CCA-Seed_◆ygwcelWgUJa8氏_27

Last-modified: 2012-10-23 (火) 20:38:57

 貴族主義、という言葉がある。それはつまり、少数の特権階級や、一般の人々より優れた能力を持つ者が指導的地位に立つべき、という思想であり、徳の無い愚か者がそうなってしまえば、それは優越感に浸り差別や偏見を生む悪しきものにしかならない。
 偉大な血統であったり、それに伴う帝王学らを学び身に宿し、そうすることで初めて貴族主義の体現者となれるのである。だから、遺伝子操作という徳も何も無い穢れた行為でその力を高め、他者の上に君臨するなど、決してあってはならない歪みなのだ。
 だが、やつらはそれをする。先人達の偉大な功績を無下にし、人類の英知を否定し、この青き清浄でなければならない宇宙《そら》を汚そうとする。
 問題なのは、その事実を蔑ろにしようとする愚か者が、ナチュラルの中にもいるということだ。
 あの老人達は、結局世界の浄化などには興味が無く、力を持ちながらも歪みを正そうとしない。我々は、選ばれし者なのだ。神の意思によって。だのに、奴らは自分の利益しか考えず、悪戯に時を浪費しているだけにすぎない、老害と呼べるものだ。
 我々は、人類全体の尊厳を考え、その為に行動しなければならない。それが貴族の義務である。だから、今最も必要な事は、宇宙《そら》のバケモノどもを一人残らず浄化し――
 彼は、ムルタ・アズラエルの事が好きではなかった。軽蔑していたと言ってもいい。あの老人達に比べれは幾分かはマシだろうが、それでも彼の天秤は自己の利益に傾いていた。
ギリギリのラインで、あちら側の人間なのだ。恐らくアズラエルも、ジブリールの事を同じように考えているだろう。どうしてキミは、そんなくだらない主義の為に? と言いたげな表情をいつも向けてくるのだから。
 だが、彼から見せられたそれは、それらの感情を全て棄却させてしまうだけの魅力を秘めていた。
 それは、彼が今まで感じたものを根底から肯定するものであったため、彼の心は躍った。
 アムロ・レイなどはどうでも良い、私は注視するのはそこではない。
 未熟ではあるものの、彼女の力の一端を垣間見、彼は歓喜から来る全身の震えを抑えきれずにいた。血統は申し分ない、父親は婿養子であったが、あのアルスター家に若くして迎えられ、それでいてブルーコスモスの幹部であり大西洋連邦の事務次官でもあった彼の偉大さ、即ちノーブルである事を疑う余地は無い。
母親も、かつて〝メンデル〟と言う研究所に勤めていたそうだが、それは問題ではない。その血統は間違いなく本物であり、西暦の頃から続く貴族の末裔である。
 生まれてはじめて、純粋に、ナチュラルとして、自分よりも高貴な人間に会えるかもしれない。そうした思いが、彼の中で作り上げた像をより独善的なものへと変えていく。彼は、己の思想に酔っていた。
 私もなれるだろうか、『ニュータイプ』に……。それは、希望である。コーディネイターとは違う、後天的に進化するナチュラルの可能性。
 コーディネイターは消そう、だがそれは今でなくて良い。塵の掃除は後でやるか、使用人に任せればそれで良い。
 興奮も冷めぬまま、ロード・ジブリールは月面のドックに到着した白亜の艦をまじまじと凝視していた。
 
 
 
 
PHASE-27 戦場への帰還
 
 
 
 
 無数の星々をちりばめた漆黒の闇に、地球光を受けて浮かび上がる巨大な艦の姿があった。
 地球連合軍第八艦隊所属アークエンジェル級四番艦〝ドミニオン〟と、オーブのイズモ級二番艦〝クサナギ〟である。地上から打ち上げられた〝クサナギ〟中心部は、残りの四つのパーツとランデブーし、M1〝アストレイ〟部隊の誘導により、ドッキングシークエンスを進めていた。
〝クサナギ〟中心部は単独でも航行が可能な宇宙艦ではあるが、残りのパーツと接合することによって、火力、推進力ともに飛躍的に上昇する。
上下に主砲〝ゴットフリート〟を備え、またリニアカタパルトとしてハッチの先端に位置する艦首部分が、上下から船体を挟み込み、そして後部両側に、陽電子破城砲〝ローエングリン〟と後部スラスターを持つパーツが接合された。
こうして他のパーツとドッキングした〝クサナギ〟は、全長こそ二九○メートルと〝ドミニオン〟より小型ではあるが、看過しがたい戦闘力を持った宇宙戦艦に変化する。
 ドッキング作業の終了した〝クサナギ〟に、打ち上げのときから寄り添うように併走していた〝フリーダム〟、〝ハイペリオン〟、〝ストライクルージュ〟が着艦した。
 その〝クサナギ〟の艦橋《ブリッジ》で、カガリは慌ただしく飛び交う報告を耳に入れながら、必死に指示を出していく。今立ち止まれば、そこから歩けなくなってしまいそうだったから――。
 
 「〝アカツキ〟は〝ドミニオン〟にあるんだってよ」
 
 〝クサナギ〟接合作業を終えてきたワイドが、赤毛を鬱陶しくかきあげた。カガリは厳しい視線を向ける。
 
 「どういう意味だ……?」
 
 〝アカツキ〟は輸送中に撃墜されたという報告が入ったきり情報が途絶えたままだ。ワイドは沈痛な面持ちでそっと艦橋から〝ドミニオン〟を流し見、言った。
 
 「詳しくはまだ聞いてない。でもよ――」
 
 表情を落す彼の言葉を、カガリは待った。
 
 「――子供が乗ってたらしい。民間人の、さ」
 
 ぞくり、と冷たい何かがカガリの背中をかける。とてつもなく嫌な予感がする。何か、大きな間違いをしてしまった時のような……。カガリは悪寒を振り切りように、話題を変えた。
 
 「……みんなはどうしてる?」
 「おかげさまでね。なんとか生きてるぜ」
 
 ――良かった。今は少しでも良い情報がほしい。カガリは内心ほっと胸をなで下ろした。
 
 「カガリ、ちゃんと休んでるか……?」
 
 ふいに、ワイドが言った。
 
 「状況を考えろよワイド。休んでる場合じゃない」
 
 彼は心配してくれてるのだろう。だが、カガリは苦笑で答えた。
 
 「それに、私はオーブの代表だからな。こうしてここにいないと――」
 
 ワイドは一瞬表情を落したが、すぐにいつもの不敵な顔に戻り、空席だった通信シートの一つにどかりと座りこむ。
 
 「お、おい!」
 
 彼の意図が理解できず、カガリは慌てて声をかける。
 
 「俺だって士族のはしくれだぜ? 務めは果たす」
 「お前パイロットだろ、休んでろ――!」
 「バーカ。こう言うときは無理してでもやるんだよ」
 
 そう言いながらヘッドインターカムを頭につける彼に、カガリは呆れながらも感謝の気持ちでいっぱいになった。
 
 
 
 〝フリーダム〟から降り立ったキラは、整備の手伝いをしているらしい自分と同い年くらいの少年――確か、サース・セム・イーリアといったか――がふわりと無重力に身をまかせながらやって来て、言った。
 
