CCA-Seed_427◆ZSVROGNygE氏_外伝15-2

Last-modified: 2012-01-08 (日) 03:36:02
 
 

失いし世界を持つものたち外伝15
「あの日見たアムロさんの顔を僕たちはまだ知らない」(後編)

 
 

大漁とはいえないまでも、戻ってバーベキュー位できるくらいの魚を釣った俺たちは、
ロンデニオンのメインコロニーへと帰還した。
その場で焼いてもよかったが、シンがマユに食べさせたいと言ったので、
ピレンヌ艦長がやはり穏やかな笑顔で気持ちを汲んだのだ。
後で聞いたけれども、ピレンヌ艦長は、息子夫婦がブルターニュに住んでいて孫がふたりいるらしい。
ただ、そのうちのひとりは第一次ネオ・ジオン戦争という戦いで行われた、
コロニー落としという作戦によって引き起こされた津波で亡くなったそうだ。
生きていればちょうどシンと同い年らしい。特別に甘やかしているようにも見えないけど、
あの穏やかな瞳にそういう意味があると思うと、胸が少し締め付けられた。

 

港湾から麓に着くと、農地と東屋が見える。そこには、マユちゃんだけでなく、何人かが待っていた。

 

「お兄ちゃん!!!」
「マユっ!!!・・・レーンさん」
「なんだその明らかに嫌そうな顔は、このシスコンめ」

 

このところ、レーンさんに妙に懐いているので、シンはレーンさんのことを尊敬しつつも警戒している。
何が原因だったのか、今度誰かに聞いてみるか。
ふたりの他には、アムロさんとクワトロ大尉もいる。
コロニーの港湾施設外でサイコミュの試験をしていたそうだ。
俺はいつぞや説明を受けたけど、いまいちよくわからない。
アムロさんはエスパーじゃないとよく言うけど、エスパーそのものじゃないかとも思う。
ある意味コーディネイターよりもすごいような気がする。

 

「大漁じゃないか」
「たいしたものだ」
ふたりは口々に感想を言う。
「もうちょっと釣りたかったんだが、まぁ今回は本気で釣りをすると言うより、遊びだからね。
 のんびりさせてもらったよ」

 

そういうと艦長は、東屋でさっさと釣った魚を解体し始める。
日本の料理にも精通しているらしく、何匹かの魚は刺身の盛り合わせになっていく。
また、マユちゃんには野菜を頼んでいたので、俺たちは二手に分かれる。魚料理班と野菜の仕込み班だ。
俺はトールやボティ大尉、アムロさん、クワトロ大尉とサラダやスープの具材のために野菜を処理し始める。
レタスをむしりながら、アムロさんがおもむろに言い出す。

 

「昔、アストナージにサラダの作り方を習ってね」
「あのひと、サラダうまかったですものね」
「そうか。そうだったな」

 

ボティ大尉とクワトロ大尉が応じる。アストナージさんとは、亡くなった戦友らしい。
クワトロ大尉が、シャアとして戦ったときに戦死したらしいので、
大尉には複雑な気持ちを引き起こしたようだった。

 

「サイくんだったな、男は料理できた方がいいぞ。
 モテる云々よりも、独り身で同じ食事を食べているとむなしくなってくるぜ」

 

ボティ大尉が、パプリカを切り分けながら、寂しさ含んだ笑みで言う。
後に聞いたけれど、大尉の恋人は一年戦争で亡くなったそうだ。
しかも亡くなるところを目撃したという。そうして生き残ったこともあり、
新しい出会いを見つけずにいるそうだ。

 

野菜を煮込み始める、焼き魚にかける野菜のピューレを準備する。
トマトベースで、次第にいいにおいが立ちこめてきた。
その香りに釣られたのだろうか。エリアルド・ハンター大尉とカール・マツバラ大尉、
オルトヴァン・ジェスール中佐にチャールズ・スミス中尉がやってきた。
彼らもサイコミュの評価試験に携わっていたそうだ。
ハンター大尉とマツバラ大尉は、評価試験の相手をした後で、
オルトヴァン中佐の事務仕事を手伝っていたという。
ピレンヌ艦長の直接の部下であるハンター大尉は、何度か相伴に預かっているらしく、食べたそうな表情だ。

 

「さすが艦長、お見事です」
「うまそうな匂いじゃないか、すごいな」
「小官らもご相伴にあずかっても良いでしょうか」
ピレンヌ艦長は笑顔で応じる。
「かまわんよ。ただし、諸君らも手伝ってくれ」
「「了解です」」

 

準備が終わり、配膳された料理をみんなで食べ始める。
俺はキラとカズィ、ニコルの間に座り、前にはトールとアムロさん、レーンさんが座る。
ちなみにレーンさんの隣にアスカ兄妹が座る形になった。

 

「この白身魚のムニエルはおいしいな。トマトのピューレとの相性も絶妙だ」

 

アムロさんがおいしそうにほおばる。
考えてみればアムロさんがこうして楽しげな笑顔を見る事はあまりない気がする。
アムロさんと知り合って半年、穏やかなんだけれど、どこか寂しそうな表情をするアムロさんを
見て来た俺には、ロンド・ベルのみんなとの交流は新鮮なものだった。

 

各々料理を楽しんでいると、アムロさんが、いたずら半分に先日の修羅場の話題を振った。

 

「キラ、また修羅場を経験したそうじゃないか?」
「ア、アムロさん」

 

アムロさんの表情は、からかおうという気でいっぱいだ。

 

