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Last-modified: 2015-06-25 (木) 00:41:21

――お姫様は一人ぼっちです。桜の花びらでできた美しい髪のお姫さまは、たった一人でお城に住んでいます。
   賢く聡明な姫は、桜花の姫と謳われ、人々は彼女に忠誠を誓いました。
   人々は言うのです。彼女こそが、救世の姫だと。
   戦争が、起こりました。
   それは、彼女が生まれるよりもずっと昔から続いていましたが、彼女の時代になって、それは巨大なうねりとなって、人々を飲み込み始めました。
   桜花の姫は祈ります。人々の為に。
   争いの終わらぬ混迷の大地。
   彼女の国も、その戦争の一端を担っていました。
   ある日、桜花の姫は彼女の国に家族を奪われたとして、憎悪を心に宿す少女と出会いました。
   薔薇のようにあでやかな髪の色をした彼女は、紅薔薇の姫と謳われていました。
   桜花の国の敵国の、姫です。
   桜花の姫は、人々の為に祈りましょうと言いました。
   紅薔薇の姫は、それを拒否し、剣を取りました。
   彼女はその美貌で、〝巨神〟の血を引く蒼き翼の天使を狂わせ、決して終わることの無い黒き歴史に拍車をかけました。
   桜花の姫は絶望したけれど、もう一人の姫、白百合の姫(篝火の姫とも言われている)が救いの手を差し伸べました。
   彼女は紅蓮の騎士を従え、桜花の姫と共に、紅薔薇の姫を討つ為に戦います。
   桜花の陣営についた鷹の翼の王は、彼女の兄であり、かつて『力のある者』、あるいは『新たな者』と呼ばれた『竜の血脈』であり、その力は蒼き翼の天使に匹敵するほど強大です。
   しかし、鷹の翼の王は、実の弟の摂理の王に撃たれ儚い命を散らしました。
   ですが鷹の翼の王の命を賭した説得に応じ、紅薔薇の姫の下にいた蒼き翼の天使は紅薔薇の姫の呪縛を振りきり、桜花の姫の騎士となりました。
   その戦乱の中、紅薔薇の姫は実の兄である摂理の王に背後から刺され、失意の内に息絶えてしまいました。
   やがて摂理の王も、桜花の姫の軍勢に滅ぼされ、平和は訪れました。
   でも、摂理の王に残された弟、暁の王子は、桜花の姫に愛する肉親全てを奪われたとして、彼女らに復讐すべく再び戦を呼び起こしてしまったのです。
   暁の王子は、正統な血統。『竜の血脈』こそが、〝巨神〟の血であり、彼こそが本当の英雄の歴史を受け継ぐ戦士でした。
   一方蒼き翼の天使は、古の錬金術により〝巨神〟の力を無理やり再現させられた、作られた存在でした。
 
それでも、桜花の姫の為、蒼き翼の天使は懸命に戦い、ついに暁の王子を撃ち滅ぼしました。
   世界は桜花の姫の下で、二度と戦争が起こらぬようにと、統治されました。
   それでも、幾度と無く戦の炎は舞い上がります。
   あるものは、蒼き翼の天使に妹を殺され、あるものは、紅蓮の騎士に妻と娘を殺され、あるものは母を殺され……そしてその矛先は、桜花の姫へと向けられました。
   決して終わることのない争いが幾度と無く起こりました。
   殺しては殺され、殺されては殺して。戦争、平和、革命の三つがまるで終わらないワルツのように繰り返されました。
   そのような悲劇を決して繰り返さないため、桜花の姫の軍勢は賢明に戦い続けました。
   そして、全ての争いの元凶を撃ち滅ぼし、ふと姫は後ろを振り向き、気づいたのです。
   もう、自分しか残っていなかったことを。
   争いの元凶は、自分だったのだということを。
   絶望に打ちひしがれ、姫は立ち止まり、誰かの名を呼んでも、誰も答えません。
   もう、誰も残っていません。
   失意に底に落ちた姫が、白金の賢者の石に祈ると――
 
 
 
 これ以降の結末が欠落しており、これ以上の翻訳は不可能であった。
 もしもこの続き(もしくはそれと思わしき古文など)を見つけたものは、小生のもとに連絡を望む。
 詳しい連絡先は後書きで記してある。
 この一連の話は、非常に興味深い情報が隠されていると睨んでいる。
 世界各地で、それは母が子に聞かせる子守唄であったり、あるいは伝聞か、石碑か、童話か、ありとあらゆる形でこの物語に似たものが見つかっている。
 地球の反対側で見つかったそれぞれの遺跡に残されたいくつかの物語に、共通点が見受けられるのはどういう事だろうか。
 これは、過去からのメッセージなのだろうか。
 何かを伝えようとしているのだろうか。
 それは何だ。
 すぐに、それは危険をだ、と感じてしまうのは悲観的な性格だからだろうか。
 多くの学者は、小生の考察を笑ったが、それでも、この物語を解読するのが小生の運命(あるいは呪縛か)のように思えている。
 かつてこの惑星は恐竜が支配し、やがて氷河期が訪れ猿が人に進化したというのは現在の見解だ。
 宗教家などはそれを否定し神は最初から人を人として生み出したなどと語るが、今それは良い。
 猿だろうが、人だろうが、この世界に散らばる物語の関連性を説明できる何かを、小生は探している。
 最も、小生の命が尽きるまでの話だが。
 冒頭でも書いたように、小生はジョージ・グレンと共に木星に行った者の一人だ。
 この翻訳を書いている時点で、既に小生は八十を超えている。
 小生の後を継ぐ者が現れてくれれば幸いであるが――。
 
 
 『巨人たちの黄昏』より抜粋。
 
 
 
 
FINAL-PHASE 宇宙の虹
 
 
 
 
 会議室を訪れた兵からの知らせに、カガリはしばし絶句した。彼女だけでなくどんな人間も――智将と謳われたハルバートンでさえも、同じ反応を見せている。
 
 「……〝ユニウス・セブン〟が動いてるって……いったい何故!?」
 
 それは、月が落ちてくるというのと、ほとんど大差ない事態のようにカガリには思えた。
 宣戦布告も、宣言も一切無い凶悪なテロ行為であり、一同が言葉を詰まらせる中たった一人、デュエイン・ハルバートンだけが難しい顔をして告げる。
 
 「〝ユニウス・セブン〟、か……」
 「は、読みが外れましたな?」
 
 護衛を勤めるモーガンが深刻に答える。
 
 「保険はかけておる」
 「保険って――!」
 
 カガリが混乱するのも無理は無かった。〝プラント〟の直径はおよそ十キロにも及ぶ。そんなものが地球に落ちれば〝血のバレンタイン〟や〝エイプリル・フール・クライシス〟どころの騒ぎではない。直径一キロの小惑星が落下した場合のエネルギーを、TNT火薬の爆発力に換算すると十万メガトンに相当するといわれる。
核爆弾が五十メガトンだから、その二千個分に当たる。その計算で行くと直径十キロ近い〝ユニウス・セブン〟の衝突のエネルギーは一億メガトン近くになってしまう。もちろん、突入速度は小惑星と比べてかなり遅いはずだから、単純に換算するわけにはいかないが――。
 
 「標的はコロニーかと思っていたが……」
 
 だが、このハルバートンという男が老いたままの表情からそれ以上の皺一つも作らず淡々としているのが、カガリをわずかに冷静にさせた。
 
 「――コロニー?」
 
 無論カガリに彼の意図がわかるわけではない。だから彼女は純粋に疑問を口にしただけだ。
 
 「コロニー落としだと、我々は見ていた。部隊の多数は地球軌道に近いコロニーに配備してあったが、今から対応しても遅くは無いはずだ。コロニーからの支援も要請する」
 
 カガリは思わず息を飲む。この人は一体何手先を読んでいるんだ……。
 
 「アスハ代表、問答している時間は無いぞ。すぐ本国にも連絡を取れ」
 
 カガリははっとして「わかった」と短く告げると、ハルバートンはその場にいたもう一人の青年にも声をかける。
 
 「ザラ議長、〝プラント〟の援護も期待してよろしいか?」
 問われた青年――アスラン・ザラは力強く頷くと「無論です、持てる戦力の全てを――〝ミネルバ〟も出します」
 
 と答えると、ハルバートンは「感謝する」とだけ短く返答した。
 
 
 
 地球軌道上から無数のミサイルが飛来し、それのいくつかが核弾頭であることを知ったラウは絶句した。
 
 「ハルバートンめ、まだ早い!」
 
 この〝デスティニー〟は戦闘用の機体ではない。半永久的に〝ミラージュコロイド〟を全方位に使用する事などできるはずもなく、断続的な攻撃、超長距離からの狙撃という持久戦に持ち込まれてしまえば、いかに〝ガンダム〟と言えども撃破は時間の問題である。
 しかし、その『時間』こそ、ハルバートンが欲してやまないものだと言う事も理解している。
 あちら側に持久戦に持ち込むという選択肢は無いだろう。
 だからといって、頭で理解しているから感情全てを抑制できる道理はない。
 苛立ちに顔を歪めたマティスからの通信を切り終えると、ラウは十二機にも及ぶ〝カオスインパルス〟を起動させ、それぞれを〝ドラグーン〟として射出した。
 
 〈ミノフスキー粒子、戦闘濃度散布!〉
 
 通信から状況が漏れ聞こえ、対応の遅さにラウはいらだった。
 〝ミノフスキー粒子〟――静止質量がほとんどゼロにもかかわらずきわめて子湯力名帯電性質を有する特異な粒子であり、一定濃度において立体格子状に整列する性質を持っているため、〝ミノフスキー粒子〟が散布された空間では、〝ミノフスキー粒子〟よりも大きい物質を通さない。
それは、マイクロ波、超長波なる電波、一部の可視光線、赤外線を含み、これによりNジャマーによる電波障害を遥かに越える、粒子の防壁を生み出すことができる。
 この特異な粒子は、〝ミラージュコロイド〟やビームサーベルを形勢する粒子として使用されているものとほぼ同じものであり、知識と技術さえあれば、発生器から作り出すのは容易である。
 それが無ければ、ラウはマティスの一族に近寄ることすらできなかっただろう。
 この〝ミノフスキー粒子〟と、〝ユニウス・セブン〟落としで世界を混乱へと導く。それが彼らの計画であるのだから。
 
 
 
 愛機の〝ストライクダガー〟のコクピットで、ベリングは焦燥していた。コロニーを護衛するだけって話じゃなかったのかよ、と大仰に毒づいてみれば、それは圧倒されるほど巨大な大地の前では虚無に向けた言葉に等しく、男の小ささをおのれで再認識しただけにすぎない。
 僚友の〝ストライクダガー〟が閃光に貫かれると、ようやくベリングも、終わったはずの戦争がまた起こったのだと理解できたし、小憎らしいアルフレッドという友人の顔も思い浮かべてみたが、それは理解しがたい現実から逃れようとする心の抵抗に過ぎない。
 何も無い空間から放たれた攻撃は、母艦のネルソン級轟沈の報を受け、半ば自棄になりつつも無へと向かいビームライフルを正射した。
 
 「援護はどうした!?」
 
 と叫び終わる頃には、散っていった僚友と同じくして虚無から繰り出された光条に身を焼かれ、自分が死んだことにすら気づかず機体は爆散した。
 
 
 
 核を保有すると思われる全ての部隊を撃退した後、ラウは補給の為に十二機の〝ドラグーンインパルス〟を旗艦のゴンドワナ級戦艦〝ゴンドワナ〟へと向ける。
 そのまま自機を滑らせるようにして旋回し、刻々と地球へ迫りつつある〝ユニウス・セブン〟の大地を見下ろした。
 