 「どうかしましたか?」
 
 この問は、〝ドミニオン〟所属のはずの機体が〝クサナギ〟に乗艦してきたことへのものだろうと思い、説明しようとすると、カナードがやってきて代わりに答える。
 
 「〝ドミニオン〟の格納庫はいっぱいでな、落ち着くまでやっかいになりたい。 連絡は行っているとは思う」
 
 〝クサナギ〟よりも先に宇宙へ上がった〝ドミニオン〟にはM1〝アストレイ〟を含む多くの物資が所狭しと詰め込まれており、フレイの〝ルージュ〟を収容したところでキラ達の入る余地が無くなったのだ。
 
 「そういうことでしたら、わかりました。こちらもごたついていますが、こんなところでよろしければ……」
 
 サースが無表情のまま少女のような瞳を向けると、カナードは軽く手でそれを制する。
 
 「いや、良い。オレたちも手伝おう」
 「えっ? でも……」
 「体が丈夫なのが取り柄でな」
 「助かります」
 
 サースがぺこりと頭を下げる。だが、キラはフレイの事を考えていた。
 ……フレイは、どうしてるだろう。自分の行いを責め続けてはいないだろうか。彼女を救うために地球に残った、アムロは……。キラは彼女にかける言葉が見つからなかった。
 ふいに、サースの声がかかる。
 
 「艦橋《ブリッジ》へ行ってください! カガリも困っていると思いますから!」
 
 カナードが「了解した!」と答えると、キラもまた現実に引き戻され、ぺこりと会釈で返した。
 
 
 
 何とか作業が一段落し、カガリは洗面所で顔を洗い、鏡に映る自分の顔を見つめた。……酷い顔だ。頬は青ざめ、唇に生気はなく、目の下には濃いくまができている。
 カガリはこれまで、自分の顔が父に似ていないのを気にしたことはなかった。髪の色が違うのも、祖父の血だとか言われて納得していた。
 彼女はごしごしと顔を拭き、タオルを置くと、妙に緊張した仕草でポケットに手を差し込む。指先に硬い紙の角が触れた。彼女はおそるおそる、そこに入っていた写真を取り出し、目を落す。
淡い茶色の髪をした、やさしげな顔立ちの女性――そして、その両腕に抱かれた二人の赤ん坊――金色の髪と茶色の髪をした――それらをカガリはまじまじと見つめる。
 『キラとカガリ』――写真の後ろに書かれた文字が事実なら、この嬰児たちは自分と、さきほどまで艦橋《ブリッジ》で皆の手伝いをしていた少年ということになる。つまり、それはもう一人の少年も、じぶんと血の繋がったきょうだいという事にもなるのだ。
 カガリの胸の内に溢れ出る暖かい何か。それと同時に、僅かな恐怖。――二人の兄弟は、殺しあったのだ、なら、私は……?
 そのとき、艦内にアラームが鳴り響いた。
 ――敵襲!? こんなときに……!
 大慌てで戻る途中、風のように駆け抜けるキラとすれ違う。いつになく鬼気迫る彼の表情に、カガリは眉をひそめる。やや遅れてカナード、ワイドが走り来る。
 
 「待て!――くそ、あの馬鹿!」
 「ど、どうすんだよ!?」
 「出撃する、貴様は!?」
 「M1〝アストレイ〟がある!」
 「――来い!」
 
 すかさずカガリは艦橋《ブリッジ》へ戻り、状況を問いただす。
 
 「敵機接近! ナスカ級一! ローラシア級三!」
 
 はっと漆黒の闇をのぞき見、カガリは蒼白した。たった一機で敵陣へと向かう赤い機影――
 
 「あいつ……!」
 「モビルスーツの発進を確認!」
 
 先ほどの彼らの言葉の意味を全て理解したカガリは、とっさに命令を出す。
 
 「第一戦闘配備!――ユウナ!」
 
 傍らの友人に、問うと、彼は苦虫をつぶしたような顔で告げる。
 
 「こっちもボロボロだよ……三機のM1が何とか使えるくらいしか」
 「それで良い、二機を〝ルージュ〟の支援に回せ! 一機は艦の守りにつかせる!」
 
 
 
 〝ルージュ〟が勝手に出撃していき、慌ただしくなった艦橋《ブリッジ》でナタルは「これだから――!」と毒づいてから声を荒げた。
 
 「〝ドミニオン〟で敵艦を落す! アーガイル少尉、回避運動は任せた」
 
 彼は短く了承し、操舵艦を握る。
 
 「ピスティス中尉、砲撃のタイミングは任せる」
 
 彼女は即座に二二五センチ二連装高エネルギー収束火線砲〝ゴットフリート〟を起動させ、同時に陽電子破城砲〝ローエングリン〟のチャージを始める。艦対艦ミサイル〝スレッジハマー〟が駆動音を上げ、対空防御ミサイル〝コリントスM一一四〟が発射体勢に入る。
 
 「〝クサナギ〟を下がらせろ! 〝ドミニオン〟で敵を引きつける!」
 
 即座にカズイが通信を入れ、ナタルはつづけた。
 
 「ハウ伍長、モビルスーツ隊は――!?」
 「もうじき〝ストライクダガー〟の修理が完了します!」
 「今は一機でも戦力がほしい、急がせろ!」
 
 慌ただしく指示を出していくナタルの横で、アズラエルが真剣な眼差しで虚空の闇を見つめる。なぜ『彼』はあの子を選んだのだのだろう。どこにでもいる普通の少女、特別な事など何もなく、才能も無い。
それが、アズラエルの率直な感想であった。最高レベルの機体、〝サイコフレーム〟まで搭載して、あの程度。〝ダガー〟、〝ルージュ〟の反応速度は文字通り桁が違うのだ。
しかし、一時的にとは言え〝サイコフィールド〟を発生させ、ビームを弾いて見せたのも事実である。感情の起伏にむらがあるのか、爆発力があるだけなのか……。
 
 「〝ストライクルージュ〟、敵機と交戦を始めました!」
 
 メリオルが声をあげ、ナタルは小さく舌打ちをする。
 ……だからか? 何もない普通の少女だから? それとも、何か別の――アズラエルは答えの出ない深い思考へと落ちていった。
 
 
 
 数十にまで及ぶモビルスーツの編隊が、面となって〝ドミニオン〟に迫りつつあった。奴らは、ここで〝ドミニオン〟に引導を渡す気だ、とフレイは直感的に理解した。偵察部隊がたまたま、ではない。
近くにいた部隊が急遽、でもない。最初から、この宇宙《そら》で待ち構えていた、ザフトの部隊。
 その周到さが、フレイの心をざわつかせ、苛立たせた。
 言いようの無い怒りが体を支配していく。自分へのものか、誰に対するものなのかもわからず、それは四つの影となって虚空を駆けた。
 
 
 
