アークエンジェルとラー・カイラムは順調に航行を続けていた。
ヘリオポリスを経ってから8日目に入り、ユーラシア連邦の制宙範囲を避け、ザフト艦に捕捉されぬよう
暗礁空域へ入るなどの遠回りしながらの航行を続け、
月までの距離はようやくあと3日までの距離にまで来ていた。
~アークエンジェル艦内~
「敵影補足、敵影補足、第一戦闘配備、軍籍にあるものは、直ちに全員持ち場に就け!軍籍にあるものは直ちに…」
アークエンジェルのブリッジから追跡をして来ていたヴェサリウスを捕捉し、艦内放送を流れる。
「ママぁ~。」
「大丈夫よ。…」
「戦闘になるのかこの船…?」
「俺達だって乗ってるのに!」
「…キラ…どうするのかな。」
避難民を収容している居住ブロックには避難民の不安の声が入り混じる中に、サイらカトーゼミの生徒達もおり
ミリアリアはキラがどうするのか
心配していた。
「あいつが戦ってくれないと、戦力が少なくて困ったことになるんだろうなぁ。」
「ねぇトール…私たちだけこんなところで、いつもキラに頼って守ってもらって…」
サイとミリアリアはいつの間にかアークエンジェルというより、軍を心配し守ってもらうばかりの状況に歯痒い気持ちを感じていた。
「もし…キラが戦うんだったら…俺たちにも何か出来る事があるんじゃないか…?」
トールは意を決したように全員に問いかけるとサイ、ミリアリア、カズイは力強く頷いた。
~ラー・カイラム艦内~
「艦長、先行するアークエンジェルより通信入りました。」
「分かった。繋げ。」
アークエンジェルの背後を守るように航行するラー・カイラムも熱源を探知し、警戒体制に入っていた。
「ブライト大佐。ザフト艦と思われる熱源反応があります。」
「こちらでもキャッチした。
速度から見て間違いないな…。
戦闘は避けたかったが仕方あるまい。」
「はい…。各員には艦内放送にて伝えてあります。
動きがあるまで第2戦闘配備で待機します。」
ブライトは民間人を乗せた状況での戦闘が始まるのを防ぎたかったが、すぐに切り替えラミアスの報告を聞いていた。
「了解した。おそらくザフトは補給をせずにこちらを追って来ているはずだ。
戦力事情は分からんが今までの戦闘である程度は削れているはずだ。」
「はい。どちらにしても警戒を怠らずに迅速に対処します。」
「ああ、こちらは後方の警戒を疎かには出来ないのでな。(後はキラ・ヤマトがどう出るか…か。)」
ブライトは相手の分析を的確に出来ていた。
ラミアスもその言葉に安心しきらずに戦闘に挑むという意気込みが感じられた。
~アークエンジェル艦内~
「!?…アムロさん!!」
「キラ君・ヤマト!」
「こんな所でどうした?」
ナタルはこの数日程、時間が開けばアムロに過去の話を聞く為にアムロの部屋に出入りしていた。
そんなナタルとアムロだが艦内放送を聞き、部屋を出た所でキラに呼び止められる。
「……決心がついたか?」
「…はい。」
アムロはキラの表情から何かを読み取ると、キラへ迷い無く聞く。
その問いにキラはアムロへ真っ直ぐ目を見つめ返事をする。
「分かった、では君はもうお客さんじゃない。
守りたい物があるなら何が何でも守り切るんだキラ・ヤマト。」
「は、はい!」
「…。」
アムロの言葉は今までの穏やかなアムロでは無かった。
死と隣り合わせの戦場で1人の戦う男としての顔を見せ、キラの決心を正面から受け止めていた。
ナタルは先程の穏やかな顔とは違うアムロの姿を見て心臓が激しく動く感覚を覚えた。
「キラー!」
「あ!トール、みんな!」
「よう!!キラ。」
「…何?どうしたのその格好?」
その時アムロの後ろからトール達が駆け寄って来た。
トールは威勢良くキラに声をかけるとキラは軍服を来た友人達に問いかける。
「僕達も艦の仕事を手伝おうかと思って。人手不足なんだろ?」
「ブリッジに入るなら軍服着ろってさ。」
「軍服はザフトの方が格好いいよなぁ。階級章もねぇからなんか間抜け。」
サイ達はキラが再び戦うと信じて、自分達も戦おうと決心していた。
トールは他のゼミのメンバーと違い戯けてみせたが
キラはそんな友人達の姿を見て自然と心が通いあっていると感じた。
「生意気言うな!」
「お前にばっか戦わせて、守ってもらってばっかじゃな。」
