するようにしておけ。誰か運転手でついてきてくれ。」
「隊長が行かなくても」
「危険な仕事なんだ、それにお前たちの方がMSの操縦も上手い。」
装備を確認しながら部下達が脱出のルートを確認するのを尻目に、フェルマーは部下を一人連れて車に乗り込んだ。
部下の男がエンジンを掛けた時、ボルドーが家族と戻ってきた。
少し言い合いになってるのは予定より早く家を出ることになったからだろう。
「フェルマーさん、あの」
「良いってことよ、それに……すまんね!無茶言ってしまって!」
ボルドーの後ろに立っていた子供と手をつないでる女性に話かけるフェルマー。
女性の方はチケット代も引っ越しの準備もしてくれたことをしきりに感謝している。
子供の方は初めての宇宙旅行が楽しみでニコニコ笑っている。
「向こうに着いたら連絡して下さい、プリペイドの番号は生きてますから。」
「あぁ、それまでは平和に暮らせよな、じゃあ、出してくれ。」
フェルマーが車で去った後、ボルドー達家族は残った仲間に挨拶を済ませて宇宙港に向かった。
皆も最後の作戦を控え緊張しながらも、彼ら家族を笑って送りだしてやった。
軍用の大きなジープに無個性な私服で乗り込んだランド、運転席にはヘンゾが乗る。
宇宙港からおりて、軍用の通路に停めたジープで残りのメンバーの到着を待つ。
「遅いですねぇ…」
「そうだな、報告書類出すのに手間取ってたりするんじゃないか?」
「おぉ悪い悪い!ちょっと案内所に電話してたんだけど、どうにも不親切でさ」
ピットが後ろの席に乗り込んでから少ししてジェノも駆けつけた。
「スマン、ちょっと実験の予定について聞きにいったら遅くなった。」
「じゃあまず病院ですね、セントラルパークは…向こうか」
ゆっくりと発進しゲートを通ると、トレーラーがそこかしこに行き来する一般道に出た。
工業コロニーと言えば何となくどんよりしたような空気を想像するが、クオスのコロニーは特殊な構造で、
排気物質をそのまま宇宙に投棄し、そのためのパイプが地下のコロニー外壁に伸びる為、景色は他のコロニーと変わらない。
「良かったな、明るい内に外出許可が出て。」
「この様子なら端から見て回っても時間が足りるかもな。うわ、凄いなあんなサイズの民間トレーラー地球じゃ見ないぞ。」
港を出てからしばらくして気づいたが、町を走るのはどれも企業の車で、特別に設計されたようなサイズのもかなり多い。
自然とランドとピットの視線がその大きさに奪われ、また工場やオフィスばかりの町も特徴的に見えた。
そんな姿を見かねたジェノが、ため息交じりに口を開く。
「田舎者みたいでみっともないから止めろ。」
「んなこと言っても、見慣れてないからなぁ…」
「っていうか、熱がスゴイね皆電気モーターだからかもしれないけど」
いつ取って来たのか、ピットは汗をぬぐいながら懐から何重かに折られたガイドペーパーを取り出した。
裏面の地図を手元で何度か回転させてるのは、おそらく自分たちの進行方向に合わせたいのだろう。
ランドが大きく広がったガイドを横から覗きこんでる内に、今までと打って変わった緑のある景色に車が止まった。
「あそこかな?ちょっとパーキングのチケット取って来ます。」
キレイにパーキングのラインに車を納め、3人を残してヘンゾが走って行った。
「お前案内所に電話したんじゃないのか?」
「不親切だから結局これ取りに行ったんだよ。」
遠くからヘンゾが大きく声を出して呼んでいる、どうやら当ってたようだが、
すぐ後に白衣のおばさんに叱られていた。
病院の玄関口は少し込んでいて、受付けの女性に面会だと伝えると部屋番号だけ教えられた。
次がつかえてるせいか対応は少し雑だ。
「3階ですって。」
「あ、悪いちょっと電話だ、先行っててくれ」
合流して4人でダニエルの病室に行こうとした時、ジェノの端末が鳴って、応対しながら外に行ってしまった。
途中似たような扉ばかりで何度か間違いそうになったが、なんとかたどり着いた。
扉を開けるとダニエルが複雑そうな機械につながれてベッドに寝かされている。