 一機の〝ゲイツ〟が虚空からの強力な粒子によって大穴を空けられ、そのまま爆散した。僚機の〝ジン〟があわてて索敵を行おうとするも、更に攻撃、粒子の雨に晒され鉄屑へと変わる。
 三機の〝ジン〟が四方からの攻撃に合い、成すすべなく爆発した。
 更に、二機。
 三機。
 粒子の濁流に成すすべなく――。
 誰かがふいに言った。何かが潜んでいる、それも複数だ、と。
 そういう間にも一機、また一機と火球が上がり、そのたびに仲間の識別信号をロストしたという報告が入る。
 得体の知れない、何か。
 心の底から恐怖を覚えた一人のパイロットは、見た。
 橙色の何かから、粒子が放たれ、一機の〝ゲイツ〟が爆散したのを。
 その何かは、引き寄せられるかの用に、主人の下へ――
 血のように赤いモビルスーツが、そこにいた。
 
 
 
 「アルスター少尉だけ突出しすぎています!」
 
 メリオルが声を上げ、ナタルが言う。
 
 「パルス中尉達は――!?」
 
 カズイが慌てて叫んだ。
 
 「が、頑張っていますが……!」
 
 四機の〝ゲイツ〟が〝フリーダム〟の作る弾幕を突破し、〝ドミニオン〟に攻撃を加える。突如、鋭い悪寒がミリアリアを襲い、やや遅れてサイが面舵を取る。〝ドミニオン〟の左翼すれすれをナスカ級の主砲が通過し、同時にフレイの心情を知る。
 なんて馬鹿なのだろう! アムロを失ったと勝手に思い込んで、敵にやつ当たりをするなんて! でも、落ち込んでうずくまっているよりは、今の貴女らしい考え。ううん、そうやって戦えるだけ、貴女は少しずつだけど強くなっている。でも、それは無茶をしすぎよ……。
 
 「艦長、〝ストライクダガー〟の修理が完了しました!」
 
 格納庫からの通信にカズイが答え、ナタルが「ん!」と頷く。
 
 「モビルスーツ隊出撃! 〝クサナギ〟に辿りつかせるなよ!」
 
 その時、メリオルが何かに気づき、小さくつぶやいた。
 
 「――〝ドミニオン〟のコンピュータがハッキングを受けている……?」
 
 と。
 
 
 
 激しい震動が居住区の一室を襲う。
 ――攻撃を受けているんだ……。
 泣き疲れ、ようやく眠りについた妹の頬をそっと撫で、シンは瞳に怒の色を宿す。
 
 「〝ザフト〟め……!」
 
 シンは部屋を飛び出し、脱兎の如く駆ける。胸の内にあるのは紛れもなく怒り。なぜ父を奪った、何故母を奪った。なぜオーブを滅ぼした。何故、何故――!
 最初に案内された時の記憶を頼りになんとか格納庫までたどり着き、整備員たちの怒号でごった返し、慌しくモビルスーツが出撃していく光景に圧される。そんな中、ぎらりと鈍く輝く何かに目を奪われた。
 ――〝アカツキ〟!
 壁際に固定されたままのそれは、シンが乗った時と同じく赤銅色をしていた。彼は知っている、それは父の、母の、オーブの流した血の色で染められていることを――。
 
 「おい、坊主!」
 
 整備班長らしき男がシンに気づいたころには、もう彼は〝アカツキ〟に乗り込んだ後であった。
 湧き上がる怒りは収まることを知らず、シンはそのまま機体を起動させ強引に歩ませる。驚いてこちらに特徴的なゴーグルタイプのカメラを向ける〝ストライクダガー〟に目もくれず、〝アカツキ〟をカタパルトデッキまで進める。
〝アカツキ〟のAIが何か暗号のようなものを映し出すと、すぐにハッチが開き星屑の戦場が瞳に映る。
 所々で火球が広がり、ビームの光条が行き交い――。ちらりと目に入るザフトの主力モビルスーツ〝ゲイツ〟。シンは憎しみを込めて叫んだ。
 
 「そんなに戦争がしたいのか!? あんたたちはっ!」
 
 
 
 突如出撃した〝アカツキ〟に、〝ドミニオン〟の艦橋でナタルは格納庫へ通信を入れる。
 
 「どういうことかマードック曹長! 発進を許可した覚えは無いぞ!」
 
 ナタルの怒りに満ちた声に怯みもせず、マードックは反論した。
 
 〈だぁーかぁーらぁー! こっちだって出した覚えは無いんですよ、んなもん!〉
 
 今度こそ、ナタルは激高した。
 
 「ふざけるな! また怪奇現象とでも言い張るつもりか!」
 
 〝アカツキ〟のことならば既に聞いている。搭乗した瞬間、パイロットの声紋、体格などのデータを読み取り、登録された者以外は使用不可能となるオーブの試作型モビルスーツ。となると、あれに乗っているのは――。
 
 「子供が乗っているのだぞ、曹長!」
 
 すると、メリオルが口をはさむ。
 
 「待って、艦長……」
 
 ナタルが振り返ると、彼女が視線だけこちらに向け、眼鏡を指先で合わせる。
 
 「〝ドミニオン〟のコンピュータに何者かがアクセスした痕跡があります。おそらく、その所為かと……」
 
 ――馬鹿な! ナタルは奥歯をぎゅっと噛みしめながら、アズラエルの「げっ……」という呻きを聞き逃さなかった。彼女は振り返る。
 
 「――理事!」
 
 ナタルが怒りに満ちた視線を送ると、彼は気まずそうに視線をそらし、言う。
 
 「ま、まあ心当たりはあるので、構わず戦ってくださイ……」
 
 ナタルは絶句するしか無かった。
 
 
 
 同じころ、〝アカツキ〟のコクピットの中でシンもまた絶句していた。武器は腰に据えられたビームサーベル。それしか無いのだ。頭部に〝イーゲルシュテルン〟くらいはあるかと思っていたが、モニターに未実装であると表示され、その他の武装や〝ストライカーパック〟のようなものががずらりと並び、その全てに現在開発中と表示される。
 
 「う、嘘ぉ!?」
 
 すると、一機の〝ストライクダガー〟が近づき、ビームライフルを手渡した。
 
 〈使え、坊主!〉
 「えっ!? で、でも!」
 
 なぜ自分が子供だとわかったのだろう、などと考えている余裕はなかった。即座にモニターに〝M七○三五七ミリビームライフル〟と表示され、同時に掌握中と記される。
 
 〈予備はある!〉
 
 そう言うと、〝ストライクダガー〟は腰にマウントしたバズーカと予備のビームライフルやらを見せつけ、ビームサーベルを抜き、一機の〝ゲイツ〟のコクピットを貫いた。
〝アカツキ〟よりも遅れて出撃してきた対ビームコーティングを施されたシールドを二つ持った〝ストライクダガー〟が近づき、一方のシールドを差し出す。別の〝ストライクダガー〟がマシンガンで〝ゲイツ〟に応射しつつ、言った。
 
 〈隊長、この子は!?〉
 
 〝アカツキ〟を守るようにして系四機の〝ストライクダガー〟が囲う。
 
 〈小さな援軍だ。――やれるな坊主!〉
 「は、はい!」
 
 四機の〝ストライクダガー〟が一斉にスラスターを吹かせ、無限の星空を舞う。シンは慌ててそれに続き、〝ドミニオン〟に攻撃を仕掛ける〝ゲイツ〟にビームライフルの銃口を向けた。
〝ストライクダガー〟隊が攻撃に入り、シンもビームを撃ち放つ。一射、二射、三射と全てが外れ、モニターの右下に小さく『最適化』と表示された。
 