「こういう状況なんだもの、私たちだって、出来ることをして…」
「おーら行け!ひよっこども!」
そんなトール達に軍服を用意したチャンドラ二世に突っ込まれるが
トールとミリアリアは
キラにだけ大変な思いさせるまいという気持ちを伝えた。
チャンドラは全員を押すとブリッジへ行くよう施した。
「じゃあな、キラ。」
「後でね。」
「あー、お前もまた出撃するんなら、今度はパイロットスーツを着ろよ!」
ブリッジに向かいながら手を振り先を行く友人達。
そしてチャンドラもキラがストライクに必ず乗ると信じていたのか一言伝えてブリッジへ向かって行った。
「強い子達だ…。 君が大変な思いをして重荷を背負うなら
自分達も何か出来ないか必死に導き出した答えなんだろう。」
「……はい…アムロさん…だから…僕は大切な友達を死なせたくないです。」
「……ではアムロ大尉、キラ・ヤマト、着替えが済み次第カタパルトへお願いします。」
アムロがキラへ再び穏やかな表情を見せると誇らし気にキラは友人達への思いを口にしていた。
ナタルは切り替え、着替えるよう施し、敬礼したのちブリッジへ向かった。
~アークエンジェル・ブリッジ~
「キラ君が?…そう決心がついたみたいね。」
「はい。アムロ大尉の言葉にもしっかりと応えていました。」
ナタルはブリッジへ到着するとラミアスへキラの戦闘参加の意思を伝えていた。
~アークエンジェル・カタパルトデッキ~
「ほぉ~?」
「…?あ。」
「やっとやる気になったってことか?その格好は。」
ムゥはカタパルトデッキにおり、ネティクスの前に立っていた。
ノーマルスーツに着替えてやって来たアムロとキラを見ると、
キラへ話しかける。
「大尉達が言ったんでしょ?
今この船を守れるのは、僕と貴方達だけだって。
好きで戦争したい訳じゃないけど、僕はこの船は守りたい。
みんな乗っているんですから。」
「俺達だってそうさ。
意味もなく戦いたがる奴なんざ、そうは居ない。
戦わなきゃ守れねぇから、戦うんだ。」
キラは妙に意地っ張りな事を言うとムゥは否定もせずにキラの考えを尊重するように話をする。
「ムゥ、俺のこのノーマルスーツなんだが…もしや俺に合わせて作ったのか?」
「ははは。前に着ていたノーマルスーツに似せただけだ。
白ベースに赤いラインがシンプルでイカすだろ?コズミックイラバージョンさ。
そのヘルメットにあるユニコーンのエンブレムはマードックに頼んだんだぜ?やっぱエースパイロットは専用カラーのスーツを着ないとな。」
「……特にこだわりは無いんだけどな。」
アムロに用意されたノーマルスーツはムゥの図らいによりアムロ仕様となっていた。
ムゥのアムロへの一方的なイメージでアレンジされたスーツだった。
ムゥの妙なテンションにアムロは若干呆れているようだ。
「よし!じゃあ、とっておきの作戦を説明するぞ~。」
~ヴェサリウス艦内~
「追跡から5日…ようやく捉えましたね。」
「ああ、頭は抑えた。ここで仕留めるさ。」
「敵艦は足つきが先行、後方にロンド・ベルの艦です。後方はガモフを当てますか?」
アデスはホッと方を撫で下ろし、クルーゼはこれからまた始まる戦いに心を踊らせていた。
アデスは後方にアークエンジェルの控えるラー・カイラムが気になるようで、挟撃の策を頭に入れていた。
~アークエンジェル艦内~
「ローラシア級、後方90に接近。」
「とにかく、艦と自分を守ることだけを、考えるんだぞ。」
キラ 「は、はい!大尉もお気を付けて。
(…アスラン…また君も来るのか?…この船を沈めに…)」
バルの報告を聞くと、既にコックピットに乗り込んだムゥはバイザーを下ろしキラへ声をかける。
キラは始めて戦略性のある戦闘であるが故に緊張した面持ちで答えた。
しかし一方でアスランを気にしているようだ。
「フラガ大尉、ネティクス、リニアカタパルトへ!」
「ムウ・ラ・フラガ、出る!戻ってくるまで沈むなよ!ここは頼んだぜアムロ!!」
「ああ!やってみるさ!!」
ナタルのオペレートによりネティクスで発信態勢に入り、
ムゥはペダルを踏み込むと同時に
アークエンジェルやアムロに言葉を残し発進していった。
「ローラシア級、後方50に接近!」
ナタル「よし、続いてアムロ大尉、νガンダム、リニアカタパルトへ!!」
「了解、キラ…浮き足立つなよ? それを悟られたら付け入る隙を与えてしまう。」