 〈〝ユニウス・セブン〟への被害は確認されていません〉
 
 告げられた報告に、こういうことばかり早くても意味は無いだろうと苦言の一言でも言ってやりたくなったが、所詮一族の息のかかった自分と同じ『使い捨て』なのだろうから、「了解した」とだけ短く答えた。
 コロニーからの遠距離射撃は、各部隊が向かっている。全てをとはいかないだろうが、これでいくらか時間は稼げるはずだ。
 ヘルメットのバイザーを上げ、ひんやりとした空気が頬を撫でると、やっている事の虚しさが心を突き刺すような感覚を覚え、ラウは目を細めた。
 本当に、上手く行くのだろうか。
 敗北は、死を意味する。
 自信は……無い。
 それでも、何もしなければ、あの時見た『運命《さだめ》』のままになってしまうかもしれない。
 そうなったら、きっと後悔する。
 また、自分を許せなくなる。
 背後で少年達がくすくすと嘲笑う。
 悪寒が少しずつ近くなっていく。
 それでも……。
 ラウはぶると身を震わし両肩を抱いた。
 そして今になって思い知ったのだ。
 死を想像するというのは、こんなにも恐ろしいものだったのだと。
 
 
 
 〝ガーティ・ルー〟が宇宙《そら》を行く。
 ザフトの現在の旗艦である〝ミネルバ〟を初めとした艦も後方に続き、同時に他のコロニーにもテロの警戒を強めなければならず戦力を分散させられ、それでも連合とザフト双方を合わせれば二十隻超える艦隊であったが、問題は速度の違いにあった。
 カガリがぼやいていた事だが(機密はどうしたと言いたくなったが)、コロニーからの支援が想定よりも遥かに少ないらしい。
 カガリはそんなに大部隊がいたなんてと苦渋を滲ませているだけだったが、ラクスは違うと感じていた。
 恐らく、この隕石落としにはもっと凶悪な何者かが手を貸している。
 その何者かが、ラウ・ル・クルーゼの思想を使い、このような暴挙に出た、というのがラクスの思うところだ。
 隕石落としそのものが、その何者かの提示した手段なのかもしれない。
 クルーゼはそれの――偶像、即ちアイドル。
 そしてそのスポンサーが、各コロニーに根回しをし、何らかの利益を約束したのだろう。
 地球に隕石が落ちたところで、コロニーに被害は無いのだから。
 いや、むしろ利益の方が大きいかもしれない。
 あれだけの質量が落ちるのだ、大津波は世界中を襲うだろう。
 では、復興はどうする?
 地球だけでは賄えないかもしれないとなれば――
 ぞくり、と薄ら寒いものを覚え、ラクスは自分の身を抱いた。
 主義も主張も無く、正義と正義のぶつかり合いでもなく、利益の為に人を殺すというのか……。
 敵の部隊は最小限。スポンサーの誘いに乗らなかったコロニーを襲撃すればそれで良い。
 だからこそ……このもっとも素早い〝ガーティ・ルー〟で先行し、敵部隊をかく乱する事になったのだ。
 無論、ハルバートンはこの艦を捨て駒にするような男では無いと信じたかったが、大の為には小を犠牲にする事ができるからこそ知将なのかもしれないと思うとぞっとする。
 だが救いなのは、単身特攻ではなく、〝ミラージュコロイド〟による潜航で敵艦隊右舷より奇襲をしかける、という事だ。
 正面からは継いで足の速い〝アークエンジェル〟級と〝ミネルバ〟が残りの艦隊から先行し攻撃を開始するので、タイミング的にはほぼ同時かややこちらが早いかでしかないはずだ。
 勿論〝クサナギ〟は最後――というか、〝ボアズ〟で居残りだ。カガリは渋っていたが、ざまあ見ろである。いい加減ちゃんとお姫様をおやりなさい。
 
 こちらも上手く行けば、〝アルテミス要塞〟からの援軍も期待できるので、それほど絶望的な状況ではない。
 しかし〝アルテミス要塞〟にも敵部隊が攻撃を仕掛けていると情報があり、もしも〝要塞〟が陥落すれば、〝ガーティ・ルー〟は挟み撃ちになるという可能性も残っている。
 後手に回っているな、というのが率直な感想であった。
 無論ハルバートンもそれを重々承知で行動しているのだろう。
 承知していても、敷かれた困難のレールに乗らねばならないというのは、苦しい現実である。
 〝プラント〟本国の警備の為に何隻かの〝ミネルバ〟級が残る事もまた、気に入らないが――
 所詮、綺麗ごとだけで人は動かないと言う事なのだろう。アスランという気高い少年は、もう少し人を利用する汚さを身に着けてくれても良いだろうに。
 そこまで考えたところで、ラクスは火照った頭を冷ますようにしてふうと短い溜息を吐いた。そのままベッドでごろんと寝返りを打つと、出港直前に〝プラント〟から差出人匿名で送られてきた、ピンクの丸いペットロボにふっと息を吹きかけた。
 何となくアスランの匂いがする気がするその丸いピンクのロボットは、二つの小さな目をチカと光らせ、丸い耳を一度ぱたんと羽ばたかせた。。
 もう数刻もすれば、戦闘準備だ。ゆっくりとした時間を過ごせるのは、これで最後となるかもしれない。最悪のケースを言えば、ここでの会話が彼女との最後の会話になるかもしれない。
 だが、ラクスはフレイが落ち込んでいるのがわかっていたから、他愛の無い会話をするつもりしかなかった。
 二人の私室で、ラクスはもう一度ごろんと寝返りをうち、自分の巣となりつつあるそのひんやりとしたシーツの感触を寝巻き越しに感じながら、ついさっきの事を思い出し、聞いた。
 
 「コーヒーは嫌い?」
 
 基本的に猫かぶりなフレイは、不機嫌な時にこそ好き嫌いがはっきりわかる。彼女は、先ほど食堂でラクスが入れたコーヒーを残していた。自慢の一杯だったのになどという感情は無い。そういう趣味があるわけではないから。
 
 「……別に。ただ気分じゃなかっただけ」
 
 赤毛の少女はちらりとも視線を向けず、ぶっきらぼうに言い放つ。
 
 「ふーん?」
 「大体あんな下品な泥水の何が美味しいのよ」
 「まあ。では何を?」
 「紅茶。ジュースも良いけど、紅茶を飲みたい気分だったの」
 「そう。では紅茶を次から?」
 「ううん、この艦の紅茶って美味しくないのよね。入れ方とかじゃないと思うけど」
 
 後半はラクスへのフォローだろう。小さな心配りが心地良い。
 
 「コーヒーは良いものらしいですわよ? ジブリール様が言ってました」
 「うるさく?」
 「ええ、しつこく」
 
 思い描けば、何かを力説している姿しか浮かび上がらないあの壮年の男は、どうもあらゆるものを自慢したがる性分らしく、何ともいえない感情が宿り思わず溜息をついた。
 フレイが先ほどから気だるげに自分の指の爪の形を眺めている。綺麗な指だと思うけれど、楽しいのだろうか? ラクスにはそういう癖のようなものが無いので良くわからない。
 
 「そ。あの人紅茶の事もこの前言ってたんだけどね」
 「うるさく?」
 「うん、しつこく」
 
 なんだかデジャブを感じた。
 それが無性に可笑しく、我慢しようとしても空気が横隔膜を下から突き上げ、閉じた口からふっと息が漏れ、頬が緩む。
 フレイは顔を反らし何かを堪えるようにして肩を震わしている。彼女の口からも、ぷっという息が漏れた。
 息が断続的に漏れ続け、全身が震え、腹筋が鈍く痛み始めたとき、もう一度堪えきれなくなった息を口からふ、ふ、と漏らすと、フレイも同じようにして口元を抑えてそのまま自分のベッドで転がった。
 
 「ふ、くく……ふ、あははは、何よ今のー!」
 
 彼女が笑い転げ、それに釣られてラクスはたまらず噴出した。
 
 「ふふ、あはは、だ、だって、あの方って、本当にそうだし……!」
 
 うるさくてしつこい人なのだから、そう言うしか無いだろう。苦しくなったお腹を抑えながらラクスは反論をしたが、フレイは更にひいひいと上品さの欠片も無い笑い声を上げ、ラクスもそれに釣られた。
 
 「そ、そうじゃなくてさあ!」
 
 二人は一頻り笑い、ようやく落ち着いて来た時、フレイはラクスの瞳を真っ直ぐ見て、言った。
 
 「――うん、何か楽になった。ありがとう」
 「はい。どういたしまして」
 
 自然と、笑みで返す事ができたのは、内心驚いた。もっと取り繕ってしまうのではと危惧していたから。
 わたくしは、誰かの役に立てたのだろうか。
 こうして取りとめのない会話をしただけで、何かを為せたのだろうか。
 人の為にありたいという性分は、変わっていない。
 ラクスは、人とは何かがわからなくなってしまっただけ。善の本質は変わらない。それがこれから独善となるのか、偽善となるのかはわからない。
 未来は無限であり、その時に最良の選択が、数年先の未来でも果たして切望した結果になっているとは限らないのだ。世界に存在する『人』は、自分だけでは無いのだから。知らない所で誰かがラクスの邪魔をし、誰かが救い、時は刻まれていく。余りにも無為で脆弱な自分の力。
 それでも、今自分のすぐ側にいる彼女を救う事のできるのは、世界のどこかにいる見知らぬ人では無い。
 理屈ではなく、心で理解できた。
 あの輝きの中で、父と母の想いを知った。
 無償の愛を理解した。
 自分が愛されていた事を理解した。
 寂しくないと言えば嘘になる。泣きたくなる時だってある。
 それでも、立ち止まる事はもう無いだろう。
 一歩を踏み出す勇気を、出会った人達から貰ったから。
 しかし、と思う。
 もしも、貴女の命が知らない誰かに奪われるような事があったら。
 今度こそ、駄目になるかもしれない。
 それが……わたくしは、怖い……。
 それでも、ラクスは目の前で笑う無垢な少女に向けて、笑顔で返していた。
 取り繕っているわけではない。
 今は、本当に楽しいから。
 それでも、その胸に不安を宿して――。
 
 
 
 「〝ユニウス・セブン〟が地球に落ちるのは時間の問題だ。コロニーに援護射撃の要請をしたが、既にいくつかの施設は襲撃を受け作戦には間に合わないと連絡が入っている」
 
 ディスプレー上にそれらの動きを示してアムロは説明した。その前は、各艦の艦長と主だった将兵でいっぱいだった。
 
 「こちらの核は?」
 
 アスランである。彼の問いに、ハルバートンが呻いた。
 
 「用意はしたが、突然な事でな。〝プラント〟に設置されていたものをなんとか流用して二十発が限度だ」
 
 聞きながらカガリはフレイの言葉を思い出していた。きっと、ラウには理由があったんだと。何か確信があって行動をしているんだと。
 あいつのそう思いたい気持ちは痛いほどわかった。確かにあのラウ・ル・クルーゼという男の真意は、隕石落としでは無いように思える。
 だが、目的が何であれ、方法が間違っているのだから、戦わざるを得ないだろうに……。
 恐らくハルバートンも、想像の域を出ない問題に直面している。この核弾頭が、本当に〝プラント〟の民を破壊する為のものだったのか、それとも……。
 ハルバートンが続ける。
 
