『ワルター様ぁ~~~vv お迎えにあがりましたわv 早く一緒に帰りましょう~~~vv』
アークエンジェルの中にも外にも、甘ったるい少女の声が響いた。
鋼鉄の神経でならした『砂漠の虎』ことアンドリュー・バルトフェルトすら、あまりの事態に声も出ない。
アークエンジェルの上に降り立ったのは、巨大なピンクのウサギのぬいぐるみだった。ぬいぐるみがしゃべるはずはないから、中にはパイロットの少女がいるのだろう。多分、いや絶対。
「ひっ……あ…ああ、う……」
ラクスの隣でサンジューロー・ワルタが喉を詰まらせ、酸欠の金魚のように口をパクパクとさせている。
「サンジューローさん? どうなさいました? お体の具合でも悪いのですか?」
「わ、わからぬ…だが、あのウサギを見ると、なぜかトリハダが……」
『ワルター様ぁ~~~vvvv』
甘える少女の声に更に怯えるサンジューローを見て、ラクスはキッと面をあげた。
「キラ、アークエンジェルが大変なことになっています。すぐに戻ってきてください」
『ラクス?! わかった!』
キラの声が聞こえたことでマリューも正気を取り戻したのか、ヘルダートの照準を目の前の巨大ウサギに向けさせた。
ノイマンがその卓越した操舵でウサギを振り切ろうとする前に、こちらの動きに気付いたのか、ウサギが飛んだ。
『まあ、なんてことですの?! ワルター様を誘拐したあげくに閉じ込めておくなんて! そんな悪い子ちゃんは……オシオキよ~~~!!』
「こっちは子供の相手をしている程ヒマじゃないんだよ!」
「ヘルダート、てーー!」
超至近距離から放たれたヘルダートの弾を、ウサギは避けた。空中に数本のピンクの繊維が散っただけ。エプロンドレスの裾から取り出した得物を見て、再度ノイマン達は絶句する。
「何あれ? 本当にオモチャ?!」
ミリアリアの言葉はしかし間違っていた。一旦下がったウサギは、猛烈な勢いでアークエンジェルに肉薄すると、なぜかピコピコと軽い音を立てて……ローエングリンをもぎ取ったのだ。
「嘘っ?!」
『ラクス!!』
ザフト艦との戦闘に出たばかりのフリーダムが猛スピードで戻ってくる。
マルチロックオンシステムが捉えたウサギに一瞬驚きながらも、キラは両手両足に照準をマニュアル変更し、発砲した。
『あん!』
……が、避けられた。
「そんなっ?!」
『邪魔しないでって言ったでしょ?!』
ピコピコピコと軽い音が三度響いた。
一度目で背中の翼の片方が叩き折られ、二度目でもう片方も折られ、最後の一撃を喰らったフリーダムは、海に向かって真っ逆さまに落ちて行く。
「キラーーーー!!」
ようやく追いついたカガリは、ストライクルージュを降下させ、落ちて行くフリーダムを追った。
* * *
「悪太どうしたんだろうね。せっかくシャランラに迎えに行ってもらったのに」
それはシャランラが迎えに行ったからでは? とモビィディックのブリッジで瞬兵や勇太は思ったが、なんとく口には出さないでおこうと思った。
「あ~……案外、敵に捕まって洗脳でもされたんじゃないか?」
「そういうお約束は外さないもんな」
「ならば尚のこと、兄上を取り戻さねばなりません。行きますよ、キャプテンシャーク!」
『アイアイサー! 艦長代理!』