AS_第2話

Last-modified: 2008-01-22 (火) 21:19:37

あの後。
あの事件の後、キラはとある事件に関わる事になった。
毎度のように半ば巻き込まれるように、である。
 
 
続く物語の2つ目は、そんなキラ・ヤマトが中心となる事件の話。
 
 
~光る魔力のfuga~
 
 
なぜ、キラが事件の中心に成り得たのか?
むしろ彼は戦いを好まないため、その点が疑問視される。
 
そして、その答は、少々複雑なものとなる。
 
 
 
二度目になるが、闇の書の事件と称される事になったその事件を終え、キラとアスラン、それからシンは行動の選択に迫られていた。
とはいえ、特に悩むことなく、シンは管理外世界となっている地球に、治安のために残る事を決定した。
アスランも同じような道をとったのだが、キラは敢えてそうはしなかった。
戦う事だけをするのが自分達ではないと思ったからだ。
とはいえ、折角手に入れた魔法の力を遊ばせておくわけにもいかない。
キラも魔法に関わり続ける事を選んだ点では等しかった。
その選択された道とは、ユーノの側で手伝いをする事だったのだ。
元々、キラの第一の目的に立つのはコズミック・イラに帰ることである。
それだけは軽視してしまう事も看過する事もできない。
幸い、キラ以外のコズミック・イラの面々は管理局を手伝う道を選んでいたため、キラはその面々の一員としての自由と知る事の権利を得ていたのだ。
そのほかにも、闇の書事件に関する功労者である事も大きかった。
だから、暫くは無限書庫の整理を続けると言ったユーノの手伝い兼必要な知識調べを選んだのだ。
 
因んで言えば、クルーゼとニコルであるが、彼等は少々特殊となった。
共に『生きている』としてコズミック・イラには帰れない為、たとえ帰る方法が見つかってもここに居続けることを選んだ。
ニコルは技術系の仕事に就く事にした。
勿論、普通に思い浮かべられたようなものではなく、魔法技術の仕事である。
彼は自作デバイスに不可視化粒子の生成機能を搭載した事のある人間だ。
それも独学、整った環境も無しにであるので、クロノ等の推薦で簡単にその道に行くことができた。
 
次に、クルーゼ。
彼についてはキラもなかなか首を縦には振れない理由があった。
シンは「信じて、裏切られたら切れば良い」という、どこか超然な姿勢を見せていたし、アスランも渋ったものの頷いていた。
裏切られたとき、同時にクルーゼが何をするかわかった物ではない以上、キラの悩みの方がまともといえたが、そこはそこである。
結局キラも頷き、クルーゼは管理局の人間となった。
今はアスランと共に任務に参加する事もあるらしい。
 
 
いや、今回の話はそこまで大きくは飛び火しない。それらの人間の直接的に関わるものではないのだ。
時期的には、シンが墓場に行くちょうど前日になるが、その時の無限書庫での話である。

無限書庫に、珍客が来たのだ。

side-キラ
「君は…えっと…アリシアちゃん?」
「はい、そうです」
「あ、来たんだ」
キラがその客に挨拶をしていると、後ろからユーノがやってきた。
と言うか、「来る事知っていたの?」
「うん。 ごめん、言うの忘れてた」
別に聞いておかないといけない理由も無かったので、キラとしても謝られるとバツが悪い。
「それで、用事はなにかな?」
ので、キラはアリシアにそう尋ねた。
「えっと、クロノが『ユーノに頼んでおいた物を貰ってきてくれ』だって」
「人遣いが荒いよね。
 はい、これ。 ゆっくり持って行っていいから」
「ゆっくり?」
「うん、急ぎの用ならクロノが自分で来るからね」
ユーノがアリシアに本を渡しながらそう言った。
 
そういえば、アリシアである。
彼女、アリシア・テスタロッサは、彼女自身の過失は全く認められなかったため、事件的には管理局は何の行使もしなかった。
しかし、その境遇の特異さから、いくつかは別件が下ったのは言うまでも無い。
かつて、クロノの言った様に、人を生き返らせる魔術など、まして、奇跡など起こる筈がない。
それでも、彼女は生を持っている。
クローンとして生まれたフェイトよりも、なお歪で安定感の無い魂が、彼女の中には存在しているのだ。
 