「はい!!」
「アムロ、νガンダム行きまーす!!」
バルは引き続き報告をすると、
発進のタイミングを図っていたナタルから合図を聞くと、アムロは
キラへ声をかけ、発進して行く。
「2分後にメインエンジン始動!ストライク、発進準備!」
「ストライク、発進位置へ!カタパルト接続。システム、オールグリーン!」
ラミアスはνガンダムの発進を確認し、アークエンジェルのエンジン始動の指示を送り
ストライクの発進を指示した。
トノムラはストライクの発進準備完了をキラへ伝える。
「(大尉が隠密先行して、前の敵艦を討つ。敵MSは僕とアムロ大尉で迎撃…アムロ大尉がリードしてくれるとはいえ…うまくいくのかな…)」
キラは今作戦の概要を思い出し、イメージしていた。
不安が募る中、その時を迎える。
「キラ!」
「!ミリアリア!」
緊張し、固まっていると通信モニターからミリアリアがキラを呼ぶと反応する。
「以後、私がモビルスーツの戦闘管制となります。よろしくね!」
「よろしくお願いします、だよ。」
「はは。」
ミリアリアがCIC担当としてキラへ改めて挨拶しおどける。
そのミリアリアにツッコミを入れる様子をモニターしていたキラは
幾分か緊張がほぐれていた。
「装備はエールストライカーを。アークエンジェルが吹かしたら、あっという間に敵が来るぞ!いいな!」
「…はい!」
キラはナタルの指示を聞き、正面を見据え発進の合図を待つ。
「エンジン始動!同時に特装砲発射!発射射線上にνガンダムに入らぬように伝えて!
目標、前方ナスカ級!」
「了解!!ローエングリン!てぇ!」
~ヴェサリウス艦内~
「前方より熱源接近!その後方に大型の熱量感知!戦艦です!」
「回避行動!」
「ふん…こちらに気づいて慌てて撃ってきた…か。」
ザフトオペレーターの報告を聞いたアデスは冷静に回避の指示をすると。
ヴェサリウスはローエングリンの回避に成功した。
クルーゼはこちらの予想通りの展開となっている状況を静観していた。
「先の言葉信じるぞ!アスラン・ザラ。」
「…はい。」
クルーゼはカタパルトにて発進準備を終えていたアスランに声をかけると、アスランは静かに返事をした。
~ガモフ艦内~
「熱源感知!大型の敵戦艦と推測!」
「よし、クルーゼ隊長からの指示通りに行くぞ!?バスター、デュエルを発進させよ!」
ガモフ艦長ゼルマンはラー・カイラムをレーダーに捉えると発進指示を送った。
「前方、ナスカ級よりモビルスーツ発進。機影2です!」
「艦長!」
「お願い!」
チャンドラより敵MS発進の報を受けると、ナタルはラミアスに確認をし、ラミアスは頷き合図を渡した。
「キラ・ヤマト!ストライク発進だ!」
「キラ!」
「…了解!…はぁはぁはぁ…」
『今、この艦を守れるのは、俺達とお前だけなんだぜ?』
『お前に守ってもらってばっかじゃな。』
『こういう状況なんだもの、私たちだって…』
キラはストライク発進の指示を受けると、返事をする。
キラの心臓の鼓動は激しくなり自然と息が荒くなる。
ムゥやトール、ミリアリアの言葉を思い出し高鳴る鼓動を抑える。
「キラ・ヤマト!ガンダム!行きます!!」
キラは覚悟を決め、
前を見据えると大きな声がコックピットとブリッジに響き、
一気に加速し発進して行く。
~ラー・カイラム艦内~
「艦長!!どうやらストライクも発進したようです!」
「!?……そうか、ようやく腹を括ったか。」
ウォレスの報告を聞くと、ブライトは落ち着いた表情でキラの事を考えていた。
「後方よりザフト艦!!MS発進、機影は2です!!」
「分かった。ジャックを発進させろ!!」
「「「了解!」」」
後方のガモフから敵MS発進を捉えると、すぐにブロッサム発進の指示を送るブライトに全クルーが声を揃えた。
「ここはヘリオポリスじゃない!
思う存分撃つぞ!?」
~アークエンジェル艦内~
「後方のラー・カイラムに接近する熱源2、距離67、MSです!
前方からの接近中のMSは、距離64!!射程圏入りました!」
チャンドラは戦闘宙域に展開するMSとの相対距離をラミアスに報告していた。
「来たわね。」
「対モビルスーツ戦闘用意!ミサイル発射管13番から24番、コリントス装填、リニアカノン、
バリアント、両舷起動!