「いつかとは状況は違うが、悲しませるようなことはするなよ」
「それは、わかります」
「キラ君、アムロに恋愛の手ほどきを受けるといいぞ。彼は女性に優しい」

 

離れたところからクワトロ大尉が冷やかす。アムロさんは苦笑いする。

 

「あなたほどではないと思うが・・・」
「お互い様という訳か」

 

大尉も苦笑いで返す。アムロはレーンさんにキラーパスを送る。

 

「レーンは何かアドバイスはあるか?」
「自分ですか!?自分はそういうのにはまだ興味ないですからね。
 まぁ、自分の感情に素直になればいいじゃないですか。
 結局色恋沙汰は、結ばれなかった奴が悲しまないといけないでしょう。
 だから、あまり色々考えたら何にも出来なくなるんじゃないですか。
 わからないですけどね。その辺りは自分よりも、ハンター大尉やマツバラ大尉の方が詳しいのでは?」
「僕らに振るのかい」
「俺の意見など、当てになるのか?俺はひとりの女が相手だぜ」

 

ハンター大尉とマツバラ大尉も口々に困って見せた。スミス参謀が冗談半分にアドバイスする。

 

「いっそギャルゲーでもやればどうだ?」
「それでハーレムルートをクリアされても困るがな」

 

オルトヴァン中佐が茶化すと口々に、キラがそうなったら、みんなでぼこぼこにしようと笑い合う。
穏やかな時間だった。

 

※※※

 

食事が終わり、片付けを済ませてからお茶やコーヒーを飲んでいると、
いきなりマユちゃんが思い出したように叫んだ。

 

「あっ、そうだ!!」

 

何だろうと一同の視線が集まる中、スカートのポケットからメディアらしきものを取り出して、
レーンさんに見せる。

 

「マユね、さっきマユラおねいちゃんとぶつかったときに、おねいちゃんが落としたものひろったの!」

 

レーンの手のひらに渡ったそれに、気になった面々はのぞき込む。

 

「なんだこれ?」
「何かのデータディスクか?」
「彼女のか?」

 

見たところ、PCに接続する記録メディアのようなものか。
不思議そうにする一同に、俺はとりあえず提案してみる。

 

「見ないとわからないんじゃないですか」
僕の言葉に、ニコルが同意する。
「サイの言うとおりだね。ピレンヌ艦長、作戦参謀、
 それにアムロ隊長の了解があればすぐに中身を確認しますが」
「ふむ、まぁ落とす方に問題があるし、他国でそういうものを落とすのは軽率きわまりないだろう」
「同感ですね、アムロ大隊長もどうでしょうか」
「いいと思う。あの娘たちもオーブの事情で動いていそうだし、
 そもそも港湾部で動いている辺り怪しいからな。
 プロテクトが掛かっているだろう。ニコル、それにキラ、任せて良いか」
「わかりました」
「はい」
「では頼む」

 

※※※

 

プロテクトが解除され、その中身を見ると一同はにわかに信じられないものを見ることになった。

 

「これは・・・」
「予想以上のものが釣れたな・・・。ピレンヌ艦長が釣りの名人というのは本当のようだ」
「これは私ではないぞ、マユちゃんのお手柄だ」
「へへっ」

 

クワトロ大尉がマユちゃんの頭をなでながら、半ばあきれて肩をすくめて見せた。
その様子をシンはやや剣呑とした目で見ている。
データには、彼女ではなく、オーブ所属のパイロット、
ジュリ・ウー・チェンさんが収集していたデータだった。
どうやら先ほどまで港湾外で行っていた、サイコミュ実験に関する情報が記録されていたのだ。
もちろん詳細なものではなく、起動実験で動くフィン・ファンネルとインコムなどの映像が入っている。
俺は映画以外で始めてこういうスパイ活動を見たことに少し興奮していた。
トールやカズィも興奮している。その一方、ピレンヌ艦長は真剣な顔つきだ。

 

「他に情報の流失はあるのか?」
「待ってください・・・。いくつかのMSに関する情報がありますね。表層的ではありますが」
キラが、コードを解きながら報告する。そのうち気になる言葉を見つけたようだ。
「・・・なんだこれ?secret base・・・秘密基地?」
ニコルが続けて何かを見つけたようだ。
「なんだこの補足事項・・・Uzumi's treasureって、ウズミ前代表のお宝って事ですかね?」

 

お宝って・・・。俺は少し苦笑いしそうになるが、
他のみんなはどう読むべきかまじめに考えているようだった。そこにキラが報告する。

 

「どうやら、資源衛星の工場施設に何かあるようですね。
 具体的に何があるのかはわかりませんが。しかも正確な地図もないようです」
続けてニコルが報告する。
「どうやら、今日その宝を回収するつもりのようですね。
 オーブ本国のロンド・ミナの指示で少数による所在確認指示が出ています」
「ふーむ」

 

右手をあごひげにあてて思案するピレンヌ艦長の隣で、
その場所を見たマユちゃんがクワトロ大尉に振り向く。

 

「秘密基地って、これ!!!」

マユちゃんは妙に驚いている。クワトロ大尉が、マユちゃんの肩に手を置く。

 

