CCA-Seed_427◆ZSVROGNygE氏_外伝11

Last-modified: 2011-08-19 (金) 00:26:46

人生なんてうまくいかないものさ。それなりに裕福な家に生まれて来たのに、ひょんな事から全てを失ってしまい、軍へ入る羽目になっちまった。
軍に入ってそれなりに武功を立て、何とかなるだろうと思い始めれば、上層部に切り捨てられるとくる。全くどうしてこうなったもんかねぇ。

 

とはいえ、今の暮らしが悪いとは思っていない。食うものには困らないし、人間関係は良好だし、愛しい女もいる。
ただ嗜好品や奢侈品を手に入れるには不便だけれど。それにしても、あいつがこの世界に来なかったら、俺は生き残れただろうか。
そう、ムウ・ラ・フラガは考えるのだ。

 
 

『フラガとアムロの農耕詩』

 
 

軍人になって畑仕事に従事することなんか想像もしていなかった。農具を用意して、割り当てられた農地へと向かう。機械は少ない。
場合によっては、艦隊配備のプチモビを使う。まだ工場設備を農耕機器の生産に回す余裕はないのだ。
それらは農業コロニーにおいては使われているが、このロンデニオンにおいては配備数が少ない。まるで中世社会だ。
農道を歩く途中で、前に赤褐色の髪を持つ男が歩いているのが目に入る。ペーネロペーのパイロット、レーン・エイムだ。

 

「よう、昇進おめっとさん」
「少佐、おはようございます!・・・ありがとうございます。でも別に何か変わるという訳じゃないですけどね。特にこんな状況じゃ仕事が増えるだけという感じですよ」

 

先日の会議で人事再編が行われ、大尉となったレーン・エイムが元気に応じる。実はこの世界に来る前に昇進が決定していたが、時空転移の騒動で延期されていたのだそうだ。

 

「まぁな、大尉になるともう少し指揮の負担が出るからな。俺は佐官のせいでアラスカ艦隊の残留パイロットと、おまえさんの原隊であるキルケー部隊との統率に苦労している。まぁキルケー部隊に関してはカルロス・デステ大尉にかなり助けられているがな」

 

今現在一番練度に不安がある機動部隊は、間違いなくアークエンジェル所属部隊だ。特に俺の指揮下に入った、アラスカ合流組は転換訓練もあり苦戦している。
キルケー部隊は、小隊長クラスのベテラン組にグスタフカールを配備して、余ったM1を合流組に配備した。ジェガンやジェスタなどの生産が軌道に乗れば、そちらを再配備する予定だという。
そうした中で、キルケー部隊の統率や訓練等をデステ大尉はよくやってくれている。仕事をすることで紛らわせようとしているのかもしれない。

 

「大尉はラテン系にしては珍しく情熱が仕事に向いていると、仲間内ではよく言われていましたから」
「ひでぇ言われようだな。まぁ俺も思ったけど」

 

顔を合わせてひとしきり笑い合うと、部隊編成やレーンの機体に関する話題になった。

 

「機体の改装というか、新規ユニットの製造はうまくいきそうか?」
「ええ、無理してアルゴス・ユニットを作るより、予備パーツからペーネロペー・ユニットの宇宙使用を製造した方が早いという事になったことがでかいですね。おかげで次の作戦には間に合いそうです」
「整備班並びに技術担当の皆さんには頭が下がるねぇ」
「サラミスの建造も順調ですからね」

 

サラミス級は、結局のところ両舷の主砲をメガ粒子砲にすることになった。但し形式はクラップ級並びにラーカイラム級と兼用の物である。
対空火器やミサイルシステムはアークエンジェルと共用となる。また大気圏内での行動も可能な装備も施された。よって降下シャトルを排して艦艇部に主砲を増設することになった。
ちなみに俺の母艦であるアークエンジェルもミノフスキー粒子散布下での戦闘に耐えうる改装が実施されている。

 

また、生産ラインも整備され、技術者関係者は大忙しで、一時的に農作業が免除されている。何せ、機動兵器の生産ラインもフルピッチで整備しているのである。
整備員は仮病無しに美人看護婦の元へ運ばれているそうだ。予定だともう1週間くらいでジムⅡの試作機が完成するらしい。
結局、将来的に交換可能性を担保しつつも、エンジンはバッテリーを積むことになった。これは単純に材料不足であったこと。発電設備での運用の後に、改めて議論すると言う事になったのだ。
ちなみにサラミス級のエンジンに関しては、アルテミス要塞から輸入して、実験の意味合いも込めて核融合エンジンを搭載させることになった。全く、そのうち誰か死ぬぞ。

