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Last-modified: 2015-10-08 (木) 02:06:11
 

失いし世界をもつものたち
最終話「終わらない明日へ」(後篇)

 
 

「シン・アスカ!!!バンシィ・ノルン行きます!!!」

 

シンは後部デッキから出撃すると、まず直掩隊のところへと赴く。
その途中でドラグーンとジンが襲いかかるが、半ば性能に助けられて難なく回避して、
ビーム・スマートガンで両者を消滅させる。

「アンリさん!!!リンダさん!!ジョンさん!!下がってください!!」

直掩隊は出てきたバンシィだけでなく、パイロットにも驚愕する。

「シンか!!!おまえ、大丈夫なのか!?」
「やるだけですよ!!!」
「・・・すまん、俺の機体はもう的にしかならん。
 ラー・カイラムにあいている機体があったらすぐに戻ってくる」

アンリ機はビーム・サーベルこそ使えるが満身創痍で、もはや人の形を維持していない。
彼なりに決断したようだ。

「リンダ、ジョン!坊主を頼む!!」
「「任せろ(な)!!」」

 

そこに再度クルーゼが襲いかかる。ドラグーンを充填していたのだろう。

「まだ隠していた機体があったのか!!!だが動きがこなれていない!!!」
「ラウ・ル・クルーゼ!!!あんただけは!!!」

ドラグーンだけでなく、追いついた機動部隊も襲いかかる。今度はまず直掩をつぶす気だ。

「こういうときに、恰好つけないとな」
「後でエリアルド隊長に甘えてやる」

自分たちの倍じゃ済まない数が向かってくる中で、シンの両脇にいるふたりは覚悟する。
だが、そうはさせない。

「彼らを守れ!!!弾幕、主砲!!!直掩隊も一斉射撃!!!敵の出鼻を挫け!!!」

ラー・カイラムの火砲はすべて直掩支援に向け火を噴く。
重装型も残るわずかな装備である腰のミサイルポッドを撃ち尽くす。
シンはビーム・マグナムを迫る機動部隊に向けて発射した。この我々ができうる最大火力の迎撃は、
さすがのクルーゼ隊をひるませた。特に、ビーム・マグナムの力には驚きを隠さない。

 

「これほどの威力とは!!各機散開しろ!!改めて一斉オールレンジを加える!!
 あの新型はまだ対処できないだろう!!!」

見透かされたか。だが、防ぐ手がない。ディアス6とローズ6も、もはやビーム・サーベルだけだ。

「これまでだな!!!・・・なにっ!!」

向き合う機体の間をメガ・ビームランチャーが掠める。

「させるかよ!!!!」
「早すぎる!!!ムゥ・ラ・フラガ!!!」
「へへ、俺は不可能を可能にする男なんでね!!アムロ!!キラ!!!」

νガンダムとフリーダムが、ドラグーンを排除しながら到着する。

「クルーゼ!!この場でけりをつける!!」
「貴方だけはここで倒す!!」

フラガ少佐が、キラとアムロをけん引してこの場に到着したのである。これで押し返せる。

 

「バンシィも出したか、しかもシンとはな。ブライトも思い切る!!
 ムゥ、キラ、シン!!クルーゼはここで落とす!!」
「来たかイレギュラー!!!全機!!!この白い機体と一味を総攻撃!!!他に目をくれるな!!
 奴さえ落とせばこちらの勝利だ!!」
「ナチュラルを殲滅して見せる!!!このマーレ・ストロードが!!!」

クルーゼ隊は、再びオールレンジ攻撃と艦砲射撃の合わせ技でこちらを追い詰めようと試みる。

「何度も同じ手が通じると思うな!!!ファンネル!!!」

アムロのガンダムは、サイコフレームの輝きをコクピット周辺に見せると急上昇して、
ファンネルを展開する。

「これで終わりだ!!!」
「そうかなぁ!!!」

そのときだ、これまで以上のファンネルが、空間を埋め尽くす。

「何だこれは!!!」

クルーゼは、残存するすべてのオールレンジ攻撃可能な部隊を集結させて
一気にけりをつけるつもりなのだ。

 