 「くそ、当たらない!」
 
 ついに一機の〝ゲイツ〟が〝ストライクダガー〟を捉え、ビームクローを構え距離を詰める。
 
 「危ない!」
 
 シンはとっさに叫び、トリガーを引いた。〝アカツキ〟の双眼《デュアルアイ》が力強く輝き、機体に搭載されたAIが敵機に軌道を予測し、到達点へ向けてビームを放つ。光条は吸い込まれるようにして〝ゲイツ〟の胸部へ命中し、やがて爆発した。
 
 〈すまない、助かった!〉
 〈宇宙《そら》の〝ザフト〟は未だ強敵か……!〉
 
 隊長機が低い声で呻き、懸命に応射する。彼を援護するように、〝ゲイツ〟から放たれたビームをシールドで受けている〝ストライクダガー〟。ふと、〝アカツキ〟が律動し、スラスターを吹かせた。
 
 〈あ、ちょ、ちょっと!?〉
 「か、勝手に動くぅ!?」
 
 驚愕する〝ストライクダガー〟の前に、〝アカツキ〟が躍り出た。タイミングを図ったかのようにビームが〝アカツキ〟へと迫る。
 
 「ちょっと待てって!」
 
 シンは思わず身を竦める。しかし、〝アカツキ〟を貫くかと思われたビームは、錆びた鏡のような装甲にぶつかったとたん、まっすぐ敵機に向かって跳ね返った。
 ――この機能こそ〝アカツキ〟最大の特徴、対ビーム防御・反射システム〝ヤタノカガミ〟だ。特殊コーティングされた金色の装甲はビームを受け付けず、逆に敵に向かって収束したまま反射する。防御に重きをおいた、オーブの理念を体現する機体とも言えよう。
 と律儀にモニターに表示され、同じように〝ストライクダガー〟のモニターにもハッキングをかけ映し出しているようだ。
 ――まるで、家族に……オーブのみんなに守られているみたいだ。
 シンの心にふつふつと勇気が湧き上がる。
 
 〈ふざけた機体だ〉
 
 先ほどの表示を見た隊長機が、苦笑を漏らす。彼が続ける。
 
 〈その装甲、どこまで信用できる?〉
 
 とっさに、シンは答えた。
 
 「わ、わからないけど、全部!」
 
 そうさ、オーブの想いが、ザフト何かに負けるはずがない。
 
 〈聞いた俺が馬鹿だった。行くぞ!〉
 
 四機の〝ストライクダガー〟は即座に散会し、〝アカツキ〟を中心とした陣形を組んだ。ビーム主体の〝ゲイツ〟など、〝アカツキ〟の敵ではないのだ。
 
 
 
 「あれが、〝アカツキ〟……」
 
 〝クサナギ〟艦橋で、ユウナが茫然とつぶやいた。モニターに映る〝アカツキ〟が雨のように降り注ぐビームを全て受け切り、敵機へと跳ね返す。とはいえ相手はかなりの熟練。
跳ね返るビームを全て回避し、あるものはビームクローに持ちかえ、あるものはマシンガンへと武器を変えようとするが、その一瞬の隙を狙い、〝ストライクダガー〟隊が着実に、〝アカツキ〟の脅威となる機体を優先して落としていく。
 あれに、年端もいかぬ子供が乗っているというのか……。ユウナは苦い思いで戦場を見つめる。
 ビームを受けるたびに、〝アカツキ〟の〝ヤタノカガミ〟に錆びのようにこびりつくオーブ国民の血が蒸発し、本来の黄金の装甲があらわになった。
 皮肉だな、とユウナは心の中でそっとつぶやく。〝アカツキ〟は、オーブの街を、オーブの民を、未来を担う子供たちを守るために作られた力。だというのに、こともあろうにオーブの街に落ち、守るべき民の血を浴び、子供の手により産声をあげ、オーブを焼いた者の手によって磨きあげられていく……。
 
 「――あれが」
 
 ユウナはもう一度口の中で反芻した。どうか、呪われた出自を持ったあのモビルスーツが、オーブの未来を切り開く活路となってくれますよう……。
 
 
 
 その光景は、虐殺と表現しても相違ないものであった。
 〝フリーダム〟は一機の〝ゲイツ〟に狙いを定め、トリガーを引く。それを容易く回避した〝ゲイツ〟は、ビームクローを構え〝フリーダム〟に迫る。キラはシールドでそれを受け、サーベルで胴を薙ぎ払い、やっと一機。
 キラは出撃前に聞いた兄の言葉を思い出す。
 
 『ザフトの骨頂は宇宙戦だ。やつらの実力を地上と同じだと考えるな!』
 
 今しがた撃墜した〝ゲイツ〟も、次に狙いを定める〝ゲイツ〟も、〝ハイペリオン〟と激戦を繰り広げる〝ゲイツ〟も、どれもが地球で出会っていたなら間違いなくエースと呼べるほどの実力。宇宙は未だ、ザフトの勢力圏なのだ。――だというのに……。
 
 〈あれが、『赤い彗星』……〉
 
 M1〝アストレイ〟に搭乗するワイドが、驚愕してつぶやく。同時に出撃した彼の仲間のファンフェルトが、悔しそうに言った。
 
 〈くそ、俺にもっと力があれば!〉
 
 二人の実力も、選りすぐりの親衛隊というだけあって確かなものだ。それぞれが連携し、確実に敵を落していく。
 また、遠方で二つの火球があがる。フレイの〝ルージュ〟が〝ゲイツ〟を撃墜したのだ。たった、一機で。
 〝ガンバレルストライカー〟――〝ルージュ〟の背にX字に備えられた四基の〝ガンバレル〟がばっと散会し、高出力のビームをナスカ級に向けて四方から同時に撃ち放つ。
有線だからこその利点――機体のジェネレーターと直結しているため、ミサイルタイプに比べて機動性は大きく劣るが、破壊力に関して言えば〝フリーダム〟にすら匹敵する。
 爆炎をあげるナスカ級を〝ルージュ〟がそのまま蹴り飛ばし更に加速。降り注ぐビームと弾幕を意図もせず、ローラシア級を蹴り、すれ違いざまに再びオールレンジ攻撃。
 これは、違う。君はこんな事をしてはいけない。生きるために仕方なくではなかったのか。誰かを守るために、ではなかったのか。こんな戦い方では、自分の心を傷つけるだけだ! 僕では、君の変わりになれないのか、力になれないのか……!
 舞うように虚空を飛びかう赤い機影は、彗星のようだ。
 ローラシア級の盾になるように躍り出た〝ゲイツ〟が、〝ルージュ〟のサーベルに串刺しにされ、そのままローラシア級艦橋《ブリッジ》に押しつぶされた。誘爆していく甲板を蹴り、更に加速し。二機の〝ゲイツ〟がビームクローを構え、斬りかかろうとした瞬間、背後から〝ガンバレル〟で貫かれる。
 赤い彗星は舞うように虚空を飛び、ビームライフルでローラシア級を断続的に撃ち貫いていく。そのまま誘爆していき、やがてそれは主砲へと移り、艦全体を巻き込んだ。すれ違いざまにまた一機、そのままの勢いでもう一機の敵を薙ぎ払い、更に二つの爆発が宇宙の闇を照らす。
 ようやく補給を終えたトールの〝デュエルダガー〟が戦線に加わった。即座に〝ゲイツ〟が攻撃を仕掛けるも、いとも簡単に撃ち落とし、キラは眉をひそめた。
 