「まぁ、落ち着くんだマユ君。アムロ、これは調査の必要ありだと思うが?」
「そりゃそうだが、旧ヘリオポリスの資源衛星部分は、未だに全て把握し切れていないぞ。
 このデータも不完全だしな」
「しかし、このウズミの宝とやらが何であるかは興味があるだろう。
 頭数もいることだし、皆で調査すればいいのではないか。
 幸いこれを見る限り、オーブ側と銃撃戦などと言うことにはなるまい」
「そう、そうだな。ピレンヌ艦長、オルトヴァン中佐はどうか?」
「確かに面白くはないか。わかった、私はブライト司令に報告してくる。
 ただ司令は確か今日は、ラー・カイラムにいたと思うから、時間が掛かりそうだ。
 作戦参謀、君が指揮を執って捜索してもらいたい。応援も出す」
「了解しました」

 

とりあえず方針は決まった。そしてスミス参謀が冗談半分で言う。
「よし、港湾部で機体調整している連中も呼び出しましょう。みんなで宝探しだ」
「宝探しって、参謀・・・」
「サイ君、そのくらいの気分でやった方がいいさ」

アムロさんもその言い方が気に入ったようだ。

「そうかもしれないな。ジュリ君に指示が来ているとなると、残りはあの娘たちだろう。
 オーブ軍の大半はアメノミハシラに戻っているし、大規模な行動も出来ないさ。
 間違っても殺しあいにはならないと思う」

オルトヴァン参謀も少し楽しげだ。

「そうですね、ではダンジョン攻略の準備をしましょうか」

 

こうして俺たちは、釣りを楽しんだ後は宝探しをすることになったのである。

 

※※※

 

一時間後、資源衛星部分の前に仮設テントが用意され、捜索に必要なアイテムも集められた。
アムロさんを団長に、急遽資源衛星探検団が結成されたのである。本部にはオルトヴァン参謀がいる。

 

「諸君、ダンジョンは油断しては攻略など出来ない」

 

妙にノリノリなオルトヴァン中佐だ。不思議そうにしていると、ハンター大尉が教えてくれた。

「あいつは昔から、ウィザードリィとか不思議なダンジョンが好きなんだよ」

めちゃくちゃレトロゲーマーじゃないですか。

 

「スミス中尉、準備はどうか!!!」
「物資搬入完了!」
「コンピューター班はどうか!?」
「マッピングの用意は出来ています!」
ラー・カイラム整備班の紫藤さんとニザロさんがノリノリで報告する。トラジャさんが苦笑いしている。
「全く馬鹿どもめ。しかし、この世界のお宝ねぇ・・・。
 ろくなもんじゃなさそうだし、いっそ隔壁で閉鎖すればいいだろうが」
「まぁまぁ親父さん落ち着いて」

サイコミュ試験のために来ていた整備員たちが、コンピューターの前で作業している。

「おまえら仕事もそのくらいまじめにしろ」
「まぁまぁ」

トラジャさんと長い付き合いのアンナさんがなだめている。

 

「よーし、これより部隊編成を通達する!
 まずはA班アムロ中佐を隊長とし、クワトロ大尉、ヤマト中尉、アーガイル准尉、アスカ准尉だ」
「マユも行く!!」
「そりゃさすがに・・・」

躊躇するシンに対して、中佐は彼女の動向を認めた。

「まぁ、後で勝手に動かれても困る。それに、今回は彼女のお手柄でもある。守ってやれよ」
「はい!!」

気を取り直して、中佐は班分けを続けた。

 

「B班!エリアルド大尉をリーダーに、マツバラ大尉、エイム大尉、エイレン少尉、とする。
 C班はボティ大尉をリーダーに、アマルフィ中尉、ケーニヒ少尉、カズィ君」
「「了解!!」」
「現在のところ、危険はないとされているが、何があるかわからないから慎重に行動するように!!」
「「了解!!」」

 

そこに、貫禄のある声が辺りに響いた。
「私からもいいかな?作戦参謀」
「オットー艦長!?」

ネェル・アーガマ艦長のオットー・ミタス大佐がやってきたのだ。

 

「先ほどピレンヌ艦長に会ったのだが、オルトヴァン中佐に協力して欲しいと言われてね」
「確かに宝探しと言えば艦長ですね」
「なんだそれは」
スミス中尉の言葉に、オットー艦長は苦笑いする。
後で知ったことだけど、オットー艦長は、アムロさんたちの世界で
重要なものを探して色々動くことがあったらしい。
全く不本意だったそうなんだけど、その事件の後で部隊からは、
『ミスター貧乏くじ』『不運のトレジャーハンター』というふたつ名を与えられているそうだ。

 

「まぁ、ひとり艦長がふんぞり返っていれば皆も安心するだろう。
 私はこの本部で中佐と指揮を執ろうと思うが?」
「問題ありません」
「よろしい、ともかく慎重に連絡を取り合うこと、映像は随時こちらに回すように」
「「了解!!!」」

 

※※※

 

坑道の中は、普段物資搬入に使用されているところは明かりがあったけれど、
やはり普段使用していないところでは無かった。

 

「電気使用を申請しなかったんですか?」

シンの問いに、アムロさんが答える。

「奥にいる彼女たちに気付かれてしまうだろ?」

その答えに、当たり前すぎたことに気づかされたのかシンは赤面する。
そんなシンを見たアムロさんは、フォローするように言葉を続ける。

「だが、シンの言うようにこうも暗いと、楽しい宝探しとは行かないな。
 マユちゃんも気をつけるんだ。シンから離れるんじゃないぞ」
「はーい!」

マユちゃんは、シンにひっしとしがみつく。
その行為に対して、シンは心の底から嬉しそうなオーラを出している。
顔をほころばせなかったのは、さすがに不謹慎と思ったからだろう。
そこに無線が入った。オットー艦長だ。