「お前たちと真正面からまともにやりあおうとは思わん!!!
 だが、ここで貴様たちを殺さなければなぁ!!! こちらの目的をことごとくつぶしおって!!!!」
「ジェネシスはもうすでにない!!!諦めやがれ!!」
「そうかな!!!貴様たちを葬るにはこの機会を置いてあるまい!!!
 そのうえで私は目的を完遂して見せる!!!ジェネシスがなくとも、私には最後の手段がある!!!」
「最後の手段だと!!!」

フラガ少佐が応じて叫ぶ。

「現在両軍のすべての戦力はここに展開しているようなものだ。
 今更間に合わないからあえて教えてやろう!!!ジェネシス攻撃が失敗した場合、
 特殊部隊がユニウス・セブンを地球に落とす手はずになっている!!!!」

私を含めて言葉を失う。現在連合軍の宇宙戦力はほとんどがここに展開している。
アルテミス要塞の戦力までこちらに展開している状況だ。地上からの核攻撃だけで対応できるのか。
私は思考が硬直して判断できない。だが考えろ、何か手はないのか。

「天から放たれたメキドの火に人類は裁かれるだろう!!」
「そこまでして人類を滅ぼしたいか!!貴様の妄執に人類を巻き込むな!!!」

ムゥとアムロが、フリーダムとバンシィを守りながら、迫りくるファンネルをなぎ払う。

 

「キラ!!俺たちがこれをどうにかするから、クルーゼを!!!
 奴の言うことが真実だとしてもまずは奴を倒す!!!シンは援護しろ!!」
「「はい!!」」

その通りだ。奴さえ倒せば、後はどうにでもなろう。

「司令部経由で状況を確認させろ!!!!いずれにせよ我々は奴を討つ!!」

艦隊司令部は我々の報告を受け取ると、核基地に並びに地球本土に連絡する一方で
ユニウス・セブンを観測させた。
すると確かにユニウス・セブンは明らかに地球方面への軌道を取り始めていることが確認された。
最初のジェネシス破壊以後なので、数時間くらい前だろうか。
それにしても異常な動きであったことから、地球ではにわかに騒ぎになりかけていたという。
しかし、そのようなことを我々は知るよしもない。

 

アムロの檄により、キラは彼らによってを切り開かれた道をシンと共に突き進む。
バンシィが実体弾でクルーゼに牽制射撃をかける。

「うろたえダマに当たってやるほど優しくはない!!!その目的も含めてなぁ!!」
「くっ!!!」

クルーゼの操縦技術は、キラやシンよりも上か。クルーゼはキラの一斉射撃を交わすと反撃に出る。

「そしてキラ・ヤマト、貴様にだけは負けるわけにはいかん!!!貴様だけにはなぁ!!!」

クルーゼと背後からストロードと名乗った機体が、コンビを組み襲いかかってきた。
ふたりは時間差でさらにファンネルを展開すると、キラとシンにオールレンジで襲いかかる。
そして2人は、キラこそアムロと訓練しているとはいえ、翻弄される。
フリーダムは被弾し、羽を数枚失う。
バンシィは機体に決定的なダメージこそないが、パイロットにダメージを与えるには充分な攻撃を与える。
アムロたちが何百ものファンネルを処理しているからこそ、この程度で済んでいるのである。

「そして、これで終わりだ!!!さらばだ、人類の業の象徴よ!!!」

クルーゼは、背後に控えさせたナスカ級3隻による一斉射撃を試みる。
最初の一撃はバンシィが相殺するも、その負荷は大きい。

「シン!!!それ以上無茶はいけない!!!いくらバンシィでも!!」
「でも、キラさんの機体じゃ!!!!」

そう、すでに中破したフリーダムでは、いや艦砲射撃を前には
バンシィ以外で耐えられる機動兵器など皆無であろう。むしろ耐えられるバンシィが異常なのだ。

「これで終わりだ!!!!」

ナスカ級がさらなる艦砲射撃をかけようとする。
「いかん!!!2人とも1度下がるんだ!!!」

私の叫びとほぼ同時に、2人を突き飛ばして前に飛び出す機体が現れた。
フラガ少佐のリゼルとセネット大尉のジェガンである。

 

