Ace-Seed_626氏_第02話

Last-modified: 2013-12-25 (水) 20:29:05

紆余曲折の末ヘブンズベース攻略作戦は滞りなく終了。
大気圏突入の時は地上から来る対空砲の攻撃に肝を冷やしたが、何とか目標降下地点に辿り着き、
その後、各防衛線のコントロールタワーを落とすことに成功

結果、敵は海からの攻撃のみならず陸から来る、背後からの攻撃に対しても対応することになった
始めからそこのトーチカとMSの併用で防衛すれば、あと数時間は落とされるのを遅らせることも出来ただろうが…

この戦争の開戦直後に戦死した、ザフト兵器開発部の最高クラスの技術者かつ
ユーラシア連邦軍トップエースだったアントン・カプチェンコが設計した最強を誇る要塞。
さらに海側の艦隊に彼ら、ロゴスの疫病神そのものであろう――
ギルバート・デュランダルがいるとなれば、そちらに全力を傾けたくなるのは彼らとしては当然のことだった……

さておき、ガルム隊がヘブンズベース裏手のハードリアン防衛線を突破したことで
戦力をこちらに傾けなければならないこととなりMSをこちらにも投入してきた
近距離の支援機を失ったデストロイはちょうど突入したミネルバ隊が攻撃しヘブンズベースを落としたらしい
――ロゴス軍はおごりすぎた。
まあ、作戦開始からほんの一時間足らずでガルム隊が要塞戦力全体の30%を
落としたのはどちらにとっても予想外のことだったのだろう

世間にはザフト・ミネルバ隊こそが解放者、英雄という見方であったが
戦場に実際に出ていた面子にしてみれば、あいつらはただ良いタイミングで出てきた役者。
作戦の功労者はガルムの1番機"円卓の鬼神"という見方だった。

だが、降って沸いた"特別支給"があったため、誰もその件に触れることはなかった。
おそらくはザフトの面子が立たないということで"口止め料"が裏を回り傭兵部隊にもまわってきたものだろう。
それだけあるならブレイク・ザ・ワールドの被害にあった者にまわすべきだろうに…
まあ、俺にはどうでもいいことだ

これで終わりかと思ったのだが、まだ宇宙には戻れないそうだ…ロード・ジブリールが
オーブに逃げたらしくその追撃に加わることが決まった。

――デブリーフィングを終え、自機のコックピットで先にもらったディスクをみている
モニターには数字の羅列を並べた表
その数字の一部には自分がかつて生活していた孤児院へ送った覚えのある金額も表示されていた
それを見ながら思わず歯をくいしばる

"組織"への参加を決めたのは自分がかつて参加した"歌姫の騎士団"に対する失望が大きかった。
今ではその構成員は『ラクス様のために』といってはばからないそうだ。
あの娘をただ盲目に特別な者と信じるのみ…。
プラント・クライン派が唱えたナチュラル・コーディネータの融和という理想は幻想と化した。

ただ、ナチュラル、コーディネーターの両親の間に生まれ、捨てられた自分を親代わりに育ててくれた
孤児院のマルキオ導師があの娘の黒幕で本当にここまでするのだろうか?と疑問があった。
そのため"組織"にそれについての調査を頼んでいた…。

結果を記したディスクにあったのはやはり失望のみであった。
自分が稼ぎ送った金は――施設で請け負う子供を少しでも増やせるようと念を押して送ったはずだったが、
子供の人数は大して増えておらず。
その代わりに使用用途と記されていたのはシェルター建造、各国銀行への預金・クラインへの投資…とだけであった。
またブレイク・ザ・ワールドで使用されたらしいシェルターも写されていた。

そういえばブリストーのヤツに、はじめて会ったとき自分の育った施設のことを話すと
『あんなエセ宗教家の下にいたのか?』
と鼻で笑われて喧嘩になったが、こうやってデータを見てみるとヤツが言ったことは間違いでなかったと認識させられる。

また、ジャンク屋もこうやって順序だてられると
いかにラクス・クラインたちの行いを補助するための組織であると分かる。――導師が設立に積極的に携わった訳だ。
回収したジャンク等と言う名目でレアメタル等をかなりの量送っていることも記されていた。
…俺が傭兵として"騎士団"に参加したのもそういった駒のひとつだったか……
そういえば、"導師様"はさんざん自分に"SEEDを持つもの"がどうのこうのいっていたことを思い出し苦笑を浮かべてしまう。

最後に『迎えに行くのはデカイ花火が空に上がったときだ』とだけ書いてあった。
すべての内容を見たことを確認し、ディスクに入っていた消去プログラムを使いディスク、コンピューター両方から記録を消す
念のため取り出したディスクを何度か折り曲げ、はさみで切りダストボックスに捨てに行く。

