~プラント・ザフト軍基地~
「シャア大佐、ライデン少佐をお呼びしました。」
「分かった。通してくれ。」
シャアは広い一室で分厚い報告書に目を通していた。
今やザフト軍の中でもクルーゼに並ぶ地位を獲得していると言われるシャアは、
ザフトの名立たる隊長クラスの人間や軍内に限らずプラント評議会内でも、信頼を勝ち得つつあった。
「失礼します。」
「あんな辺境まで駆り出させてすまなかったな少佐。 報告書は一通り目を通した…。
目当てのGは4機のみ奪取か。私の予想通りの結果になった訳だな。」
「まあ、仕方ないでしょう。
能力任せの未熟な坊や達に任務を任せているんじゃ、全て成功ってのはあり得ませんよ。」
シャアは帰還したライデンが入室し、労うと早速ヘリオポリスでの作戦報告についての話を切り出した。
シャアはGの奪取が4機のみに終わった結果にはさして動じる事もなく淡々としていた。
ライデンも同様にすでに予想し得た結果として受け止めていた。
「しかし、気になるのは君の為にチューンナップしたギラ・ドーガが中破した事と転移者の戦闘介入だな。」
「まあ戦闘介入とは言ってもクルーゼが一方的に……
いや、これはまだ良いでしょう。問題はその転移者ですよ。」
「クルーゼか…グラムからの報告待とう。
しかし、君も人が悪い…帰ってきてから転移者の情報を詳しく話すとは聞いたが気になるな。」
シャアに上げた報告書通りに話は進むが、
ラー・カイラムとの戦闘に関してライデンはシャアに直接詳細を伝えるとし、
シャア自身はまだアムロが転移して来た事は知らなかった。
「あいつはやはり強かった。
名前だけでしか聞いていなかったから、尚更奴の強さに戦慄しましたよ。」
「ふっ…もったいぶらずに言ったらどうだ?私を相手に遊んでも何も得はなかろう?
一体誰が来たんだ?」
ライデンはしみじみとアムロとの戦闘を思い出し焦らすように話していたが、
シャアは小さく笑いながら問いかける。
「…連邦の白い悪魔、アムロ・レイですよ。あれは大佐が来た時代のアムロ・レイのはず。
俺のギラ・ドーガを見て敵意を露わにしてましたから。」
「!?」
ライデンは腕を組み、にやけた顔でシャアにアムロと接触した事を明かした。
「それは本当か!?」
「本当も何も、俺をあれだけ追い詰める人間はそうはいない。
『赤い彗星』シャア・アズナブル大佐もよくご存知でしょう?」
シャアはその後、ライデンからアムロならず
ブライトも転移してきた事を聞かされ眉間にシワを寄せ深く考えこんでいた。
「…。(…今の私を見たら貴様達ははさらに怒り、
そして失望するだろうな…異世界で要らぬ技術を広げ過ぎ、
放たれた戦火の炎を消せずにいるこの私を…。)」
~アークエンジェル艦内~
「どこに行くのかな、この船。」
「まだザフト、居るのかな?」
アークエンジェルではヘリオポリスで機密事項であったGの戦闘を目撃したカトーゼミの面々、
カズイが不安そうな表情で話していた。サイも同調するように艦やザフトの動向が気になっていた。
「この艦と、あのモビルスーツを追ってんだろ?じゃあ、まだ追われてんのかも。」
「えー!じゃあなに?これに乗ってる方が危ないってことじゃないの!やだーちょっと!」
「じゃあ、壊された救命ポッドの方がマシだった?」
サイとカズイの言葉にトールが的確な予想をすると、
救命ポッドを回収した際に乗っていたゼミのフレイ・アルスターが動揺しながら騒ぐ。
ミリアリアはフレイに対し現実を見せるように言葉を返していた。
「そ、そうじゃないけど…。」
「親父達も無事だよな?」
「避難命令、全土に出てたし、大丈夫だよ。」
ゼミの皆もキラと同じで、一末のの不安を抱えながら両親の身を案じていた。
「あ、キラ!?」
「あ…みんな。」
カトーゼミの面々が話をしているとキラが1人で歩いて来た。