 

『こちらラクーンドッグ、各班は状況知らせ』
何で狸なんだろう。俺のそんな疑問はアムロさんたちの応答でかき消える。
「こちらホワイト1、思ったよりも坑道が複雑だ。情報を送る」
『こちらオター1、異常なし』
『こちらディアス1、個室を発見し調査するも何もなし。見落としもある可能性もある。
 後続に調査を要請したい。
 この調子でいくつ部屋もあるとなると、遊び半分どころか増援も必要があるかと思います』

 

これは思った以上に大変そうだ。そんな風に考えていると暗い中で気付かなかったが、
扉が立ちふさがっていたので、俺たちは行く手を阻まれた。

「ホワイト1より、ラクーンドッグへ。目の前に扉があって進むことが出来ない。
 そちらで扉を開けるか?迂回しようか?」
「さすがに爆破するわけにもいくまいからな」

クワトロ大尉の言葉を受けて、狸親父が応答した。

『こちらラクーンドッグ、それを調べると時間が掛かりそうだ。
 先ほどの情報からだと、50m戻った分かれ道から近づけるだろう。
 君たちの進行方向から見て左に曲がり給え』
「了解、通信終わる。みんな戻るぞ」
「「はい!」」

 

そう返事したとたんに、別の回線から悲鳴が聞こえてきた。

 

『こちらオター1、こちらも隔壁扉らしいものにぶつかった。別ルートの情報を・・・』
『なんだこれ?』
『マツバラ大尉、あまりその辺のに触れない方が・・・うわっ!!!』
『エリアルド大尉!!!ハンス!!!うおっ!!』

 

  ザザッ・・・。

 

「えっ・・・」

 

キラが呆然とする。俺も何が起きたのかわからない。

 

「ホワイト1より、オター1へ!どうした!!応答しろ!エリアルドどうした!!!」
『こちらラクーンドッグ!!どうした!?』
『こちらディアス1!どうしました!?』

突如起きた出来事に、俺も急速に危機感が湧く。

「アムロ、何か嫌な感じだ。一度戻った方がいいかもしれん」

そのとき、少し怖くなって後ずさったマユちゃんが何かに気付いた。

「あれ?」

シンが心配して振り向く。

「どうした、マユ?」
「変なボタンが、あっ」

 

無重力に任せて後ずさったために、マユちゃんはうまく体勢を立て直すことが出来ずに、
うっかりそれを押してしまう。
その途端、急に扉が開き流れる空気とともに吸い込まれる。

 

「うおっ!?」
「なんだと!?」
「うわぁ!!!」
「きゃああああ!!お兄ちゃん!!!」
「マユぅぅぅぅ!!!」

 

さらにいろいろなものに頭をぶつけて、俺は意識を失った。
薄れ行く意識の中で、アムロさんとクワトロ大尉があれほど慌てた顔を見ることに驚きながら。

 

※※※

 

「・・イ!!!サイ!!!」
「ン・・・キラ・・・か?」

 

キラの呼びかけで、俺は意識が戻る。
ノーマル・スーツを着ていなかったらなければ、怪我をしていただろう。

「大丈夫!?サイ!!」

おまえはやっぱり心配性だな。俺は苦笑すると、俺の体を揺するキラの手を取る。

 

「大丈夫だ。ありがとう。みんなは?」
「気がついたか?サイ」
「アムロさん」

アムロさんが、心配そうに俺を見ている。
怪我がないとわかり安堵の顔を見せたが、すぐに悔しさをにじませた。
「オットー艦長と連絡が取れなくなった。あげくに端末も照明もいかれた。
 予備があるとはいえ、バッテリーの不安がある。
 無駄遣いは出来ないな。全く半ば遊び気分だったことが悔やまれる」
「アムロさん・・・」

 

そこに、先に気がついていたのか、クワトロ大尉とシンがやってきた。
マユちゃんはシンにおんぶしてもらっている。
どうやらまだ気がついていないようだ。

「アムロ、どうやらこのまま先に行けそうだ。だがいくつかトラップの跡があった。気をつけていこう」
「罠ですか?」
「子供だましのようなものだ、糸を踏むとネットが落ちてくると言う原始的な仕掛けさ」

キラの疑問に対して、俺はむしろ跡とという事が気になった。

「待ってください。クワトロ大尉」
「何だ?サイ君」
「跡って事は先客がいるんじゃないですか?」

 

俺の言葉に一同がはっとなる。

 

「そうか、迂闊だったな。もちろん、前の客かもしれんが、状況的に見て、君の言うことに一理ある」
「だとすると、あの娘たちがいる可能性は大か」
「気をつけなければなりませんね」
「よし、少し気を引き締めよう。何があるのか解らない。
 考えたくはないが、最悪全員銃撃戦も覚悟して、警戒しながら進もう」

各々がうなずくと、全員が実戦さながらの顔つきになる。
空気や食料もあるとはいえ、事実上の遭難である。
まさかヘリオポリス、いやロンデニオンという自分たちのコロニーでこんな目に遭うとは思わなかった。
アムロさんが呼びかけたその直後に物音が辺りに響き、突如緊張が走る。

アムロさんは無言で全員に銃の発砲用意と合図した。俺は実戦で銃を撃ったことがない。
さすがに緊張の度が増す。音のする方から光が確認できた。
アムロさんは、あくまでぎりぎりまで待てと指示する。
静寂の中で僕は自分の鼓動を聞く。しばらくすると鳴き声が聞こえてきた。