「俺は不可能を可能にする男なんだぜぇ!!!」
「ソートン隊長が守った命をむざむざやらせはせん!!!」

 

「「ムゥ!?」」「「大尉!?」」「ムゥさん!?」「セネット大尉!?」

艦砲の光は2機に直撃し、爆発した。その光の後に2機は敢然と立ち尽くしていた。

「ばっ、ばかなっ・・・!」

クルーゼも絶句する。だが、すぐにジェガンは誘爆を始める。メランが絶叫する。

「脱出しろ!!!」
「うおおおおおおおおお!!!みんな!!!後は託したぞ!!!」

セネットのジェガンは、耐えきったことが奇跡といえた。そしてリゼルも。

「や、やっぱおれは不可能を可能に・・・」

そういうと、リゼルからの交信は途絶える。そしてリゼルはにわかに爆発した。

「・・・私の・・・勝ちだ。ムゥ・ラ・フラガ」
「ムゥ!!!!!」

ラミアス中佐がにわかに絶叫するが、バジルール中佐がすかさずフォローする。

「ラミアス艦長!!!センサーが脱出反応を確認しています!!!彼は無事です!!」

さすがのフォローではある。しかし、セネットのジェガンは・・・。

 

「大尉ぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「くっそぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

キラとシンが叫び、クルーゼに突撃する。だがそれは感情の産物でしかない。

 

「キラ、シン!!!おおおおお!!!」
「ええい!!!」
「ばかやろおおおおおお!!!その気持ちでいくなぁ!!!!」

アムロとシャア、レーンが周囲のファンネルを火球としつつ全力でふたりに追いつこうとする。

 

そのときだ、キラとシンの怒りとアムロ、シャア、レーンのサイコフレーム、
ないしサイコミュに反応したのか、各々の機体が緑色に輝き始める。
バンシィはその角を展開しても見せた。

 

「あれはなんだ!!!!」
「・・・アクシズ・ショック・・・!!!」

 

戦場がその輝きに呑まれていく。

 

※※※

 

サイコフレームの共振が為した技なのか。我々には多くの思いが流れ込む。
私は会ったこともない女性の声や、懐かしい人々の声、そして息子の思いを受け取った。

 

「クワトロ大尉、アムロさん、ブライトキャプテン、俺は信じています。
 あなたたちが目指した世界を、人々はいつか体現できるって。だから俺は人と共にあり続ける」

 

「ブライトさん、あれだけのものを見続けた人が、未来に対して決して無責任なんかじゃないと。
 俺は信じているよ」

 

「たとえ、地球連邦があのひとたちを疑ったとしても、それでもと、世界に問い続ける・・・
 絶望に打ち勝てと導いてくれたあなたなら・・・そして、あのとき託してくれたあなたたちなら、
 大切なもののために、人が人として生きて行く世界を目指していこうとしていくって・・・」

 

「兄さん、アムロ、ブライト・・・。私にはできなかったことを・・・してください。
 私も、私なりのことをしてみせるから・・・」

 

「アムロ、言葉はいらないというけれど、欲しいときはあるのよ。
 私と貴方はわかり合えているけど、言葉を待っているわ。
 どこにいこうとも信じている。伝えてくれることを」

 

「あなた、アムロ、シャア、あなたたちはそれぞれに純粋すぎるわ。
 いいのよ、人間をもっと認めてあげて、人ってそういうものよ」

 

「大佐、アムロ、そうして背中を合わせた、あなたたちを見守らせて下さい」

 

「父さんは、それでいいんだよ。正義という、口に出すのも恥ずかしい思いを体現して欲しかったんだ。
 レーン・エイム、キラ・ヤマト、シン・アスカ、父さん達を頼む」

 
 

