タンホイザーの爆発でミネルヴァが海面に着水する。
「何をしていた、レイ!ルナマリア!」
「すいません、でもあいつ、はやっ…だめ、当たんない!」
レイとルナマリアはミネルヴァに近づいてきた青い翼を持ったMSを打ち落とそうとするが当たることは無かった。
「フリーダム?キラ…?」
アスランが思わず声に出す。ちょうどその時だった。ホワイトベースに良く似た戦艦、アークエンジェルが海中より浮上すると共に紅に染まったMSが出てくる。
「私はオーブ首長国連合代表。カガリ・ユラ・アスハ。オーブ軍!直ちに兵を引け!現在、訳あって国もとを離れてはいるが、このウズミ・ナラ・アスハの子、カガリ・ユラ・アスハがオーブ連合首長国の代表首長であることに変わりない!
その名において命ずる!オーブ軍はその理念にそぐわぬこの戦闘を直ちに停止し、軍を退け!」
アムロは戦闘中にもかかわらず馬鹿げた呼びかけに対し
「何をやってるんだ!?今は戦闘中だぞ!政治活動をこんなところでするな!!」
と言うがオーブ軍は間違いなく混乱している。逆に見ると今が好機だ。
「シン、アスラン、ハイネ、今だ!棒立ちになってる敵を叩く!少しでも数を減らせ!」
しかしシン、ハイネは動いてもアスランは動けないでいる。
「アスラン!何をしている!落とされたいのか!」
その声でやっと我に返るアスラン。と同時にオーブ艦から紅のMSに攻撃が加えられ始めると、紅のMSは戦艦に戻り代わりに金色のムラサメが出てくる。地球軍艦からもガイア、アビス、カオスが発進した。フリーダムはオーブ軍、ザフト、地球軍に関係なく武装やメインカメラのみを破壊して回る。
その様はまるで獲物を選んで飛び回る死神のようだった。その死神は戦場で存分に剣を振るい銃を撃つ。直接命を刈り取りはしないが、地表に叩き付けたり動けなくした所を別の者に撃たせたりと確実にそれでいて真綿で首をしめるよう着実に死へと誘う。
アムロはムラサメを落としつつフリーダムへと向かう。あいつを落とさなければ戦場は混乱したままだ。地球軍とオーブ軍、強奪機体はハイネとシン、アスランに任せることにした。
フリーダムに向かってくるプロトセイバー。フリーダムのパイロット、キラ・ヤマトはそれに気付きビームライフルをそのMSにロックオンする。ロックオンマーカーがMSに重なったとき冷静にトリガーを引いた。しかしビームはMSのすぐ真横を通り当たることは無かった。
「狙いが甘いっ!」
叫ぶと同時にビームライフルをフリーダムに放つ。爆発的な瞬発力でそれを避けるフリーダム。アムロは舌打ちをした後、今の回避行動を考慮し回避先を先読みをして再度トリガーを引いた。ビームは直撃こそしなかったがフリーダムの背部ウィングを貫通した。キラは自分の技量でも完全に避けられなかったことに焦りを感じながら
「何?当たったの?バラエーナが片方死んだ!?」
そう言うと少しの間の後一度目をつぶったあと少し気持ちを落ち着かせ目を開く。その目は薄黒く光を無くした瞳になっていた。
フリーダムに対しビームを放つアムロは違和感を感じていた。
先ほどとは動きが全然違う。先ほどまでなら確実に当たっている射撃が全く当たらなくなっているからだ。ビームを放ちながらフリーダムからの攻撃をかわすアムロ。
そのやり取りを幾度か繰り返すがお互い機体の表面を焼くことしか出来ない。すると剛を煮やしたようにビームを避けながらフリーダムは腰からサーベルを抜きプロトセイバーに斬りかかった。
それをサーベルで受けたプロトセイバーだったが徐々に押されている。
「サーベルのパワーで負けている?チイッ」
その瞬間にビームサーベルが断ち切られプロトセイバーの左腕が切り落とされた。バランスを崩し落下をするプロトセイバーをアムロは急いでで体勢を立て直す。
しかしフリーダムはすでにその場を去り次のターゲットに向かっていた。アムロはコンソールを叩くとアスランに通信を開いた。
「アスラン!青い羽付きがハイネの方へ向かっている!君の方が近い、援護に向かえ!!」
しかしアスランはその返事をする事無く命令を無視しアークエンジェルの方に向かっていく。
「何をしているアスラン!!命令だぞ!」
しかしアスランから返事が返ってくることは無かった。
その少し前、ガイアと交戦しているハイネのグフはかなり有利に戦いを進めていた。スレイヤーウィップをガイアの腕に巻きつけ動きをかなり抑制させる。4連装ビームをガイアに向かって放ち、ガイアはそれをシールドで受ける。ガイアは防戦一方にほぼ等しい状態となっていた。
(落とせる!)