(尤も、僕も普通の人間ではないけどね……。)
自嘲がちな考えを浮かべながら、しかし、そんなマイナスな思考を振り払った。
「それじゃあ、暫くここにいてもいい?」
「うん。 構わないよね、ユーノ」
「まぁ、キラが相手しててくれるならいいよ。
 僕は今日中に後1個はカテゴリー分けしたいから」
ちなみに、この書庫がカテゴリー分けなど全くされてない理由は、これまで不可能と同義だったからである。
何せ、新しい書物がいかな形でもどこかの世界で増えれば冊数の増える書庫なのだ。
かつて、管理局がこの書庫の保有、管理局側からのアクセスしか出来ない状態になるまでは多数の世界の人間が居たと言うのだから、相当なものだ。
そのカテゴライズなど、ユーノほどの能力が無ければ不可能なのだ。
そういう意味では、良い様に使われているユーノはこの仕事には最適であるし、彼自身抜きん出た能力の持ち主であるとわかる。
「子供向けの書物はあっちにあるし、」
言い、ユーノは下方を指差す。
管理局的に需要の無い書物は基本的に端へ追いやられるものなのだ。
「地球までキラが行って、適当に遊んできても良いよ。
 文句はクロノに回しておいて良いから」
「あ、アリシアちゃんはどうしたい?」
ユーノの物言いに、キラは苦笑しながら聞いてみる。
彼女を優先させたほうがキラとしても楽だと思ったのだ。が、
「キラ君に任せるよ」
との事である。
「じゃあ……!?」
一言言って考えようとした瞬間、キラは背後から視線のようなものを感じて振り返る。
「どうかしたの?」
ユーノがキラに問う。
(気のせいだったのかな?)
「なんでもないよ」
キラは返答し、アリシアに向き直った。
ここで無為に心配させる必要も無い。
「う~ん……。
 なら、少しこの辺りを見て回ろうか?」
「うん」
弾ける様な笑顔と共に、アリシアはうなずいた。
キラもそれにつられてついつい笑顔になる。
フェイトとは違った意味で、この子は回りに感化する力を持っているのかもしれないと、キラは思った。

「ここが食堂だね。
 お腹空いた?」
図らずとも、幾つかの公開可能な施設を回ってから食堂につくと、そんな時間になっていた。
アリシアもうなずいたし、何よりキラも何か入れたかったため、端の席を取る。
「そういえば、アリシアちゃん。
 魔法は使わないんだよね?」
「う~ん、使わないんじゃなくて、使えなくなっちゃったかな?」
「え、それってどういう……!?」
意味?と聞こうとした瞬間に、キラは背後に視線を感じた。
「どうしたの、キラ?」
しかし、アリシアは特に何も無かったかのように話している。
思い違いかと、キラが話を続ける事にする。
「使えなくなったって、どういう意味かな?」
「ああ、うん。 クロノが言ってたんだけどね。
 わたしはあの段階でちゃんとしたデバイスを使ってなかったから、後遺症みたいに残ってるんだって」
後遺症とはよく言ったもので、実際は彼女の複雑化されたリンカーコアが半端なデバイスを受け付けないのである。

それは、まるで番を喪った翼のように……。

「だから、ニコルに新しいのを頼んでるんだって。
 境遇的に近いから、もしかしたら作れるかもしれないって」
「そっか、彼が……。」
その名前に、キラは特別な感傷を受けずにはいられない。
彼はもう決して故郷には帰れないという点で、キラの消せない罪の一つなのだ。
「いいのができるといいね」
そんな内心を悟られないように、笑顔で言うが、
「大丈夫だよ」と言われた。
「えっと、何が?」
「聞いたの、色々と。 でも怒ってないよ、ニコル。
 きっとキラとももっと話したいと思ってる」
「そう……かな?」
「うん、そうだよ。
 『ありがとう』はとても良い言葉で、『ごめんなさい』はそのための第一歩なんだから」
それは、数週間前キラが彼女に言った言葉に、彼女なりの考えの付け足された言葉だった。
その時はまだキラもアスランも行く道を決めておらず、彼女の扱いも保留となっていたため、必然的によく遊んでもいた。
「うん、そうだね。
 今度会ったときに、きちんと言っておくよ」
そこからいったいどんな関係を築き上げていけるのか? それはキラの技量しだいである。
それでも多分本当に、『ありがとう』と言える関係になるための一歩となってくれたらと、キラは思った。

その後も幾つかの施設を回った。
公開可能と不可能にわかれているとは言え、アリシアは別段行動に制限を受けてなかったため、行ける場所は多々あった。
面白いかどうかは別だが、彼女はこのような技術などに興味を引かれているようだった。
が、「そろそろ戻ろうか?」時間が時間なので、キラはアリシアにそういった。
「そうだね。
 あんまり遅くなったら、ユーノがクロノに怒られちゃうかもしれないし」
恐らく既に苦情の一本や二本は入っているだろうが、彼女はそういった。
「なら、送ろうか?」
「家に直通だけど?」
遅くなったとか子供だからという考えが先行していたため、キラはそう笑われてしまう。
それにキラも笑い返し、「そっか」と、「なら、心配要らないね」と言った。
 