それに気付いたサイはキラを呼び止める。
「軍の人から聞いたよ!どこいったのかと思ったぜ!?」
「ご、ごめん…心配かけちゃって。」
キラを心配し、周りを囲むように談笑しているとムゥがキラへ声をかける。
「キラ・ヤマト!」
「は、はい。」
「マードック軍曹が、怒ってるぞー。人手が足りないんだ。自分の機体ぐらい自分でちゃんと整備しろとさ。」
キラはムゥの呼び声に振り向き、ムゥはキラにとって以外な事を言い出した。
「僕の機体…?え、ちょっと僕の機体って…」
「今はお前の機体になっちまってるんだ。
OSがお前独自の調整になってるんだ、整備班が手出し出来ないんだとさ。」
キラはムゥへ聞き返したが、ストライクが既にキラにしか動かせないようになっており、整備班から整備はキラにやらせろと声が上がっていた。
「…でも…僕は…」
「まだ決めてなくても整備士の手伝いだと思ってやってくれ。
今は軍に入るとか入らないとか抜きにしてな。」
「…はぁ…。」
キラは半ば強引に説き伏せられる形で格納庫までムゥに引き連れられて行く。
「あの!この船はどこに向かってるんですか?」
「月の本部基地だ。ま、すんなり行けばいいがな。ってとこさ。
無事着くように祈っててくれ。」
サイがその場を離れるムゥに声をかけ質問すると、ムゥは正直に目的地を伝えて一言言い残していった。
「え!?なに?今のどういうこと?あのキラって子、あの…」
サイ 「君の乗った救命ポッド、モビルスーツに運ばれてきたって言ってたろ。
あれを操縦してたの、キラなんだ。」
「えー!あの子…?」
「ああ。」
フレイは先程のムゥやサイ達の会話が気になりサイへ聞くとその答えに驚く。
「でもあの…あの子…なんでモビルスーツなんて…」
「キラはコーディネイターだからねー。」
「「!!」」
「カズイ!!」
フレイは驚きながら何故、同じゼミの人間がMSに乗っているのか分からないでいると、
カズイはキラがコーディネイターである事をさらりと漏らす。
それを聞いたサイは驚き、フレイはさらに驚いていた。
トールはヘリオポリスでキラが囲まれ、
銃を突き付けられた事が頭に残っており軽々しく
キラがコーディネイターである事を漏らしたカズイへ大きな声を上げる。
「……キラはコーディネイターだ。でもザフトじゃない。」
「……?」
「…うん、あたし達の仲間。大事な友達よ。」
「…そう…」
サイがコーディネイターを恐れるフレイを安心させるように説明すると、
ミリアリアも同じように説明をした。
フレイは安堵と不安、どちらも入り混じるような複雑な気持ちでいた。
~ヴェサリウス艦内~
クルーゼ隊は月に向かうアークエンジェルを追っていた。
クルーゼはヘリオポリスでの戦闘で奪取したイージスに乗り、
強行出撃をしたアスラン・ザラを呼び出し、その心意を問うていた。
「…そうか。戦争とは皮肉なものだ。君の動揺も仕方あるまい。
仲の良い友人だったのだろ?」
「…はい。」
ストライクに乗っているパイロットがキラ・ヤマトである事、
そして彼とは月の幼年学校で共に過ごした友人であった事をアスランはクルーゼへ正直に話した。
「分かった。そういうことなら次の出撃、君は外そう。」
「えっ!」
「そんな相手に銃は向けられまい。私も君にそんなことはさせたくない。」
「いえ!隊長!それは…!」
クルーゼは至って冷静にアスランの話を聞き、
人間であれば当然そう命令するであろう言葉を返すと、アスランは驚く。
「君のかつての友人でも、今敵なら我らは討たねばならん。
それは分かってもらえると思うが?」
「…キラは!…あいつは、ナチュラルにいいように使われているんです!
優秀だけど、ボーっとして、お人好しだから、そのことにも気づいてなくて…
だから私は、説得したいんです!