 「トール……?」
 〈押し返そうぜキラ!〉
 
 〝ハイペリオン〟も敵をとらえ、ビームマシンガンを撃ち込んでいく。彼ですらこれで二機目だというのに……。
 ――コーディネイターとは、人類が宇宙に適応すべく、あらゆる分野で遺伝子を強化させたものだと聞いたことがある。宇宙の広大さに人は対応できず、そこからより強く、より優秀に、と思想が生まれ、その結果がコーディネイターなのだと。
 では、彼らは何だ? そのコーディネイターよりも更に、この宇宙という星の海を縦横無尽に駆け巡り、進化した人類だと言い張る彼らの攻撃を児戯のようにたやすく回避し、息を吸って吐くかのように撃ち落としていく――彼女の、彼らの力は……。
 ふと、ムウの言葉が脳裏に甦る。
 ――たまたま似たようなことができたから、空間認識能力って枠に入れちまったのさ。
 ……では、本当はいったい? 遠くの宙域で、四つ目となる巨大な火球が上がった。たった一機のモビルスーツに、四隻の戦艦が……。
 ふと、マルキオが発した言葉が脳裏をよぎる。
 ――『SEEDを持つ者』――人と世界を融和し、すべての人に希望をもたらす、約束された存在。それはコーディネイターのことではない。遺伝子を多少いじったとて、ヒトがヒトであることになんら変わりは無い。肉体の変革でなく、精神の変革が必要なのだ――。
 精神の変革……認識力の拡大……。
 ――名前が無いのさ……。
 キラは、確信した。
 
 
 
 ようやく静かになった宇宙にきらめく星々を見つめつつ、ナタルは緊張から解き放たれた体をシートへと預ける。彼女はああと思いつき、ミリアリアに撃墜スコア数を聞いてみた。
地球連合軍の撃墜スコアは、所属する戦艦の作敵範囲内であれば即座にデータがフィードバックされ、連合のデータベースに登録されるシステムになっている。そうでない場合は――たとえば連合のOSを無断で使用したジャンク屋の機体など――は、連合の施設でしかるべき処置を取り、整備、補給を受けることで反映されるのだ。
 ミリアリアがそれぞれのパイロットの撃墜数を読み上げていく。一対多に長けた〝フリーダム〟の五という数字や、終始M1部隊とキラの支援をしていた〝ハイペリオン〟でも三は流石とも言え、〝デュエルダガー〟の四という数字は見事である。〝アカツキ〟も一機撃墜しており、ナタルの良心がちくりと痛む。ふと、彼女は一旦報告を区切り、短い逡巡の後、言った。
 
 「アルスター少尉、モビルスーツ十八、ナスカ級一、ローラシア級三……」
 
 ――あの子は……。
 ナタルはモビルスーツに乗ってまだ数ヶ月ほどしかたっていない彼女の戦績を聞き、唇を噛みしめる。
 
 「……〝アカツキ〟はどうしているか」
 
 赤銅の機体は神々しい黄金の光を反射しつつ、こちらへ針路をとる。
 
 「このまま〝ドミニオン〟に着艦するそうです」
 
 ミリアリアがインターカム越しにパイロットたちの報告を受け、告げた。
 
 「ん、了解した。ピスティス中尉、ここを頼む」
 
 ナタルは艦橋《ブリッジ》を後にし、格納庫を目指した。
 ぴしゃりと鋭い音が、格納庫に響き渡った。フレイはそのままどさりと身体を〝ルージュ〟の脚部へと預け、赤くなった頬に指を触れうつむいた。
 
 「……何故指示に従わなかった」
 
 ナタルは自分の右手のひらを見、彼女に向き直る。フレイは何も言わない。
 彼女はもうわかっているのだろう。己のしたことの愚かさを。それでも、感情に抗うことができなかったのだ。もう短い付き合いではない、ナタルだってフレイという人間のことを理解しているつもりだ。だから、慎重に言葉を選んで続けた。
 
 「今我々は非常に危険な状況にある」
 
 フレイは何も言わず視線を逸らしたままだ。
 
 「……私が言いたいことはわかるな?」
 
 尚もうつむいたままのフレイの視線が一瞬泳ぐ。それだけでナタルには十分だった。
 
 「報告書も始末書も良い。今日のことを良く考えておけ、少尉」
 
 一瞬、驚き顔を上げた彼女と視線が交差したが、すぐにうつむき顔を背けた。
 子供だな、とナタルは内心苦笑し、もう一人の子供へと視線を向ける。自分がしたことを誇るような目で〝アカツキ〟を眺め、こちらに来る少年には、どうやらしっかりと自分がしたことを理解させる必要がありそうだ。
 
 
 
 工廠内のドックに案内されると、イザークたちはそこに巨大な艦体を見、思わず唖然とした。淡いグレイのそれは、明日に進水式を控えた新造艦〝ミネルバ〟だ。前方へ突き出た艦首の両側に、大きく三角の翼が広がる。船体中央にはカタパルトが見られ、両舷部にもモビルスーツ用ハッチを備えている。
翼部や船体下部は赤に塗り分けられ、やや直線的なデザインは旧来のザフト艦とは趣きを変え、どちらかというとオーブ系艦船との類似が見て取れた。
 
 「こんなものを作っていたのか……」
 
 ついこの前〝エターナル〟級がロールアウトされたと思えば、今度はこの〝ミネルバ〟である。イザークは内心薄ら寒いものを感じながらも、病にふけりがちであったシーゲル・クラインを補佐し続けていたデュランダル議長の設計した艦であると聞かされ眉をひそめる。〝ザク〟すらも、彼が基礎設計を行ったのだというが、遺伝子工学の所長ができるものか、という疑問もある。
 
 「〝ザク〟に〝ミネルバ〟、か……」
 
 すると傍らのニコルが難しい顔になり、答えた。
 
 「異常ですよ、これは――。ありえない速度で科学が発達しています」
 
 イザークも彼の意見に賛同であった。彼らが格納庫に入ると、一人の女性が出迎えた。
 
 「いらっしゃーいっ! ようこそ〝ミネルバ〟へ!」
 
 亜麻色のショートへアーをふわりと揺らし、眼鏡をかけた小柄の女性。イザークは資料に載っていた写真を思い出し、すぐに彼女が〝セカンドステージシリーズ〟のうちの一機、〝ガイア〟のパイロットを務めるリーカ・シェダーだと判った。
資料には、彼女は遺伝子操作のミスで生まれつき盲目であり、それを電子デバイスで補うことで視力を得ているのだという。だが、彼女の着る赤が、彼女の実力の高さを表している。見かけによらず努力家なのだろうとイザークは勝手に想像し、勝手に感心した。
 すぐさまディアッカとラスティが彼女を挟むように近寄り、声をかける。
 
 「ヒュウ、俺ってついてるぜ。君のような可愛い子と同じ部隊に配属されるなんてね」
 「ま、ま、ま。このラスティ・マッケンジーがいれば、大船に乗ったつもりでいてくれってね?」
 