しかし、心配要らないなどではないレベルで、事件は起こる。
 
「その子を渡せ」
突如、背後からかけられる声。
「だれ?」
アリシアが聞きながら、キラは無言で振り返る。
そこに立っていたのは……。
 
 
 
side-アスラン
夢を見ていた気がする。
それは、ハッキリとしたものではなくて、形の無い、幻のようなもの。
しかし、体中から汗が出ているのはその夢がいかにリアルを伴っていたかを現していた。
何かが自分の額から頭に入ってくるような夢。
「……なんなんだ、いったい……。」
ずっと催していた吐き気がなんとか静まり、アスランはため息交じりにごちる。
「戦え……。
 俺と、戦え……?」
夢の中で痛みに喘いでいた人間が言っていた言葉。
 
まるで、戦闘狂の言葉のような――

side-キラ
「さっきから僕等を見ていたのは、君か!?」
キラは背後にいた人間に問いかける。
とは言え、人間と言っていいのかどうか、そこに立っていたのは『影だけ』だった。
「関係ない。
 その子を渡せ」
「関係なくは無い!!
 僕はアリシアちゃんを守らなきゃいけないんだ!!」
自分の近くにこの少女がいる限り、自分はこの少女を守るのだ。
当然の事を言ったのに、影は嘲笑をした。
「そんな資格は無い。
 大人しく渡さないのなら、命を賭ける事になるぞ?」
それでも、何処までも抑揚の無い声はキラを脅しているとわかる言葉を吐いた。
そんな影との話しに、キラは何らかの違和感を感じた。
それは、まるでデジャビュの様な……。
「構うもんか!!
 友達の助けた命は、僕が守る!!」
しかし、キラは言う。
シンが己が心の障壁を乗り越えて助けた命なのだ。
「大体、何でアリシアちゃんを狙うんだ!!」
「故を言う必要はない」
そういうと、ついにその影は魔力を行使した。
(馬鹿な!?
 こんなところで魔法を使うなんて!!)
少なくとも管理局の手の届く範囲では安全だと思ってた虚はつかれたが、それでも相手にとってリスクが高すぎるように思えた。
しかし、その影の行使した魔力は、そんな懸念を完全に払拭してもつり銭が来るほどの物だった。
 
 
突然の光に、キラは瞬きをした。
一瞬だとか刹那だとか、その程度の時間目を瞑った。
それだけだったのだ。
だが、目を開けた次の瞬間、目の前には……。
いや、体中が感じる風の種類や臭いまでも変わっていた。
「か…ざん……!?」
火山である。
焼けたマグマのさらに焼ける臭いと、皮膚に当たるは、まるで何かの毒に当てられるのかと見まがうような灼熱。
空は夜なのか、漆黒の闇なのにそれでも明るい活火山。
そして、火口にいる自分とアリシアの目の前、首を空に向けてみる。
そこには……。
「竜!?」
が、いた。
皮膚は白く、形は人に近いと言って良い。
所謂リザードマンで、右腕からは黄色い魔力の凝縮された剣を生やしていた。
「キラ……!!」
「大丈夫。きっと、僕が守るから」
そんな状況にあっても、キラの決断は変わらない。
幸いか、その竜の大きさはキラの1.5倍程度、何とかダメージを与えられるサイズだろう。
「フェザードラグーン!!」
翼を20枚放る。
20基のフェザードラグーンである。
日々の鍛錬も怠らなかったキラは、その程度なら操れるようになっていたのだ。
念じ、それで竜の周りを囲う。
そして、発射。
通常の生物ならば、何らかの重大なダメージを受けるであろう程のものであった。
「やった!?」
否、竜はいつの間にか白い翼を体を覆うように閉じていた。
そして、その翼が開かれると同時に、飛び上がった。
飛竜、その姿が漆黒の闇の空に在っても見えたのは、火山近くの明かりゆえではない。
その竜自体が、神々しく、或いは禍々しく発光していたのだ。
翼を開いたときの風から、キラは全身でアリシアを庇いながら、フェザードラグーンをもう一度放る。
しかし、竜はその顎を開き、そこから魔力を多重に放出する。
それだけで、翼が全て焼け落ちる。
そのブレスの当たる一瞬を、キラは跳躍でアリシアともども回避する。
きついなんて物ではない。
圧倒的な個体差が、キラと竜の間には存在していたのだ。
元来、竜という物自体が最強のものや触れられないものの代名詞であったのだ。
かじった程度の魔法では対処できないのはうなずける話である。
白い竜が右腕を再びキラを目掛けて振り下ろす。
「糞ッ!!」
圧倒的な能力差に悪態をつきながらも、キラはもう一度回避する。
しかし、このまま回避し続ける事は、地形を鑑みるに不可能である。
足場の悪い火山の火口、踏み間違える事はできはしない。
まして始めに回避した方向が火口のほうならば、如何ともしがたいのだ。
(長時間飛べば狙い打たれる……。
 なら、どうすれば?)
こうも大きな相手ならば、有効手は弱点を突くことくらいしかないだろう。
ならば、一番は目であるといえよう。
決め、フェザードラグーンを風に乗せる。
そして、その名の通りの狙い目を、キラは撃ち抜く。
「今度こそ!!」
が、それもやはり、その瞳を多少焼く程度にしかならなかった。
対するキラの武器は、竜の羽ばたきの前に一瞬で魔力供給の糸が切れる。
そして、竜がその灼熱の息を吐こうとする。
ここに来て、キラは回避の手段を失っていた。
目をきつく閉じて、アリシアを庇うようにキラは抱きとめ、その高温を待つ。
が、それがキラの元に届く事は無かった。
鎖が、竜の首を天へ向けさせていたのだ。

