CCA-Seed_125氏_第14話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 19:10:45

マハムール基地にあるドックにて

現在、ミネルバでは急ピッチでMSの整備が進められていた。
マハムール基地に着いて一息吐く間もなく次の作戦の準備に追われているのだ。
そんな喧騒のなか……

「やれやれ…、なにを考えてこんなモノを支給するんだ?」

アムロは先程、補給されたばかりの機体を見上げてぼやく。
アムロが見ているのは上半身と下半身に分離されたザクである。

ZGMF-X101S分離式機動コクピット・動力性能実証型モビルスーツ、通称<ザクスプレンダー>
この機体はインパルスの開発に先立って、ザフト技術陣がコアスプレンダーとデュートリオン送電という二つの新技術の有用性を実証するため試作したモビルスーツである。いってみればインパルスの雛型とも言える、が・・・

「このコアスプレンダーだが、ちゃんと飛ぶのか?脱出ポッドに翼を付けただけにしか見えないんだが…」
この機体を運んできた作業服姿の技術師に詰問する。
「あら、問題はありませんよ?実験結果では比較手的良好だったそうですし……、ただ…」
「ただ?」
「試作型ですのでインパルスのコアスプレンダーの性能には足元にも及ばない、ということはご了承くださいね」
その女性の技師は半分申し訳なさそうに、半分嬉しくて仕方ないといった具合で話す。
「そんなもの実戦では使い物にならない。俺を殺す気か?」
アムロは憮然と技師に言う。
「仕方ありませんよ。あくまでこれは性能実証機なんですから。それに、各半身はスラスターの強化と制御AIの再設定で、有重力環境下であっても5ないし10キロ程度の動力飛行が可能なんです。見た目はザクでも性能はむしろインパルスに引けをとりませんよ。
とくに上半身は左右両肩にマウントしたシールドによる空力効果で、想定以上の飛行性能をマークしたんですから」
「仕様書で読んだよ…。しかし、これは純粋に脱出ポッドとして考えるしかないな」
仕方がない、といった風に呟くと、

「では武装の件だが……」
「それについては貴方の要望にできるだけ応えたつもりです。インパルスのビームライフルとザクの突撃銃を改良したものを用意しました。
いずれもビームの照射時間を縮めて、より連射しやすいようにしてあります。コクピットからも細かい調整が可能です」
技師とともに歩きながら確認していく。
「結構だ…、しかし……」
と、アムロは立ち止まるとあるモノを呆れつつ見上げる。
「これは一体なんだ?」
と聞くと、その技師は自慢げに胸を張り、
「ああ、それはですね…、前大戦時にMS用の大型剣を作ったことがありまして(まあ、それは敵に使われたんだけど…)それの改良型なんです」
と言い放った。
鎮座していたのはMSの全長ほどもある大型の実体剣だった(グランドスラムのちょっと小さいバージョンと思いねえ)。

「……ほとんどホビーだな」
「あら、あんなハンマー考えた人からそんな意見聞くなんて、意外だわ」
と意地悪く微笑む。
「悪かったね」
「別にけなしてるわけじゃないんです。アレ、映像をみた技術者たちの間で結構話題になったんですから」
でも、と付け加えると被っていた帽子を外すし、ファサっ、と長い金髪を外気に晒しながらアムロを意味ありげに見つめる。

「本部のほうでは貴方の噂でもちきりなんですよ。『突如現れた凄腕パイロットがいる』って。しかも『そのパイロットはMSを乗っては廃棄、乗っては廃棄させている壊し屋みたい』だって」
「褒めてんのかね、それ?」
「勿論ですよ!貴方がいままで乗ったゲイツR、ザクウォーリア、ジンハイマニューバ2型のいずれもが機体性能を大幅に超える酷使により廃棄、
しかも一度や二度の戦闘で!こんなことは前代未聞なのよ!?機体を設計、開発した者たちにとってはなによりの課題提供だし、褒美とも言えるわ。
いまではさまざまな機体を貴方に試させてはどうか、って技術者たちのあいだでひきも切らないほどなんだから!!」
我が事のようにボルテージをあげる技師。
「賛辞と受け取っておくよ………とにもかくにも、次の作戦から使うことになる。整備をよろしくたのむ」
「アッ…え、ええ、わたしもコレの開発に携わった身ですから…任せてください」