「取りあえず生きてるみたいで何よりですね。」
「あぁ、全く心配したぜ。」
顔に包帯が巻かれているが、頭に傷は少ないようでぱっと見でもまだダニエルとわかる程度だった。
近くによって3人で顔を覗き込むと、焦点は定まってないが目が少し開いた。
「うわ!起きてた!」
ヘンゾが驚いた声を出し、ランドもピットも同じように驚いた。
その声を聞き付けたのか、凄い剣幕で太ったナースが部屋のドアを開けた。
「あ!ちょっとアンタ達!何してるの!その人絶対安静だよ!まだ麻酔が切れてないんだから!」
無理やり部屋から追い出された3人はその後も説教ついでに出口まで見張られるハメになった。
階段を下りる途中で、3人は中年の男とすれ違った。男数人じゃ狭い階段をランド達の方が避ける形で通す。
男の方はハンチングを深めに被りながら小声で感謝し、3階の入り口で曲がっていった。
「病院に来てるっていうのに、ヤケに暗いオッサンだな。」
「病院だからな、俺だって長い検査は嫌いだ。」
「いやそうじゃなくてさ、嫌気は青いけどあれはちょっと赤黒いっていうか。」
「何言ってるんですか?」
ピット曰く、彼特有の「ちょっと便利な感覚」が引っ掛かったらしいが、
以前ルードウィヒ艦内で行ったカード勝負の結果から、ランドは全く信じていない。
その時の話をしながら3人はまた階段を下って、1階についた。
ダニエル・レイジー 307号室
フェルマーは2度メモを確認し、個室に入っていった。
受付が込んでるのはいつもの事だが、運の良い事に受け付けは新人のスタッフだった。
用意した偽の身分証も、ダニエルとの架空の接点を語る嘘も必要無かった。
ベッドで横たわる男の周りにはいくつか機械が並び、彼の体調を液晶パネルが語り、腕や鼻とは管が繋がってる。
「意識は、なさそうだな。」
顔の前で指を鳴らし、指を立てて左右に動かしてみるが反応はない
更に好都合だ、相手は意識のない程の重症患者、機械をいくつかイジれば済む、そう思い脇に立つ機械を調べる。
ナースコールのケーブルをニッパーで切断し、装置の警告音をオフにする。後は呼吸器を切るだけ。
「悪いけどゆっくり死んでもらうぞ、今日が最後なんだここまで来てヘマはゴメンだしな。」
少しずつ苦しんでもがくダニエルをしり目に踵を返すフェルマー。
これで終りかと安心したが、すぐに大きな音で振り返る、夢か現かダニエルはもがいてる内に管を引っ張って器材を倒した。
さらに予想外な事に最新の医療器具は衝撃用の警報まで備えていて、甲高い音が鳴り始めた。
「コイツ、この……!」
予想外の出来事で咄嗟に銃を抜いたフェルマーだったが、冷静になって考える。
銃を使えば確実に負の可能性を消せる、ヴェイガンの情報を握らせずに済むが、絶対に自分は無事じゃいられない。
逆に今逃げれば絶対間に合う、外では部下が待機してるし、医者と居合わせても一人二人なら簡単に「のし」てやれる。
どっちにしようと悩む数秒が惜しく倒れて騒ぐ機械も苛立ちを助長する。
「くそ!」
フェルマーは思わず八つ当たりのように倒れた機械を蹴り飛ばし、何度も踏んづけて機械を停める。
彼はクオスに潜入して以来ミスをしたことは無かった、だからこそ今日まで潜伏していたのだが今回は少し甘かった。
直後に作戦の予定を思い出そうとすると、ボルドー達家族の事を思い出して、徐々に冷静さを取り戻す。
捕まっても時間稼ぎはできる、その間に味方が脱出できたならそれが勝利だ。そう考えてダニエルに銃口を向けた。
ダニエルの倒した警報は1階のナースステーションにも響いていた。
ランド達がしょうがないから飯でも食いに行くかと話していたその時、鳴り始めたのだ。
睨みを聞かせる太った看護師をどかせ、受付から身を乗り出して壁掛けで赤く点灯するパネルの一部を注視する。
遠くて細かくは見えないが、3階のDから始まる名前の患者であることは確かだ。
「3階って!アイツじゃないですか!?」
「ランド、あれは不味い色してるぞ」
「見れば分かる、行こう!」