機体に戻ったところでふと騒がしいほうに目を移す、クロウ隊の連中だった

「よう、PJこのままロゴスを倒すって意気込んではいるが、花束はいつ買いにいくんだ?」
「ヴァレーにおいてった彼女が心配だな?のんびりしてると別のヤツに 彼女撃墜されちまうぞ」
「む、無駄話ししている場合じゃないでしょ もうすぐ次の作戦のブリーフィングですよ」

ノロケ話か…気楽なものだ 確かあの3番機の彼女はコーディネーターでヤツ自身はナチュラルだったか…
俺の両親とは逆か。今はよかろうが―――考えるのは止そう いやなことを思い出した。
堕ちるなら俺の見えないところで願いたい。

と、自分の部隊の1番機を勤めている相棒が来た 用件はもうすぐブリーフィングだということを伝えに来たそうだ
相棒の風貌は黒い髪に、暗い青い目とそれなりに整った顔立ちをしている
どこか擦り切れた雰囲気を纏っているので自分より年上かと思ったが年は23だそうだ。
そんな印象から『地球育ちのコーディネーターか?』と聞いたが「それは聞かないでくれ」と言い

「ノルト・アドラーと名乗っている、よろしく"片羽"。できれば名前でなくTacネームの"サイファー"と呼んでくれ」

自分の汚さ、醜さ、絶望、希望、全てを受け入れている。そんな色を目に浮かべ握手を求めてきた。
――『名乗っている』と言っていたがおそらく過去を捨てているんだろう。そういうやつはこの世界、少なからずいる。
そんな自己紹介したのが昨日のようだ。

自己紹介の後はじめてアイツと飛んだとき、その軌跡は自分と同じようで何か違い、そしてまだ延びる余地を感じた。
だから1番機を任せている。そしてオレは2番機の位置を選んだ。
ここから離れる――この道をとるのに迷いはないが、もう少しこうやって1番機を見ていたい。
だが、もうそんなに時間はないだろう。――それが少し悔しかった。

―――L4メンデル近くの宙域

部下が"例のノート"をスポンサー殿の部下、ダコスタとか言う腰巾着に渡したときの映像を確認し
自分の部屋に戻ってきた。

10年ほど前――当時、ユーラシア連邦軍に所属しWW3から続く度重なる地域紛争の中
他国との合同軍と言う形で世界中に派遣され、その度に使い捨ての駒のように送り出されたが戦果をあげていき
一箇所を緻密な小隊運営での連続攻撃で落とす戦い方から「金色の啄木鳥」と呼ばれた。
ただ、やはり緊張の強まる人種という壁で疎まれていた。
歳を重ね兵器開発部に異動するかと考えていた時、あの男に頼み込まれた。

十年程前
ユーラシア連邦某所

「ザフト――?民兵…そんなものを作るのか、理事国側が黙ってないと思うが?」
「分かっている。ゆえに君に頼みたいのだ。このリストを見てくれ…こんな者達のみでそんなもの作ったら
 それこそ、すぐに戦争になってもおかしくない。」

目の前の男、シーゲル・クラインに渡されたリストを斜めに目を通す
…皆、私の知る限りだと自分たちの人種の優越性を説いている面子ばかりだ。
彼らと同じ人種としての人生を歩んできたが。それとは別に私は軍人として生きてきた。

だからと言うわけではないが
独学で磨けるのは技術だけで、思想・理念は歴史から生み出される。と考えている。
それを忘れて自らの肉体、頭脳性能のみを過信する者たちがコーディネーターの中に増えてきている。
――同じ軍人にすら――
そういったことがそもそもの人種の溝だというのに…

「なるほどな、2年か3年…ある程度、兵がたまったら戦争を始めかねんな。そうやって空を穢すのか?空にいる君達は」

こう先行きを述べると目の前の男が大声で口調を荒げながら

「それを防ぎたいのだ。だから私は君に最初の舵取りを手伝ってもらいたいのだ…」

そういって少し沈黙したあと

「…すまない。感情的になってしまった。一度プラントに来てくれないか、この名刺と君のIDを見せれば
 大抵の施設に出入りできるよう取り計らう、できれば機会をあらためてまた会いたい。」

そういって連絡先を記した紙を置いて去っていった
メディア等から得た人物像を見る限り、こうも感情的になる事はない者かと思っていたが、骨はあったのか。
彼が作った場所に少し興味がわき、数日後そこにいってみるコトにした

私生活においてやることなどなく休暇返上で職務に没頭していたためか、休暇はすぐに取れた。
戦場を引退し開発に移ろうとしているコトをそちら側の部署の者が、
自分たちの今後の仕事についての危惧を持っていたことも要因のひとつだろう。
私が休暇を申請した用件が"プラントへの旅行"という事
それが仕事を奪うコーディの体のいい厄介払いの見込みが立つのでは――そんな期待感もあったのだろう