 

レーンとしばらく部隊編成や訓練について話していると、アムロが何人かのパイロットと共に鍬を持ってやってきた。穏やかな笑みを浮かべている。

 

「やぁムウ、レーン」
「中佐!」
「よっアムロ」

 

この柔和な顔のどこにあんな化け物じみた操縦センスがあるんだか。思い出すぜ、アムロと初めてあったときのことを。

 

※※※

 

あれはザフトの目を盗み、デブリベルトを航行していた頃だ。ユニウス・セブン残骸で氷を回収中に、ザフトの哨戒機と遭遇した。
おまけにキラが宇宙で美少女を拾ってきてドタバタしていた時のことである。それにしても、あいつのくじ運はいったいどうなっているんだ。
拾ったカプセルが、2度も美少女とはどんなギャルゲーの主人公だ。
俺もかつてカプセルを救助したことが3回くらいあったが、最初はオッサンで、2度目が修学旅行中の男子校、3度目は生物学上こそ女だったが、断じて俺から口説こうとは思わないような熟成された連中だった。
ワインじゃないからノーセンキューってもんだ。向こうが盛ったので、部下をあてがったけど。

 

「艦長!!!レーダーに反応!!MSです!識別反応無し!こちらに向かってきます!」
「見つかったのか!!!」
「数は!?」

 

俺は叫ぶ、偵察部隊の母艦か何かに見つかったのか。だが、識別不明とはどういう事だ。次の報告は疑問を深めるものだった。

 

「1機だけです!!」
「1機?」

 

艦橋にいる面々が不審げに報告者の方に顔を向けた。

 

「間違いありません!!急速に接近中!!本艦の射程距離まであと45秒!!」
「何故そこまで接近されて気付かなかった!!!」

 

副長のナタル・バジル―ルが当直のロメロ・パル伍長を叱責する。練度不足の上に人員不足、おまけに索敵困難な宙域じゃ仕方ないとは思う。
けれどもそれで殺されてはかなわない。最初に感じた疑問を考えている場合でもなかったので、俺はブリッジを後にしようと足に力を入れる。床を蹴ろうとした直後、予想された命令が出された。

 

「少尉!!話は後よ!!総員に第1戦闘配備を発令する!!!」

 

ところがその次の報告に、俺は体をひねってキャプテンシートに体を向けた。

 

「オープン回線で通信です!!」

 

ミリアリア・ハゥが報告した。

 

「通信だと?」
「ザフトじゃないのか?」

 

副長が怪訝な顔をする。そこにロメロが報告をかぶせた。

 

「艦長!!映像はいります!!」

 

画面に映る機体にいよいよ艦橋の面々は驚愕する。かくいう俺も驚きを隠せなかった。

 

「Gタイプ!?」
「まさか!?」

 

ザフトがこの短時間で新造するとは思えない。
それに坊主が助けたお嬢ちゃんがプラントの民間人で、連合軍の攻撃によって遭難したことを思えば、連合軍の部隊だろう。
ハルバートン提督とは別系統で作られた機体か。ユーラシア系やブルーコスモス系だと厄介だな。
だが、その辺の政治ってのにいまいち疎い、うちの副長は艦長殿をせき立てた。だが、今思えば結果的にはよかった。

 

「艦長!!連合軍の部隊と思われます!!回線を開きましょう!!」
「わかりました、回線を開いて!!」

 

回線を開くと、見慣れない白いパイロット・スーツを来た男が画面に映し出された。

 

「こちら、外郭新興部隊ロンド・ベル所属のアムロ・レイ大尉だ。原隊をロストしてしまったので、そちらへの一時的な着艦を望む。こちらは一部機器が異常なようで早急に収容してもらいたい」

 

これが俺とアムロの出会いだった。合流した後で話を聞いた時、俺にはあまりにも荒唐無稽に感じたものだった。
互いに幸いだったのは、こちらはまだ正式なコードを保有していなかったことを、アムロがνガンダムの損傷と認識し、俺たちの方はアムロの申告で向こうの識別コードがないことを損傷と誤解したことだ。
結局そのあとで衝突は起こったのだが。