「セイラさん、ベル、ミライさん、ララァ、カミーユ・・・」
「ララァ、カミーユ、アルテイシア・・・」
「これが、人の思いなのか、お前が求めた意思の力なのか、マフティー・・・」
「あのひとたちの世界と繋がる・・・」
「俺たちは、こうしたつながりのなかで生きているっていうのか」

 

カミーユ、ジュドー、バナージ、セイラ、ミライ・・・そして。

「ハ、ハサ・・・」

「しっかりしてくれよ、父さん」

「おまえなのか・・・」

ハサは、しかられたときに見せる申し訳なさそうな表情を見せた後、私にしっかりと向き合った。

 

「父さんが、この世界で僕のできなった正義を示してくれよ。
 父さんなら、僕が本当にしたかったことをまっすぐにしてみせると思うんだ。
 そして、それを実現できる仲間もいると思う。僕にはこだわりが強すぎてできなかったことを・・・」
「お、おいハサウェイ!!!」
「だから、しばらくは僕のところにこないでくれよ。
 父さんは絶望の中で打ち勝つ勇気を持てと彼に言ったじゃないか」

 

そういうと、ハサはレーン・エイムへ語りかける。

 

「レーン・エイム!!」
「マフティー・ナビーユ・エリン・・・」
「僕と戦ったときよりもいい顔になったぜ、・・・親父のこと頼む」
「俺に頼むくらいなら、生き返れ、馬鹿。
 ケネス隊長とギギって女のところに行って見せろ、それとお前の親父に殴られに来い」

 

ハサウェイは、困ったように笑う。レーンの声が震えているのは、気のせいではなかった。

 

「キラ・ヤマト、シン・アスカ!!!」
「「・・・」」
「・・・ありがとう」

 

キラとシンは、何も言えなかった。彼らにとって語るべき言葉がなかったのかもしれない。
それとも、私には感じ取れないものを受け取ったのかもしれない。

 

「・・・アムロさん」
「・・・馬鹿野郎」

 

「シャア・アズナブル、父さんを頼みます。そして今度は人を人として生きて行く世界を・・・」
「・・・それは私の、私ひとりの仕事ではない。私は友と共に歩もう。
 私の力ではなく、人間全てがそうした世界を目指すために。君と同様に、私も課された十字架がある」

 

そして消えゆく光の中で、最後に声が私に響く。

 

「さよなら、父さん」

 

私は言葉を紡ぐことができない。そしてもうひとり懐かしい声が響く。

 

「あなた・・・」
「ミライ・・・なのか・・・」
「あなたは少しわがままでもいいのよ、不器用なりでいいの、人並みに上手に生きて見せて」

 

私はただ聞くことしかできなかった。

 

「あなたを必要としてくれる人々に、輝きを見せて、ブライト・ノア、
 私のところに帰るのはそれからでもいい」

 

これは私たちだけの幻想なのか。各員も不思議な気持ちを味わっている。
そして、かの男も聞こえていたようだ。

 
 

「こ、こんなばかげたことがあるものか!!!見知らぬ人の意識がこうも流れコムだと!!!
 何をしたぁ!!!」
「あなたは、そうして他人を拒絶しかしないから!!!
 こうして人の温かさも知ることなく、人類を滅ぼそうと出来るんだ!!!
 そんな人間に、僕は負けるわけには・・・いかないっ!!!」
「あんたみたいな奴に、俺たちの運命を好きにさせてたまるか!!!
 俺たちはまだあきらめちゃいない!!!この思いの力が、おれたちの力だ!!!」

 

νガンダムのサイコフレームに共振するごとく、フリーダムとバンシィが緑色に光り輝く。
そして2人の真ん中にアムロが立ち、叫ぶ。

 