 

「もうやだ・・・どうしてこんな目に遭うのよ・・・」

 

あれは、オーブであったことがある。M1アストレイのパイロットのマユラさんだ。各々が顔を見合わす。
アムロさんは相手が銃を脇にしまっているのを半分壊れた暗視スコープで確認すると、
一気に襲いかかった。

 

「きゃあ!!!!」

 

とてつもない金切り声に対して、アムロさんはマユラさんに抱きついて
そのまま回転しながら岩の壁にぶつかった。彼女の銃を奪う。

「みんな!!!」

その声と同時に僕たちも彼女の周りに集まる。彼女は何が起こったのかもわからず、パニックだ。

「もうやだ!!!ヤダァ!!!何なの!!!きゃあ!」

アムロさんは、パニック状態の彼女をとりあえず落ち着かせる。

「マユラ、俺だ。アムロ・レイだ。しっかりしろ!落ち着くんだ」
「えぐっ、えぐっ・・・。あ、アムロさん?」
「さすがアムロ、優しいな」
「茶化すな」

 

このふたりはその後もやりとりしていたけれど、あまり頭に入らなかった。
なぜかというと涙目のマユラさんに、どぎまぎしていたのだ
(俺だけでなくシンとキラ同じく赤面していたようだ)。
やばい、かわいいと思ってしまった。
マユラさんは、一度落ち着いたが、僕らがここにいる理由を考えまたパニックになりかけたが、
とりあえず落ち着いてもらうようにみんなで説得した。

 

※※※

 

「で、君も迷子なのか・・・」
「はい、私たちはあなたたちと同じようにデータに従い、3人それぞれ方向から調べていたんです。
 ですが、行き止まりを調べていたら・・・」

俺たちが吸い込まれたあれか。

「私たちと同じ目にあった訳か」

クワトロ大尉が確認して先を促す。

「はい、戻れそうもないので、とりあえず奥に進んだのはいいのですが」
「トラップに引っかかりまくったてわけか」

シンが未だに気絶するマユちゃんを背負い直して確認する。

「ええ、ネットは被さってくるし、訳のわからない謎の白い液体はかかってくるし」

 

・・・少し想像してしまった自分が悔しい。
これもロンド・ベルのみんなのせいだ。うん、そういうことにしよう。

 

僕がひとりで複雑な気持ちを処理していると、アムロさんは途方に暮れ始めた。

「すると、いよいよお宝を探すしかないようだな。研究設備があるのであれば通信端末もあるだろう」
「あの・・・私はどうなるのでしょうか?やはりスパイで逮捕でしょうか」

クワトロ大尉がぴしゃりと言う。

「仕方ないだろう。やっていることは立派な工作活動だ」
「・・・」

 

しゅんとするマユラさんが少しかわいそうになってくる。相当へこんでいるようだ。
しばらくうつむいていると意を決するように顔を上げた。

「あの・・・、亡命って出来ないでしょうか?」
「何?」
「このことが本国にしれたらどのみち、サハクの人に処罰されます。
 ロンド・ミナ殿下は失敗を許さない方です。
 カガリ様が許してくれても、ユウナ様だって許しにならないでしょう。
 私たちがどういう活動をしてきたのかも全て教えます。だから・・・」
「君の言葉を信用できると思うのか?」

大尉はにべもない。それに対してマユラさんは泣き出さんばかりに色々訴えようとしたので、
アムロさんはそれを遮った。

「もういい、シャア。とりあえずは脱出するまではこの件は保留だ。
 マユラ、君はどういうルートを彷徨っていたんだ?照明が無事ならマッピングくらいしているだろう」
「はい・・・。これです」

もはや捨てられた子犬のような従順さで地図を差し出す。
やばい、気弱な女の人ってこんなにかわいいのか。
どうやらシンも同じように思っているようで、赤面している。

 

しばらくアムロさんと大尉が地図を眺めるとマユラさんに質問した。

「君の地図が正しいと、もう進むべき道は、君が来た方向とは逆の道か」
「はい、向こうはもう酷い目に遭いました」

アムロさんは、ため息を漏らすと、渡された地図に従い進むようにみんなに言った。

 

※※※

 

道なりに進むと、いくつかの罠が仕掛けてあった。
しかし、そこはアムロさんとクワトロ大尉が、気配というか気をつけながら進むと事前に見抜いて
解除しながら進むことが出来た。
俺やキラ、シンはアムロさんの指示に従っていくつか罠を壊していく。
それでも罠を解体し損ねたものもあった。
いきなり壁が崩れてきたり、いきなり謎のガスが出てきたりしたけれど、
ノーマル・スーツを着ていたので幸い被害はなかった。
ちなみに後で調べたら催涙ガスだったそうな。
他にもガードロボットがたくさんいる部屋に出てきたので、火器で応戦したりしする羽目になったのである。
あの手この手の罠に悩まされつつ、妙な仲間意識を芽生えさせながら50分くらい進むと、
また壁が立ちふさがった。

「また壁か、もう嫌な予感しかしないですね」

僕の言葉に一同もうなずく。そこにキラが扉の端末が生きていることに気付く。

 

「アムロさん!」
「どうした?」
「この扉の端末生きているみたいです。解除できるかやってみます」
「気をつけろよ」
「はい!」

 

