CCA-Seed_373 ◆lnWmmDoCR.氏_第18話

Last-modified: 2008-06-17 (火) 23:23:35

ミネルヴァはステラを乗せたまま港を出ることとなる。ステラは最寄の基地まで移送しエクステンデッドのサンプルとなるとのことだ。
勿論このことはシンには伝えてはいない。シンは相変わらずステラに付きっきりになっている。
アムロは医務室にステラの様子を見に行ったときにシンに聞いた。なぜその娘にそこまで出来るのか?と。
シンの答えはこうだった。

 

「俺、あのディオキアでステラを助けたときに言っちゃったんです…死にたいのかって…そのときすごい取り乱して…そのときは戦争でつらい目にあったんだなって思ってたんですけど…俺が守ってやるって約束したんです。俺が…」

 

 それを聞いたアムロは何も言えなかった。数年前、アムロはカミーユ・ビダンと言う少年と出会った。カミーユが経験したつらい思いをシンにはさせたくない。
本気でそう考えていた。しかし軍としての規律は守らなければならない。本部からシンに対しての処分は数日待っても何も無かったが艦内の規律の問題からシンは修正室へと入ることとなった。しかしシンはその間もステラのことを気にするばかりだ。
ステラと知り合っていたヴィーノ、ヨウランは仕事を抜け出してはステラの様子を見に行きそれをシンに教えていた。一度深夜に修正部屋の鍵を開けシンを医務室まで行かせたことをアムロは知っていたが敢えて何も言わなかった。
ミネルヴァはともかくジブラルタルへと向かう。そこには地球軍、オーブ艦隊が待ち受けているのは容易に予想できる。下手をすれば忌まわしき大天使も。
その数日後ミネルヴァはクレタ沖へと差し掛かった。レーダーに反応がある。ミネルヴァブリッジ要員のバート・ハイムが報告する。

 

「前方に空母1、護衛艦3、地球軍艦隊は今のところ確認できません。」

 

タリアは違和感を感じる。ここまで遠征してきた挙句オーブ軍だけが待ち受ける、と言うことは考えにくい。どこかに地球軍が隠れていると考えるほうが自然だ。

 

「索敵厳に。急いで。オーブ艦隊だけと言うことはありえないわ。どこかに必ず地球軍がいる…手遅れになる前に探してちょうだい。」
「はい!」

 

と返事をすると早速バートは索敵を行う。と同時にタリアの声がブリッジに響く。

 

「ブリッジ遮蔽。コンディションレッド発令。」

 

するとメイリンが艦内に放送を入れる。

 

「コンディションレッド発令。コンディションレッド発令。パイロットは搭乗機にて待機せよ。繰り返す…」

 

シン、アスランは修正部屋から出されMSデッキに走る。何日ぶりかに走ったのでシンの足がよろついた。各々が
搭乗機に乗り込むとタリアから通信が入った。

 

「敵は今のところオーブしか見えない。でもこれで終わるはずが無いわ。どこかに地球軍がいるはずよ。もしかするとあの大天使様もね…気をつけて。」

 

アムロは通信に答える。

 

「了解しました。艦長。」

 

タリアとの通信を終えるとアスランに通信を切り替えた。

 

「アスラン、君はどうする?あの羽付きが出てきたら。」
「俺は…自分なりの方法でこの戦いを止めるためにザフトへ戻りました。あいつらが何をしようとしているかは正直わかりません。
しかしあいつらがやっている事を止めなければいけないことはわかる!ならばせめて…俺が…!」
「そうか、安心した。後ろから撃たれることは無さそうだな。アスラン、あてにするぞ。」

 

そう言うとカタパルトへとプロトセイバーを向かわせた。その時だった。メイリンから通信が入る。

 

「MS発進待ってください!敵艦から砲撃きます…きゃああぁぁ!!」
「どうした!メイリン、状況を教えろ!メイリン!」

 

しばらくの沈黙の後にメイリンが答える。

 

「敵艦からの砲撃が…いきなり炸裂して…展望ブリッジ…大破しました…」

 

少し涙声で報告をする。この隙に護衛艦からムラサメが発進する。完全に先手を取られた。アムロは急いでプロトセイバーを発進させた。
また前回と同じような布陣になる。しかし今回はいちいち指示をする余裕が無かったため迎撃は各々の判断となっていた。
インパルスはなるべくミネルヴァと離れずに敵を迎撃するために今回はブラストシルエットを装備している。
接近するムラサメをシン、アスラン、アムロはミネルヴァに近づけさせまいと必死に迎撃するがムラサメは玉砕覚悟で突っ込んでくる。
命を捨てたものほど戦場で怖い存在は無い。そこへカオス、アビスも加わった。アビスの一斉射撃をぎりぎりで避けるインパルスと二機のセイバー。避けたビームがムラサメを貫く。敵味方お構いなしの攻撃にアムロ達は驚きを隠せない。しかも更にオーブ艦がミネルヴァを挟むような形で姿を現した。完全にしてやられた、とタリアは唇を噛む。しかし悔しがる時間すら敵は与えてくれなかった。