 

※※※

 

「ムウ、どうした?」
「いや、なんでもない」

 

俺が回想に浸っていると、アムロが声を掛けてきた。レーンと話していると自分を眺めて黙っていたので、どうしたのかと思ったのだろう。
俺は肩をすくめて応じ、無駄話をする。アムロとは低軌道会戦以後、幾度も死線を越えてきた。俺にとっては得難い戦友だ。いまはMSの教官でもあるが。
アムロも元の世界の連中と合流した後に、俺との関係を変えるようなことはなかった。
オーブにいた頃や、こうしてロンデニオンで過ごしてしばらく過ぎているが、ブライト司令以外とは俺が最も対等な関係を築けているように思える。
そりゃ、あの経歴を見れば、元の世界の奴で対等な関係を築くことは難しいだろうな。そのブライト司令も年齢面で大きな開きが出来てしまった。
そうなるといよいよ俺が同年代で対等な友人なんだろうな。ちょっと照れくさい言い方だが、俺はその偶然に心底ありがたいことだと思う。

 

俺たちの耕作地に集合場所に到着すると、キラが親父さんのハルマ・ヤマト氏と鍬を持って談笑していた。
それにしてもお袋さんはスゲェ美人だな。カリダ・ヤマト夫人の柔らかなほほえみに、まるで17才のような若さを感じる。
彼だけではなく、ヘリオポリス組は大抵両親と共に来ていた。その光景を見て、脇にいたジェガンの若いパイロット、トマス・パトナム少尉が苦笑いをする。

 

「これじゃ保護者参加の遠足か何かですね」

 

全くだ。俺はパットの言い分に全面的に同意した。隣に立つアムロやレーンも苦笑している。ついこの前まで生きるか死ぬか、そして未来も見えないような戦いをしていたことを思えば、恐ろしいほどに穏やかな光景である。

 

「彼らにとってはいいことさ」

 

苦笑をするのをやめてアムロが言う。
そうだ、10代の少年少女は親と仲悪い物だが、突然戦争に巻き込まれもすれば、ああいう交流をすることに意味を見いだすだろう。

 

「偽りの物とはいえ、大地に種を播くことは人間にとって大切なことを教えるのかもしれないな」
「アムロ」
「中佐・・・」

 

思った以上に真剣なアムロの言葉に、俺は茶化すことが出来なかった。レーンもどこか不思議な思いを持っているようだ。
ついでに言えば、レーンは以前の訓練時にアムロに階級や肩書きで呼ばなくていいと言われたことを忘れているようだ。この辺真面目だな。
アムロはレーンに誰かを重ねているというか、育てようという思いが働いているように見える。レーンはその思いに心から答えようとしている。
ああいうのを見ていると羨ましいと思う。ああいう光景は、あいつがこの世界に来て、キラと出会ってからの姿勢にも似ている。
いや、そもそもこの世界に来てアムロは、何かに対するつぐないをするかのように年長者としての役割を引き受けようとしているようにも見える。

 

※※※

 

「どうして戦う気になったんだ?」
「俺だって死にたくないさ」

 

異世界からのさまよい人なんてばかげた話だった。けれども、彼のMSにあったデータを見たら信じざるを得ない。
けれど信用していいのか。ピンクのお姫様を人質にしたときの嫌悪に近い表情を思い出すと疑わざるを得なかった。
主に艦橋にいた女性士官らに対してだったけれども、誤解を乗り越え、やっと築いた信頼関係を失わせたことを感じさせるには充分だったろう。
彼の言葉に嘘はないようだが、裏切られたらたまらない。誤魔化しを許さない目で見つめると、アムロは苦笑して話し出した。

 

「キラ・ヤマトとラクス・クラインを見たからかもしれないな」
「あのふたりを?」
「ああ、ラクス・クラインとは話す機会はなかったけどな。ただ、キラを見ていると思い出すのさ」
「坊主を見ていると?」
「自分が初めて戦場に出た頃をな」

 