そして30秒もするとプロテクトを解除した。さすがはキラだ。
しかし、予想外のことが起きる。いきなり低い声が響く。これは・・・。

 

正規の方法で解除しなかったのもたちよ・・・

 

「ウズミ前代表か!?」

 

ここを訪れたものよ。通りたければ問いに答えるのだ・・・

 

確かに間違えなく、亡くなったウズミ前代表の声だ。
それにしても、自分で音声入れたのかあの人・・・。僕の心の言葉はシンが代弁してくれた。

「あのおっさん、力を入れるところ違うだろ」

 

アナウンスは続く。

 

では第1問だ。カガリの誕生日は何日であるか。入力せよ

 

無重力なのに、全員がひっくり返る。

 

「アホかあっおっさん!!!!」
「ウズミさん・・・」
「・・・」
「面白い男だったのだな」

 

シンの叫び、キラのぼやきかけの声、アムロさんとクワトロ大尉の反応である。
「ふぁお兄ちゃん?」

全員がずっこけたため、マユちゃんも目覚めてしまった。俺はとりあえずマユラさんに聞く。

「カガリの誕生日っていつなんです?」
「誕生日にプレゼントとか送っていたから、私の持参の端末にはあったんだけど、
 こわれちゃっていて・・・」

どうしよう。全員が暗い気持ちになる中で、キラがハッと声を上げた。

「あっ!!」
「どうした?キラ・・・んんっ?」

アムロさんも何かに気が付いたようだ。キラはおもむろに端末に数字を入力する。
何だ、カガリの誕生日覚えていたのか。入力してしばらくすると、ウズミ前代表の声が聞こえてきた。

 

正解だ

 

全員が安堵の顔を見せる。ところが、続く言葉に全員が再びずっこけた。

 

では、第2問だ。確認は慎重にしなければならないからな。カガリのネックレスの由縁を答えよ
「「知るかぁ!!!!」」

 

俺とシンが叫ぶ。これはマユラさんが知っていたので、正解したがその後も
拷問のようなカガリ問題を5問も解かされる羽目になった。
正解したのはひとえにキラとマユラさんのおかげだろう。

 

よくぞ解いた。では最後の問題だ。この扉が開けば、もう少しだぞ。オーブの意志を継ぐものよ・・・

 

ウズミ代表の声にみんなが半ばうんざりしている。そこに最後の問題は出された。

 

カガリのスリーサイズを答えよ

 

一瞬の静寂に包まれる。

 

「「ぽっぴん」」

 

アムロさんとクワトロ大尉がひっくり返る。

 

「アホだっ!!あの親父、絶対アホだろ!!!!」
「なにが獅子だ!!狒狒の間違いだろ!!エロ狒狒だ!!!」
「ウズミさん・・・親ばかだったんだなぁ・・・」
「サイズはどの基準なんだろーね」
「・・・アムロさん!!!本当に亡命させてください!!!後生ですから!!!」

 

阿鼻叫喚である。しかしマユちゃんの言うとおり、いったいいつのカガリなのだろうか。
今度こそ誰も知らないだろこんなの・・・。
しかも三択ですらない。これ、もう絶対疑っているよね。
意志を継ぐものなら、正規の手続きで来ると思っているよね!!!

 

「アムロお兄ちゃん!どうするー?」

ひっくり返ったアムロさんは、頭を振って立ち上がる。

 

「・・・ちなみに、誰か知っている奴いるか?」
「・・・いるわけないでしょう」
俺があきれ気味に応じる。キラは、心底へこんで本気でトラバーユを希望するマユラさんに声をかける。
彼女が亡命したいという気持ちは本物だ。俺にはそう見える。

 

「やっぱり知りませんよねぇ・・・」
「んー・・・、一度ブラのサイズを話したことが・・・」
「思い出せそうか?」
クワトロ大尉の問いは少しセクハラめいているけど、この際みんな目をつむっているようだ。

 

「たしか・・・EかDカップだった気が・・・」
「ブラのカップが解ってもな・・・」
「ここまで来て、もう山勘であてるしかないのか・・・」

 

みんなが半ば絶望的な気持ちになる。そんな中でキラがひらめく。

 

「マユラさん、端末には情報はありますか?」
「修理してみるというの?カガリ様のサイズまでは解らないわよ」
「とにかく貸してください!!アムロさん、確か予備の端末はCE製でしたよね!?」
「そうだったな。よし、俺も手伝おう。機械を直すのは得意なんだ」
「自分も手伝います」

 

キラはマユラさんから端末を奪うと、解体を始める。
アムロさんも直ちに故障した端末をばらして、使えそうな部品を見繕う。
すごい、手慣れている。俺も工業系の学生だけど、アムロさんほど手慣れてはいない。
クワトロ大尉やシンたちが見守る中で、およそ10分ほどすると、一応の応急修理が出来た。

「オルトヴァンの用意に感謝だな。この手の工具も準備していなかったら酷いことになっていた」
アムロさんが、ほっとして言う。さすがにレトロダンジョンゲーマーは用意周到だというわけか。
「起動させます」
キラが修理した端末を起動させると、彼女の端末のデータを色々調べる。
確かにカガリの誕生日や、パーソナルなデータはいくつかあったけれど、サイズに関するものはない。

 

「やっぱ無理じゃんかぁ」
シンが、頭の後ろに手を乗せて無重力に任せて浮き漂いながら言う。
「待って・・・。これは、この探査計画の・・・」
「ええ、この調査計画の情報フォルダよ。でもこんな情報あったかしら・・・。
 でも待って、確かプロテクトされた情報があったわ!!パスは」
「大丈夫です。これをこうして・・・」