 

「トリスタン、イゾルデ!てええっ!アーサー、対艦ミサイル!レイとルナにも牽制させて!」

 

忙しく指示を出す。転進するわけにもいかない。突破するしかないのだと覚悟する。オーブ軍と地球軍のMSはかなりの物量を誇り少しずつミネルヴァは押し込まれていった。アムロ達の迎撃ラインを突破することに成功したムラサメ隊はミネルヴァへと接近しミサイルを放つと艦に特攻をかける。
左舷のエンジンが被弾し止まり、ミネルヴァは勢いを無くす。一機のムラサメがミネルヴァのブリッジに向けビームライフルを構えたときそのライフルを打ち落とす者が現れた。こんなまどろっこしいことをするのはあいつしか心当たりが無い。フリーダムが再度、戦場へと舞い降りる。
同時にフリーダムと共に出てきた紅のMS、ストライクルージュから全周波通信が入った。

 

「オーブ軍!ただちに戦闘を停止して軍を退け!地球軍の言いなりになってこんな戦いをしてはいけない!オーブの理念を思い出せ!」

 

アムロはその放送を聞いて全身の血がたぎるのを抑えられなかった。

 

「この間の戦闘といい…何をしたいんだ!お前たちは!」

 

そう叫ぶとフリーダムへと向けてビームライフルを撃った。それを避けながらプロトセイバーに迫るフリーダム。お互いビームが当たらないのは解かっている。
ビームサーベルを肩のラックから抜いたときアムロの正面からフリーダムが消えた。

 

「キラ!やめろ!お前らは何をしている!自分たちがやっている事が戦場を惑わすテロ行為だと何故気付かない!」

 

セイバーがフリーダムへと突進し吹き飛ばす。キラは今の声を聞いてこのMSのパイロットがアスランだと言うことに気付いた。

 

「アスラン!?何故君がザフトになんか!君だって戦いが嫌だったからオーブにいたんじゃないのか!!」
「俺はこの混乱しきった世界を自分なりに何とかしよう、出来ることをしようとおもってザフトへ戻った。だがお前らは何をしている!お前らのせいでいらぬ犠牲も出た!!」
「でも…ぼくはそれでもこの戦いを放っては置けないよ!だってカガリは今泣いているんだ!!」

 

ふざけるな!!!

 

キラ、アスランともその声に驚く。二人の会話を通信回線をオープンにすることで聞いていたアムロが我慢できずに叫んだ。

 

「何が”今泣いている”だと!?貴様は自分と自分の周りの人間が泣かなければそれでいいというのか!そんな考えだから戦場に出てきても命をもてあそぶ様な事しか出来ないんだ!
貴様がやっていることは全て自己満足の偽善行為だ!エゴなんだよ!!それは!!」

 

そう叫ぶとフリーダムへとビームを放ちながら接近する。フリーダムはやっとのことで回避するが回避先を完全に読まれている。プロトセイバーの放ったビームが右足に直撃し爆発する。体勢が崩れたところに下からインパルスのケルベロスが迫り、セイバーのアムフォルタスと十字砲火を受けた。
何とか胴体への直撃を避けるが今度は右腕がビームライフルごと付け根から消し飛んだ。キラは

 

「僕が直撃を受けている!?」

 

そう言うと目を閉じてSEEDを覚醒させた。比べ物にならないほどフリーダムの動きが変わる。しかしアムロはそれでも回避を読めなくなったという訳ではなかった。

 

「そっちか!ならば…次は…そこっ!」

 

次々と放たれるビームは確実にフリーダムの胴体へとビームが迫る。キラは徐々に恐怖と言うものを感じ始めた。フリーダムに乗ってから始めて感じるこの感情。
今まで忘れていた恐怖へとだんだん支配されていく。

 

「くっそっ…うわああああああ!!!」

 

狂ったかのように叫ぶと限界までスラスターを吹かし尋常でない速さでセイバーに向かう。キラはその殺人的な加速で自分の顔がゆがんでいるのも気にせずに回避行動もとれないほどの速さでセイバーの頭部をつかむとそのまま引きちぎりアークエンジェルへと逃げ帰っていった。

 

それを追おうとするシンをアムロは止める。今は逃げる奴より向かってくる奴の対処が先だ。
ミネルヴァへ近づこうと方向転換したインパルスに背後からアビスが迫る。シンはアビスの動きがスローに見えていた。そのときシンの赤い瞳の中で何かが弾ける。

 

「邪魔だ!!」

 

と叫ぶとビームジャベリンを振り向きざまにアビスへと突き刺す。コックピットを串刺しにされたアビスは力なくずるりと海中へと落ち沈んでいった。
アビスのパイロット、アウル・ニーダは真っ赤に染まったコックピットの中意識が途切れる寸前、女性の姿を見た。