 すると、彼女はにっこりと微笑み、言った。
 
 「んふふ、でも私十九ですよ?」
 「おおう!?」
 
 二人が同時に固まり、「と、年上……」と驚愕した。
 
 「ほらもう。すぐそうやって見られるーっ」
 
 彼女は少しばかり憤慨したようなそぶりを見せ、頬を膨らました。
 すぐにフォローの言葉を言おうとする二人を無視し、イザークは彼女に話しかける。
 
 「イザーク・ジュールだ。しばらくの間この隊の指揮をとらせてもらうことになった。――他の三人は?」
 「しばらくの間?」
 
 彼女は実年齢よりも幼さを残す仕草で首をかしげる。イザークはその様子がおかしくて、思わず苦笑をもらした。
 
 「地球へ行けば、相応しいやつがいる」
 「んん~?」
 
 彼女はうーんとひとしきり考え、ようやく思い立ったのか、ぱっと表情を瞬かせた。
 
 「アスラン・ザラ?」
 「そういうことだ」
 
 彼が答えると、リーカは納得した様子で、ちらと背後のモビルスーツに視線をやる。
 四足獣型モビルスーツ〝バクゥ〟と似通った形状へと変形する機能を持つ機体が、〝ガイア〟だ。現在はディアクティブモードのため暗い鉄を思わせる灰色だが、本来のカラーは黒である。これは現在二機ほど搭載されており、一機はリーカが乗り、もう一機は地球にいるバルトフェルドへと届けられることになっている。
 両肩を甲羅のようなシールドで覆うモビルスーツが、〝アビス〟だ。主に水中戦闘用に作られたこの機体は、青を基調としたカラーリングで、同じくパイロットとともに地球のモラシム隊へと送られる。
機体の背面に筒型の兵装ポッドを負った機体が、〝カオス〟である。深緑を基調としたこの機体は、地球連合にいるエース中のエース――いわゆるガンバレル適性の持つ者が使う〝ガンバレル〟を再現したものであり、適性を持たぬものであっても、高い情報分析能力と空間認識能力があれば擬似的にではあるが似たような攻撃が可能である、という野心作である。
 〝カオス〟の足元にいたつなぎを着る青年がこちらに気づき、駆け寄り言った。
 
 「お久しぶりです、ジュール隊長」
 
 薄い茶色の髪を短く切りそろえた生真面目そうな彼は、コートニー・ヒエロニムスだ。彼は本来軍人ではなく、ザフト兵器設計局のひとつである〝ヴェルヌ〟設計局所属のテストパイロットである。しかし彼の腕は天才的であり、風の噂でドクターやミゲルすらも上回るのでは、と言われている青年だ。
彼は地球軌道上のアデス隊に配属され、そこで〝カオス〟に装備されている〝ドラグーン〟システムのテストを行う予定である。もちろんイザークは何とかして彼をザラ隊に引き入れようとしたが、丁重に断られたのは言うまでもない。
 セカンドシリーズの完成型ともいえる〝インパルス〟は、この格納庫《ハンガー》にはおかれていない。専用の、しかるべき場所に安置されているので、パイロットもそこだろう。
 〝アビス〟の側でこちらに気づきながらも、見向きもしない銀髪の青年が、マーレ・ストロードだ。腕は確かなのだが、極めて神経質であり、性格は傲慢、ナチュラルへの差別意識が強く、被害妄想癖もある、と性格に難があると資料には書いてあったが、どうやらその通りのようだ。ふいに昔の自分を見ているような気がしてイザークは無意識のうちに視線を逸らした。
 ふと、渡されていた資料には載っていない機体に目が留まる。全体的なフォルムは〝ゲイツ〟に良く似通っていたが、頭部の形状は〝ジャスティス〟や〝インパルス〟同様の〝ストライク〟タイプだ。背中には英数字のXを思わせる特異な形状をしたバックパックのようなものを負い、今は暗い鉄色のディアクティブモードになっている。彼の補佐を務めるシホも気づいたようで、彼女はふと声を漏らした。
 
 「――あれは、なんでしょう?」
 
 すると、コートニーは難しい顔になる。
 
 「……YMF‐X○○○A〝ドレッドノート〟。〝ジャスティス〟や〝インパルス〟に搭載されているNジャマーキャンセラーの試作機として開発された機体です」
 
 なるほど、とイザークは思いつつ、コートニーに向き直る。
 
 「詳しいな、コートニー」
 「ええ。短い期間ですが、あれのテストパイロットをやっていましたから」
 
 イザークはふむと考え、彼の言葉にこめられた真意を探るように問う。
 
 「――だが?」
 
 コートニーは一瞬考え、注意深く〝ドレッドノート〟を見、言った。
 
 「その後大幅な改装を受け、私の知らない機体になってしまっています。それに――」
 
 彼は言葉を濁し、表情を暗くする。リーカも同じようで、辛そうに視線を逸らした。ふいに、イザークは〝ドレッドノート〟から降り立った影に気づき、注意を向ける。そのパイロットの姿に、彼は釘付けになった。
なぜならそのパイロットは、ザフトのエースたる赤を着てはいるものの、その顔の上半分を、無機的なマスクが覆い隠していたからだ。マスクからはみ出して首筋に流れる金髪だけが、かろうじて彼の生身の部分を垣間見せる。細く白い首には、エメラルド色をした宝石がちりばめられた金色のネックレス――見方によっては縛り付ける首輪のようにも見える――を身につけ、そして何よりも……。
 こちらに気づき、意思を感じぬ機械のような動きで歩み寄り、イザークの腰ほどの位置から顔を見上げた。
 
 「子供、だと……?」
 
 思わず驚愕してイザークがうめく。そのパイロットは、幼かった。背丈から推測するに、まだ十歳になったばかりか、なってもいないかというほどに――。ラスティがぎりと奥歯を食いしばり、叫んだ。
 
 「ふっざけんな! なんだよこりゃあ!」
 
 イザークが視線で釘を刺すようにしたが、彼は無視して声を荒げた。
 
 「ザフトは何考えてんだよ!? イザーク、お前、こんなんで良いのかよ!? こんな子供に戦わせるって、それで良いってのかよ!?」
 
 シホが小声で彼に詰め寄り、必死になだめてくれているが、彼女自身も同じ気持ちのようで、表情は冴えない。否、彼女だけではない、ここにいる者――コートニー達も皆、ザフトの下した決断に不信を抱いている。
 その少年は微動だにせず、無感情のまま言った。
 
 「――ネオ」
 
 イザークがいぶしがけな顔で少年のマスクを見ると、少年は繰り返した。
 
 「ネオ・ロアノーク」
 
 この少年の、名だろうか?
 
