――ユーラシア連邦所属:ヴァレー宙空基地
朝食後、新聞を手にとって読んでいる…その見出しには、"終戦条約締結"とあった
その要点は五つ…政治家たちのその狡猾さには舌を巻く
1,2項目はデュランダル議長の暴走を叩き潰したオーブ、プラントの功績をたたえて……と、いったものだろう
だが、後の3つは――確実にこの二ヶ国にとっては猛毒に等しい物だ…
4の項目は、人口が少ないオーブ、プラントにとっては大軍縮になるだろう…二国の人口は少ないのだから…
5――ジャンク屋として『歌姫の騎士団』まぎれていたから分かる――ヤツラの戦力を解体するも同然
よくも、こんな物を受け入れたものだ。あの時の通信から考えれば『平和のために』とでも受け入れたのかも知れない…
最後には…いや、最初から『力ずく』という行動しかないあの娘は、結果が見えたら戦争を起こすだろう。
何よりも、3項目は自分がかつていた大西洋連邦ならばいずれ――考えるのは止そう…
平穏もそう長くて5年続けば長いもの――、そんなことを考え始めたので読むのをやめ、新人の訓練メニューを練ることにした。
――オレは全てを捨ててここにいる。そんな自分にいまさら世俗に関わる資格などないのだから……
その新聞を取った、PJの側においてある手帳には走り書きのような物がある…
新聞に熱中しているようなのでコッソリとって読む――
――『Journey Home』
The journey begins, Starts from within, Things that I need to know.
旅立ちは 私の心から始まる、私だけの答えを求める事から
「――なっ!なに読んでるんすか!?」
あせった声と共に手元にあった手帳は取り上げられてしまった
その速さは並のコーディネーターよりもはるかに速いといえるもの、面食らったオレはまるで反応できなかった……
「……PJ、読まれてまずいならそんな所において置くなよ。この仕事が終わったら詩人にでもなるのか?」
そう聞くと、目の前のはしばらく黙り込んだあと
「いや、彼女、歌うことが好きで…それで…俺に…何か一曲、書いてくれって言ったから…」
なるほど、そうゆうことか…PJのこの反応は面白い――クロウ隊の面子がコイツをからかっていた理由がなんとなく分かる。
だが、オレはそんなにからかう気がないので、はっきりと感想を述べる
「いい詩だと思うぞ?とっとと傭兵なんかやめて、作詞家にでもなればいいってくらい…」
「いやぁ、おだてないでくださいよ」
こんな話しをしながら訓練メニューを組み、オレはそんな最近の日常を謳歌している――
――L4はずれ"アヴァロン"
≪領土 人民 権力 今そのすべてを――≫
集まった同志たちを前にブリストーが演説をしている。それを眺めながら2年前のことを思い出す――
――二年前
核攻撃で崩壊するボアズを眺めながら、隣にいる仮面をつけた若造が呟く
「やはり人は愚かだな…。」
「…さて、私は行くよ。君の機体の最終チェックは済ませた。……アレを使えるようにしたのは君だろ?クルーゼ」
「試しただけさ。アレをどういったことに使うのかとね」
「まったく、試すというならば、それを渡した相手がムルタ・アズラエルというのがそもそもの間違いだ。」
「?」
その言葉に対しこちらを向く男…少しは話していいだろうか
「君は確か、あの狂った研究の資金のため――と、作られたな?」
「…そうだ。忌々しいことにね」
「では、君と同じように、その狂った研究の実験過程に生まれた者が、アズラエルの近くにいたとしたら?」
「――まさか、そんなことが?」
「――連合の"ソキウス"は知っているな?それの元となった人工子宮の成功体、第一号、それが近くにいたのさ…。
だから、アズラエルは"ソキウス"という商品を作ることが出来た。
もっとも、オリジナルのそれは普通に育った、以前、私の元にきて……そして去っていった
そんな者が近くに居た……その憎悪は計り知れない物だろう――」
「……それで?そいつは――」
目を丸くしているのが仮面越しからでも分かる。自分と同じか、そうではないかというのを聞きたいのだろう――
「……去っていくときにこう言ったよ――
『兄と呼んだ者も、あなたも、僕のことを生かしてくれた。"ナチュラル"も"コーディネーター"も…
どちらも同じ想いだと――それを信じたい』――とね……」
「ふふはははは……そんな者がいたのか――だから、君はあの計画をもっていながら、クラインに協力するわけか…」
「……まあ、そういうことだ。私はシーゲルの誘いでここに来たからな…その娘なら――とあまい事をも考えている」
「くくくく、それで、ラクス・クライン、キラ・ヤマトか……」
それに対し、ただ黙ってうなづく
「――では、彼らが道を誤った場合はどうする?」
「そのときに我々は立つさ――私はまだ信じたいからな」
「そうか…、全く君はおかしな奴だよ。世界を憎み滅ぼさんとする私と接触して、説教をするとは…
――それにしても、私たちとキラ・ヤマト、それ以外にそんな者がいたとはな…」
「生を受けたなら全うする、憎しみという視野ではなく、それ以外の感情で世界を見ることもまた大切…。
君と似たような"彼"はそう思って生きているのだろう。それを教えてやりたくてね…」
「……君とは、もう少し早く知り合い、友人になりたかったな、アントン・カプチェンコ。そして君の友人にも…」
「そうだな…"彼"も君のことを知ったらそう思うよ、きっとな。――ラウ・ル・クルーゼ…お別れだな」
「ああ、最後にいい話しを聞けたよ…私は君の信じるものを確かめてくるとしようか――」
そして、クルーゼは戦場に出て行き、キラ・ヤマトに撃墜された…
数年前、去っていった"彼"は"片羽"の情報から、"円卓の鬼神"という渾名を背負って戦っている、戦場に何かを求めているのだろう…。
そして私は、信じられなくなった――考えに没頭している内に私が語る番が来たようだ。
――壇上に立ち語り始める
「さて…何を…何から語ればよいか……
我々の目的は先ほどブリストーが語ったように、"変わらない世界"を変えることだ――
では、何が変わらないか?――強いて言うのならば"支配者"であろう。
デュランダルはロゴスという支配者を上げ、自らがそれに成り代わり、プラン強行という愚を犯し、
それを倒したことで次の支配者が現れた――ラクス・クライン達が、それに付随する者達が……。
一体何が変わったのだろうか?そんな世界を変えると――
そもそも我々は"ナチュラル"、"コーディネーター"と分かれて戦っていたはずだ?
これは"コーディネーター"が"特別な者"という傲慢さが招いた過失といって過言ではないだろう。
それが何時の間にか"ロゴス"という"ナチュラル"のみの一企業といっていいものが敵となった。
そして"コーディネーター"が世を握り、デュランダルはプラン強行という愚を犯し、果てに世界を握った"特別な者"たちを
貪ることで生まれる、利益配分に世界はしがみつこうとしている。
そんな戦いのどこに正義がある?勝者といわれるものの悪行を誰が裁く?我々が戦った意味とはなんだったのか?
――ここまでの話を聞き、なにかしらの疑念を持ったものがいるのならば、遠慮なく申し出て欲しい。
ここで抜けるべきだ。これから我々の行う戦いは、過去のいかなる戦いより報われることのない闘いとなるだろうから…。
だが私は、それでも――と志をもつ者が集ったと信じている。
こんな世界を少しでも変えたいと……我々の力を以ってして新たな物語を書き連ねよう――」
そういって黙って敬礼をする――それに返すようにみな一様に敬礼を返す。
会場に入ることが出来なく、モニターで見ていたものたちもまた同じだった。