 「決め手が核となるというのはあちらも承知だろう。そのうちの三発は先行した隊に使用を試みたが、その部隊は既に全滅している」
 
 彼等の会話を聞きながらも、カガリは地球に残してきたオーブの民の事が気がかりだった。ようやく復旧の目処がたってきたばかりだというのに、ここで追い討ちをかけられでもしたらオーブはもう持たない。
 だが、ハルバートンが尽力を尽くしてくれているのもわかっている。
 先ほど、先行した部隊が全滅したと聞いた。
 無論、一昔前なら皆殺しにあったのかなどと考えたが、今はいくつかの軍事的な用語の意味もわかっている。
 おおよそ部隊の三割を喪失すると、組織的抵抗が不可能になるため、全滅と見なされる。壊滅が五割、殲滅が十割と見なされるが、ハルバートンの作戦はとにかく部隊を小分けにして敵を疲弊させる戦法だろう。
 カガリはハルバートンのような人を好きだし、尊敬していたが、それでももう少し突っ込んだ行動を取って欲しいと心の片隅で思ってしまうのは、カガリがまだ精神に幼さを残す少女だからだろう。
 冷静でいられないのだ。
 地球に住む人々――自国の友の事を想うと。
 だから、カガリは口を噤む事に徹していた。
 現ザフトのトップが自分と年の大して変わらない少年だろうと、自国に核を打ち込んだ者達が何を言おうと、喉下まででかかった言葉を飲み込んだ。
 今、場の流れを乱すわけにはいかないから。
 ここまでの護衛で、〝クサナギ〟とカガリは後方の〝ボアズ〟まで戻る事になっていたから。
 志は同じでも、部外者となるカガリがこの場にいるのは、ハルバートンの最大の譲歩だろうから……。
 
 「最悪、核が全て阻止された場合は〝メテオブレイカー〟を使っての分断作業に入る。これはザフトの隊に任せても良いな?」
 
 ハルバートンが視線だけをちらと向けアスランに言うと、彼は静かに頷いた。
 
 「勿論です。尽力を尽くします」
 「ん、感謝する。だがそうなる前に仕留めるのが我々の仕事だ。残っている核弾頭の一発でも直撃、あるいは間近で爆発させる事ができれば〝ユニウス・セブン〟の分割はできる。それに――」
 〈あー、もしもし、ちょっと良いデスか?〉
 
 一人、先行した〝ガーティ・ルー〟から通信モニター越しで会議に参加していたアズラエルが、いつものようにどこか人を馬鹿にした態度で口を挟んだ。
 目に見えてハルバートンの機嫌が悪くなったように見えたが、彼は吸い込んだ息を最後まで吐ききり、呼吸を整えてから横目をやる。
 
 「何か、理事」
 〈核弾頭、そっちで把握してる数にプラス二発というコトで〉
 
 一同がざわつき、アズラエルを映す小モニターに向き直る。それは即ち『私的に』『核弾頭を』『軍に内密で』用意したということだ。
 ぞくりと薄ら寒いものを覚え、これを公表したらどうなるかなどとも考えたが、それすらも揉消す事ができるだろうと思い立ち、黙りこくるしか無かった。レノア・アルスターはオーブで生まれ、オーブで育ったのだから……。
 わずかに目を細めただけのハルバートンが、その鋭い視線を向けながら
 
 「はしっこい男よ。――いつか痛い目にあうぞ」
 
 と小言を洩らす。
 
 〈やだナァ。そうならない為に知恵を絞るンでしょウ?〉
 「まあ良い。使用のタイミングはそちらに任せる。それで良いな?」
 
 問われると、アズラエルはンフといやらしい笑みを浮かべただけだった。
 ハルバートンが皆に向き直る。
 
 「核と〝メテオブレイカー〟の二段構えだ」
 
 二段構え……二段しか、無いのだ。そのたった二つが、地球の命運を握る。
 
 「……既に戦争は終結している。この戦、何がいけなかったのか、本当に悪かったのは誰なのか、それは未来を生きる人間が決めれば良い」
 
 自嘲気味に彼が言った後、静かに、それでいて力強い眼差しで皆を見据えた。
 
 「やつらは我々連合、ザフト双方に対して、代償を払えと言っている。強化人間の実験で弄ばれた命、コーディネイター化の仮定で捨てられた命……『人類の未来の為に切り捨てられた者達の未来』、その代償を血を持って償えと、そう言っているのだ」
 
 それは、人類と言う種の罪なのだろうか。だが、ハルバートンは迷う事無く、こう切り捨てた。
 
 「それで人が、軍が動く道理は無い。彼奴ら背後に、その感情すらも利用する輩が潜んでいる。だから、諸君、惑わされるな! 敵の中にはかつての友もいる事だろう。だからこそ、彼らを救うためにも、その背後の悪を討つためにも! 我々は戦わねばならない!――死ぬなよ諸君。
彼らに同情するというのなら、その彼らの為にも死ぬな! これ以上、罪を背負わせてはならない!」
 
 カガリには、友の安否を祈る事しかできなかった。
 神様、もしいらっしゃるのなら、あいつの事を助けてください。もう一度生きて再会させてください、と。
 
 
 
 〝ガーティ・ルー〟は〝ミラージュコロイド〟を使用し、高速航行を行っている。
 もうじき、戦闘が始まる。
 だが、キラの心の内は静かなものだった。
 戦う事への迷いは無く、為すべき事を為す覚悟があった。
 だが――。
 〝フリーダム〟のシートに背を預けふうと力を抜いた。
 アムロ・レイは〝アークエンジェル〟に行ってしまった。それがキラの心を少しばかり不安にさせる。
 無論本命は〝アークエンジェル〟艦隊なのだから、彼という戦力は必要だろう。
 しかし――。
 フレイの側に、いてあげて欲しかった。
 それはキラのエゴであるが、大事な事だと思っていた。
 あの子は、これからラウ・ル・クルーゼと戦わなければいけない。
 月での戦いで、ラウ・ル・クルーゼは確かにフレイの為に戦ってくれた。
 宇宙要塞〝ボアズ〟での決戦では、立場の違いから敵となりはしたが、それが戦争というものであり正義と正義のぶつかり合いだからと言い聞かせ、フレイですらも一人の兵として戦った。
 だが、この戦いに正義はあるのだろうか。
 何故、彼は……。
 正しさの在り処が、わからない。
 奪われた者達の、復讐……?
 ――キラに、それは無意味だと言う資格は無い。キラは、他者から命を奪い産まれた者なのだから。
 ……また、気負いすぎているかもしれない、と自覚したとき、ふと格納庫《ハンガー》の床を蹴りこちらに向かう赤いパイロットスーツを着た線の細い少女のシルエットを捉え、それが誰なのかすぐにわかった。
 キラはおもむろにコクピットから這い出て、無重力を飛んで来る彼女の体を抱きとめた。少女の躯体はパイロットスーツの上からでも柔らかなイメージを感じさせ、キラは思わず赤面した。コツンと互いのヘルメットが当たる。
 
 「フレイ――」
 
 名を呼んでから、何を言えば良いのか思わず迷った。
 クルーゼの事で落ち込んでいる? 悩んでいる? それとも――
 彼女のヘルメットのバイザーが開かれると、特徴的な灰色の瞳が映りこみ、キラも同じようにバイザーを開きその瞳を見つめた。
 
 「一人で悩んでた?」
 
 その明るい声色に、キラは耳を疑った。思わず「えっ」と情け無い声を漏らす。
 
 「良ーの、あんたはそういう人だってわかってるわけだし、期待してもどーせ無駄よね?」
 
 何だか酷く失礼な事を言われてる気がしたが、彼女の表情に意地悪さは感じられず、更に事実であった為キラは乾いた笑いを浮かべ視界を伏せた。
 
 「だから、わたしがしてあげる」
 
 囁くように言われた言葉の意味を知るよりも早く、少女はその瞳を薄く閉じ――
 こつん、と互いのヘルメットがぶつかると、フレイはむっと眉をしかめ、んんっとキラの顔に唇を寄せようとしたが、少女の力で宇宙用パイロットスーツのヘルメットを歪めれる道理は無く、キラがその行動の意味をようやく理解すると、気恥ずかしさで血液が沸騰していくような錯覚を覚え、顔から火が出るという感覚を理解した。
 フレイがどこか不満げな様子になり、むすっと膨れ顔になる。
 
 「……どうすんのよ」
 「ど、どうって言われても……」
 
 遅れて心臓がばくばくと騒ぎ出し、キラの肩に置かれたフレイの指先が微かに震えている事を理解した。
 少女の吐息が鼻にかかり、その甘さにキラは酔いしれ、ここからどうすべきかを模索するために脳がフル回転をし考えを巡らせたものの、どだい恋愛経験などありはしないキラにその先の答えなど見つけられず、押し固まっただけだった。
 やがて、フレイがぷいと顔を背ける。
 
 「良いわ、帰ってきたらいっぱいしてあげる」
 
 な、何を……? と聞く事はできず、ごくりと息を呑む。少女がじとりと灰色の瞳を横目で向ける。
 
 「返事」
 「う、うん……」
 「ん! それじゃ、わたしはキラに勇気をあげたから、キラも誰かにあげるんだからね!」
 
 そう言ってフレイは少しばかり頬を赤く染めながらにっと白い歯を浮かべて笑みを作り、〝ナイチンゲール〟へと飛んでいった。
 その背と小さなお尻を見送りながら、キラは自分の口元がにやけてしまっている事に気づき、誰に聞かれる事も無く「うわっ」と声を漏らした。
 しかし、と思う。
 勇気をって言われても、誰にあげれば良いのだろう……。
 キラは少女の姿が見えなくなるまで、立ち尽くしていた。
 
 
 
 この戦いで死ねれば、それが一番なのかもしれない。
 思考の海に落ちていたアスランはそう思い立ったところで、思わず声に出してしまった気がして慌てて周囲を見回し誰にも聞かれてい無いことを確認すると、安心して胸を撫で下ろした。
どれだけ綺麗ごとを並べようと、あれだけの惨劇を起こしたコーディネイターという種は嫌われているし、だからこそこういう地球の危機という事態で、その現トップたるアスランが〝ジャスティス〟で出撃して討ち死にでもすれば、ナチュラルからの見方も変わってくれるのではないかという希望的な観測をしてみても、現状が変わらないことにはどうしようも無いのだと気を入れなおす。
 それでも、イザークはきっとアスランのそういう心情を理解してくれてるから、再び〝インフィニットジャスティス〟に搭乗する許可を与えてくれたのだろう。
 この戦いは、〝プラント〟の意思ではないと、世界に示す必要があった。
 この命に代えても――。
 
 〈で、あれを砕けって? 簡単に言ってくれちゃってまあ〉
 
 やれやれとディアッカが言うと、アスランはすぐに懐かしい気持ちに襲われた。
 ただがむしゃらに戦っていたあの頃は、こんな感じだった……。希望はあると、正義の為に戦っているのだと、自由を勝ち取れるのだと、そう信じて……。
 〝血のバレンタイン〟の悲劇。それを二度と繰り返さない為に実行した〝オペレーション・ウロボロス〟。それによって引き起こされた〝エイプリル・フール・クライシス〟。
 その時から既に、〝プラント〟は被害者では無くなっていたのだ。
 一番最初は、何だったのだろう……。何がいけなかったのだろう……。生まれ出てた事? それによって他者を見下す者が現れた事? それとも、それとも……。
 ああ、そうだった。ファーストコーディネイター、ジョージ・グレン。彼の存在か……。
 だが、彼と言う『人』は紛れもなく善であり、その誕生も人の未来を、可能性を信じる者の善意によって行われたものだ。
 そして彼以外のコーディネイターもまた、親の、善意と言う名のエゴによって――。
 純粋に人の未来をではなく、そこに他者より上へというスパイスが加わり、その未来の為の種子は劇薬へと変わったのだろう。
 他者の可能性を蝕む、別の可能性の種子へと――。
 最初に平和への道を拒んだのは、コーディネイター側だったのかもしれない。差し伸べられた手を払ってしまったのは、その奢った精神だったのかも、しれない……。
 だが、自然の摂理とは見事なもので、淘汰されつつあった種子の中から、人為的に作られた種子を遥かに超える可能性を秘めたものが誕生し、今、一つの歴史が終わろうとしていた。
 コーディネイターは、消える。
 確信を持って、アスランはそう断言できた。
 ナチュラルと共に歩み、あるものは生活を共にし、あるものは子孫を残せず、コーディネイターという血は限りなく薄められ、やがてはナチュラルの一つに回帰する。
 そもそも、戦争という手段しか残されていなかったという時点で、〝プラント〟は政治で、話し合いという戦いに敗北したのだ。
 