 「この子、無口なの……。私たちに判ってるのは、この子がネオって名前ってことと、〝ドレッドノート〟のパイロットだってこと」
 
 ネオと名乗った少年は、それ以外何も言葉を発さぬまま身を翻し、再び〝ドレッドノート〟のコクピットへと戻っていく。まるで、モビルスーツの一部のようにして……。
 もしもこの少年が、デュランダルの指示によるものだとしたら……。
 イザークは言い知れぬ不安を感じながら、不気味に佇む〝ドレッドノート〟を睨むようにして見つめ続けていた。
 
 
 
 「〝クサナギ〟は、以前から〝ヘリオポリス〟との連絡用艦艇として使ってきたものだ」
 
 発着デッキまでナタルたちを出迎えに来たキサカが説明しながら、通路を先に立って進む。
 
 「――モビルスーツの運用システムも、武装もそれなりに備えてはいるが、アークエンジェル級ほどではない」
 
 格納庫のメンテナンスベッドにはM1〝アストレイ〟が並んでいる。居住区を通りかかると、親衛隊のパイロット、アサギ、ジュリ、マユラの姿が見えた。カナードが彼女らに軽く敬礼をした後、こう評価する。
 
 「五つの区画に分けて、中心部だけを行き来させている、か。面白いやり方だ」
 
 居住区には子供の姿もあり、ナタルは馬鹿にしているのかと内心毒づいた。自分たちのこれからを思うと、けっしてこの艦が安全な場所とは思えなかったからだ。
だが考えてみると、〝ドミニオン〟にもつい先日平手打ちをして独房へ放り入れようと――彼の妹に考慮し、実際入れはしなかったが――まで思ったシン・アスカという少年がいるし、彼の妹も然り。それどころか艦橋には女と子供と社長しかいないのだ。
 人のことは言えないな。彼女は誰にもばれないようそっと溜息をついてから、キサカに目をやった。
 
 「カガリ・ユラはどうしていますか?」
 「だいぶ無理をしてます。――〝ヘリオポリス〟の件があるまでは、はたも呆れるほどの父親っ子であったというのに……」
 
 キサカはナタルの問いに答え、表情を曇らせた。
 
 「泣く暇も与えてやれんのだ……」
 
 砂漠でであったころのカガリを知っているだけに、ナタルは彼女に同情の気持ちを強く抱いていた。まだまだ甘えたい年頃だったろうに……。考えてみれば、ここにはそんな者ばかりかもしれない。すでに両親のいないフレイ、つい先日家族を失ったばかりのアスカ兄妹。それに、ナタル自身も戦争で兄姉を失っているのだ。
 無重力の通路をたどり、艦橋《ブリッジ》へたどり着いたとき、ナタルは思わずつぶやいた。
 
 「〝ドミニオン〟と似ているな……」
 「〝ドミニオン〟『が』似ているのだ」
 
 彼女の呟きを聞きとがめたキサカが、軽く笑って言う。
 
 「親は同じ〝モルゲンレーテ〟だからな」
 
 なるほど、順番から言えば〝ヘリオポリス〟との物資のやり取りのために造られた〝クサナギ〟の方が先だ。この艦とアークエンジェル級は特殊な艦橋の配置なども似ていたが、主な武装もほとんど共通している。
 ふと、つい先ほどまで慌しく指示を出していたカガリが振り向き、ナタルに挨拶した。
 
 「よ、艦長。元気か?」
 
 お前はだいぶ無理をしているな、と言いかけたがぐっとこらえた。仮にも彼女は一国のトップなのだ。
 しかし、ふとナタルは思い立ち、あえて尊厳な口調で言い放つ。
 
 「貴様こそ、似合ってるようには見えないな? カガリ・ユラ」
 
 傍らのキサカがぎょっと目を瞬かせたが、カガリは満面の笑みを浮かべ、でーんとナタルの胸に飛び込んできた。
 
 「へへ、やっぱ副長って良い奴だな」
 
 顔を胸にうずめ――密かにあふれる涙をぬぐう――カガリの髪をくしゃりと撫でてやってから、ナタルはここぞとばかりに周囲を物色するアズラエルを咎め、言った。
 
 「理事、連合の恥を晒すような真似はしないでいただきたい」
 「えっ……? 僕そんな風に見えてまス……?」
 
 そういってからちらりと周囲を見、こほんと咳払いをしてから彼は大人しくなった。
 キサカがオペレーター席に座るユウナ・ロマ・セイランに指示すると、パネルに宙域図が映し出された。
 
 「現在、我々がいるのはここだな……。さて、問題はこれからのことだ……」
 
 すると、カガリがさも当たり前のように、胸を張って向き直る。
 
 「目的地は決まっている。〝アメノミハシラ〟だ!」
 
 カガリが示したのは、地球軌道上で、ちょうどオーブ本島の真上に位置する地点にある宇宙ステーションだ。本来は地上と宇宙を結ぶ軌道エレベーターとして開発されたが、開戦により中断を余儀なくされ、現在はその最頂部として作られた部分を宇宙ステーションとして使用しているのだ。
 
 「なるほど。確かに、今のアナタにでしたら、ロンド・ミナ・サハクは協力を惜しまないでしょうネェ。ま、妥当な判断でしょう」
 
 アズラエルがぬけぬけと言い、カガリのこめかみがぴくぴくと動いた。〝クサナギ〟のクルーたちも同じ思いのようで、憎々しい表情を彼へと向ける。だが、そんなカガリたちも、彼の次の言葉で表情を改めることになる。
 
 「こんなこともあろうかと、既に〝アメノミハシラ〟へのルートには連合の部隊を配置してありますから、快適な船旅を満喫しまショ」
 「な、何い!?」
 
 一同の顔が驚きに満ちる。まさか、この男がここまでオーブのために……。中には意外な支援に、感謝の意を唱え始めるものもいる。呆然としているナタル同様、驚愕するカガリに、アズラエルは手をひらひらとさせ言った。
 
 「僕を誰だと思ってるんですか? 私事で軍を動かすなんて朝飯前でス」
 
 ……ああ、やっぱりこの男はムルタ・アズラエルだった。すぐさま一同は呆れ、溜息をついた。
 ともあれ、味方でいる間はそれなりに頼もしいアズラエルであった。
 
 
 
 オーブ領海線に集結した地球連合艦隊旗艦、スペングラー級大型強襲揚陸艦〝パウエル〟では、到着が遅くなってしまったことに歯噛みしながらも、艦隊司令のダーレスが懸命に指示を出していた。
 
 「一機でも一隻でも良い! 何とかしてこちら側へ辿り着かせろ!」
 
 彼の部下たちは、皆連合国入りしたオーブを守るべく立ち上がった歴戦の戦士たちなのだ。それゆえに、オーブ防衛戦に間に合わなかったことへの罪の意識は大きい。だからこそこうやってオーブから離脱していくオーブ軍の艦隊を懸命に援護しているのだ。
オーブから離脱していく部隊は多ければ多いほど良い。やがてその小さな火は集い、再びオーブという国を取り戻す炎となるのだから。
 そこからやや距離を置いた静かな海の上にも、一隻の艦艇があった。同じくスペングラー級の〝J.P.ジョーンズ〟である。
 その艦橋《ブリッジ》で、副長のイアン・リー中尉は誰にも気づかれないようそっとため息を吐いた。ダーレス司令らは今この瞬間も戦っているのだというのに、自分たちは物見遊山的に静観しているだけなのだ。
なんとも歯痒いものであるが、それが命令というのならば仕方も無い。第八一独立機動群とかいう見たことも聞いたこともない連中の脱出を確認せよ、という訳のわからない任務でなければ、の話だが。
 ちらと時計を確認し、合流予定の時間が迫っていることを見、考える。もしも時間に間に合わなければ、そのまま帰投し次の任務を待つ。それが下された命令なのだ。なんとも理解しがたいものか。しかし、それに黙って従うのが職業軍人のイアン・リーである。
 艦長であるホアキン大尉が、じっと時計を確認し、短く「時間だ」と告げた。
 ……なんて任務だ。
 クルーが指示に従い艦の帰投準備を始めたころ、ふと、遠方のザフト部隊がざわつき始めたのを確認した。
 