アムロは全てではないが、昔のことを話してくれた。話によると何と15才で初めてMSに乗って戦う羽目になったという。
そしてアークエンジェルが、彼が初めての戦争で母艦だった船によく似ているそうだ。
俺は出来すぎな話だと思う反面、現実はこういった奇妙な偶然の方が多いものだという思いもあった。
今思えば、キラの境遇にどこかかつての自分を重ねるところがあったのだろう。

 

「だから、あなたたちではなくあの少年の手助けをしようと思ったのさ」
「そりゃ手厳しい」
「子どもを盾にするような人間は信用出来ないさ」
「ま、それについちゃ何も言えないわな」

 

そう、俺たちは子どもを盾にしたのだ。こいつは俺の人生でも完全な汚点になるだろう。
自分が悪役になるなんてことは、まともな人間には耐えられない。今でも思うが、副長殿こと、バジルール中尉はある意味すごいもんだ。

 

「だが、最初に言ったことも本当さ。この世界がどうなのかを見極めるまで、死ぬわけにはいかないさ。・・・ララァが何故俺をここに導いたのかを知るまでは」

 

後半を聞き取ることは出来なかったが、アムロにしてみれば分けわからない世界に来ていきなり巻き添えで死ぬのはたまったものじゃなかっただろう。誰でもそうなるだろうな。

 

このように、アムロと俺の関係は、最初はうまくいったわけではなかった。だが、その後の戦闘で見せたアムロの力は、恐ろしさすら感じさせられた。
その後、細かな戦闘を数度経たのちに第8艦隊と合流し、地上に降下して長い旅を続ける中で、多くの出来事を経験して俺とアムロの友情は深まっていったのだ。
その辺りのことも、振り返ってみればキラに関することが多かったと思う。ひとつの役割を自分に課しているような、そんな姿勢だ。

 

今でも思う、アムロ、おまえはもっと自分のことを考えてもいいんじゃないか。

 

※※※

 

「さぁ、しっかりと芋を植えましょう!芋があれば飢えることはありません!!」

 

美食クラブに属するリゼルパイロット、ゲアハルト・フィッシャー中尉が各種芋の苗を持ってきた。
そういえばブライト司令やアムロと食事したときに、司令が芋は病気に弱いから複数の種類を植えた方がいいとかいっていたな。
その話を隣にいたリゼル隊のダニエル・タイラント大尉に話すと、彼は深く頷いて鬱陶しい程にお国の話を始めた。
彼はZ乗りの誇りだけじゃなく、アイルランド自慢が多いのが玉に瑕だ。

 

「そうさ、19世紀には俺の愛するアイルランドでジャガイモ飢饉なんてのがあってだな。
単一の種類しか作っていなかったから、全滅してそりゃ酷いことになったんだぜ。結局300万人も人口が減る羽目にあったのさ。300万人だぞ。
200万はアメリカへと逃げたんだが、100万人は飢えて死んでしまったんだ。イカれたイギリス人どもが悪い、だいたいだな・・・」

 

アイルランド系は話が長くて困るんだよなぁ。俺は彼の直接の部下シュウジ・モリオカ中尉を話し相手において逃げることにした。
シュウジの奴は心底助けて欲しいオーラを出していたが、知った事じゃない。そう思ったが、ダニエルは俺を逃がさず、その後30分ほどアイルランドの話を聞く事になった。ちくしょう。

 

ダニエルのアイルランド論から逃げて、しばらく農作業に従事する。大地と共に生きるか。いうことは簡単だが、中々出来ることではないもんだ。
腰への負担がきつくなったので、休憩しようとすると、アムロが目の前にいた。彼も作業を止めているようだ。どこを見ているんだ。
彼の視線の先を見ると、俺は何ともいえない感情と共に前から思っていた疑問が不意にわき起こり、聞いて見たくなった。

 

「なぁ、アムロ」
「何だ?」

 

急に声を掛けられ、少し目を見開いて振り向く。

 

「やっぱり、帰りたいか?」
「どうした、いきなり」

 

その質問にさらに驚いた表情を見せる。

 

「いや、最近のおまえを見ていると、少し柔らかくなったような気がするんだよ。
それはブライト司令とか世界の連中と一緒にいるってことだけど、同じ条件で元の世界ではそういう顔ができんのかってさ」

 

アムロは、まっすぐ俺の目を見て聞いていた。特に感情を害している様子でもない。
けれども、すぐには答えなかった。先ほどまで見ていたもの、向こうの畑にいるブライト司令とシンやあいつの溺愛する妹が作業している姿にしばらく目をやった後に答える。