 〈ぼやかないでディアッカ。それ以外に方法は無いでしょ〉
 
 シホの落ち着いた声が耳に心地よく、アスランはこれで母を〝プラント〟に返すという父との約束が果たされる日は永久に来ないだろうと考えていた。
 
 〈でも、その……すっごくおっきいですねこれ……〉
 
 と、通信モニターの中で計器を弄っているのはアイザックだ。
 
 〈あたりまえだ。住んでるんだぞ俺たちは。同じような場所に〉
 
 イザークがやれやれと返すと、アイザックは慌てて
 
 〈も、もちろんです。〝メテオブレイカー〟を使うんですよね〉
 
 と付け加えた。
 〝メテオブレイカー〟――三本の足の台座の中央にドリルが装着された作業機器は、小惑星の破砕などに用いられる道具だ。
 しかし、彼の問いにミハイルは否定で返す。
 
 〈それは最後の手段だな。〝ユニウス・セブン〟の破壊には、核を使う〉
 
 その言葉に、誰もが真剣な顔になる。かつて、〝ユニウス・セブン〟は核によって破壊され、それがこの戦争のきっかけとなった。
 そこに再び核を、撃つ。
 
 〈あの……良いんですかね……?〉
 
 沈痛な面持ちで言ったのは、ルナマリアだ。
 本当のところ、アスランは彼女を〝プラント〟に帰したかった。彼女の妹と共に、家族の元で平和に暮らすべきだと思っている。だが、彼女は拒み、アスランはこれが最後だという条件で仕方なしに同行を許可したのだ。
 彼女の問いに、ニコルが答えた。
 
 〈人が作ったものなら、使い方次第では人を救う事だって……ですよね〉
 
 聡明な彼は理解している。
 討つ為でなく救うために撃つのだという事を。
 それはアスランにとって救いである。
 モニターに映るシホがぶると震えた。
 
 〈〝ユニウス・セブン〟を、私たちの手で……〉
 〈そう感傷的になるな。君のその感情も、奴らの作戦の内だと考えたまえ〉
 
 ああ、本当にミハイルは頼りになる。ここにミゲルとラスティがいてくれれば……もっと良かったのに……。
 それは、決して叶わぬ願い。
 失った命は、二度と帰っては来ないのだから。
 
 「――レイ、いけるな」
 
 気持ちを入れ替え、おもむろに言った。
 戦いになる前に、伝えなければいけない事があるから。
 問われたレイは、わずかに視線を落とし〈……はい〉とだけ短く告げた。アスランはどこがはいだ、と苦笑する。
 
 「この戦いが終わったら、お前は地球へ行け」
 
 だから、アスランから告げられた言葉はレイの意表をつく物であり、彼が目をぱちくりさせて〈は?〉と答えればもうこちらのものである。
 
 「アルスターの女に頼まれたよ。君の遺伝子を調べさせてもらったが、お前とアルスターの血が繋がっているのは確からしい」
 
 こちらの都合も考えず、無理やり押しかけて来てレイを貰うと言い出した時は流石に笑ったが、彼女の血縁を仄めかされそれが事実であると明らかになれば、アスランからしてもその方がレイの為だと思い当たるには十分すぎた。
 血の繋がった家族を、やれるのだから。
 
 「お前はアルスター家になるんだ……」
 
 もう一度念を推して言うと、レイはわずかな逡巡の後、もう一度短く、今度は少しばかり気恥ずかしさと寂しさ、わずかな嬉しさを込めたように〈……はい〉と答えた。
 
 「だが、どうもあの女は過保護な気質があるようだからな? 弄ばれないように気をつけてくれ」
 
 と、ここにはいないあの生意気な少女を皮肉るのも忘れなかった。
 
 
 
 「来たな。各機はミサイルの迎撃に当たれ! モビルスーツ隊は私と〝ガンダム〟が面倒を見る!」
 
 最大望遠でもまだぼやけているが、およそ四隻ほどの艦影。情報通りだ。しかし――
 
 「少ないな」
 
 とぼやき、想定していたよりもマティスの根回しとやらは確かなものだったらしいと評価を改めた。
 
 〈聞こえているかクルーゼ。約束通り、ここから先は好きにやらせてもらうぞ?〉
 
 と、アッシュ・グレイが癪に障る声色で言う。
 
 「好きにするが良いと、言ったはずだ。私に君を縛る権利は無いよ」
 
 内心で軽蔑しながらも滑らかに言うと、アッシュは〈ホッ!〉と奇声をあげ口元をいやらしく歪めた。
 
 〈それでこそラウ・ル・クルーゼだ。『仮面の男』だな?〉
 
 通信が切れると、〝リジェネレイト〟は〝ダガー〟と〝ザク〟を引き連れて進軍していく。
 その背中に、思い切り唾を吐きつけてやりたかった。
 
 
 
 〈良かったのですか?〉
 「なぁーにがだ」
 
 部下の〝ダガー〟からの通信に、アッシュはひくりと片眉だけを上げて答える。
 
 〈ラウ・ル・クルーゼって、あの男、たぶん裏切りますよ〉
 「ハッ! そりゃそうだ!」
 
 そんな事は言われなくてもわかっている。クルーゼは自分とは違うのだ。故に、アッシュは自分以外の誰も信用していない。
 違う者など信用できるか!
 
 「あのクルーゼとかいう男はな、行き遅れのマティスの誘いを蹴った事からホモなんじゃあないかという噂もあるがそうじゃない。やつはな、もう男じゃあ無いんだよ! 年が行き過ぎていてなあ!」
 〈関係あるのですか?〉
 「あるとも! 男でない男など信用できるものか。ヤツが誰のクローンなのかも、俺は聞かされていないのだぞ?」
 
 半分はアッシュの妄想と愚痴に近いものだったが、概ね皆は同意したようで彼等はそれ以上口を挟もうとしなかった。
 
 「同じ苦しみを持つ同胞だ、仲間だなどと甘い事を言って掻き集めた癖に、自分はまだ隠し事をしているっていうんだからなァ!」
 
 その二枚舌っぷりが気に入らない。よりにもよってこの俺を騙そうとするとは大した度胸では無いか。
 
 〈後ろから撃たないのですか?〉
 「それは戦場を引っ掻き回した後でだな? ヤツの目論見とやらを台無しにしてから、怨み節を聞きながら腸を掻っ捌いてやるのが良ィーのだと思うのだよ。どうだ?」
 
 答えは、返ってこなかった。
 だがアッシュは言いたいことを言い終えたので、少しばかり上機嫌になってふふんと鼻を鳴らした。
 どう滅茶苦茶にしてやろうか、どう殺してやろうか。
 楽しみで仕方が無かった。
 
 
 
 〈〝ガーティ・ルー〟だけ先行して真横からの奇襲だっけ? 早いねぇあの船〉
 
 続々とモビルスーツ隊が出撃していく〝アークエンジェル〟モビルスーツデッキで、アムロはムウの軽口を通信越しで聞かされていた。
 
 〈〝ミノフスキークラフト〟って凄いもんなのか?〉
 「専門外だよ、その辺りは」
 〈へぇ? お前さん一番詳しいだろ〉
 「馬鹿言わないでくれ。お前は〝アークエンジェル〟を作れるのか?」
 〈そ、そりゃあ……無理だわな〉
 「全く……」
 
 相変わらずの様子に、アムロはやれやれと首を振った。それを見て満足したのか、ムウは更にくくと嫌らしく口元を歪めにたにたとした顔を作る。
 
 「……何だ?」
 
 ムウのその表情を好きではなかったので、あからさまに不機嫌な声を意識してやると、彼は懲りた様子も無く続けた。
 
 〈いやなに、お前さんに死なれちまうのは困るんだってことをだな、伝えておこうと思っただけさ〉
 
 死……。その言葉は重く、心を縛り付ける。だが、ほんの少しだけれども、アムロは――
 かつての仲間、友、敵、一切の思い出が過ぎ去る。天を仰ぎ、何かを想うわけでもなく、ただ漠然とした真っ白な思考に支配され、アムロはおもむろに口を開いた。
 
 「なあムウ」
 〈うん?〉
 「俺は、許されたと思うか……?」
 
 何故、自分でもこんな事を口走ったのかわからない。
 ただ、アムロは許して欲しかった。そんな感情が今、生まれたのだ。
 ムウが少しばかり優しい声色になる。
 
 〈……誰にだよ?〉
 「わからない」
 
 俺は誰に許されたいのだろう。ララァ?――シャアか? それとももっとたくさんの命か……。父だろうか、母だろうか、――それとも、それとも……。
 
 〈ああ、良いぜ。俺はお前を許す〉
 
 思考の海から引き戻され、アムロは思わずムウを見返した。
 
 〈何なら代弁してやろうか。キラもフレイも、トールもカナードも、俺の知ってるやつはみーんなお前の事を許すって言ってるぜ。……たぶんな!〉
 
 その言い草は無神経で、軽薄で、薄っぺらで……だからこそと言うべきか、重くなりかけていたアムロの心を僅かに軽くしてくれた。そして浮き上がり生じた心の狭間から、僅かに希望の光が垣間見え、アムロは言った。
 
 「なあ、ムウ」
 〈ん?〉
 「戦争が終わったらさ、モビルスーツはどうなっていくと思う?」
 〈んあ? そりゃ……数は減るだろうな? 軍縮ってヤツ〉
 「ああ。でもそれだけじゃ無い。モビルスーツは小型化を余儀なくされていくはずだ。〝ナイチンゲール〟の維持費がいくらだか知ってるか? あんな贅沢をできるのは今だけさ。アズラエルがそれに気づいているはわからないが……」
 〈へーえ! そいつをお前さんが作る?〉
 「ン? さあな。でも、やってみるのも良いかもしれない」
 〈フーン?〉
 「誰にも言うなよ?」
 〈俺、口は堅い方〉
 
 にへらとしながら言うムウの様子がおかしく、くくとアムロは苦笑した。漠然とした、『生きよう』という想いを胸に抱きながら――。
 
 
 
 既に〝アークエンジェル〟艦隊は戦闘を始めているようで、いくつもの火球があがり、それが核なのだと知り未だ健在の〝ユニウス・セブン〟を見れば、敵は今まで全ての攻撃を防ぎきったのだと判断する他無い。
 それだけの実力のある、敵――。
 大丈夫、やれる、きっと大丈夫。フレイは呪文のように反芻し、乾いてきた唇を舐めた。
 きっと、うまくいく。みんな助かる、助ける……。
 出撃前に、ラクスは言った。
 
 『無事に帰ってくるのを待っています。でも、もしもわたくしを置いていってしまおうというのならこちらから会いに行きますので、そのおつもりで』
 
 馬鹿な子だ、と思った。
 それはつまり――
 だが、彼女の心情を知っているから、フレイは『うん、わかった』とだけ優しく言った。
 ぱっとモニターの端にミリアリアの顔が映りこむ。
 
 〈フレイ、敵は電波霍乱をしてるから、通信が届きにくくなってるみたい。〝ガーティ・ルー〟の指揮範囲は〝ドミニオン〟よりも狭いから気をつけて!〉
 
 できるものか、と心の中で思いながら、「了解!」と元気良く告げ、フレイは前を見た。
 
 「フレイ・アルスター、〝ナイチンゲール〟行きます!」
 
 星空に出れば、すぐに〝スターゲイザー〟が彼女につき、勇気を与えてくれる。それが、彼女の力となる。
 
 
 