あいつだってコーディネイターなんだ!こちらの言うことが分からないはずはありません!」
クルーゼの言葉に対し、アスランは自らの希望を胸にクルーゼへキラの説得を懇願する。
「君の気持ちは分かる。だが、聞き入れないときは?」
「!……その時は…私が討ちます…。」
しかし、そのような世迷い言とも取れるアスランへ、
クルーゼは現実に引き戻すかのように問いかけ、アスランはその時は覚悟をする事を誓った。
その言葉を聞いたクルーゼはなんとも言えぬ邪悪な喜びを感じていた。
~ラー・カイラム艦内~
ブリッジ
「ベアード少尉、頑固者のアムロのせいで急な編入ですまない。」
「いえ!!かの一年戦争の英雄であるブライト・ノア大佐とご一緒できる事を喜んでおります!」
ラー・カイラムのブリッジにはアムロと入れ替わるように編入されたジャック・ベアードが
ブライトへ着任の挨拶をしていた。
「ブライト大佐、そこで私から一つお願いがあるのですが宜しいでしょうか?」
「うん?何だ?」
「…僕をジャックと呼んで貰えますでしょうか?」
ベアードはブライトへ真剣な眼差しで何を言い出すのかと思いきや、いきなり呼び方を頼んできた。
これにはブライトや隣にいたメランは目を丸くし、
周りのブリッジクルーのシーサー達はこけ、クスクスと笑っていた。
「オホン!………少尉…、司令官である大佐へそれは馴れ馴れしいぞ?
今は非戦闘中であっても月へ向かう作戦行動中であり、ザフト艦が後を着けて来ている可能性もあるのだ。
緊張感が足りないのではないのか?」
「う…。」
メランがベアードへ軽く説教染みた事を言う。
ベアードはそうメランに言われると少し反省しているようだった。
「まあいいじゃないかメラン。
ベアード少尉……いや、ジャック少尉今はラー・カイラムを守れるMSは君だけだ。
それにアークエンジェルを無事に月へ送るのが目的であり、その背後を守るいわば殿だ。
世話になっていたムゥ大尉やラミアス大尉達を安心させられるように応えてみせてやって欲しい。」
「大佐……あ、ありがとうございます!!」
ブライトは妙に真面目だが可愛げのあるベアードにそう言葉をかけると、
やれやれと感じながらもこの場を丸く収めた。
~アークエンジェル艦内~
アムロは編入となったアークエンジェル艦内をナタルに案内して貰っていた。
「すまない、バジルール少尉。」
「いえ、下士官を休ませなければいけませんでしたので。」
一通りの案内を終え
アムロの部屋となる扉の前でアムロはナタルへ礼を言う。
ナタルの生真面目な固い性格が滲み出るような返事にもアムロは落ち着いた表情でいた。
「確か君があの時ヘリオポリスでアークエンジェルを動かして戦っていたのだろう?」
「はい。…あの時は判断が散漫でありました。
その結果がヘリオポリスの崩壊を招いてしまった一因でもありました…。」
アムロはヘリオポリスでの戦闘を話し、ナタルは追求されたくない事だったのか少し顔を俯けていた。
「いや、確かに冷静にならなければいけなかったかもしれないが
余程の人間じゃない限り、
あんな状況じゃ冷静ではいられなくなるものさ。」
「は、はあ…。」
アムロはそれに気付いたのかすかさずフォローをいれるように語りかけ、
ナタルはその言葉をフォローと受け止めていたがあまり効果はなかったようだ。
「君はブライトの今までの話を聞いて驚いただろうが、俺も彼も最初は必死だった。
艦にはアークエンジェルのように避難民を乗せて戦った事もあった、
常に冷静でいられる事なんて無かったよ。」
「大尉や大佐が…ですか?」
アムロはナタルをフォローするつもりがいつの間にか、思い出話になっていた。
ナタルもアムロやブライトの過去に少し興味を持ったのか顔を上げて話を聞いていた。
「では、何故大尉は戦おうと思われたのですか?」
「それがキラ君と似たような境遇でね…ヘリオポリスではまだ話していない事も沢山ある。
だがあの時は戦わなければ死んでいた…。」
アムロがナタルの問いに答えると自然とアムロは顔を下に向けていた。
「大尉…もし宜しければ、その一年戦争のお話やここに来るまでのお話をお聞かせ願えないでしょうか?」
「?あぁ、構わないさ。
それじゃあ、立ち話もなんだから、中に入ろう。」
ナタルはアムロが見せた寂しさすら伺わせる表情が妙に気になりアムロの今までの話を聞く事にし、
部屋の中へと入っていった。
~プラント~
とある邸宅
「あら…彗星さん。
大変お久しゅうございます。」
「これはラクス嬢。ますます美しくなられましたな。
お父上はどちらに?」
「まあ、お上手ね。カナーバさんとご一緒ですわ。ご案内します。」
シャアは仕立ての良いスーツに身を包み、プラント元最高評議会議長であるシーゲル・クライン議員の下を訪れていた。