階段を全力で駆けあがると、丁度3階に待機していた医者の一人がダニエルの部屋のドアを開けようとしていた。
物々しく駆けあがってきた3人に気づいて知り合いの人かと尋ねてきたのと同時に、中で衝撃音がする。
フェルマーが倒れた器材を蹴っ飛ばしていたのは丁度この時だった。
シッシ、と医者を下がらせて銃を抜く、鎮圧用の電気ショックガンなのだが、威力は安全装置を兼ねたギアで変えられる。
ドアの扉に手を掛けてピットには目配せしてガンの威力を挙げると、ヘンゾには周りの人を下がらせるように指示する。
「行くぞ…1、2、3!」
一気にドアを押し開いてベッドの脇に立つ男に銃を向ける。男はついさっき階段ですれ違った奴、フェルマーだった。
お互い狭い病室で銃を向けて威嚇しあう、フェルマーの方はすぐに銃口をベッドのダニエルに向けなおした。
「あ!お前さっきの!銃を捨てろ!」
「うるせぇ!コイツ殺すぞさっさと下がれ!」
「黙れ!お前こそさっさと銃を捨てろこの豚野郎!死にてぇのか!」
状況からしてまず意思疎通は望むべくもない、ランドが不審者と罵り合う間、ピットも銃を向けて動きを読む。
彼の片手がポケットに入ってるのを見て用心する。
「おい待て待て、まずお前ポッケから手をだしな。こっちは2人いるんだぜ?バレないとでも思ったのか?」
少しの沈黙を置いて、フェルマーは笑みを浮かべながらポケットから四角い装置のような物を取り出す。
あからさまに危ない黒いボディに赤いスイッチの組み合わせ、ご丁寧にデジタル時計が付いている。
そこからさらに一言入れようとするがすぐさまスイッチを入れてさらに笑いだした。
「ここでみんな一緒に吹っ飛んでもいいんだぜ?フフハハハ…」
こういう類の爆弾はタイムリミットが短いのが相場だ、迷っている時間なんて無かった。
民間人の被害を出すのは絶対に避けなければならない。そう考えたランドは引き鉄を引いた。
「あぁっつ!」
狙ったのは銃を握っている腕の手首の前、総指伸筋辺りに着弾し流れた電気が握力を絶つ。
ランドはもう一発右膝を撃つと、片膝になったフェルマーに近づいて顔面を蹴りあげる。
爆弾を握った方の手はまだ固く握られているがデジタルの表示はもう「00:05」となっていた。
「なめんな!」
銃をもったまま相手の左手を抑え、もう片手で手首を掴むと、内に折り曲げて力任せに時計回りに捻じった。
手首を折られたショックの悲鳴をよそに爆弾を奪い、更に伸びた肘を足の裏で蹴って脱臼させる。
「おいダニエル!、ちょっと借りるぞ!」
「みんな下がって!危ない!」
ヘンゾが止めている野次馬の方にピットも大声で注意する。
ランドはダニエルが被っていた布団で爆弾を包み、安全装置を兼ねたギアで威力を最大にした銃で窓を数発撃って包みを投げつける。
ヒビの入ったガラスを割って外に飛び出した爆弾はすぐに起爆し、厚手の布団を引き裂いた衝撃はそのま病室のガラスを叩き割る。
ランドは頭を抱えるように体を屈めたがショックで後方の壁に押し付けられる。出口のピットはそのまま地面に倒れた。
「あぁ…あ、くそぅ…」
ベッドの影に倒れ込んでいたせいか、いち早く態勢を立て直したのはフェルマーだった。
誰だか知らないが、連邦軍人の落とした銃を拾い上げ、その場を去ろうとする。
呼吸器は外したからベッドの男は勝手に死ぬとして、他のも今のうちに、そう考えをめぐらせたのも束の間。
不意に後ろから上着の裾をガシっと握られる。
「何してんだ…お前」
驚いて振り向いた先にはベッドから手を伸ばして、こっちをボーっと見ているダニエル。
すぐに腕を振りほどいて、ショックガンを打ち込もうとするが引き鉄が動かない。
銃の安全装置か何か別の仕掛けかと銃を調べている内に、後ろから大きく呼吸音が聞こえて振り返った。
「ん゛ん゛!!!」
と、同時に喉を鳴らすような唸り声を伴って大きめの何か、塊のような物が飛んできた。
彼の視界は塊が当たった衝撃で高速でスクロールしまた何かに堅いものにぶつかった衝撃で暗転した。