 「〝ナイチンゲール〟でました!」
 
 ミリアリアが報告すると、ナタルは「ん!」と答え
 
 「艦砲射撃用意! 敵を近寄らせるな!」
 
 と激を飛ばした。
 副長兼砲術士のメリオルが慣れた手つきでパネルを操作し、ニニ五センチニ連装高エネルギー収束火線砲、〝ゴッドフリート〟MK七一がせり出す。
 
 「敵、高濃度ミノフスキー粒子散布!」
 
 メリオルが告げると、アズラエルは「ああも簡単に……」とぼやいてから、続ける。
 
 「目視による確認と、レーザー回線に切り替えてください。対応するにはそれしかありません」
 「了解しました」
 
 メリオルが静かに返したのを確認してから、ナタルはふうとキャプテンシートに座りなおした。
 ちらと横目でいつもの様子を崩さないアズラエルを見据える。
 
 「結局、最後まで居座りましたね」
 
 歯に衣着せず、思い切り皮肉ってやった。
 ナタルはこの男が嫌いだ。第六感が告げているのだ。決して気を許すなと、信用するなと。
 恐らくこの男は、フレイだろうとその時が来れば容赦なく切り捨てる。
 ……軍人には、時として『決断』しなければならないと、そう信じてきた。今でもそうだ。だから、『立派な軍人』になる為には非情で無ければといつしか言い聞かせ、それが染み入りナタル・バジルールという人となりを作り上げてきた。
 今にして思う。
 ……私は軍人に向いていないのかもしれない、と。
 結局、軍人の家系だから軍人になろうとしただけの、主体性の無い女でしかないのだ。自分で自分を殺し、それが正しい生き方だと思い込み、自らを檻に閉じ込め、それが檻だとすら気づかずに――。
 だが、この男は違う。
 相手が何を考え、それがどのような結果になるかを理解した上で、道徳や人道といった概ね正しい理屈を『効率』や『利益』という言葉で塗り潰し、他者の人生を食い潰していく、
 本物の魔物である。
 この男のする善行は、善意から来るものではなく打算と計算から来るものだ。
 実に頭の良いやり方だと思う。
 アズラエル社は、そうする事で世界的にも支持を集めているのだから。
 天災で甚大な被害にあった大きな都市には真っ先に支援を行うが、末端の村々に支援が行き届かない事を由としている。そんな小さな辺境を助けた所で、大衆の民意とやらは得られないから。善行が報道されなければ、何の意味も無いから。
 だが、それでも救われた者達からすれば、紛れもない善。
 ナタルは疲れたのだ。人を救うとはどういう事か、それを考える事に。
 善と悪の境目とは何なのか、軍人とは何なのか……。その答えは、見つからず、この男の善意の無い善行を目の当たりにし、心が折れてしまったのだ。
 そんなナタルの悩みなど知る由も無く、アズラエルはいつもの人を馬鹿にした様子でふふんと笑った。
 
 「良いじゃアないでスか」
 
 彼のそういう口調が嫌になる。正義の限界を突きつけられているようで……。
 
 「……せっかく、特等席で見続けてきたんです。最後までいさせてください」
 
 どこか気恥ずかしそうに言うその男の目線は、じっと彼方を見据えていた。
 
 
 
 何だろう、何かがざわついている……。
 まとわりつくような悪寒がざわざわと波立ち、その凶悪なプレッシャーを知覚した時、フレイの脳波に反応して〝ナイチンゲール〟が回避運動を取った。
 同時に、四方からの攻撃。
 
 「敵、もう来た!?――キラ、撃って!」
 
 やや後方に位置する〝フリーダム〟がすぐに嵐のような援護射撃を加えていく。
 〝ハイペリオン〟がスラスターを全開にさせ一気に光の先へと立ち向かう。
 
 〈強いな……!〉
 
 と漏れ聞こえたカナードの声が、フレイを不安にさせた。
 ついさっきまで反応は無かったはずだ……。なら、〝ミラージュコロイド〟? 気づかなかったの……?
 AIが敵機を、三機の〝ザクファントム〟と二機の〝ガンバレルダガー〟だと識別し、五つの悪寒がアメーバのように広がり視界を覆いつくした時、〝ザク〟から放たれたミサイルと〝ダガー〟から射出された〝ガンバレル〟が〝ファンネル〟そのものだと気づき、戦慄した。
 こいつら、本物だ……!
 彼女が直感的に感じた『本物』という表現は正しい。紛れも無く彼らは、地球連合が提唱する『真のコーディネイター』や『SEEDを持つ者』、『ニュータイプ』と呼ばれる者たちであり、そこに人為的な『何か』は加えられていないからだ。
 
 「〝ファンネル〟、あいつを!」
 
 咄嗟に〝ドラグーン〟を放出し、触手のように群がるミサイルの雨に狙いを定める。
 が、〝フリーダム〟の放火と〝ドラグーン〟の嵐をミサイル群は意思を持ったようにしてかいくぐり、遥か後方の〝ガーティ・ルー〟に針路を取った。
 しまったと思う間も無く、敵〝ダガー〟が懐に潜り込み、その手際の良さにぞっとした。
 AIが反応し、翼部バーニアを全開にして煌かせると、その爆発的な加速力で距離を開けていく。敵が動きを止めた瞬間、フレイは腹部陽電子砲のトリガーを引いた。それとほぼ同時に〝ダガー〟がシールドを捨てる。正に刹那のタイミングだった。
ただ捨てたのではない、一度身を隠すそぶりをした上で、視界から消失。それは 神業に近く、従来のAIではシールドを敵機だと誤認したまま攻撃を加えてしまうだろう。
 だが、〝ナイチンゲール〟は違った。学習型AIと呼ぶには余りにも完成されすぎたその『知能』、あるいは『知性』と呼ぶべき『人格』は、既に敵の力量を正確に把握し、〝ダガー〟の取る行動を予測していたのだ。
 胸部から放たれた拡散する陽電子の嵐は、正確に〝ダガー〟を目掛け降り注ぎ、一機の強敵を鉄くずへと変えた。
 ふいに、まとわり突く思念が怨念となってフレイの心に入り込んだ。
 それは吐き気を催す思い出。
 今、ここにいる五人は、『同じ』なんだ……。精神も、魂も、能力も、性格も、年齢も……残された寿命も。
 知らない誰かの、複製品。
 どくんと心臓が跳ね上がる。
 普通の人が羨ましくて仕方が無いんだ。妬ましくて仕方が無いんだ……。
 これが、敵……。
 ラウが集めた、敵――。
 後方に見える点となった〝ガーティ・ルー〟がわずかに輝くと、艦首から半透明な光の膜のようなものが放たれ、それがミサイル群を跳ね除けた。
 
 「なに、光の膜の!? あぐっ」
 
 重い衝撃に弾き飛ばされ、慌ててアームレイカーを操作し、姿勢を制御する。モニター一杯に広がった〝ザク〟が、ビームトマホーク振りかぶる瞬間、〝ソードカラミティ〟から放たれた横薙ぎの斬撃が〝ザク〟の胴体を両断した。
 そのまま〝ソードカラミティ〟は〝ファンネルミサイル〟に追われながら、巧みな機動で残った敵機への応射もかかさない。
 
 「〝ファンネル〟!」
 
 連続して放たれる網目の光条が、〝ソードカラミティ〟の後方から迫るミサイルを絡めとっていく。
 
 「〝ガーティ・ルー〟、無事なの……?」
 
 不安を口にして、その発した感情にフレイは支配されていった。
 
 
 
 「ほ、ほら、やれたじゃアないですか! 〝Iフィールド〟は質量をあげればバリアーにもなるんだって言ったの、正しかったでショウ!?」
 「だからっ! そういう事は戦闘の前に言っていただきたい!」
 
 表情を引き攣らせながらシートにしがみつくアズラエルの情けない姿を視界の端に捉えながら、ナタルは嫌な汗を背びっしりとかいていた。
 
 「弾幕薄いぞ! 〝ガーティ・ルー〟がここで囮をしてみせるのだと言う事を忘れるな!」
 
 凛として指示を飛ばしながらも、小声でメリオルに「〝ミラージュコロイド〟の反応は無かったんだな?」
 と問うのも忘れない。
 
 「こちらでは……」
 
 メリオルは表情を曇らせた。彼女の能力は疑っていない。と言う事は……。
 
 「……ウーン、ウチの知らない方法でしょうかネェ?」
 
 アズラエルの一言一句、一挙一動が癪に障ったが、緊迫した様子のメリオルがナタルの思考を現実に引き戻す。
 
 「艦長、〝ガーティ・ルー〟の推力が落ちています、このままでは航行不能に……」
 「げっ……」
 
 と発したのはアズラエルだ。
 
 「あー、ですよネェ……やっぱり無理があったん――」
 
 今度こそナタルはキャプテンシートの肘掛に向けて思い切り拳振り下ろし、「理事!」と怒鳴った。
 回避策はいくらでもあったのだ。〝ガーティ・ルー〟はあんな手品のような真似をしなくても、至近距離まで迫った〝ドラグーン〟に偽の情報を流し、一時的に無力化するくらいの事はできる。試作段階の〝アンチ・ドラグーン・システム〟。だというのに、この男は無理やり……。
 
 「い、イヤァ、ほら、試験艦ってそういうモン……」
 「我々はそれに命を――」
 「ナタ、後にして!」
 
 ピシャリとメリオルから叱りが飛び、ナタルは慌てて視界を戻した。
 
 「発進? 早くないですか?」
 
 〝アカツキ〟のコクピットで、シンは自機に装備が装着されていくのを確認しながら眉をしかめていた。
 予定では、もっと後、艦隊と合流してからの予定だったはずだが……。
 
 〈ごめんね、ちょっと艦の方がトラブっちゃったみたいで――〉
 
 通信先のミリアリアが申し訳無さそうに言った。
 
 「はあ、そうですか……。出ますけど、状況は?」
 
 シールドとビームライフル、大気圏内航空戦闘装備〝オオワシ〟を宇宙空間用に改良した試作型装備〝ナナジン〟を装備する。
 〝ナナジン〟――七福神の名を冠したそれは、正にオーブでも信仰されている福をもたらす七柱の神のごとく――
 とご丁寧にモニターの端っこにAIが説明文を表示させてくれているのだが、シンは本当の由来を知っていた。カガリ本人が直接(愚痴のようなものだったが)フレイ達に言っていたので良く覚えてる。
 曰く、完成間近までその名称が難航し、戦局から判断してこれがこの戦争の最後を飾るかもしれないオーブの傑作機〝アカツキ〟の専用兵装なのだから、開発者、出資者、役人や落ち目の政治家、果ては映画監督まで入り乱れて名付け親の争奪戦が始まり、
〝ツクヨミ〟や〝ライデン〟、〝アマテラス〟などいくつもの候補が挙がりそれぞれが一歩も引かない論争を繰り広げた結果、その様子を見て苛立ったカガリが、『五月蝿いぞお前ら! そんな事ばかり言ってると、こいつを名無しで通すからな!!』と大声で怒鳴ったそうだ。
その事を振り返ったカガリは、少しあの時噛んだかもしれない、と付け加えている。そんな事があって、誰かが『七神《ナナジン》!? し、七福神ですか!?』と感激し、皆が流石はアスハ家のご子息だなどと持て囃した結果が、これなのだとか。
 が、別に外見とかは変わらないし宇宙用〝オオワシ〟とかで良いじゃんか……と思うくらいには、シンは冷静であった。
 