「ラウ・ル・クルーゼ!!!貴様が思うほど、人類は愚かな存在じゃあない!!!
 これを感じ取ることができながら、人類に負の感情しか持てないのであれば、俺は貴様を倒す!!!」
「人類の業の象徴と天の悪戯が言うことか!!!!」
「業ではない!!!!それは人類の希望、善意の願いであったのだ!!!
 なぜ新人類と言わずに調停者と言われたのか、それもわからずに業と語るな!!!
 そして天意というならば、天は貴様の過ちを正そうとしてもいる!!!
 アムロ、レーン、キラ、シン!!!他は任せろ!!!奴を!!!」
「シャア大佐以外にも、ロンド・ベルは格好つけたい奴の集まりです!!!やってください!」

 

シャアとエリアルドが叫ぶと、ロンド・ベルの残存部隊がクルーゼの直率部隊を次々に撃破していく。
ロンド・ベルの各員は持てる力の数倍の働きでファンネル部隊を撃破していく。

 

「クルーゼ!!自らのエゴと人類の業を見誤った報いを受けろ!!!」

アムロのフィン・ファンネルはストロードの機体をだるまにした上で、
ビーム・ライフルがクルーゼの機体に命中させる。

「この程度!!!」

クルーゼが反撃を試みようとした直後に、俊足の機体がクルーゼに襲いかかる。

「貴様のようなエゴで人類を滅ぼさせはせん!!!
 これが俺なりの、マフティーを倒してなお世界を生きるもののつとめだっ!!!!」
「貴様の事情など知ったことかぁ!!」

クルーゼは全力でスラスターを吹かすが、両足をビーム・サーベルで切り払われる。
そこにバンシィが襲いかかってきた。

「憎しみでは戦わない!!!けれども、あんたのせいで多くの人間が死んだんだ!!!
 だから!!!俺はこの怒りをあんたにぶつけるっ!!!」

バンシィはビーム・マグナムを次々に放つ。
クルーゼは回避こそするが、その威力により両腕やバックパックが融解して動きが鈍る。
そこにキラは、サーベルを持って突進する。

「業でも希望でも関係ない、少なくとも人類は善意でそれを成してきたと僕は信じる!
 だから僕はこの世界を守りたい!!!
 貴方のように恨んで世界に向き合うのではなく、笑顔で向き合ってみせる!!!
 そのためにも、僕は貴方を倒す!!!」

完全に動きが鈍くなったクルーゼの機体脇腹に、キラはサーベルを突き刺した。

 

「おおおおおおおおお!」
「ぬぅぅぅぅぅ!!!!」

 

これは決まった。その時である。別の方向から全く別の光があふれ出した。

「何だ!!どういうの!?」
「艦長!!!!先ほどからのサイコウェーブにより、また空間に歪みが生じます!!!
 およそ2箇所!!!ヤキンとプラントの中間点、そしてコロニー群とボアズの中間点です!!」
「何だと!!!観測班、絶対に情報を見逃すな!!!!」
「無理です!!!こんな状況で、目前のものしかできませんよ!!」
「いいからやるんだ!!!!」

 

その歪みから何が現れるのか。
果たしてそこから現れたのは生き物だ、
巨大な生物がまさに星の海を泳いでいる。

 

「こ、これが・・・」
「は、羽クジラ・・・」

 

おそらく、我々以上にこの世界の人々が驚愕していることだろう。
数十もの羽クジラが群れをなして、この戦場に現れたのだ。
そして我々はこの目前の光景に心を奪われる。
まさか異世界に来て、地球外生命体をこの目で見ることになろうとは。

 

すべての戦場の砲火が止む。そしてクジラを注視する。しばらくするとクジラたちは驚くべき行動に出た。

 

「これは・・・」
「歌・・・なのか・・・」

 

絶命寸前とも言えるクルーゼが信じられないような声を出す。
そうクジラたちはにわかに音を出して見せたのだ。しかも・・・。

「ラクス・クラインの歌った曲だというのか・・・」

シャアも信じられない表情で地球外生命体の動きを眺める。

 

「こ、これは!?」
「なんだ!?」
「羽クジラの集団の一部は、虹色の光と共にユニウス・セブン周辺に移動し
 残骸周辺で合唱を始めています!それだけではありません、
 一部の鯨は体当たりなどを行い、軌道を変えています!!」
「・・・」