「アムロさん、艦長達が司令部から戻ってきたそうです!」

「わかった、今行く」
じゃあ、と格納庫から出て行くアムロ。
その背中をじいっと見つめる女技師………
「アムロ・レイ……か」

ブリッジ

「なるほど……陽電子砲・ローエングリン砲台と巨大MAによる絶大な盾、か。おまけに進軍ルートは渓谷しかない…」
司令部より帰ってきたタリア、アスラン、アーサーよりガルナハン攻略の概要を聞くとアムロは顔をしかめた。
「正直、思ってた以上ね。難攻不落というのも頷けるわ」
タリアも思慮深げに息を吐く。
「どうしましょう?かんちょー」
アーサーが心配げに口にする。
「どうするもなにも作戦は始まってしまったのよ?やるしかないでしょう」
「…艦長、わたしがオトリとなって敵の砲台を引き付けるというのはどうでしょう。セイバーの機動性なら可能かと思いますが…」
いままで黙考していたアスランが口にする。
「駄目だな、リスクが大きすぎる。砲台だけならまだしも、高射砲にMSもあるんだ。それらを一人ですべて捌くのは君でも不可能だろう」
「たしかにそうですが…」
「せめてもう一機セイバークラスの高機動の機体があるなら話は別だが……」
「……フォースシルエットのインパルスならどう?あれならセイバーに近いと思うけど」
これにはアムロとアスランの両方が首を横に振る。
「無理でしょう。今のシンではアスランとの連携は望めないし、彼にはまだ動きにムラがある」

アスランは先程シンと話した会話を思い出していた。
『やってること、滅茶苦茶じゃないですか、あなたは!』
たしかに……いまの状態では望むべくもなさそうだ

アーサーが遠慮げに口にする。
「では、シンの代わりにアムロ大尉が……」
「それは却下だ、副長。今度の作戦は少しでもお互いに慣れた機体のほうが不確定要素が少なくて済む。不安要素はできるだけ外したい」
そ、そうですか、と口を噤むアーサー(まだ全部言ってないのに……)。

そんなこんなで決定打となる案もでないまま、ミネルバはマハムール基地の残存兵力とともにガルナハン攻略に向かう。
こちらの被害は相当なものになるのを覚悟しつつの出陣だったが・・・・・・

意外な形でその決定打は見つかることになる
地元レジスタンスの少女の手によって……

「可能だな?」
ディスプレイを見つめるアムロは同じく画面を覗き込んでいる整備員(その中には先程の女性技術者も含まれている)に尋ねた。
もっとも、それは質問というより、確認といったふうな口調である。
「む、無茶ですよ!アムロさん!!」
ヨウランが堪らず口にする。他の整備員も同じ意見のようだ。
女性技師は黙ってモニターを見ている。
「インパルスのコアスプレンダーでさえどうかわからないのに、それに遥かに劣る試作型で坑道を抜けるなんて!!」

そう、レジスタンスの少女が示したのは地元の者のみが知っている隠れた坑道の地図だった。それは相手の基地まで通じているという奇襲にはうってつけのものだった。その情報はまさに光明と言ってもよく、作戦の成功確立が飛躍的に高まるほどのものである。
だが、当然それなりのリスクは付き物で、坑道はMSが通り抜けるには狭すぎて、しかも内部は完全な暗闇だという。
しかも幾重にも坑道が張り巡らされているので迷えば即お陀仏、というもの。

そこで白羽の矢がたったのがシンである。アスラン達が主力部隊を引き付け、インパルスは分離状態にして坑道に突入、突破しローエングリン砲台を破壊するというものだ。これ以上の作戦を現状で考案できない以上、これに賭けるしかないのだが、作戦会議で一波乱があった…

アスランをあまり快く思ってないシンがアスランに突っぱねたのだ。「あなたがやればいい」と。
作戦に私情を持ち込むシンにアスランは一喝したが、まだ不服といったシン。
その時である。