 〈苦戦しているみたい。もうじき〝アークエンジェル〟艦隊も攻略を開始するから、それまで何とか持ちこたえて〉
 
 と告げる声に混じって、ナタルがアズラエルに向けて何かを怒鳴っている声が漏れ聞こえ、シンはどこかげんなりしながらも無表情に努めた。
 
 「時間稼げば良いって事ですよね?」
 〈うん、お願いね〉
 「わかりました。やってみます」
 
 通信が切れると、直ぐに別の小モニターが映り込んだ。
 
 〈どーせアズラエルのオジサンがだっせー事やったんだろぉ?〉
 
 アウルである。
 
 「そうみたい。艦長の怒鳴り声が聞こえた」
 〈アハハ! じゃあそれの尻拭いさせられんだ!〉
 「何やってるんだか……」
 〈まったく!〉
 
 アウルがけたけたと笑い、シンも釣られて苦笑を洩らした。
 
 〈〝アカツキ〟良いぞー!〉
 
 外部マイクがマードックの声を捉え、シンはふっと短く息を吐き気合を入れた。
 
 「じゃ、先に行ってる」
 〈りょーかい。すぐに行くかんね〉
 
 通信が切れ、モニターの端でひらひらと手を振る〝ガイア〟の姿を捉え、シンはくすぐったい気持ちになりながらも〝アカツキ〟をカタパルトへと進ませた。
 不思議な気持ちだった。戦争に巻き込まれたのだ。人を殺すのだ。もっと自分の心が変わっていくものだと思っていた。変わらざるを得ないのだと、そう思っていた。
 不思議な……本当に不思議な感覚だった。
 父と母を、故郷を奪われ、変わりつつあった己の心が、戦争が起こる前へと戻りつつあるのだ。こんな軍艦に乗る事になったというのに、何だか、とても暖かい。
 マユも少しずつ、笑顔を見せるようになってきていた。ラクスに対して本気で怒ったり、笑ったり、そういう仕草を、少しずつだけれども……。
 ……戻れるのかもしれない。あの日々に……。
 それは、淡い希望なのかもしれない。父と母はもう帰ってこないのだから。
 それでも、シンもマユも、いくつもの友を得、前に進んでいる。
 無性に、祈りたくなった。
 誰に対して?
 わからない。
 強いて言うのならば、今まで出会ってきた全ての人に……。
 
 〈針路クリア! 〝アカツキ〟発進どうぞ!〉
 「了解! シン・アスカ、〝アカツキ〟行きます!」
 
 一気に加速し、〝アカツキ〟が虚空へと投げ出される。
 怨みも恐怖も無い。生きてみんなと笑いあう為に、戦おう。
 
 
 
 〝ガーティ・ルー〟の不調を聞けば、キラは一機でも敵を落とすことに集中していた。
 〝ドムトルーパー〟がMA‐X八四八HD強化型ビームサーベル抜き去れば、MGX‐二二三五カリドゥス・複相ビーム砲で迎撃し、〈フレイ、後ろのを!〉と叫べば彼女はすぐに応え、〝ナイチンゲール〟は拡散陽電子砲をばらまいた。
 だが、敵の数は多く、それでいてその腕前は舌を巻くほど見事なものだった。
 続々と敵の援軍が終結していく。その数と質の暴力にキラ達は疲弊してき、敵の攻撃が〝ガーティ・ルー〟へと延びつつあったその時、艦後方から無数の艦砲射撃が敵部隊目掛け降り注ぎ、キラは目を瞬いた。
 
 〈援軍!? 聞いてない!?〉
 
 とフレイ。
 〝ガーティ・ルー〟後方に見える艦影は七。アガメムノン級が一にネルソン級が三、ドレイク級が三であり、全ての艦から一斉に〝ダガー〟タイプ、および少数の〝ウィンダム〟が出撃し、キラ達の支援を開始する。
 それらが発する識別信号がユーラシア連邦のものだと気づいた時、モニターに見知った男が頭頂部を煌かせ白い歯を見せ豪快に笑った。
 
 〈間に合ったか、〝ドミニオン〟隊諸君!〉
 〈うわっ……〉
 
 と、また露骨にフレイが嫌悪の声を漏らし、トールが〈お、おお……〉と喜ぶべきかがっかりすべきかわからないといった様子で感嘆すると、最後にカナードが盛大に舌打ちした。
 
 〈我等ユーラシア連邦一同は、諸君等に多大な恩がある! 同時に、隕石落としなどと言う暴挙を見過ごすわけにはいかない!〉
 「ガルシアさん……!」
 
 キラだけが感極まって、彼をじっと見つめる。ガルシアは優しく微笑んだ。
 
 〈言ったはずだ。どこへだって駆けつけると……〉
 「はい!」
 
 そうだとも。これまでの出会いに、無駄な事など何一つ無かった。ありとあらゆる出会いがここで生きている……!
 
 
 
 貴艦を援護する、との一報と同時に七隻もの艦隊が〝ガーティ・ルー〟を取り囲み、その様子は正に渡りに船であった。
 
 「へぇぇ……〝アルテミス〟からでスよネ? 間に合ったんですかァ……」
 「ピスティス少尉、艦の状況はどうか」
 
 不愉快なので無視してナタルは事を進めた。
 
 「もうじきです。既に六十パーセントの出力でなら航行可能です」
 「オヤ? 知らないモビルスーツ。どこのでショ? 〝ハイペリオン〟に似てますネ?」
 「遅いな……急がせろと伝えてくれ」
 「了解」
 「あのアガメムノン級、少し被弾してマスね?」
 
 被弾……? 思わず釣られ、ナタルはメリオルに「映せるか?」と聞くと、直ぐにアガメムノン級〝オルテギュア〟の艦影が拡大され、左舷にビームによる損傷後を見つけた。
 
 「フーン、つまり彼らは敵の襲撃を退けてここにやってきたト?」
 
 ……この男に考えを代弁されるのは不愉快だが、そういう事になる。しかしそれは……。
 
 「ナルホド。パイロットの腕前は中々のようでスが、疲弊した兵ではどこまで戦力になるか……」
 
 ……今一番邪魔なのはお前だという言葉を飲み込――
 
 「今一番邪魔なのは貴方です、理事」
 
 飲み込めなかった。
 
 「いやホラ、僕ゲストみたいなモノですから」
 
 が、一切気にした様子なくヘラヘラと言い切るアズラエルは、やはり大物なのだ。こういうふざけたふてぶてしいやつが勝ちあがっていくのだ。嫌な世の中だ。
 すると、おほん、とメリオルが咳払いをし、ナタルを咎めた。彼女の視線が真面目に戦えと告げている。
 私は真面目にやろうとしてるのに、この男が……とまでは流石に口に出せない。
 
 「バスカーク伍長。支援を感謝すると……こちらの状況も伝えろ」
 「了解」
 
 さて、後は本隊がどうなるか……。
 ハルバートン達の手腕を信じるしかなかった。
 
 
 
 すぐ隣にいた〝ダガー〟がビームの直撃を受け、爆発していく。
 はっとして回避運動を取らせ、じぐざくに移動しながらキラは攻撃の主である敵の〝ストライクダガー〟に狙いを定め、ビームライフルのトリガーを引く。
 〝ストライクダガー〟はシールドを構え一気に加速し距離を詰めてくる。一度距離を取りたいところだが、フレイはどんどん先に進んでしまうため、キラはやむを得ず武器をビームサーベルに持ち変えてフットペダルを思い切り踏み込んだ。
 みるみるうちに距離が狭まり、二機のモビルスーツが交差する刹那、キラはサーベルを振りかぶるタイミングでMGX‐二二三五カリドゥス・複相ビーム砲を低出力で拡散させ、目くらましとして使ったつもりであったが、思っていたよりも威力が高くそのまま〝ストライクダガー〟をずたぼろに引き裂いた。
 
 「フレイは――!?」
 
 慌てて視界をめぐらす。
 彼女の赤い機影はすぐにわかった。
 キラはビームの燃料にまだ余裕があることを確認しつつフットペダルを踏み込む。
 〝フリーダム〟は加速し、それを易々と引き離そうとする〝ナイチンゲール〟の加速力は見事である。
 同時に遥か遠方で巨大な幾十にも及ぶ巨大な火球があがると、フレイは怯えたような声が漏れ聞こえた。
 
 〈核、止められたの!?〉
 
 ならば、〝メテオブレイカー〟で粉砕しなければならない。だが、そのものを破壊されてしまっては元も子もない、まずは敵を――
 
 〈キラ!〉
 
 〝ナイチンゲール〟が〝フリーダム〟を蹴り飛ばすとぐわんと視界が揺れ、体がシートに叩き付けられると、先ほどまでいた場所を無数のビームが降り注いだ。
 ――敵に気づかなかった!?
 己の迂闊さを呪いながら、フレイのちょっとした乱暴さで受けた背中の痛みで顔を歪める。〝ナイチンゲール〟が加速し回避運動を取りながらデブリに向けてメガビームライフルを撃ち放った。
 圧縮された粒子が濁流となって放たれ、小隕石を貫き破壊すると、巨大な影がぬらりと姿を現す。
 
 〈うはははは、また会えたぁー!!〉
 〈あのうっざいヤツ!〉
 
 この不愉快な声を忘れるものか。
 
 「〝リジェネレイト〟だ! フレイ、気をつけて!」
 
 〝ナイチンゲール〟が〝ドラグーン〟をばら撒きながら応戦すると、〝リジェネレイト〟はアクロバティックな飛行で光条を避けきっていく。
 
 〈ハッ! ジョージ・アルスターの糞餓鬼だろぉう? 会った事があるぞぉ、ジョージにはァ!〉
 〈な、に……!〉
 「見え透いたやり方を……!」
 
 キラはEQFU‐三Xスーパードラグーン・機動兵装ウイングを全基放ち、〝リジェネレイト〟に狙いを定めるが、先ほどと同じようにして急加速と減速を繰り返しながら時折こちらへの威嚇射撃もこなしてみせるのは見事な腕前だった。
 確かに、強い……!
 〝リジェネレイト〟を支援するように、五機の〝ガンバレルダガー〟が散開した。
 
 「これだけの数がいた――? フレイ、下がって!」
 
 瞬間、目を焼く閃光が視界に広がり、反射的にシールドを持つ左腕を上げると、すぐに強い衝撃が機体を襲った。
 破壊された耐ビームコーティングの施されたシールドを捨て、索敵。〝ダガー〟隊の更に後方で三機の〝ガナーザク〟が〝フリーダム〟を狙っている。
 〝ダガー〟の背中のバックパックが射出され、移動砲台〝ガンバレル〟が〝フリーダム〟を取り囲む。
 慌ててペダルを踏み込み機体に逆噴射をかけると同時に、〝フリーダム〟後方からビームの援護射撃が降り注ぎ、それらの一発が〝ガンバレルダガー〟に直撃しやがて爆発した。
 
 〈前へ出すぎだ!〉
 「カナード!」
 
 〝ハイペリオン〟が先陣を切り、六機の連合の〝ウィンダム〟部隊がそれに続く。
 敵の〝ダガー〟隊が陣形を組み、〝ウィンダム〟部隊と激突した。
 キラは援護射撃を加えながら、〝ナイチンゲール〟が後退し〝ウィンダム〟と合流したのを見つけた時は小躍りするほど嬉しかったが、それとは別の事にキラは気づいていた。
 ――〝リジェネレイト〟が、いない……?
 通信が入る。
 
 〈何やってんのよ! あいつを見失っちゃったじゃない!〉
 
 やや遅れて、トールの〝ソードカラミティ〟が合流し〝フリーダム〟の前を固める。
 
 〈キラ、無事か!〉
 
 ぞくり、と冷たいものが背筋を走る。
 あの男は、仲間を置いて逃げるような男ではない。
 あの男は――
 
 「後退してください! 敵が――」
 
 だが、キラの忠告は遅かった。
 カナードの〝ハイペリオン〟こそ瞬時に反応したものの、〝ウィンダム〟隊は遅れ、何も無い空間から撃ち放たれた強大な粒子の渦に敵〝ダガー〟隊諸共全機が飲み込まれ、消滅した。
 狂気に満ちた声が、漏れ聞こえる。
 