各々が信じられない面持ちでその光景を眺める中、
もっともこうした現実を認めてこなかった男が口を開く。

 

「・・・キラ・ヤマト」
「・・・」
「き、貴様らが主張するような世界であれば、私のような存在は出て・・・こないだろう。
 だが人類は・・・おろかなのだ。
 きさまらの・・・あおくささがどこまでつうじるのか・・・ためして・・・みるのだな・・・
 わたしはそれを・・・ながめることにしよう・・・。
 キラ・ヤマト、アムロ・レイ・・・。そしてムゥ・ラ・フラガよ、わたしはこのけつまつを」

 

言い終わるより先についにクルーゼの機体は爆発し、その衝撃でフリーダムも中破していく。

「「キラッ!!!」」

各々がフリーダムに向かい、フォローをする。皆が口々に確認すると、どうやら無事のようだ。
艦橋がにわかに弛緩した雰囲気になる。そこに、全軍にヤキンから通信が開かれた。

 

「私はプラント暫定政権より派遣された特使アスラン・ザラである。
 この戦場にいるすべての人々に聞いてもらいたい。
 私は父であるプラント最高評議会議長パトリック・ザラに暫定政権側の要望を伝えるべく、
 ヤキンに入った。 しかしそこで私が確認したのは・・・殉職した議長の姿であった」

 

連合側には、あまり驚きの反応が現れない。
率直に言って、ここまで戦局が混乱しながらも徹底抗戦することに不信感を抱いていたからだ。
どことなく納得すらしている。だが、ザフト側の動揺は激しい。

 

「連合軍によるものとはとうてい思えない。
 また調査の結果、ラウ・ル・クルーゼによるものとの疑いが濃厚である」

 

この言葉にさらなる動揺が広がるが、アスランは揺るがずに言葉をしっかりと紡ぐ。

 

「議長殉職の真相はいずれにせよ、現在最高評議会議長は不在である。
 よって序列ではエザリア・ジュール軍需委員長が暫定議長となるが、
 これ以上の戦線拡大は望まないという点は、軍需相とも一致した。
 従って軍需相は全軍に停戦を命令すると共に、政治的な判断により
 外相のアイリーン・カナーバを暫定政権の首班に指名した。
 繰り返す、前議長代行は全軍に停戦を命じたのである。
 新暫定議長のカナーバ氏も停戦命令を出している。
 連合軍側も了解していただきたい。我が政府は和平交渉のため停戦を希望する・・・」

 

この通達により、ザフト軍の停戦拒否組をついに戦意喪失させることになった。
もちろんクルーゼの戦死と羽クジラの登場も大きな要因といえる。
一部は戦場を逃亡しているようだが、それはもはや脅威ではない。
ジェネシスは双方共に無力化され、戦闘行為は集結した。
ユニウス・セブンも羽クジラは連合軍戦力が急遽到着するまで周辺に展開していた。
鯨たちは、始末が終わると木星方面へと去っていった。

 

私は目前の光景をモニターで眺めつつ、ヘルメットを脱ぎ、頭をかいて
この長い旅路にひとつの終わりが来たことを実感した。
そして、しっかりと帰るべき場所に戻ってくる友や子どもたちに心からの安堵を覚えていた。

 
 
 

戦争は終結した。
プラント暫定政権は、講和に応じて停戦が実現し、ユニウス条約の締結を以て講和と、
プラントの独立が確立された。結果的に、プラント政府はその当初の目的を実現することになった。
しかしながら、国内には政治的にも、物質的にも、精神的にも大きな傷跡を残し、
対外的にはニュートロン・ジャマーの処理や他国からの今次大戦に対する根強い不満が影を落とし、
今後も火種は残り続けるだろう。
それでもなお、独立が承認し得たのは、ロンデニオン共和国の存在も大きい。

 