それまで黙って聞いていたアムロが立ち上がり「ならば俺も行こう」と言い出したのだ。
これにはアスラン、シンも毒気を抜かれてアムロを見つめるしかない。他の者も同様である。

アムロの出した案はシンの直ぐ後に自分のザクスプレンダーも分離し坑道に突入するというもの。
もし仮に、シンが失敗してもアムロが砲台を破壊すればよし、その逆もまた然りである。
たしかに単純計算では確率は二倍になるが………

沈黙する作戦室だったが、それを破ったのは艦長であるタリアだった。
「いいわ、それでいきましょう。後方の負担が増すけど、もたせられるわね?アスラン」
「……はい、しかし」
「作戦まで時間が惜しいわ。押し問答しているヒマはないのよ…、シン、この作戦の成否は貴方に懸かっているのよ。しっかりね」
「あ…了解」
「以上、解散。各員持ち場について」
と言うとタリアは立ち上がり、最後にアムロに目配せすると退室する。

そして今に至る

「無茶かどうかは問題じゃない。やれるかどうかだ、どうなんだ」
押し黙る整備員だったが……、
「理論的には可能です」
いままで黙っていた女性技師が口を開く。
「さきほど大尉が仰った通り、チェストフライヤー、レッグフライヤー並びにコアスプレンダーに増槽兼ブースターを設置すれば航続距離もスピードも大幅に増加しますわ。しかし………」
「なんだ」
「はっきり言って自殺行為以外の何者でもありませんよ、こんなことは全くの想定外なんです。
各部フライヤーはまだしも、あのコアスプレンダーにブースターを噛ませるなんて……ヘリがロケットエンジンで飛行するようなものです。
暴れ馬なんてモノじゃ済みませんよ?」
とアムロをはっきりと見返しながら口にする。

「技術的には可能なんだな?」
「……保障の限りではありませんが」
「なら、あとはパイロット次第でどうとでもなるということだ。………どうした、皆、作戦はもう始まったいる!
俺のことを心配してくれるなら、早く準備にとりかかれ!!そうしないと俺も安心して機体に命を預けられない!!!」
まだ渋っているヨウランたちにアムロが怒鳴る。
その声に彼らも覚悟を決めたのか顔を引き締めると、敬礼し散って行く。

「……ふう」
アムロが一息吐いていると、パイロットスーツのルナマリアがシンを伴ってこちらに近づいてきた。
「アムロ大尉…、あの」
「…機体の調整は済んだのか、二人とも」
「ええ、でも、そんなことより…あの…アムロさん、せめて…パイロットスーツを着ては貰えませんか?」
ルナマリアがおずおず口にする。
「大丈夫だ、ルナマリア。べつに宇宙空間というわけじゃないんだ、あってもなくても大して変わりはしない。おれのポリシーと思ってくれ」

アムロはいままで一度もパイロットスーツは着ず、ジャケットですませていた(カラバ時代の黒ジャケットみたいな感じ)

「そうですか……、ちょっとシン!アムロさんに言うことがあったんでしょう!?」
ルナマリアが後ろに居るシンを前に出す。
「あ、その…」
なんと言っていいのかわからない、と言った風なシンを見てアムロは、
「……シン、坑道の地形は頭に叩き込んだか?」
「あ、はい」
「なら、いまは任務のことだけを考えろ。さもないと…俺達の帰る場所がなくなるぞ?」
「…………」
まだなにか言いたげなシンを見てどうしたもんかとルナマリアと顔を見合わせると、
「アムロ大尉、量子コンピューターを使ってシュミレートします。よろし?」
と女性技師が声をかけてきた。
「よし、シン。お前はどうやらヒマなようだな、付き合え」
「は、はあ?」
「コアスプレンダーに関してはお前が一番よく知ってるだろう!意見も聞きたい、ぐずぐずするなよ」
とさっさとアムロは歩いて行く。
「ちょ、ちょっと…俺はまだ…」
シンも慌てて後を追う。
残されたルナマリアはというと……

「オトコの友情、ってやつかしら。いいなあ」
「違うと思うが……」
レイの突っ込みも虚しく響く。

ヨウラン、ヴィーノも
「大人だ」
「大人だな」
しみじみ呟き、それを聞いたルナマリアにスパナを投げ付けられる