そうハイネが確信したときスレイヤーズウィップが何者かに撃たれ切断された。見上げるとそこにはフリーダムが急接近してきている。あっという間に目の前に現れ
グフの左手とガイアの右腕を切り落とした。激昂したハイネはかろうじて残ったシールドからテンペストビームソードを抜くと上空にたたずむフリーダムへと突進するが、逆にすれ違いざまに四肢を切断された。
返り討ちにあい落下するグフ。後方からフリーダムへと敵意を向け突進するガイアが接近していた。
「邪魔だ~!!」
と言うガイアのパイロットの声と同時に
「ハイネ!!後ろだ!!」
と叫ぶアムロの声が聞こえた。ハイネはとっさにスラスターを吹かし、何とかガイアのグリフォンビームブレイドの一撃をコックピットに受けることは避けられたが、グフは腰部からビームブレイドに断ち切られるとそのまま地表へと激突した。
フリーダムを追ってきたアムロはその様を見せられることとなってしまった。後ろからはもう残り少なくなったがムラサメが接近してきている。フリーダムに構いすぎた結果だった。アムロはこれ以上フリーダムを追うことが出来なかった。結局フリーダムはオーブ軍、地球軍、シンやアスランの機体の武装や戦力を奪ってアークエンジェルと共に
海の中へと消えていった。
地表に叩きつけたれたグフへと救護班、回収班が向かう。ミネルヴァのデッキに帰ってくるアムロ、シン、アスランの三人。一様に顔に疲れが見えている。ミネルヴァだけでなくMSの被害も甚大である。
アムロはアスランに歩み寄りアスランの顔面を殴った。
「なぜあんな馬鹿げた命令無視をした!なぜハイネの援護に行かなかった!!」
沈黙するアスランに
「答えられないのか!!」
そう聞くと同時にもう一発アスランの顔面を殴る。周りが嫌が応にもざわつくが
「何を見ている!修正がそんなに珍しいわけではないだろう!」
と一括すると整備班は作業へと戻る。
殴られへたり込んだアスランは小さな声で
「あいつは友達なんです…戦いが嫌いだといっていたのに…無理して戦場に出てきて…何をしようとしたかはわからないけど、アークエンジェルに戻ったカガリと話せば国に戻ってくれると思ったから!」
「なんだと!!戦場で友情ごっこでもするつもりだったのか!!貴様のその自己満足のせいでハイネはどんな目にあった!!立てよ!立たないと修正できないだろう!!」
そう言うとアムロはアスランの胸倉をつかみ強引に立たせた後もう一発修正を見舞った。そこに先にデッキに戻ってきていたルナマリアが
「隊長!もうやめてください!」
とアムロの手をつかんだ。
アムロは必死に抑えようとするルナマリアを振りほどこうとしながらアスランへと言葉を続ける。
「あの羽付きにやられた俺に言えることでもないかもしれない!だが貴様は仲間を見捨て!戦場で何をしようとした!自分の勝手な判断で行動するな!」
そう言うとアムロはルナマリアを振りほどきデッキから去っていった。シンはアスランを見ると何も言わずにデッキから出て行ていく。
アスランはその場にしばらく座り込んだまま考えこんで動かなかった。
その夜、ハイネは一命を取り留めたが意識不明。落下時に全身を強く打っており軍に戻るどころか普通に生活できるかすらもわからないということが知らされた。