 〈ハハハハハー! ローエングリンランチャーの調子は良いじゃないか!〉
 
 バチバチとスパークを上げ、全長四十メートルを超える巨大な砲台が姿を現した。
 
 〈あいつ、味方ごと……! カナードは!?〉
 
 トールが言うと、モノフェーズ光波防御シールド〝アルミューレ・リュミエール〟を発動させた〝ハイペリオン〟が、粉煙を掻き分けビームマシンガンをローエングリンランチャーと言うらしい砲台に叩き込んでいく。
 たちまち穴だらけにされた砲台を蹴り飛ばし、〝リジェネレイト〟が飛んだ。
 余りにも異形な精神を持つその男、アッシュ・グレイ。
 もはや、憎いとも、怖いとも思えなかった。
 ただただ人外の精神に理解が及ばず、漠然としたまま軽蔑した。
 こうも人は人に残酷になれるのか……!
 それが世界の真理なのかもしれない。どれだけ人が平和の道を探求しようと、たった一人の外道がその道を歪めてしまう。
 全ての敵が、賢く聡明なわけではない。誰もが立ちはだかる壁だという事はありえない。目を背けたくなるような、悪とすらも形容しがたいそれは、確かに存在するのだ。今、目の前に。
 
 〈〝ファンネル〟!〉
 
 〝ナイチンゲール〟の翼から十基の移動砲台が放たれ、モビルスーツの残骸の合間を縫うようにして〝リジェネレイト〟を取り囲む。
 
 〈仲間ごとやるなんて!〉
 
 フレイが苛立ったように吐き捨てると、〝リジェネレイト〟は〝ドラグーン〟から放たれた光条を舞うようにして避け切る。
 死角から〝ハイペリオン〟がビームナイフを構え迫る。〝リジェネレイト〟は両の足からビームの刃を煌かせ振るったが、〝ハイペリオン〟はビームマシンガンをばらまきながら無理やり懐に潜り込み、そのままナイフを胸部に突き立てた。
 
 〈失敗作の小僧が!〉
 
 〝リジェネレイト〟はその巨体で〝ハイペリオン〟を羽交い絞めにして抑え込む。
 〈このまま潰してやろうか小僧ォー!〉
 〈撃て、キラ!〉
 
 カナードが言うと、キラは直ぐ反応した。
 二丁のMA‐M二一KF高エネルギービームライフルを直列で繋ぎ合わせ、それはビームの圧縮を二乗させた強力な『ヴェスバー』となる。
 〝フリーダム〟から放たれた巨大なビームの球体が周囲の残骸を消滅させながら虚空を駆け、〝リジェネレイト〟と〝ハイペリオン〟を飲み込んだ。
 やがて爆発と閃光があがると、モノフェーズ光波防御シールドを前面に集中展開させた〝ハイペリオン〟が離脱し、周囲の警戒を強める。
 
 〈くそ、直前で逃げられた!〉
 
 カナードが悔しそうな声をあげ、そのまま後退する〝ハイペリオン〟を支援するように〝ソードカラミティ〟が前に出た。
 〈機体は……? お前の方〉
 
 〈シールドを展開させた。まだいけるはずだ〉
 
 トールがひゅっと口笛を吹き、つい今しがた見せた彼のちょっとした神業を賞賛した。
 
 〈このまま〝ユニウス・セブン〟を目指す。アルスター、行けるな!〉
 〈な、なんでわたしにだけ……〉
 〈一番危なっかしいからだろう!〉
 
 不満げなフレイをぴしゃりと切り捨てれるカナードは流石だった。
 
 
 
 「そこ!」
 
 連携で攻める二機の〝グフ〟をビームで串刺し、再び戦場に穴が開いた。すかさずアムロはフットペダルを踏み込み〝デュエル〟を加速させると、隊列から遅れている〝ブルデュエル〟パイロットのミューディの〈ちょ、ちょっと大尉さん!〉という呼び声に答えてる暇も無く次の〝ザク〟をバズーカで撃墜する。
 それでも敵の勢いは止まらず、〝デュエル〟に群がろうと迫り来るが
 
 〈行ってください、大尉! ここは我々が!〉
 
 と強化タイプである〝ロッソイージス〟のエミリオが躍り出れば、アムロは
 
 「すまない!」
 
 と告げて〝ユニウス・セブン〟を目指すことが可能になる。モビルスーツ一機であの大地をどうにかできるとは思ってい無い。だから、〝ユニウス・セブン〟を守るようにして陣取る〝ゴンドワナ〟をぶつけてやれば少しはマシになるんじゃないかと考えるのがアムロであり、艦体を誘爆させてでも止めてみせるという決意の現れである。
 すぐに〝デュエル〟に追いついた〝エグザス〟が並走し、通信が入る。
 
 〈お前だけに良い格好させてらんないっしょ!〉
 〈遅れていた艦隊も何とか到着したようだ。――ついてきてるな!?〉
 
 モーガンが言うと、やや遅れて〝カラミティ〟、〝レイダー〟、〝フォビドゥン〟が姿を現し
 
 〈だから、待てっつってんだろうがおっさん!〉
 〈この糞親父ども!〉
 〈じじいー〉
 
 と苦言も入れれば、百人力であった。
 
 
 
 一面を覆いつくすモビルスーツの大群。だが、〝デスティニー〟の前では無力だった。
 モビルスーツ戦という前提にすら辿り着かせないこの機体は、全方位に〝ミラージュコロイド〟を展開し、同時に十二機の〝デスティニーインパルス〟――モビルスーツ型の〝ドラグーン〟を、デブリあるいは背景、もしくは敵の機体に見せかけ、一方的に連合の部隊を殲滅していく。
 だが、欠点もある。
 この〝ミラージュコロイド〟は、〝デスティニー〟を中心にして、データを送信し続けなければならない――即ち、コンピュータウイルスの類なのだ。
 いくら時間が無いといっても、ハルバートンが無策で来るとは思えない。恐らくは既にいくつかのデータを解析されている。
 それでも単純な戦力差ではこちらが負けているのだ。出し惜しみしている余裕は無い。
 丁度七機目の〝ウィンダム〟を屠った時、ラウは迫り来るミサイル群を捉えた。
 その中のいくつかに、ぞっとするほどの『何か』を知覚する。
 
 「――まだ核があった!?」
 
 即座にドラグーンインパルスに指示を出し、撃墜に向かわせる。
 
 「行け、〝ファンネル〟、敵を落とせ!」
 
 ラウの意思が虚空をかけた瞬間、十を超える巨大な火球があがり、〝デスティニー〟の装甲を赤らかに照らしあげる。
 だが、ふいに『何も無い空間から現れた一発のミサイル』がゴンドワナ級三番艦〝コロンビア〟に直撃し、一○○○メートルを超える巨大な艦が一瞬で蒸発する瞬間を捉えたラウは、舌打ちをしながら吹き荒れる残骸の中単身〝デスティニー〟を滑らせた。
 〝コロンビア〟も、〝デスティニー〟の翼で覆い隠し背景と同化させていたはずだ。
 つまりそれは、あちらが既にある程度〝デスティニー〟の〝ミラージュコロイド〟を無力化しつつあるということだ。同時にミサイルの群の中に核ミサイルを紛れ込ませ、本命の一発を更に〝ミラージュコロイド〟で隠し――。
 
 「ハルバートンめ……!」
 
 想定以上に彼らはよくやっている。だが、やりすぎては困るのだ。〝デスティニー〟の〝ミラージュコロイド〟活動限界時間も近い。一度引いて補給をすべきか……。
 〝デスティニー〟の〝ミラージュコロイド〟は、〝ブリッツ〟の使うガス状の機能というよりは、映像ハッキングに近いものであり、それをサイコ・コントロールと翼から放出されるミノフスキー粒子に乗せて全方位にばら撒くものである。
 故に、〝デスティニー〟にかかる負担は〝ブリッツ〟のそれとは比較にならないほど大きく、一定のペースで冷却をしなければならない。
 だが、ラウの口元は笑っていた。
 白状すれば、楽しかった。心の底から。
 かつてのように暗闇を歩いているわけではない。確かな希望を、見出していたから。
 その上での、命を賭けた戦い。
 生きている事の実感。
 そうだ、どんどん来い。人の思いと念と、希望と憎悪とが幾重にも重なったそこで、扉は開かれる――。
 そして『扉の向こう』に存在する『ヤツ』に代価を払わせてやる。この戦いの、全ての……!
 
 
 
 〈敵、来ます!〉
 
 情けない部下の報告に短く舌打ちをしたマティスは、〝ゴンドワナ〟に宛がわれた専用の部屋で戦場の全様子をモニターしていた。〝デュエル〟に防衛線を突破されつつあることは、想定されていたよりも早く、自分の思い通りになっていない事態は彼女を美貌を損なう表情にさせる。
 だが、より腹立たしいのは〝デスティニー〟の戦いぶりだ。なぜ、〝ドラグーンインパルス〟をもっと有効的に使わない。
 更に別のモニターに視界を移した。
 〝アークエンジェル〟艦隊が〝ユニウス・セブン〟の先端にまで迫り、防衛に努めていた〝ヴェサリウス〟級一隻が撃沈されると、そのままなだれ込むようにして最前線のゴンドワナ級〝パンゲア〟に攻撃を仕掛けている。あれも時間の問題かと思い、〝ガーティ・ルー〟という戦艦は情報に無いことが不愉快であった。
やけに足が速いそれは、まさか〝ミノフスキー物理学〟を既に? もしもそうだとしたら、ラウという男は信用に足らないかもしれない。
 〝ガーティ・ルー〟を守護するようにして金色のモビルスーツが〝ザク〟と切り結ぶ。それを支援する〝カオス〟、〝ガイア〟、〝アビス〟。腕はまだ未熟なようだが……。
 しかし、押されつつある状況の中でも、マティスは確信していた。
 ――遅いな。
 と。
 このまま行けば、隕石は地球に落ちる。
 形そのまま落ちるのは理想であるが、結局のところ、マティスらの目的は隕石落としでは無い。これは、ただの手段だ。結果、地球が混乱に陥り、紛争や戦争状態になれば、それが勝利なのだから。
 
 
 
 「艦隊は……!?」
 
 キラは周囲を警戒しながら、〝ハイペリオン〟、〝ナイチンゲール〟、〝ソードカラミティ〟と陣形を組ながら〝ユニウス・セブン〟に迫りつつあった。
 〝アークエンジェル〟艦隊はどうなったのだろう。もう後続の部隊が追いついても良い頃のはずだ。
 〈なんだ……!?〉
 上方の何も無い空間で巨大な火球があがり、それが核爆発だと気づいた時には一瞬現れたゴンドワナ級が生み出された人口の太陽に飲まれる瞬間であった。
 何も無い、空間、戦艦……。ごくりと唾を飲み込む。
 唐突にフレイが言った。
 
 〈機体が反応してる、〝νガンダム〟がいるって……!――上の方!〉
 
 はっと機体を滑らせるようにして移動させるとすぐに光条が襲い掛かり、それが〝デスティニー〟であるはずだと思えば何も無い空間をキラは凝視した。
 
 「フレイ、〝ナイチンゲール〟のデータを!」
 
 すぐに情報は交換され、〝ナイチンゲール〟で得た座標データで固定される。その反応データは、残骸に紛れたデブリを指しており、自機に隕石の映像を重ねているのだと思い知った。
 
 〈オレが行く! 援護!〉
 
 〝ハイペリオン〟が先陣を切ると、キラはそのまま〝デスティニー〟を標した隕石に向けてEQFU‐三Xスーパードラグーン・機動兵装ウイングを全基射出した。
 同時に宇宙空間から敵の混合部隊が姿を現し散開すると、その中に〝デスティニー〟の姿を見つける。
 
 「〝デスティニー〟が姿を見せた……!?」
 
 何故だ……? わざわざ、姿を見せるのには意味が……?
 そのわずかな思考が隙となり、〝デスティニー〟から放たれたビームブーメランが〝ドラグーン〟となってジグザグな高速移動を繰り返し、EQFU‐三Xスーパードラグーン・機動兵装ウイングを薙ぎ払う。
 一瞬で全ての〝ドラグーン〟を破壊されたキラは己の迂闊さを呪った。また、自分ひとりで何でもかんでもやろうとして、その結果が……!
 