 

「かあさん…?来て…くれたの?かあさん…」

 

そうつぶやくと満面の笑みを浮かべる。女性の姿がアウルに抱きついた瞬間アビスは爆発した。
アビスを落としたシンはメイリンにソードシルエットとデュートリオン送電システムを要求する。光の線がインパルスに力を与える。
ブラストを背部から切り離すとソードシルエットを装着すると、ムラサメを両断しながらオーブ艦隊へと迫り護衛艦の艦橋をエクスカリバーで切り裂いた。
ソードインパルスのVPSが返り血のように赤く染まっている。
それを見ていたムラサメに乗るオーブ軍人、馬場一尉は艦隊が壊滅するのは時間の問題だと把握した。しかしその前にやるべきことは残っている。
馬場一尉は覚悟を決め厚いミネルヴァの弾幕へと特攻する。

 

「カガリ様!我等の涙と意地、とくとご覧あれ!」

 

そう叫びながら馬場は残った虎の子のミサイルをザクに放つとミネルヴァへとムラサメを衝突させた。ムラサメが爆発を起こすと同時にミサイルの直撃を受けたルナマリアのザクはゆっくりと後方に倒れた。
レイがルナマリアのほうを見て声をあげる。オーブ艦隊の旗艦、タケミカズチが前に出てきているのをレーダーがとらえた。オーブ艦隊を次々となぎ払っていたシンはタケミカズチの接近に気付くと

 

「母艦が接近してくる!?何考えてんだか知らないが近づいてきてくれるんなら手間が省る!そんなに死にたいのならいっそのこと俺が殺してやるよ!」

 

シンの悲痛とも取れる叫びと共にインパルスはタケミカズチの滑走路へと着艦しエクスカリバーを振り上げた。その瞬間にカオス、ムラサメと交戦中のアムロに女の声が聞こえた。

 

(だめっ!お兄ちゃんを止めて!)

 

「女の声?お兄ちゃん?」

 

アムロはその”お兄ちゃん”と言うのがだれか知っていたわけではなかったが反射的に叫んでいた。

 

「シン!!止めろ!…シンと言ったのか?俺は…」

 

インパルスは振り上げたエクスカリバーを振り下ろそうとしていた。

 
 

タケミカズチのブリッジに一人残ったトダカ一佐は目前に迫る死を目をつぶって受け入れようとしていた。
部下は降ろした。あとは自分が責任を取る形でこの艦と共に散ればオーブが地球軍から責められるのを最低限に抑えられるだろう。
しかしとうに来ていいはずの死はいまだ訪れない。トダカが目を開けると目の前にいるMSは対艦刀をブリッジに当たる寸前で止めていた。
シンはアムロに食って掛かるように叫ぶ

 

「何なんですか!いきなり止めろって!あとこいつだけで終わりなんですよ!」
「シン、お前には聞こえなかったのか?女の声が。」
「はあ?何言ってんです?聞こえるわけ無いじゃないですか。こんなところで。」
「いや、聞こえたと言うか感じたといった方が近いかもしれない。『お兄ちゃんを止めて』と」
「それが何で俺なんで…」

 

シンの脳裏に二年前の戦争で犠牲となった妹の笑顔がよぎった。ざわざわと胸が苦しくなる。シンはインパルスからおり、タケミカズチの艦内へと走っていった。
タケミカズチの中で何回か迷いながらシンはブリッジのドアへとたどり着いた。呼吸を荒げながらドアを開く。ブリッジに一人立っている男を見てシンは二年前家族を無くし呆然としていた自分を救い、プラントへ渡ることを進めてくれた人を思い出す。体が震え呼吸が更に荒くなる。

 

トダカはブリッジに入ってきた少年を見て驚愕した。

 

「君は…あの時の…」

 

シンはその場にペタンと座り込みやっとのことで言葉を出す。

 

「トダカさん…何で…あなたがここにいるんですか…?俺は何をしようとした…俺は…俺はー!!」

 

頭を抱えてシンは泣き叫んだ。ステラに続きまた大事な人を自分の手で殺してしまうところだったことから来る後悔、自責。
シンの悲痛な声がタケミカズチのブリッジに響いた。トダカは目の前で泣き叫ぶ少年を悲しそうな目で見ながら近づくとしゃがんで声をかける。

 

「我々がふがいないせいで君につらい思いをさせてしまった…。すまない…」

 

それを聞いたシンはトダカの顔を見ると声を搾り出す。

 

「でも…でも俺…俺はあなたを!」

 

トダカはシンの肩に手をぽんと置くと子供に言い聞かせるように

 

「良いんだ…良いんだ…」

 

と優しく繰り返した。シンはその声を聞くと一層の涙を流し声にならない嗚咽を漏らす。あたりはもう戦闘が終わったらしく静かになっていた。
シンの嗚咽だけがタケミカズチのブリッジに木霊していた。