目標データ入力、急げ!」
ラミアスと報告を聞くと、ナタルの攻撃の合図を待ちナタルは迎撃の指示を送る。
「数は前方、後方合わせて4!機種特定…
これは…Xナンバー、イージス、ブリッツ、バスター、デュエルです!」
「何ぃ!?」
「え!!」
「!!」
チャンドラのさらなる報告にラミアスとナタルは声を出し驚き、ブリッジクルーも言葉を出せずに驚いていた。
「イージスに続けて奪ったGを全て投入してきたというの…?」
「!キラ、前方から2機来ている!!俺が先手を取る、無理をせずに援護をしろ。
アークエンジェルを守る事も忘れるな!?」
「はい!(…守るって言ったって…!)」
アムロはキラよりも若干早く先行し、イージスとブリッツを捕捉する。
キラには無理をさせまいとアムロ自らが遊撃手となり、キラを援護に回らせる。
アークエンジェルを守りながらの戦闘でもあるため、キラは口で簡単に言われるよりも難しいと感じていた。
「キラ!?」
「あのMSは…アスラン!?」
アムロとキラはイージスとブリッツをモニターで目視できる距離まで近づいた時、
キラとアスランは互いの存在に気付く。
「もうアスランとニコルはあっちのMSと接触する!!後れを取るなよ!」
「ふん!あんなやつらに!
獲物の的がデカい戦艦くらい落としてみせるさ!!」
イザークとディアッカはアークエンジェル側のアスラン達に遅れを取るまいと息巻いた。
「敵、MS展開中!」
「迎撃開始!CIC!何をしてるの!」
チャンドラはMSの動きをしっかりと見てブリッジに報告し、
ラミアスは迎撃が遅いCICへ檄を飛ばす。
「…!?レーザー照準!いいか!?」
「はい!」
「ミサイル発射管13番から18番、てぇ!7番から12番スレッジハンマー装填!
19番から24番コリントス、てぇ!」
G4機投入に動揺していたナタルはラミアスの言葉に気付き、攻撃の合図を送り、
アークエンジェルからはミサイルが一気に発射されいよいよ戦闘が始まった。
「ヘリオポリスじゃイージスと相性が悪かったが…
バスターとデュエルならガンダムタイプでも俺にだってやれるさ!!」
ベアードはヘリオポリスでイージスに煮え湯を飲まされたが、
今回はコロニー内ではなく宇宙空間であり、
相性の悪い相手では無いためやる気満々といった表情だった。
ベアードはその言葉と同時にロングレンジビームキャノンをバスターとデュエルに向け3発、4発と発射する。
「っく!?おいおい!アイツ俺のバスターより射程が長いんじゃねえか?」
「ふん!あんな遠くからしか戦えん臆病なガンダムなど!!ミドルレンジならどうだ!?」
「!?イザーク!あんま前に出るなって!」
バスターとデュエルがブロッサムの攻撃を回避するとバスターのパイロット、ディアッカがバスターを上回る射程の攻撃に驚く。
イザークはブロッサムの攻撃に敵意を剥き出しにし、距離を詰めようとペダルを一気に踏み出す。
「狙い通り距離を詰めて来たな。艦首ミサイルの装填、連装メガ粒子砲のエネルギー充填いいか!?」
「いつでも行けます、艦長。」
「よし、艦首ミサイルランチャー1番から6番、連装メガ粒子砲撃てぇぃ!!」
ブライトはブロッサムの攻撃により距離を詰めさせ、ラー・カイラムによる波状攻撃を行う。
「な!?」
イザークは押し寄せるミサイルランチャーと連装メガ粒子を前に驚き、機体を止める。
「イザーク!!下がれ!」
ディアッカは連装メガ粒子砲を回避し、デュエルの前に出ると
両肩から6連装ミサイルポッドと
右腕に実装された散弾式徹甲弾のガンランチャーを発射しミサイルランチャーを相殺する。
「へっ、貸し一つだ!出過ぎるなっつったろ!?……おわっ!!」
「ちょろいなっ!まずは1機!」
ラー・カイラムの攻撃を防いだディアッカがイザークへ自信満々に言うと、その隙に死角からベアードのブロッサムがビームサーベルでバスターを狙う。
「調子に乗るなぁ!!」
「…何!?」
バスターを払いのけイザークはデュエルのビームサーベルでブロッサムのサーベルを受け止める。
ベアードは無理をして押し込まず機体を下げ一旦距離を取る。
「貸しなどすぐに返せば帳消しだディアッカ!」
「あっぶねぇ~…くそ。
ナチュラルのくせして冴えてんなこいつら。
やっぱ油断すんなって事かぁ?」
「ヘリオポリスの戦闘記録を見たのかディアッカ。この機体の戦法だろうが。」
距離を取るブロッサムを前にイザークとディアッカは言葉を交わし再び戦闘モードに切り替える。
「惜しかったなぁ…分かってても中々防げるモンじゃないんだけどな。
やっぱコーディネイターの反応は早いな…でもやれる!!」