BRAVE-SEED_5-632氏

Last-modified: 2010-04-01 (木) 19:16:52
 

『ワルター様ぁ~~~vv お迎えにあがりましたわv 早く一緒に帰りましょう~~~vv』

 

 アークエンジェルの中にも外にも、甘ったるい少女の声が響いた。
 鋼鉄の神経でならした『砂漠の虎』ことアンドリュー・バルトフェルトすら、あまりの事態に声も出ない。
 アークエンジェルの上に降り立ったのは、巨大なピンクのウサギのぬいぐるみだった。ぬいぐるみがしゃべるはずはないから、中にはパイロットの少女がいるのだろう。多分、いや絶対。

 

「ひっ……あ…ああ、う……」

 

 ラクスの隣でサンジューロー・ワルタが喉を詰まらせ、酸欠の金魚のように口をパクパクとさせている。

 

「サンジューローさん? どうなさいました? お体の具合でも悪いのですか?」
「わ、わからぬ…だが、あのウサギを見ると、なぜかトリハダが……」
『ワルター様ぁ~~~vvvv』

 

 甘える少女の声に更に怯えるサンジューローを見て、ラクスはキッと面をあげた。

 

「キラ、アークエンジェルが大変なことになっています。すぐに戻ってきてください」
『ラクス?! わかった!』

 

 キラの声が聞こえたことでマリューも正気を取り戻したのか、ヘルダートの照準を目の前の巨大ウサギに向けさせた。
 ノイマンがその卓越した操舵でウサギを振り切ろうとする前に、こちらの動きに気付いたのか、ウサギが飛んだ。

 

『まあ、なんてことですの?! ワルター様を誘拐したあげくに閉じ込めておくなんて! そんな悪い子ちゃんは……オシオキよ~~~!!』
「こっちは子供の相手をしている程ヒマじゃないんだよ!」
「ヘルダート、てーー!」

 

 超至近距離から放たれたヘルダートの弾を、ウサギは避けた。空中に数本のピンクの繊維が散っただけ。エプロンドレスの裾から取り出した得物を見て、再度ノイマン達は絶句する。

 

「何あれ? 本当にオモチャ?!」

 

 ミリアリアの言葉はしかし間違っていた。一旦下がったウサギは、猛烈な勢いでアークエンジェルに肉薄すると、なぜかピコピコと軽い音を立てて……ローエングリンをもぎ取ったのだ。

 

「嘘っ?!」
『ラクス!!』

 

 ザフト艦との戦闘に出たばかりのフリーダムが猛スピードで戻ってくる。
 マルチロックオンシステムが捉えたウサギに一瞬驚きながらも、キラは両手両足に照準をマニュアル変更し、発砲した。

 

『あん!』

 

 ……が、避けられた。

 

「そんなっ?!」
『邪魔しないでって言ったでしょ?!』

 

 ピコピコピコと軽い音が三度響いた。
 一度目で背中の翼の片方が叩き折られ、二度目でもう片方も折られ、最後の一撃を喰らったフリーダムは、海に向かって真っ逆さまに落ちて行く。

 

「キラーーーー!!」

 

 ようやく追いついたカガリは、ストライクルージュを降下させ、落ちて行くフリーダムを追った。

 

 * * *

 

「悪太どうしたんだろうね。せっかくシャランラに迎えに行ってもらったのに」

 

 それはシャランラが迎えに行ったからでは? とモビィディックのブリッジで瞬兵や勇太は思ったが、なんとく口には出さないでおこうと思った。

 

「あ~……案外、敵に捕まって洗脳でもされたんじゃないか?」
「そういうお約束は外さないもんな」
「ならば尚のこと、兄上を取り戻さねばなりません。行きますよ、キャプテンシャーク!」
『アイアイサー! 艦長代理!』

 
 

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