「ユーノ!?」
キラはその鎖を出した、この空間への乱入者の名を叫んだ。
ユーノ・スクライア。 補助的な魔法において多大な能力を誇る、無限書庫の整理士である。
「キラさん、アリシアちゃん、無事!?」
そして、キラの言葉に答えたのは高町なのは。
彼女は、数分前に偶々ユーノの元へ遊びに来ていたのだ。
「なのはが気づいたんです、この場所に。
 後は僕達に任せてください」
キラの元までやってきて、ユーノが魔方陣を足元に出し、そこからもう一度チェーンを出し、今度は体を縛り上げる。
「なのは!!」
「うん、ユーノくん!!」
呼びかけに、ただ応える。
彼らにおいて、それ以上に必要な言葉がいるだろうか?
「レイジングハート!!」
いや、決して必要ではない。
「Starlight Breaker」
完璧なコンビネーションと圧倒的をさらに圧倒する魔力で、なのはは異形の怪物を屠る。
スターライトブレイカーをレイジングハート・エクセリオンで放つ事ができるようになったあたり、彼女はまた一歩力をコントロールの方向へ付けたようである。
なのはがキラたちのほうへ寄ってくる。
あれだけの魔力を放出しても、全くよろける事も無く、である。
「おつかれ、なのは」
自身もあれだけの巨体を縛り上げていたくせに、ユーノは功労者にそう言う。
恐ろしいほどの謙虚さでもあり、基礎的な能力の差異である。
「アリシアちゃん、大丈夫?」
キラはそれよりも気になっていた少女に向き直るが、
「大丈夫だよ」
キラとは違い息一つ乱れていないようだった。
そこまで来て、キラはホッと胸をなでおろす。
他の3人も、謎の敵への勝利に多少なりとも気を緩めていた。
 
 
しかし、それは誤りだった。
 
 
――巨大な影が、4人を覆った。

その一刹那の出来事は、あまりにも衝撃的過ぎた。
先ず、竜がその知能を働かせ、自らをダウンさせるまで追い込んだ魔道士を、なのはを右腕の黄色い剣でなぎ払った。
バリアジャケットの能力と、方向が幸いして命に別状はなさそうだったが、これにはユーノも平静を失う。
続く竜の左腕に反応できず、なのはとは竜を中心に対角線を描く方向へ吹き飛ばされる。
其の両腕を限りなく使う事で、援軍の二人をノックアウトさせてしまったのだ。
「トリィ!!」
翼を広げる。
そして、フェザーファンネルを……。
「でない!?」
そう、出せない。 羽が落ちないのだ。
(なら、彼女だけでも!!)
アリシアを逃がそうと、キラは思う。
竜がその口から炎を漏らしているのだ。
(間に合わない、それでも!!)
せめて自分の身を、炎の間に躍らせようとする。
 
それまでがあまりに必死すぎて、キラは気づいていなかった。
「ハイマットモード・アクセラレーション」
自分の背中の翼が、蒼い輝きを放っていた事にも、トリィの今の発言にも……。
アリシアの眼前へ、覆いかぶさるようにキラは動いた。
そして、その炎の熱に身を委ねようとした。
しかし、その熱は届く事は無く、キラはきつく閉じた目を開く。
その時、始めてキラは知った。
背中の翼の輝きと、今キラの眼前を、巡る魔力の壁がふさいでいる事を。
 