ミノフスキー物理学を基軸とする核反応炉に対する各国の関心はとてつもない。
火星の開拓や木星の開発など、戦争に向けられた人類の力は、巨大なフロンティアへと向いている。
そうしたエネルギーにムルタ・アズラエルは既に木星開発を民間主導でも計画し、
その莫大な利潤を獲得しようとしている。彼は、羽クジラにも希望を見いだしたのかもしれない。
莫大なる民需への期待は言うまでもない。
ちなみに羽クジラは、木星圏へ向かったのち、太陽系の各地を数匹で遊弋している。
なにやら音楽を通じコンタクトをはかっているらしいが、我々には当面のところ関係がある話ではない。
地球外生命体とのコンタクトはそれなりに興味がわく話題ではあるものの、
この世界では我々も似たような扱いなのだ。

 

劉慶事務総長は、地球連合を臨時的な組織で未だによき体制になり得ていないと、解体を宣言した。
一度国際連合を暫定組織として復活させ、数年かけてプラントやロンデニオンも含んだ
大規模な新組織を作り上げようとしているようだ。
もともと今次大戦が泥沼化した要因に国連から発展させた連合の脆弱さは無視できない点である。
劉慶主席は、今次大戦の最終的な勝利を主導した政治家として、いちやく国際政治を主導する立場を得た。
国内選挙は圧勝し、引き続き川崎首相と共に東アジア共和国を担う存在となっている。

 

コートリッジ大統領は、大方の予想通り、選挙で敗北してその立場を去ることになった。
新大統領にはコープランド氏が就き、大西洋連邦は勝者に名を連ねたのにもかかわらず、
様々な課題を抱え込んだ戦後を歩み始めることになる。

 

ランズダウン侯爵は総選挙の結果、首相の座を降りることになった。
国民は戦後復興を見据えた判断を下し、フランス社会党の指導者を政権の座につけたのだ。
しかしながら、新首相の強い要望で再度外務大臣に就任し、当分は休むことが出来ないようである。

 

カガリ・ユラ・アスハは、最終決戦に参加したことで一応の国際的な地位を確保したが、
きわめて厳しい状況の下で戦後を生きていくことになった。
特に、ロンデニオン共和国関係の条約は各国政府から事実上反故にされつつある。
悪運強く生き残ったユウナ・ロマはその打開にひたすら動いており、
我々としてはしばらく警戒すべき相手となっている。
カガリ自身は、自らをマスコットであるという揶揄を自ら受け入れながらも、
ユウナとロンド・ミナのつきあいの中から戦後政治の中でいかにオーブが生き残るかを模索している。
あの、艦橋に殴り込んだバイタリティは、よい方向に成長していると言えよう。
我々にとっては困りものであるが、成長した娘のようなうれしい気持ちもある。
また、プラント政府と接近しているのは、政治的な目的だけではなく、
アスラン・ザラとの交流もあるようだ。

 

アイリーン・カナーバは、国家制度を整えて新憲法を制定させ、プラント政府をより国家として整備した。
その結果どうかはわからないが、選挙で大勝し、新任の最高評議会議長に就任する。
しかし、あまりの急速な改革は国内に不満を残し、ギルバート・デュランダルを中心に
反対勢力が勃興している。国制観や政策を巡り課題は山積する状況のようだ。

 

ラクス・クラインは、歌姫としての地位をより固めた上で、その立場を自覚した活動をしている。
クジラに対して自らの歌が反応したことから、音楽に対する思いを深めているようだ。
ちなみにクジラとは何度か意志疎通を試みている。
何かと忙しく活動しているが、もっとも、たまにお忍びで我が国に来ては、
フレイ・アルスターと角を突き合わせている。
彼女にとってフレイは、言いたいことを言い合える相手なのかもしれない。
だが、言い合う原因が原因だけに仲良くなることは当面ないだろう。

 