 「――艦長、あれは……?」
 
 ホアキンの視線が鋭くなり、帰還中止命令を下す。皆が窓から食い入る用に外を見つめる。イアンもまた、遠方で繰り広げられる戦闘に、釘付けになった。
 左肩にユニコーンのエンブレムをペイントした〝デュエル〟が、〝ディン〟のコクピットを手刀で貫き、そのまま踏み台にしてまた一機、また一機と落としていく。やがて〝グゥル〟に乗る〝ジン〟のコクピットを貫いたところで、そのまま機体を蹴落とし、それを奪い去った。
すぐさまその〝デュエル〟は降下し、遅れて来る四機のG兵器の支援へと入る。途中で〝ジン〟から七十六ミリ重突撃銃を奪いとり、マシンガンのようにして弾丸を叩き込んでいく。怯んだ〝ジン〟を〝ストライクE〟が切り裂き、もう一機の〝デュエル〟の腕を引きながら強引に〝グゥル〟へと飛び乗る。
そのまま〝G〟は――いや、G兵器だけではない、見れば十数にも及ぶ〝ストライクダガー〟やオーブの量産型モビルスーツM1〝アストレイ〟もいるではないか。各機はユニコーンの〝デュエル〟とG兵器が切り開いた活路を、群がる敵機と懸命に戦いながらこちらへと向かってくる。
 ――なんて奴らだ……。思わずイアンは生唾をごくりと飲み干した。
 そうしているうちに、一機また一機と〝J.P.ジョーンズ〟へとモビルスーツが辿り着き、一番最後にユニコーンの〝デュエル〟が甲板へと降り立った。そのまま〝デュエル〟は片膝を突き、動かなくなる。
 ホアキン大尉が呆然とつぶやいた。
 
 「五機中四機もの機体が、帰還したというのか……」
 
 聞いた話によると、彼らはオーブ防衛戦のど真ん中へ放り込まれ、いわば捨て駒同然の扱いだったという。〝ストライクダガー〟やM1〝アストレイ〟も、〝ドミニオン〟脱出の為に自ら捨石を名乗り出た者達。だというのに、これだけの数が――
 
 「帰還したと、いうのか!」
 
 もう一度、ホアキンは驚きの声を上げた。すると――
 四機のGの周囲の景色が揺らぎ、もう一機の〝G〟――〝ブリッツ〟が姿を現し、コクピットから機体を失い回収されたと思われるパイロットたちが流れ出てきた。
 
 「全機だと!?」
 
 甲板に並ぶモビルスーツの数は既に二十を超えている。これだけの数を、良く……。イアンは不思議と誇り高い気持ちでいっぱいになった。我々がここにいたことは、決して無駄ではなかったのだ。
 イアンはホアキンの命により、彼らを出迎えに甲板へと向かうと、唐突に少女の声が響き渡った。
 
 「だあー! もう、もおー! 死ぬかと思ったーっ!」
 「少しは静かにしてくれ……ミューディー、化粧の匂いが――うおっぷ!?」
 「ミューディー、暴力はいけない」
 それぞれのパイロットと思われる三人が、肩で息をしながら生還を喜び合っているように見えなくも無い。〝イージス〟から降り立った青年だけは、汗だくになりながらも決して直立不動を崩さず、一言も言葉を発せず次の指示を待っているようだ。
 「ちょっとエミリオ! あんた見てるだけで疲れるから、そういうの止めてってば!」
 「………………」
 
 無言で答えるエミリオと呼ばれた青年に、ミューディーと呼ばれた少女は苛立たしげな視線を向けた。
 
 「っていうかあんたさ、実は普通にへばってるだけだったりしてる?」
 
 するとエミリオはぴくりと目を細め直立不動の両足をカタカタと震わしながらも無言で返した。
 
 「ああそう、そういうことね、ああそう……」
 
 呆れ果てながら深く息を吐き、そのまま彼女は甲板にべたっと座り込んだ。先ほど彼女に裏拳を打ち込まれた浅黒い肌の男は、未だに倒れたまま起き上がらない。〝ブリッツ〟から降り立っただらしの無い格好の男がふらふらとやってくると、ミューディーはなおも噛み付いた。
 
 「ずっと〝ミラージュコロイド〟で楽してた男ー」
 「うるせえ……」
 
 彼が不機嫌に言うと、銀髪の青年が口を挟んだ。
 
 「それは違う、ミューディー」
 「はあ? 何よ?」
 「ダナに下された任務は我々の中で最も過酷で危険なものだった。機体の性質上、〝ミラージュコロイド〟とPS装甲の同時使用は不可能だ。それを承知で俺たちやオーブの部隊を支援するために――」
 「わかった、わかったから、あんま話しかけないで……」
 
 相当疲れているのか、ミューディーはぜいぜいと息をし、どうやら彼の長話を聞くのも辛いようだ。
 すると、ユニコーンの〝デュエル〟のコクピットハッチが開き、中からパイロットが降り、おもむろにヘルメットを脱ぎ去った。癖のある赤毛をくしゃとかきあげふっと息を吐く。
 
 「流石に応えたな……。――ブロデリック少尉、楽にしてくれて良い」
 「はっ!」
 
 エミリオは即座に答え、そのままばたんと後ろに倒れこんだ。
 「だからー、極端すぎるのよあんたはあー……」
 
 あきれ果てたミューディーを、エミリオは見ようともせずに答える。
 
 「疲れた、死ぬかと思った」
 「言うのが遅いぃー!――あ、なんかもうダメ、今ので……」
 ミューディがふらふらと目眩を起こし、そのままへたり込んだ。
 ふと、指揮官らしい〝デュエル〟の男がこちらに気づき、さっと敬礼した。
 
 「第八艦隊所属、〝ドミニオン〟隊隊長アムロ・レイ大尉です」
 
 第八艦隊のアムロ・レイ……? ならば、この男が……。イアンはさっと居住まいをただし、敬礼で返す。
 
 「第七艦隊所属、スペングラー級戦艦〝J.P.ジョーンズ〟副長のイアン・リー中尉です。アムロ・レイ殿は『白い悪魔』殿とお見受けしますが……?」
 
 そう言うと彼は苦笑で答える。
 
 「そういうことならそれで構いませんが、なるべく早く彼らを休ませてあげたいのですが」
 
 ちらと視線で背後のパイロットたち――既に〝ストライクダガー〟や〝M1アストレイ〟からもパイロットたちが降り、皆疲れ果てたようにして座り込んでいる――を見、言った。
 
 「もちろんです、大尉。〝J.P.ジョーンズ〟は貴官らを歓迎いたします」
 
 断る理由などあるはずもない。それこそが、我々がここにいた理由なのだから。
 
 
 
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