 
 
「キラ……?」
なのはは痛みに耐えながら、竜のほうを見る。
そして、輝く翼を持つ青年を見た。
彼の名は、キラ・ヤマト。前の事件段階ではもっていなかったであろう能力を使っている。
もっとも、彼のデバイスに関しては謎が多い。それも、また一つの事実である。
その彼は、竜の息吹をアリシアと共にかわした。
先ほどまででは出せなかったであろう、驚くべきスピードで、である。
そのまま立ち上がっていたユーノの元に着地し、幾つかの言葉とアリシアを残し、もう一度竜の眼前に現れた。
現れたと形容するほどの速度で、であった。
そしてキラは、竜の右腕の剣閃をかわし、
       竜の頭上に現れ、
       その位置から、背後の『羽の一本一本から』魔力を放出した。
元よりなのはの大質量魔力を受けてノックアウト寸前だった竜である。
キラのいわば『塵も積もれば山となる』魔力を受けて、ついにもう一度ダウンした。
そして、そのまま光の粒子となり消えていった。
それを見、翼を羽ばたかせ、キラがなのはの元へやってきた。
「勝ったよ、なのは」
「う、うん……。」
キラの言葉の意図するところを掴めず、なのはは困惑を口にする。
しかし、そんな困惑以上の困惑をしている人間がいた。
それは、ユーノである。

「つまり、どういうこと?」
ユーノが自らの困惑を語り終わり、なのはが聞いた。
キラもアリシアも、決して話の要点を捉えれてはいなかった。
その事に気づき、ユーノは最後に要点だけを話す事にした。
「簡単に言うよ?
 いくら魔法生物だからって、粒子になって消えていくなんてのはおかしいんだよ」
「始めからそう言ってくれればいいのに」
なのはが不満そうに言うが、
「少なくともさっきの一行は先に言っておいたはずだけど」
とは、ユーノも苦笑気味に応じる。
「それでね、いくつか可能性があるんだけど……。」
ちなみに、あの生物を粒子に還元する事で、キラたちは元居た空間へ戻っていた。
話をクロノにしておいたので、彼等も追ってこちらへ来るといっていた。
「そんな事より、キラ。
 凄かったね、最後の」
アリシアがユーノの発言を遮ってそういった。
どうせここで言っても意味がないだろうと思っていたユーノは、遮られた事に起こるでもなく、逆に喜んでなのはに「少し資料を探してくる」と言ってその場を離れた。
「ユーノくん?」
疑問符つきで彼を呼んだが、ユーノは既に先ほどの不可思議を探る態勢に入ってた。
「邪魔しちゃ悪いよ、なのは」
「そ、そうだね」
その事を逸早く察知し、尚且つ無意味な発言を止めさせたアリシアがなのはを止める。
キラも、先ほどなぜ自分に振られたのか気づいていた辺り、なのはは少々疎かったかもしれない。
「それにしても……。」
そんな会話の功労者のアリシアが、ため息混じりに呟く。
「どうかしたの?」
「うん。
 キラもなのはもユーノもすごいのに、わたしだけ何にもできなかったなぁ、って」
キラの問いかけに、アリシアは今度は残念そうに呟く。
狙われていたのは自分であった上に、かつてキラたちに魔力を持って立ち向かっている彼女である。
助けてもらった人たちの手助けをできない現状を好とは思っていないのだろう。
「僕はそれでいいと思うよ?
 僕もなのはも選択をして戦ってたんだ。やめる機会があってもね。
 でも、アリシアちゃんにはそれが無くて、ただの罪悪感の増徴になっちゃってる」
「そうだね。
 それに、安易に戦いたいなんていったら、シンくんとフェイトちゃんに怒られちゃうよ?」
なのはとキラに言われ、アリシアは言葉に詰る。
「デバイスは作っているんだ。
 それからの事は自分で決めるにしても、せめて今くらいはゆっくり守られていてもいいんじゃないかな?」
「そう、なのかな?」
「そうじゃなくても、今は何もできないじゃない?」
「あ、それもそうだね」
その後の話は、その後に話し合えばいい。
今、キラたちに迫っている危機は、それすらもできないものではないはずだから……。
 
しかし、今のこの状況は、その程度がどうこうのものではないとは、誰も、知る故を持たなかった……。


 
 
本編プロローグ(事実上第1話)へ