 

「そうかもしれない。だけど、ブライトや他の連中は違う。帰れるべきところがあるんだ。そのために努力は惜しまないさ」
「俺はおまえにとっての帰れるべきところがどうかを聞きたいんだ」

 

アムロはまた驚いた顔を見せる。アムロと付き合って半年近くが過ぎたが、結構新鮮だな。

 

「俺が帰るところか。本当ならベルのところと言わないといけないんだがな・・・」

 

感慨深いというか、どこか寂しげに答える。ベルというのは、確かベルトーチカ・イルマという、アムロの内縁関係をもっている女性だったな。
先日エリアルドとボティに昔の写真を見せてもらったが、ものすごい美人で驚いた記憶がある。
それでも、迷いなく帰るところと言えないのは、アムロが司令達以上に「失いし世界を持つもの」なのだと思う。
クワトロ大尉もそうなんだが、彼についてはどことなく罰が当たったような感じもするので、それほど気の毒には思えない。

 

向こうの畑では、ブライト司令達のところにハルバートン副司令が、野菜の種を運んできていた。
それにしてもハルバートン副司令の姿は、まるで19世紀の南イタリアとかにいた農民そのものだな。
カンカン帽子に、ブラウンのベストを着込んでいればそうも見える。ちなみにハルバートン副司令は少将に昇格している。
ブライト中将にハルバートン少将という体制にするようだ。他の幹部では、先任参謀を参謀長に昇格させると共に准将にした。
またこれまで外交などを担当してきた、スタッグ・メインザー中佐が大佐に昇進している。彼は、都市行政の運営とコロニー防衛を担うことになっているからだ。
他にも何人か参謀の重要ポストが大佐に昇進した。これらは国内的な事情というより、対外的な問題の性格が大きい。もちろん昇給もする。

 

ま、昇給といってもな。俺はポケットからコインを取り出す。レアメタルで製造したコインだ。装甲などを製造した際に、残りものを貨幣に鋳造しているのだ。
俺なんかはよくわからないが、希少金属を貨幣にすることで金本位制みたいなことを試みているそうだ。トムスン中佐は、紙幣に信用など皆無な状況であるから、ひとまずはレアメタル保有量、次いで金なり銀なりを輸入して、金ないし銀本位制に近い体制を目指すらしい。
経済は家が燃え尽きたときに、もう関係ないもんだとあまり真面目に勉強しなかったからな。いずれにしても、まだ対外的な為替相場が定まっていないから、いまいちありがたみは湧かない。
俺が貨幣に刻まれた、ロンド・ベルのマークを眺めているとアムロに声を掛けられる。

 

「ムウ、その答えはしばらく保留にさせてくれないか?」
「アムロ?」

 

俺がうだうだ考え事をしている間に、アムロもまたさっきの答えを考えていたようだ。

 

「ロンド・ベルと俺では答えは違うというのは確かだと思う。シャアや。もしかしたらブライトも」
「司令が?」

 

アムロやクワトロ大尉はともかく、司令もロンド・ベルと答えが違うのはなぜだろうか。

 

「アムロさん、フラガ少佐、休憩にしませんか?ハルトの奴が、ポテトフライを揚げてくれましたよ!」

 

レーンが、隣の畑から俺たちを呼ぶ。その脇には、キラとキョルショー大尉が見えた。彼らの間にある、見ていてもどかしくなる距離感は何だろうか。
それにしても、フレイの嬢ちゃんなり、ラクスのお姫様がいたら、それは面白そうなものが見れそうだ。ま、キョルショー大尉じゃ、年齢が・・・。
うおっ、なんだこの殺気は。人の意志の力は恐ろしいな。俺もニュータイプかもしれないが、彼女もニュータイプなのだろうか。
俺は彼女の殺気に感ずかない振りをして、アムロを休憩所に促す。アムロも苦笑しているところを見ると、気付いているのだろう。

 

俺も苦笑いで応じながら、広大な畑を畝伝いに歩く。人口太陽の光は暖かく、心地よさを味合わせてくれる。それでも俺は、しばらくアムロの言葉を忘れることが出来なかった。

 
 

『フラガとアムロの農耕詩』end.