そして、我がロンデニオン共和国では、停戦によりようやく本格的な帰還方法の研究と、
生活基盤の安定に専念することができるようになった。
結局のところ、人の思いの力が道を造り出したのだろうか。
向こうの世界とのリンクが、戦闘後に計測されることはなかった。
サイコフレームと人の意志が何らかの役割を担っていることは間違いないが、
果たして何が引き金なのか、しばらくはその議論に打ち込むことになるだろう。
ただ気になるのは、観測ではクジラに眼を奪われたために見失った情報があることだ。
暫定国連政府が情報を秘匿したために、それが何かを知ることは出来ない。
この問題は内々で調べていく必要がある。

 

※※※

 

アムロたちと夕食共にするため政庁から帰る途中、特務大使として来ていたアスラン・ザラが
キラ・ヤマトと歩いているところに出くわした。
アムロから彼らに声をかけようとするが、アスランの方が先に我々に気づいた。

「ブライト司令、お久しぶりです」
「元気そうだな。すっかり文民になったようだ」
「アイドル扱いですよ。ハーネンフースさんの補佐のおかげでやっていけています」

アスランは自分の立場に自嘲的だ。その姿はかつてのエゥーゴにおけるシャアを彷彿させる。

「でも、アスランはこの世界に対して責任を果たしていると思うよ」
「キラ?」

アムロは興味深そうにキラを見やる。キラは照れくさそうに頭をかいた上でその理由を話す。

 

「僕はまだアムロさんやブライト司令たちと学びながらだけど、
 アスランは自分で考えて世界と向き合っているじゃないか。
 あの人のように憎しみに駆られるのではなく、昔の僕のようにどうしてと嘆くのでもなく、
 僕たちはこうなった世界に対して変えていく努力をしていかなければならないんだ」

アスラン・ザラは、キラの言葉に驚きを隠さない。私たちは彼の成長を暖かい目で見守る。

「僕たちは世界と何らかの形で関わっているんだ。だから無関係ではいられない。
 僕も調停者、コーディネイターとしての役割を果たしていきたい。僕はコーディネイターなのだから」

アムロは彼の見いだした結論に満足そうにうなずく。

「そうか」
「君の見いだした道は、問いかけよりも厳しいものになるだろう。
 だが、君には仲間がいる。この戦争を通して強い思いで結ばれた仲間たちがね。
 よりよい世界に向かうためにも、君の行動に期待している」
「はいっ!!!」
「そうだ、これから飯を食べるのだが君たちもどうだ」
「 私もですか?」

アスラン・ザラが意外な表情を見せる。

「ブライトの手作りだ。腹をこわしたら外交カードを手に入れることができるぞ」
「アムロ」
「冗談だよ」

アスランとキラは顔を見合わせて笑う。それは屈託のない笑顔であった。

 

「では、将来の交渉材料獲得のためにもご相伴にあずかります」
「僕は楽しみですよ。シンが結構自慢げに語っていますから」

私は肩をすくめるしかなかった。

 

※※※

 

ハサウェイ、私はいつか地球に戻ったときに、おまえとの約束を果たそうと思う。
連邦の改革のために動こう。おまえの意志を汲むためにも。
ただ、いまは・・・。

 

「おかえりなさい」
「おかえり!!!」
「おかえりなさい」
「おかえりなさい」

 

いまは、この各々が失いしものをもつものたちと。

 

「ああ、ただいま」

 

そして・・・。この頼もしい仲間たちと・・・。

 

「ブライト、楽しみにさせてもらう」
「ブライト司令、おねがいします」
「ブライト、期待している」
「ブライト艦長、ご相伴にあずかります」
「おいしいものを頼みます」
「楽しみにしていますわ」
「同感です」
「ああ、アムロ、キラ、シャア、レーン、少佐、ラミアス艦長、バジルール艦長、
 期待されてもたいしたものは作れないぞ。何せレストラン講習を本格的に受ける前だったからな」

 

このかりそめの大地で生きて行く。
終わらない明日へと歩き続けるために。
そして我々の地球への道を求めるために。
確かに私は世界を失った。
しかし生きて行く以上は失うことと同時に何かを得ることがある。
私はこの胸の痛みと喜びをかみしめて、歩いて行こうと思う。
この失いし世界を持つものたちと。