キラはパスワードを聞くより早く解析してしまった。さすが趣味がハッキングなだけはある。

 

「ありました!!万が一正規のやり方が困難な場合の対処法!!!・・・これだ!!!」

そういうとキラはデータを入力する。結局サイズはいくつか地味に気になるが。
まてよ、今ので正規の方法も解ったんじゃないのか。
でも俺はこの達成感に水を差しそうなので黙っていることにした。
すると、ウズミ前代表の声が辺りに響く。

 

・・・正解だ。しかしこの情報を知るということはカガリだろう、
 一応音声入力をするように、言葉は「オーブと 「「「おいいいい!!!」」」

 

全員が突っ込む。正直くどいぞ前代表!がっくりする一同の中で、キラまでがあきれ顔で言う。

「どうしましょうか?」
「・・・」

 

そこで提案したのはマユちゃんである。

「マユがまねしてみるよ!この中では一番カガリさんに年が近いから!!」

正直それでどうにかなるわけでもないと思ったが、もうみんな半ばやけくそだった。

「では頼む」

あのクワトロ大尉が投げやりな表情を見せる。
確かにもうこのクイズに付き合い一時間以上が経過している。どこかネジが緩んでいるといえた。

 

「待った」
「アムロさん?」
「お兄ちゃん?」

一同がいぶかしむと、アムロは道具を取り出す。

「多少は悪あがきをしよう。マイクの性能を落とす」
「手伝います」

アムロさんの顔には多少意地になっている表情が浮かぶ。
それでもアムロさんの意見はもはや誰も反論しなかった。
とにかくいじろう。さすがにこれまでの時間を無駄にしないためにも。
端末はともかく音声収集装置なら何とかなるだろう。
一同の努力が実を結んだのか、何とかマユちゃんの声で、音声を認識した。

 

我が娘よ・・・これを平和のために役立てると・・・

 

もう誰も代表の言葉を聞いていない。心底くたびれた表情である。
扉が開くと同時に、光が辺りを包む。

「うわっ!!」

僕はバイザーがあることも忘れて目を閉じた。

 

※※※

 

「ん・・・、大丈夫かみんな?」

アムロさんの言葉にみんなが視覚を確認している。

「光に目くらまされただけだ。心配ない」
「大丈夫だよー」

光にあふれた場所にはいると、確かに研究施設があった。
いったい何だろうか。そのときだ。左の壁が爆発した。

 

「何だっ!!!」

爆発に身構え、そちらに慌てて銃を向けると、そこからエリアルド・ハンター大尉たちが現れた。
「うおっ、まぶし!!」

カール・マツバラ大尉が、B班の気持ちを代弁するように叫ぶ。そこにアムロさんが声をかける。

「エリアルド!!レーン!!!」
「「アムロ隊長!!!」」
「助かったぁ・・・」

ハンス・エイレン少尉は膝をつく。そしてマユラさんが叫ぶ。

「アサギ!!!!」
「マユラ!!!」

 

よく見ると、ロープで縛られたアサギ・コールドウェルさんがいる。彼女も確保されていたようだ。
なぜか亀甲縛りだった。後でハンスさんに教えてもらったけれど、やったのはマツバラ大尉だそうだ。
各々無事を喜び合い、互いの経路について報告しあう。
彼らの方は、とにかくトラップだらけで、業を煮やしたマツバラ大尉が、
持ってきた爆薬でそこら中を爆破したらしい。
しかもそのおかげで帰り道の地形も解らなくなる始末だったそうな。

 

「すると、帰り道にあてはないか」
「すみません。隊長たちと事情は同じ、いやそれ以上に酷いです」
「仕方がないさ。爆破して突破するというのも立派な選択さ。ともかく、この部屋の端末で救助を呼ぼう」
「了解です」

 

そのとき、部屋全体が揺れ始める。

 

「なんだ!?」

マツバラ大尉が怒鳴る。それにレーンさんが答える。

「いけない!!天井が崩落します!!」
「全員!!!壁際に逃げろ!!!」

各々が壁際や、出口に飛んでいく。
煙に視覚を奪われていると、崩落してきた天井から、ニコルとトールが降りてきた。

 

「大尉!!!ここがゴールみたいですよ!!!」
「あっ!!!キラにサイじゃないか!!!」
「ニコルにトール!!!」
俺とキラが叫ぶ。みんなも無事だったんだ。各々の顔に安堵の表情が浮かぶ。
とりあえずこんな事件で命を危険にさらすことなどない。絶対にない。

「アムロ隊長!クワトロ大尉!!ご無事でしたか!!」

ボティ大尉が、カズィとジュリ・ウー・チェンさんとともに降りてきた。
「アサギ!マユラ!!」
「・・・ジュリのばぁーかぁ!!!!」

 

アサギさんがジュリさんを非難する。そういえば事の始まりはあのひとの落としたデータだったな。
しかも、アサギさんにしてみれば、ひとりだけ辱めを受けている有様である。怒るもの仕方ない。
でも正直、マツバラ大尉に感謝したいと思うくらい、いい姿だった。
トールやシン、カズィも同じ思いだったようで、
泣きながらジュリさんを罵倒するアサギさんを見てどぎまぎしていた。

 