休暇は1週間もとれた。
初日1日かけてプラントに行き、2日目・3日目は適当プラントコロニーを巡り回り、
羽クジラを見たり、彼に名刺をパス代わりにして多々の施設を見学した

次の日、クラインと会い、彼に連れられザフトの兵士養成機関を見ることになったのだが、
そこでの私の評価は。
個人技術は高レベル。が、団体・編隊行動、何より肝心な軍人教育についてのノウハウがどうしようもなかった。
そこの教官となる者の名前は皆それなりに出身地域の軍で戦績を上げたものだがナチュラルを見下す傾向が強かった
――こんな軍隊など作ったら確実にプラントは終わるだろう…

そう言うまでもなく、私の不満を読んだのか連れてきた男は浮かない表情を浮かべていた。
見学を終えた後、彼の家に招かれ、戦場の雑な味になれた自分の味覚には合わない茶を頂きながら端的に感想を述べる

「建前上は宇宙海賊、スペースデブリ等に対する対応するため…か。しかし、あれではその建前の実行もおぼつかないな。
 ああいった者は効率性の追求のために、それなりのレベルの連携くらい組む
 ましてや戦争にでもなったら即刻、理事国の連合軍が宣戦布告と同時攻撃で基地のあるコロニーをピンポイントで破壊し尽くす。
 それで終わりだろう。――そしてプラントは完全に独立と言う道は立たれるわけだ。」

そういいながら様子を伺う。前回はあいまいなことを言ったため怒らせた。あれで怒らなければ骨なしであろう。
ただ今回は観察した上での事実の述べている。それに対し頭に来るようでは話にならない。
逆境の中、国を立ち上げた者にそんなことはないだろうが…

予想どうりシーゲルは静かな口調で

「分かっている。それでも…それでも今の評議会、プラント市民を納得させるには必要なものなのだ」

そういって庭先に目を向ける そこにはピンク色の髪をした娘がペットロボットと戯れていた…
それを見ながら

「…建前だな、それも。娘たちの世代にそういった禍根を残したくない。それだけだ、だから君に手伝ってもらいたい」

次の世代に禍根を残したくない…なるほど、空を汚させたくないという私と近い…
しかし…気になることがあった。目の前の者はプラントをどういう展望を持った上で
こういったことをしているのかということ――。

「ひとつ聞きたい、君はここの立役者の一人だ。何を望んでプラントを作った?」

目の前のはそう言われ、少しの沈黙のあと

「……歴史を辿れば人の歴史は立場、言葉、肌の色、文化、そういったものの隔たりで戦争をしてきた。
 我々コーディネーターと言う種もある意味そういった歴史のひとつだと思っている。
 ならば――過去のそれと同じように一度分け、その中で少しずつの交流を経て
 互いの隔たりを埋めていくための場所にしたいと思っている。」

人種の溝を何とかしたいという想いはおなじなのだろう。
先日、オーブのアスハもまた、私が今後の進退で悩んでいることを聞きつけたらしく、自国へ誘ってきていた。

その時に『君の国は何故"ナチュラル"、"コーディネーター"の差別をしないのか?』
そう質問をしたが『オーブは人種を差別しない国だ』と、ただ先祖から続くお題目を述べただけ…
アレは歴史から来る思想と言うものをまるで理解していなかった――

だが、目の前の男はそれを分かっているようだ――この者のためなら力を貸しても良いのかもしれない
その後、ユーラシアで編隊を組んだコーディネータを誘いプラントに移ることにした
当時コーディネーター排斥が強まっていたため軍もひきとめなどしなかった――

――そして約十年…
軍人教育・平和利用できる兵器の開発など、自分の出来る範囲の中でやれることはやったが
やはり危惧したとおり先の戦争に至った

NJ投下を可決した時は交戦国それぞれに数個、合計十数個のはずが、いつの間にか100単位打ち込まれていた。
それを契機にシーゲルは理想に溺れ、相方であったザラは暴走し果てた。
私は補給部隊に所属しつつ、シーゲルの娘に手を貸したがこの2年間で十分に失望させてもらった。

私もあの二人の様に理想・信念に溺れ、その果ての暴走の道を辿っているだろう…
だが、あの娘は次の戦争を生み出す元凶となる、潰さなくてはならない。――空を人の欲望で汚れたものにしたくない。

そういえば私の考え方と似たようなことを言っていた者が数年前いたことを思い出した。
生い立ちから地球を追われたらしい。ほんの数ヶ月で姿を消したが。
今は何をしているだろうか……私に師事したのだから死んではいないだろう。

――そんなことを思い出すとは…弱気になっているのだろうか…

いろいろと考えているところに緊急通信がきた
どうやらエターナルを収容している宙域が攻撃を受けているそうだ
切り抜けるだろう、『あの娘は悪運だけは強い…放っておいていい。』と指示を出してベットに転がり込む。
これからは忙しくなる。少しでも休まなければ…先は長い。

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