 「こうなるから!――フレイ!?」
 
 〝ナイチンゲール〟が一気に加速し、〝デスティニー〟へと斬りかかる。
 
 〈アルスター!? 待て!〉
 
 現れた〝ザク〟、〝ダガー〟と切り結ぶカナードが驚愕して声をあげた。
 迂闊だ、という思考は〝デスティニー〟が素直に〝シュベルトゲベール〟と似た大剣で応戦してくれた事で杞憂となり、キラはすぐに援護の体勢に入る。もう〝ドラグーン〟は残されていない。
 連結させたMA‐M二一KF高エネルギービームライフルで〝ハイペリオン〟、〝ソードカラミティ〟を支援しながら〝ナイチンゲール〟の援護も怠らないキラの情報処理能力は正に与えられた性能をフルに活用したものであったが、父に感謝しようという気にはなれなかった。
 〝デスティニー〟と〝ナイチンゲール〟の通信が漏れ聞こえてくる。
 
 〈機体が呼び合うか、君!〉
 〈何でこんなことするんですか! もう戦争は終わったのに、戦う事なんてなかったのに!〉
 
 フレイの叫びは、懇願の色を帯びていた。
 
 〈それで世界の悪意とやらは消えはしないさ! 奴等は! 次の戦争を起こすための算段に入っただけだ!〉
 
 〝デスティニー〟が〝ナイチンゲール〟を蹴り飛ばす。一瞬無防備となった〝ナイチンゲール〟に一機の〝ダガー〟がビームライフルの銃口を向けた時、キラは再び獣となった。ぞわり、ぞわりと躯体が膨張していく、筋肉の流動と、血液の流れが速くなり、『カガリが否定した力』が己の中で発現したのだと理解した。
否、キラは既に意図的に使うことができるのかもしれない。己が『たが』を外し、狂戦士と化すことが――。
 人の可能性には決してなり得ない、狂気の力。
 だとしても、それがどうした!
 誰が否定しようと、たとえ間違っていようと、この力で人を救えるのなら……!
 〝ソードカラミティ〟に斬りかかる〝ザク〟。〝ハイペリオン〟を挟み撃ちにする二機の〝ダガー〟。〝ナイチンゲール〟を狙う〝ダガー〟。そして隙あらばと狙う二機の〝ドム〟。一機の〝グフ〟。四機の〝ダガー〟。
それら全ての行動とその先を把握、予測し、キラは二丁のビームライフルとMMI‐M一五Eクスィフィアス三・レール砲、MGX‐二二三五カリドゥス・複相ビーム砲を撃ち放ち、あるものは武器を奪えただけに留まったが、それでもフレイを狙った〝ダガー〟の撃墜だけは成し遂げた。
 
 
 
 激しい振動が〝ガーティ・ルー〟を襲い、左舷ブロックに被弾したと報告が入ればすぐに消火作業を命じ、ナタルは「弾幕を張れ、ここで撃ち尽くしても良い!」とまた激を飛ばした。
 
 〈〝アークエンジェル〟隊、〝ユニウス・セブン〟に取り付きました!〉
 
 メリオルからのそれは、吉報であった。
 
 「〝ミネルバ〟はどうしているか!」
 「健在です!」
 
 とカズイ。
 
 「〝メテオブレイカー〟出ます!」
 
 すぐにメリオルが言うと、モニターの端に映された〝ミネルバ〟の部隊が〝メテオブレイカー〟を従わせ粉砕作業に入るところであった。
 
 「間に合うか!?」
 「これから作業に入るとの――」
 
 ナタルの問いに答えるメリオルを、ミリアリアが「パルス隊が〝デスティニー〟と交戦に入りました!」と遮ると、今度はアズラエルが身を乗り出し「見つけたのか!?」と驚愕した。
 
 「〝ナイチンゲール〟と呼び合っているそうです!」
 
 とミリアリアが言うと、彼女ははっとして自分の口元を抑え、自分が今何を言ったのかそこで理解し、自信なさげに「呼び合っているんですか……?」と付け足した。
 
 
 
 その動きは、ディアッカがこれまで相対してきた者たちのそれと酷似していた。
 即ち、『ニュータイプ』。
 だがその中に混じってコーディネイターがいる事も、動きの違いから確信していた。
 ……皮肉な光景だった。
 ナチュラルとコーディネイターが手を携え、ようやく平和な世界が訪れようとしたその矢先、ナチュラルとコーディネイターが入り混じる敵によって、世界が乱されようとしている。
 こんな時、ラスティのヤツがいてくれたら心地の言い皮肉の一つや二つ言ってくれたんだろうに。
 ニコルの〝ドム〟が援護に入り、砲撃を加えていく。敵〝ダガー〟が回避した先にルナマリアの〝ガナーザク〟が待ち構えており、〝オルトロス〟を撃ち放てば、〝ダガー〟はそれすらも回避してみせたが、アイザックの〝グフ〟が死角からMMI‐五五八〝テンペスト〟ビームソードを振り下ろし、〝ダガー〟は真っ二つに両断された。
 
 〈ディアッカ!〉
 
 ニコルが慌てて叫ぶと、一機の敵〝グフ〟が〝テンペスト〟で〝メテオブレイカー〟に斬りかかる寸前であり、その繊細さを欠いた動きから敵が功を焦っているのだと理解したディアッカは、そのまま愛機の黒く塗装された〝ガナーザク〟で手刀を作り、敵〝グフ〟のコクピットを抉り貫いた。
 これで、ここ一帯はあらかた片付いた。
 とは言ってもまだまだ〝ユニウス・セブン〟の端の端に過ぎない。
 
 「ルナマリア、ここを任せられる?」
 
 通信を入れると、すぐにルナマリアがモニターに表示され、頷いた。
 
 「りょ、了解です!」
 
 ……どこかまだ頼りなさげな返事にディアッカは苦笑したが、任せられると確信していた。
 今日まで共に戦い続けた仲間を、疑う余地がどこにあろうか。
 
 「オーケー、良い返事だ。俺たちは前へ出る!――アスラン、お前は残れ!」
 
 前へ出ようとする〝インフィニットジャスティス〟を視界の端で捉え、思わず声を荒げた。
 あの馬鹿は、また……!
 
 〈イザークは前へ出ている、俺だけが――〉
 
 
 
 〈俺だけが、こんなところにいるわけにはいかない!〉
 
 ああ、またやっているのか、とレイはこんな状況に呆れつつも、微かに懐かしさを覚えていた。俺は、ずっとこれを見てきた。彼らと共にいたんだ……。もうすぐ消えるかもしれないこの命、それでも、彼らの為に役立てるのだろうか?
 それは、レイが己に見出せたわずかな希望であった。
 
 〈あーもう! 死にたがりの大将なんてのはごめんだって!〉
 〈来ます!〉
 
 アイザックが同時に言うと、彼は専用の〝グフ〟を駆り敵陣へと突撃し囮となる。すぐに〝ガナーザク〟が援護に入り、〝パワー〟の部隊も続けば、レイも反射的にフットペダルを踏み込み、加速した〝レジェンド〟のGDU‐X七 突撃ビーム機動砲を全基ばら撒いた。
 
 「〝ファンネル〟!」
 
 レイの強力な思念が〝ドラグーン〟へと宿り、やがて四つの火球があがった。
 
 〈ヒュー、やるなレイ〉
 
 ディアッカが茶々をいれ、アイザックの〝グフ〟がマニュピレータを起用に使い小さな敬礼をしてみせる。レイは、迷わなかった。
 
 「俺が行きます」
 〈――レイ?〉
 
 いぶかしげな顔になったアスランにもう一度苦笑してから、レイは続ける。
 
 「あなたは、〝プラント〟に必要な人でしょう? なら、俺がイザーク先輩達の援護に向かいます」
 〈しかし!〉
 
 ほんと、この人は……。
 なおも食い下がるアスランに、レイは言った。
 
 「あなたが言ったのでしょう、地球へ行けと、アルスターのところへ行けと」
 
 どうしようも無く不器用で、頭でっかちで……。
 
 「だから、俺はそのまま過保護なあいつのところに行って、アルスターになります」
 
 一途で、優しく、真面目で……。
 ――貴方の様な人だから、俺はここにこうしているのかもしれない。
 レイの心には、さわやかな風が吹いていた。
 刻々と迫る死を前にしても、この一年近くのちょっとした冒険は、自分だけのものだ。出会いも、別れも、思い出は決して消える事無く今も心に刻まれている。
 だが、そう言ってから急に気恥ずかしくなり、レイはすぐに〝レジェンド〟を加速させた。これからラスティにからかわれるような錯覚がしたから。それに乗っかるディアッカがいて、咎めるシホがいて、また面倒事が始まるような……そんな思い出があったから……。
 〝ミネルバ〟が遠くなり、通信が聞こえにくくなっていく。
 最後に、アスランが言った。
 
 〈忘れるな、レイ! お前がナチュラルだろうと、誰であろうと、どこに行こうと! お前は俺の部下で、俺たちの――〉
 
 そこで雑音と共に通信が切れ、通信妨害が強力なのだと確認しつつ、レイは誰にも聞こえないよう、全ての仲間達に「ありがとう」とつぶやいた。
 
 
 
 標的としていた〝ゴンドワナ〟の盾となり、別の〝ゴンドワナ〟級が前へ出る。アムロは口の中で「撃沈は厳しいか」と呟き、視界に捉えた味方の青い〝ガナーザク〟と相対する敵モビルスーツに向けてバズーカの最後の弾を撃ち放った。
 すぐに主兵装をビームライフルに持ちかえ、ゴンドナワ級の巨大な甲板を蹴り守備隊のモビルスーツを相手取る。
ビームマシンガンとして撃ち放った粒子の雨が一機、二機と敵モビルスーツを貫いていき、同時にスカイブルーの〝スラッシュザク〟が三機の〝グフ〟と互角に渡り合っているのをモニターの端に見つけ、切り結んだ隙を目掛け一機の〝グフ〟に向けトリガーを引いた。
〝スラッシュザク〟が〝グフ〟の胴体を両断するのと同時に、アムロが放ったビームが別の〝グフ〟を貫き、その隙を逃さず〝スラッシュザク〟が返す刃でもう一機を薙ぎ払った。
 
 「そこのモビルスーツ、手を貸してくれ!」
 
 通信機に怒鳴れば、すぐに返事は返ってきた。
 
 〈連合の、ユニコーンのマーク――!? どうするんだ!〉
 「こいつをぶつける!」
 〈なっ――〉
 
 〝スラッシュザク〟のパイロットは絶句したが、やがてくくと笑い声が聞こえると、彼は〈勝てないわけだ〉と呟いた。
 
 〈やれるんだな!〉
 「スラスターを破壊するんだ! 後の指示はこちらで出す!」
 〈了解した!――シホ、ミハイル行くぞ!〉
 
 〝スラッシュザク〟がゴンドワナ級後部に向けて加速すると、先ほどの青い〝ガナーザク〟と、〝ザクファントム〟がそれに続いた。
すぐにモビルスーツ部隊が行く手を阻み、同時にアムロの〝デュエル〟にも四機の〝ウィンダム〟が敵として立ち向かった。アムロは短く舌打ちして後退すると、すぐに二機の〝エグザス〟から放たれた M一六M‐D四ガンバレルが二機の〝ウィンダム〟を撃墜し、〝カラミティ〟、〝レイダー〟、〝フォビドゥン〟も同時に仕掛けもう一機。
そのままゴンドワナ級の装甲に大穴が開き、誘爆に紛れてアムロは〝ウィンダム〟のコクピットをサーベルで貫き、〝ヴェスバー〟を奪い取った。
 〝デュエル〟のエネルギーを使わなくても、一、二発は撃てるはずであり、それだけで十分であった。
 

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