とりあえず喧嘩する3人をなだめながら、大尉たちに事情を聞く。
ボティ大尉たちは、やはり途中罠で通信機や端末を壊してしまったけれど、
ニコルがこの部屋の場所をメモで確認していたので、真上までは来れたそうだ。
明らかに俺らの中で一番マシなパーティである。
そして、真上に来たので面倒だということで爆破したそうだ。
ただ、途中罠で道が崩落したので、帰還するルートはよくわからないと言うことだった。
よって結局、施設の通信端末を使うことにした。しかし部屋にアラートが鳴り響き始める。

「なんだ?」

 

扉を強引に破壊したことに伴い、敵性勢力による調査が入ったものと判断します。
 機密保持のためにデータを消去中です。しばらくお待ちください

「「「・・・」」」

 

部屋は嫌な沈黙に包まれる。しかし、すぐにアムロさんが大声で叫んだ事でその沈黙は引き裂かれる。

「キラ!ニコル!サイ!!!何とかするぞ!!!!」
「「「は、はい!!!」」」

 

※※※

 

「試作MSアカツキに設置する光波防御帯に関する設計図および諸元?」

 

僕らは、多少破壊されたものの、ついにウズミの宝を確認することが出来た。
どうやらMSの技術のようだった。

「光波防御帯って、こないだキラのケツ狙いまわした野郎が装備していた奴か」

マツバラ大尉が砕けた調子で言う。それにエリアルドさんが応じると、アムロさんに向き直る。

「そうみたいだな。・・・アムロ隊長、これはウチの艦隊で試験研究中の
 ビームバリアー等にも活用できるのではないでしょうか」
「そうだな・・・艦艇の防御力が向上するのはありがたいからな。キラ、他のデータはどうか」
「アカツキのデータのようですが、ここで開発していたのは、光波防御帯だけのようです。
 どうやら、この端末にあるパスを入力すると、さっき崩落で埋まったリフトの下に
 試作品ですが現物があるようです」
 

「・・・」

崩落した岩盤を見ると、今いる面々で作業するのは、無理だと言うことが俺でも理解できた。

 

「よし、とにかく端末の通信は使えるな?」
「こちらは問題ありません」
「ではラクーンドッグに連絡しよう。宝を発見したとな」
「はい!」

回線を合わせると、オットー艦長の声が聞こえる。

『おお、繋がった!!!こちらオットー・ミタスだ!全員無事か!?』
「こちらアムロ・レイ中佐です。各班合流して全員無事です。どうぞ」

すると回線の向こうで雑音が聞こえ、しばらくすると聞き慣れた声が届く。

『大丈夫か!!アムロ!!!』
「ああ、無事だ。宝も無事に見つけたよ」

ブライト司令だ。助かったぁ。そう感じると心の底から安堵して、俺はその場に座り込む。
かなり情けなかったけど、そんなこと恥ずかしいなんて思えないほどだった。
俺だけじゃなく、トールやカズィ、シンやマユちゃんといった面々はみんな同じ反応だった。
でも、それと同じくらいなんていうか、冒険をしたことに対する満足感も仲間意識も持てたと思う。

 

アムロさんとブライト司令が、救出について2、3打ち合わせて通信を切ると、
アムロさんたちも安堵した表情になる。

「とりあえず、無事に帰れそうだ」

アムロさんが、心の底から安堵した表情を見せる。
こんなアムロさんの表情を見るのも始めてかもしれない。
色々大変だったけど、アムロさんやクワトロ大尉のいろいろな表情や
一面を見る事が出来たのは面白かったな。
俺は何となく総括的な感覚に向かっているところで、最後の爆弾が投下された。
少し元気を取り戻したマユちゃんが、クワトロ大尉のところへ近づいて、
いきなりとんでもないことを言いだしたのだ。

 

「やったね、クワトロおじさん!!!これでマユとおじさんの秘密基地は守られたね!!」
「ああ、そうだな」

 

とてもさわやかな大尉の笑顔に俺たちは目が点になる。

 

「えっ」
「えっ?」
「えっ」

 

「・・・あれ?」

 

※BGM:secret base~君がくれたもの(曲は各自脳内保管か各種メディアで)

 

アムロさんはクワトロ大尉に向き直る。
このアムロさんの顔を説明することは今の俺には出来そうもない。

 

「・・・シャア・・・」

 
 
 

クワトロ大尉は、その後来たブライト司令が来て、アムロさんと一緒にどこかに行ってしまった。
後でわかったことだけど、大尉とマユちゃんの秘密基地とは、
実は例のロンド・ベル謎のゴシップ探偵団の情報拠点だったのだ。
そこには赤とピンクのハロが30機ほどあり、ハロが情報源になっていたことを示している。
しかも、このお宝部屋の隣りの部屋が情報収集拠点だったらしい。
つまり、クワトロ大尉とマユちゃんは近場までの安全ルートを知っていたのだ。
それじゃあの苦労はいったい何だったんだよ。
もちろん、爆破したらデータは消えてしまったかもしれない。
だけど、もう少しやりようがあったかもしれないじゃないか。

 

こうして、ロンデニオン共和国情報漏洩事件は幕を閉じた。
さすがにマユちゃんはブライト司令とシン、ついでにロミナさんにもこってり怒られたらしい。

 
 

あの日見たアムロさんの顔にはどんな意味があったのだろうか。僕たちはまだ知らない。
知ってもいけない気がする。
知ることが出来るようになるには、俺はまだ子供だって事だろうと思うのだ。

 

「あの日見たアムロさんの顔を僕たちはまだ知らない」end.